教育に関する記事

インタビュー
2021年7月27日
2021年7月27日

大学立の訪問看護ステーションとして看護学生、新卒看護師の教育・育成に取り組む

看護学を教える教授でありながら、自ら総括マネジャーを務める訪問看護ステーションを立ち上げた高崎健康福祉大学の棚橋さつきさん。若い実習生を積極的に受け入れ、経営・運営の安定化にも力を入れています。その奮闘ぶりをお聞きしました。 スタッフにも意味がある学生実習受け入れ 高崎健康福祉大学が地域医療、看護を強化することを目的に訪問看護ステーションを開設して、丸6年が過ぎました。公的機能を持つ教育・研究拠点とすることで、地域貢献が可能になると考えて設立した、独立型の訪問看護ステーションです。 当時、大学立のステーションはまだ珍しく、この新しい取り組みに共感した専門性の高い訪問看護師、病院師長経験者などが集まりました。ステーションはベテランのスタッフを中心に、看護実践、教育、研究を三本柱として、2015年4月に運営を開始しました。 訪問看護ステーションは、地域によってはがんや小児など、専門特化型で経営が成り立つところもあります。しかし、群馬県内ではそう多くはありません。どのような疾患にも対応できるスタッフが多ければ、それだけ早く収支を安定させることができます。スタッフの頑張りのおかげで、開設3年目には、当初の計画通り単年度での黒字化を達成しました。 教育の拠点として、開設2年目から大学の在宅看護実習を受け入れることも、当初から計画していました。そのため、実習先の確保も考慮し、開設後の1年間で利用者数を50人まで増やす必要があったのです。これも計画どおり、2年目から開始することができました。 以来、学生実習は、4~5人を1グループとして2週間ずつ、年間5~6グループを受け入れています。今は、新型コロナウイルスへの感染を恐れ、学生実習の受け入れは控えたいという利用者もいます。そのため、訪問件数は減らしていますが、実習生の受け入れ自体は感染予防に留意しながら継続しています。 学生実習を受け入れると、スタッフには負担がかかります。開設2年目に初めて学生実習を受け入れたとき、スタッフからは「学生は何もわかっていない」「何もできない」と訴える声が上がりました。そこで私は、スタッフに大学の在宅看護の講義や演習を見学に行かせました。 数回だけの見学でも、大学教育でできる範囲で精一杯教えていること、それでも学生には十分理解しきれないことがあることを理解してもらいました。学生や大学の教育を批判しても何も始まりません。学びの途上にある学生に、現場実習の中で理解を進めてもらうにはどうすればいいのか。スタッフも、徐々にそれを考えてくれるようになっていきました。学生実習の受け入れは、スタッフにとっても意味があると感じています。 新卒訪問看護師も年度末には月50件を訪問 在宅看護実習を経験し、当ステーションへの就職を選択した学生もいます。残念ながら、多くの訪問看護ステーションは、今も新卒採用には消極的です。当ステーションが新卒者の採用を計画したときも、大学側から、新卒者を採用して育成しながら運営していけるのかという指摘がありました。 確かに、新卒者は研修期間中、一人で訪問できず収益には貢献できません。しかし、当ステーションではしっかりとした研修プログラムの実施により、入職1年目の終わりころには、新卒者も月約50件の訪問を担当できるようになりました。もちろん、訪問先の選定は必要ですが、件数だけを見ればほかの看護師と同等です。新卒でも自分の給料分をきちんと稼ぎ、収益を上げてくれる存在となったのです。それと同時に大きな成果はスタッフの教育への意識が変わったことでした。教育することで自分たちに何が不足しているのか、どのような教育をしたらいいのかを考える良いきっかけとなりました。当ステーションとしても、開設3年目に新卒看護師を常勤で採用しながら、前述のとおり、単年度の黒字化を実現しました。 新卒看護師育成の研修プログラムは、外部の病院の新人研修プログラムの受講、緩和ケアや介護現場の見学、当大学の栄養、小児、社会福祉関連講義の受講などで構成しています。 研修プログラムは2年で終了し、その後はほかの看護師と同様の研修に移行します。4年間で2名の新卒看護師を育成したことで、研修プログラムを整備できれば、訪問看護ステーションでの新卒者受け入れに問題はないと感じています。そうした理解が、多くの訪問ステーションに広まり、新卒の訪問看護師が増えていくことを願っています。 (後編へ続く) ** 棚橋さつき 高崎健康福祉大学 保健医療学部 在宅看護学 教授・ 高崎健康福祉大学訪問看護ステーション 統括マネジャー 記事編集:株式会社メディカ出版

コラム
2021年5月25日
2021年5月25日

医師のいない場で医療的判断を行うスキルと在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)

第3回ではマネジメントスキルなどについてお話をさせていただきました。今回は、医師のいない場で医療的判断を行うスキルや在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)についての考え方をお話したいと思います。 訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル ②本人・家族の平時の生活を想像するスキル ③他職種とコミュニケーションを取るスキル ④マネジメントスキル ⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル ⑥在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) ⑦医療制度・介護制度などに関しての知識 ⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 訪問先での不安感 病院や外来診療所に勤務されている看護師さんは、医師がいない場で医療的判断を行うことに心的ハードルを感じられることが多いと思います。私自身、いくつかの病院で在宅医療部の立ち上げの支援をさせていただきましたが、その際に在宅医療部に配属となる看護師さんを決めるステップの時に、かなり時間を要することがありました。やはり在宅医療という未知の分野に入ることに対しての不安感や、自身のスキルに対して不安に思うことなどが影響していると考えています。 また、実際に配属の看護師さんが決まっても、訪問看護師ではなく同行看護師として業務を開始することが多いです。少し複雑ですが、同行看護師は訪問診療の際に医師に同行する看護師であり、一人で患家には訪問しません(在宅患者訪問看護指導料など、医療機関からの訪問看護に関する算定は発生しないモデル)。そういった同行看護師さんに伺うと、一人で患家に訪問することに対してのハードルとしては、 1.何かあった時にひとりで対応できるか不安である。 2.患家で医療的判断を本人・家族から求められたとしても、それは医師の仕事だと思うので困る。 と、おおよそ上記2点に集約されました。 1.何かあった時にひとりで対応できるか不安 「慣れ」の話になるかもしれないですが、病棟勤務や外来勤務といった基本的に医師が傍にいる状況、もしくは院内PHSなどで緊急時に医師にすぐに連絡がつく環境での勤務経験が長いことに起因すると思われます。 しかし、詳しく話を伺うと、病院勤務であれ、外来勤務であれ、何かあった時にひとりで対応した経験がある看護師さんは非常に多いことがわかりました。よく考えれば、これは医療有資格者として普通のこととも言えますが、訪問看護というもののイメージ沸かず、これまでと違った環境での業務が、その不安を助長させている可能性を示唆しています。 2.医療的判断を本人・家族から求められたとしても、それは医師の仕事だと思うので困る 1の不安感に繋がる部分もあると思いますが、医療の方針などをご本人やご家族に説明するのは医師、という考えを強く持たれていることが要因と考えられます。医療的判断における看取り方針の確認や、薬剤の使用判断などについての判断は、通常医師が行いますが、より療養に近いレベルでの判断は、病院でも実際は看護師さんが実施しています。例えばバイタルのチェック回数やタイミング、食事介助方法、発熱患者さんへの水分摂取促進などがそれにあたります。これらももちろん医療的判断ですが、そのすべてに対して医師の指示があるわけではありません。 つまり、訪問先で求められる医療的判断の階層レベルの不明瞭さにより、こういった考えに至るものと思われます。とはいえ、こういった不安や考えを持たれていることは事実であり、現に訪問看護師として働かれている方も、このような気持ちをもって働かれている方もいらっしゃると聞きます。これらの訪問先での不安などを解決するために必要な考え方やスキルをお話したいと思います。 医師のいない場で医療的判断を行うスキル 医療的判断を行うスキルについて、ここではどういった症状に対して、どういった医療的判断を行えばよいか、といった具体的な疾患・症候別の話ではなく、どういった考え方に基づいて、訪問看護師として医療的判断を行うかをお話します。 その考え方は基本的に、訪問看護師さんが訪問先で医療的判断を行う範囲を決める作業と、急変時の対処方法を確認する作業の整理となります。具体的には、これまで何度もお話していることではありますが、まずはご本人やご家族への方針確認の際に望んでいること、やってほしくないことを吸い上げることから始まり、そこに本人の病態やADLなどに合わせて、医師から医療的・日常療養的包括的指示を受けます。これにより、訪問看護師が実施できる枠組みが決まり、この枠組みの中で訪問看護師として医療的判断を実践することになります。 この時に、医師からの包括的指示のみでは、訪問看護業務が本人や家族の意向に沿うものかどうかがわからなくなるため、必ずこの意向確認が必要となります。また、急変時の家族不在時の連絡方法や搬送基準なども、本人・家族や主治医とともに決定されていれば、医師がいない場での医療的判断について、訪問看護師として困ることや不安に感じることは大幅に減ることと思います。 前述の「何かあった時にひとりで対応できるか不安」や「患家で医療的判断を本人・家族から求められたとしても、それは医師の仕事だと思うので困る」といった思いについては、この枠組みが決まっていない、もしくは枠組みが見えていないことに起因すると思われ、訪問看護師として何をどこまで行ってよいのか、またどこまで判断してよいのかが不明瞭になっている事が非常に多いことが要因と思われます。 まとめると、医師のいない場で医療的判断を行うスキルというのは、本人や家族の意向と医師から包括的指示の確認+緊急時の対応方法の確認、これらを確認するスキルと言えます。ただし、日常業務が忙しい中で、利用者さん全員の具体的な意向や、搬送基準などの吸い上げが難しい場合もあると思います。その際は、独居の方、重症度が高い方、看取り目的で在宅療養を開始した方をまずは優先し、実施してみてください。 いずれにせよ、やはり重要になるのは第1回目に述べた「本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル」となります。 在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) 「看護は芸術である」というナイチンゲールの言葉があります。おそらくこれにはさまざまな意味合いがあると思いますが、ここでは、利用者さんの疾患やADLに対しての療養環境を、どういった考え方のもと、みなさんが持っている看護技術を用いて整えていくか、という視点でお話したいと思います。 以前、「本人・家族の平時の生活を想像するスキル」の回で「探偵力」という単語を使い、利用者さんの日常の療養生活を想像するためのスキルについてお話しましたが、今回は療養環境を整えるための「工夫力」についてです。 療養環境の整備には、ご本人やご家族の思いを吸い上げた上で、それを達成するため、またはそれに少しでも近づけるために、看護師さんならではの視点・感覚が必要となりますが、この環境整備のためのスキルを工夫力と捉えています。重要なことは、「おそらく○○だろう」といった自身の主観をもとにした判断でアプローチしないことです。 たとえば、分かりやすい例としては、排尿行動による転倒に対しての療養生活の整備です。転倒を減らすには、ポータブルトイレの設置による動線管理や、オムツの使用、膀胱留置カテーテル挿入といった動線自体をゼロにする方法があります。この方法により転倒は減ると思われますが、ポータブルトイレの設置が「転倒は危ないから」といった判断材料のみであった場合、前述した「ご本人・家族の思いを吸い上げ、それを達成できるか」の検討が無いことになり、主に介護者視点でのリスク管理的な療養環境の整備となってしまいます。ご存じのように、排泄は本人の自尊と強く関係するため、排泄方法の変更の際は、まずご本人がどうしたいか?家族としてはどうあって欲しいか?といった意向を確認してから、トイレまでの動線確認およびその改善、移動をサポートする方法の提案、夜間のみのポータブルトイレ利用といった看護師さんだからこそ気付く工夫力を発揮していただきたいです。 ただし、認知症の方などの場合、転倒リスクを低下させることが優先になることもあります。ここで注意していただきたいのは、認知症の方はこれまでの行動が刷り込まれていることが多く、排泄方法をトイレからポータブルトイレに変更する場合、ポータブルトイレが排泄する場であると認識するのが難しいことがあるということです。そのため、例えばご本人にインプットされているトイレまでの動線上にポータブルトイレを置き(場合により、動線を塞ぐ形で)、少しずつそれが排泄する場であると認識できるように誘導する、といった工夫もあると思います。他に褥瘡の処置などでも、ご本人の状況や意向で、どの程度まで改善を目指すのかを確認し、それに対して工夫力を生かす、といったことも同様の考え方です。 ここでは非常にわかりやすい例として、排泄による転倒に対しての療養環境の整備を挙げさせていただきましたが、さまざまな療養下にある利用者さんの意向に沿う形で、みなさんの「工夫力」を発揮し、ご本人・ご家族と一緒に「看護は芸術」として、その療養環境を作り上げていってください。 本コラム第4回目として、医師のいない場で医療的判断を行うスキルと在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキルついて述べさせていただきました。次回は、医療制度・介護制度などに関しての知識ついてお話したいと思います。 医療法人プラタナス松原アーバンクリニック訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

インタビュー
2021年4月27日
2021年4月27日

低い離職率を実現する採用戦略と教育システム

人材不足が大きな問題となっている訪問看護業界。株式会社ツクイは訪問看護事業を拡大しつつも、低い離職率を実現しています。 今回は、事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに、離職率低下につながる採用戦略や教育システムについて詳しくお話を伺いました。 採用プロセスの工夫 ―看護師の採用において何か工夫されていることは? 竹澤: 特別なことはしていないですが、採用説明会は時間とお金をかけて必ず3日間ほど開催し、私も必ず行くようにしています。その後体験会も実施しています。説明会の参加者は多いときで1日10~20人ほどで3回に分けて行うこともあります。 応募は、ハローワーク経由でも十分にありますし、友達の紹介や、社内の紹介制度で社内移動してくる人もいます。また、各地域に配属されている、リクルーターという採用担当者から、各地域の状況や分析した情報をもらっています。 ―説明会の後はどのような採用プロセスなのでしょうか。 竹澤: そのあとは一次面接が管理者、二次面接は私かエリア長が行います。管理者面接の場合は、私が一次面接から行きます。採用面接は大事にしていて、会社の概要から訪問看護の説明も含め一時間くらい話し、そこから面接に入ります。 その後着任するまでは、リクルーターから状況確認や必要資料の手配など、しっかりフォローをするようにしています。 ―応募される人は、病院に勤めている人が多いですか?皆さん、どのような理由でツクイを選ばれるのでしょうか。 竹澤: 休職中の方もいますし、病院勤務の方もいます。会社が大きいということと、会社としての教育体制が整っているという部分をご評価いただいているようです。 給与体系が東京を標準として全国で概ね一緒であることや、管理者にも残業代が出るという部分も理由かもしれません。 採用時大切にしているポイント ―採用する側として、こういう人を採用しているとかはありますか。 竹澤: 採用基準は設けていませんが、「つくいびと」という社内の指針に合っているかを面接で見ます。人間性が一番のポイントですね。看護経験はあとから積算できますし、看護技術や知識はこちらで教育することができるので。 最近、経験年数は少ない若い看護師が入りましたが、病院の経験に根付いているベテランよりも、若い子の方がスッと入り込める部分もあり、お客様からのクレームもすごく少なかったりします。そのとき最善の判断や、対応ができるようになるには時間がかかるかもしれませんが、新人の看護師でも採用して育てられる土壌にしていくのが目標です。 ―管理者はどのように探し、アサインされるのでしょうか? 竹澤: 知人の紹介などもありますが、他社と同様に人材紹介会社やハローワーク経由での募集もします。ツクイブランドの力もあってか、応募は結構あります。皆さん一般職で応募されてきますが、その中から「この人なら管理者に向いているな」と思った方をアサインします。 管理者になる人は、管理者経験や病院などで主任や副師長などをやっていた人が多いのは事実ですが、ツクイの管理者業務は明確に文章化されていて、わからない事を聞ける体制もしっかりしているので、引き受けてくれる方が多いです。 ―離職率はどのくらいですか。低い離職率を実現するためには何が必要でしょうか。 竹澤: 一年間で辞めた人は、10%ほどです。ミスマッチがないよう、採用面接のときにツクイの将来性も含めて、働くイメージをわかりやすく伝えるようにしています。 訪問看護だけでずっと働いて、疲れ果てて辞めてしまうということにならないよう、社内で異動ができたり、次のステージを用意したりして、夢を持って仕事をしてほしいという話もします。ご縁があってツクイで働いてくれている看護師には、「ツクイで働いてよかった」と思ってもらいたいです。 管理者には「10褒めて、1指導する」ということを伝えています。この仕事はストレスも多いので、スタッフに感謝を伝えることを大切にしています。 教育システムを効率化する ―教育についてはどのようなシステムになっているのでしょうか。 竹澤: 最初に、「ツクイの基本」を身に着けてもらいます。e-ラーニングを使って、制度の事や記録、ハラスメント、ダイバーシティ、コンプライアンス、ツクイの考える育成、衛生管理などさまざまな内容を3日間で受講します。 その後、管理者や所長によって看護のオリエンテーションを行い、現場でのOJTとなります。現場が忙しい事業所だとOJTに入りながらオリエンテーションを行うところもありますが、2021年度からは管理者に負担をかけないよう、WEBでも教育サポートができる体制を整えていく予定です。 ―OJTの後はどのようなフォローを?教育パスはあるのですか。 竹澤: 看護ではおおまかな教育パスのようなものがあります。一人ひとり経験値が異なるので、目標設定は管理者がそれぞれに応じて行い、フォローしていきます。 管理者教育に関しては、定期的なe-ラーニング研修を年に2回行い、数字の見方、営業戦略、医療的な内容などを学びます。新しく入った人が管理者になる場合は、導入研修のあとに試験があり、それに受からないと管理者にはなれません。 また、ツクイではキャリアパス制度を設けていて、スペシャリストコースとマネジメントコースに分かれています。eラーニングの中にも、それぞれのコースに沿った内容があり、一人ひとり、特性に合ったコースを選択できます。 管理者にはなりたくないと思っていても、スペシャリストとしてキャリアアップすれば給料もあがりますし、専門性も高めることができます。 ―それらの教育システムは誰が作っているのですか? 竹澤: 人事です。項目は100から200ほどありますが、今後は訪問看護ならではの項目も入れたいと考えています。日本訪問看護財団が出しているeラーニング(※1)も受講してもらっています。 教育システムはすべてマニュアル化され、eラーニングの見方から、いつ管理者になっても困らないようなシステムを整えています。 また、サービス管理部では、事故起こしたときの対応から書類の書き方まで、管理者がそれを見れば対応できるようなシステムを作っています。まだ足りていない部分もありますが、介護事業でツクイが培ってきた経験が、教育システム作りに活かされていると思います。 ―今後、教育に関して取り組んでいきたいことはありますか? 竹澤: ラダーにそった教育を可視化できるようにしたいです。導入研修や管理者研修など、管理者向けの部分が多いので、スタッフもスキルアップできる制度を作りたいと思っています。 他社のような研修室をつくるのもいいなと思います。オンラインもいいですが、対面でできる研修も大事にしたいです。   【参考】 ※1 公益財団法人 日本訪問看護財団 eラーニング https://www.jvnf.or.jp/e-learning/ ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美

コラム
2021年4月20日
2021年4月20日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 営業編②~

第6弾は前回に引き続き、営業に関する方針を列記します。「営業」という言葉やその活動に違和感を訴える医療職が多いのは事実ですが、「営業」をしなければ健全で永続的な経営が成立しないのもまた事実です。経営者・幹部の皆さんは建前ではなく、真に地域や社員に利益を還元する為にも、是非「営業」を実践してください。 営業方針 ①お客様・ご紹介先への訪問によって、お客様や市場の要求の本質、変化を知ることができます。さらに、ライバル(競合事業所)の動向も具体的に情報が入ります。相手の手の内が解れば、打つ手は無限です。ただし地域には不正・不当を行う競合事業所が存在し、(医療介護業界においても一般社会と同様です) 他社の模倣ばかりを行なったり、横取りも平気で行います。これらとは毅然と対峙し、営業力・経営力で凌駕(りょうが)(=上回ること)します。 ②安定とは現在のお客様をよく守ること、成長とは新しいお客様が追加されることです。どんな事業でも売上増の原則は、単価×数量です。訪問看護の制度上、単価は一緒なので、数量を獲得する為の追及が重要です。その為の営業方針であり、営業戦略・戦術なわけですが、ソフィアメディ(株)創業経営者の水谷氏は「1年前と同じお客様数しかいない経営者に敬意を持ちません。成長が止まっており不遇を味わうのは社員だ。」と経営幹部に指導していました。 ③決めたエリアの市場占有率(シェア)が大きいか?小さいか?が優良・限界企業の定義です。一定地域内で市場占有率がどの位置にあるかということに、常に留意しなければなりません。 そして質の高い経営とは、全て単位あたりの数値(※1)で他社と比較して有利を得ていることです。 ※1:事業所あたりの売上・利益、1人あたりの労働生産性、社員の給与、社内教育の投資額、お客様や社員の満足度等々、全てにおいて1番を目指すことが質の高い経営だと、水谷氏は説きます。その大前提が地域内でシェアが1番大きいことなのです。 ④営業戦術を実施する際、例えば営業のツール1つを作成して地域へ案内するだけでも、シリーズ化、ストーリー型、派生型等があり、唐突な内容ではなく脈略のある手の打ち方、機微を読むセンスが肝心です。とくに「感動を与える」と、その内容を人に喋りたくなり、口コミでお客様が増えていきます。感動する「コト」を実践し続ける企画力が、営業コミュニケーションの一つのコツです。 ⑤定期訪問営業の信頼性の上に立った提案、企画はよく通ります。不定期で洗練されていない、欲しいときだけの自分都合の営業は、不快感を与えます。ご都合主義の営業にならないよう計画を立て、実践してください。また、年数回でかまいませんが、社長・幹部・管理者・専門職の同行営業も実施すると営業効果は抜群に上がります。節目節目で時間を作って、こちらも計画的に実践することが大切です。 一方、地域の競合事業所において、非医療職の総合職が定期訪問をしている場合は要注意です!彼らは、医療介護業界の慣例・常識にとらわれず、成果を上げる為の知恵を駆使してきます。裏に参謀・軍師の存在がありますので、戦略・戦術のレベルを上げる必要があります。戦略・戦術のレベルを上げるのは一朝一夕では成せませんが、まずはそういった競合他社がいないかアンテナを張る、その上で前述のとおり相手の手の内を研究し、一つ一つ課題をクリアしていってください。 ちなみに、専門職がたまに営業をしている組織は放置しても問題ありません。仲良くしてください。 ⑥紹介成果は、訪問回数の二乗に比例します。これはランチェスター戦略の基本ですが、期待以上の効果を発揮します。 営業訪問した際、ご不在時でも必ず置き名刺にコメントを書いてください。また、名刺を工夫する、時流/自社ニュースを提供する、時節の挨拶関連、はがきのお礼は必須です。すべて接触頻度を上げる為の知恵ですが、ただ実践すれば良いということではなく、感性(センス・先読み)と人間性(気が利く、誠実)が最高の差別化になります。 ⑦メーリングリストやライングループ、クラウドのプラットフォーム等は、毎日の共通認識手段です。競合情報・必要な指示・評価・労いは、遠慮なく書込むこと。社長は営業現場を大事に考え、毎日確認するのが必須です。 ⑧基本である訪問営業と併せて、SNS・ICTの駆使、メディアの活用、双方向性のある媒体営業の活用が医療介護業界の課題です。これを制する事業者が次世代の医療介護業界を牽引していくものと見ています。 ⑨営業がわからない・嫌い、売り方が下手な者は、経営幹部として通用しません。 大きな会社になると分業化が加速しますが、商売の基本は、まず営業です。利益・成果は外部・お客様からのみ得られます。この原理原則がわからず、社内仕事や仕組み作り、コストカットにばかり没頭する幹部は良くない、というのが水谷氏のもっぱらの口癖でした。 いかがでしたでしょうか。ソフィアメディ(株)創業経営者の水谷氏は、創業から一貫して営業現場に拘り続け、社長を退くまで第一線で指示をし続けて参りました。定期的に営業マンと泥臭く同行営業、月2回の営業会議には全て参加、どんなに多忙でも営業報告には全て目を通して細かく指導する。おそらく最も身近で見続けてきた私からしても、その営業姿勢はまさに「営業の鬼」でした。(水谷氏本人も、よくそう申しておりました。) 従業員やお客様が少なかろうが多かろうが、営業現場を知らずに健全経営ができるわけがない、という経験に基づいた思想ですが、それが業界オピニオンリーダーたる所以であります。 「着眼大局着手小局」。よく水谷氏より指導された言葉ですが、経営と営業活動の関係性に当てはめるとたいへんわかりやすく、具体的に行動しやすいかと思います。是非貴社事業所でも実践してみてください。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務  【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

コラム
2021年4月13日
2021年4月13日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 営業編①~

 第5弾は、いよいよ営業に関する方針を列記します。戦略や戦術が幾ら立派でもお客様を獲得する営業が稚拙であれば、経営は絵に描いた餅に過ぎなくなります。 ※訪問看護サービスを利用する対象者には敬意を表して「お客様」と言います。よく使われる利用者という呼称は行政的であり、お客様に対して失礼にあたると考えています。 作り上手の売り下手では、将来会社を潰します 水谷氏は医療介護業界にも通じる考え方としてよくこの慣用句を用い、サービス業・商売の基本である「売る」という行為・プロセスを、他の何よりも大事にします。 ①能率とコストと品質管理がなどは経営の一部である。経営の大局はサービスや商品を買って頂く「顧客の創造」であり、繰り返しの仕組み作りである。新規のお客様をいかに獲得し、そしてリピーターになってもらうかに物量をかけるべきと説きます。 ②訪問・店頭・配置・展示・媒体と(通信)という営業・販売方法があるが、英知を結集して独自性を高め、訪問と媒体販売を最強にしてお客様を括ります。 ※他社との差別化に徹底的に拘り物量(ヒト・モノ・カネ)をかけるのはもちろん、現代においては、いかに媒体とくに情報(広告・紙・WEB・口コミ他)を扱うかが肝であると考えます。 ③競合より圧倒的な経営姿勢・事業構造の強み、サービスのバリエーションと取組み姿勢に違いなど徹底的に発信します。お客様、地域、応募者から最も多く、そして最初に選択される組織を目指します。 ④訪問看護の購買行動モデルは以下が基本フローである。 1.集客=見込みの確保(ローラー営業を含めて、沢山集める) 2.見込み客のフォロー(買いたい、頼みたいお客様を育てる) 3.販売(現実のご紹介を頂く) 4.顧客化(メンテナンスを継続して再紹介・ファン化する。目的は我社のことをお客様から消されない。コミュニケーション力=接触回数と感動の勝負) ※当然この流れの中に、「検索」「比較」「評価」「共有」といった要素も入ってくる。 ⑤イベントがどれだけ新規顧客の開拓や売上増に効果があったか論を待たない。相手先の創立記念日、春夏秋冬の行事、お祭り、年36回の旬、専門技術の理解、実施指導、町内会の巻き込みなど、知恵と工夫には際限がない。行動するかどうかです。机上で妄想したり計算したりする暇があったら、実践現場での「お客様の生の声・評価」を得よ、というのが水谷の営業実践術です。 ⑥「気づき、気配り」名人であり、フットワークの良い「ハイ、喜んで」の姿勢が、営業マンの好感度を高めます。お客様やケアマネジャー、病院関係者、在宅系事業者は営業マン・社員の感じ良さで商品、サービスを買っています。対面ビジネスの基本であり、営業の真理です。これはWEB等が進化した今も、根底の考え方は同じです。 いかがでしたでしょうか? 水谷の営業戦略・戦術のごく一部ですが、たいへんシンプルな基本姿勢かと思います。良いサービスを提供する為にも「会社を潰さない」、それには、やったかやって無いか、獲るか獲られたかの実績こそが、まず営業の原点。サービス業・商売の基本であります。この点をおろそかにしているから、毎年700件以上もの訪問看護事業所が無くなっているのです。 ー次回(近日公開)に続きますー ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務 【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

コラム
2021年4月6日
2021年4月6日

訪問看護の社長業 ~創業経営者 水谷氏から学んだこと 育成編~

教育・研修の意義、大切さは前回整理した解説でご理解頂けたかと思います。今回はさらに「社員の人間育成」を意識した内容も掲載し、解説したいと思います。 自信と誇りがもて、成長と自己実現ができる人生への誘導 1.環境の変化に強く協調性の高い人物を育成について かぼちゃ作りの名人 まず種を撒いて目が出るのを待ちます。その芽に対して小石や瓦を上からばら撒きます。それでも伸びてきた茎に対して、今度は手で引っ張ります。少し根っこが切れるぐらいに引っ張ります。これでできたかぼちゃは、甘くてホクホクした美味しい味を出します。 この「かぼちゃ作りの名人」の内容は、捉え方は様々でしょうが、人の育成にも通じる(自然界の)本質的な原理だとして、水谷はよく上記の例文を使用します。 2.プラス思考の人間育成を目指すには 仕事(人生)の成果を計算式で表す 仕事(人生)の成果=考え方(-100~100点)× 熱意(1~100点)× 能力(1~100点) ・人は能力があっても熱意があっても考え方が間違っているために、十分な成果を出せないことが沢山あります。能力があっても「考え方がマイナス」では、掛け算をしても答えはマイナスになってしまいます。 ・考え方が間違っている人、マイナス思考の人は、自分だけでなく、自分を取り巻く社内の同僚にも悪影響を及ぼします。こういう人は自分の利益のためだけの熱意は高得点ですので、全体のマイナス(損害)は相当に大きくなってしまいます。 ・今は能力があろうとなかろうと、強い熱意とプラス思考で行動し続ければ、人生の何処かで必ず良い成果を生み出します。 3. 存在価値の高い生き方を目指す お客様や同僚や会社から「あなたがいるから」と頼りにされ可愛がられて、強く必要とされる存在価値の高い生き方を目指します。上記1.2を意識した人格形成を実践し続けることによって、自然と「自己重要感※1」が充足されていきます。それに伴って、自信が満ち、人生の自立度(経済、立場、名誉)も向上していきます。 ※1 所説ありますが、人の存在の根底にある「自己肯定感」=どんな自分であっても存在すること自体に価値があると感じる感覚。「有能感」=知識・技術、地位や名誉や立場、など能力がある自分をすごいと感じる感覚。この両者を合わせたものが「自己重要感」であるとされています。 いかがでしたでしょうか? 水谷が時折実施していた経営者・管理職・管理者向け研修「人間学」の中の一項目でもありますが、訪問看護事業の経営や運営をうまくやるには、目先の運営技術だけではなく、人間育成も重要だということが少しはお分かり頂けたと思います。ご紹介した内容の実践が基礎(最初の一手)にあることによって、地域評判が高まり、収益も安定し、教育に投資→技術向上、さらに地域評判が高まる、というスパイラルが生まれると言っても過言ではありません。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務   【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

コラム
2021年3月30日
2021年3月30日

訪問看護の社長業 ~創業経営者 水谷氏から学んだこと 教育編~

前回までの2回は人事部門の大切なポイントを紹介しましたが、今回は教育・研修部門の考え方、重要性について「社長業」の視点でお話します。  コラム執筆者:一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー/理事長  上原良夫 教育・研修の基本的な考え方 まず大前提の考え方としては、製造業で言うところの「物を仕入れたあとの製品⇒商品への加工作業に値するのが、教育・研修部門」となります。このように教育・研修部門をとらえれば、少しわかりやすいかもしれません。「物を加工する」という工程を、訪問看護業に置き換えればいいわけです。 また、基本方針として「年間メニューの多様化と業界一番の品質作り」を掲げます。 そして細かな方針や定義を列記して、やはり朝礼で読み上げることで、方針を内部に認識、普及・浸透させていきます。 以下、列記したものはその概要です。 ①中核となる医療専門職は3~5年を基準とするが、教育・研修の質・量に自信がもてるところから段階的に3年未満の方や新卒を受け容れていく。もちろん新卒とは報酬に差を設けていく。 ②教育・研修の目的は、志を高くもつ、利他の心を高める。原理原則を守る、人間性(思いやり、熱意、誠意、素直な心)を高める、お客様を幸せにする、自分の幸せも追求する、ことをバックアップすることを根本に置いている。 ③訪問看護未経験でも研修期間内で一定のスキルを習得して実務者に仕上げる。但し、管理者評価が低い場合や周りに評判が低い場合は、専門性不足?常識不足?在宅不向き?メンタルヘルス問題?か、その状況に応じて、再教育、雇用契約変更の調整をする。 ④同行訪問と座学指導も交えて実践に導く。初任者~従事者~中堅~管理者候補~管理者用研修とメニューもフォローも充実させて、現在の安定と将来の成長が実感できるようにする。 ⑤臨床経験スキルは基本的に通用するが、1年間は経営方針書の遵守と先輩指導のもと事例の積み上げである。2年目から各自に見合う量と質を安定させる。3年目でやり方・応用に自信が付き自分流が確立します。1年目は真似て型を守り、2年目は自分のやり方に改善、改良を加える。3年目に現業の確立と新たな領域を開発する、守破離の思想である。 ⑥外部への研修希望は予めの申請を必要とする。1人1回1万円程度は認める。但し1人当たりの参加回数、総額に一定の上限を設けて管理する。 ⑦全職種資格別の専門的は症例検討会、リーダー研修、フォローアップ研修、マネジメント研修等を、会社の成長に応じて段階的に実施する。 ⑧訪問看護ハンドブックを作成して、医療専門職、総合職、事務職で毎年担当を変えてブラッシュアップを継続する。 在宅の小規模事業所では、定期研修の実施や勉強会プログラム貧弱なところが多々あると認識しています。ノウハウや手間が必要で予算もかかりますが、教育体制次第では外部からの技術的信頼を得ることが難しいのはもちろん、向上心の高い内部スタッフにおいても、自己研鑽の場が少ないことというのが不安材料になったり、退職理由に結びつくことさえあります。もちろん採用時においてもこの点が充足しているか、教育研修方針があり機能しているか、といった点が志望動機にもなりますので、ぜひ参考にして頂ければと思います。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【略歴】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務   【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

インタビュー
2021年3月23日
2021年3月23日

管理者インタビューMy Care Style vol.1

管理者インタビュー『My Care Style 』第1回目は、訪問看護ステーションリカバリー看護師の柴山様にお話をうかがいます。 スタッフに対しても、利用者さんに対しても、相手の視点で考えることを大切にしています。 訪問看護ステーションリカバリー 看護師・柴山 宜也(しばやま よしなり) 消化器急性期病棟で3年、老健やデイサービスで1年働いた後に、訪問看護未経験で現在のステーションに入社し、7年目になります。身内の不幸をきっかけに看護師を目指し、初めは看護技術を習得するために、急性期を極めようと大学病院に勤務しました。しかし、「そもそも倒れないような関わりが必要なのでは?」と思うようになったことで高齢者医療や予防医療に興味を持ち、「倒れても対応できる看護師から、倒れないように対応できる看護師へ」と考え方が変わりました。 休日は、今は家族と過ごすことが多いですが、以前は勉強会に積極的に参加して他のステーションの管理者や責任者、その他医療介護業界の方と交流をしていて、それが今の新宿医介塾の運営につながっています。 Q ステーション運営で心がけていることは? 相手の立場に立って考えることが大事だと、過去の経験から痛感しています。 初めて管理者になったときはとても意気込んでいて、新人が少しでも早く一人前になれるように情熱を注いだ結果、逆効果になったことがありました。新人に対して1から10まで教えて、完璧を求めてしまったために、パンクしてしまったのです…とても反省しています。 今は、新人の気持ちや、本人が受け入られるキャパシティを見極めた上で、話し合いながら育成するようにしています。 新人教育は、基本的にはOJTがメインで、現場チューター制度をとり、担当をつけつつチームで教育を行っています。管理者は全体の教育を考える立場ですが、新人と年齢が離れていることで話しづらい時もあり、気軽に相談できるチューターが中心になって進めています。 新人には3ヵ月同行しますが、みなさん優秀で、3ヵ月経つと8割以上は一人前になります。あとは、その中で見ていない疾患に同行したり、契約を覚えてもらったりで、おおよそ一年で大体の業務は対応できるようになります。 管理者以外のスタッフにも契約を覚えてもらい、重要事項説明をしてもらうのは、お金の管理も含めて、「訪問看護の対価はどのくらいか=自分の価値を知る」を理解してもらいたいからです。 リハビリ職など他の職種とのコミュニケーションについても、相手がどう考えるかを常に気をつけています。 看護師には看護師なりの考えがあり、リハビリにはリハビリの考え方があり、利用者さんにとってはどちらも大切な専門職です。双方の異なる価値観を尊重することが、お互いの知識と経験を養い、成長につながり、結果的には利用者さんにより良いが提供できると思います。 しかし、看護職はリハビリ職を「大切なパートナー」と考える人もいれば、残念ながら「下級医療職」と見下してしまう人もいます。また、リハビリ職は「看護師は忙しそう、話しづらい」と考える人もいます。 そういった垣根を壊すような運営方針、取り組みを行っています。 またマネジメントについては、もちろん社内の人にも相談はしますが、個人的に参加していた勉強会で社外の管理者などと知り合うことができ、社外にも相談できるネットワークができたのは財産です。 Q 利用者さんに対して心がけていることは? 大きくは二つあります。 一つは、会社理念でもある「もう一人の家族」の視点で関わること。 「利用者さんが自分の両親、親族だったら何をしてあげたいか」「もし利用者さんの家族に医療者がいたら、どんな相談をしたいか」を親身になって考えるようにしています。 もう一つは、思い込まないこと。主訴の裏には大きな異変が隠れていることもあります。 家族から「朝、寝室から起きてきて、リビングでくつろいでいたけど、リビングで寝たまま起きないんです」と相談されたことがあります。糖尿病のある方だったので低血糖も疑って訪問してみると、脳梗塞を発症していて除脳硬直状態、すぐに救急搬送になりました。 病院と在宅では、いくつか違いがあります。 病院では患者さんが病院に治療を受けに来ますが、在宅では利用者さんの療養している家に私たちが入ります。看護師は、病院ではホームですが、在宅だとアウェイです。そのため、アウェイでは利用者さんとの信頼関係がものすごく重要で、知識・技術以上に人間性、コミュニケーション力が求められると思います。 また病院では、一人の患者さんにじっくり向き合うことが難しいのが現状ですが、在宅では利用者さんとの決まった時間が確保されています。その時間の中で、精一杯利用者さんに向き合うことで、信頼関係が構築できた時はとてもうれしいですね。 病院では「看護師さん」や「リハビリの先生」と呼ばれますが、訪問看護では名前で呼んでくれる利用者さんが多いです。それは人として向き合ったことで、看護師個人として評価・信頼してもらっている証だと思っています。 Q 未経験の方にメッセージをお願いします。 「訪問看護をやりたい!」と思っていても、学校の先生や、病院の先輩から「まだ早い」とか「色々な科を経験してからじゃないと」とか、いろいろ言われる業界ですので、ハードルが高く感じる方もたくさんいると思います でも一番大事なのは、訪問看護に対して興味があることではないでしょうか。目の前の患者さん、利用者さんとがむしゃらに関わることができる人であれば、臨床経験の長さはあまり問題にならないと思います。 ITが普及している昨今であれば、訪問時に困ってもすぐに先輩に相談できますし、教育体制がしっかり整っているステーションもあります。実際、私たちのステーションも未経験者ばかりですが、みなさん楽しそうに訪問しています。 「できるか、できないか」ではなく、「やってみたい」という前向きな気持ちが何よりも大切です。ぜひチャレンジしてみてください! ** 会社名:Recovery International株式会社 ステーション名:訪問看護ステーションリカバリー 併設サービス:訪問マッサージ 所在地:東京都新宿区西新宿6-16-12第一丸善ビル6階 最寄り駅:都営大江戸線西新宿5丁目駅 ■職場環境 スタッフ数:看護師10名、セラピスト10名 年齢層:23~40歳。平均年齢32歳 訪問エリア:主に新宿と渋谷方面 移動手段:基本は電動自転車。悪天候時は公共交通機関を使用 周辺環境:都庁や新宿中央公園があり、都会の中でも緑が多い。オフィス街と住宅街があり、周囲には飲食店も多く環境は良い。 オンコール対応:東京では希望性のため月1回から。希望した場合や指導する立場の看護師は月8回程度。実際には平均月10回程度で、半年以上オンコールに呼ばれない看護師も多くいる。電話は1日1~2回で、18~22時にかかってくる電話が7割以上、深夜は月に5回未満 ■利用者層 疾患の傾向:ご利用者さんを重症度などで選定していないため、要介護5から要支援1まで請け負っており、さまざまな疾患がある。ALSやパーキンソン病などの難病の方、癌末期の方、糖尿病や慢性腎不全や心不全を抱えている方など 保険別の割合:季節にもよるが、介護保険が7~8割、医療保険が2~3割程度

コラム
2021年3月16日
2021年3月16日

訪問看護師にビジネスマインドを持ってもらうには?

「看護師が一件一件の訪問に時間をかけ過ぎていて、トータルの訪問件数が増えず、売上が伸びない…」 「ステーション管理者が、労務管理やコンプライアンス遵守の感覚を持っていない…」 「人材採用やスタッフ教育を、もっと現場でしっかりやって欲しい…」 訪問看護事業を「ビジネス」として運営する事業者は、訪問看護師やステーション管理者などの専門職に対して、上記のような悩みや要望を持っている場合が多いようです。特に昨今は、訪問看護業界に民間事業者の参入が増えていることもあり、医療現場の経験がない「ビジネスマン」と、ビジネスの経験がない専門職が、お互いにカルチャーショックを受けるケースが増えています。事業者が日頃慣れ親しんでいるビジネス用語を使って現場業務の改善をリクエストしても、専門職がその意味や意図を十分に理解できず、一方的に指示を出す事業者に対して「現場のことをわかっていない!」と反発心を覚えるケースもあるでしょう。 本稿では、事業者を主な読者と想定して、訪問看護師にビジネスマインドを持ってもらうための、専門職とのコミュニケーションにおける工夫と心構えについて考察します。 コラム執筆者: 株式会社メディヴァ/コンサルタント 内野宗治   「奉仕の精神」と「ビジネス」は共存可能という現実を伝える 多くの事業者が「専門職はビジネスマインドに乏しい」と感じる背景には、専門職が経営やビジネスについて学ぶ機会を持つことが少ないという現実があります。 例えば看護学校や病院では、看護技術や「患者のための奉仕の精神」は学ぶものの、医療機関の経営やマネジメントについてはほとんど学びません。また、医療は公的な社会資本であり、多くの民間ビジネスのように純粋な市場原理で動いている世界ではないことも、看護師に限らず医療職が自身の仕事を「ビジネス」として捉えにくい一因でしょう。人によっては「奉仕の精神」と「ビジネス(≒お金儲け)」は相反するものだという認識を持っていて、事業者が利潤を追求することを快く思わないかもしれません。   こうした背景を踏まえると、専門職に対していきなり「ビジネスマインドを持て!」と言うのではなく、まずは「奉仕の精神」と「ビジネス」が共存可能であり、むしろビジネスとして成立してこそ継続的に「奉仕の精神」を発揮することができる、という現実を伝えていくことが重要でしょう。その上で、「ビジネスマインドを持つ」とは具体的にどういうことなのかを説明する必要があります。 課題の羅列ではなく、まずはポジティブなフィードバックを 事業者が「専門職はビジネスマインドに乏しい」と感じる事例として、例えば訪問看護師の中には「利用者さんのために」という気持ちが強い故に、一人の利用者への訪問に規定以上の時間を費やしてしまう人がいることが挙げられます。これは専門職としてのプロ意識、情熱の表れであるとも言える一方、訪問一件あたりにかける時間が増えると必然的にトータルの訪問件数が減ってしまうため、目先の売上は減少してしまいます。 もちろん、たとえ訪問件数が増えても、訪問時間が短くなったことによって一人一人の利用者に対するケアの質が下がってしまい、その結果として利用者が減少してしまうようでは本末転倒です。あくまでも「一人一人の利用者に質の良いケアを提供する」ことを前提に、時折「自分がしている仕事はどれくらいお金を生んでいて、どれくらいコストがかかっているのか」と考えて欲しい、というのが、多くの事業者にとっての望みではないでしょうか。効率化やコストカットばかり考えても、それが良いケアの提供に繋がる可能性は低いでしょう。 具体的なアプローチ方法として、まずは経営に関する情報やデータを必要に応じて専門職と共有し、職種の垣根を越えて対話する機会を設けてみるのはいかがでしょうか。その際、「訪問件数が少ない」「コストがかかり過ぎている」といった課題を羅列するのではなく、まずは「あなたがこれだけ売上を出してくれて、助かっている」といったポジティブなフィードバックを行い、その上で「もっと良くするにはどうすれば良いか」を話し合うことで、建設的な対話に発展する可能性が高まります。 専門職と非専門職の間で「翻訳」するスタッフがいることが理想 専門職と非専門職の間で、上記のような対話をスムーズに行うことができるに越したことはありませんが、実際にはなかなか難しく、上手くいかない場合もあるでしょう。そのような場合の解決策のひとつとして、両者の橋渡しを担う「翻訳者」とも言うべき人材を確保することが挙げられます。 経営的に成功している事業所には、現場の看護師と経営サイドの中間に立って、両者の意見や要望を「翻訳」して伝えるスタッフがいる場合があります。例えば「売上を伸ばす」「営業する」といったビジネスレベルの表現を「良いケアを実施して、地域で評価され、より多くの利用者に依頼される」「地域で顔の見える関係性を構築して、チームケアの質を向上させる」といった現場レベルの表現に言い換えることによって、専門職にとって受け入れやすい言葉になります。 小規模の事業所だと、そのような人材を探して採用することは現実的に難しいかもしれませんが、その場合は今いるスタッフの中から適任者を探して、実務を通じて「翻訳」技術を学んでもらうことが望ましいでしょう。また、たとえ「翻訳」できるスタッフがいるとしても、事業者自身が専門職の考えや現場の苦労を理解する努力をし、専門職とのコミュニケーションを図る必要があることは言うまでもありません。「訪問看護師にビジネスマインドを持ってもらう」には、まず事業者が「専門職マインドを持つ」ことが、実は一番の近道なのではないでしょうか。 株式会社メディヴァ コンサルタント 内野宗治 東京都出身。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。IT系コンサルティング会社勤務、ニュースサイト編集者、スポーツライター、通信社記者(マレーシア支局)等を経て現職。メディヴァでは、ヘルスケア関連企業の新規ビジネス開発や先進医療の普及・実用化に向けた戦略策定支援、自治体の地域医療拡充サポート、中央省庁の調査案件等に携わる。

コラム
2021年3月9日
2021年3月9日

コミュニケーションスキル(訪問看護指示書)とマネジメントスキル

第2回では、「医師・多職種とコミュニケーションを取るスキル」について解説しました。今回は他職種とコミュニケーションを取るスキルの訪問看護指示書についてとマネジメントスキルについてお話します。 訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル ②本人・家族の平時の生活を想像するスキル ③他職種とコミュニケーションを取るスキル ④マネジメントスキル ⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル ⑥在宅療養利用者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) ⑦医療制度・介護制度などに関しての知識 ⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 医師とコミュニケーションを取るスキル【対医師・訪問看護指示書について】 前回の続きとして、コミュニケーションの中では、実地寄りの話になりますが、訪問看護指示書のやり取りについて、お話をしたいと思います。なお、ここでは、前回と同様に同一法人所属ではない医師とのやり取りを想定しています。 訪問看護指示書について、困った経験を持つ看護師さんは非常に多いと思います。私のところにも、訪問看護師さんから「円滑に指示書を記載してもらうには、どうすればよいでしょうか?」という相談があります。その相談の種類はおよそ2つに分けられます。 【代表的な訪問看護指示書に関しての相談】 ・訪問看護指示書を中々記載してくれない(期限) ・記載して欲しい内容が指示書内に書いていない(内容) これらの相談に対して、前回お話した「俯瞰的に物事をみること」に基づいてお答えします。なお、ここでは仮に医師側にその原因がある場合でも、訪問看護師さんが主体となって解決するための方法という視点で考えていきます。訪問看護指示書依頼のコツは4つあります。 【訪問看護指示書依頼のコツ】 1.依頼のタイミングを工夫する 2.依頼の方法を工夫する 3.依頼の必要性を明確にする 4.指示してほしい内容を明確にする それぞれについて、説明していきます。 1.依頼のタイミングを工夫する まず、ほとんどの訪問看護ステーションが実施していると思いますが、出来れば1か月程度前を目途に指示書の記載依頼を出しましょう。その際に、「俯瞰的に物事をみること」に則り、いわゆる一人在支診(医師一人で運営している在支診)のように、事務員がいない診療所に対しては、依頼を出す時間帯を工夫しましょう。 医師側は多忙なため、その依頼事項を失認してしまうことが多いです。少なくとも医師が繁忙な時間を避けて依頼することが良いでしょう。一般的には、お昼の時間帯や16時以降がおすすめです。逆に週初めや週終わりは往診発生率が高くなるため、なるべく依頼は避けるようにしましょう。 2.依頼の方法を工夫する 例えばFAXやメール、ICT等で依頼を出す場合、メールタイトルなどに明確に「訪問看護指示書依頼」といった文言を記載しましょう。さらに可能であれば、「なぜ指示書がすぐに必要なのか」の記載があると、医師側も後工程を意識するため、記載への意識が少し高まることがあります。例えば、メール内容に「次の訪問看護指示期間における訪問予定を立てる必要があるため、指示書が必要」と記載するなどです。 電話等での依頼では中々対応してくれず、直接医療機関に訪問して指示書の記載をお願いしている訪問看護ステーションもあると思いますが、これは業務負荷が高くなってしまいます。 患者側の病態背景的に問題がない場合であれば、最長指示期間(6か月間)で指示書を記載してもらうのもひとつの手でしょう。また、退院時に病院主治医から6か月間の指示期間で訪問看護指示書の記載を依頼することも、同様に有効だと思います。 3.依頼の必要性を明確にする 特別訪問看護指示書の依頼に苦労されている訪問看護ステーションが多い一方で、医師側からは、「○○訪問看護ステーションは、すぐに理由も言わずに特別訪看指示書を求めてくる」という声が上がることがあります。 私自身も何度も特別訪問看護指示書の記載依頼をいただいたことがありますが、やはり指示を出す側としてもその責任を負うため、指示書の必要性をきちんと説明してもらえた方が、対応がしやすいと感じます。これは特に信頼関係の構築が未達の医療機関相手の場合に当てはまります。 つまり、「○○さん(患者)は現在、こういった状況なので、こういった処置やこういった観察のために、訪問看護の頻度を上げたいと考えていますが、いかがでしょうか?」、「ご家族の負担が大きくなっているため、訪問看護の頻度を増やした方が良いと考えますが、いかがでしょうか?」といった形で指示を仰いでもらうと、医師側も特別訪問看護指示に対しての納得が得やすくなります。 ここでもこれまでのコラムでお話した俯瞰力やSBARがその力を発揮してくることになります。仮にこれでも特別訪問看護指示が出なかった場合は、ケアマネージャーに相談し、その必要性を説明しつつ、介護保険での訪問看護回数を増やせないかの相談する流れとなると思います。 4.指示してほしい内容を明確にする 最近は電子カルテ上で訪問看護指示書を作成することが多くなってきているため、どうしても前回指示のコピー&ペーストで作成することが多くなります。そのため、肯定できることではないですが、直近の患者さんの病態が反映されていなかったり、病態変化に伴った指示内容が漏れたりするケースが多くあります。 それらに対しては、訪問看護ステーション側で指示書の下書き、もしくは付箋をつけて、記載して欲しい内容を明確にすることで解決できることが増えると思います。もちろん、下書きを嫌がる医師も多いため、事前に見極めが必要となりますが、少なくとも訪問看護ステーション側が欲しい指示を明確にされることに対して、抵抗を感じる医師は少ないと思います。 マネジメントスキル ここで述べるマネジメントはケアマネジメントではなく、患者さんのために動く多職種で構成されたチームに対してのマネジメントの話が主となります。在宅医療介護現場においては、チームマネジメントが重要ですが、病院等の医療機関内と比較すると、各職種の所属組織が変わるため、やや難度は上がります。しかし、基本的な考え方は在宅医療介護現場も入院等の現場も同じです。 すでにみなさんが実践されていることも多いと思いますが、ここではマネジメントを少し構造化して述べたいと思います。 マネジメントとは何か? 様々な定義がありますが、ここでは「組織(チーム)として、ミッションを達成するための仕組み」として考えます。その上で、在宅医療介護の現場におけるミッションを「いかに患者利益を上げるか」、仕組みを「各職種の働き」と捉えることとします。「患者さんの利益を最大化するために各職種がどう働くか」がマネジメントであり、それを促進させるのがマネージャーです。 ただし、医療介護現場においては一般的な企業と違いマネージャーが明確でないことが多く、裏を返せば、チームメンバー全員が自身の業務範囲の中で、患者利益を追求するマネージャーになり得るし、ならないといけないと考えています。 そう考えると、訪問看護師に必要なマネジメントも見えてきます。つまり、患者利益を最大化するために、自身がアクションするとともに、医師やケアマネージャー、介護職等の他職種にどのようにアクションしてもらうかを考え、それを実行してもらう必要があるのです。 では、どのように具体的にどのようにマネジメントしていけばよいのでしょうか?一般的な流れをご説明します。 【在宅医療介護現場におけるマネジメントの流れ】 1.患者利益を最大化する目標の設定(大項目と小項目の設定) 2. チーム全体で目標大項目の共有、関連職種で目標小項目の共有 3. 目標に基づいた他職種へのアプローチ 1~3を、病態変化や環境変化に応じて再確認/再設定しながら、繰り返す 1.患者利益を最大化する目標の設定 マネジメントにおいて最初にすべきことは、目標設定です。目標設定とは「何が患者利益を最大化するか、明確にする」ことです。ここで必要になるのが第1回のコラムでお話した「本人の思いを吸い上げるスキル」です。本人の思いなくして、利益の最大化は絶対にありません。本人の思いを吸い上げることで、患者利益の最大化が見え、マネジメント目標となるのです。 また目標の具体性については、少しACPの考え方と近くなる部分もありますが、大項目と小項目の設定が必要です。大項目は患者さんがどういった形で日常を過ごしたいか、最期を迎えたいかといったすべての職種と共有すべき目標です。小項目は大項目をもとに作成する、主に自身の業務範囲を中心とした特定の職種と共有すべき目標です。例えば内服の種類が減らしたいという患者さんの思いを訪問看護師さんが吸い上げた場合、それを主に医師や訪問薬剤師とともに、可能な限り内服薬の整理を目指します。 ここで注意してほしいのが、マネジメント目標は患者さんの病態変化、ADL変化、家庭環境の変化等で変わるということです。状況が変わった際には、再度患者さんの思いを吸い上げ、その変化に気付いた場合は、目標を再設定するステップを繰り返しましょう。 2.チーム全体で目標大項目の共有、関連職種で目標小項目の共有 マネジメント目標が定まったら、その共有をしていきます。共有はすでにされている方が多いと思いますが、重要なのが大項目の共有です。患者さんの病態が変化した際に、チームのベクトルを合わせることが出来るか否かで、マネジメントの成否が決まるといっても過言ではありません。 共有の方法は、電話・メール・ICT等、様々なツールがありますが、訪問看護師さんの立場では、可能であれば少なくとも医師やケアマネージャーとは対面や電話等の口頭で伝えるやり方が、最もお互いにその目標を理解しあえると考えています。特に訪問看護師さんならではの目線で設定された目標は医師が気づいていないことがあるため、ぜひしっかり共有していただきたいと思います。 3.目標に基づいた他職種へのアプローチ 共有ができたら、次はマネージャー的な動きとして、いかに目標達成のために他職種に動いてもらうかを考えます。これには多くの方が苦労をされていると思います。絶対的な対策はありませんが、マネジメント目標がしっかり共有できていれば、他職種のアクションにつながることも増えるため、まずは目標の共有を意識しましょう。 しかし、それでも円滑にアクションに繋がらないことも多いと思います。その場合、ここでも「俯瞰的にものごとを見ること」が重要になります。相手がどういった考えを持っているか、どういった行動原理があるかを見極めることができれば、相手に合わせて自身がやり方を変えることができます。結果として、相手に行動を促すこともマネジメントのひとつの方法なのです。 相手の行動原理にある程度あわせて、自身を変えることになりますが、あなたの行動がチームとして患者さんの利益を最大化することにつながります。 例えば、ケアマネージャーが看護師資格保有しているなど医療のことも含めて、マネジメントシップを取れると判断できる場合には、そのケアマネージャーと密に連絡を取りましょう。反対に、もしケアマネージャーが医療については、進んでマネジメントシップを取りたがらないと判断できる場合は、訪問看護師さんが医療についてはハブ機能を担いましょう。 このように相手の考え方やスキルの応じたて判断や適応をすることで、円滑な他職種へアプローチを実践しましょう。訪問看護師さはチームの要となることが非常に多いため、マネジメントスキルを磨くことで、患者利益の最大化をぜひ、目指していただきたいと思います。 本コラム第3回目として、訪問看護指示書に関してのコミュニケーションのコツやマネジメントについて述べさせていただきました。次回は、医師のいない場での医療的判断などについてお話します。 医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

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