多職種連携に関する記事

管理業務への処方箋
管理業務への処方箋
特集
2023年4月4日
2023年4月4日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その1:まずすべきことは何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第10回は、クレームを受けたとの報告がスタッフからあったとき、管理者としてまず何をすべきかについて考えます。 はじめに 「利用者からのクレーム」は、ないに越したことはありません。しかし、クレームがあったときに、管理者として適切な対応ができるよう、事前に考えておくことは有用です。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 管理者としてまずすべきことは何か 講師このケースで議論したいことは、CASEのタイトルにもあるようにクレームを受けるスタッフをどうするかです。まず管理者としてやるべきことは何でしょうか。 Aさん注2桐山さんとの面談が必要です。「訪問に来なくてもよい」と言われた状況を確認したいです。CASEに書かれた情報だけではわからないことが多いです。 Bさん桐山さんとの面談の後は、利用者や家族のところへ伺い、桐山さんからほかの看護師に変更してほしい理由を確認します。その内容から桐山さんと一緒に訪問内容を考えるなどして、解決できることかどうかを判断します。ルート組み替えの場合、誰に行ってもらえばいいか等も考えます。 Cさんルートの組み替えはほかのスタッフへの影響もありますし、桐山さんの今後も考えると、できることなら桐山さんに訪問を継続してもらいたいと私は思います。そのためにもまずは、桐山さんの利用者へのケアを同行訪問で確認したいです。そのときに、看護技術のチェックリストを用意しておいて、できるだけ主観的ではない指標で確認したいです。これができると桐山さんへのフィードバックもやりやすいです。 講師「クレームがあった」と報告を受けたときの、初動対応の案が出てきました。まずは事実確認が大事ですね。桐山さんと利用者、まずはこの二者からの事実確認が大切になります。そして看護技術についてチェックリストを使って確認するという意見も出ました。 クレームを発生させないために管理者ができることは何か 講師初動対応時にやるべきことがいくつか出ました。これとは別に、Cさんは桐山さんに訪問を継続してほしいという意見を持っていましたね。このことについてもう少し伺ってもいいですか。 Cさんクレームがあったときの初動対応としてはみなさんの発言のとおりだと思います。その上で、管理者は、ステーション全体としてクレームが生じないような取り組みもすべきだと思います。利用者から「訪問に来ないで」と桐山さんが言われたことは事実かもしれませんが、ケースの状況を考えてみると、クレームを受けた原因が桐山さんだけにあるとは思えません。桐山さんは入職して3ヵ月です。まだまだ支援が必要だと思います。 次回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」について考えていきます。 >>次回「その2:桐山さんが抱えている問題は何か」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com編集:株式会社メディカ出版

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年3月22日
2023年3月22日

【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ

全国の主要都市に100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACE。実はそのピラティスのノウハウを、在宅医療へ導入していることを皆さんはご存じでしょうか? 今回は、自身もピラティスに魅了され、ZEN PLACE訪問看護で勤めることになった看護師の日高さんに、ピラティスの魅力やZEN PLACE入職のきっかけなどを伺いました。 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護心身ケアと未病のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 ピラティスを追いかけて訪問看護の道へ ―病棟勤務時代にピラティスにご興味を持たれたようですが、きっかけを教えてください。 私は元々ダンスが好きで、病棟看護師をしながらジャズダンスのインストラクターをしていました。当時、看護部長からも「素敵だからぜひ頑張って」と応援してもらえて、時間を調整しながらレッスンをしていたんです。ピラティスとの出会いは、そのダンススタジオのメンバーから「ピラティスいいよ」っておすすめされたことがきっかけですね。偶然にも家の近所にピラティススタジオがあったので、興味本位で通ってみました。 ―実際に体験されていかがでした? 実際やってみると身体が変わることを実感して、すごく面白いと感じました。私も医療従事者なので、身体に関する知識があるぶん、余計に楽しくなっちゃって。 また、ジャズダンスはバレエが基礎になっているので、体幹やコアマッスルが足りないと踊れないんですよね。ピラティスをやり始めることで、「身体の軸がしっかりしてきたな」と感じて、ピラティスへの興味が深まっていきました。 ―その後、ピラティスのインストラクターコースも受講されたとか? はい、受講しました! とても充実した時間になりました。 私は通学してセミナーを受講しましたが、最近はオンラインや通学+オンラインのハイブリッドコースなど、自身のライフスタイルに合わせて受講できるスクールが多いです。例えば、basiピラティスのマット通学コースの場合、集中した講義を合計36時間学び、100時間以上の自己実践、20時間以上のレッスン見学や30時間以上の指導練習を通し、資格取得が可能になります。資格を取得し、ようやくスタートラインに立てました! ―ZEN PLACEに転職しようと思ったのも、やはりピラティスがきっかけなのでしょうか? そうですね。どんどんピラティスへの興味が増して、「ピラティスを看護の仕事に活かせないかな」とインターネットで色々調べるうちに、ZEN PLACEを発見したんです。利用者さんに対してもそうですし、働き手である看護師に対してもピラティスを推奨している点に共感しました。 私も当初はダンスのトレーニングの一環として始めたピラティスでしたが、すごく自分の身体や心が整うのを感じて、「もっと働く看護師にピラティスが広まり、健康的な生活を手に入れて欲しい」と思うようになったんです。 特に急性期の病棟に勤めていると、「人が生きるか死ぬか」という命の瀬戸際のなかで看護をしているので、感情的になってしまいがちです。私も、ICUではやりがいや喜びを感じながら働いていましたが、改めて振り返ってみると心身ともに疲れていることが多かったように思います。「本当は運動して発散したいけど、仕事が忙しくて続かない」という悩みが多いのも看護師の実情です。もっと看護師にピラティスが広まってほしいと思います。 ―病棟から訪問看護への転職ですし、住むエリアも変わるなかで、悩まれなかったですか? 正直とても悩みました。急性期での看護も楽しい面ややりがいがありましたし、在宅の現場は、過去に派遣の仕事として訪問入浴をしたことがある程度。転職後の仕事内容のイメージもあまりできず、不安がありました。でも、最後は「自分がやりたいことをちゃんとやりたい」「やってみなきゃわからない!」と思い、転職を決めて東京へ引っ越しました。 ピラティスを活用するZEN PLACE訪問看護とは? ―入職後のことをお伺いします。ZEN PLACEでは、同一のステーションに訪問看護師や理学療法士、作業療法士等の色々な職種が在籍されていますが、職種間の連携について教えてください。 同じ利用者さんに看護師と理学療法士両方で入っていることもあるので、「今日はこういう状態だった」とステーション内で情報交換をしています。また、訪問看護のみで入っている利用者さんでもリハビリをしたほうが良いケースもありますし、逆にリハビリメインで入っている利用者さんに医療的な処置が必要になった場合は、看護師が入ったほうが良いこともあります。多職種と連携が取りやすく、意思疎通がスムーズで良い環境ですね。 ―職場の雰囲気としてはいかがでしょうか。 基本的にスタッフはみんな明るくて、職場内では笑顔や笑い声が絶えません。ピラティスが好きなメンバーばかりで、みんなで仕事後にレッスンを受けに行くこともありますし、和気あいあいとした職場でとても楽しいです。 ―皆さんにとって、本当にピラティスはリフレッシュもできる大切な時間なんですね。仕事の後にピラティスをするケースが多いのでしょうか。 そうですね。今もステーションの近くにあるスタジオで、「期間中に50日間ピラティスをしよう」というイベント(「50days challenge」)に同僚と参加しています (笑)。 こうしたイベントがないときでも、ZEN PLACEが運営するスタジオは各所にあるので、ステーションや自宅の近くにあるスタジオに寄ってから帰ることが多いですね。オンラインレッスンもあるので、家に帰ってからやることもあります。 人によっては朝ピラティスをしてから出勤しているケースもあると思いますし、ZEN PLACEでは福利厚生として、月に2回までは業務時間内でピラティスを受けに行っても良いという制度があります。訪問にキャンセルがでた時に行くこともありますね。 ―雰囲気が良くスタッフ同士も仲の良い職場のようですが、ピラティスを行っている影響もあると思われますか? もちろん、すべてがピラティスの効果だとは言い切れませんが、私は一助になっていると思っています。医療従事者は献身的に仕事をされている方が多い印象なので、自分のために何かをする時間って意識しないと取れないんですよね。でも、ピラティスをすると、その間は自分の身体と心と向き合うことになるので、「今日はあまり足が上がらないな」「仕事のことをいっぱい考えているな」など、色々と感じ取ることができます。 ピラティスは「動く瞑想」とも言われますが、自分に向き合うことで自分を大切にできるし、心身が整う効果があると思っています。自分自身が整うことで、利用者さんへの良い看護の提供や職場の雰囲気の安定につながるのかな、感じています。 心が安定すると、ネガティブな言葉も言わなくなりますね。「こういう嫌なことがあったよ」という話が出ても、愚痴になるのではなく、「そうなんだね、大変だったね」と受けとめたあと、「こうしたら改善するんじゃない?」とみんなで意見を出し合いますし、誰かがポジティブな言葉や思考に変換してくれます。 ―ありがとうございます。次回は、ZEN PLACEでのキャリアや、どのようにピラティスを訪問看護に取り入れているのかを伺います。>> 【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACEのキャリアパス&訪問時のピラティス活用法 ※本記事は、2023年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 編集・執筆: 合同会社ヘルメース取材: NsPace編集部

訪問看護師が使うメリット
訪問看護師が使うメリット
特集
2023年3月22日
2023年3月22日

利用者の負担軽減も。訪問看護師がポータブルエコーを使うメリット&課題

近年、手軽に利用できる低価格のポータブルエコーが、訪問看護の現場でもみられるようになりました。アセスメントツールのひとつとして医師への報告や多職種連携に活用され、ケアの質向上にも期待が高まっています。しかし、ポータブルエコー購入や技術習得にかかる経済的・時間的な負担が大きく、ハードルの高さを感じる方が多いのではないでしょうか? 今回は、看護師がポータブルエコーを使うメリットと課題について、褥瘡・排便ケアにポータブルエコーを活用する東葛クリニック病院の皮膚・排泄ケア特定認定看護師の浦田克美先生にお話を聞きました。 ポータブルエコーの主なメリット3つ ポータブルエコーのメリット(1)ケアの客観的な根拠にできる 看護師がポータブルエコーを使う第一のメリットは、画像をケアの根拠にできる点です。看護師にとってポータブルエコーは、さまざまな場面で役に立ちます(図1)。 図1:「ポータブルエコーが役立つ場面の一例」(提供:浦田克美氏) たとえば、褥瘡ケアの分野では、褥瘡の深さ、発赤、DTI(深部組織損傷)など、皮膚表面からの観察は看護師の経験値や知識レベルに左右されます。しかし、ポータブルエコーの使用によって、皮下脂肪や筋肉組織内に隠れている褥瘡を可視化できます。 排泄ケアの分野でも、通常、直腸まで便が下りてきているかどうか、看護師の経験や肛門診をした際の感覚で想像し、判断することが多くあります。そこでポータブルエコーを使えば、直腸に便が溜まっていることが可視化され、浣腸、摘便といったケアも明確な根拠のもと行うことができます。 ポータブルエコーのメリット(2)客観性のある画像で判断に自信が生まれる 第二に、客観性のあるポータブルエコー画像で、判断に自信が生まれます。五感による観察は、看護師として必要ですが、経験値の格差は少なからずあります。ポータブルエコーは、必要なケア方法を導くための補完的なツールとなる可能性を秘めています。一歩立ち止まって、果たしてこれでよいのかと考える時、ポータブルエコーの画像は大きな判断材料になるでしょう。 訪問看護の現場では、膀胱留置カテーテルからの尿流出がなくなった時、カテーテル交換で済むレベルなのか、急な受診を要するレベルなのか、判断を迫られる場面があると思います。カテーテルの閉塞・屈曲などのトラブルなのか、尿閉・乏尿などの問題なのかを一人で見極めなければなりません。 しかし、ポータブルエコーがあれば、より根拠を持って、直ちに見分けられます。画像でカテーテルは膀胱内にあるけれども、膀胱内に尿がたまっていないのを確認すれば、尿閉・乏尿で腎機能低下の可能性があるため、受診をすすめる根拠として画像提供できます。利用者さんやご家族にとって、急な受診は大きな負担となるため、救急車を呼ぶのか、明日の外来まで待てるか、それは大きな違いではないでしょうか。画像を撮影しておけば、医師が不在でも後で所見を聞き、利用者さん宅を出た後でも対応できます。 ポータブルエコーのメリット(3)多職種や利用者さんと現状を共有できる 第三のメリットは、医師や多職種、利用者さん、ご家族との情報共有による関係性の向上です。ポータブルエコー導入前から同僚や多職種との情報共有のメリットは予想していましたが、これは予想外のメリットでした。利用者さんやご家族など、医療の専門性に関わらず画像提示し、褥瘡の深さや便、尿の貯留部位を見せると納得が得られやすく、ケアに説得力が生まれます。 当院での事例ですが、「毎日便が出ないと気持ち悪い」と下剤に固執していたある患者さんは、食事摂取量が少なく、活動性も低いため、毎日便が出る状態ではありませんでした。そこで、ポータブルエコーを使い、その画像を患者さんと見ながら「便は今、ここにありますよ」と画像を共有しました。便は白くモコモコした雲のように画像化されるのでわかりやすく、患者さんも画像を見ることで「排便は今日じゃないな」というのを理解できるのです。 一方、排便がしばらくみられないことを心配した看護師が、患者さんの訴えがなくても浣腸や摘便を実施することがあります。 しかし、実際には直腸には便が溜まっていなかったり、摘便を実施したけど便が下りていない状態であったり、結果的に浣腸は不必要な排便ケアだった、というケースも多くあります。ポータブルエコーを用いることで、便が下りていないことが分かれば、患者さんは不必要な排便ケアを免れ、苦痛を回避することができます。また、直腸に便があれば浣腸や摘便、無ければ下剤と便秘の状態に合わせてケア方法を選択できます。例えば、「直腸に便が溜まってないから今日は浣腸しません」と伝えることができるので、訪問看護師にとっても業務の効率化に繋がるのではないでしょうか。 ポータブルエコーは、患者さんとの情報共有や信頼関係形成といった面でも、とても有益だと感じます。患者さん自身が排便の時期を予測できると、ポータブルエコーが患者さんのセルフケアに貢献できる部分もあります。 訪問看護師のポータブルエコー活用の課題 ポータブルエコー活用の課題(1)機材が身近にない 訪問看護師がポータブルエコーを使うケースも出てきましたが、大きな壁が2つあります。1つ目はポータブルエコーの機材そのものがないことです。最近、ポータブルエコーは手頃な価格のものも増えましたが、まだまだ浸透していません。やはり、血圧計やサチュレーションモニターのように、ポータブルエコーがもっと身近に判断できるツールとなればと思います。 ポータブルエコー活用の課題(2)技術習得までのサポートを得にくい 2つ目は、ポータブルエコーを学ぶ看護師の環境が十分に得られにくいことです。看護師にとって、基礎教育でまったく学ばなかったポータブルエコーの走査や画像の読み方を、一人で学ぶことは難しいと思います。質問したらすぐ答えてくれる指導者がいるといった、学びの環境を整えることが重要でしょう。 私たちの医療チームでは、褥瘡回診からポータブルエコーの使用を始めました。検査部がポータブルエコーを持って参加し、チームメンバーと一緒に画像を読影しています。その中で、プローブ走査のコツや持ち方、見やすく説得力のある画像の描出方法を教えてもらいます。気長に分かりやすく教えてくれる指導者がそばにいることが大きなカギになります。 ポータブルエコー活用で質の高いケアを提供する 訪問看護でポータブルエコーの活用をしていくためには、管理者が根拠を持ち、質の高いケアを行っていこうという風土を作ることも重要です。確かにポータブルエコーを活用しなくても質の高い看護は提供できます。多くの看護師は、使った事もないポータブルエコーをゼロから学ぶ時間も余力も無いと感じているでしょう。 しかし、褥瘡写真はどうでしょう。カメラの購入やカルテに貼り付ける手間があっても、以前に比べかなり一般化しました。 それは、ケア方法の統一や医師や家族と情報共有するメリットの方が大きく、診療報酬がつかなくても費用対効果が高いと感じているからです。 デジタル時代となり、医師と褥瘡の写真をやりとりするなどの情報共有が一般的になりつつあります。褥瘡を画像化する事で、ケアの統一や教育、家族指導にも活用できるようになりました。これからは、皮膚表面から見えない領域を、ポータブルエコーで見ることもできます。五感を使ったプロの技と客観的な画像を掛け合わせれば看護の質はもっと発展していくはずです。 また、ポータブルエコーの採用を検討している管理者の方には、ポータブルエコーでおこなったアセスメントとケアに対して、適宜フィードバックしてあげてください。上司からのフィードバックがあるだけで、ポータブルエコーを使ったアセスメントに自信を持ち、ケアする喜びにつながるはずです。 取材協力浦田克美氏(皮膚・排泄ケア特定認定看護師)編集:メディバンクス株式会社

ケースメゾットで考える管理業務
ケースメゾットで考える管理業務
特集
2023年3月7日
2023年3月7日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その3:どのように働きかけることが効果的なのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第9回はCASE3「ドクターをどう動かせばいいのか」の議論のまとめです。 はじめに 前回(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)は、なぜK医師とは連携しにくいのかについて、A・B・C・Dさんそれぞれの意見を交換しました。今回は、訪問看護管理者としてどのようにK医師に働きかけるかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか  「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?  設問あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 K医師にどのように働きかけることが効果的なのか 講師ここまで(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)のみなさんの意見から、K医師とよい連携をするために管理者としてできることは、「K医師と訪問看護の目標を一致させる」「K医師と訪問看護の情報の非対称性を解消する」の二つが出ました。では、具体的な取り組みとして訪問看護管理者は何ができるでしょうか? Aさん注2当たり前のことですが、 各利用者の在宅生活の目標についてよく知ってもらい、医師と看護で目標を一つにするために、K医師と話し合う時間をとりたいです。訪問看護は、利用者の意思を尊重したケア体制を構築したいので、K医師に看護側の考えを理解してもらうことは必須のことと思います。 BさんK医師はお忙しいのでしょうから、報告書を持参して相談するなどの機会を探ってみるのがよいかもしれませんね。専門医による診察がない状態がこのまま続くことによって、「利用者にこんな支障が起こりうるのでは」など、看護側がどんなことを懸念していて、なぜK医師に相談したいと思っているのかを、まず報告書に書くことも一つです。 CさんあまりにもK医師の対応がひどいなら、医療法人の本部に相談することも必要だと思います。なので、K 医師の対応について客観的な事実を集めるようにスタッフには指示をしておこうと思います。 Dさんケアマネジャーなどの関係者との情報交換を通じて、誰に働きかければK医師が動くのかを考えたいです。また、この在宅療養支援診療所には他の訪問看護ステーションもかかわっているでしょうから、地域の訪問看護ステーションの管理者会議などでK医師について聞いてみることもできると思います。 講師K医師に情報を提供するさまざまな手立てと、K医師やK医師が所属する医療法人の情報を収集するための具体的な取り組みが出てきましたね。さまざまな困難があることでしょうが、医療法人の本部との相談も視野に入れ、利用者の利益を中心としたケア体制の構築を進めていってください。 連携の鍵は「目的の不一致」と「情報の非対称性」の解消にある 講師では、これまでの議論を受けて、CASE3のまとめです。 みなさんの意見から、・利用者の状況を小まめに医師に伝えること・利用者ごとの在宅療養の目標を医師と看護師で擦り合わせておくことの必要性が見えてきました。 医師に限らず、多職種連携の場面においてキーとなる人物がなかなか動いてくれないという話はよく聞きます。その人自身に問題があるというよりは、その人物の合理的な選択の帰結として生じるものと捉えるほうが、効果的な働きかけを考えることができます。どなたかも発言されていましたが、人の性格などは急に変わるものでもありません。 今回のケースで管理者としてできることは、K医師との「目的の不一致」と「情報の非対称性」(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)を解消するために動くことです。 Cさん連携しにくい医師への対応をしていて、「どうしてこの人はわかってくれないのだろう」と思うことが多々あったのですが、相手のことを十分に理解していなかったかもしれないと思いました。 講師はい、そうなんです。変えられないところを気にしても自分が疲れてしまうだけです。働きかけをして効果がありそうなところにご自身の力を集中させてください。ある人や組織との連携がうまくいかないことがあれば、「目的の不一致」と「情報の非対称性」の解消を考えてみてください。このことは他の場面でも応用できる考えかたですよ。 * 次回は、CASE4「クレームを受けるスタッフをどうするのか」を考えます。 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇入山章栄.『世界標準の経営理論』東京,ダイヤモンド社,2019,114-132.

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?
CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?
特集
2023年2月7日
2023年2月7日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第8回は前回に引き続き、連携がしにくいと評判のドクターについてのケースです。 はじめに 前回(「その1:なぜ連携しにくいのか?」参照)は、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、K医師に関係する周囲の人々の状況について、A・B・C・Dさんそれぞれの考えを出しあいました。続く今回は、なぜK医師との連携がうまくいかないかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか  「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?  設問あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 なぜ連携がうまくいかないのか 講師ここまで(「その1:なぜ連携しにくいのか?」参照)のみなさんの意見から、K医師との連携がうまくいかない理由として、①K医師の特徴と②多職種連携の際に生じる問題、の二つが出てきました。では、この二つを連携がうまくいかないことの原因として考えたとき、みなさんはどんな意見を持ちますか? Aさん注2性格って、人から言われて変わるものではないですよね。在宅医療の経験を増やすといっても、これには時間もかかります。組織や職種も違いますし、私たち訪問看護管理者が働きかけられることでもありません。 Bさん他の組織の、違う職種に関することですし、私たちが無闇にどうこう言うことで、今後その医療法人との連携で角が立つのもよくないと思います。とはいえ、利用者のことや今後の連携を考えると、何かはしないといけませんよね。 講師他人の性格を変えようとするのは難しいことですね。私たちに何ができるかを考えると、多職種連携の際に生じる問題の解決に目を向けるほうが建設的ですね。 Cさんケースに書かれているのは「K医師が看護師の提案に耳を傾けてくれない」という看護師側の訴えだけで、K医師の考えはわかりません。K医師の考えや、K医師の所属する診療所としての考えを聞いてみてもよいかもしれません。 Dさんもしかしたら、看護師からの提案がK医師にとっては自分への批判ととらえられてしまっているのかもしれませんよね。ふだんから、「看護師がどのような情報を持っていて何を考えているのか」を伝えていくなどのコミュニケーションも必要でしょうね。 「なぜ連携がうまくいかないのか」の小括 議論が進むと、K医師自身(性格や働きかた など)を変えることの難しさが改めて浮き彫りになりました。そして話題は「他職種連携の際に生じる問題」の難しさに移りました。この問題の難しさの原因は、突き詰めると二つです。 目的の不一致K医師(利用者の治療を目指す)と訪問看護(利用者の在宅生活の維持向上を目指す)の目的が一致しない。K医師の行動は、違う目的を持った訪問看護の側からは理解しにくいかもしれない。情報の非対称性医師が病院や診療所内でどのように動いているのか、利用者の治療についてどのように考えているかが、訪問看護側からは見えにくい。 逆に、医師からは訪問看護が何を考えてどのように動いているか、訪問看護が把握している利用者の普段の生活状況や悩みなどの情報が見えていない可能性もある。 この二つを解消するために動くことが管理者には必要です。そして次回は、「管理者として連携しにくいと評判の医師に、どのように働き掛けるか」を考えていきます。 >>次回「その3:どのように働きかけることが効果的なのか?」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇入山章栄.『世界標準の経営理論』東京,ダイヤモンド社,2019,114-132.

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
特集
2023年1月17日
2023年1月17日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その1:なぜ連携しにくいのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第7回は、連携がしにくいと評判のドクターについて、なぜ連携がしづらいのかについて多角的に考えます。 はじめに 「ドクターをどう動かせばいいのか」という悩みは、看護管理者の方からよく聞くテーマです。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか   「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?   設問 あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 連携しにくいと評判の医師について 講師このケースで議論したいことは、「管理者として連携しにくいドクターをどのように動かすか」です。その前にまず、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、そのK医師に関係する周囲の人々の状況について、皆さんはどのように考えますか? Aさん注2K医師はふだんは大学病院で働いていますし、在宅医療の経験があまりないので、訪問看護の状況をよくわかっていないと思います。こういうことってよくあるのではないでしょうか。 Bさんすごく対応のよい医師とそうでない医師の差が大きいですよね。もともとの性格などもあるかもしれませんが、医師の経験や価値観が、在宅医療へのかかわりに影響していそうだと個人的には思っています。ここは訪問看護としてはどうしようもないですが。 Cさん医師はどうしても治療に目が行きがちなのかもしれません。特に、病院勤務で、在宅の経験があまりないとその傾向が強い気がします。でも訪問看護の目的は、在宅生活の維持・向上です。私の経験上、ここが一致しないためになかなか話が進まないことがよくありました。 DさんK医師は、利用者の状況を、診察時点の「点」でしかみていないのではないかと思います。利用者やご家族のなかには、「医師に生活全体の状況や困っていることを率直に伝えられない」という人もいらっしゃいます。 「連携しにくいと評判の医師について」の小括 最初の議論は、「連携しにくいと評判のK医師の特徴やそのK医師に関係する周囲の人々の状況について」、それぞれの考えを出しあいました。 これらの発言は、①個人の特徴 ②多職種連携の際に生じる問題、の大きく二つに分類できます。 ①K医師の特徴・本業は病院の医師であり、かつ在宅医療の経験があまりない。・在宅医療への理解が不足しており、自己の価値観を優先している。②多職種連携の際に生じる問題・K医師は治療を、訪問看護は在宅生活の維持・向上を目指しており、目標が一致していない。・医師の立場では、看護師に比べて、利用者の細かな生活状況がわかりにくい。 発言をこのように分類してみると、管理者として働き掛けることができる部分は、②多職種連携の際に生じる問題であることが、参加者のみなさんには見えてきたようです。 次回は、「なぜ連携がうまくいかないのか」について、この二つの面から考えていきます。 >>次回「その2:なぜ連携がうまくいかないのか?」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

ホームレスからホームヘルパーへの就労支援を創出し地域共生社会の旗を掲げる
ホームレスからホームヘルパーへの就労支援を創出し地域共生社会の旗を掲げる
インタビュー
2023年1月10日
2023年1月10日

ホームレスからホームヘルパーへの就労支援を創出し地域共生社会の旗を掲げる

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第12回は、路上生活者支援に始まり、制度の隙間にある人の生活支援、就労支援も行う「ふるさとの会」の佐久間裕章さん。共生社会のありかたについて話しあった。(内容は2018年11月当時のものです。) ゲスト:佐久間裕章NPO法人自立支援センターふるさとの会理事1996年ごろから山谷地区の炊き出しボランティアとして参加。出版社勤務を経て、1999年、自立支援センターふるさとの会へ事務局長として入職。ふるさとの会理事および有限会社ひまわり取締役を兼任。ふるさとの会は、路上生活者のための居所の提供、ケア付き住宅、就労支援ホーム、精神障害者グループホーム、ヘルパーステーションなど、時代とニーズに応じて多彩な事業を展開している。 すべては山谷の炊き出しから始まった 川越●長い歴史をお持ちのNPOとして、ふるさとの会は以前から知っていました。地域包括ケアシステムが目指す「地域共生社会」と、会の活動は深くつながっていると思います。 佐久間●ふるさとの会は、生活困窮者や路上生活者の炊き出しボランティアとして1990年にスタートしました。僕がふるさとの会でボランティアを始めたのは96年ごろでしたが、1年くらいやっていると、しだいに徒労感を覚えるんです。炊き出しをすることで路上生活の人が減るわけでもない、自己満足じゃないかって。 川越●リーマンショック後の「年越し派遣村」なども有名になりましたが、そこだけやって救えるものでもないということですね。 佐久間●そうなんです。炊き出しは必要だけれども、そのなかで一人二人でも路上を脱して畳の上で暮らせるような支援をやろうと考え、アパートの一室を借りて、食事と相談ができるサロンをつくりました。まずは対象を高齢者に限りました。特に高齢の方は「この冬、越せるかな」というリスクがあるので。ご飯を食べながら話を聞いて、「生活保護を受けて地域で安定して暮らしたい」と希望する人の役所申請に同行しました。 川越●交流できる場をつくり、そこで話がつながった人を行政につなげていったんですね。住所不定でも生活保護は受けられるんですか? 佐久間●受けられます。ただ、なかには、これまで何度か保護を受けたけれど家賃を滞納して失踪したとか、役所に顔を出しにくい人もいるんです。 川越●手続きがちゃんとできれば生活保護につなげられるし、ご本人が申請しづらければサポートするということですね。 NPO法の成立で支援の幅が広がった 佐久間●サロンに食事に来る人で、手伝いをしてくれるリーダー格のような人が、あるとき具合が悪くなって救急搬送されて、脳梗塞か何かで障害が残ったんです。住んでいたのはドヤと呼ばれた簡易旅館で、バリアフリーでもなく、戻りたいのに戻れず、転院を繰り返して病院で亡くなられて。 その方はご自身を、「インパール作戦の生き残り」と言い、みんなを束ねる人間的魅力のある人でした。入院後、山谷に戻りたいと言い続けましたが、僕らは結局、何もしてあげられなかった。 川越●彼らを家に戻せる支援や制度はなかったわけですね。 佐久間●そのうち、役所の人から「そんなに言うならふるさとの会で場所をつくればいいじゃない」と。ちょうどNPO法案が施行されたころで、法人格を取得して事業主体になれると言われて。自前の資源が何もない、力のなさを実感していたので、99年に法人格をとって宿泊所をつくったんです。 ホームレスからホームヘルパーへ 佐久間●このころ初めて「社会的入院」という言葉を知ったんですが、病院を転々として、数ヵ月後に自分がどこにいるかわからないでいる人も、広義のホームレスだと思いました。そこで、ふるさとの会でも介護ができるようなしくみをつくろうと決めたんです。 川越●困窮者支援から住まいの提供、介護も提供できる住まいへと転換していったんですね。 佐久間●当時、山谷はまだ危険な街というイメージで、依頼しても来てくれるヘルパーがいなかった。一方、働く意欲はあるのに長期的な失業状態の方がいたので、その人にヘルパーになってもらおうと(笑)。もともと建設業で働いていた人たちです。機械化が進んで仕事が減っていくし、工法が変わって昔の技術が必要とされなくなってきていたんです。 周囲からは「建設現場の日雇いにヘルパーができるわけがない」とさんざん言われましたが、僕と一緒に勉強して、当時のヘルパー2級資格をとった人がいたんです。新聞やニュース番組でも「ホームレスからホームヘルパーへ」と紹介してもらって(笑)。 川越●成功例があると行政へもアピールしやすくなりますね。 佐久間●その後、東京都がプログラムを組んで、地元の福祉事務所が協力してくれて、12人が修了して、実際にヘルパーとして働きはじめました。 孤立した世帯をまるごと支援 佐久間●介護保険は1人の利用者さんに対する支援ですが、世帯という単位で支援をしていく方向でないと、地域包括ケアはうまくいかないと思います。NPOのいいところは、ニュートラルに部署を横断してかかわれるんです。80代の認知症のおばあさんのところに行ったら部屋の奥に引きこもりの50代の息子さんがいたケースでは、地域包括支援センターと僕らと区の障害福祉課の保健師さんとがチームを組んで、世帯全体を支援することができました。 川越●現状の制度だけでは支援が届きづらい、地域で孤立した世帯をまるごと支援することも、地域包括ケアシステムの大切な役割です。 佐久間●地域就労支援や共生型サービスなどは、今の縦割りの政策では難しいところがありますが、これからは地域のなかで一つまるごと支援という方向も必要だと思います。地域包括ケアシステムも、当初はそれぞれのイメージがバラバラでした。10年、20年という単位でやっていくと、だんだんと浸透していくと思うんです。 川越●短期間にあれもこれもはできないことを認めた上で、10年後にこんな地域共生社会がくることを目指して取り組むことが大切ですね。 自分たちも医療の面から、住みやすい地域づくりにかかわっているわけなので、同じところを目指しているのですね。ありがとうございました。 ─第13回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2018年11月発行より要約転載。本文中の数値は掲載当時のものです。

地域を巻き込みまちづくりをデザインする
地域を巻き込みまちづくりをデザインする
インタビュー
2022年12月27日
2022年12月27日

地域を巻き込みまちづくりをデザインする

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第11回は、「ものをつくらないデザイナー」として自治体からひっぱりだこの山崎亮さんから、まちづくりやワークショップの極意を聞いた。(内容は2016年7月当時のものです。) ゲスト:山崎 亮(コミュニティデザイナー/株式会社studio-L代表取締役)大阪府立大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了(地域生態工学専攻)。株式会社エス・イー・エヌ環境計画室を経て、2005年studio-L設立。東北芸術工科大学芸術学部コミュニティデザイン学科教授(学科長)。2013年東京大学大学院博士課程修了。慶応義塾大学特別招聘教授。著書に「コミュニティデザインの源流」(太田出版、2016)「ケアするまちのデザイン」(医学書院、2019)などがある。 ヒアリングはアウェイではなく相手のホームで聞く 川越●地域包括ケアには、まちづくりが重要といわれています。山崎さんのお仕事であるコミュニティデザインはまさに人の集う場、居場所づくりに関連していますね。 山崎●コミュニティデザイナーは、地域のコミュニティとともに未来をデザインしていく仕事です。仕事の8割は自治体からの依頼で、たとえば東京都墨田区の食育計画にかかわったのですが、区民の健康的な食事を考えるときには、健康づくりや未病、環境に対する配慮やゴミの問題、郷土の歴史を含めた地域に関することや、教育などについても考えていきます。そのような計画は住民が参加しないことには意味がないので、地域の人々に集まってもらい、一緒に計画を作っていきます。 川越●建築・デザインの専門家である山崎さんが、地域の人とどのように共同作業を進めていくのか興味があります。 山崎●地域をフィールドにするコミュニティデザイナーは、誰とでもすぐ友達になれる力が必要かもしれません。「あの人は話しやすい」と思われる関係性を作っておくと、必要な情報がスーッと下りて来る。 川越●地域包括ケアでいろいろなセクターの人が共同で仕事をするとき、そういうふうに黙っていても情報が入ってくるのは「技術」だと痛感します。 山崎●自治体の地域計画などは、ユーザーが目に見えず、誰にどうやって意見を聞けばいいのかわからない。それで、ワークショップという形で地域の人の話を聞き、計画の設計に反映させていくことにしました。実際に地域で行動を起こしていくことが大切ですから、合意形成だけではなく、主体形成みたいなものをつくっていきます。 川越●地域包括ケアの文脈でいうと、地域ケア会議が地域課題の抽出や解決策の検討の場になるという発想ですが、今のところ抽象概念にとどまり、やっていることは地域によってまちまちです。 山崎●会議をやるから集まりましょうではなく、こちらから行くほうがいいですね。会議室に来てもらうと緊張して本音が出ない人も多いので、僕らは最初のヒヤリングでは職場や自宅で話を聞くようにしています。 川越●ホームかアウェイかで言ったら、相手のホームに出掛けていくほうがいいということですね。 山崎●そうです。相手のホームなら、話題に困ったときも話のきっかけとなる情報がその場所にたくさんあるので、目に入ります。そうやってヒヤリングを行い、100人の人の配置がわかると、ようやくワークショップの参加者募集をかけていきます。 ワークショップは合意形成から主体形成まで担う 川越●今、「地域づくり協議体」という会議を各自治体でやることになっていますが、山崎さんがおっしゃるように、まずは話を聞きに行くほうがはるかに実践的な方法ですね。 山崎●ワークショップの参加者は公募が前提です。テーマに沿ったアイデアを出し合うほか、課題とまったく関係のない、参加者自身がやってみたいことを発言してもいい。1チームは7人くらいで、数回メンバーを替えながらやっていくと、何となく「この人とこの人は意見が合う」というのがみえてきます。 地域包括ケアのケースなら専門職に入ってもらい、住民の方たちと地域を調査し、今ある社会資源とやりたいことをどう組み合わせられるか、アイデアを合意形成として出してもらう。そして、何ができるかが見えてきたらチームビルディングを行います。つまり主体形成です。ここからは実行してもらう段階で、社会資源となるような活動をそれぞれのチームに生み出してもらいます。 「楽しい」「かっこいい」を加えるとまとまりやすい 川越●山崎さんのお仕事は、地域医療や福祉など、地域包括ケアシステムで行なっていることと同じ方向を探っていると思うのですが、こちらはなかなか定着・持続という形で発展させていくのが難しいですね。 山崎●僕自身は今、社会福祉に恋をしていて、社会福祉士の勉強をしているんです。今やっと就労支援のところまできましたが、19科目全部面白いです。バイスティックの原則とか、これはコミュニティデザインに絶対必要なことだとか、たくさんの気づきがあります。 川越●かつてはその分野の専門家だけですむ時代でしたが、今は他分野の専門家と専門家をどうつなぐか、市民がどう参加するかが求められています。つなぎかたを考える役割の人が必要だと痛感します。 山崎●自治体の施策は、税金を使うために議会で説明する必要があるので、どうしても「正しさ」を訴えてしまいますが、ワークショップでは、「正しいとは何か」を議論すると、それぞれの「正しさ」をぶつけ合ってしまい、まとまらない。そこに「楽しい」「かっこいい」「美しい」など感性の要素を入れるとまとまりやすくなるんです。 理性だけの「正しさ」では動いてくれなかった人も、地域包括ケアが楽しかったり、かっこよかったりすれば、動き出していく。感性に訴える、広い意味での美しさをデザインすることを意識しています。 川越●山崎さんのお話をうかがって、ファシリテーターとして企画を練ったり、関係者にどう依頼すれば人が集まるのかなど、専門職とは関係ない能力のほうがはるかに大事だなと思いました。そして、ワークショップに象徴される関係性づくりや合意形成があって、初めて新しい動きが生まれてくるのですね。 ー第12回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2016年7月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-
特集 会員限定
2022年12月13日
2022年12月13日

【セミナーレポート】vol.3 具体的なアドバイス方法(2) -訪問看護における生活期リハビリテーション-

2022年8月26日に実施したNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護における生活期リハビリテーション」。刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科 部長の小口先生を座長に迎え、同課の理学療法士 仲村先生と作業療法士 日比先生に、それぞれの視点から訪問看護の現場で役立つ生活期リハの知識や具体的なテクニックを教えていただきました。 そんなセミナーの様子を、3回に分けてご紹介。第3回は、日比先生による「症例を通した日常生活動作の工夫」についての講演の後半をまとめます。 【講師】(座長)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科部長/リハビリテーション科専門医小口 和代 先生2000年より刈谷豊田総合病院勤務。2004年院内に回復期リハビリテーション病棟、2007年訪問リハビリテーション事業所を開設し、急性期から回復期、生活期まで幅広くリハビリテーション診療に携わっている。指導医として若手医師へのリハビリテーション教育やチーム医療の質の向上に取り組む。監修本:『Excelで効率化! リハビリテーション自主トレーニング指導パットレ!Pro.』医歯薬出版 2021年 (講演Ⅰ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科理学療法士仲村 我花奈 先生2002年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期(神経、整形、ICU)、介護老人保健施設を経験。現在は訪問リハビリテーションを担当している。利用者の社会参加やQOLの向上を目指し、前向きな生活が送れるよう取り組んでいる。 (講演Ⅱ:講師)刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科作業療法士日比 健一 先生 2004年より刈谷豊田総合病院勤務。急性期、回復期、介護老人保健施設を経験。認知症サポートチーム、緩和ケアチーム、ICTワーキングの経験を活かし、訪問リハビリテーションでは横断的な専門的支援を提供している。 目次▶︎ 検討症例の基本情報:90歳・男性のBさん▶︎ 困りごと(1) 起き上がりから車椅子への移乗が難しい ・移乗動作を助ける福祉用具 ・適切な車椅子を選んで移乗の負担の軽減を▶︎ 困りごと(2)食べるスピードが遅く、食事中ぼーっとする ・食具の種類と導入の注意点▶︎ 利用者さんの生活動作について助言する際のポイント --> ▶︎ 検討症例の基本情報:90歳・男性のBさん 90歳の男性Bさんの架空の症例を通して、具体的な生活動作へのアドバイス方法を考えていきましょう。最初にBさんの基本情報をご確認ください。 2症例目:Bさん(90歳/男性)・妻と二人暮らし。・4年前に脳梗塞を発症し、重度片麻痺の後遺症が残っている。・ADL動作は、食事以外は介助が必要。要介護認定は「要介護3」・移動は車椅子で全介助。ベッドで寝ていることが多く、外に出る気はまったく起きない。 そんなBさん、およびその妻が日常で感じているさまざまな困りごとについて順番に見ていきます。 1症例目はこちら>> ▶︎ 困りごと(1) 起き上がりから車椅子への移乗が難しい 最初の困りごとは、起き上がりから車椅子への移乗です。妻は「夫は体が大きいので介助が大変だ」と話し、Bさん本人も「車椅子に乗ると疲れるから、ベッドで寝ていればいい」といいます。寝たきりになるリスクが非常に高い状態ですね。 そこで、起き上がりと移乗の動作についてアドバイスします。それぞれ以下のような手順を踏むと、比較的スムーズに体を動かせるでしょう。 ※黄色のテープを巻いている足は、健康状態が悪い足を表現しています 【起き上がり動作の手順】STEP1:ギャッジアップ座位にするベットに頭を付けたままギャッジアップで上体を起こす。STEP2:高さ調整介助者の腰が深く曲がらないように、ベッドの高さを調整する。STEP3:足を降ろし、上体を起こす下肢を先に降ろし、上体を健康な足側の方向に起き上がらせる。 ※黄色のテープを巻いている足は、健康状態が悪い足を表現しています 【移乗動作の手順】STEP1:座面を上げる立ち上がりやすい高さ(目安は股関節が90度以上になる状態)までベッドを上げる。STEP2:上体を曲げ、臀部を上げるお辞儀をさせるように上体を曲げ、お尻が浮きやすい体勢にして立ち上がる。STEP3:悪い足を固定し、方向転換する悪い足を固定し、健康な足側に重心をかけて方向転換させる。 移乗動作を助ける福祉用具 併せて提案したいのが、移乗動作を助ける福祉用具です。利用者さんが臥位・座位・立位のどの状態から移乗するかによって選定してください。 立つことが可能であれば、L字手すりを設置し、立ち上がりをサポートします。座位の場合は、トランスファーボードや介助用ベルトを使用し、転倒予防や介助負担の軽減を図りましょう。そして座ることも難しい場合は、介助用リフトの導入を検討します。 適切な車椅子を選んで移乗の負担軽減を 移乗の負担を軽減するには、利用者さんに合った車椅子を選ぶことも重要になります。車椅子の選定ポイントは、車椅子の座位姿勢、使用目的、そして移乗動作の介助量です。選定基準を詳しく見ていきましょう。 ・普通型車椅子移乗の介助量が少なく、座位保持が可能な方向け。自走に適している。・モジュラー式車椅子移乗の介助量は中等度で、座位保持が可能な方向け。自走に適している。・リクライニング型車椅子移乗の介助量が大きく、座位保持が困難な方向け。介助用に適している。なお、リクライニング型車椅子はチルト機能があるものがおすすめ。座面から臀部がずれ落ちるのを軽減でき、転倒を予防できる。長い時間座位を保持する場合にも便利。 ▶︎ 困りごと(2) 食べるスピードが遅く、食事中ぼーっとする 続いての困りごとは、食事についてです。妻からは「食べるスピードが遅い。食事中にぼーっとしているのも気になる」と、本人からは「箸が使いにくくて疲れてしまう」という声が聞かれました。 食事動作へのアドバイスをする際には、まず先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期のどの段階に問題があるかを見極めましょう。Bさんの場合は、先行期に問題があるケースになります。 次に、具体的な評価と改善案を考えていきます。例えば「食べるのが遅い」ことには、多くの場合疲労の問題が隠れています。肘つきのある椅子やリクライニング機能のある車椅子に変えたり、一回の食事時間を短くして回数を増やしたりといった工夫をしてみてください。また、「ぼーっとしている」のは傾眠傾向にある可能性があります。覚醒している時間に食事をとるようにすると、介助者の負担を軽減できるかもしれません。 食具の種類と導入の注意点 「普通箸が使いにくい」とお困りの場合には、食具の見直しがおすすめです。利用者さんがどのような動作を難しく感じているかを観察し、以下の基準を参照して合うものを選定してあげてください。 指の曲げ伸ばしが困難な場合 → 自助具箸握り・つまみ動作が困難な場合 → 万能スプーン握りが困難な場合 → 万能カフ 食具の提案で注意してほしいのは、本人が自力でできる動きまでサポートしてしまうものは選ばないこと。過剰に動作を助ける道具を使うと、残存機能を低下させてしまう可能性があります。 ▶︎ 利用者さんの生活動作について助言する際のポイント 私の講演では、疾患や介助量が異なる2つの症例を通して、日常の生活動作や環境設定へのアドバイス方法についてご説明してきました。今回ご紹介した症例に類似するケースに限定せず、助言する際のポイントは大きく3つあります。 1つ目は、生活動作については安全で、誰でも実践できて、かつ習慣化できる内容を提案すること。2つ目は、環境設定は、心身機能の状態に合わせて検討すること。そして3つ目は、福祉用具を選ぶ際は、残存機能を発揮できるものにすることです。 上記に基づいたアドバイスは、きっと利用者さんの社会参加の一歩につながります。ぜひ、明日からの現場で実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

根気強く話を聞いて介入を拒む人の心を開く
根気強く話を聞いて介入を拒む人の心を開く
インタビュー
2022年12月13日
2022年12月13日

根気強く話を聞いて介入を拒む人の心を開く

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。今回のゲストはセルフネグレクトの研究に取り組む岸恵美子教授。地域づくりに欠かせない、高齢者や認知症を持つ人の孤立化防止を語り合った。(内容は2015年11月当時のものです。) ゲスト:岸 恵美子(東邦大学看護学部教授)日本赤十字看護大学大学院博士後期課程修了。看護学博士。保健師として勤務した後、自治医科大学講師、日本赤十字看護大学准教授、帝京大学大学院医療技術学研究科看護学専攻教授を経て現職(看護学部長と大学院看護学研究科長も兼任)。研究テーマは高齢者虐待、セルフネグレクト、孤立死など。 「ごみ屋敷」には支援が必要な人が住む 川越●岸先生は、高齢者虐待の研究からセルフネグレクトの研究に至りました。きっかけは何だったのでしょう。 岸●家族から心理的虐待を受けるうちに「自分はどうなってもいい、早く死にたい」と考えるようになっていく高齢者が大勢いました。でも近所や家族に迷惑をかけるから、自殺はしない。このまま静かに死んでいきたいとおっしゃる。そこで、虐待からセルフネグレクトに陥ることがあるとわかりました。 川越●セルフネグレクトのなかでも中核的なのが、「ごみ屋敷」ですね。 岸●ごみ屋敷に住む人たちは、最初は全然会ってくれない。でも不衛生な環境にいますし、明らかに支援の対象だと気づきました。なかには治療が必要な場合もありますから、まずはどう受診につなげるかが重要です。 川越●先生の著書(『セルフ・ネグレクトの人への支援』中央法規出版)に、ライフラインを止められても生活している事例が紹介されていますが、自治体に通報されるしくみはないんですか。 岸●自治体が個人情報保護法に縛られすぎて、民生委員からも「気になる人がいて訪問したいけど、情報がない」という話も聞きます。地域包括支援センター(以下、「包括」と称する)でさえ情報をもらえないことは多いですから。こういう場合は特例として個人情報を開示していいはずなんですが。 キーパーソンが病むと家族全体が崩れていく 川越●ごみ屋敷に限らず、広い意味でのセルフネグレクトの人たちはどのくらいいるんでしょう。 岸●2014年に全国的な自治体調査をしましたが、回答率が4割程度と低い。そもそも日本ではセルフネグレクトの定義が定まっていないので、調査するときに対象者の例を出しているのですが、「把握していない」という回答が多いですね。 川越●対象者には、認知症、統合失調症、アルコール依存なども入ってきますか。 岸●そういう人たちが孤立することが問題なんです。高齢の親と障害者の子どもという家族では、うまく介護できなくて、孤立していきます。こうなると、家族ごとセルフネグレクトになってしまいます。 川越●家族それぞれが問題を抱えているお宅では、患者自身がキーパーソンのため、家族全体まで崩れていくケースを在宅診療でもしばしば遭遇します。 岸●そうなる前の対策として、自治体は懸命に見守りをやっていますが、見守りの担い手(民生委員)が高齢者なので手が回らない。今まで困難事例といわれていた人は、実はセルフネグレクトかもしれないんです。 「帰れ」は「来るな」のサインではない 川越●本当は支援が必要なのに、助けを求める力がないんですね。 岸●そうなんです。訪問して「帰れ」と怒鳴られても、それが「来るな」というサインとは限らず、他人とほとんどコミュニケーションしていない人は、そもそも伝えかたがわからない。なぜ拒否しているのかをアセスメントしないといけない。疾患だけでなく、遠慮や気兼ね、過去に対人関係のトラブルがあって、他人とかかわりたくないという人もいます。 岸●人には自由権があるので、本人の意思を尊重しないわけにはいかないですし、明らかに医療が必要でも、本人が拒めば無理やり救急車に乗せることはできない。結局、繰り返し話を聞いていくなかで折り合いをつけていく、根気強い対応が必要です。 川越●そうしたなかで、拒否されていた人が心を開くきっかけはあるんですか。 岸●最も多いのは、自分の具合が悪くなったときです。急に痛くなったり立つのが大変になったりすると、病院に行ったほうがいいかなと思うようです。 訪問先で血圧を測って「今日は高いですね」と言うと、みなさん数値は気にするので、それで受診につながったりすることもありました。疾患を早く発見するという点では社会福祉協議会や包括が医療にももっと介入してほしいですね。 川越●北区の包括には、医師が支援につながらない認知症の人たちの訪問相談をするサポート医事業がありますね。 岸●サポート医事業で初めてごみ屋敷に踏み入る医師もいるわけです。拒否していた人でも、医者の話だと聞いてくれて、そこで一気に話が進む人もいます。 ごみ屋敷の場合、入院・入所がきっかけで、片づけが進むこともあります。入院して清潔な病室でおいしいものを食べているところに、「もうすぐ退院だけど、あの家には帰れないよね」と言うと、片づけを了承してくれる。もちろん、その前から少しずつかかわりを持って信頼関係を築けていないとだめですが。 基本的な生活を支えるサービスが必要 岸●高齢者の多い地域でよく話題となるのは、ごみの分別問題。認知機能が低下してくると、分別ができずにごみを出さなくなってしまうので、たとえば「目が悪くなって分別が大変」などの理由で分別免除シールみたいなのがあるといいですね。そうすると出しやすくなって家にため込まないと思うんです。 川越●分別ができなくなって、ごみ屋敷になってしまう人もいるんですね。配食サービスをやっている自治体は多いですが、それより前の段階で、ごみを出す支援があってもよさそうです。 岸●人が食事をするかぎり、絶対にごみはたまっていきます。ごみ出しにヘルパーさんを使おうにも、要支援にならないと使えない。庭の草むしりなども自分でできなくなると「いいや」と荒れ放題になる。介護保険以前の基本的な生活を支えるサービスが広がるといいと思います。 ー第11回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2015年11月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

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