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特集
2021年4月20日
2021年4月20日

【訪問看護ステーション】重度者対応は拡充、前途多難なリハビリ型

4月からの介護報酬が改定。その中から、訪問看護ステーションに関連の深い項目を紹介します。ステーションからの訪問のうち、「看護」は拡充ですが、理学療法士などリハビリ専門職の派遣を中心に行なっている事業所には厳しい改定内容となりました。 リハビリ職の訪問、要支援者1日3回の報酬は5割減 令和3年度の介護報酬改定は、0.7%のプラス改定でした。コロナ禍での対応として半年間基本報酬の引き上げが行われ、全体が上げの基調の中にあって、マイナスが際立ったのが重点化対象とされた訪問看護ステーションのリハビリ専門職の訪問に対する報酬です、 介護給付(訪看Ⅰ5)では297単位が293単位、予防給付(予訪看Ⅰ5)の287単位が283単位でともにマイナス4単位。1日2回を超える(3回以上)の訪問の場合は1割減ですが、予防給付では、5割減と大幅減額。計算すると、20分2,830円、40分5,660円、60分になると4,250円になります。 「ちょっと触って、たくさん回れば儲かる。そんなビジネスモデルを吹聴する儲け主義の経営者がいたのも事実。ただ、真面目にやっているところも一律にカットされるのは残念」リハビリ職でもある介護経営者は話していた。リハビリ中心の事業所では軽度者の割合も多く、経営に与える影響は大きいと考えられます。 消えた「看護職が6割以上」、看護強化体制加算の要件で復活 訪問看護ステーションからのリハビリ職派遣は、2012年度に20分単位のリハビリ体系に改訂されるまでは報酬も訪問看護と同じでした。もともとは「おまけ」の位置付けで、今のように数が増えることは想定していなかったと言えます。無視できないほどの量になり、地域包括ケアシステムの構築が目指される中で、訪問看護ステーションの役割や、訪問リハビリとの関係は本来どうあるべきかという議論になっていきました。 2018年度の介護報酬改定では、訪問看護ステーションは看護が中心であることを明確にする見直しが行われました。看護師が定期的に評価を行い訪問看護計画書や訪問看護報告書を理学療法士等と連携し作成することや、リハビリ職が中心でも看護師の代わりの訪問であることを利用者に説明して同意を得ることが算定要件となるとともに、予防の報酬の引き下げが行われ差がつけられました。 そして迎えた今回の改定は前回改定の方向性をより強化する内容です。厚労省は、昨年、11月、ステーションの設置要件を「看護職の割合を6割以上」とし、リハビリ型を事実上排除することを提案しました。これに対し、日本理学療法士協会など職能3団体は猛反対。「規制強化により、8万人が介護サービスを利用できなくなり、5千人のリハ職が失職する」と訴えて署名活動を展開し、政治に働きかけて規制案を撤回させた経緯があります。 しかし、「看護職が6割以上」の要件は、看護体制強化加算の要件として取り入れられました。報酬額は看護体制強化加算(Ⅰ)が月600単位から550単位に、看護体制強化加算(Ⅱ)が月300単位から200単位に下がったものの、クリアするのが厳しい特別管理加算を算定している利用者の割合が「30%」から「20%」に引き下げられたことで算定しやすくなりました。また、退院当日に訪問ができる対象者も拡大され、医師が必要と認めれば訪問できるようになり、中重度者の在宅療養を支える訪問看護の役割は強化されました。「看護職が6割以上」は医療保険の機能強化型の算定要件にすでに導入されており、いわば厚労省の推奨事業モデルです。 中重度者対応の強化が経営面でも重要に 「需要があるからといって漫然とリハビリ職を増やしていたところもやっていけなくなるでしょう。経営的にも看取りや医療ニーズの高い中重度者の対応を増やしていく必要がある」と別の経営者はこの先を予測しています。看護職割合での参入規制は、今回は撤回されましたが、先送りになっただけというのが関係者の共通の見方となっています。 医療機関や老人保険施設での訪問リハビリの報酬は、要支援者・要介護者ともに307単位に引き上げとなり、訪問看護からの訪問と報酬上の評価は初めて逆転しました。訪問看護からのリハビリ職の訪問について、「通所リハビリだけでは屋内のADLが自立できない場合」限定という規定が追加され、運用上の扱いは訪問リハビリと同じになりました。介護予防・重度化防止に力を入れる厚労省は、近年、介護保険の中でのリハビリ職の役割を強化してきていますが、医療機関での通所リハビリテーションや、訪問リハビリを伸ばしていく考えです。 リハビリステーションの必要性指摘する意見も 医療機関での訪問リハビリは、原則事業所の医師の診察を受けることが必要で、事業所数そのものが少ない中で、利用しづらいという問題があります。かかりつけ医師の指示書一枚で済む訪問看護ステーションのほうが、利用者にとって利便性は高く、需要を増やしたと考えられます。職能団体はリハビリ専門のステーションの設置を可能とすることを求めて活動を続けており、介護報酬を議論する介護給付費分科会では、自治体代表の委員から強く支持する意見もありました。職域や専門性からのあるべき論だけでなく、利用者の目線からも検証していいってほしい問題と思われます。 ** 介護・福祉ジャーナリスト 川名佐貴子 介護保険の専門新聞、ケアマネ向け月刊紙の編集長を長年務めた。現在、フリーで活動中。介護保険制度の創設前から、介護福祉分野の幅広く取材してきた。

インタビュー
2021年4月13日
2021年4月13日

対話による介入「オープンダイアローグ」とは?

 KAZOCが取り組むオープンダイアローグとは、「開かれた対話」による精神科のクライシス(精神症状の悪化に起因する危機)介入の手法です。「対話」の場を重視することで良好な治療成績をあげています。第3回は、オープンダイアローグの具体的な内容について、渡邊さんに伺いました。 対話を繰り返すリフレクティング・プロセス 渡邊: オープンダイアローグは、フィンランドの西ラップランドという地方にあるケロプダス病院だけで行われている取り組みです。そこが、エビデンスが桁違いの論文を出したことで注目されました。 日本では統合失調症患者への向精神薬の投与率は99%といっても言い過ぎではなく、治療=薬のイメージですが、それがケロプダス病院の論文では投与率25%だというのです。また、統合失調症は国際水準でいうと100人に1~2人は発症すると言われていて、文化的な影響や男女差もないとされていますが、これが一万人に一人という発症率だというのです。ということは、統合失調症の症状が投薬治療をせずに半年以内に症状が消失しているということになる…もう衝撃的でしたね。 ―どのようにして実践していくのでしょうか。 渡邊: オープンダイアローグでは、ファミリーセラピーという構造を取っていて、一対一ではなく、家族の中に支援者が複数名で入っていきます。対話を促進するために必要であれば、親せき、学校の先生、職場など外の人も参加し、リフレクティング・プロセスという方法で対話を繰り返すのが特徴です。 当初は、ファシリテーターを置いて家族に話をさせて、それをマジックミラーの外側から見ている専門家が、家族の問題点を修正するための質問を遠隔でファシリテーターに伝えるという方法でした。しかし、ノルウェーの精神科医トム・アンデルセンが、片方だけが見えていて、もう片方が見えていないのはどうなのかと考えて入れ替えを行うようになりました。 今度は家族の話を元に専門家が話をする場面を、家族が見ることになったわけです。自分たちの会話がどう解釈されているのかを知ることで、何かが変化する、構造が変わるということで実践と研究が進み、そこで起きているのは対話が促進されるということであるということがわかりました。 次に、対話であればもっとフランクなほうがいいとマジックミラーがなくなり、ただの日常会話の中で時折、専門家同士がパッと向き合って専門的な話をして、また元に戻るようなやり方になっていきました。 こうした対話の繰り返しが薬以外の治療方法になり、それが統合失調症の発生率を下げているというのです。 ―患者さんと家族が直接話をすると、ケンカも起こりそうですね。 渡邊: ケンカもありますね。だけど、みんなに気づきがあるんですよね。 人と話していることを外的対話、話を聞いて自分の頭で考えることを内的対話とすると、対話が二層構造になっていると考えられます。ファシリテーターは、家族という内側の構造と家族以外の外側の構造を出入りしながら、外的対話と内的対話にアプローチしていく。その時ファシリテーターは家族構造の何かを掴んで出たり入ったりするような…。 これがすごく難しくて、何かとはいったい何なんだ…という話になるんですけど(笑)、論文では「LOVE(愛だ)」と言っているんですよ。愛だと。 困難を抱えている家族の中に入り込むときに持ち込むものが愛だとすると、それは血族や恋愛の愛ではなく、母性の愛でもなく、セクシャルなものでも自己愛でもなさそう…。社会的なもののようですが、日本ではあまりその文化がないのかもしれませんね。 オープンダイアローグの実際 ―実際にどのような会話のやりとりをされていくのでしょうか。 渡邊: 例えば、引きこもりの息子さんがいてお母さんはどうにかしたい、本人はたまに暴力をふるってしまうんだけど、というような状況の場合、まずは二人の話を聞きますが、この時の話は説明なんですね。 僕らがやりたいのは、探索、つまり内的対話に持っていきたいので、それが始まるようにリフレクティングをします。二人の前で専門家の一人が「こんなに長い間、家にいざるを得ない状況だったら、とんでもなく大変な体験だったんじゃないかと思います」などと本人について話をします。もう一人はお母さんにピントをあてて、「息子さんがこういう状況ですごく大変だったと思う…」と話をしたとします。 すると、それを聞いた本人たちの中で、「暴力はまずかったな」とか、「本当に辛かったな」とか、何かしらの気づきが生まれるので、それをすくい取りながらリフレクティングを繰り返すという感じです。 ―繰り返すことで、患者さんや家族はどうなっていきますか。 渡邊: 最初は感情が出てきて早口だったり、ケンカになったりもすることもあります。しかし、対話を進めていくと、お互いに自分で考える内的対話が増えてくるので、最後のほうはアウトプットとしてはゆっくりで、外的対話がスローになります。 オープンダイアローグの勉強をしている人たちの属性によって、いろんな見方もあります。研究領域だと心理分析的なテクニカルな捉え方をするだろうし、僕らのような在宅領域だと生活に密着してくるような捉え方になるだろうし、いろいろな解釈があってまとまっていない。エビデンスとしてはしっかりあるんですけど、説明のつかないところもありますね。 精神科医の斎藤環さんが言っていたんですが、起こってしまったこと、過去はもう変わらない。でもメモリの容量は小さくすることはできると。トラウマ体験は心のメモリをめちゃくちゃ食うけれど、それを語り直すことによって容量に占める割合は小さくなっていく、それが大事なんですよと。 対話とか語りにはそういうところがある気がします。変化ではあるけれど、変容ではないんですね。 ** 株式会社Neighborhood Project 代表取締役 訪問看護ステーションKAZOC 作業療法士・精神保健福祉士 渡邊 乾 都内の精神科病院に就職し、日本の精神科医療の現実を知る。その後、浦河べてるの家、イタリア・トリエステの活動を視て地域支援を志す。2013年に精神科訪問看護ステーションKAZOC(かぞっく)を開設。当事者研究、ハウジングファースト、オープンダイアローグなどの先進的な手法を取り入れ、精神疾患を持った人たちの在宅生活を支援している。

コラム
2021年4月13日
2021年4月13日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 営業編①~

 第5弾は、いよいよ営業に関する方針を列記します。戦略や戦術が幾ら立派でもお客様を獲得する営業が稚拙であれば、経営は絵に描いた餅に過ぎなくなります。 ※訪問看護サービスを利用する対象者には敬意を表して「お客様」と言います。よく使われる利用者という呼称は行政的であり、お客様に対して失礼にあたると考えています。 作り上手の売り下手では、将来会社を潰します 水谷氏は医療介護業界にも通じる考え方としてよくこの慣用句を用い、サービス業・商売の基本である「売る」という行為・プロセスを、他の何よりも大事にします。 ①能率とコストと品質管理がなどは経営の一部である。経営の大局はサービスや商品を買って頂く「顧客の創造」であり、繰り返しの仕組み作りである。新規のお客様をいかに獲得し、そしてリピーターになってもらうかに物量をかけるべきと説きます。 ②訪問・店頭・配置・展示・媒体と(通信)という営業・販売方法があるが、英知を結集して独自性を高め、訪問と媒体販売を最強にしてお客様を括ります。 ※他社との差別化に徹底的に拘り物量(ヒト・モノ・カネ)をかけるのはもちろん、現代においては、いかに媒体とくに情報(広告・紙・WEB・口コミ他)を扱うかが肝であると考えます。 ③競合より圧倒的な経営姿勢・事業構造の強み、サービスのバリエーションと取組み姿勢に違いなど徹底的に発信します。お客様、地域、応募者から最も多く、そして最初に選択される組織を目指します。 ④訪問看護の購買行動モデルは以下が基本フローである。 1.集客=見込みの確保(ローラー営業を含めて、沢山集める) 2.見込み客のフォロー(買いたい、頼みたいお客様を育てる) 3.販売(現実のご紹介を頂く) 4.顧客化(メンテナンスを継続して再紹介・ファン化する。目的は我社のことをお客様から消されない。コミュニケーション力=接触回数と感動の勝負) ※当然この流れの中に、「検索」「比較」「評価」「共有」といった要素も入ってくる。 ⑤イベントがどれだけ新規顧客の開拓や売上増に効果があったか論を待たない。相手先の創立記念日、春夏秋冬の行事、お祭り、年36回の旬、専門技術の理解、実施指導、町内会の巻き込みなど、知恵と工夫には際限がない。行動するかどうかです。机上で妄想したり計算したりする暇があったら、実践現場での「お客様の生の声・評価」を得よ、というのが水谷の営業実践術です。 ⑥「気づき、気配り」名人であり、フットワークの良い「ハイ、喜んで」の姿勢が、営業マンの好感度を高めます。お客様やケアマネジャー、病院関係者、在宅系事業者は営業マン・社員の感じ良さで商品、サービスを買っています。対面ビジネスの基本であり、営業の真理です。これはWEB等が進化した今も、根底の考え方は同じです。 いかがでしたでしょうか? 水谷の営業戦略・戦術のごく一部ですが、たいへんシンプルな基本姿勢かと思います。良いサービスを提供する為にも「会社を潰さない」、それには、やったかやって無いか、獲るか獲られたかの実績こそが、まず営業の原点。サービス業・商売の基本であります。この点をおろそかにしているから、毎年700件以上もの訪問看護事業所が無くなっているのです。 ー次回(近日公開)に続きますー ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務 【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

インタビュー
2021年4月6日
2021年4月6日

これから地方での開業を志す人へ/第4回 訪問看護の1人開業・立ち上げ

訪問看護ステーションを一人開業し、ぷりけあ訪問看護ステーションを設立された後、看護を通して、地域で暮らす利用者一人ひとりの自分らしい生き方の支援をめざす渡部さん。最終回は、地域における訪問看護の可能性、今後のビジョンについて伺いました。 ボランティアで学んだチームとしてのつながり ―渡部さんの場合は被災地特例でしたが、地方ですぐに人を集められない場合、まずは有償ボランティアから始めて地域のネットワークを作り、それから開業するというモデルは、ほかでも実現可能なものだと思いますか。 渡部: 可能だと思います。私が震災の活動でキャンナス石巻を立ち上げたときは50番目でしたが、今のキャンナスは全国に130ヶ所以上の拠点があります。 キャンナスのネットワークは全国にあるし、交流会や勉強会などネットワーク構築体制も十分にあります。人とのつながりと、自分のやる気があれば、何でもできますよ。私が一人開業している時も、バックにはサポートしてくれるネットワークがあるというのが、自分の中ですごく安心感につながりました。  勤務先の職場内だけで閉じこもっているより、たくさんのことが学べて、いろいろな人とつながることができて 楽しいと思います。 ―運営にあたって、これまでの経験で役立ったことはありますか。 渡部: 自分一人で抱えすぎない、やりすぎない。人を信じてみんなで得意なところを出し合っていく、ということですかね。それがボランティア時代の自分の失敗から学んだことです。 たとえ一人開業だとしても、訪問看護を通していろいろな所とつながっているので、本当に一人でやることは限られています。 避難所でボランティア活動をしていたとき 、「信頼ってどういう意味かわかる?」と言われたことがありました。私がリーダー看護師だったとき 、自分が一番情報を持っている、自分が一番できる、みたいなおごりがあったんです。でも、自分一人でできることはたかが知れています。信頼とは、「ヒトを信じて頼る」 ということです。利用者さんのことを考えれば、自分の得意・不得意を理解したうえで、お互いに得意なところでつながり合った、「利用者さんのため、生活と命を守る」という目的を共にしたチームでサポートする方がずっといい。 こうした経験を踏まえて、今はいい意味で適当になったというか、変わった気がします。 これは自分よりも得意な人がいると思ったら、どんどん人に任せています。もちろん丸投げみたいな任せ方はいけないですが、相手からすれば任されることで新たな分野を学ぶきっかけや、成長する機会になることもあると思います。 ―それは、ほかの施設との連携という点でも同様ですね。 渡部: 今は過去の経験を踏まえて、地域内での連携も積極的にはかっています。 コロナ禍も災害の一つだと思いますが、もしうちの職員などから新型コロナウイルス感染者が出ても、地域内のステーションと連携をして、他のステーションの看護師が訪問に行けるように地域内で合意形成し体制を作っています。 そのために、利用者さんへ同意文書を配ったり、個別ケアの方法を文書化したりと、準備をしています。 看護師が地域社会に貢献できる可能性の追求 ―ぷりけあ訪問看護ステーションとして、また渡部さん自身として、今後どうしていきたいと思っていらっしゃいますか。 会社の事業でいうと、ステーション単体で7年やってきましたが、2021年の5月から通所介護サービスをオープン予定です。訪問看護を利用してくださっている方の中で、医療的依存度の高い方や、医療的ケアのある障害の方が日中安心して通える場所がない現実を、目の当たりにしてきました。 そうした方々から「ぷりけあさんでやってほしい」とずっと言われていました。 介護保険の地域密着型通所介護として指定を受ける予定ですが、うちの強みはスキルの高い看護師が多く在籍していることなので、その資源を生かしてどんな障害や病気のある方でも受け入れられるような場所にしていきたいと思っています。 個人的には、まだ子どもが小さいので育児にも手がかかる状況です。理想を言えば、やりたいことはいろいろありますけれど、今は家庭が崩壊しない程度に(笑)、地域に足りないこと、困っている方のためにできることを堅実にやっていこうと思っています。 いずれは、志を共にできる看護師さんと多く出会って、違うところにも拠点を持ちたいですし、誰でもどこでも、生きていて良かったと感じていただけるようなケア・サービスを利用できるような社会に、少しでも貢献できればと思っています。 ―最後に、訪問看護ステーションに興味がある方々にメッセージがあればお願いします。 渡部: そうですね… 興味があればぜひ、訪問看護の雑誌を読んだり、訪問看護をしている人とつながったり、ステーションの見学に行ったりして、つながる一歩を踏み出してほしいです。 訪問看護の現場では、幅広い年齢・疾患・生活背景の人々との出会いがあり、人生の重要な決断に立ち会う場面や、喜怒哀楽に寄り添うドラマティックな日々があります。 ひとりで判断して対応していくための専門的スキルも学べますし、自分の人間力も試されます。はじめはうまくいかないこともあるかもしれませんが、全てが自分の身になり、どんどん楽しさが分かってくると思います。 そして、日本は世界でも類をみないスピードで超高齢社会に突入しています。私たちは、その中での医療の役割、ケアのあり方ということを考え、作っていける時代に生まれているんです。 超高齢社会の中で、看護師がどのように地域に貢献していけるのか。それを共に考え、実践していける人が一人でも多く必要です。 ぜひ訪問看護の世界に触れる一歩を踏み出し、看護する感動、生きる感動を感じていただけたら、嬉しいです。 ** ぷりけあ訪問看護ステーション 代表取締役/保健師・看護師 渡部 あかね(わたなべ あかね)旧姓:佐々木 東日本大震災のボランティア活動で、医療者が地域の中に出向いていかなければ気づけ対応できないニーズが非常に多いことを経験。看護師として、本当に困っている人のそばに身を置いて関わっていきたいという思いから、被災地特例で一人開業し、その後2014年にぷりけあ訪問看護ステーションを開業。

インタビュー
2021年4月6日
2021年4月6日

退院促進・地域移行のヒントとなるハウジングファースト

長期入院を余儀なくされている人の「退院促進・地域移行」を実現することが、KAZOCの目標です。第2回は、そのための手法として取り入れているハウジングファーストの活動について、渡邊さんに伺いました。 ハウジングファースト東京プロジェクト 渡邊: アメリカでは、60年代、ケネディ大統領時代に精神科病院を強制的になくす動きがあったんですね。そのため多くの人たちが施設にスライドし、そこにも入れない人がホームレスになりました。その人たちを救済するためにまず住まいを取り戻す、そして維持するためにはどうしたらいいのか、その支援構造として、在宅維持率を評価尺度にしているプログラムがハウジングファーストです。 ホームレスの50%くらいの人が精神疾患を持っています。日本でも精神科医の森川すいめいさんらが2008年、2009年に池袋で実態調査をして同じような結果が出たことから、2010年にハウジングファースト東京プロジェクトが立ち上がりました。 僕は2011年くらいからボランティアを始め、2013年に訪問看護を立ち上げてプロジェクトメンバーとなりました。 ハウジングファーストによる在宅維持率は、どこの国も大体80~85%/年です。池袋でのプロジェクトで2年くらい前に取った統計では、サポートに入ったケースで1年以上の在宅維持率は90%でした。地方ではもう少し下がるかもしれませんが、ほぼ国際水準と変わらない結果が出ているので、こうした在宅支援は可能であると考えています。 ―具体的にはどのような活動をしているのでしょうか。 渡邊: ハウジングファースト東京プロジェクトは、それぞれ個別の活動をしながら、リソースを出し合う形です。炊き出しや夜回りをするNPO法人TENOHASI、医師や看護師がいる認定NPO法人世界の医療団など、現在8つの団体が参加しています。  炊き出しの場に医療班、生活相談班のブースを出して、そこで専門職がアセスメントをするのが入口です。日本でホームレスの方々がアパートを借りる場合、生活保護を受給して福祉事務所のOKが出てアパートを借りるか、再就職をしてお金が貯まったところで借りるかのどちらかです。どちらにしてもタイムラグがあるので、シェルターを作りました。一般社団法人つくろい東京ファンドとTENOHASIが寄付や助成金などでアパートを借り上げ、シェルターを運営しています。 そこにはソーシャルワーカーのボランティアなどもいるので、必要な手続きを手伝ってアパート転宅まで持っていく流れですね。 ―そこでKAZOCさんにつながるわけですね。 渡邊: 実はまだここではKAZOCの出番はなくて…。 シェルターに入ってくる人たちの中には、医療的支援が必要な人が出てきます。転宅した後にアフターフォローで定期的な支援が必要な場合には、クリニックからKAZOCに依頼が来るようになっています。その人たちのために、2016年にゆうりんクリニックという内科・精神科クリニックを作りました。 ハウジングファーストでは大きく生活再建の部分と維持継続の部分に分かれていて、僕らは維持継続のところで介入しています。KAZOCで継続支援している人は、現在40名くらいになります。 退院促進の手段となるグループホーム ―他にはどのようなことを行っていますか。 渡邊: 日中活動はいろいろやっていますね。「あさやけベーカリー」では、ホームレス経験者などが集まってパンを作ってホームレスの方たちに配ったりしています。また、「べてぶくろ」というべてると池袋をもじったフリースペースをやっていたり、世界の医療団が整体や坐禅などのアクティビティを作っていたりします。一番最近に立ち上がったのが就労継続支援B型事業所の「Base Camp」です。 本当は、精神科病院から退院する人を支援する環境を作りたいのですが、まだ難しいところです。ハウジングファーストで結果は出てきているんですが、病院にプレゼンテーションしても長期入院者がすぐに出られるわけではなく、そこには別な仕掛けが必要だと思っています。 一つ、精神科病院から退院しやすいパターンとして考えられるのは、在宅の前にワンクッション入れてグループホームへ行くというものです。 ―どうしてグループホームなのでしょうか。 渡邊: いきなりアパートに入るのは、福祉事務所や医師などが反対するんですよ。結局、同じように入退院を繰り返すのではないかと。だけど、そこにグループホームが入ると、どうにかなるのではないかと思うみたいです。 そこで、KAZOCと同じ法人のネイバーフッドプロジェクトでグループホームを2つ運営しています。本来のグループホームは終の住処にもできますが、僕らはアパート転宅を目的としています。 だからグループホームにも訪問看護に入ります。 ビジネスライクな話をすると、一般的な訪問看護の依頼は圧倒的に病院やクリニックからが多いです。でも、グループホームの人は転宅した後も継続利用者になるので、新規利用者獲得のルートにもなるんです。そのため、僕らは4つのステーション拠点がありますが、今後は各一つずつにグループホームを置くことを考えています。 ** 株式会社Neighborhood Project 代表取締役 訪問看護ステーションKAZOC 作業療法士・精神保健福祉士 渡邊 乾 都内の精神科病院に就職し、日本の精神科医療の現実を知る。その後、浦河べてるの家、イタリア・トリエステの活動を視て地域支援を志す。2013年に精神科訪問看護ステーションKAZOC(かぞっく)を開設。当事者研究、ハウジングファースト、オープンダイアローグなどの先進的な手法を取り入れ、精神疾患を持った人たちの在宅生活を支援している。

コラム
2021年4月6日
2021年4月6日

訪問看護の社長業 ~創業経営者 水谷氏から学んだこと 育成編~

教育・研修の意義、大切さは前回整理した解説でご理解頂けたかと思います。今回はさらに「社員の人間育成」を意識した内容も掲載し、解説したいと思います。 自信と誇りがもて、成長と自己実現ができる人生への誘導 1.環境の変化に強く協調性の高い人物を育成について かぼちゃ作りの名人 まず種を撒いて目が出るのを待ちます。その芽に対して小石や瓦を上からばら撒きます。それでも伸びてきた茎に対して、今度は手で引っ張ります。少し根っこが切れるぐらいに引っ張ります。これでできたかぼちゃは、甘くてホクホクした美味しい味を出します。 この「かぼちゃ作りの名人」の内容は、捉え方は様々でしょうが、人の育成にも通じる(自然界の)本質的な原理だとして、水谷はよく上記の例文を使用します。 2.プラス思考の人間育成を目指すには 仕事(人生)の成果を計算式で表す 仕事(人生)の成果=考え方(-100~100点)× 熱意(1~100点)× 能力(1~100点) ・人は能力があっても熱意があっても考え方が間違っているために、十分な成果を出せないことが沢山あります。能力があっても「考え方がマイナス」では、掛け算をしても答えはマイナスになってしまいます。 ・考え方が間違っている人、マイナス思考の人は、自分だけでなく、自分を取り巻く社内の同僚にも悪影響を及ぼします。こういう人は自分の利益のためだけの熱意は高得点ですので、全体のマイナス(損害)は相当に大きくなってしまいます。 ・今は能力があろうとなかろうと、強い熱意とプラス思考で行動し続ければ、人生の何処かで必ず良い成果を生み出します。 3. 存在価値の高い生き方を目指す お客様や同僚や会社から「あなたがいるから」と頼りにされ可愛がられて、強く必要とされる存在価値の高い生き方を目指します。上記1.2を意識した人格形成を実践し続けることによって、自然と「自己重要感※1」が充足されていきます。それに伴って、自信が満ち、人生の自立度(経済、立場、名誉)も向上していきます。 ※1 所説ありますが、人の存在の根底にある「自己肯定感」=どんな自分であっても存在すること自体に価値があると感じる感覚。「有能感」=知識・技術、地位や名誉や立場、など能力がある自分をすごいと感じる感覚。この両者を合わせたものが「自己重要感」であるとされています。 いかがでしたでしょうか? 水谷が時折実施していた経営者・管理職・管理者向け研修「人間学」の中の一項目でもありますが、訪問看護事業の経営や運営をうまくやるには、目先の運営技術だけではなく、人間育成も重要だということが少しはお分かり頂けたと思います。ご紹介した内容の実践が基礎(最初の一手)にあることによって、地域評判が高まり、収益も安定し、教育に投資→技術向上、さらに地域評判が高まる、というスパイラルが生まれると言っても過言ではありません。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務   【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

インタビュー
2021年3月30日
2021年3月30日

一人開業から正規の訪問看護ステーションへ/第3回 訪問看護の1人開業・立ち上げ

渡部さんは訪問看護ステーション一人開業の後、2014年に現在のぷりけあ訪問看護ステーションを設立されました。第3回は、自費サービスも含めた幅広い支援を行うぷりけあ訪問看護ステーションの運営についてお伺いします。 地域での訪問看護におけるサービス継続のために ―ぷりけあ訪問看護ステーションの立ち上げ経緯について教えてください。 渡部: 被災地特例の一人開業には期限が定められていて、生き残りの道として看護師2.5人以上の正規の訪問看護ステーションで継続するしかありませんでした。利用者さんもいましたので、ほかに選択肢がなかったんです。 ぷりけあ訪問看護ステーションの基本理念は、生まれてきてくれてありがとう、生きていてくれてありがとう、と言い合える社会の追求です。どんな病状であっても、どんな生活環境であっても、今生きているということ自体、その人ががんばって時間を積み重ねてきた証だと思うので…。それは利用者さんも、働く職員同士も同じです。 人にはみんな生きてきた歴史があって、その人をちゃんと理解するところから始めるという考え方を、訪問看護を通して社会に少しでも広めていきたい、という思いを込めて活動しています。特に石巻は震災で大きな被害を受けて、生き続けること自体がすごくしんどい時期をみんなで乗り越えてきた地域なので、お互いに思いやりを持って、自分たちのできることをやり続けていきたいと思っています。 ―地方は看護師が集まりにくいと言われていますが、スタッフはどのようにして集まってきたのでしょうか。 渡部: 訪問看護は未経験のスタッフがほとんどです。外来などでは患者さんと関わっていたけれど、家での生活が気になるとか、病院の外でももっと深く関わりたいという思いがあるスタッフが集まってくれました。現在のスタッフは、看護師6人、作業療法士(OT)が1人、事務1人です。みんな、もう病院勤務には戻れないと言っています(笑)。 一時期、人材紹介会社に頼んでいたこともありましたが、今はいい具合に知り合いからの紹介などが増えてきています。ほかのステーションの所長さんがそういう方法を取っていると聞いて、常に訪問先でも「知り合いに看護師さんいますか?」と聞いたりして、いい人とのつながりを作れるようにしています。こうした種まきのようなことが、少しずつ実を結んできているかもしれませんね。 利用者さんの生き方を支援する訪問看護の自費サービス 渡部: 現在の利用者さんは、訪問件数では介護保険と医療保険は5割ずつくらいです。(2020年12月時点) がん末期の方や特別訪問看護指示書による点滴や褥瘡の処置、看取り、精神科や障がいのある方もいます。今は小児の利用者さんはいませんが、重症心身障害の20代の若い方もいます。 -自費サービスもされているそうですね。どのようなものでしょうか。 渡部: 今の介護保険や医療保険では2時間が上限なので、それ以上の時間が必要な場合には自費のサービスを紹介しています。 家族のレスパイトや旅行、買い物、また普段は療養型病院に入院している方が外出する際の付き添いなど、お金を払ってでも外に出たいという要望にお応えしています。石巻市外からも、地域内の訪問看護ステーションでは対応してくれる人がいなくて、前はボランティアさんにお願いしていたこともあるけれど、今はいないということで依頼を受けています。病気や障がいであきらめていたこともあったけれど、社会との関わりのため、自分がやりたいことのために、一歩を踏み出す…。こうした貴重な場面に立ち会えるのは看護師としての醍醐味だと思います。 こうしたニーズは、地域で利用者さんと長く関わっていれば、必然的に出てくるのではないでしょうか。利用者さん本人、それに家族も丸ごとサポートしようとなると、医療や治療をメインにした訪問だけではなく、利用者さんの人生のどこに看護師として関わるのか、ということが求められてくる気がします。 今はコロナ禍なので自粛していますが、本当はもっとやっていきたいですね。看護師はもっと患者さんと向き合いたいと思っている人も多いはず。看護師にはこんな世界もあるんだよ、こんな寄り添い方があるんだよと知ってもらいたいし、経験してもらいたいです。 提供サービス 病状の観察、悪化予防 血圧・体温・脈拍などのチェックをし、全身状態の把握。異常の早期発見 在宅療養上のケア 身体の清拭、洗髪・入浴介助、食事や排泄などの介助・指導 薬の相談・指導 薬の作用・副作用の説明、飲み方の助言、残薬の確認など 医師の指示による医療処置 点滴、膀胱留置カテーテル、胃瘻、インシュリン注射など 医療機器の管理 在宅酸素、点滴ポンプ、人工呼吸器などの管理 床ずれや皮膚トラブルの予防・処置 ―― 認知症や精神疾患のケア 家族の相談、対応方法に関する助言など ご家族への介護支援・相談 介護方法の助言、不安の相談など 介護予防、リハビリテーション ―― ターミナルケア がん末期や終末期を、ご自宅で過ごせるような支援 保険外自費サービス 長時間の外出や旅行の付き添い、介護家族のレスパイト等 ** ぷりけあ訪問看護ステーション 代表取締役/保健師・看護師 渡部 あかね(わたなべ あかね)旧姓:佐々木 東日本大震災のボランティア活動で、医療者が地域の中に出向いていかなければ気づけ対応できないニーズが非常に多いことを経験。看護師として、本当に困っている人のそばに身を置いて関わっていきたいという思いから、被災地特例で一人開業し、その後2014年にぷりけあ訪問看護ステーションを開業。

インタビュー
2021年3月30日
2021年3月30日

入院中心から地域生活支援への転換

東京の池袋と練馬にある、精神科に特化した訪問看護ステーションKAZOC(カゾック)。「カゾック」とは「家族」のことで、「新しい家族の形になれるように」という願いを込め、さまざまなプロジェクトを展開しています。代表である渡邊乾さんに、日本の精神科医療の課題解消を目指すKAZOCの活動についてお伺いします。 労働組合を通して精神科の世界を知る ―精神科訪問看護ステーションを立ち上げるまでの経緯をお聞かせください。 渡邊: 両親が二人とも精神科病院で作業療法をしていたのですが、楽な仕事だと思って作業療法士になりました。社会人としての心構えがないまま親のツテで精神科病院に就職したので、まったく適合できず、諸先輩方からの指導がかなり厳しかったことを覚えています。 これはパワハラだと思ってすぐに辞めようと思って転職活動をしていて、その中で労働組合の集まりにたまたま行きあたって勧誘をされました。世間知らずだったのでパワハラと闘おうと思って、病院で一人で労働組合を作ったんです。 そしたらすぐに、今考えると当たり前なんですが窓際族になっちゃって、それから5年間くらい仕事が無くなって外来の患者さんとぷらぷらして過ごしていました。  一方で、組合活動の世界ではあれよあれよと出世して、精神科病院の労働組合全国組織の副代表にまでなりました。 労働組合界隈には出世をして有名になった医療関係者がいろいろいて、日本の精神科医療について教えてもらいました。国際的な潮流を見ると、だいぶ前から病院中心から地域で生活を支援する取り組みにチェンジしていて、権利擁護という次のステージにいる。僕は自分の病院がダメなんだとずっと思っていましたが、そうではなく日本の精神医療全体が国際社会から大きく遅れていることがわかってきたんです。 それで、いろいろ計らってもらって、日本でも先進的な取り組みをしていた「浦河べてるの家」や、世界ではじめて精神科病院の全廃に成功したイタリアのトリエステに行ったり…。こうしたものを実際に見ることで、病院の中をどうこうしようではなく、日本の課題である地域資源を増やしたほうがいいと思い始めました。 また2011年に東日本大震災があって、福島の障がい者支援団体に寄付金を届けにいくこともやっていました。原発から20km範囲内の精神科病院が全部なくなり、病院を復活させようという人たちと、地域で支援しようという人たちの二つに分裂するなか、僕は地域支援のほうに参加させてもらって現地の復興していく様を間近で見ていました。 そうした背景もあって2012年に法人を作り、実際に動き出すことになりました。 管理をしない、変容を求めないというコンセプト 渡邊: 当時、付き合いのあった精神科医の森川すいめいさんと、地域資源を作ろうと考えていました。それで、一番いいのはアウトリーチだろうと。僕は作業療法士で訪問看護もできるので、一緒にやってくれる看護師を集めて2013年にKAZOCを開設しました。 日本の精神科医療の課題を解決するものにしたかったので、精神科病院の本質って何なのかと考えたときに、まず「管理」だと思いました。社会から切り離す目的、管理目的で入院させることが多く、入院すると向精神薬が投与される…。これが本人の考えや行動を「変容」させることになります。管理と変容の考え方が地域の中で始まったとき、本人が反発するとその溝がどんどん広がり、問題が複雑化していく。その行きつく先が精神科病院の長期入院なのではないかと仮説を立てて、その手段を僕らは一切放棄しようと決めました。 管理をしない、変容を求めないというコンセプトはそこから生まれました。 ただ、そうすると管理や変容以外の手段をとる必要があり、モデルを探すことになりました。そこで最初に目を付けたのが、「浦河べてるの家」やホームレス支援の「ハウジングファースト」です。 べてるは当事者主体の活動で仲間の原理。コミュニティーとかボリュームにピントを合わせていて、それが訪問看護で単独介入ではなく、チームで複数名訪問のスタイルをとることに繋がっています。また、ハウジングファーストの在宅維持率という物差しは、地域移行や長期入院の解消に転用できるのではないかと考えたんです。 オープンダイアローグはステーションを立ち上げた後、2013年の夏頃に日本に入ってきました。  この3つをモデルに掲げて、べてるで言えばコミュニティー・人間関係、ハウジングファーストでは在宅維持率、オープンダイアローグでは対話と、それぞれの要素を取り込みながら、管理でも変容でもない別の手段を模索してきました。 ―他のステーションではやっていないような、特徴などはありますか。 渡邊: あえて余剰人員を置いているのが、一つ特徴だと思います。僕らの基本的な考え方として、一対一よりも複数名で関わる構造にしたほうが、より治療効果が高いと考えているので。 特定の人が一人訪問するのと、チーム二人で同時に行くのでは、持ち込まれる量も質も変わってくるし、価値観も多様になりますよね。同じ話をしていても捉え方、考え方が違ってくる。そこが対人援助の支援では大事だと思っています。 制度としては、リスクやケア度が高い場合、主治医からの指示で二人で訪問できる加算がありますが、それとは意味が違うし、余剰人員を確保してまでやっている所はあまりないと思います。 また、密な人間関係を作りたいというよりは、多様な価値観の方を重視しているので、固定の担当制ではなく、一人の利用者に3~4人のチームでローテーションするようにしています。そこはこだわっているところですね。 経営的に採算は落ちます。もっと収益性の高い経営もやろうと思えばできますが、立ち上げのコンセプトに従って運営しているので、そこは中身重視で質と量のバランスを僕が調整しています。 それと朝30分、終業前に30分、毎日ルーチンで申し送りをしています(コロナ禍以前は)。事業所によっては直行直帰などで話す時間は限定的になってしまうかもしれませんが、一日のうち一時間くらいは顔を合わせて情報共有、話し合いの時間を作ることを大事にしています。何か起きたときにすぐに話ができる環境を確保するのが目的です。 ** 株式会社Neighborhood Project 代表取締役 訪問看護ステーションKAZOC 作業療法士・精神保健福祉士 渡邊 乾 都内の精神科病院に就職し、日本の精神科医療の現実を知る。その後、浦河べてるの家、イタリア・トリエステの活動を視て地域支援を志す。2013年に精神科訪問看護ステーションKAZOC(かぞっく)を開設。当事者研究、ハウジングファースト、オープンダイアローグなどの先進的な手法を取り入れ、精神疾患を持った人たちの在宅生活を支援している。

コラム
2021年3月30日
2021年3月30日

訪問看護の社長業 ~創業経営者 水谷氏から学んだこと 教育編~

前回までの2回は人事部門の大切なポイントを紹介しましたが、今回は教育・研修部門の考え方、重要性について「社長業」の視点でお話します。  コラム執筆者:一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー/理事長  上原良夫 教育・研修の基本的な考え方 まず大前提の考え方としては、製造業で言うところの「物を仕入れたあとの製品⇒商品への加工作業に値するのが、教育・研修部門」となります。このように教育・研修部門をとらえれば、少しわかりやすいかもしれません。「物を加工する」という工程を、訪問看護業に置き換えればいいわけです。 また、基本方針として「年間メニューの多様化と業界一番の品質作り」を掲げます。 そして細かな方針や定義を列記して、やはり朝礼で読み上げることで、方針を内部に認識、普及・浸透させていきます。 以下、列記したものはその概要です。 ①中核となる医療専門職は3~5年を基準とするが、教育・研修の質・量に自信がもてるところから段階的に3年未満の方や新卒を受け容れていく。もちろん新卒とは報酬に差を設けていく。 ②教育・研修の目的は、志を高くもつ、利他の心を高める。原理原則を守る、人間性(思いやり、熱意、誠意、素直な心)を高める、お客様を幸せにする、自分の幸せも追求する、ことをバックアップすることを根本に置いている。 ③訪問看護未経験でも研修期間内で一定のスキルを習得して実務者に仕上げる。但し、管理者評価が低い場合や周りに評判が低い場合は、専門性不足?常識不足?在宅不向き?メンタルヘルス問題?か、その状況に応じて、再教育、雇用契約変更の調整をする。 ④同行訪問と座学指導も交えて実践に導く。初任者~従事者~中堅~管理者候補~管理者用研修とメニューもフォローも充実させて、現在の安定と将来の成長が実感できるようにする。 ⑤臨床経験スキルは基本的に通用するが、1年間は経営方針書の遵守と先輩指導のもと事例の積み上げである。2年目から各自に見合う量と質を安定させる。3年目でやり方・応用に自信が付き自分流が確立します。1年目は真似て型を守り、2年目は自分のやり方に改善、改良を加える。3年目に現業の確立と新たな領域を開発する、守破離の思想である。 ⑥外部への研修希望は予めの申請を必要とする。1人1回1万円程度は認める。但し1人当たりの参加回数、総額に一定の上限を設けて管理する。 ⑦全職種資格別の専門的は症例検討会、リーダー研修、フォローアップ研修、マネジメント研修等を、会社の成長に応じて段階的に実施する。 ⑧訪問看護ハンドブックを作成して、医療専門職、総合職、事務職で毎年担当を変えてブラッシュアップを継続する。 在宅の小規模事業所では、定期研修の実施や勉強会プログラム貧弱なところが多々あると認識しています。ノウハウや手間が必要で予算もかかりますが、教育体制次第では外部からの技術的信頼を得ることが難しいのはもちろん、向上心の高い内部スタッフにおいても、自己研鑽の場が少ないことというのが不安材料になったり、退職理由に結びつくことさえあります。もちろん採用時においてもこの点が充足しているか、教育研修方針があり機能しているか、といった点が志望動機にもなりますので、ぜひ参考にして頂ければと思います。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【略歴】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務   【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

インタビュー
2021年3月23日
2021年3月23日

被災地特例の一人開業による立ち上げ/第2回 訪問看護の1人開業・立ち上げ

被災地でのボランティア活動で、さまざまな医療ニーズがあることに気づいた渡部さんは、被災地特例の一人開業で訪問看護ステーションを立ち上げました。第2回は、訪問看護ステーションの開業から立ち上げに至るその経緯についてお伺いします。 医療資源が不足する地方の現実 ―一人開業に至るまでの経緯を教えていただけますか。 渡部: 被災地特例として、国から訪問看護ステーションの一人開業許可が出たのですが、市に申請を出したら「訪問看護のニーズはない」と2~3度却下されました。市が言うには、地元の訪問看護ステーションでは利用者さんも亡くなったりして人数が減っているし、経営も厳しい状況だという回答が多かったからだそうです。 でもそれは、震災後に新たに生じているニーズ(家族が亡くなって病院受診や体調管理ができなくなった人、避難所~仮設住宅生活の廃用で全身状態が低下した方、PTSDやうつ病を発症した方、など)を拾えていないと思いました。どんどん取り残されていく人がいることはわかっていたので、3,000人分の署名を集めてあらためて市に申請し、ようやく開業にこぎつけました。 ―具体的にはどのようなニーズがあったのでしょうか。 渡部: 牡鹿半島というエリアは、市の中心部からも遠いので、事業所の採算面を考えると中心部から訪問看護に行けるのは週に1~2回程度。そういう意味で地域的な線引きがあり、受けられる医療資源が限られてしまっていると思いました。がん末期でどんどん病状が変化している方が家で過ごしたいとか、一人暮らしで健康不安がある方とか、認知症が進んでいる方とか…。そういう方のところに、タイムリーに24時間対応で行ける事業所はなかったです。 これは震災前からの課題だったと思いますが、震災の影響でより顕在化したとも言える。たぶん過疎地域などは全国的に同じような課題があると思います。 私としては、地域のためにできることはなんでもしたい、継続的に関わっていきたいと思っていたけれど、ボランティアだと期限があり、いつか終わりになる。それで、キャンナスの代表から「継続的に地域に関わりたいのであれば自立しなさい」と言われていたこともあって、サポートを受けながら開業しました。 「なぜ、一人で?」と聞かれることもありましたが(笑)、一人でやりたかったわけではなく、限られた医療資源の中で私がやれることの一つが、一人開業だったということです。また、一人開業は被災地特例ではあるけれど、地域のために継続的に活動することが、これからの社会に一石を投じることになるかもしれないと思ったんです。 訪問看護未経験からのスタート ―開業にあたり、キャンナスからはどのようなサポートがありましたか。 渡部: 当時の私は訪問看護の経験がなかったので、全国に拠点があるキャンナスのネットワークを活かして、埼玉の訪問看護ステーションで研修をさせてもらいました。わからないことはすぐに聞けるなど、技術的な部分が一番サポートしていただいたところです。事務的なところでは、開業にあたっての書類なども、ひな型をシェアしてもらうなどサポートしていただきました。 ―利用者さんはどのような経緯で受け持つことになったのでしょうか。 渡部: 最初は、キャンナスの時からつながりのあった先生から紹介していただきました。そのほか、牡鹿半島に行く訪問看護ステーションがあまりなかったので、地域包括支援センターからの依頼や、避難所のときからつながりがある方もいらっしゃいました。 当時は一人で8~9人くらいを受け持っていて、月にMAXで80件くらい訪問に出ていたこともあります。在宅酸素を付けている方やうつ病の方、がん末期のお看取りの方もいました。避難所のボランティアは24時間体制だったからか、それに比べれば物足りなかったぐらい。独身で若かったですし、エネルギーがあり余っている感じでしたね(笑)。 ただ、被災地特例の制度では、難病の方や医療保険の方は看られないなどの制限があったので、その部分は介護保険の枠や、キャンナスの制度外の自費サービスである有償ボランティアとしてやっていました。 看護師の人数が増えると、マネジメント的な要素も加わってきますが、一人だと純粋に看護に集中できるし、利用者さんとの関係性を大事にすることができて、すごく楽しかったです。 ** ぷりけあ訪問看護ステーション 代表取締役/保健師・看護師 渡部 あかね(わたなべ あかね)旧姓:佐々木 東日本大震災のボランティア活動で、医療者が地域の中に出向いていかなければ気づけ対応できないニーズが非常に多いことを経験。看護師として、本当に困っている人のそばに身を置いて関わっていきたいという思いから、被災地特例で一人開業し、その後2014年にぷりけあ訪問看護ステーションを開業。

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