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【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」
【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」
特集
2024年12月3日
2024年12月3日

【学会レポート】日本在宅看護学会 第14回学術集会「多様性がインフィニティ(∞)在宅看護」

2024年11月16・17日の2日間にわたり、「日本在宅看護学会 第14回学術集会」が対面・オンラインで開催されました。今回の学術集会長は、WyL株式会社/ウィル訪問看護ステーションの岩本 大希氏。訪問看護に携わる方々が数多く訪れ、「多様性」をテーマにした充実した学びと交流の場となりました。NsPace編集部が、本学術集会の模様をレポート形式でお届けします。 「多様性」をテーマに掲げる意味 本学術集会のテーマは「多様性」。外見や性別、障害の有無から、育ってきた環境や宗教の違いまで、さまざまな多様性が存在します。世界は急激に変化しており、近年は感染症パンデミックへの対応や在宅ホスピス・在宅救急の台頭も。ルールや制度がない中で日々試行錯誤しなければなりません。 岩本学術集会長は、訪問看護に携わる方々はすでに当たり前に多様性に向き合っていることを強調しました。その上で、そうした環境下で訪問看護を行っていることを改めて認識してほしい。また、制度の隙間に落ちてしまう人たちが必ず存在する中で、ルールがなくても切り拓く開拓精神やエナジーを感じてほしいというメッセージが語られました。 本学術集会では、「多様な服装/衣装でのご参加を歓迎いたします!」と事前にお知らせがあり、着物・ドレス等で参加している方や、法被姿の方も。座長として登壇していた「看護の日」キャラクターの「かんごちゃん」の姿もありました。(※許可をいただいて撮影しています。) ピックアップレポート 多くのプログラムがありましたが、一部のプログラムを編集部がピックアップしてレポートします。 『発達障害のある(かもしれない)看護職の理解と支援』 座長 鹿内あずさ氏、講師 川上ちひろ氏 訪問看護の現場で、看護師自身に発達障害がある、もしくはその可能性がある場合の支援方法について悩むケースがあります。すでに看護師の職に就いている方の場合は、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)のケースが多く、例えば「コミュニケーションのとりづらさ」「倫理観・道徳観の欠如」「容量の悪さ」といった課題に直面することも。川上氏によれば、発達障害がある方はワーキングメモリや実行機能に問題を抱えていることが多く、努力だけでは解決しないということ。また、これらの特性は「親の育て方が悪い」ことが原因ではないというメッセージが語られました。そのほか、メモの取り方、抽象的な質問への対応など、特性に基づいた具体的なサポートが必要であることも詳しく解説。学習者と教育者のよい関係を築くためには、教育者が「がんばりすぎない」ことが大切であることや、認知的徒弟制を取り入れて適切な難易度の課題を与えることがポイントとのこと。聴講者の方々は、語られるエピソードに共感し、対応法について真剣にメモを取る様子が見られました。利用者だけでなく、看護師側も多様な人たちが働ける環境づくりが求められています。 『多様なニーズを支える中堅スタッフへの教育支援 ~これからに必要な生涯学習支援~』 座長 佐藤直子氏、演者 佐藤直子氏、佐藤十美氏、藤野泰平氏、服部絵美氏 「新任訪問看護師」向けや「管理者」向け研修は数多くみられる一方で、中堅スタッフはあまりフォローされていない現状があります。何をもって「中堅」とするかの明確な定義はないそうですが、演者の方々が考える中堅スタッフ像はおおよそ同じ。「さまざまな状況の利用者にケアが実施できる」「事業所全体や地域についても考える力がある」ことが求められるとのことでした。各事業所の中堅向けの取り組みが紹介された後はディスカッションが行われ、「中堅スタッフになるきっかけ」「具体的なラダー評価の内容」「自己評価と管理者の評価が異なる場合の対応」などについて質問が挙がっていました。中堅スタッフの教育の重要性について多くの事業所が共感している様子で、会場からの質問は絶えず、活発に議論されていました。 『在宅看護のシミュレーション教育の可能性を考えてみませんか?』 織井優貴子氏、竹森志穂氏、金壽子氏 東京都では、定期巡回型サービスや看護小規模多機能型居宅介護(かんたき)の利用者数が急増しており、都民の投票で「いきいき・あんしん在宅療養サポート:訪問看護人材育成支援事業」という訪問看護師のアセスメント能力、実践力向上を目的とした事業が採択されました。その取り組みが紹介されたプログラムです。新任訪問看護師向けのシミュレーション教育が注目されている中、どのようにシミュレーション教育が行われているかが詳細に語られました。訪問バッグの中身や模擬在宅ルームに置かれている小物は、実際の訪問看護の現場を再現しており、高性能多機能人体型シミュレーターを使用して、フィジカルアセスメントや報告の方法まで学ぶことができます。会場では、教育機関の関係者から事例の選定方法や研修の進行についての質問も複数あり、他の地域でシミュレーション教育を行うきっかけにもなりそうです。 『能登半島地震での活動:DC-CATの立ち上げから現在までを通して』 座長 岩本大希氏、講師 山岸暁美氏 2024年1月1日に起きた能登半島地震および奥能登豪雨の被災地支援にあたっているDC-CAT(Disaster Community-Care Assistance Team)の活動や被災地の状況について共有されました。DC-CATは、災害直接死の4倍とされる「災害関連死」を阻止すべく活動しています。公的支援やケアが不足している中、行政やDMAT等とも協働しながら、健康相談ダイヤル(#7119機能を持つ電話相談)、医療・保健サービスにアクセスできない地域でオンライン診療を行うヘルスケアMaas事業も展開しています。被災地の方々の実際の声も交えながら活動内容や試行錯誤の経過が語られ、一次的にケアに入るだけでなく、支援が終わった後にどう地域内でケアを継続していくかを考えることの重要性や、被災地支援で見えた課題に対して政策提言した内容についても共有されました。会場の方々は熱心に耳を傾け、共感の声や「応援・協力したい」というコメントも挙がっていました。 学術集会長コメント 最後に、学術集会長 岩本氏のコメントをご紹介します。 本当に多くの方々に学術集会にご参加いただき、感謝の気持ちでいっぱいです。「多様性」がテーマということもあり、やりたい企画は数多くあったのですが、新鮮な切り口を意識しつつ日々の実践に根ざした内容も取り入れたいと考えながら絞り込んでいきました。結果として、多くの企画が立ち見になるほど盛況で、本当に嬉しく思っています。 ドレスコードも、参加しやすさと多様性を表現するためにカジュアルな服装を推奨しました。登壇者の先生方も率先して素敵な格好をしてくださり、非常に心強かったです。 なお、まだオンデマンド配信の学術集会は終わっておらず、2024年12月17日17時まで配信しています。ACPや教育、能登半島地震の被災地対応など大きな企画は特に見応えがありますし、オンデマンド限定のプログラムも数多くあります。対面で参加した方も参加されていない方も、期間内にできるだけ多くのプログラムを視聴していただけると嬉しいです。 >>オンデマンド配信はこちら(要登録)日本在宅看護学会第14回学術集会 * * * 本学術集会では、参加者の皆さまや登壇者の方々の数多くの笑顔が見られ、楽しそうな様子が印象的でした。また、2025年の第15回学術集会は、名古屋で開催されます。次の学会にも注目していきましょう。 取材・編集・執筆:NsPace編集部

【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」
【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」
特集
2024年9月24日
2024年9月24日

【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」

2024年7月20日・21日と2日間にわたり、幕張メッセ国際会議場(千葉県幕張市)にて「第6回 日本在宅医療連合学会大会」が開催されました。テーマは「在宅医療を紡ぐ」。大会長は、国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター 市川病院神経難病センターの萩野 美恵子氏です。NsPace(ナースペース)編集部が大会の模様をレポートします。 多数の参加型の企画に込められた思い 「在宅医療を紡ぐ」というテーマが掲げられた本大会では、サブテーマとして以下の7つも掲げられました。 ・「幸」(Well being/生活の質・人生の質(QOL)の向上)・「働」(Collaborative decision making /協働意思決定)・「含」(Inclusion of diverse values/多様な価値観の包含)・「継」(sustainability/持続可能性)・「繋」(interdisciplinary team collaboration/多職種連携)・「楽」(enjoy your life/快) 多様性やジェンダーバランスに工夫されているほか、「聞く」講演だけではなく、ミュージカルや映像を「見て」、ワークショップや認知症カフェなどで「体験して」、参加者がさまざまな視点で楽しく参加しながら学べるプログラムを多数開催。 多職種がディスカッションする場面も多く見られ、在宅医療に携わる人たちが互いに知見を共有し、在宅医療の未来を見つめ交流する場となっていました。 参加型・体験型プログラム 多職種との交流を実現した参加型・体験型プログラムを一部紹介します。 ワークショップ「在宅における看取り時の立ち振る舞いについて考えませんか?」 座長:大屋 清文氏(ピースホームケアクリニック京都) 4~5名でグループを作り、医師、訪問看護師、利用者、家族などの役割を演じながら、看取りの場面における対応や立ち居振る舞いについてシミュレーションする企画。座長の大屋氏は、「看取り時の立ち居振る舞いについて、正解というものはない。答えではなく問いを持ち帰っていただきたい」と話されました。シミュレーション後のディスカッションでは、「この場面に『お疲れ様でした』という言葉はそぐわないのでは」「医師はご遺体にそのようには触れないのでは」といった臨場感のあるやり取りも。また、「普段とは異なる職種や家族役をやることで学びがあった」「医師・看護師ともにワークショップに参加しており、普段臨床の場では聞けない医師の本音も聞けた」といった感想が聞かれました。 虹色のcafé 「未来みらい」 カフェオーナー:川口 美喜子氏(札幌保健医療大学)カフェ共同オーナー:Lintos café(リントスカフェ)、まあいいかlaboきようと(平井 万紀子氏) 学会期間限定でオープンした虹色のcafé 「未来みらい」では、東京栄和会なぎさ和楽苑、社会福祉法人おあしす福祉会オアシス・プラスの方々など、障害のある方や認知症の方がスタッフとして活躍されていました。またこのカフェでは本格的なお菓子が楽しめるだけでなく、川口氏とLintos caféのバリスタ、とろみ剤の企業、歯科医師が約1年かけて共同で考案したとろみがついたおいしいコーヒーを味わうことができました。摂食嚥下障害がある方でも安全に楽しめるこのコーヒーは、飲みやすさとおいしさを両立。食べる歓びを実感できる機会となったこのカフェは、大変な賑わいを見せていました。また、認知症の方や障害を持っている方の「自分の街で当たり前の暮らしがしたい」「社会で活躍したい」という望みの実現のために必要なことについて考える貴重な機会となりました。 みんなで孤立をなくせ!!超高齢社会体験ゲームコミュニティコーピング体験会 一般財団法人コレカラ・サポートによって開発された、人と地域資源とを繋げることで社会的孤立を無くすための協力型ゲーム「コミュニティコーピング」の体験会が行われました。ゲームを通して、人と地域とを繋げる役割は、専門職だけでなく一般の人でも担えることがわかりました。 参加者からは「社会的孤立とはどのような状態なのか理解できた」「話を聞くだけで解決できる課題もあれば、専門家の助言が必要な課題もあり、地域にはさまざまな課題を抱える人が溢れているのだなと実感した」「自分にできることからやっていこうと思った」といった声が聞かれました。 在宅ケア体験フェスタ 神経・筋疾患の利用者さんを想定した呼吸リハビリテーション体験会では、2名1組となり、アンビューバッグや呼吸リハビリ機器を用いた吸気介助を実施する側と、利用者側の両方を体験しました。参加者からは「呼吸療法認定士の資格を持っているが、神経・筋疾患の利用者さんのための吸気介助は行ったことがなかったため勉強になった。今後取り入れたいと思った」「自分のやり方に軌道修正が必要なことに気付いた」といった声が聞かれました。 排尿支援の体験会には、複数のメーカーの導尿キットや超音波機器、膀胱留置カテーテルが用意されていました。それらの物品や機器を実際に手に取り、具体的な使用方法について知ることができました。訪問診療に携わっている看護師さんは「さまざまな物品に触れ、実際に体験や比較をできたことでメーカーごとの特徴について理解でき、今後もし自己導尿が必要になった利用者さんに出会ったら適切なアドバイスができそう」と話されていました。 ミュージカルや映画、映像を「見て」学ぶ シンポジウムについても、映画やミュージカルが取り入れられるなど、多種多様な伝え方のプログラムが並びました。 ミュージカル「きみのいのち ぼくの時間」 座長:中村 明澄氏(向日葵クリニック/NPO法人キャトル・リーフ)   堤 円香氏(メディカルホームKuKuru/NPO法人キャトル・リーフ) ミュージカル「きみのいのち ぼくの時間」が上演されました。NPO法人キャトル・リーフは2001年に創立以降、約20年にわたって病院や特別支援学校、高齢者福祉施設等でミュージカル活動を実施している団体です。「きみのいのち ぼくの時間」は、ミツバチのハチ子と、ハチ子に恋をしたカエルが主人公のお話。ミツバチの命はカエルに比べてとても短いため、二人の恋は女王蜂に反対されてしまいます。なんとか障壁を乗り越えますが、突然の嵐がやってきて…というストーリー。命にまつわるメッセージが多く込められており、会場には涙している人も。終了後はミュージカルの中で印象的だったシーンや言葉についてのディスカッションも行われました。 映像・講演「進行肺がんの息子に伴走した2年半を振り返って」 座長:荻野 美恵子氏(国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター国際医療者教育学/国際医療福祉大学医学部脳神経内科学)   田上 恵太氏(医療法人社団 悠翔会 くらしケアクリニック練馬)演者:関本 雅子氏(かえでホームケアクリニック) 関本 雅子氏は緩和ケア医であり、そして同じく緩和ケア医で息子の関本 剛氏をがんで亡くした母でもあります。会場では、剛氏の生前の講演やラストメッセージの動画が映し出されました。雅子氏の講演では、剛氏が残された時間をどのように過ごすことに決めたのか、メディアに出たことによる反応、剛氏の最期について、緩和ケア医と母のそれぞれの立場で後悔したことや学んだこと、救われたことなどが語られました。 訪問看護の魅力も次世代に紡ぐ 副大会長 高砂 裕子氏(一般社団法人南区医師会在宅事業部・南区医師会訪問看護ステーション 管理者)のコメントもご紹介します。 多くの方にご来場いただき、大変嬉しく思っております。本大会は、専門職だけでなく、また医師のみならず看護師や介護士をはじめとする多職種の方にも参加いただけたらという思いで企画しました。単に「ご参加ください」というだけではなく、例えば介護職の方々におすすめのプログラムには、プログラム表に「★」の印を記載するなど、実際に参加していただきやすいような創意工夫も行っています。体験型プログラムを組み込むことで、さまざまな職種の方と出会い、より楽しく過ごしていただける大会になったのではないでしょうか。私自身、30年間訪問看護師として利用者さんに寄り添い、身近なところで生活を意思決定支援する訪問看護は、とてもやりがいがある仕事だと思っています。それをぜひ次世代の人たちに紡ぎたいと思っています。2025年問題、2040年問題を前にした今、訪問看護ステーションの大規模化も推進しています。それぞれの訪問看護ステーションが、そして訪問看護師が、自身が目指す訪問看護を実現してもらえたら幸いです。 * * * 本大会では、在宅医療に携わるさまざまな職種の方々の「出会い」がありました。参加者同士が交流し、思いを伝え合い、いろいろな視点や立場から在宅医療の現状や展望について考える時間となりました。このような関わりこそが「在宅医療を紡ぐ」ことなのだと、気付きがたくさんあった大会でした。次回、来年6月に開催予定の第7回日本在宅医療連合学会大会「在宅医療の未来を語ろう。〜2025年問題に向き合い、2040年に備える〜長崎から全国へ」にも注目していきましょう。 取材・編集:NsPace編集部執筆:佐野 美和

高齢者虐待防止 法定研修会in山形 イベントレポート
高齢者虐待防止 法定研修会in山形 イベントレポート
特集
2024年9月10日
2024年9月10日

高齢者虐待防止 法定研修会in山形 イベントレポート【7月24日開催】

介護保険法上、指定訪問看護ステーションが必ず実施しなければならない法定研修。事業所が適切な運営を行うために欠かせない研修ですが、実施方法に課題を抱える事業所が多い現実があります。 そこで、山形県看護協会・山形県訪問看護総合支援センター・山形県訪問看護ステーション連絡協議会は、帝人株式会社と共催で山形県下の2次医療圏ごとに訪問看護事業所向けの法定研修会を企画。山形県内4エリアを巡業しながら、現地開催+オンライン配信のハイブリッド形式で研修(全4回)を実施することとなりました。今回は、第1弾の高齢者虐待防止にまつわる法定研修会の模様をご紹介します。 座学+症例検討会を実施 2024年7月24日(水)の法定研修会は、山形県の訪問看護ステーションに勤務されている方を対象に、訪問看護会館(山形県 村山地区)にて開催されました。講師として山形県看護協会「訪問看護ステーションやまがた」の所長を務める山川一枝さんが登壇し、現地会場に27名、オンライン会場に48名、計75名の参加者が集いました。研修会の流れと目的は以下の通りです。 座学では、「高齢者虐待をよく知ろう」と題し、事業所が高齢者虐待を防止し、早期発見と適切な対応を行うための5つの規定(委員会の設置、指針の整備、従事者の研修など)について解説。また、高齢者虐待防止法に基づく虐待の分類(身体的・心理的・性的・経済的・ネグレクト)や、それぞれの深刻度1~4(虐待の程度)についても理解を深めました。参加者の皆さんは、一様に真剣な表情で講義を受けていました。 座学の後は、虐待の兆候を察知し、「チーム全体で虐待のリスク要因を判断する」というプロセスを体験するため、現地参加者とオンライン参加者がそれぞれグループに分かれて症例検討会を行いました。 症例検討会・グループディスカッションの様子 症例検討会では、虐待が発生する社会背景や虐待者側の要因などについて、さまざまな可能性を考えながら真剣に意見を交わす様子がみられました。虐待を通報する基準についての質問も挙がり、より実践的な学びを深めている様子が印象的でした。最後に全体の振り返りをし、高齢者虐待防止にまつわる研修会は終了。参加者にはオリジナルの受講証明書も渡されました。 負担軽減とリーダーシップ育成に繋がる 今回の研修会について、山形県看護協会の菅野理事や講師の山川氏、参加者の皆さんからのコメントもご紹介します。 ◆菅野 弘美氏山形県看護協会 常任理事(2021年6月~)山形県訪問看護総合支援センター長(2024年4月~) 当訪問看護総合支援センターでは、これまで多くの技術研修・管理者研修等を行ってきましたが、法定研修については各事業所にお任せしていました。しかし、訪問看護事業所の管理者の皆様にお話を伺う中で、法定研修の負担の大きさは認識していましたので、県内の訪問看護事業所が合同で法定研修を実施できれば、各事業所の負担軽減に貢献できると考えたんです。実際に管理者の皆様からも喜びの声が届いています。在宅医療は横との連携が重要で、私たちも日頃から地域の訪問看護事業所の管理者の集まり(ブロック会議)を開催したり、チャットを通じてコミュニケーションを取り合ったりしています。今回も研修とブロック会議をセットで開催しており、こうした機会を通じて横のつながりも深めていっていただければと考えてます。また、今回の研修の講師は4回とも山形県内の方に依頼しました。こうしたご登壇の機会を通じて、地域内でリーダーシップを発揮する人材の育成にも繋がればと考えています。 ◆山川 一枝氏山形県看護協会 訪問看護ステーションやまがた 所長訪問看護23年目。訪問看護に関する講演多数 今回講師を担当させていただいた「高齢者虐待防止」は大変難しいテーマで、一概に「ここからが虐待」と線引きしづらく、マニュアルどおりにいかないことも多いものです。だからこそ、兆候察知からリスク要因まで、ケアマネジャーを含むチームで共通認識を持ち、迅速に対応できるような体制をつくっておくことが重要だと思います。今回の講義やディスカッション等を通じて得た知識や気づきを、各チームに持ち帰っていただければ幸いです。また、私も訪問看護事業所の管理者をしていますが、法定研修は代表者が外部の研修に参加する際の費用や訪問スケジュールの調整、事業所内で研修を実施する際の準備等の負担があります。そもそもニーズに合った外部研修をみつけられず、困ることもありました。「みんなが実施しなければいけないなら、合同でできればいいのに」と思っていたので、今回の研修のお話は本当に助かりました。講師用の投影資料や台本もあるため、多少のアレンジは加えたもののほとんど準備がいらず、負担が少なく済みました。 ◆参加者の皆さんからのコメント 「法定研修の実施が決まり、対応に悩んでいた時に山形県看護協会から案内があり参加しました。事業所を少数で運営しており、研修日程の調整も難しいため、こうした企画はとても助かりました」「貴重な機会で、資料もわかりやすいので本当にありがたいです。発表者用の資料やスライド集もあるので、これを使ってスタッフ向けに研修を行います」「迅速にチームに情報共有をする重要さ、虐待者の背景にも目を向けてリスクを減らしていくことの大切さを改めて認識しました」「高齢者虐待防止には、社会環境、家族、虐待者側、被虐待者側などと多方向の要因からアプローチしていく必要があることを再確認できました。深刻度や具体例の資料が特に参考になりました。ここで得た知識をふまえて、兆候を見逃さずに対応していきたいです」 * * * 今回は、山形県内の看護協会、訪問看護総合支援センター、訪問看護ステーション連絡協議会と企業とが連携して法定研修会を実施したことで、各事業所の負担軽減につながった取り組みをご紹介しました。人手不足に苦しむ訪問看護事業所が多い中、今後ますますこうした効率化が重要になるでしょう。地域で連携する際の事例として参考にしていただければ幸いです。 ※本記事は、2024年7月24日(水)時点の情報をもとに制作しています。 取材・編集:NsPace編集部執筆:高橋 佳代子

NPPV療法 Q&A/治療継続のポイント、治療中の観察、トラブル対応 サムネイル
NPPV療法 Q&A/治療継続のポイント、治療中の観察、トラブル対応 サムネイル
特集 会員限定
2024年7月30日
2024年7月30日

NPPV療法 Q&A/治療継続のポイント、治療中の観察、トラブル対応

在宅NPPV(非侵襲的陽圧換気)療法を行う患者さんは、病院で学んだNPPVを生活に取り入れようと一生懸命です。しかし、NPPVを行う夜間に医療従事者は不在のため、さまざまな不都合や困難に遭遇したときに対応できず、アドヒアランスが低下することが少なくありません。患者さんが在宅でアドヒアランスを維持し、効果的にNPPVを継続していくために必要な看護をQ&A形式でお伝えします。 Q1 患者さんが在宅NPPV療法を継続するために、医療者にはどのような支援が求められますか? A 患者さんとのパートナーシップの構築と、自己効力感を高め、アドヒアランスの維持・向上につながる支援が求められます患者さんが在宅NPPV療法を継続するためには、アドヒアランスの維持とセルフマネジメント能力が不可欠です。医療者は、患者さんにとってNPPVを生活に取り入れることがいかに大きな課題であるかを理解する必要があります。その上で、パートナーシップを構築させながら、心から応援する思いでアドヒアランス、セルフマネジメント能力を高める支援をしていくことが重要です。 パートナーシップの構築 患者さんのNPPVへの思いや不都合などの体験を傾聴・共感します。また、効果的なNPPVを実施できるように共に考え、問題に迅速に対応する姿勢で伴走します。 自己効力感を高め、アドヒアランスの維持・向上への支援 患者さんにNPPVがどういった治療法であるかをわかりやすく説明しましょう。例えば、「NPPVはマスクを通して空気を送り、呼吸を楽にする画期的な素晴らしい器械です」と息を楽にする器械であることを強調します。 さらに、患者さん個々におけるNPPVの必要性、期待される効果とその機序を説明しましょう。例えば、料理が好きなCOPD患者さんには、胸鎖乳突筋に触れながら「働きすぎて疲れているこの筋肉を休めながら、二酸化炭素を減らすことができる唯一の器械です。息切れが軽くなって好きな料理を作っている方がおられます。あなたも作ることができますよ」と望む生活と結び付けてほかの患者さんのことを伝えます。そうすることによって、患者さんはNPPVをポジティブに捉えられるとともに自己効力感が向上します(代理的経験)。 また、短時間でもNPPVを継続したり、リークが少なかったりといったできていることを称賛し、頑張りを称えましょう(成功体験、言語的説得)。頭痛や頭重感などの自覚症状の軽減があれば、それはNPPVの効果であると伝えて症状の軽減を実感してもらいます(情動的状態)。こうしたかかわりの中で患者さんの自己効力感が向上し、アドヒアランスおよびセルフマネジメント能力の維持・向上につながるだけでなく、患者さんとのパートナーシップが強化されます。 Q2 NPPV患者さんの観察の視点とアセスメントのポイントは何ですか? A 患者さんの訴えを丁寧に聴き取り、治療履歴データやログデータといった客観的情報を活用し、患者さんの呼吸状態を把握することが大切です 患者さんの訴え(主観的情報)を聴き取る 夜間のNPPV実施中の患者さんを観察できない訪問看護師にとって、患者さんの主観的情報は、増悪徴候の早期発見だけでなく、NPPVが効果的にできているか、至適設定であるかを評価するために重要です1)。 息切れの増強、SpO2の低下、頭重感・眠気などの高二酸化炭素血症の症状、NPPVの継続時間や同調性、リークの状況、マスクの不快感、中途覚醒の有無などを丁寧に聴き取りましょう。安静時にSpO2が普段より低く、息切れが強い場合は、CO2が上昇していることもあります。安易に酸素流量を上げるのではなく、NPPVを施行し医師に連絡しましょう。 機器との同調性について患者さんはどのように違和感があるのか表現できないことがあります。そのため「息を吸っているのに入らないのか?」「息を吐きたいのに空気が入ってくることがあるのか?」など具体的に尋ねます(表1)。また、患者さんに「あなたの主観的情報が至適設定につながる」という重要性を説明することで、治療への積極的な参画意識が芽生えてくるようになります。 表1 主観的情報から考えられる原因と対処方法 文献2)を参考に作成 客観的情報から呼吸状態を把握 夜間に問題となる気道閉塞や無呼吸、リーク状況は、機器の治療履歴データを見るとよいでしょう(図1)。 図1 治療履歴データの例 画像提供:帝人ファーマ株式会社 患者さんはリーク量でNPPVが効果的にできているかを判断することが多くあります。そのため、治療履歴データを提示しながら、患者さんとともに評価し、リークが少ない時は称え、ともに喜び、リークが多い時は、観察ができていることを称えた上で対策をともに考えます。これは自己効力感・自己コントロール感・パートナーシップの向上につながり、NPPVを在宅で継続するための大きな力となります3)。 また、可能であれば、医師に気になる状況を伝え、データマネジメントツール(ログデータ)の活用を依頼するのもよいでしょう(図2)。ログデータは、見えないNPPV実施状況を詳細に可視化するため、患者さんの呼吸状態を把握するのに有効です。 その他の客観的情報については表2に示します。 図2 ログデータの例 表2 客観的情報の観察項目 Q3 NPPV実施中によく起こるトラブルは何ですか? また、具体的な対処方法を教えてください A 皮膚トラブルの頻度が高く、医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)の予防が欠かせません。トラブルの予防と早期対応はNPPVの継続にとって必須です NPPVの合併症を表3に示します。ご覧のように皮膚に関連する合併症が多く発生していることが分かります。 表3 NPPVの合併症 文献4)を参考に作成 医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)の予防と対処方法とは 皮膚トラブルの頻度は高く、アドヒアランスの低下につながるため、トラブルの予防と早期対処が重要です(表4)。マスクによる圧迫は、医療関連機器圧迫創傷(medical device related pressure ulcer:MDRPU)の危険因子といわれています。 予防における必須事項は、適切なマスクサイズとヘッドギアを用いて、マスクフィッティングの基本を遵守すること、ゆるくかつリークが少ないフィッティングです。 発赤ができたときは、マスクフィッティングの状況をチェックするとともに、発赤の原因を探り、マスクの種類、サイズ、固定方法を検討します。鼻根部の発赤の場合、マスクのタイプをOTM(Over-the-Nose)からUTM(Under-the-Nose)に変更するのもよいでしょう。 創傷に至ってしまった場合は、ハイドロコロイドやポリウレタンフォームなどの創傷被覆材を使用します。陽圧が高い場合は、やむを得ずストラップをややきつめに締めることがあります。鼻根部などに発赤を認めたら皮膚保護材や専用パッドなどで保護しましょう(図3)。 表4 在宅NPPV実施中に起こる皮膚トラブルとその対処方法 文献5)を参考に作成 図3 専用パッドの例 画像提供:レスメド株式会社鼻梁にパッドを乗せ、マスクを装着する。取り外しや再利用が可能 Q4 リークが出現したらどうすればよいですか? A リークはさまざまな原因によって出現します。原因を丁寧に探り、ベルトやアームを微調整したり、マスクのサイズ変更を検討したりするなど、個別に対処する必要があります リーク出現時は、すぐにヘッドギアを締めるのではなく、リークの原因を探り対処します。マスク鼻根部のシリコンにしわがなく膨らんだ状態になっているか、マスクの位置が適切かなど、基本通りにマスクフィッティングができているか確認し調整します。MDRPU予防として、先に皮膚保護材を使用する必要はありません。 リークが出現する場所によっても対応が異なります。リークの種類と対処方法の具体例を示します。また、リーク対策の工夫例も図4で紹介します。ぜひ参考にしてください。 マスク上部からのリーク:眼球の乾燥をきたすため、リークを消失させることが大切です。ヘッドギアやアームで調整します。痩せや義歯除去による頬側のリーク:頬の肉をタオルやガーゼなどでマスク側に寄せて隙間を無くします。開口リーク:チンストラップや口元にテープを貼り、マスクがずれるほど大きく開口しないようにしてもらいます。チンストラップはずれやすいため、ストラップに縫製するとよいでしょう。気道閉塞がある場合:枕を低くする、あるいは側臥位を可能な範囲でとっていただきます。マスクの劣化:マスクのシリコン部が劣化することで、クッション性が失われます。また、ストラップの劣化によりゆるみが生じます。患者さんの体型の変化:頬が痩せることでマスクサイズが合わなくなるとリークが生じます。適宜マスクやヘッドギアが患者さんに合っているか確認し、必要に応じてサイズや種類の変更も検討します。マスクのずれ:頭頂部にベルトがないマスクの場合、ヘッドギアにもう1本ベルトを追加し、ずれないように調整します。 図4 リーク対策の工夫例 陽圧換気に伴う合併症にも注意 口渇や高い陽圧に伴う呑気による腹部膨満などの合併症が生じることがあります。口渇は不快だけでなく去痰困難に影響するため、加湿を強めたり、飲水、含嗽を促したりします。人工唾液は乾燥や違和感を生じることがあるため慎重に検討します。腹部膨満感の影響として、腹部不快や嘔吐、食欲低下をきたすため、IPAPを下げる設定変更やガスを排出しやすくする薬の相談、便秘をしないように排便のコントロールを行います。 Q5 アラームが患者さんやご家族の不安を高めてしまうことも。在宅でのアラーム設定はどうすればよいですか? A 在宅でのアラーム設定は必要最低限とし、訪問時に治療履歴でアラーム履歴を確認しましょう アラームにはさまざまなものがありますが、在宅では、表5に示したアラームを最低限設定しておくのがよいでしょう。さらに減らすことも可能ですが、アラームの状況を医師に報告して変更していただきましょう。 表5 主なアラームの原因と対処方法 文献6)を参考に作成※NIP ネーザルは、レスメド株式会社の商標登録です。   監修・執筆:竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長慢性疾患看護専門看護師監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長編集:株式会社照林社 【参考文献】1)竹川幸恵.「慢性期NPPVの継続看護」.みんなの呼吸器 Respica 2019:夏季増刊;205-210.2)竹川幸恵.「慢性期導入患者のモニタリングポイント」.呼吸器ケア 2014:冬季増刊;181.3)竹川幸恵ほか.「呼吸器看護専門外来における在宅NPPV患者に対する機器モニタリング活用の有用性」.日呼吸ケアリハ会誌 2015:25(3);482-487.4)Mehta S,Hill NS. Noninvasive ventilation.AM J Respir Crit Care Med 2001; 163:540-577.5)藤原美紀.「急性期NPPVのケア(ストレス緩和)」.みんなの呼吸器Respica 2023:20(6);40-47.6)小山昌利.「在宅用機器のアラーム対応と設定」.みんなの呼吸器Respica 2019:夏季増刊号;193-198.

大規模事業所の人材マネジメント
大規模事業所の人材マネジメント
インタビュー
2024年7月2日
2024年7月2日

大規模事業所の人材マネジメント~次世代に繫ぐために~

兵庫県の西宮市訪問看護センターの管理者を長年務めた山﨑 和代さんへのインタビュー記事を、3回に渡ってご紹介。最終回は、大規模事業所の人材マネジメントや新たなチャレンジなどを伺いました。 >>これまでの記事はこちら訪問看護師は政策・制度検討の場に参画を~訪問看護のパイオニアとして~阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~ 山﨑 和代(やまさき かずよ)さん保健師・看護師・養護教諭1級、経営学修士、日本看護協会認定看護管理者。大阪医科大学付属病院を経て、1995年に西宮市社会福祉事業団に入団。2001年~2024年3月まで西宮市訪問看護センターで管理者を務め、2024年4月に「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」を起業。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長、兵庫県 訪問看護師・訪問介護員離職防止対策検討会議委員、兵庫県 訪問看護推進会議委員。 規模ありきでなく、成長の結果としての規模 ─西宮市訪問看護センターでは当初から大規模化を目指していたのでしょうか? いえ、最初から規模を大きくしようとしてしたわけではありません。地域のニーズに対して、スタッフが真摯にスピーディに応じてくれて、人の入れ替わりがありつつも、新たに仲間になってくれるスタッフが途切れなかったことで、結果的に大規模化につながりました。 これまで理念を掲げて長年突っ走ってきましたが、スタッフのみんなが理念を理解して、良質なサービスを提供しようと大変な努力をしながらやってきてくれました。本当に感謝しています。 ─採用に苦しんでいる事業所も多いと思いますが、西宮市訪問看護センターではどんな取り組みをされていたのでしょうか。 ホームページ、ナースセンター、ハローワークを活用しており、「訪問看護ブログ」を過去に掲載していました。ブログをご覧になった方からお問い合わせいただくケースが多かったですね。 また、西宮市訪問看護センターでは兵庫県で初めて新卒採用を行い、2023年度末までに6名を採用しています。新卒採用をきっかけに、「新卒を受け入れているなら、経験年数が短くても受け入れてもらえるのでは」という思考が働いたようで、副次的に既卒の20~30代の看護師確保もしやすくなりました。若手が増えたことで、ステーションの長期的な継続を見据えた準備ができるようにもなりました。 ─大規模な事業所の管理者に求められることを教えてください。 地域や制度の動向を見据えて組織をデザインし、どのように経営・運営するかを決めて実践していく。大規模事業所の管理者には、こうしたスキルやセンスが求められると思います。 また、リソース配分も重要です。常によりよい方法を模索していますが、例えば事務員に新規契約や連携における書類作成、簡便な連絡などを担ってもらい、管理職の負担軽減をするなど、今いる人員でいかに効率的に運営していくかということを考えています。 事業費の約1%はスタッフ教育へ ─次世代の育成にも大変力を入れていらっしゃると思います。具体的にどのようなことをされているか教えてください。 はい。スタッフの教育は良質なサービスを提供するにあたって欠かせませんので、事業費の約1%は研修教育費として使っています。例えば、月1回業務時間内に行っている集合研修、ポータブルエコーの購入、ウェブコンテンツの契約更新、特定行為研修への2名(年間)の派遣などに充てています。 チームリーダー業務を通じて次世代のリーダーも育成しています。次の管理者については、日本看護協会の認定看護管理者課程のファースト、セカンドレベルを済ませ、2024年度にサードレベルを受けて春に認定看護管理者の試験を受けることになっています。とても心強く、なにも心配していません。 傾聴を通じて知った今後の課題 ─人数が多い事業所ではコミュニケーションが課題になることも多いと思います。前回、情報共有アプリでのコミュニケーションのお話もありましたが、普段心がけていることを教えてください。 「傾聴」に力を入れています。実は、私は以前もっとも信頼していたスタッフをバイク事故で亡くした経験があります。この件に関しては私が一番精神的にダメージを受けて、みんなに支えてもらいました。そのことがきっかけで、メンタルケアをしてくれるカウンセラーの先生を探したという経緯があります。 その先生に、「山﨑さんの目指す事業所運営には傾聴が必要」と教えていただいたんです。傾聴というと、「ただ耳を傾けて聴く」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、実は高度なテクニック。スタッフとともにグループ講座を受講したところ、いかに自分たちに足りていない能力だったかを実感しました。 特に多かった例は、「この人はこう考えるに違いない」と決めつけ、思い込んでしまう「ブロッキング」。つまり、先入観ですね。傾聴とは、自分の先入観を認識し、それを打ち消し、相手の話を芯から理解しようとすることなんです。 また、相手の言葉をそのまま返す「ミラーリング」という手法を実践してみて、その効果がよくわかりました。実際にミラーリングをしてもらうと、「この人、私のことをわかってくれているんだな」と感じるんです。翻って、普段私を含む管理職たちはアドバイスばかりしていたことに気付きました。 傾聴のスキルは、スタッフ同士はもちろん、利用者さんや自分の家族とのやりとりにも活かせます。自身の在り方を振り返り、ラクになることを実感しました。ただし、ちょっとトレーニングしただけではこれまで染みついたやり方はなかなか抜けません。すぐに思い込みや独りよがりで話してしまいますし、よかれと思ってアドバイスしてしまうんです。折に触れてお互いに確認し合い、気を付けなければ、と思っています。 次世代にバトンを渡し、新たな挑戦へ ─山﨑さんは、2024年4月より新たに訪問看護ステーションを立ち上げるとのことですが、立ち上げ経緯を教えてください。 想いを引き継いでくれる後進も育ったことですし、新たなチャレンジをしたいと思ったのがきっかけです。いざ準備を始めてみたら、やりたいことがいっぱい出てきて、絞るのに苦労するくらいでした。会社名は、「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」。訪問看護師だけでなく、ヘルパー、ケアマネジャーなど、「担う人」すべてを応援したいという気持ちで名付けました。 担い手は誰しも他人には真摯に向き合うのに、自分自身のケアはおろそかになりがちです。そうした人たちに「また明日からがんばろう」と前向きになってもらいたいので、訪問看護をはじめとした「受ける人」向けのサービスだけではなく、「担う人」向けの講座や相談・支援、リラクゼーションも用意しています。 長年の訪問看護ステーション運営で培ったノウハウを活かし、訪問看護のみならず介護事業の運営や経営で困っている人の相談支援や、ライフワークである暴力ハラスメント対策の研修も、より充実させていきたいと思っています。 2024年3月末に行われた送別会でのひとコマ。左の画像は、管理者を引き継いだ吉田さんとのツーショット。右の画像は趣味のヴァイオリンを披露する山﨑さん ─訪問看護ステーションではどのような取り組みをされるのでしょうか。 訪問看護ステーション(足とリンパとおなかの悩み訪問看護)は、通常の訪問看護はもちろん、それに付随してフットケアとリンパ浮腫のケアやそれに関連する処置。そして、浣腸摘便ではなく腸内環境や生活習慣に着目して排便コントロールをしていきたい方に向けた支援をします。これまでなかなか解決が難しい分野だと感じてきたからこそ、チャレンジしたいと思っています。 訪問看護が好きだからこそ、改革を続けていく ─訪問看護師として数多くの改革に取り組んでこられましたが、何がモチベーションになっているのでしょうか。 何でしょう…。「訪問看護が大好き」というのも大きいと思いますし、私が勝ち気だからかもしれません(笑)。 ─今後の訪問看護がどうなっていくべきか、お考えをお聞かせください。 「訪問看護でできること」の認知度を、もっと上げなければいけないと考えています。 本来であれば在宅療養開始に向けて、アセスメントシートを作成して医療機関とケアマネジャーが協議する時点で、「訪問看護」によるアプローチを始められるといいのですが、それができていないことは課題だと思います。訪問看護師が医療と生活の視点でその人の状態を評価し、退院直後に集中して支援できれば、当面の療養生活の見通しが立ち、救急搬送のリスクも低減させることができます。また、そのタイミングで訪問看護師の介入があると、ケアマネジャーと医療機関、双方にメリットがあると思います。 西宮市訪問看護センターでは、急性期病院の地域医療連携部署と一緒に病棟のカンファレンスに参加していますが、そうしたしくみが全国的に広がり、きちんと評価されるようになれば、医療・介護の連携が進み、病院と在宅の垣根が低くなっていくと思います。なにより利用者さんに大きなメリットがあるのではないでしょうか。 ─本当に学びの多いお話をありがとうございました。最後に、看護職の皆さまへのメッセージをお願いします。 もし訪問看護をやるかどうか迷っている人がいたら、魅力ある仕事なのでまずは飛び込んで経験してほしいと思います。また、看看連携はインセンティブがあまりつきませんが、支援の要です! 気軽に病院と訪問看護ステーションが話せる場を一緒につくってほしいです。 ─ありがとうございました! ※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに記載しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~
阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~
インタビュー
2024年6月25日
2024年6月25日

阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~

西宮市訪問看護センターはエリア内で最も長く地域を支え、幅広い取り組みを実施されてきたセンター。災害関連でも、阪神・淡路大震災での訪問看護を経験しているほか、新型コロナ感染症陽性者の支援のしくみづくりにも貢献。今回は、災害対策にも精通している山﨑 和代さんに、災害時の対応やICT化問題にいち早く取り組み、電子カルテや情報共有アプリを導入した際のお話などを伺いました。 >>前回の記事はこちら訪問看護師は政策・制度検討の場に参画を~訪問看護のパイオニアとして~ 山﨑 和代(やまさき かずよ)さん保健師・看護師・養護教諭1級、経営学修士、日本看護協会認定看護管理者。大阪医科大学付属病院を経て、1995年に西宮市社会福祉事業団に入団。2001年~2024年3月まで西宮市訪問看護センターで管理者を務め、2024年4月に「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」を起業。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長、兵庫県 訪問看護師・訪問介護員離職防止対策検討会議委員、兵庫県 訪問看護推進会議委員。 震災を経て感じた訪問看護「終結」の重要性 ─西宮市訪問看護センターでは、1995年の阪神・淡路大震災時の訪問看護を経験され、その経験を活かして行政と連携しながら災害対策体制の構築をされたということでした。ステーション内での災害対策についても教えてください。 西宮市訪問看護センターの中で、阪神・淡路大震災のときに訪問看護をしていたメンバーは私のみになりましたが、当時、「訪問看護に行きたくても、行けない」という経験をしました。あの経験を通じて、利用者さんから「全面的に頼っていただく」サービスの限界を知ったように思います。 何かあったときに、我々が利用者さんのもとに行けないこともある。だからこそ、最終的には利用者さんがセルフケアを行えるようなサポートが「住み慣れた場所で最期まで過ごせる地域づくり」に繋がると強く思いました。病気を知る、背景を知る、ナラティブ(その人の物語)を知る。その上で適切にアセスメントし、セルフケアをしていただけるよう、「訪問看護の終結」を見据えてケアすることが、利用者さんのためでもあり、限られた訪問看護のマンパワーを効果的に活用することに繋がります。「タスクシフト」はまさにこのことだと思います。 重要なのは、緊急度・重症度に応じた訪問看護優先度の決定(トリアージ)です。当センターではトリアージ表を作成して支援内容や頻度をチームで検討し、常に終結や訪問頻度の低下ができないかウォッチしています。この考え方は、当センターのBCP(事業継続計画)にも反映しており、災害級といわれたコロナ禍で担い手が不足したときにも役立ちました。 ─「訪問看護の終結」が一筋縄ではいかないケースもあるのではないかと思いますが、どのように対応されていますか? まずは、合意形成することを大事にし、常に終結を見据えて利用者さんに情報を取捨選択して渡し、しっかりと相談に乗っています。 それでも利用者さんやケアマネジャー、主治医などから継続の要望があることは珍しくありません。多職種共通の客観的指標がないことが、利用者・家族の要求が優先されることに繋がると考えています。なので、そうした状況が起こるときこそ、支援の必要性を再度アセスメントし、その結果を踏まえて対応することが、西宮市訪問看護センターの役割と考えています。 本当に困っている人にリソースを割くための終結=タスクシフト ─利用者さんが訪問看護を継続したほうが経営面で安定するという側面もあると思います。多くの壁がある中で、それでも終結していくためのしくみづくりを推進されてきた背景にある想いを教えてください。 できるだけ多くの方の要求に対応したほうが経営的には安定すると思いますが、大規模ステーションである西宮市訪問看護センターだからこそすべきことがあります。我々のリソースには限りがある上、新規の利用者さんは対応を急ぐ重症なケースが多い。だからこそ、我々は訪問看護を終結していくことで、次々にいただく新規の依頼を断らずに受け入れることができます。今日明日の急な依頼も、原則としてすべて対応します。 現状の制度においては、「適切にアセスメントし、適切な時期に終結する」ことができたとしても、なんのインセンティブもない状況です。しかし、西宮市訪問看護センターのような大規模ステーションだからこそ、やるべきことだと考えて対応してきました。今後はタスクシフトがますます重要となってくるはずであり、より多くの方々が必要なサービスをタイムリーに受けられるよう、制度がアップデートされることを望みます。 新型コロナウイルス感染症の在宅療養対応 ─コロナ禍では、西宮市内で最初に在宅療養の対応をされたと伺いました。語り切れないほど大変な状況があったと思いますが、当時のことを教えてください。 はい、当時は本当に大変でしたね。ヘルパー事業所が撤退したらどうするか、「原則入院」とされている陽性者が入院できなかった場合にどうするか、などの課題に次々と直面しました。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会で県内の訪問看護ステーションの状況を確認しつつ、自治体に要望書を提出。その後、迅速に在宅療養者対応体制が構築されました。 西宮市訪問看護センターでは2021年の1月に初めて陽性者の訪問看護を開始しましたが、当然ながら訪問に行きたいというスタッフはいません。管理職のみで6人のチームを組み、これが「事業団の役割」なのだという使命感をもって訪問しました。 スタッフのストレスマネジメントも課題でしたね。疲労や「感染するかもしれない」という不安はもちろんのこと、学童保育や保育所が休みになって休まざるを得ないスタッフが、「みんなが頑張っているのに休むのは申し訳ない」と泣き崩れたこともあり…。「泣かんでもいいから」と慰めたことを思い出します。 当初は情報が錯綜していたので、私はとにかく多くの時間を情報収集に費やし、取捨選択して整理して、情報共有アプリを通じて伝達していました。「スタッフみんなに心身ともに健康でいてほしい」というメッセージを出し続けたことや、電話や面談でこまめに話をする機会をつくったのが功を奏したのでしょうか。コロナ禍による退職はありませんでした。 反対を受けながらもいち早くICT化を推進 ─情報共有アプリのお話が出ましたが、山﨑さんは訪問看護でITC化が一般的でなかった時代から、いち早く電子カルテや情報共有アプリを導入されているかと思います。こちらも災害対策の意味合いが大きかったのでしょうか。 災害対策だけではないですね。電子カルテを導入したのは2016年のことで、これは新卒スタッフを採用することをきっかけに導入しました。スタッフは入職後2年で独り立ちするプログラムになっていますが、それ以前からオンコールを担当します。当時はまだ紙のカルテを当たり前に使っていたのですが、明らかに電子カルテのほうが効率的に情報を収集できるため、導入は必須だと考えました。 ─スタッフの皆さんの反応はいかがでしたか? これに限らず、新しいことをすると必ず反発がありますね。私は新しい試みばかりするから、みんな大変だったと思います(笑)。ただ、電子カルテはこれからの看護の世界に必ず必要だと思いましたし、利用すればいいケアに繋がると確信していました。そのことを説明しました。 介護保険制度ができて、本当に幅広い対応を求められるようになった一方で、訪問看護の人材は全国的に不足しています。この状況を解決しようとするなら、属人的なやり方では確実に限界がくるんです。アナログでは属人的になりがちで、問題の共有もしにくくなります。一人でケアすることが多い訪問看護は、そもそも属人的になりがちなサービスですから、チーム制やICT化を行うことで、スムーズな情報共有を行っていく必要があると思います。 ─コロナ禍で情報共有アプリを活用されたというお話がありましたが、改めてメリットや課題、気を付けるべきポイントを教えてください。 多職種連携用のものも含めて複数のツールを使っていますので、それぞれの導入理由や使い方をスタッフに明示した上で使用を開始しました。また、情報共有アプリにも複数あるので、選定する際には自分たちのポリシーや希望する使い方にマッチするものを選んでいます。いつでもどこでも見ることができるので、効率的なコミュニケーションや情報共有に役立っています。 ただ、「どこでも見られる」のは良し悪しですね。休みの日でも情報共有アプリをチェックしてしまうスタッフがいて、オンオフの切り替えができない様子が見受けられた際は、「休みのときは見ないで」と改めて指示しました。 あとは、情報の取捨選択が課題ですね。仕事に限らず現代は情報にあふれているので、自ら取捨選択する情報リテラシーが非常に重要です。本当は、私としては基本的に情報をスタッフみんなにオープンにしたかったのですが、人数や案件が多いこともあって「情報を探せない」「通知を追いきれない」といった声が出たので、情報共有アプリ内のプロジェクトごとに参加メンバーを設定する対応をとりました。 看護師は情報の取り扱いを得意とする人がまだまだ少なく、兵庫県の訪問看護ステーション協議会の会員でも個人のメールよりFAXのほうが使いやすい、という声が多いです。ステーションを超えた情報共有を行っていくためにも、もっと訪問看護ステーションのICT化が進んでいくといいなと思います。 ―ありがとうございました。次回は、大規模組織の人材マネジメントについて伺います。 >>次回の記事はこちら大規模事業所の人材マネジメント~次世代に繫ぐために~ ※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに記載しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

在宅ハイフローセラピー Q&A
在宅ハイフローセラピー Q&A
特集 会員限定
2024年6月25日
2024年6月25日

在宅ハイフローセラピー Q&A/装着のコツ、トラブル対応、アドヒアランス支援

在宅において患者が「高流量鼻カニュラ酸素療法」(high flow nasal cannula oxygen therapy:HFNC)を継続していくためには、不快感やトラブルへの早期対応とアドヒアランスを維持するための支援が必要不可欠です。そこで、今回は、装着時のコツや不快・トラブル時の対応、アドヒアランスを支えるための精神的支援のポイントをご紹介します。 Q1 訪問看護で初めて在宅HFNCの患者さんを担当することに。使用方法や装着のコツや注意点は何ですか? A 基本的な機器操作の流れと適切な鼻カニュラの装着方法を押さえることが大切です 在宅HFNCを快適かつ安全に使用するためには、加温加湿器を事前に温めることや鼻カニュラを締めすぎないように装着することなど、使用上の注意点・コツがあります。すなわち、基本的な機器操作の流れと適切な鼻カニュラの装着方法を押さえることが装着のコツをつかむことにつながります。在宅HFNC装着の流れを表1に示します。 表1 在宅HFNC装着の流れ 図1 加湿チャンバーの取り外しと取り付け時のポイント 例:Fisher&Paykel Healthcare社製 myAIRVO™ 2フィンガーガードを押し下げながら加湿チャンバーの取り外しと取り付けを行う必要がある。また、取り付け時はカチッとはまるまで加湿チャンバーをしっかりと押し込む。 図2 鼻カニュラのサイズと適切なフィッティング 図3 取り外しツールの活用 例:Fisher&Paykel Healthcare社製 myAIRVO™ 2チャンバードームとベースプレートの間の溝に取り外しツールの先端を差し込んでひねると、比較的容易にチャンバーを分解できる。 Q2 患者さんがHFNC施行時に不快感を訴えます。どう対応すればよいですか? A 不快感の原因には加温・加湿によるもの、高流量に伴うもの、鼻カニュラによるものなどさざまあります。不快感は治療の継続に大きく影響するため、原因ごとに適切な対応が必要です 在宅HFNCが通常の在宅酸素療法と異なる点は、「加温・加湿」した「高い流量(風)」を「少し重めの専用鼻カニュラ」で投与する点です。そのため、通常の在宅酸素療法で感じることのない以下のような不快感が出現することがあります。 加温・加湿による熱さ・水滴の不快感高流量に伴う不快や圧迫感鼻カニュラの締め付けによる疼痛や皮膚トラブル鼻カニュラが容易にずれることへのわずらわしさや不安 など このような不快感は継続に大きく影響するため早期に対処する必要があります。それぞれの不快感に対する対応を以下に示します。 加温・加湿による熱さ・結露の不快感への対応 熱さや発汗に対する対応 室温や寝具、衣服の調整をする冷却材でクーリングする(頭、首、顔周囲など)設定温度を下げる(下限34℃)。ただし、温度を下げたい場合は医師へ相談する 結露に対する対応 HFNC機器の回路の作動保証は室温18~28℃。室温の設定が適切かを確認し、逸脱している場合は、室温設定を調整するように説明する。冬季で暖房を切って就寝し、室温が非常に低くなっていたり、夏季で冷房の送気が回路に直接あたっていたりすると回路に結露が発生する可能性がある回路に結露が溜まっていたら加湿チャンバーに結露を戻す(鼻腔へ水滴が入ると不快なため) 高流量に伴う不快や圧迫感への対応 強い風が呼吸を助けてくれること、また強い風による不快は慣れることを伝え、励ましながら、苦手意識を緩和する働きかけを行う不快が強く継続が困難な場合は流量を下げる(高流量に伴う苦痛が強いことを医師へ連絡する)乾燥の不快を訴える場合は鼻用保湿スプレーを使用する 鼻カニュラの締め付けによる疼痛や皮膚トラブルへの対応 ヘッドストラップを締めすぎないように適切なフィッティングを行う(図2) 顔の皮膚の状態を良好に保つ(保湿が重要)・洗顔を行い、皮脂や汚れを落とす・化粧水やクリームなど肌に合ったものを塗り、肌の乾燥を防ぐ皮膚トラブル時は皮膚保護剤を使用する。特に皮膚トラブルの好発部位に注意する(図4)訪問時に、鼻カニュラの締め付けによる疼痛や皮膚トラブルがないかを確認し、上記対策を早期にとる 図4 皮膚トラブルの好発部位 鼻カニュラが容易にずれることへのわずらわしさや不安への対応 適切に鼻カニュラを装着できているかを確認する(図2)チューブクリップが衣服やベッドカバーなどに適切に取り付けられているか、寝る環境、姿勢などに問題がないかを確認し、ずれない対策を患者とともに検討するチューブクリップが硬いために上手く装着できない場合は「洗濯ばさみ」を紐で回路に取り付ける方法が有効である(図5) 図5 チューブクリップが使用できない場合の工夫 洗濯ばさみを紐で回路に取り付ける Q3 HFNCにあまり積極的でない患者さんがいます。どのようにアプローチすればよいですか? A 患者さん自身が治療法を理解・納得した上で治療に参加できるよう、アドヒアランスの支援に取り組んでみましょう アドヒアランスとは「医療者が提案する治療方針等の決定に患者が積極的に参加し、その決定に従って治療を受けること」1)を意味します。つまり、アドヒアランスは医療者の指示にただ従うのではなく、患者さん自身が治療法を理解・納得した上で、積極的に治療に参加することです。また、在宅HFNCを患者さんが継続していくためにはこのアドヒアランスの維持・向上が不可欠です。アドヒアランスを支える支援として、ここでは3つポイントを解説します。 在宅HFNCに対する受け止め方を知り、支援する まず、患者さんが在宅HFNCをどのように受け止めているのか(理解や受け入れ状況、思いなど)を丁寧に尋ね、思いや感情に共感することが大切です。 医療者の説明不足や患者さんの理解不足などがあると、患者さんが在宅HFNCを継続する必要性を見いだせず、アドヒアランスが低下してしまうことがあります。このような場合には、患者さんの自覚症状や病態を踏まえながらどのような効果を期待して導入しているのかを補足説明します。 在宅HFNCは、呼吸困難や去痰困難、頭痛・頭重感などの症状緩和、PaCO2の低下、増悪回数の低下、運動耐用能・QOLの改善などの効果を期待して導入します。これらの効果を患者さんが納得・理解できる表現で説明を行い、在宅HFNCを「自分に必要なもの」と捉えることができるように支援していくことが大切です。 在宅HFNCの効果に対する自覚を高める 在宅HFNCを使用する患者さんにおいて、症状の緩和感とデバイスの使いやすさの両方が、治療アドヒアランスの強力な動機付けである2)といわれています。つまり、患者さんが在宅HFNCをスムーズに使えて、効果を実感していることがアドヒアランスを維持するためには重要であると言い換えることができます。 しかし、在宅HFNCはNPPVほどの換気補助効果は期待できず、患者さんが効果を実感していないケースも多くあります。よって、その場合は、看護師が患者さんの気づいていない効果を見つけ出し、それを言語化して伝え、効果が出ていることを実感してもらうように支援します。在宅HFNCの効果を図6に示します。わずかでも効果が認められたら「それが効果である」と強調して伝えていくことで患者のアドヒアランスを高めていきましょう。 図6 在宅HFNCの効果 ● 呼吸困難の軽減(「以前より息が楽になった」、「パニックになることが減った」)● 努力呼吸の軽減(頸部の呼吸補助筋の緊張が軽減)● SpO2の改善● 呼吸数の減少● 脈拍数の減少● 去痰困難の改善(「痰が柔らかくなった」)● 起床時の頭痛や頭重感の軽減● 増悪回数の減少● 睡眠の改善(「以前よりも眠れるようになった」)● 元気の回復(「以前より元気になった」「力が少し余っている」)● 日常生活の活動性の向上(「外出が増えた」、「食事量が増えた」、「会話が増えた」、「できなくなっていたことができるようになった」) など 直面している障害を共有し、ともに対策を立てる 日常生活の中で困っていることや不安なことはないか、どのような障害に直面しているのかなどを丁寧に尋ねることが大切です。そのかかわりの中で、患者さんが必要としている知識を提供しつつ、よい方法を患者さん自らが選択し、実施していけるように支援します。 Q4 在宅ならではのHFNC管理の注意点は何ですか? A HFNCは室内の温度や湿度の影響を受けやすい機器です。室内環境を整え、未然にトラブルを防ぎましょう 在宅HFNCで使用する機器は、室内の空気を取り込み加温・加湿するため、室内の温度や湿度の影響を受けやすくなっています。退院後、室内環境の影響で起こり得るトラブルとしては、冬季の室温が低下した際の結露トラブルや水切れのトラブルなどが挙げられます。それ以外にも、鼻カニュラのずれや皮膚トラブル・痛み、回路・鼻カニュラの破損やカビなどがあります。 このようなトラブルを避けるためには、機器を使用する自宅環境、加湿水の減り具合、アラーム内容、起こっているトラブルなどを詳細に確認し、安全・安楽に使用が継続できるように患者さんと調整することが大切です。図7に在宅における確認項目を示します。 図7 在宅における確認項目   執筆:鬼塚 真紀子地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 主任慢性呼吸器疾患看護認定看護師監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長編集:株式会社照林社 【引用文献】1)World Health Organization(WHO).Adherence to Long-Term Therapies: Evidence for Action. Ann Saudi Med 2004;24(3):221-222.2)Storgaard LH,Weinreich UM,Birgitte Schantz Laursen BS.COPD Patients’Experience of Long-Term Domestic Oxygen-Enriched Nasal HighFlow Treatment:A Qualitative Study.COPD 2020;17(2):177. 【参考文献】〇鬼塚真紀子.「在宅ハイフローセラピー導入時のケア」.みんなの呼吸器 Respica 2023;21(6):115-120.〇今戸美奈子,北 英夫,鳳山絢乃,他.「ハイフローセラピーの装着感及びスキントラブルの実態」.日呼吸ケアリハ会誌 2018;27(2):163- 167.〇今戸美奈子.「在宅ハイフローセラピーの患者支援・退院支援・観光整備のサポートと継続看護」.みんなの呼吸器 Respica 2023;21(6):121-128.〇門脇徹.「在宅ハイフローセラピーセッティングのポイント」.みんなの呼吸器Respica 2023;21(6):106-111.〇富井啓介,門脇 徹,北島尚昌,他.「在宅ハイフローセラピーの現状」.日呼吸ケアリハ会誌 2019;28(2):291-297.

「ハイフローセラピー」のしくみや効果 在宅医療での設定や管理のコツ
「ハイフローセラピー」のしくみや効果 在宅医療での設定や管理のコツ
特集 会員限定
2024年6月11日
2024年6月11日

「ハイフローセラピー」のしくみや効果 在宅医療での設定や管理のコツ

2022年4月の診療報酬改定で「在宅ハイフローセラピー指導管理料」が新設され、これまで病院内のみで行われていた「高流量鼻カニュラ酸素療法」(high flow nasal cannula oxygen therapy:HFNC)が在宅で行えるようになりました。現在利用者が増えつつありますが、どのようなものか今ひとつ分からないとの声をよく耳にします。そこで、今回は在宅ハイフローセラピーとはどういったものなのか?を解説します。 「ハイフローセラピー」は診療報酬上の名称 最初にこの治療法の名称を確認しておきましょう。「ハイフローセラピー」(high flow therapy:HFT)は診療報酬算定要件の名称です。また、一般的に器具の名称として「高流量鼻カニュラ」(high flow nasal cannula:HFNC)、治療法として「高流量鼻カニュラ酸素療法」(High flow nasal cannula oxygen therapy:HFNC)という名称を用います。ここでは高流量鼻カニュラ酸素療法、HFNCを使用します。ちなみに、医療現場で普及している呼称「ネーザルハイフロー」はFisher & Paykel Healthcare社の製品名称です。 加温・加湿した酸素を高流量で投与 HFNCは、専用の鼻カニュラを介して、加温・加湿した高流量の空気と酸素の混合ガスを投与する治療法の1つです(図1)。 図1 HFNCのしくみ 通常の鼻カニュラは、鼻腔の刺激や乾燥につながるため、6L/分の酸素投与が限界でした。HFNCは乾燥した酸素ガスを性能のよい加温加湿器で加温・加湿することでこの問題を解決し、高流量(30~60L/分)のガスを経鼻から投与することを可能にしました。 低流量システムと高流量システムの違い 健常成人の一回換気量は約500mLで、吸気時間は約1秒なので、吸気流速は500mL/秒となります。これを1分間あたりに換算すると500mL×60秒=30,000mL/分、つまり30L/分となります。この「30L/分」は境界量として重要な数字であり、酸素ガスの供給量が30L/分以下のものを低流量システム、30L/分以上のものを高流量システムと呼びます(図2)。 低流量システムの鼻カニュラや酸素マスクは、患者さんの呼吸パターンが変化すると吸入酸素濃度(FiO2)も変化します。すなわち、一回換気量が増加すると室内気の吸い込み量が増えるためにFiO2は低下し、一回換気量が低下すると室内気の吸い込み量が減るためにFiO2は上昇します。 一方、高流量システムに分類されるHFNCは患者さんの吸気流速以上の混合ガス(酸素と空気)を供給します。そうすることで、室内空気を吸い込むことがほとんどなく、設定した酸素濃度を安定して供給することができます。 図2 低流量システムと高流量システムの違い I:inspiration、吸気相  E:expiration、呼気相 HFNCの特徴がもたらすさまざまな効果とは HFNCは「高流量」の「加温・加湿」したガスを「鼻カニュラ」で吹き入れるため、以下のような生理学的特徴からもたらされるさまざまな効果が期待できます(図3)。 1.解剖学的死腔の洗い出し 解剖学的死腔の呼気ガスを洗い出すことで、CO2の再吸入を防ぎ、ガス交換、換気効率を上げ、PaCO2を低下させる1)-3)ことができます。そのため、高二酸化炭素血症の症状である起床時の頭痛や頭重感の改善効果が期待されます。 2.軽度のPEEP効果と肺容量の増加 呼気終末に軽度の気道内陽圧を生じ、肺容量の増加をもたらす4),5)ため、酸素化が改善します。 ※1および2の効果は呼吸仕事量を減少させ、呼吸数の低下や呼吸困難の軽減にもつながります。 3.安定した吸入酸素濃度(FiO2)の供給 高流量を流すことで、患者さんの呼吸パターンによる影響を受けずに、安定したFiO2を供給できます。慢性Ⅱ型呼吸不全では通常の酸素カニュラなどの低流量システムによる酸素投与の場合、呼吸状態の変化による予想外の高いFiO2に起因するCO2ナルコーシスのリスクがあり、ハイフローセラピーは在宅におけるより安全な酸素投与法である6)といえます。 4.線毛機能の維持 最適な加温・加湿により線毛運動を維持するため、分泌物の排出を促進します。また、HFNCでの長期加湿療法は、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)患者さんおよび気管支拡張症患者さんの増悪日数の短縮と最初の増悪までの期間の延長、肺機能およびQOLの改善が期待できます7)。 5.患者の快適性 最適な加湿により高流量の酸素を鼻腔への刺激を抑えて快適に投与できます。また、鼻カニュラであるために会話や飲食、排痰、口腔ケアなどを容易に行うことができ、QOLも維持できます。 図3 HFNCの特徴と効果 在宅におけるHFNCの実際 COPD患者さんへの効果 在宅HFNCが導入適応となるCOPD患者さんに対する効果としては、QOLの改善、高二酸化炭素血症の改善8)、増悪の減少9)が報告されています。また、患者さんの自覚症状としては、呼吸困難の軽減や起床時の頭痛・頭重感の改善、排痰の促進効果など期待されています。 適応をあらためて確認 現在、在宅HFNCの保険診療上の適応は、在宅酸素療法を実施しているCOPD患者さんで、表1の条件を満たす必要があります。 表1 在宅HFNCの対象患者 対象となる患者は、在宅ハイフローセラピー導入時に以下のいずれも満たす慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者であって、病状が安定し、在宅でのハイフローセラピーを行うことが適当と医師が認めた者とする。ア 呼吸困難、去痰困難、起床時頭痛・頭重感等の自覚症状を有すること。イ 在宅酸素療法を実施している患者であって、次のいずれかを満たすこと。(イ)在宅酸素療法導入時又は導入後に動脈血二酸化炭素分圧45mmHg以上55mmHg未満の高炭酸ガス血症を認めること。(ロ)在宅酸素療法導入時又は導入後に動脈血二酸化炭素分圧55mmHg以上の高炭酸ガス血症を認める患者であって、在宅人工呼吸療法が不適であること。(ハ)在宅酸素療法導入後に夜間の低換気による低酸素血症を認めること(終夜睡眠ポリグラフィー又は経皮的動脈血酸素飽和度測定を実施し、経皮的動脈血酸素飽和度が90%以下となる時間が5分間以上持続する場合又は全体の10%以上である場合に限る。)。 C107-3 在宅ハイフローセラピー指導管理料(「診療報酬の算定方法の一部を改正する告示」(令和6年厚生労働省告示第 57 号)より引用) 在宅HFNCに使う器具 在宅HFNCに用いる器具は、主に、加温加湿機能を搭載したフロージェネレーター(装置本体、加湿チャンバー)、回路、専用鼻カニュラで構成されています。使用時には必ず加湿チャンバーに入れる「水」の準備が必要です。酸素吸入と併用する場合には、酸素濃縮器と在宅HFNC装置本体をチューブで接続します(図4)。 使用時には、医師が装置の設定ボタンで流量(フロー)と温度を設定し、以降、患者さんは電源のON/OFFボタンのみを操作します。また、酸素濃縮器から流す酸素流量や装着時間は医師の指示に従い実施してもらいます。COPD患者さんの在宅導入では、主に夜間睡眠時の使用が広まりつつあります。 図4 在宅HFNCの主な構成 HFNC装置としてFisher&Paykel Healthcare株式会社製 myAIRVO™ 2を例に在宅での設置方法を提示 加湿について ●設定温度は基本37℃にHFNCは、加温加湿器を通して吸気ガスを加温・加湿して供給することで、線毛運動を最適化させ、排痰を促します。低い温度では、加温・加湿の効果が出ないばかりでなく、鼻腔粘膜の刺激や不快感の原因にもなり得るため、設定温度は基本37℃とします。しかし、暑さによる不快や夜間の発汗が著明な場合には34℃に下げることが許容されます。●装置の管理において注意すべきこと電源スイッチを入れた直後に鼻カニュラを装着しない電源を入れた直後は、まだ加温加湿器が温まっておらず、冷風が送気され、鼻腔粘膜の刺激や不快感につながります。使用前には、必ず電源を入れて暖機運転を行い、装置から供給される混合ガスが十分に加温・加湿された状態となってから(準備完了の表示が出てから)使用します。 加温加湿器の水が空にならないように注意する在宅HFNCは短時間で加温加湿器の水がなくなるために頻回の水の交換・補充が必要です。そのため、水切れに十分注意し、水の補充までの時間をある程度予測して流量・温度を設定し、使用する必要があります。病院では起床時まで水切れなく過ごせていても、在宅療養移行後の睡眠時間や室内の温度・湿度の影響を受けて水切れが起こることも考えられます。そのため、在宅療養移行後は水切れなく使用できているかを確認することが大切です。もし、起床時に加湿水がなくなってしまう状況が起こったら、在宅ハイフローセラピーの処方箋を出している病院へ連絡が必要です。 加温加湿器や回路にカビが生えないように適切に管理する加温加湿器や回路は高温多湿になりカビが生えやすい環境となります。そのため、使用後の回路と鼻カニュラ、加湿チャンバーの乾燥や週1回の手入れ(機器のふき取りや洗浄可能部品の洗浄)、定期的な交換が患者さんもしくは家族が行えているかを確認することが大切です。   執筆:鬼塚 真紀子地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 主任慢性呼吸器疾患看護認定看護師監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Bräunlich J,Beyer D, Mai D,et al.:Effects of nasal high flow on ventilation in volunteers, COPD and idiopathic pulmonary fibrosis patients.Respiration 2013;85(4):319-325.2)Fraser JF,Spooner AJ,Dunsteret KR,et al.:Nasal high flow oxygen therapy in patients with COPD reduces respiratory rate and tissue carbon dioxide while increasing tidal and end-expiratory lung volumes:a randomised crossover trial.Thorax 2016;71(8):759-761.3)Möller W,Fenget S,Domanski U,et al.Nasal high flow reduces dead space.J Appl Physiol 2017;122(1):191-197.4)Parke RL,McGuinness SP.Pressures delivered by nasal high flow oxygen during all phases of the respiratory cycle.RespirCare 2013;58(10):1621-1624.5)Mauri T,Turrini C,Eronia N,et al.:Physiologic effects of high-flow nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure.Am J Respir Crit Care Med 2017;195(9):1207-1215.6)富井啓介,門脇 徹,北島尚昌,ほか.「在宅ハイフローセラピーの現状」.日呼吸ケアリハ会誌 2019;28(2):291-297.7)Rea H,McAuley S, Jayarame L,et al.:The clinical utility of long-term humidification therapy in chronic airway disease.Respir Med 2010;104(4):525-533.8)Nagata K,Kikuchi T,Horie T,et al.:Domiciliary high-flow nasal cannula oxygen therapy for patients with stable hypercapnic chronic obstructive pulmonary disease.A multicenter randomized crossover trial. Ann Am Thorac Soc 2018;15(4):432-439.9)Storgaard LH,Hockey HU,Laursen BS,et al.:Long-term effects of oxygen-enriched high-flow nasal cannula treatment in COPD patients with chronic hypoxemic respiratory failure.Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2018;13:1195-1205. 【参考文献】〇桑平一郎,橋本修.「高流量鼻カニュラ High flow nasal cannula(HFNC)」,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会 酸素療法マニュアル作成委員会,日本呼吸器学会 肺生理専門委員会編.『酸素療法マニュアル(改訂版)』,メディカルレビュー社,東京, 2017:60-64.〇山本桂.低流量システムの概要.呼吸器ケア 2016;冬季増刊:55.〇門脇徹.「在宅ハイフローセラピーセッティングのポイント」.みんなの呼吸器respica 2023;21(6):106-111.〇富井啓介監修:「ハイフローセラピー 高流量鼻カニュラHigh flow nasal cannula(HFNC)」帝人ファーマ株式会社,帝人ヘルスケア株式会社,2022:1-2.

HOT(在宅酸素療法)Q&A/メンテナンス、酸素ボンベ持ち時間、チューブ整理
HOT(在宅酸素療法)Q&A/メンテナンス、酸素ボンベ持ち時間、チューブ整理
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2024年6月4日
2024年6月4日

HOT(在宅酸素療法)Q&A/メンテナンス、酸素ボンベ持ち時間、チューブ整理

今回はHOTに関するよくある相談やアドバイスを集め、Q&A形式でお答えします。日ごろ感じている疑問や不安を解決します。 Q1 酸素濃縮器のメンテナンスはどのようにすればよいですか? A フィルターの掃除と加湿器の洗浄を行います 酸素濃縮器のメンテナンスとして、主にフィルター掃除と加湿器洗浄があります。 現在はフィルターが内蔵され、手入れが必要のないタイプもありますが、フィルターが外付けの場合は毎日布や掃除機などで埃を取り除くようにします。週1回は中性洗剤で洗浄後水洗いし、乾燥させておきます。 加湿器の洗浄は、水道水を使用している場合は毎日、蒸留水を使用している場合は週1回の洗浄が必要です。 半年に1回程度、酸素業者による機器内部の点検がありますが、内部異常のアラームが鳴った場合はすぐに業者に点検を依頼してください。 Q2 酸素ボンベの持ち時間はどのように把握すればよいですか? A ボンベサイズ、吸入量、呼吸同調装置の有無を確認の上、使用可能時間の早見表を参考に持ち時間を把握します 酸素ボンベの持ち時間に影響するのは、ボンベの内容量(L)、内圧(MPa)、呼吸同調装置の種類や使用の有無、患者さんの呼吸回数です1)。 呼吸同調装置を使用している場合と使用していない場合では、使用時間が4倍程度の違いがあるため、必ず同調か連続使用かを確認します。また、患者さんの呼吸回数が多い場合は、酸素機器メーカーが作成している酸素ボンベ使用可能時間の早見表より短くなる可能性があるため、注意します。外出時には必ずボンベサイズ、吸入量、呼吸同調装置の有無を確認の上、各メーカーが作成している早見表を参考に持ち時間を把握しておくことが重要です。 Q3 HOT使用中の患者さんに対して注意することは何ですか? A 処方された酸素流量を守れているか適宜確認することはもちろん、訪問時には酸素チューブのねじれや破損の有無、鼻カニュラによる皮膚障害の有無も確認します。また、日頃から停電時の備えについて話し合い、酸素ボンベの使用上の注意点も説明しておきます 処方酸素流量を守れているか自宅での酸素使用に慣れてくると、呼吸困難の状態やわずらわしさなどによって患者さんが処方酸素流量を守れないことがあります。Ⅱ型呼吸不全の場合、安静時に長時間高流量を吸入し続けると高二酸化炭素血症になる可能性があります。患者さんが処方された酸素流量が守れているか、適宜確認します。酸素チューブに問題はないか酸素チューブは、コネクタとチューブを接続し、最大20mまで延長します。そのため、自宅訪問時には、コネクタとチューブのつなぎ目が抜けていないか、チューブ自体が折れ曲がっていないか、ねじれていないか、破損がないかの確認を行います。鼻カニュラに問題はないか鼻カニュラは長期間使用すると、チューブが硬くなり、皮膚損傷の原因となります。チューブが汚染したり、硬くなっていたりする場合には交換をしましょう。停電時の対応は決めているか酸素濃縮器は電気を使用するため、停電すると酸素供給が停止します。そのため、停電時にパニックにならないよう、事前に停電時の対応について話し合っておくことが大切です。具体的には、濃縮器の側にボンベを置いておく、慌てずにボンベへ切り替える、高流量の酸素を使用している患者さんの場合は停電時用の大きめのボンベを設置しておいてもらうといったことです。火気・炎天下厳禁であることを把握しているか酸素ボンベは、火気厳禁はもちろんですが、高温炎天下の車内に放置しないようにしましょう。内部の酸素が膨張し、爆発事故につながる恐れがあります。外出を予定している患者さんには、事前に説明しておきます。 Q4 患者さんが快適に日常生活を送れるよう工夫できることは何ですか? A 酸素チューブの取り扱いに注意し、転倒予防や動作のしやすさに配慮した管理ができるとよいでしょう チューブ整理で転倒防止自宅では、生活範囲や動線に合わせてチューブを延長します。常にチューブが足元にあるため、歩くたびに足に絡まり、高齢者に限らず、転倒するリスクが高まります。廊下の壁に引っ掛ける、S字フックを使用する、洗濯かごを利用するなどしてチューブを整理し、転倒を予防することが大切です。図1、図2に、患者さんが実際に行っている工夫を紹介します。また 、酸素濃縮器や液体酸素の親機の設置場所を確認し、動線に合わせ、チューブが必要以上の長さにならないように配慮します。運転時は酸素ボンベを後ろに運転時には、運転席の後ろ側に酸素ボンベを起き、真後ろからチューブを出すようにします。そうすることでボンベの出し入れもスムーズに行え、チューブも引っ張られずに運転できます。障害物を置かない酸素濃縮器のリモコンが赤外線タイプの場合、間に障害物があると使用できないため、注意が必要です。 図1 手すりを利用したチューブが濡れない工夫 図2 洗濯かごを使用したチューブ整理 Q5 HOTを使用しながら旅行するときに、必要な手続きや注意することはありますか? A 移動手段を確認し、公共交通機関を利用する場合は持ち込める酸素ボンベの本数に注意します HOT導入後にも旅行を楽しむ患者さんは多くいます。旅行には、事前の準備が必要です。主治医の許可をとり、酸素吸入量に加え、移動時間や距離、移動手段を確認し、どのサイズのボンベが何本必要かをメーカー作成の換算表を参考に患者さんと相談しておきます。その後、各酸素業者指定の旅行届を事前に酸素業者に提出します。 移動手段が公共交通機関の場合、酸素ボンベを持ち込める本数などが決まっているほか、事前の届け出が必要な場合が多いです。詳細は使用する公共交通機関へ問い合わせし、事前に確認します。ただし、液体酸素は飛行機へ持ち込めませんので、飛行機利用の際には酸素ボンベに変更しなければなりません。 Q6 患者さんが酸素を指示通り使用してくれません。どうしたらよいですか? A HOT導入後も、さまざまな理由から処方通りに使用できない場合があります。だからといってアドヒアランス不良と安易にレッテルを貼らず、患者さんの話をよく聞き、アドヒアランスを阻害している要因をアセスメントした上でかかわることが大切です 信頼関係の構築とパートナーシップの形成 患者さんはHOTを導入することで、多くの場合、これまでの生活の再編を余儀なくされます。また、呼吸困難による活動範囲の制限やそれに伴い社会的役割を果たせなくなることでの自尊心の低下、自己コントロール感の喪失などを体験します。医療者は、HOT導入によってさまざまな病いの体験をする患者さんの心理を理解した上で、アドヒアランス支援を行っていく必要があります。支援をする上で、最も重要なことの1つは信頼関係を築くことです。 患者さんの病気に対する思い、HOT導入への思い、これまで大切にしてきたことなど、ナラティブ・アプローチで患者さんの語りを促します。語りの中から患者さんの価値観や希望を知り、理解していきましょう。その過程で患者さんは価値観を承認されたと感じ、相手を信頼できるようになります。 また、病気によって変化した生活の中でも、患者さんにとって「欠かせない」と思うことを一緒に探してくれる人がいることで、限られた選択肢の中で生活を再構築でき、成長につながります2)。そのため、信頼関係の構築とともにパートナーシップの形成も非常に重要です。 アドヒアランスに影響する要因3) アドヒアランスに影響する要因として、患者さんに関連する要因、治療に関連する要因、社会/環境に関する要因(表1)があるといわれています。各要因の具体例は次に示すとおりです。  患者さんに関する要因患者さんの健康に対する考え方、HOT管理をするにあたっての認知能力、心理的状態、病気やHOTに対する認識など治療に関連する要因HOTを実施する期間や酸素吸入に伴う身体的な不快感、鼻カニュラ装着による外見の変化に伴う周囲の反応、HOTに伴う費用、HOT導入に伴う呼吸困難の軽減の程度など社会/環境に関連する要因医療者との関係性、フォローアップ体制、医療機関へのアクセスの利便性、HOT患者さんを支えるサポート体制が整っているかなど HOTを処方通りに使用できない患者さんに対し、ただ単に使用を促すのではなく、アドヒアランスの低下の要因をアセスメントし、その要因に対してアプローチしていくことが重要です。 表1 アドヒアランスに影響する要因 文献3)を参考に作成 【参考文献】1)塚田さやか.「HOT患者の在宅療養がわかる(導入/外来/訪問)HOTで起こりやすいトラブル」,石原英樹,竹川幸恵編著,『病棟・外来・在宅医療チームのための在宅酸素療法まるごとガイド』,メディカ出版,東京,2021: 104-107.2)高橋綾.「『患者の価値観に寄り添う』と私がモヤモヤする理由」.緩和ケア 2018;28(2):84-89.3)Bourbeau J,Bartlett SJ.Patient adherence in COPD.Thorax 2008;63(9):831-838.   執筆:平田 聡子地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター慢性疾患看護専門看護師 監修:森下 裕地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター センター長竹川 幸恵地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター呼吸ケアセンター 副センター長 編集:株式会社照林社

訪問看護認定看護師トークセッション 人材育成編
訪問看護認定看護師トークセッション 人材育成編
インタビュー 会員限定
2024年6月4日
2024年6月4日

訪問看護認定看護師トークセッション 人材育成編【セミナーレポート前編】

2024年2月3日に実施した、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「訪問看護認定看護師によるトークセッション〜人材育成と地域連携の実例紹介~」。訪問看護認定看護師の野崎加世子さん、富岡里江さんをスピーカーにお迎えし、トークセッション形式で、訪問看護が抱える課題や解決方法を考えました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、訪問看護師や新任管理者の教育についての議論をまとめます。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】野崎 加世子さん初代訪問看護認定看護師協議会代表理事、現監事。「これからの在宅医療看護介護を考える会」代表。富岡 里江さん訪問看護ステーションはーと勤務。POOマスター、「渡辺式」家族看護認定インストラクター。東京都訪問看護教育ステーション事業における研修の企画・運営も担当。【ファシリテーター】中村 優子さんフリーアナウンサー・インタビュアー。著名人のYouTubeチャンネル運営他、著者インタビューを多数手掛ける。 ※本文中敬称略 人材不足の現場における教育の難しさ 中村: 訪問看護師の人材不足についてはよく耳にしますが、実際のところはいかがでしょうか? 富岡: 看護師のみなさんは、訪問看護に対して「緊急時にひとりで対応できるか不安」「オンコール対応の負担が大きいのでは」といった懸念を抱くようです。確かに、訪問看護はあらゆる年齢層や疾患、障害をお持ちの利用者さんを看ます。豊富なスキルや経験が必要だと考えて、不安ゆえになかなかチャレンジできない気持ちもわかります。 また、訪問看護師の中にも勤務時間を限定する雇用形態を選ぶ方は多いため、現場ではオンコール当番を含めてスタッフの確保に苦労していると思います。 中村: そのような厳しい状況下で、教育面ではどのような課題がありますか? 富岡: 全国の訪問看護ステーションにおける看護職の平均在籍人数は、わずか5人程度。看護職の人数が少ない小規模な訪問看護ステーションでは、OJT、OFF -JTを行おうにも限界があるのが現状です。 たとえば新任者教育のために同行訪問を行うにしても、得られる訪問料はひとり分なのに対し、ステーションは2人の訪問看護師を派遣した分の負担を背負うことになります。また、スタッフを外部研修に参加させると、訪問の計画を組むのが難しくなるでしょう。 中村: 人手不足な中で、収益や日程調整などの課題があるのですね。 富岡: そうですね。それに利用者さんが置かれている状況は実にさまざまで、同じケースは一例もなく、学びには終わりがありません。これも訪問看護の難しさではないかと思います。 新任管理者に対する教育の重要性 中村: 新任管理者の教育にも大きな課題があると伺っています。 富岡: はい。最近は訪問看護未経験のまま管理者になる方が増えていて。訪問看護に関する制度や適切な運営方法、利用者さんやご家族との適切な関わり方などがわからないまま管理業務に当たらなければならず、悩む新任管理者さんが多いようです。 野崎: 2023年4月時点で、全国の訪問看護ステーションは1万5,000ヵ所を超え、新設数は1年間で約1,800に上ります。一方で1年間に700〜800の事業所は閉鎖、もしくは休止してしまうんです。 その主な原因は、富岡さんがおっしゃったように、管理者に訪問看護ステーションをきちんと運営する知識やノウハウが不足していること。せっかく「訪問看護をやりたい」と情熱をもった新任管理者さんが行動を起こしても、在宅特有のレセプト業務や地域連携といった難しい壁にぶつかり疲弊してしまいます。こうした問題をなんとか解決すべく、私たちも研修を行っているんです。 中村: どのような研修なんですか? 野崎: たとえば、岐阜県では訪問看護認定看護師協議会に所属する15人の訪問看護認定看護師が集まって、地域の新任管理者や着任3年以内の訪問看護師が悩みを打ち明け、解消できる場を提供しています。管理者同士、新人同士でお互い悩みを話し合ってもらうんです。 こうした研修会は、日本訪問看護財団や事業協会が全国で行っています。新任管理者、新人訪問看護師の育成のためには、研修会やステーション内のケアカンファレンスなどを頻回に行うのが重要だと考えています。 富岡: 私が所属する事業所にも、新任管理者の方が体験研修にいらっしゃり、その後も引き続き相談を受けるケースは多いです。ただ、時間がないために相談先を探せず、ひとりで問題を抱え込んでしまう方も少なくないと思います。 >>関連記事日本訪問看護認定看護師協議会や訪問看護認定看護師の取り組みについてはこちら「訪問看護認定看護師」シリーズ一覧https://www.ns-pace.com/series/certification-nurse/ 訪問看護師、新任管理者の相談先 中村: 今問題を抱えている方は、どちらに相談するのがよいでしょうか? 野崎: 各都道府県にある訪問看護ステーション連絡協議会や、訪問看護支援センターが相談に乗ってくれますよ。私たちのような訪問看護認定看護師や在宅ケア認定看護師も頼ってほしいです。訪問看護認定看護師は全都道府県にいるので、訪問看護ステーション連絡協議会ホームページを参照し、ぜひお近くの者にご連絡ください。 また、連絡協議会では、コンサルテーション事業やメール相談も行っています。実際にたくさんの管理者さんから相談を受けているので、みなさまも遠慮なく活用してください。あとは、経験豊富な訪問看護師からアドバイスをもらうのも手だと思います。 中村: ありがとうございます。 >>後編はこちら訪問看護認定看護師トークセッション 地域連携編【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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