慢性疾患看護に関する記事

糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

「糖尿病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は糖尿病について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 糖尿病患者の在宅療養では、脳卒中や心筋梗塞、低血糖症などの救急搬送を要する疾患の発症予防や、■高血糖 ■低血糖 ■シックデイ ── などへの留意が必要です。そのためには、外来受診や訪問診療での医師の診察に加え、ケアマネジャーを中心とした地域の訪問薬剤管理指導や訪問看護、訪問栄養指導、訪問リハビリテーション、訪問介護等のサポートと、何よりご家族の協力が不可欠です。シームレスかつタイムリーな地域連携のために、ハイセキュリティな医療用SNSをはじめとしたICT利用や、日本看護協会が推奨する特定行為研修修了看護師の地域配置が、一助になると考えられます。 在宅医療での糖尿病患者の特徴 在宅医療で介入が必要な糖尿病患者は、高齢や認知症だけでなく、廃用症候群や摂食嚥下障害の合併があり、高血糖、低血糖、シックデイ、自己管理困難、介護力不足など、複数の療養阻害要因を抱えるケースが散見されます。これらに対して安全性を担保するために、以下の対応が必要です。 治療方針 在宅での高齢者糖尿病患者では、身体機能や認知機能、心理状態、社会的環境を勘案し、個別的かつ総合的に目標を設定することが求められます。具体的には、認知機能やADL、そして重症低血糖リスクが危惧される薬剤の使用有無によって、血糖コントロール目標値を設定します。詳細は「高齢者糖尿病診療ガイドライン」1)を参照してください。 糖尿病を持つ患者への訪問看護 訪問看護では、患者の協力体制を得ることが不可欠です。血糖自己測定(SMBG)の値推移、日々のバイタルサイン、身体状況からアセスメントして推測される状況を、医師へ報告する必要があります。 患者ごとの血糖コントロール方針が立てられる 高齢患者では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」2)に沿って、年齢や認知機能などをもとに、カテゴリー分類が判断されます。高齢者では、健康状態や治療内容によって、血糖コントロールの方針が異なります。必ずしもHbA1c値を下げるのがよいわけではなく、カテゴリーによってはHbA1c値を緩徐に上げる場合もあります。そのため、連携先の医師と、患者の情報を共有することが重要です。 患者のADLや年齢、薬剤、残存疾患といった情報から、患者にとって最適な血糖コントロールが判断されます。患者に接する機会が多い医療職である訪問看護師が、患者との人間関係を構築し、日常生活の情報を聞き取り、医師へ情報提供できる体制が望ましいでしょう。また、患者に対し、日々の治療に対するモチベーションが低下しないよう、血糖測定や内服を忘れず実施できていることへの労りの声掛けも大切です。 過去に低血糖を起こした既往がないか 低血糖は生命リスクを高めます。過去に低血糖を起こしていればリスクが高いと判断し、対応することが必要です。シックデイの際にはどのような対策をとればよいか主治医に相談の上で、患者へ指導します。 また、低血糖を頻発している人は、交感神経症状である発汗や頻脈、手指振戦が出ないこともありますので、中枢神経症状である頭痛や集中力低下がないかを注視することも必要です。 薬剤の服薬状況 過去に処方されて余っている薬などがないかを、確認する必要があります。過去処方されていたスルホニル尿素薬(SU薬)など、低血糖を惹起する血糖降下薬が出てきたから「今の薬とあわせて飲んでしまった」というケースもありえ、場合によっては救急搬送や致命的な状態に至る場合もあります。現在処方されている薬だけではなく、過去処方の残薬がないかを初回介入時に調べることが重要です。 訪問看護師に求められる対応とそのポイント 低血糖 低血糖で現れる自律神経症状(発汗、動悸、手の震えなど)が高齢者では現れにくく、高齢者は低血糖となっても無自覚となりやすい特徴があります。高齢者の低血糖は、転倒や骨折、うつ状態の誘因になるともに、認知症発症の危険因子でもあります。QOLの低下にもつながるため、注意を要します。 経口摂取が可能な場合は、ブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料200mLを摂取し、15分後に血糖を再測定します(ブドウ糖以外の糖類では効果発現が遅れます)。 経口摂取が不可能な場合は、ブドウ糖や砂糖を口唇と歯肉の間に塗りつけ、グルカゴンがあれば1mgを注射し、医療機関に搬送となります。応急処置で意識レベルが一時回復しても低血糖の再発や遷延があり、注意を要します。 シックデイ 急性疾患の併発等によって、血糖コントロール悪化、食事摂取量低下があれば、対策が必要です。可能であれば血糖値を頻回に測定しながら、家庭ではできるだけ経口的に、水分・炭水化物・塩分を摂取させます。お粥やスープ、お茶、ジュース、アイスクリームなどが摂取しやすいとされています。 薬剤コンプライアンスとアドヒアランス 独居や老老介護生活の患者の場合、在宅医療の開始となった早期に、残薬整理の介入を実施することは、過量服用や薬剤不適切使用の防止に有用な手段です。 また、訪問薬剤管理指導により、薬剤師が定期的に生活状況を確認することで、食前食後薬の用法統一、腎機能・血糖値・食事量を考慮した減薬、認知機能や運動機能を考慮した注射剤デバイス変更など、処方への提案が可能です。薬剤師による電話フォローも、コンプライアンス、アドヒアランス両方の向上に寄与すると考えられます。 自己血糖測定や自己注射の援助 自己管理が必要にもかかわらず、それが困難な患者では、 ■家族や訪問看護による他者管理■訪問薬剤管理指導、訪問介護等による見守りのもとでの自己管理を検討します。 独居や経済的問題等でコメディカルの介入が困難な場合には、スマートフォンのビデオ通話機能を利用し、遠隔で看護師見守りで実施するケースもあります。 制度面の知識 ■身体障害者手帳申請:肢体不自由、視覚障害、じん臓機能障害(eGFR20未満)等■自治体ごとの医療福祉費支給制度の利用で、自己負担の費用を軽減できる場合があります。しかし、独居高齢患者等では、申請準備が困難なケースも少なくありません。ケアマネジャーが中心となり、本人の意思に寄り添いながら、主治医や多職種、福祉や行政等の間に立ち、申請援助をすることも重要です。 特定行為研修修了看護師の活躍 秋田県由利本荘市は、全国的にも高齢化率が高く、訪問診療医が少ない地域です。そのような地域において、在宅にかかわる看護師の特定行為研修を進める動きが活発に行なわれています。これは、秋田大学大学院医学系研究科 安藤秀明教授のご協力のもと、訪問診療医が実習を担当し、働きながら地域で特定行為研修を受講できる体制が構築されました。2022年には第1期生として4法人6名の看護師が研修を受けました。 特定行為研修修了者の活動により、医師数が限られた地域であっても、望まれるケアの充足につながります。たとえば、特定の範囲内であれば基礎インスリン量の変更も、医師の指示を待たずに看護師が変更することができます。専門的な医学教育を受けた看護師が訪問することで、地域で、病院に近い質の高い糖尿病療養を実施できる一助になると期待されています。 訪問看護師による遠隔指導 由利本荘市のごてんまり訪問看護ステーションでは、訪問看護師による遠隔指導を行なっています。在宅患者にタブレットを貸与し、SMBG指導や超速効型スケール指導、インスリン注射指導を遠隔で実施しています。高齢になるほどインスリン単位数間違いの危険性が高くなりますが、つど遠隔で指導を実施することで、指導効果は上がり、単位数間違いによる低血糖リスクを予防することができます。 遠隔指導のよさは、通常は入院しなければ困難な強化インスリン療法の指導でも、在宅で実施できることです。指導のために入院となると、筋力や認知力の低下が避けられませんが、それらを防ぐこともできます。何よりも入院費の削減に大きな効果を発揮します。 2023年12月現在は、D to P(Doctor to Patient)による遠隔診療に対する診療報酬算定は要件があるものの認められていますが、N to P(Nurse to Patient)またはD to P with Nについては診療報酬上の評価がありません。しかし、きたるべき超超高齢社会と限界集落の増加に備えてN to Pを実施していかなければならない地域として、このような取り組みを行なっています。 執筆:谷合 久憲  たにあい糖尿病・在宅クリニック院長藤沢 武秀ごてんまり訪問看護ステーション看護師血糖コントロールに係る薬剤投与関連特定行為研修修了者八鍬 紘治日本調剤東北支店在宅医療部薬剤師糖尿病薬物療法履修薬剤師秋田県糖尿病療養指導士長堀 孝子SOMPOケア由利本荘介護支援専門員木村 有紀ごてんまり訪問看護ステーション作業療法士齋藤 瑠衣子たにあい糖尿病・在宅クリニック管理栄養士 編集:株式会社メディカ出版 【参考文献】1)日本老年医学会ほか編著.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,264p.2)日本老年医学会ほか編著.「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針」.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,34.3)週刊日本医事新報  NO.5198 2023

疾患学び直し 喘息
疾患学び直し 喘息
特集
2023年8月1日
2023年8月1日

【在宅医が解説】「喘息」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は喘息について、訪問看護師に求められる知識や注意点を、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 1980年代末ごろから著しく喘息の病態の解明が進み、治療法は近年めざましい発展を遂げています。 気道上皮細胞は単なるバリアではなく、多彩なサイトカインを分泌し、気道炎症を起こすものであることが判明。抗原受容体を持たない2型自然リンパ球も発見され、ステロイド抵抗性に関与1)し、吸入ステロイド薬をはじめとした今までの治療ではコントロールできない人への新しい治療法が確立されてきました。また、喘息の調子がよくても、軽い発作が起こるだけでリモデリング(気道の基底膜に肥厚や線維化が起こり、気道平滑筋層の肥厚、分泌構造の増加、血管新生が生じる)が起こることがわかり、ふだん調子がよくても気道の炎症を指標に、それを抑えるよう、治療を行なっていく必要があります。 喘息の病態が解明されてきた 「気道炎症」と「気管支平滑筋の収縮」が、喘息のマクロな病態です。さらに、上皮の環境因子に応じて上皮サイトカインが分泌され、気道炎症を起こすという、ミクロな病態の解明が進みました。 1980年代までは、アレルゲン(ダニやハウスダストなど)の吸入により起こる1型アレルギーが喘息であると信じられてきました。しかし、上皮の環境因子であるウイルス感染、細菌感染、タバコや大気汚染、寒冷刺激などでも、サイトカインが分泌され、気道炎症は起こります。 このように、(1)気道上皮から分泌されるサイトカイン、受容体を介した刺激などを受け、IgEが関与するアレルギー性好酸球性炎症(2)(非アレルギー性)好酸球性炎症(3)好中球が関与した炎症(4)気道の構造変化による過敏性が、喘息の病態といわれます。 アレルギー素因がなくとも、ウイルス感染後に咳喘息を呈します。また、鼻も気管も同じひとつの道であり、アレルギー性鼻炎の合併は、喘息の増悪に関与します。 基本の治療法とステロイド抵抗性への治療 気道炎症/気管支平滑筋収縮に対する薬 治療は、気道の炎症を抑えることと、収縮した気管支平滑筋を弛緩させることです。前者には、吸入ステロイド薬(ICS)、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン製剤が含まれます。後者には、長時間作用型β2刺激薬(LABA)と長時間作用型ムスカリニック受容体拮抗薬(LAMA)、テオフィリン製剤があり、これらがコントローラー(長期管理薬)です。 急性増悪時の治療薬 喘息の急性増悪が起これば、さらに、経口ステロイド薬を使用します。一時的な発作は、短時間作用型β2刺激薬(SABA)の吸入で回復することもあります。急性増悪を繰り返し、全身性ステロイド薬の内服が繰り返し必要になる場合には、さらなる治療を検討します。 初診時は、急性増悪を呈して受診されることが多いため、コントローラーに加え、必要な際には最初から経口ステロイド薬を処方し、状態をみながら治療のステップダウンを行ないます。 ステロイド抵抗性の病態も解明されつつある 2型自然リンパ球(ILC2)がステロイド抵抗性に関与します1)。コントローラー+経口ステロイド薬だけでは喘息のコントロールに難渋するケースには、バイオ製剤を使用し、ILC2以降のIL(インターロイキン)や、IgE、さらにもっと上流の上皮サイトカインであるTSLPの抑制を図ります。 現在バイオ製剤には、抗IgE抗体、抗IL-5抗体、抗IL-5受容体抗体、抗IL-4/13 抗体、抗TSLP抗体があります。末梢血好酸球数やIgE RIST、呼気NO濃度などバイオマーカーを測定し、薬剤の選択を行ないます。薬によって、2週間ごと、1ヵ月ごと、2ヵ月ごとに注射を行ないます。 訪問看護でのポイント 治療薬のなかでいちばん重要なのは、吸入薬です。有効な吸入ができるように、かつ、吸入回数を遵守できるように援助してください。 また、急性増悪を早期発見し、早期介入する必要があります。コントローラーを使用中に喘鳴まで聴取するような状態は、早期発見できずに放置され、重症化した状態です。そうなる前に発見し(夜間・朝方の咳で)、介入しなければなりません。 上・下気道感染を生じると、喘息の急性増悪を起こしやすく、注意が必要です。花粉症の時期に喘息の急性増悪を起こすケースも多く、花粉症のコントロールとともに、喘息のコントロールをステップアップする必要があります。 訪問看護師のさらなる役割 ダニやハウスダスト、真菌など、喘息発作を起こすアレルゲンをなるべく減らす環境整備が重要です。 ● 掃除の回数を増やす ● カーペットやぬいぐるみを避ける ● ほこりやダニが発生しやすい布団には、ほこりやダニを通さないシーツをかぶせるなどが有効です。 寒冷刺激や運動により喘息発作が誘発される場合には、その前にSABAの吸入をすること、気道感染に十分注意することも重要です。医師と相談して急性増悪時のアクションプランを立て、あらかじめ処方して手持ち薬として備えておく必要があります。 トピックス 喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)など気道が狭くなる肺の疾患があると、呼吸機能低下や血流変化が生じ、心血管系のイベントが起こりやすいといえます。急性増悪が起こると気道が狭くなるため、急性増悪を起こさず、正常な呼吸機能を保って心血管リスクを減らす必要があります。 執筆:武知 由佳子医療法人社団愛友会いきいきクリニック 理事長/院長 編集:株式会社メディカ出版 【引用・参考】1) Kabata,H.et al.「Thymic stromal lymphopoietin induced corticosteroid resistance in natural helper cells during airway inflammation」Nat.Commun.4,2013,2675. doi:10.1038/ncomms3675.

COPD学び直し
COPD学び直し
特集
2023年7月4日
2023年7月4日

【在宅医が解説】「COPD」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は慢性閉塞性肺疾患(COPD)について、訪問看護師に求められる知識や注意点を、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 「COPD患者は、呼吸困難感で動けず、るいそう著明。苦しいことは強要せず、呼吸困難感を緩和し、傾聴・共感し、ACPを行ない、看取っていくのが最善」と思っていないでしょうか? 呼吸リハビリテーション(以下「呼吸リハ」)の効果を体験していない在宅チームが、残念ながら辿りがちな道です。在宅における多職種連携の包括的アプローチにより、COPDはV字回復が可能な疾患です。呼吸リハは、入院ではなく、日常生活の場でこそ行なうべきであり、行なわないのは、在宅チームの怠惰だと心得ていただきたいと思います。 COPDは気道の慢性的な閉塞による疾患 COPDとは、タバコの煙を長期に吸入することで、肺胞壁が壊れ(肺気腫)、気道には炎症が起こり、気道壁が肥厚し、気道分泌物が増える(慢性気管支炎)疾患です。 正常な肺では、肺胞壁の弾性線維が裏打ちして気道の形状を保てていたのが、肺胞壁の断裂で、呼気の途中で気道が虚脱(内腔がつぶれる)・閉塞。吐き出しきれずに貯留したガスで、気道の閉塞がさらに悪化するという悪循環が起こり、呼吸困難の最大の原因となります。まさに、慢性的に気道が閉塞している疾患です。また、疲弊した筋肉から炎症性サイトカインが出て、さらに肺や気道、全身に炎症を起こします。 筋力維持を図り、呼吸ケアで急性増悪を回避 治療方針は、生活の場で筋力維持を図りながら、多面的包括的呼吸ケアで急性増悪を回避することです。呼吸困難感を克服し、動き、筋肉を衰えさせないことが重要です。そのためには、薬物療法、リハビリと栄養療法は必要不可欠です。 呼吸困難感をとるために、気管支拡張薬の吸入、酸素療法・NPPV(非侵襲的陽圧換気)、心不全・心循環管理、呼吸理学療法、栄養療法、パニックコントロールなどを行ないます。これらは、病態疾患管理であると同時に、緩和ケア、心理社会的スピリチュアルケアにもなりえます。これらは在宅で行なわれます。 特に重要なのは、呼吸困難感のいちばんの原因となる動的肺過膨張(以下DHI;Dynamic hyper inflation)の予防です。呼吸状態は日内で変動しますが、セルフコントロール域を超えて過膨張が元に戻らなくなった状態が、急性増悪です。重症になればなるほど、セルフコントロール域が狭まり、ささいな要因(低気圧が近づく、不安、便秘、食後膨らんだ胃が横隔膜を挙上させるなど)で、頻呼吸になり急性増悪を起こします。気管支炎や心不全の増悪というエピソードがなくとも、急性増悪は起こりえます。 薬物療法のメインは気管支拡張薬です。コントローラー(長期管理薬)として、長時間作用型β2刺激薬(LABA)と、長時間作用型ムスカリニック受容体拮抗薬(LAMA)の吸入があり、労作前にDHI予防目的に投与する、短時間作用型β2刺激薬(SABA)や短時間作用型ムスカリニック受容体拮抗薬(SAMA)があります。 また、NPPVでは、吐き出されずに肺の中に残っているガスの圧(内因性PEEP)に相対する圧(カウンターPEEP)を、呼気圧(EPAP)として設定すると、肺内のガスを呼出させることができます。これは口すぼめ呼吸と同じ原理です。NPPVで、活動で生じた肺過膨張をリセットできれば、呼吸困難感の軽減にも役立ち、身体活動性を向上させることができます。 COPDに喘息が合併する場合は急性増悪を頻回に起こしやすく、喘息の管理をすることで、不可逆性と思われた気道閉塞が改善することもあります。 また、脈拍が速いことはそれだけで労作時の呼吸困難感につながるため、脈拍が速い場合にはβ1ブロッカーを併用することが、有効な運動療法を行なうためのコツだと考えています。 訪問看護でのポイント 日常生活での援助方針 日常生活のなかで呼吸困難感を生じる労作は(1)上肢を挙上する動作:洗髪や衣類の脱ぎ着、洗濯物を干す(2)上肢を反復させる動作:歯磨き、体を洗う(3)体幹を屈曲させる動作:靴下やズボンの着脱、足を洗う(4)息をこらえる動作:排便や、重い物を持ち上げる等が挙げられます。援助が必要であれば、ある程度の介入も検討しますが、なるべく患者が日常生活を営めるようにします。DHIの予防にSABAやSAMAをいつ吸ったらよいのかの指導も重要なポイントです。 在宅チームは点でのかかわりであり、急性増悪の徴候の早期発見が重要です。入浴時やデイサービスの送迎時などは、労作によって換気メカニクスの異常が早期に出やすいので、いつもと違うSpO2の低下や戻りの遅延、呼吸困難感の有無を、意識的に観察してください。 セルフマネジメントできるように援助する 急性増悪の予防にはセルフマネジメントも重要です。DHIの予防に自ら行なうべきことの指導(アクションプランニング)が大切です。 たとえば、低気圧が近づくとDHIを起こしやすく、労作前のSABAやSAMAのアシストユースの徹底、NPPVをいつもより長く行なう、などです。 また、患者がセルフモニタリングで症状の増悪に自ら気づけるよう、指導することも重要です。 ● 非活動時の体温、SpO2、脈拍、体重、喀痰の量・色、浮腫 ● いつもの活動時のBorg scale、SpO2、脈拍を患者が無理なく記録でき、かつ重要なポイントを患者ごとにアレンジしたセルフマネジメントシートを作成し、記録してもらいます。いつもと違うことに自分で気づくことができたか、アクションできたかも、訪問ごとに一緒に振り返ります。 訪問看護師のさらなる役割 医療チームに訪問PT・OT・栄養士がいない場合は、医師の指示のもと、訪問看護師が呼吸理学療法や栄養療法の知識を持ち、さまざまな教育や支援の担い手になる役割も求められます。 呼吸理学療法 DHIやSpO2低下が起こらないような、労作の工夫、呼吸法、酸素量の調整などを行ないます。 栄養療法 呼吸するだけで消費されるカロリー(呼吸仕事量)は700kcal/日で、これを基礎代謝量に追加摂取しなければ、体重が減っていきます。そこで、栄養学的な視点で食事内容をチェックし、高タンパク・高カロリー食を基本に、栄養補助食を追加するなど、必要カロリーが満たされるように工夫します。さらに心不全リスクがあれば、塩分管理も必要となります。 執筆:武知 由佳子医療法人社団愛友会いきいきクリニック 理事長/院長 編集:株式会社メディカ出版

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