災害時対応に関する記事

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2022年9月13日
2022年9月13日

【セミナーレポート】vol.1 BCP策定の基礎知識/BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~

2022年6月24日(金)に行ったNsPace(ナースペース)主催の訪問看護師向けオンラインセミナー「BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~」。来年度の診療報酬改定で訪問看護ステーションでもBCPの策定が義務化されることを受け、BCPとはどんなものか、どういう手順でつくればいいのかを、複数の訪問看護ステーションを運営するWyL株式会社 代表取締役の岩本大希さんに教えてもらいました。第1回の本記事では、今知っておきたい基礎知識についてご紹介します。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】岩本 大希さんWyL株式会社 代表取締役/ウィル訪問看護ステーション江戸川 所長/看護師・保健師・在宅看護専門看護師2016年4月にWyL株式会社を創立し、直営で2店舗、関連会社でフランチャイズ4店舗を運営(2020年12月現在)。訪問看護現場におけるBCPの重要性にいち早く着目し、2021年には厚生労働省が推進する研究事業(厚生労働科学特別研究事業)「在宅医療の事業継続計画(BCP)策定に係る研究」に参画。 目次▶ BCPってどんなもの? 定義と策定が必要な理由▶ 医療領域におけるBCP策定の重要性と難しさ ・医療領域のBCPは独自に作成することが必要▶ BCPと災害対策マニュアルとの違い ・使用する順番は災害対応マニュアル→BCP▶ 同業者や地域の他業種と一緒につくるBCPもある --> ▶ BCPってどんなもの? 定義と策定が必要な理由 近年よく耳にするようになった「BCP」とは、正式には「Business Continuity Planning」といい、日本語では「事業継続計画」と呼ばれています。その名前のとおり、災害をはじめとした何らかのリスクが発生した際、万が一業務を中断せざるを得ない状況になっても、できるだけ早く復旧するための計画のことです。『何らかのリスク』とは、具体的には以下のようなものが挙げられます。 自然災害(天災):地震・台風・水害・土砂崩れ・積雪・感染症・火災技術的リスク(事故):停電・上水道停止・下水道機能不全・火災・ガス共有停止・PCシャットダウン人為的リスク(人災):多数傷病者事故・テロ BCPを策定する理由は、端的にいうと『亡くなってしまう方を減らすため』。BCPをきちんと策定し、それに準じた対応をすることで、災害それ自体でいのちを落とす方の数、または二次災害を含めた関連死の件数を半減させられる可能性があるといわれています。ちなみに、この『亡くなってしまう方』の中には、利用者さんだけでなく従業員も含まれます。つまりBCPの策定は、みなさんの周りにいる大切な人たちの、そしてみなさん自身のいのちを守るための重要なアクションなのです。 ▶ 医療領域におけるBCP策定の重要性と難しさ BCPの策定が早くから進められていた業界の代表例としては、工場をもつ製造業や鉄道をはじめとした交通事業、水道・ガス・電気などのインフラ事業が挙げられます。サービスの供給をストップするわけにはいかない業界が先駆けとなっていることがわかるでしょう。 では、私たちが従事する福祉を含めた医療サービスはどうでしょうか? 間違いなく『公益性が高いインフラ』に該当するはずですよね。そこで2024年度の診療報酬改定で、訪問看護ステーションにもBCPの策定が必須となったのだと考えられます。 医療領域のBCPは独自に作成することが必要 医療現場におけるBCPの策定には課題が多くあります。まず大前提として、医療サービスの提供には高い専門性が求められ、誰でもできるわけではありません。さらに、発災直後に患者数、それも緊急性の高いケースが急増するという需要の変化や、個別性が高いサービスであることなども考慮しなければならない。つまり、他の業界で使われているものを流用することは難しく、自分たちで一から対策を練らなければなりません。 ▶ BCPと災害対策マニュアルとの違い BCPというワードを聞いて「既存の災害対策マニュアルだけでは不十分なの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかと思いますが、BCPと災害対応マニュアルでは役割が異なります。BCPは事業を復旧させていくための大きなプランで、災害対応マニュアルはその中の一部、初動の部分のみについて対応をまとめたものです。 なお、災害対策マニュアルは事象(地震、水害など)ごとに対応をまとめているのに対し、BCPは天災に限らず事故や人災などあらゆるリスクに対応する形、『オールハザードアプローチ』となっているのもポイントです。BCPは、原因となるリスクが何であるかに関わらず、事業の継続・復旧を図るための計画をまとめたものということですね。 使用する順番は災害対応マニュアル→BCP 活用の順番としては、何らかのリスクが起こった際、まずは災害対応マニュアルを使って初期対応にあたります。その後、事業をすぐに復旧することが難しい場合はBCPを発動し、計画に則ってじわじわと元の状態に戻していく流れになります。 ▶ 同業者や地域の他業種と一緒につくるBCPもある BCPと一口にいっても、厳密にはいくつかの種類があります。まずは、事業所単位での対応を考えるBCP。基本的にはこれが最小単位となるでしょう。これをベースにして、外部組織と連携してつくるBCPがあります。 連携型BCP:近隣の同業者と連携してつくるBCP地域包括BCP:同じエリアにある病院やヘルパー事業所、クリニック、医師会、保健所など、他業態の組織も含めて幅広く連携してつくるBCP  こうしてネットワークが広がれば、ひとつの事業所単位では対応できないリスクも乗り越えられる可能性が高まります。ただ、最小単位である事業所のBCPをまとめられていない段階で、連携型や地域包括BCPのことまで考えるのは、なかなかハードルが高いはず。まずは事業所のBCPを策定することで、自分たちのリソースだけでは対応できないこと、連携の必要性が自ずと見えてくるので、そこを最初の第一歩として取り組んでもらえればいいのではと思います。 次回は「vol.2 具体的なBCP策定手順 前編」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2021年7月13日
2021年7月13日

第1回 訪問看護ステーションの「働き方改革」/[その2]新型コロナウイルス感染症他の災害対策:事業継続のために

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 令和3年度介護報酬改定で感染症・災害対策の強化が義務化されました。職員を守り、地域の利用者を守り続けられる、災害や感染症にも負けない訪問看護ステーションが求められています。 ●ここがポイント!・令和3年度介護報酬改定で感染症・災害対策の強化が義務化された。・国が提供するツールを活用して、効率よくBCPを作成しよう!・ステーション内だけでなく、他のステーションや事業所とも協働し、いざというときの連携体制をとれるようにしよう! 最近の自然災害・感染症にはどんなものがある? 2020年初頭から私たちの生活を脅かし続けている新型コロナウイルス感染症。最近では変異株が流行ってきているということもあり、1日でも早い収束が望まれるところです。 私たちの生活を脅かしているのは、新型コロナウイルス感染症だけではありません。最近の自然災害を見てみましょう。 2017年 7月 福岡県と大分県で集中豪雨。死者行方不明者40人以上2018年 6月 大阪府北部を震源とする震度6弱の地震2018年 6月~8月 東日本・西日本に記録的な猛暑2018年 7月 広島県、岡山県、愛媛県などに集中豪雨。死亡者200人以上2018年 9月 北海道胆振東部で震度7の地震。約295万戸が停電に2019年 8月 九州北部で長時間にわたる集中豪雨。観測史上1位の記録を更新した地域も2019年 9月 関東地方で過去最強クラスの台風(台風15号)2019年 10月 関東地方・甲信地方・東北地方などで記録的な大雨2020年 7月 熊本県を中心に九州地方や中部地方などに集中豪雨が発生2020年 1月 新型コロナウイルス感染症の拡大 ここ数年だけ見ても、各地で大規模な自然災害、甚大な被害が発生していることがわかります。 令和3年度介護報酬改定で義務化された感染症や災害対策 令和3年度介護報酬改定では、「感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制を構築」することが求められるようになりました。 具体的には、日ごろからの備えと業務継続に向けた取り組みの推進として、次のことが求められます。 ◎感染症対策の強化(※3年の経過措置期間あり)〈目的〉感染症の発生やまん延等に関する取り組みの徹底を求めるため〈義務づけられる取り組み〉委員会の開催、指針の整備、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等 ◎業務継続に向けた取り組みの強化(※3年の経過措置期間あり)〈目的〉感染症や災害が発生した場合でも、必要な介護サービスが継続的に提供できる体制を構築するため〈義務づけられる取り組み〉業務継続に向けた計画(BCP)等の策定、研修の実施、訓練(シミュレーション)の実施等 守るべき資源とはどんなもの? 災害や感染症の流行といった自然災害に遭遇しても、地域に必要な看護サービスを止めない、もしくは一時的に止めても再開できる事業所運営が求められます。そして、その看護サービス提供に必要な資源を守ることが重要です。 守るべき資源とは、まず職員。そして、建物・設備、そしてライフライン(電気・ガス・水道・情報通信など)です。 なお、雇用契約を結んだ時点で、ステーションには職員の安全や健康を守る義務(安全配慮義務)が発生し、労働安全衛生法に従い、さまざまな措置を講じる義務があります。 ①安全衛生教育(労働安全衛生法第59条)事業者は労働者に対して、雇入れ時および作業内容の変更時などに、安全衛生教育を実施 ②健康診断(労働安全衛生法第66条)事業者は常時使用する労働者に対して、雇入れ時および1年以内ごとに1回、定期的に健康診断を実施 上記以外にも、感染予防に努めたり、体調不良の職員がいた場合は勤務調整などを行わなければいけません。 最近の自然災害の状況を見てもわかる通り、水害や地震、停電など人命やライフラインに影響が起きるような災害が発生しています。 職員の生命を守るためにも、そして地域で事業継続し、必要な看護を届けるためにも、災害の種類に応じた資源の守り方や事業継続のしかたを考えていきましょう。 まず、業務継続に向けた計画(BCP)等を作成してみよう! まずは、業務継続計画(BCP)を作成してみましょう。厚労省のホームページでは、BCPを作成するための研修動画やガイドライン、ひな形が掲載されています。 ▼厚生労働省HP:介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html 研修動画を見ながら、そしてひな形を活用しながら、ステーションの防災・減災の取り組みの活動の一環として職員の方々と対話をしながら作成していくとよいでしょう。また、地域の訪問看護ステーション連絡協議会などの会議の場で、各地域で想定される自然災害や各ステーションの防災対策、連携方法や情報共有方法などについて話し合い、いざという時の協力関係を結べるようにしておきましょう。 なお、内閣府の防災情報のページから、都道府県ごとに設けている防災に関するホームページにアクセスすることができますので、ぜひご確認ください。 ▼内閣府HP:各自治体防災情報 ホームページ一覧http://www.bousai.go.jp/simulator/list.html 加藤明子 加藤看護師社労士事務所代表看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント 看護師として医療機関に在籍中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。 ▼加藤看護師社労士事務所https://www.kato-nsr.com/ 編集協力:株式会社照林社

インタビュー
2021年4月6日
2021年4月6日

これから地方での開業を志す人へ/第4回 訪問看護の1人開業・立ち上げ

訪問看護ステーションを一人開業し、ぷりけあ訪問看護ステーションを設立された後、看護を通して、地域で暮らす利用者一人ひとりの自分らしい生き方の支援をめざす渡部さん。最終回は、地域における訪問看護の可能性、今後のビジョンについて伺いました。 ボランティアで学んだチームとしてのつながり ―渡部さんの場合は被災地特例でしたが、地方ですぐに人を集められない場合、まずは有償ボランティアから始めて地域のネットワークを作り、それから開業するというモデルは、ほかでも実現可能なものだと思いますか。 渡部: 可能だと思います。私が震災の活動でキャンナス石巻を立ち上げたときは50番目でしたが、今のキャンナスは全国に130ヶ所以上の拠点があります。 キャンナスのネットワークは全国にあるし、交流会や勉強会などネットワーク構築体制も十分にあります。人とのつながりと、自分のやる気があれば、何でもできますよ。私が一人開業している時も、バックにはサポートしてくれるネットワークがあるというのが、自分の中ですごく安心感につながりました。  勤務先の職場内だけで閉じこもっているより、たくさんのことが学べて、いろいろな人とつながることができて 楽しいと思います。 ―運営にあたって、これまでの経験で役立ったことはありますか。 渡部: 自分一人で抱えすぎない、やりすぎない。人を信じてみんなで得意なところを出し合っていく、ということですかね。それがボランティア時代の自分の失敗から学んだことです。 たとえ一人開業だとしても、訪問看護を通していろいろな所とつながっているので、本当に一人でやることは限られています。 避難所でボランティア活動をしていたとき 、「信頼ってどういう意味かわかる?」と言われたことがありました。私がリーダー看護師だったとき 、自分が一番情報を持っている、自分が一番できる、みたいなおごりがあったんです。でも、自分一人でできることはたかが知れています。信頼とは、「ヒトを信じて頼る」 ということです。利用者さんのことを考えれば、自分の得意・不得意を理解したうえで、お互いに得意なところでつながり合った、「利用者さんのため、生活と命を守る」という目的を共にしたチームでサポートする方がずっといい。 こうした経験を踏まえて、今はいい意味で適当になったというか、変わった気がします。 これは自分よりも得意な人がいると思ったら、どんどん人に任せています。もちろん丸投げみたいな任せ方はいけないですが、相手からすれば任されることで新たな分野を学ぶきっかけや、成長する機会になることもあると思います。 ―それは、ほかの施設との連携という点でも同様ですね。 渡部: 今は過去の経験を踏まえて、地域内での連携も積極的にはかっています。 コロナ禍も災害の一つだと思いますが、もしうちの職員などから新型コロナウイルス感染者が出ても、地域内のステーションと連携をして、他のステーションの看護師が訪問に行けるように地域内で合意形成し体制を作っています。 そのために、利用者さんへ同意文書を配ったり、個別ケアの方法を文書化したりと、準備をしています。 看護師が地域社会に貢献できる可能性の追求 ―ぷりけあ訪問看護ステーションとして、また渡部さん自身として、今後どうしていきたいと思っていらっしゃいますか。 会社の事業でいうと、ステーション単体で7年やってきましたが、2021年の5月から通所介護サービスをオープン予定です。訪問看護を利用してくださっている方の中で、医療的依存度の高い方や、医療的ケアのある障害の方が日中安心して通える場所がない現実を、目の当たりにしてきました。 そうした方々から「ぷりけあさんでやってほしい」とずっと言われていました。 介護保険の地域密着型通所介護として指定を受ける予定ですが、うちの強みはスキルの高い看護師が多く在籍していることなので、その資源を生かしてどんな障害や病気のある方でも受け入れられるような場所にしていきたいと思っています。 個人的には、まだ子どもが小さいので育児にも手がかかる状況です。理想を言えば、やりたいことはいろいろありますけれど、今は家庭が崩壊しない程度に(笑)、地域に足りないこと、困っている方のためにできることを堅実にやっていこうと思っています。 いずれは、志を共にできる看護師さんと多く出会って、違うところにも拠点を持ちたいですし、誰でもどこでも、生きていて良かったと感じていただけるようなケア・サービスを利用できるような社会に、少しでも貢献できればと思っています。 ―最後に、訪問看護ステーションに興味がある方々にメッセージがあればお願いします。 渡部: そうですね… 興味があればぜひ、訪問看護の雑誌を読んだり、訪問看護をしている人とつながったり、ステーションの見学に行ったりして、つながる一歩を踏み出してほしいです。 訪問看護の現場では、幅広い年齢・疾患・生活背景の人々との出会いがあり、人生の重要な決断に立ち会う場面や、喜怒哀楽に寄り添うドラマティックな日々があります。 ひとりで判断して対応していくための専門的スキルも学べますし、自分の人間力も試されます。はじめはうまくいかないこともあるかもしれませんが、全てが自分の身になり、どんどん楽しさが分かってくると思います。 そして、日本は世界でも類をみないスピードで超高齢社会に突入しています。私たちは、その中での医療の役割、ケアのあり方ということを考え、作っていける時代に生まれているんです。 超高齢社会の中で、看護師がどのように地域に貢献していけるのか。それを共に考え、実践していける人が一人でも多く必要です。 ぜひ訪問看護の世界に触れる一歩を踏み出し、看護する感動、生きる感動を感じていただけたら、嬉しいです。 ** ぷりけあ訪問看護ステーション 代表取締役/保健師・看護師 渡部 あかね(わたなべ あかね)旧姓:佐々木 東日本大震災のボランティア活動で、医療者が地域の中に出向いていかなければ気づけ対応できないニーズが非常に多いことを経験。看護師として、本当に困っている人のそばに身を置いて関わっていきたいという思いから、被災地特例で一人開業し、その後2014年にぷりけあ訪問看護ステーションを開業。

インタビュー
2021年3月30日
2021年3月30日

一人開業から正規の訪問看護ステーションへ/第3回 訪問看護の1人開業・立ち上げ

渡部さんは訪問看護ステーション一人開業の後、2014年に現在のぷりけあ訪問看護ステーションを設立されました。第3回は、自費サービスも含めた幅広い支援を行うぷりけあ訪問看護ステーションの運営についてお伺いします。 地域での訪問看護におけるサービス継続のために ―ぷりけあ訪問看護ステーションの立ち上げ経緯について教えてください。 渡部: 被災地特例の一人開業には期限が定められていて、生き残りの道として看護師2.5人以上の正規の訪問看護ステーションで継続するしかありませんでした。利用者さんもいましたので、ほかに選択肢がなかったんです。 ぷりけあ訪問看護ステーションの基本理念は、生まれてきてくれてありがとう、生きていてくれてありがとう、と言い合える社会の追求です。どんな病状であっても、どんな生活環境であっても、今生きているということ自体、その人ががんばって時間を積み重ねてきた証だと思うので…。それは利用者さんも、働く職員同士も同じです。 人にはみんな生きてきた歴史があって、その人をちゃんと理解するところから始めるという考え方を、訪問看護を通して社会に少しでも広めていきたい、という思いを込めて活動しています。特に石巻は震災で大きな被害を受けて、生き続けること自体がすごくしんどい時期をみんなで乗り越えてきた地域なので、お互いに思いやりを持って、自分たちのできることをやり続けていきたいと思っています。 ―地方は看護師が集まりにくいと言われていますが、スタッフはどのようにして集まってきたのでしょうか。 渡部: 訪問看護は未経験のスタッフがほとんどです。外来などでは患者さんと関わっていたけれど、家での生活が気になるとか、病院の外でももっと深く関わりたいという思いがあるスタッフが集まってくれました。現在のスタッフは、看護師6人、作業療法士(OT)が1人、事務1人です。みんな、もう病院勤務には戻れないと言っています(笑)。 一時期、人材紹介会社に頼んでいたこともありましたが、今はいい具合に知り合いからの紹介などが増えてきています。ほかのステーションの所長さんがそういう方法を取っていると聞いて、常に訪問先でも「知り合いに看護師さんいますか?」と聞いたりして、いい人とのつながりを作れるようにしています。こうした種まきのようなことが、少しずつ実を結んできているかもしれませんね。 利用者さんの生き方を支援する訪問看護の自費サービス 渡部: 現在の利用者さんは、訪問件数では介護保険と医療保険は5割ずつくらいです。(2020年12月時点) がん末期の方や特別訪問看護指示書による点滴や褥瘡の処置、看取り、精神科や障がいのある方もいます。今は小児の利用者さんはいませんが、重症心身障害の20代の若い方もいます。 -自費サービスもされているそうですね。どのようなものでしょうか。 渡部: 今の介護保険や医療保険では2時間が上限なので、それ以上の時間が必要な場合には自費のサービスを紹介しています。 家族のレスパイトや旅行、買い物、また普段は療養型病院に入院している方が外出する際の付き添いなど、お金を払ってでも外に出たいという要望にお応えしています。石巻市外からも、地域内の訪問看護ステーションでは対応してくれる人がいなくて、前はボランティアさんにお願いしていたこともあるけれど、今はいないということで依頼を受けています。病気や障がいであきらめていたこともあったけれど、社会との関わりのため、自分がやりたいことのために、一歩を踏み出す…。こうした貴重な場面に立ち会えるのは看護師としての醍醐味だと思います。 こうしたニーズは、地域で利用者さんと長く関わっていれば、必然的に出てくるのではないでしょうか。利用者さん本人、それに家族も丸ごとサポートしようとなると、医療や治療をメインにした訪問だけではなく、利用者さんの人生のどこに看護師として関わるのか、ということが求められてくる気がします。 今はコロナ禍なので自粛していますが、本当はもっとやっていきたいですね。看護師はもっと患者さんと向き合いたいと思っている人も多いはず。看護師にはこんな世界もあるんだよ、こんな寄り添い方があるんだよと知ってもらいたいし、経験してもらいたいです。 提供サービス 病状の観察、悪化予防 血圧・体温・脈拍などのチェックをし、全身状態の把握。異常の早期発見 在宅療養上のケア 身体の清拭、洗髪・入浴介助、食事や排泄などの介助・指導 薬の相談・指導 薬の作用・副作用の説明、飲み方の助言、残薬の確認など 医師の指示による医療処置 点滴、膀胱留置カテーテル、胃瘻、インシュリン注射など 医療機器の管理 在宅酸素、点滴ポンプ、人工呼吸器などの管理 床ずれや皮膚トラブルの予防・処置 ―― 認知症や精神疾患のケア 家族の相談、対応方法に関する助言など ご家族への介護支援・相談 介護方法の助言、不安の相談など 介護予防、リハビリテーション ―― ターミナルケア がん末期や終末期を、ご自宅で過ごせるような支援 保険外自費サービス 長時間の外出や旅行の付き添い、介護家族のレスパイト等 ** ぷりけあ訪問看護ステーション 代表取締役/保健師・看護師 渡部 あかね(わたなべ あかね)旧姓:佐々木 東日本大震災のボランティア活動で、医療者が地域の中に出向いていかなければ気づけ対応できないニーズが非常に多いことを経験。看護師として、本当に困っている人のそばに身を置いて関わっていきたいという思いから、被災地特例で一人開業し、その後2014年にぷりけあ訪問看護ステーションを開業。

インタビュー
2021年3月23日
2021年3月23日

被災地特例の一人開業による立ち上げ/第2回 訪問看護の1人開業・立ち上げ

被災地でのボランティア活動で、さまざまな医療ニーズがあることに気づいた渡部さんは、被災地特例の一人開業で訪問看護ステーションを立ち上げました。第2回は、訪問看護ステーションの開業から立ち上げに至るその経緯についてお伺いします。 医療資源が不足する地方の現実 ―一人開業に至るまでの経緯を教えていただけますか。 渡部: 被災地特例として、国から訪問看護ステーションの一人開業許可が出たのですが、市に申請を出したら「訪問看護のニーズはない」と2~3度却下されました。市が言うには、地元の訪問看護ステーションでは利用者さんも亡くなったりして人数が減っているし、経営も厳しい状況だという回答が多かったからだそうです。 でもそれは、震災後に新たに生じているニーズ(家族が亡くなって病院受診や体調管理ができなくなった人、避難所~仮設住宅生活の廃用で全身状態が低下した方、PTSDやうつ病を発症した方、など)を拾えていないと思いました。どんどん取り残されていく人がいることはわかっていたので、3,000人分の署名を集めてあらためて市に申請し、ようやく開業にこぎつけました。 ―具体的にはどのようなニーズがあったのでしょうか。 渡部: 牡鹿半島というエリアは、市の中心部からも遠いので、事業所の採算面を考えると中心部から訪問看護に行けるのは週に1~2回程度。そういう意味で地域的な線引きがあり、受けられる医療資源が限られてしまっていると思いました。がん末期でどんどん病状が変化している方が家で過ごしたいとか、一人暮らしで健康不安がある方とか、認知症が進んでいる方とか…。そういう方のところに、タイムリーに24時間対応で行ける事業所はなかったです。 これは震災前からの課題だったと思いますが、震災の影響でより顕在化したとも言える。たぶん過疎地域などは全国的に同じような課題があると思います。 私としては、地域のためにできることはなんでもしたい、継続的に関わっていきたいと思っていたけれど、ボランティアだと期限があり、いつか終わりになる。それで、キャンナスの代表から「継続的に地域に関わりたいのであれば自立しなさい」と言われていたこともあって、サポートを受けながら開業しました。 「なぜ、一人で?」と聞かれることもありましたが(笑)、一人でやりたかったわけではなく、限られた医療資源の中で私がやれることの一つが、一人開業だったということです。また、一人開業は被災地特例ではあるけれど、地域のために継続的に活動することが、これからの社会に一石を投じることになるかもしれないと思ったんです。 訪問看護未経験からのスタート ―開業にあたり、キャンナスからはどのようなサポートがありましたか。 渡部: 当時の私は訪問看護の経験がなかったので、全国に拠点があるキャンナスのネットワークを活かして、埼玉の訪問看護ステーションで研修をさせてもらいました。わからないことはすぐに聞けるなど、技術的な部分が一番サポートしていただいたところです。事務的なところでは、開業にあたっての書類なども、ひな型をシェアしてもらうなどサポートしていただきました。 ―利用者さんはどのような経緯で受け持つことになったのでしょうか。 渡部: 最初は、キャンナスの時からつながりのあった先生から紹介していただきました。そのほか、牡鹿半島に行く訪問看護ステーションがあまりなかったので、地域包括支援センターからの依頼や、避難所のときからつながりがある方もいらっしゃいました。 当時は一人で8~9人くらいを受け持っていて、月にMAXで80件くらい訪問に出ていたこともあります。在宅酸素を付けている方やうつ病の方、がん末期のお看取りの方もいました。避難所のボランティアは24時間体制だったからか、それに比べれば物足りなかったぐらい。独身で若かったですし、エネルギーがあり余っている感じでしたね(笑)。 ただ、被災地特例の制度では、難病の方や医療保険の方は看られないなどの制限があったので、その部分は介護保険の枠や、キャンナスの制度外の自費サービスである有償ボランティアとしてやっていました。 看護師の人数が増えると、マネジメント的な要素も加わってきますが、一人だと純粋に看護に集中できるし、利用者さんとの関係性を大事にすることができて、すごく楽しかったです。 ** ぷりけあ訪問看護ステーション 代表取締役/保健師・看護師 渡部 あかね(わたなべ あかね)旧姓:佐々木 東日本大震災のボランティア活動で、医療者が地域の中に出向いていかなければ気づけ対応できないニーズが非常に多いことを経験。看護師として、本当に困っている人のそばに身を置いて関わっていきたいという思いから、被災地特例で一人開業し、その後2014年にぷりけあ訪問看護ステーションを開業。

インタビュー
2021年3月16日
2021年3月16日

被災地でのボランティア活動/第1回 訪問看護の1人開業・立ち上げ

  東日本大震災の被災地特例で訪問看護の一人開業が認められ、ボランティア活動の傍ら開業に踏み切った渡部あかねさん。その後、自費サービスを含めたぷりけあ訪問看護ステーションを設立し、地域の中で安心して暮らしていけるお手伝いをしています。第1回は、訪問看護の開業、立ち上げをするきっかけとなった被災地のボランティア活動についてお話を伺いました。 東日本大震災をきっかけに留学先から帰国 ―まず、渡部さんのご経歴からお聞きしたいと思います。 渡部: 私の母は、保育士として障がい者施設や病院などで働いていました。母の職場に遊びに行ったりもしていたので、子どものころから障がいのある方や病気を抱えている方は身近な存在でしたね。そのせいか、人の役に立つことをやりたいと漠然と思っていて、結局、福祉や医療の現場に幅広く携われる看護師の道を選びました。 大学は栃木県の自治医科大学です。地域医療に力を入れていて、看護学部でもへき地医療・地域医療についていろいろ学びました。夏休みにはへき地の診療所での現場研修もあり、いろいろな分野を幅広く勉強をしなければいけないと、学生ながらに感じていましたね。 卒業後は、東京都の虎の門病院で2年間、消化器内科と脳神経内科、整形外科などがある混合病棟で働きました。私の場合、震災がきっかけで訪問看護に興味を持ったので、当時は訪問看護をやろうとは思っていませんでした。 でも分刻みで進む業務の中、思うようにはいかないこともたくさんあって、フラストレーションが溜まった結果、半ば強引に病院を辞めて、オーストラリアに留学することにしました。 当時のオーストラリアには看護師留学というプログラムがあって、日本の看護師免許があると、語学などの研修を受けた後、看護助手として働くことができました。 医療通訳なども興味があったし、いろいろやりたいなと思っていました。たぶん東日本大震災がなければ、オーストラリアで全然違う人生を送っていたと思います。 ―東日本大震災は、どのようなタイミングで起きたのでしょうか。 渡部: オーストラリアに行って一年ほど経ったころですね。 日本全体が本当に大変な中、私はテレビでその光景を見ていることしかできない…。今の自分が身を置くべき場所、やれることは何かを考え直した結果、一度日本に帰る方がいいのではないかという結論に至って。地元の宮城に戻ったのは震災の年の5月のことでした。 ただ、災害現場で看護活動をするには専門的トレーニングが必要な場合が多く、最初は普通に泥かきボランティアなどをしていました。 看護師の資格を活かしキャンナスでのボランティア活動 そんな時、ネットで見つけたのが被災地支援も行っている訪問ボランティアナースの会「キャンナス」(※)の活動です。 ※キャンナス(CANNUS) 電話をかけたら、「とりあえず気仙沼に行けますか」と言われて、一週間くらいの単位で各避難所を回りました。初めてだったので、どこにニーズがあるかもわからないし、日々必要になるもの、困りごとも変わっていく状況で、最初は驚きました。情報を一つでも多く拾ってくる、自分の判断に委ねられることが多い活動だったと思います。 とりあえず避難生活をしている方に「体調はどうですか」と声をかけたり、血圧を測ったりしながら巡回していました。それ以外にも、生活環境を整えるために掃除をするなど、医療ニーズに限らず、生活全般のニーズを拾うことを大事にしていました。 今思うと当時の私は、看護師2年間の経験しかなかったので、全然スキルが足りないことも多かったです。そんな私でも「看護師です」と言うと、相手がすごく安心したような表情をしたり、胸の内を明かしてくれたりと、それがとても印象的な体験でしたね。 病院の外でもこんなに医療や看護が求められているんだと肌で感じました。 ―その後、気仙沼から石巻に移られたんですね。 渡部: 石巻で長期間活動できる人を探していて、私が行くことになりました。 避難所にいる方だけではなく、一階は津波の被害を受けているけれど二階で生活をしているような方も混在していました。避難所に比べると、在宅の方の情報が集まりにくいこともあり、保健師さんと手分けをして、被災の程度がどのくらいなのか、どのような方が暮らしているのか、医療や介護が必要ではないか、などのアセスメントもしていました。 こうした活動は、最初はすべてボランティアでしたが、中長期的な必要性と、行政がイニシアティブをとるというかたちで途中から石巻市の委託事業になりました。それで、一般社団法人キャンナス東北という法人となり、震災の年の10月くらいからはその活動にシフトしました。牡鹿半島というエリアの仮設住宅のアセスメントと、コミュニティーの再形成を支援するための健康相談会の企画運営を任されていました。 ボランティア活動では、医療の知識を伝えつつ、橋渡しをするというコーディネーター的な役割を求められることが多かったです。生活環境を整える、その人が心地よく生きられる環境を整える活動に、看護師として全般的に関われたことは、今の訪問看護の仕事でも役立っています。 ぷりけあ訪問看護ステーション 代表取締役/保健師・看護師 渡部 あかね(わたなべ あかね)旧姓:佐々木 東日本大震災のボランティア活動で、医療者が地域の中に出向いていかなければ気づけ対応できないニーズが非常に多いことを経験。看護師として、本当に困っている人のそばに身を置いて関わっていきたいという思いから、被災地特例で一人開業し、その後2014年にぷりけあ訪問看護ステーションを開業。

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

今日からできるプチ災害準備

高齢者のための災害準備チェックポイント 高齢者の災害準備において気を付けなくてはいけないことにはどのようなものがあるでしょうか?高齢者特有の準備の特徴から考えてみたいと思います。 期限が切れている ・非常用の食事の消費期限が切れている ・懐中電灯やラジオの電池が切れている 高齢者のご家庭にお伺いして準備の状況をおたずねすると、「あ、そういうの、ちゃんとありますよ!」と言って見せてくださいます。 災害準備のための物資(非常食や懐中電灯、ラジオなど)は、多くの方のお宅にきちんと常備されていることが多いのです。ところが、中に入っているものを一つ一つ確認していくと、今、災害が起きてしまったらすぐに役に立たない物があることも見受けられます。 情報が古い ・通院中の病院や服用している薬の名前が書かれたノートの情報がアップデートされていない ・家族や親戚の連絡先が過去のものになっている 高齢の方は定期的に病院に通っていたり、薬を飲んでいらっしゃることが多いため、避難先に持っていけるように病院や薬の名前を記したノートを作ることが推奨されます。また、いざという時に助けを求められる家族・親戚の連絡先をメモしておくことも必要です。 しかしそれらの情報が古く、情報がアップデートされていないことも多々あります。 実際の避難を想定出来ていない ・避難用の非常袋が持ち出せない ・自分に必要な物資が入っていない 避難用の非常袋には2リットルの重さのお水などが詰め込まれていて、「これを実際に背負って逃げられますか?」とお尋ねすると、「ちょっと、重たすぎるねぇ」などという答えが返ってくることがあります。高齢の方の災害準備には、避難用物資の準備をする際は自分で運べる重さか、すぐ持ち出せる場所にあるかなど実際を想定した準備が必要です。 また、日頃の生活で必要なものというのは高齢者、お一人お一人で異なります。誰もが使うようなものは、災害が起きてもすぐに提供されるようになりますが、特有のニーズへの対応は、往々にして後手になりがちです。 メガネが必要な方、入れ歯が必要な方、薬が必要な方、補聴器が必要な方、またそのための充電ケーブルや電池等、どうしても無くては困るものをリストアップして、自分なりの準備品を考えておくことが大切です。 避難することの危険性を考慮していない ・自分の地域で起こりえる災害を把握していない ・とにかく避難所へ行かなければと思っている 防災というと多くの方が想像される「避難」については、避難場所をきちんと把握していらっしゃる方も多いのですが、高齢者には「避難によるリスク」というのが常に伴うことを知っておかなくてはなりません。 いつもなら何でもないような散歩道も、雨が降って視界が悪かったり、非常用の荷物を抱えて避難を急いでいる際には、いつものように冷静に歩くことができず、足元をとられて転ぶということもあり得ます。 避難を必要とする災害が起こりうるのか、もし避難をしないという選択をする場合にはご自宅は避難に耐えうるのか等を知っておくことが重要になります。 高齢者の方に「あなたのお住いのエリアではどのような災害が起こりうるかご存じですか?」とお尋ねすると、起こりうる災害を想定した災害準備をしている方は少なく、「とにかく避難所へ」とお考えの方も多いようです。リスクを減らすためにも、土砂崩れや川の氾濫など、避難をした方がよい災害が来る可能性があるのか、自宅にとどまった方がよい災害が起こりうるかを知っておくことは重要です。 ニーズに合わせた準備を 何より、高齢者と一言でいっても、身体機能や認知機能、必要な支援ニーズが極めて多様であるため、災害準備に必要なものは、それぞれに大きく異なる、ということが高齢者の特徴だと言えます。これがあれば大丈夫!という準備はなく、それぞれのニーズにあわせて災害準備を考え、それを定期的に確認することが重要です。 そうはいっても、いつ来るかわからない災害のために、日ごろからきちんと準備をしておくことは難しいのが実際です。また何もかも購入しようと思うと、お金がかかってしまいそうで、準備をする気も起きなくなってしまいます。そこで、あまり気負わず、日頃からちょっとした工夫で高齢者の災害準備を進めていただくポイントを考えてみましょう。 今日からできる「プチ災害準備」 起こりうる災害をチェック まず、お住いのエリアで起こりうる災害を調べてみましょう。これには市区町村の防災の手引きやホームページなどが役に立ちます。また、災害時ご自身の避難は想定されない場合でも、避難所を知っておくことは大切です。実際に災害が起こった際に、物資や情報が提供される場所になりうるからです。 3日間の物資を準備 次に、自宅で3日間、援助を待つことができるための物資を準備します。物資の準備のために、防災グッズを新たに買う必要はありません。 例えば、食べ物であれば、「今日から3日間、電気やガスが使えず、自宅から全く外出しなくても生活できるかしら?」という視点で、プラス3日分の食料品を準備するようにしておけば、非常食の賞味期限を気にする必要はありません。また、日頃食べ慣れたものであれば、口に合わないということもないでしょう。 また災害がおさまっても、その後に停電が一定時間来るということも、しばしばあります。夜間の停電の中、部屋を移動することなどは高齢者にとってとても危険です。 懐中電灯を各部屋に準備しておいたり、持ち出し品を就寝中は寝室に置いておくことや、暗闇の中割れたガラスなどを踏むことの無いように、スリッパや室内履きを持ち出し品に入れておくことなども、ちょっとした工夫の一つです。 防災プチ訓練 なお、高齢者の災害準備にありがちな、防災グッズの確認忘れを防止し、既往歴や連絡先などの情報を定期的にアップデートするために、防災プチ訓練をお勧めしています。台風が来ると予報が出た際や、小さな地震が来た際に「被害がなくてよかった!」で終わらせるのではなく、備品や食料の確認をしたり、避難場所までの経路を確認してみるなどの機会を定期的に持つようにしていただくといいでしょう。 まだ来ぬ災害への準備を一から始めようと思うと大変ですが、ちょっとした工夫と定期的な習慣として進めることで、災害準備は格段に進みます。高齢者の特徴でもある多様なニーズに合わせるためにも、自ら準備をすること、定期的に確認することを念頭に、高齢者の災害準備を考えてみましょう! 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員・博士(保健学)・学士(工学) 涌井智子 専門は家族介護、老年社会学、公衆衛生。介護を支える社会の仕組みについて、個人、家族、社会構造といった視点で研究を実施。特に家族介護者の負担感軽減のための支援策の検討や、介護分野におけるテクノロジー導入の課題、要介護高齢者の家族のための災害準備等について日本と米国で研究を実施中。2013年10月より現職。   【参考】 これまでの研究調査を基に、高齢者の方の災害準備に必要な内容を簡単にまとめた「災害準備ノート」を掲載しています。災害準備されていますか?―要介護高齢者の災害準備を考える― 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

異なる支援ニーズへの対応と地域コミュニティ

情報提供の必要性 アメリカの疾病対策予防センター 日本の防災の手引きには、これまであまり状況や対象特有のニーズに合わせた情報提供がなされてきませんでした。 米国の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)では、災害準備向けの情報発信を積極的に行っています。 北米はエリアによって、起こりうる自然災害が多岐にわたりますので、その災害タイプ別(地震、雷、火事、水害、津波等)に、個人で行える災害準備のポイントを解説しています。何より重要なこととして、災害発生時には手助けが来るまでに時間がかかることから、災害発生時に耐えうる自らの災害準備が重要であることがわかりやすく解説されています。 また興味深いのは、準備においてもその支援ニーズが異なることから、特に支援が必要な人やその家族向けに、例えば、高齢者向け、障がいのある人向け、妊婦や出産を予定しているご夫婦向け、医療ニーズのある子供とその家族向けなど、対象別に情報提供をしていることです。 このような情報提供は、支援ニーズが多岐にわたる高齢者にとっては非常に有用ですので、ぜひとも各自治体の防災の手引き等の情報提供に反映されることが望まれます。 異なる支援ニーズ また、高齢者と一言で言っても、生活の上で介護が必要な方、そうでない方、家族と住んでいる方、住んでいない方等様々ですので、その方の状況をまずはしっかり把握したうえで、災害準備の計画を立てる必要があります。 特に要介護高齢者の方の災害準備を進める上では、「ご本人が必要とする生活上の必需品」、「ご本人の身体機能や認知機能の程度」、「ご本人が得られる支援」という軸で必要な災害準備の内容を整理し、災害準備計画につなげることをおすすめします。 また「ご本人が得られる支援」は時間帯によっても異なります。就寝時、介護保険サービスの利用時、家族と家で過ごしている時、家族が不在の時等、災害は24時間起こりえることを理解し、その時々の状況について計画を検討する必要があります。 なお、災害時個別支援計画を作成している訪問看護ステーションの例もありますので、参考にしてみてください。 地域コミュニティの役割 身体機能が低下しつつある高齢の方にとっての災害準備には、地域のつながりも重要になってきます。 というのも、災害はいつ発生するかわかりません。いつもなら頼れる家族がそばにいても、災害発生時に仕事や買い物などで、近くにいないということも考えられます。 また災害の起こりうる状況は地域によって異なりますので、地域別の情報を共有しておくことはとても重要になってきます。 第1回コラムで紹介した調査結果においても、地域住民とのネットワークの状況が、介護が必要な高齢者の災害準備を進める鍵であることが示唆されています。 地域住民とのネットワークが密であるほど、つまり、地域においてネットワークがない人や日常会話程度のネットワークのみの人に比べて、ある程度介護のことを話したり、情報を共有するネットワークを持つ人の方が、災害準備が進んでいる状況が明らかになっており、災害準備において地域での情報共有が重要であることを示しています。 これは、介護が必要な高齢者の身体・認知機能を少しでも共有しておくことで、いざという時に声をかけてもらえたり、避難所や支援、災害準備に関する情報の共有が、日頃から自然と進められているためであると考えられます。 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員・博士(保健学)・学士(工学) 涌井智子 専門は家族介護、老年社会学、公衆衛生。介護を支える社会の仕組みについて、個人、家族、社会構造といった視点で研究を実施。特に家族介護者の負担感軽減のための支援策の検討や、介護分野におけるテクノロジー導入の課題、要介護高齢者の家族のための災害準備等について日本と米国で研究を実施中。2013年10月より現職。  

コラム
2021年1月22日
2021年1月22日

高齢者にとっての災害対策

9月1日の「防災の日」が制定されている日本では、小中学校などで定期的に避難訓練が行われるなど、防災への意識が高いといえるでしょう。しかし、毎年起こる災害では、どうしても高齢者の被災が多くなってしまっており、改めて高齢者の防災への取り組みが注目されます。 高齢者にとっては、特に「災害準備」が大切になりますので、高齢者の多様な支援課題や防災における特徴を広く知っていただきながら、高齢者お一人お一人の防災について考えてみたいと思います。 なぜ、高齢者にとっての災害準備が重要なのか 初動期と展開期 災害は、大きく「準備期」「初動期」「展開期」に分類されます。 準備期とは災害発生以前を指し、「初動期」は災害が起こってからの約72時間を、そして「展開期」は災害発生から72時間経過後を指します。 高齢者は、これらのどのタイミングにおいても脆弱であると言われていますが、例えば、初動期においては体力的・精神的な理由で、避難するのが遅れてしまうことがあったり、生活環境の変化(避難所での生活)に対処しきれず、急激に身体機能が低下したり、認知症状が進行するなどの状況に陥ることが報告されています。 また、展開期においても同様で、長期にわたる避難所での生活や、生活再建のための疲れの蓄積によって身体的・精神的消耗が激しく、若い人に比べて命を落とすことも多く(災害関連死等とも言われます)、この時期の支援の重要性が言われています。 準備期 準備期においては、高齢者が災害のための準備ができていないことや避難訓練の参加率が低いこと等が報告されています。 初動期や展開期における高齢者への対策を強化することは容易なことではありませんが、時間のある準備期の対策を充実させることで、高齢者自らが、災害が発生した場合に生き残る可能性を広げることにつながります。 災害のための物資の準備をしておくことや、起こりうる災害を想定しておくこと、災害発生時に助かる可能性を広げるためのネットワークづくりをしておくことは、災害が起きた時に落ち着いて行動することを可能にし、また、高齢者自らが行うことができる最も基本の対策となります。 高齢者の災害準備が進まない理由 私の専門は介護が必要な高齢者の生活支援と、介護が必要な高齢者を支えるご家族の負担や健康を支えることです。そのため、災害準備においても、特に介護が必要な方とそのご家族の方、特に在宅で生活をされている方の災害準備ポイントを常々考えております。 といいますのも、施設入居の方の場合には、施設でマニュアル等が検討されますが、在宅の場合にはご家庭でそれぞれの災害対策を考えなくてはなりません。 災害のプロでもなく、介護のプロでもない高齢者やご家族にとって、災害に向けて準備を進めることは簡単なことではありません。 まず、どのような準備をしておく必要があるのか、何の災害に備えておかなければならないのかといった情報を集めるところからが難しいのです。 アンケート調査 実際、過去に行った調査(回答してくれた方は、在宅で介護を担う家族介護者1101名)から明らかになったのは、要介護の方のご自宅において避難計画をお持ちの方は24%、全般的に「災害の準備ができている」と回答した方は8%に過ぎませんでした。 中でも、認知症の方を介護するご自宅、経済状況が苦しいご自宅、介護者が若い場合等に、災害準備が進んでいない状況が明らかになっています。(この結果は、ロジスティック回帰分析や順序回帰分析という統計手法を用いて、性別や介護の程度といった他の変数を調整しても、統計的に有意な結果であることが示されています) これは、認知症の方を介護しているご家族にとっては何を準備しておいたらよいのかわからないということや、認知症の方の介護に手いっぱいで、災害準備を行うまでの経済的、精神的な余裕がないということが反映されています。 実際ご家族の方は、災害準備に関する情報支援が必要だと感じていますが、どこで情報を得られるかわからない方もいることや、避難が必要な場合には避難場所への移動を助けてもらえるような対策の必要性、地域住民との連携の必要性が課題として挙げられています。 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員・博士(保健学)・学士(工学) 涌井智子 専門は家族介護、老年社会学、公衆衛生。介護を支える社会の仕組みについて、個人、家族、社会構造といった視点で研究を実施。特に家族介護者の負担感軽減のための支援策の検討や、介護分野におけるテクノロジー導入の課題、要介護高齢者の家族のための災害準備等について日本と米国で研究を実施中。2013年10月より現職。 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

インタビュー
2021年1月21日
2021年1月21日

未曽有の事態への対応

在宅医療の災害対策は、利用者や関わる職種も多いため、十分に準備ができているステーションは非常に少ないのが現状です。 そんな状況を変えようと、ケアプロ株式会社では『ホームケア防災ラボ』を立ち上げています。在宅医療事業部事業部長の金坂さんに、取り組みの内容を伺いました。 災害対策への取り組み 金坂: 現在、発災時には全国各地からDMAT(災害派遣医療チーム)が支援にくることが主流ですが、日ごろから地域を支える訪問看護師、ケアマネジャー、介護士だからこそできる災害対策があると考えています。 また、こういった地域を支えるケアスタッフが災害対策に取り組むことは、発災後の地域資源を守っていくという視点でも効果的であると考えます。 一方で、地域で働くケアスタッフは災害対策を学ぶ機会が少ないという現状があったため、訪問看護師だからこそできる防災対策という視点で、利用者さんの支援をはじめとした情報発信や勉強会の運営のために立ち上げたのがホームケア防災ラボ(別名「在宅ケア防災研究会」)です。今年で活動は4年目で、参加エリアの制限などはありません。 活動としては、防災に関する講演や勉強会の開催、訪問看護事業所の災害対策などに関する研究活動をしています。 ―どのような方が、運営されているのでしょうか? 金坂: ホームケア防災ラボの代表はケアプロの訪問看護師2名で、DMAT(災害派遣医療チーム)の経験のあるスタッフと災害看護専門看護師の資格を持ったスタッフです。この二人が中心となり活動をしています。 私は、訪問看護事業所のおける災害時事業継続計画(BCP)の策定や実践、研究活動にかかわっています。この活動は、日本赤十字看護大学の地域在宅看護学の教授や東京大学の危機管理シミュレーションの専門に研究をしていらっしゃる教授などと定期的に意見交換や研究活動を通して行っています。 新型コロナウイルス対応 ―災害に関連して、未曽有の事態である新型コロナウイルス感染症へは、どのように対応されていましたか? 金坂: 初めての緊急事態宣言の時は、情報が少なく、何をすべきか対応が難しかったです。会社としては、可能なスタッフには直行直帰をさせる、訪問が少ないスタッフは別の人に訪問をまとめてもらい、その分1人をテレワークにする、などの対応で乗り越えました。 新型コロナウイルス感染症が流行する前から、訪問スケジュール管理も看護記録も電子化していたので、テレワークへの移行はスムーズでした。 その後はある程度、感染対策のガイドラインもできあがり、収集した情報をもとにして適切な判断を行えるようになり、徐々に通常の運営に近い状態に切り替えていきました。 今も、感染リスクを減らすようには努めています。 ―大規模ステーションならではの対策はありますか? 金坂: 大規模で余裕があるからこそ、できることがあると思います。 例えば、マスクや防護服が足りなくなった際に、所長から区に物品の支給を訴えたことがありました。所長が現場だけではなく、組織管理ができる余裕があったことが、迅速な対応につながったと思います。 また、間接部門を独立して設置しているため、助成金や補助金の情報収集や煩雑な申請対応にリソースを割くこともできました。 ケアプロ株式会社 在宅医療事業部 事業部長 金坂宇将 地元島根の急性期病院で臨床経験を積む。看護師3年目で看護連盟活動に参画し、病院看護だけではなく地域医療や政治の世界を知り、もっと地域医療に貢献したいという気持ちから、看護師10年目で在宅医療業界に転身。現在、日本の在宅医療業界の課題を解決するために、事業運営に取り組んでいる。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在) 新型コロナ感染症対策についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。

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