経営者に関する記事

特集
2021年10月19日
2021年10月19日

第4回 残業・休憩・休日編/[その2]朝礼や昼休みの電話当番、これって労働時間に入りますか?

前回の記事で、労働時間には「所定」と「法定」があること、「1日8時間・1週間40時間」という法定労働時間を超える残業に対しては、時間外割増賃金を支払う必要があることを説明しました。今回は、休憩時間などの周辺知識を含めて、何が「労働時間」とみなされるのかを具体的に検討します。 私の事業所は9時から始業ですが、実際は、毎朝8時30分にみんなで集まり、その日の業務を確認する「朝礼」を行っています。この始業前の朝礼は、労働時間に含まれますか?朝礼への参加を義務づけていれば、労働時間になります。 使用者の指揮命令下にあるかどうかがポイント 労働時間とは、過去の判例で次のように定義されています。 「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」(三菱重工長崎造船所事件・最高裁平成12年3月9日判決) 少し難しい表現ですが、ポイントは、使用者の指揮命令下にあるかどうかということです。あくまで客観的に判断するため、事業所が「始業時間は9時ですので、その前の朝礼は労働時間ではありません」と勝手に(主観的に)決めることはできません。 参加が義務づけられた朝礼は労働時間 質問のケースでは、仮に、朝礼に参加しなくてもよく、参加が完全に自由であれば、「使用者の指揮命令下」にあるとはいえないでしょう。 しかし、参加が義務づけられていたり、参加をしなければ上司から注意を受けたり、処分を受けたりするといった不利益がある場合には、「使用者の指揮命令下」にあるといえ、朝礼に参加している時間は労働時間になります。 私の事業所では、昼の12時から13時までを休憩時間としています。ただし、休憩時間中に利用者様から電話がかかってくることがあるため、その電話には出られるよう、スタッフに交代で電話当番をしてもらっています。先日、あるスタッフから「電話に出なくてはいけないなら、休憩時間といえないのではないか?」と言われました。電話がかかってくることは多くないので、それほど負担になっていないと思うのですが、これは休憩時間とはいえないのでしょうか?休憩時間とはいえず、法定労働時間になります。 必要な休憩時間を正確に把握しましょう 使用者(事業所)は、一定の休憩時間を労働者に与えることが法律で義務づけられています(労働基準法34条1項)。具体的には、図1に示すように、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、また8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間が必要とされています。ポイントは、「超える」という言葉の意味です。労働時間が8時間ぴったりちょうどの場合は、8時間を「超え」ていませんので、「8時間以内」として45分の休憩を与えればよいということになります。なお、この休憩時間は分割して与えてもよく、例えば1時間の休憩を30分×2回とすることも可能です。 図1 労働基準法上の休憩時間のルール ポイントは、休憩時間は「労働から解放されていなければならない」ということです。法律でも、労働者は、休憩時間を自由に利用できると定められています(労働基準法34条3項)。 休憩中の電話当番は労働時間 ここで質問のケースを振り返ってみましょう。この事業所では、休憩時間中に利用者様から電話があった場合は、当番制でその電話に出てもらうようにしているとのことですが、これはスタッフの立場からすると「電話にすぐに気づけるように、音楽を聞くのはやめておこう」「昼休みの外出はできないな……」というように、休憩時間を自由に利用できなくなってしまいます。そのため、労働から完全に解放されているとはいえず、結果的に電話当番をしている間も労働時間となっています。これは、仮に1本も電話がなかったとしても同じです。 休憩はみんなで一斉にとるの? この事業所の場合、12時から13時まで電話当番をしてもらうスタッフには、この時間帯とは別に休憩時間をとってもらうようにするとよいでしょう。 なお、法律では、休憩は全スタッフに一斉に与えることが原則とされていますが(労働基準法34条2項)、看護事業に関しては、例外的にそのような原則は適用されないこととされています(労働基準法施行規則31条)。そのため、訪問看護の事業所においては、休憩は皆バラバラにとってもよいことになっています。 看護事業に関しては特別な取り扱いが認められていますので、チェックしておきましょう。 上司から指示されているわけではないのですが、業務量が多いため、仕事を自宅に持ち帰ってやらざるを得ません。深夜に上司に対してメールで成果物を提出したりしています。この場合、割増賃金は何ももらえないのでしょうか。事業所が、自宅に持ち帰って仕事をしていることを黙認している場合、労働時間とされ、割増賃金の支払いが必要になることがあります。 使用者の指揮命令下であれば残業代は必要 これまで説明してきたように、労働時間にあたるかどうかは、「使用者の指揮命令下」にあるか否かによって決まります。仕事をする場所が、職場でないといけないという決まりはありません。 上司が、自宅で作業することを指示した場合、それは強制にあたり、仕事をしている時間は労働時間になります。 黙認された持ち帰り残業は労働時間にあたる場合も では、上司からの明確な指示がない場合はどうでしょう。 質問のようなケースでは、上司は、深夜にメールで提出された成果物を受け取っているのですから、スタッフが深夜まで作業をしていることを認識できているといえます。にもかかわらず、深夜の作業は止めるように指導せず、成果物を利用しているならば、結局、その上司は、スタッフが自宅で作業していることを黙認しているといえるでしょう。そのような場合は、作業をしていた時間は労働時間にあたるとされることがあります。そのため、事業所としては、①自宅での持ち帰り残業は「許可制」とし、②仮にスタッフが自宅での持ち帰り残業を事業所の許可なく行っていることがわかった場合は、それを黙認するのではなく、注意して止めさせるべきでしょう。また、スタッフ一人ひとりの業務量を見直すなど、職場環境の整備も必要といえます。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。 記事編集:株式会社照林社

特集
2021年10月12日
2021年10月12日

第4回 残業・休憩・休日編/[その1]この違いわかりますか? 割増賃金が発生する残業、しない残業

労働時間の管理は、労務管理の『基本中の基本』です。何が労働時間にあたるのかをきちんと理解していないと、法律で定められた残業代(時間外割増賃金)を適切に支払うことはできません。残業代の未払いに気づかず、ある日突然、スタッフからまとめて請求される……というケースも少なくありません。こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、法的に正しい知識を身につけ、日頃からきちんと労働時間を管理しましょう。 私の事業所では、就業時間は9時~17時まで(うち1時間休憩あり)と決まっています。忙しい日にスタッフに18時まで1時間の残業をしてもらった場合、その分の割増賃金を支払う必要はありますか?この場合は法内残業にあたりますので、労働基準法が求める割増賃金の支払いは不要です。  労働時間には「所定」と「法定」がある 労働時間には「所定労働時間」と「法定労働時間」があります。まずはこの違いをしっかりと押さえることが管理におけるポイントです。 まず、「所定労働時間」とは、就業規則や雇用契約書の中で定められた労働時間のことで、始業から終業までの合計時間から休憩時間を差し引いた時間をいいます。所定労働時間は、企業や労働者ごとに自由に決めることができるので、労働契約の内容によってさまざまです。例えば、「9時~18時」と定めているところもあれば、「10時~17時」と定めているところもあるでしょうし、パートについては「13時~17時」としているところもあるでしょう。 対して、「法定労働時間」とは、その名のとおり「法律で定められた=法定」、つまり労働基準法32条で定められた労働時間をいいます。同法で、使用者は、労働者を1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えて働かせてはいけないことになっています。 これを超えて働かせるには、①36協定(※)を締結し、かつ、②労働基準法で定められた割増賃金(時間外労働は原則25%増)を支払う必要があります。 割増賃金の支払いが必要なのは法定外残業 この質問のケースでは、就業時間が「9時~17時、うち1時間休憩あり」なので、所定労働時間は、始業から終業までの8時間から休憩時間の1時間を差し引いた7時間です。 ですので、17時から18時まで1時間の残業を行っても、法定労働時間の「1日8時間」という上限を超えないため、割増賃金を支払う必要がありません。このように、残業はしているけれども法定労働時間内に収まっている残業を「法内残業」といいます。なお、賃金規程などで「法内残業についても割増賃金を支払う」と定めることは自由ですが、定めた場合は、当然その支払いをしなければいけません。 では、19時まで2時間の残業を行った場合はどうでしょうか。この場合、17時から18時までの1時間は法内残業ですが、18時から19時までの1時間は、1日8時間の上限を超えています。このように、法定労働時間を超える残業を「法定外残業」といいます。法定外残業に対しては、労働基準法で定められた25%増の割増賃金を支払う必要があります。 ここまでの内容を図1にまとめましたので、ご参照ください。 図1 所定労働時間7時間の場合の割増賃金 ※36(さぶろく)協定:労働基準法36条(時間外及び休日の労働)に基づく労使協定のこと。使用者が法定労働時間の上限を超えて労働させる場合に必要となる。 ある日、利用者様の体調変化が重なり、とても忙しい日がありました。スタッフのAさんは、午前9時から始業し、昼に休憩を1時間とりましたが、その後、午後11時まで働きました。この場合、13時間労働ということになりますが、割増賃金は1日8時間を超えた分に対して25%増で支払えばよいのですよね?いいえ。午後6時から午後10時までは25%増ですが、午後10時から午後11時までは深夜割増賃金が加算されますので、50%増で支払う必要があります。 割増賃金の3つの種類 割増賃金のしくみをきちんと押さえておきましょう。まず、割増賃金には、①時間外割増(1日8時間、1週間40時間超えの労働)、②休日割増(法定休日における労働)、③深夜割増(午後10時から午前5時までの労働)の3種類があります。それぞれの割増率は図2に示したとおりです。 図2 時間外労働、休日労働、深夜労働の割増率 時間外労働が1か月60時間を超える場合は、時間外割増は50%増となることに注意(ただし、中小企業は2023年4月1日以降から適応) 深夜労働が重なると割増賃金は50%増に 注意しなければいけないこととして、深夜労働の割増賃金は、時間外労働と休日労働の割増賃金に『加算される』ということです。下の図3をご覧ください。 図3 深夜労働と重なった場合 深夜労働をするという時点で、すでに1日8時間の法定労働時間は超過していることが多いですから、深夜に行われた作業に対しては50%増(25%+25%)の割増賃金を支払うことがしばしばあります。事業所としては、スタッフの健康のためのみならず、人件費抑制の観点からも、深夜の作業は可能な限り控えてもらうように指導したほうがよいでしょう。 なお、労働時間の管理については、厚生労働省が出している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 」が参考になります。厚生労働省のホームページから誰でもアクセスすることができますので、ぜひ、ご参照ください。 ** 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。 記事編集:株式会社照林社

インタビュー
2021年10月5日
2021年10月5日

コロナ禍に行ったアンケート調査にみる 不安を克服し前に進もうとする姿に誇り

公益財団法人日本訪問看護財団常任理事の佐藤美穂子さんインタビュー、後編は日本訪問看護財団が昨年から今年にかけて4回にわたり行ったアンケート調査から見えてきたものを中心に語っていただきました。コロナに翻弄される訪問看護師の不安と、その先にある光明とは。 コロナで明らかになった 日本人のヘルスリテラシー コロナ禍の中で1年半経って私が感じたのは、日本は諸外国に比べ、ヘルスリテラシーがしっかりしていると思っていましたが、実はそうでもなかったということです。「マスク着用」「手指消毒」といえば、みんな従うところは徹底しているなあと感心します。しかし、緊急事態宣言も度重なり、その効果はしだいに薄れてしまっています。 またコロナ禍で医療従事者にスポットが当てられ、報道番組などで多くのドキュメンタリーも作られましたが、メディアは「医療崩壊」などセンセーショナルな話題を取り上げる傾向にあります。現実には、感染病棟の看護師は、着脱に時間がかかる個人防護具のフル装備で、トイレを長時間我慢し、食事もままならないという現状がありました。医師は定期的に見回りに来ますが、人工呼吸器も経管栄養も、実際にベッドサイドでマネジメントしているのは看護師です。これらの行為は看護師の特定行為研修制度にもつながるのですが、そういう看護師の総合的な力量 —— 対応力、技術力、指揮力をこそ、メディアにもっと取り上げてほしかったですね。 看護師のメンタルヘルスを良好に保つためには 昨年から今年にかけて財団が4回実施しているアンケート調査からみえてきたのは、コロナ禍で働く訪問看護師のメンタルヘルスの不安定さが、完全に解消できていないことです。看護師は医療者として最前線に立ち、猛烈な感染力がある未知のウイルスに対峙しなければなりません。訪問先や、移動中に、万が一にも感染したらどうしようという恐怖心はどれだけのものだったでしょう。また、個人防護具が足りなくなることへの不安、本人たちの気分の落ち込み、疲労感、イライラ、孤立感を募らせた看護師が多かったことが、アンケートからうかがえました。利用者の命も、自分の家族の安全も守らなくてはならない緊張感に押しつぶされ、休職・退職していった看護師もいました。家族から「そういう(リスクの多い)仕事は休んだら」と言われ、身近な人から仕事に対する理解を得られなかったことで落ち込んだという人もいました。 一方で、不安でメンタルが低下したスタッフに対して、「このままではいけない」と別のスタッフが奮起してカバーしあっていることもアンケートからみえてきました。たとえば、ふだん控えめなスタッフが「とにかく感染に気を付けてこの危機を乗り越えよう」と発言したり、ウイルスについてもっと医学的・科学的・客観的に学ぼうという姿勢がみえたりしていました。なるべく接触時間を短くする分、ICTを活用して利用者の体調管理や健康相談を行っているステーションもありました。管理者はそういう姿を頼もしく感じ、スタッフに、いっそう感謝の気持ちを持ったといいます。 パンデミック下での訪問看護 管理者が行うべきこと 管理者ならではの悩みもあります。万が一スタッフが濃厚接触者や感染者になってしまうと事業所が回らなくなるので、とにかくみんなが安心して働けるよう、「スタッフの命は必ず守るし、健康な暮らしを第一に考えて行動しますから、皆さん安心して」など、管理者からのメッセージを丁寧に伝えて安心してもらっている様子もうかがえました。もちろんその裏付けとして、感染に対する正確な知識をみんなで共有する、個人防護具を全員が十分に使えるように整備するなどを、怠りなくやらなくてはなりません。 感染者に対する差別などが起こっている場合、スタッフの精神的な負担を管理者がフォローすることも大切なことです。濃厚接触者になって10~14日間仕事ができなくなったスタッフが職場復帰したときには温かく迎える。そして当事者の体験をしっかり共有して、根拠に基づく感染防護をさらに徹底する。そんなフォローも管理者には必要です。 訪問看護サミット2021で多くの仲間と会える日まで 感染症は、いつかは必ず治まります。来年あたりは、ポストコロナという新たな状況を描かないといけないでしょう。そして10年後くらいに、また新たなウイルスが出てくるかもしれません。今回、このような世界的なパンデミックをみんなが経験したのですから、これを契機に私たち訪問看護師には地域でどんな役割があって、どういうことをすればいいのか、地域とのつながりを強めるためにも、しっかり業務継続計画(BCP)を作成していただければと思います。 なお、これからも人材確保がままならない状況は増えてきます。みんなで集まることができない今、ICTを活用するなどして、屋根の下の連携ではなく大空の下での地域との連携をより強めていく必要があります。管理者層は、苦手意識を克服するためにも、ICTに強いスタッフの経験を共有し、若いジェネレーションとうまくやっていってほしいですね。 また、日本訪問看護財団の個人防護具無料提供は現在も続けています(2021年9月28日時点)。感染者対応に限定しているわけでもなく、フル装備でなくてもいいですし、ヘルパーさんにも使っていただけます。財団ウェブサイトより申し込みいただけますので、ご利用ください。◎日本訪問看護財団『感染防護具支援プロジェクト』https://www.jvnf.or.jp/covid-19_project2020.html また、11月6日には訪問看護サミット2021を開催します。テーマは「どんな時も共にある訪問看護をめざして、ポストコロナの最善のシナリオを描こう」です。ライブ配信を行いますので、ぜひご参加ください。 ◎訪問看護サミット2021の詳細はこちら↓https://www.jvnf.or.jp/summit2021/index.html ** 佐藤美穂子公益財団法人日本訪問看護財団常務理事 記事編集:メディカ出版

コラム
2021年10月5日
2021年10月5日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 内部体制に関する方針 パート3~

第11回は、いよいよ「内部体制に関する方針」のパート3です。パート1の冒頭に紹介したとおり「成果はすべてお客様から得られます。会社の内部は全て費用でしかありません。赤字会社の社長は、いつでも内部管理に終始しますが、本末転倒です。」というのが基本姿勢ですが、とはいえ、そこで働くスタッフが基本方針を間違って解釈したり、方向性に迷ったりしないようきちんと明示しておくことは大切です。今回は、その中であえて1項目を抜き出して説明します。 会議に関する方針 以下、事業所専門職スタッフ全員参加のミーティングを想定しています。日常的に実施される専門職のケースカンファレンスだけではなく、事業所の運営をスムーズに行うための全体ミーティングを月に1回は実施すべきと水谷氏は勧めます。各事業所が自走経営するための会議、といったところでしょうか。ただ訪問すればいいだけ、という意識で仕事をするのではなく、労働生産性を意識して高め合うためにも、このような会議を定期実施してはいかがでしょうか。 ①情報交換と意思統一、計画・実績確認を重視します。 ②会議の目的とは? 以下の項目について情報共有と対策検討をします。 ・お客様サービス・ご要望・クレーム対応 ・ご紹介先、関係機関との情報疎通・増客 ・人員・設備の過不足、スタッフ空き情報、請求回収について ・教育・研修計画/実施、地域集会参加促進 ・制度変更や実地指導の確認 ③会議開始にあたり、前回決定事項の確認をする。終了時には、当日決定事項の確認をする。 ④お客様が主体ということを念頭におく。 ⑤機微、場の空気を読むこと。話が飛んだり、すり替わったりすると時間を無駄にし、全員の神経を疲労させます。 ⑥先行き対策に知恵を出すことが優先です。誹謗・中傷の場ではありません。 ⑦決まった時間内で終了するのがベストです。会議前には、話す要点を整理してくると運営がスムーズです。 ⑧アジェンダ(議題)と議事録は必須です。レジメは開始数日前、議事録は翌日が基本です。担当を決めて習慣にしてください。 上記、②は運営・経営に直結する内容。それ以外は、会議への臨み方です。各社多少のアレンジはあると思いますが、スタッフが慣れないうちは、社長や本部スタッフなどがファシリテートして会議を進行してください。大事なのは、現場で起きていること(特に悪い事)がきちんと社長へ上がることです。どこかでクレームが隠蔽されたり、ご要望に対して何かにつけボトルネックがあったりすると、正常な経営ができません。現場で起きていることが正しく社長・本部へ伝わり、逆に会社の経営方針や意思を現場に浸透させるには、膝をつめて話し合いを重ねるしかありません。ある程度の緊張感をもった「会議」を実施することで、なあなあ体質にならない集団ができることと思います。 さて、「水谷氏から学んだこと」も佳境に入って参りました。次回は「評価についての方針」についてお話しします。ご期待ください。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【略歴】2012年ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務

特集
2021年10月5日
2021年10月5日

第3回 計画的な人材採用と育成/[その4]「目標管理」で“強いステーション”づくりを!

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。今回のテーマは“目標管理”です。ここでいう目標は事業所の理念や基本方針につながるものであり、利用者へのケアをとおして、その実現に貢献できる目標である必要があります。目標管理の重要性を職場にしっかりと周知し、理解を浸透させましょう。 ●ここがポイント!・目標管理とは、職員一人ひとりが目標を設定し、自らを管理することである。・目標設定では、個人と組織のベクトルを合わせることが大切である。・目標管理を形骸化させずより高い成果を得るために目標達成を支援するコーチの存在が必要不可欠である。 目標管理とは 目標管理とは、経営学者ピーター・F・ドラッカーによって提唱されたマネジメント手法です。ドラッカーの著書『現代の経営』の中で目標管理は次のように記載されています。 「今日必要とされているものは、一人ひとりの人の強みと責任を最大限に発揮させ、彼らのビジョンと行動に共通の方向性を与え、チームワークを発揮させるためのマネジメントの原理、すなわち一人ひとりの目標と全体の利益を調和させるためのマネジメントの原理である。これらのことを可能にする唯一のものが、自己管理による目標管理である。自己管理による目標管理だけが、全体の利益を一人ひとりの目標にすることができる。」(P.F.ドラッカー著,上田惇生訳 『現代の経営【上】』ダイヤモンド社,2015,p.187.より引用) 目標管理とは、職員一人ひとりが目標を設定し、自らを管理すること、つまり、目標による管理のことです。 目標管理は「Management by Objectives and Self-Control」と表記します。目標管理を構成する3つのキーワード、「マネジメント」、「オブジェクティブズ」、「セルフ・コントロール」について順に説明していきます。 マネジメント(management)とは 直訳すると「管理」、「経営」ですが、managementの動詞形manageの原義には「馬を手で扱う」という意味があり、そこから転じて「(扱いにくい人や事柄などを)うまく取り扱う」、また「なんとかやり遂げる」という意味があります。ここではマネジメントを英語の訳に即して「工夫や苦労を重ねてやり遂げること」と考えます。 オブシェクティブズ(objectives)とは 複数のストレッチ目標を意味します。ストレッチ目標とは、簡単に達成できる目標ではなく、背伸びをして手を伸ばさないと達成できないような目標のことをいいます。 セルフ・コントロール(self-control)とは 自分自身で目的を定め、計画を立て、意欲的、かつ主体的な行動をとれることをいいます。 目標管理のねらいと効果 目標管理のねらいは、主体的に考えて活動する人材を育成することにあります。 職員自らがストレッチ目標を設定し、目標達成に向けて創意工夫して取り組むことで、自分で考え行動し、壁を乗り切る力が身につきます。何か問題が生じたときにも、常に当事者意識をもって対処できるようになります。 また目標が達成されることで、自信が育まれ、レジリエンス(さまざまな困難な環境や状況に対しても適応し生き延びる能力)が鍛えられます。 目標設定のポイント 目標設定では、個人と組織のベクトルを合わせることが大切です。職員一人ひとりの目標が事業所のめざす最終目標(理念や基本方針)につながることで、事業所全体の利益が調和された状態になり、組織全体のパフォーマンスが向上します。 そして、目標は具体的に設定します。ここでは「グタイテキ」の頭文字に沿って、設定のポイントをご紹介します。 グ:具体的言った人のイメージと受け取った人のイメージが一致する。行動レベルの言葉にする。タ:達成可能ストレッチ目標を設定する。イ:意欲的達成することで自分自身、または周囲にどんな価値やメリット、意味があるのか考える。テ:定量化・数値化例えば、よく使われる「~に貢献する」「~をバックアップする」「~を推進する」「スムーズに~する」「迅速に~する」は具体的ではないため目標設定では不適切。キ:期限を定める 「いつまでに」達成するのかを明確にする。 目標管理の形骸化を防ぐコツ 目標管理を1人で行い続けるのは大変なことです。忙しさのなかで怠けてしまったり、中身が追いつかず形式的なものに陥ってしまったりしがちです。この形骸化を防ぐコツは成果を出して、成功体験を積み上げていくことです。 そして、成果を出すためには目標達成を支援するコーチの存在が不可欠です。コーチがいることで、達成に至るまでの時期が短縮され、成果のレベルが格段に上がります。コーチ役は上司が担うとよいでしょう。信頼関係が深まりチームワークが強化されます。 コーチに期待される役割には以下のようなものがあります。・新しい気づきをもたらす・視点を増やす・考え方や行動の選択肢を増やす・目標達成に必要な行動を促す基本的にコーチは一方的に指導したり、アドバイスを与えたりすることはしません。対話をとおして問いかけ、相手からさまざまな考え方や行動の選択肢を引き出します。この技法を「コーチング」といいます。 コーチ自身も目標管理を支援する能力が必要となりますので、部下の可能性を最大限引き出せるようなコーチングスキルを身につけましょう。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社 【引用文献】 P.F.ドラッカー著,上田惇生訳(2015)『現代の経営【上】』ダイヤモンド社

インタビュー
2021年9月28日
2021年9月28日

医療や介護を直撃した新型コロナウイルスが 訪問看護ステーションにもたらしたもの

トップランナーから現場へのエール 日本訪問看護財団は、現場の声を国や関係機関にあげ、職場環境改善や研修事業を行う訪問看護ステーションの職能団体の一つです。常務理事を務める佐藤美穂子さんに、新型コロナウイルス蔓延で訪問看護ステーションが受けた打撃について語っていただきました。 電話相談から見えてきた 感染対策、防護具不足、経営危機…… 新型コロナウイルスのパンデミック発生から1年以上が経過しました。この未知のウイルスは、訪問看護ステーションの運営をも直撃しました。私たち日本訪問看護財団は、情報発信と相談支援、国や関係省庁に要望を届けるための実態把握を、常日頃から行っています。コロナ禍においては、特に感染予防などに特化した形で数多く発信してきました。 情報発信としては、財団ウェブサイトに、感染症に関する特設ページを設けました。第一報は2020年3月6日で、平時の感染管理、利用者やスタッフの感染・感染疑い時の対応などを、細かく伝えました。この時の発信は、業務継続計画(BCP)としての側面に近い内容でした。 そのころすでに、外部者だからとの理由で、看護師の訪問が断られる事例が約15%発生していました。そこで、「訪問看護を利用する皆様へ」という利用者へのチラシのひな型を作成し、必要に応じて使っていただくようにしました。チラシには「訪問看護ステーションは感染管理を徹底しているので、部外者であっても安心です」といった内容をつづっています。 ウェブサイト上で無料電話相談の告知も行ったところ、新型コロナに関して300件を超える相談がありました。第1波が来たころは、感染対策をどうするかという相談が多かったのですが、すぐにマスクやフェイスシールドが手に入らないという相談が増えました。第3波が到来した2020年末~21年1月ごろは、変異株についての問い合わせが増えました。 管理者のこうした相談に丁寧に対応する一方で、新型コロナに関する緊急ウェブアンケート調査も4回実施しました。その内容は整理し、国へ提出しています。コロナ禍での混乱や管理者の不安が少しでも軽減されるよう、私たちも常に情報を発信しつづけ、かかり増し経費に対する交付金や、職員への慰労金についてもお知らせしました。 感染防護具や優先接種を国へ直接要望 財団が行った活動のなかで特に重要だったのは、先のアンケートの件もそうですが、厚労省や政府へ直接要望を伝えたことです。個人防護具の確保についても然りです。これは大変と思ったのが、訪問看護師はワクチンの医療従事者優先接種から外れていたことでした。最前線で活動している医療従事者であるにもかかわらずです。2021年1月15日にその事実を知り、すぐに、日本看護協会と全国訪問看護事業協会との連携で、田村厚生労働大臣に直接訴えました。そして、その月末には優先接種リストに訪問看護師を入れていただきました。 感染を防ぐために必須の個人防護具を訪問看護ステーションに届けることも、財団の急務でした。幸いにも、日本財団とネットライフ生命株式会社から7000万円の寄付をいただき、まずは4000箱(訪問看護ステーションや訪問介護事業所などが1週間使える程度の個人防護具のセット)を確保し、全国に無償で配送できるようにしました。これは現在でも続けているプロジェクトで、ぜひご利用いただきたいと思っています。 一時的な経営危機も 秋以降は利用者増へ コロナ禍では訪問看護ステーションも利用控えなどがあり、2020年4~6月は前年度に比べて1割程度収益が減少しているステーションが6割近くありました。ところが9月の段階では経営危機を乗り越えプラスに転じるステーションも多くなりました。 これには二つの理由があると思います。訪問看護ステーションは医療従事者が対応しているので、安心して利用できることを広く利用者に理解していただけたことが一つ。もう一つは、病院に入院していると面会制限で家族とも自由に会えないため、それなら家に帰って療養したいという人が増えたことです。 利用者が増えれば経営的には安定しますが、感染防護具の支出が増えて大変だという訴えもありました。医療保険では特別管理加算で算定できますが、介護保険では算定できません。そのため、2020年の第二次補正予算で、新型コロナウイルス感染症対策費としてかかり増し経費補助金が計上されました。介護保険事業者は、感染対策や人材確保によけいにかかった費用に対して、助成を受けることができるようになりました。2021年度は「サービス提供体制確保事業補助金」で、同様の助成金が受けられます。 このように財団は、訪問看護ステーションの生の声を国に届け、改善を訴えてきました。しかし新型コロナウイルス感染拡大は、平時の事業運営を根本から揺るがすものでした。それは、財団が4回にわたって行ったアンケート調査から明らかになりました。(後編へ続く) ** 佐藤美穂子公益財団法人日本訪問看護財団常務理事 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2021年9月28日
2021年9月28日

第3回 計画的な人材採用と育成/[その3]「人材育成」のカギはコミュニケーション力アップ!

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。今回のテーマは“人材育成”です。今回はOJTやOFF-JTといった研修制度とともに、部下の育成に特化した対話形式のマネジメント手法である1on1ミーティングについてご紹介します。 ●ここがポイント!・新任訪問看護師の育成方法にはOJTとOFF-JTがある。・現場での指導だけでなく、その後もフォローと振り返りを促し次の成長につなげるしくみづくりが大切。・1on1ミーティングは、対話を通じて部下自らが問題解決の糸口を見つけ行動できるようにサポートする手法。 OJTとOFF-JT 新任訪問看護師の育成方法には、OFF-JT(Off the Job Training)による事業所外での基礎的な知識・技能の習得とともに、実際の仕事を通じて指導し知識・技術などを身に付けてもらい、担当ケースの難易度のレベルを徐々にあげるOJT(On the Job Training)があります。 さらに、OJTやOFF-JTで学んだ知識や技能を実践し、その結果について気づきや課題、改善点などを振り返るプロセスも育成の過程ではとても重要です。指導後のフォローも忘れずに、日常的に声かけし、振り返りを促し、次の成長につなげるしくみづくりが大切です。 例えば、OJTのしくみづくりに活用できるものとして、東京都福祉保健局のサイトで公表されている「訪問看護OJTマニュアル」と「評価シート」があります。▶東京都福祉保健局 訪問看護OJTマニュアル 「評価シート」をもとに訪問前に目標の意識づけを行い、訪問時に態度・行為全般を管理者がチェックし、訪問後に訪問内容全体の振り返りと次の目標設定を行います。お互いがOJTの状況を共有し、目標設定や振り返りに用いるコミュニケーションツールとして活用できます。 またこうした日々のOJTとは別に、新任訪問看護師以外の職員の人材育成を進めるうえで週1回あるいは月1回などのペースで「1on1ミーティング」と呼ばれる時間をもつことも効果があります。 1on1ミーティングとは 1on1ミーティング(以下、1on1とします)とは、部下と上司が1対1で行う対話のことをいいます。 上司が主体となって実施する業務管理や評価のための面談とは異なり、1on1の主体は部下です。部下のほうから仕事の悩みや問題などを上司に伝え、上司は一方的にアドバイスをするのではなく、問題解決に向けてどうしたらよいか部下と対等に意見を交わします。そして、対話を通じて部下自らが問題解決の糸口を見つけ行動できるようにサポートします。1on1は、職員1人ひとりが自律的な行動をとれるように、人材育成やパフォーマンスの向上を目的に、さまざまな企業で取り入れられています。 組織活動ではコミュニケーションをとることがとても重要です。これが不十分だと、報告や連絡、相談が滞り、お互いに何をしているのかわからなくなってしまいます。1on1では、仕事だけでなく、プライベートな話題も話します。部下とのコミュニケーション不足を解消するしくみとして、1on1を活用するのも1つの方法です。 1on1の進め方 事業所で1on1を導入するには、どのようにすればよいでしょうか。ここでは、1on1の進め方を4つのステップに沿って説明していきます。 Step1 信頼関係をつくる まずは日ごろからコミュニケーションを重ね、信頼関係をつくっておくことが大切です。信頼関係のないところで1on1を行っても、職員から本音を引き出すことは難しいでしょう。 普段の接し方や受け答えから、職員は上司がどのような人物か見ています。職員との関係性を築くためにどうしたらよいか考え、行動することが必要です。「私の話にしっかり耳を傾け、認めてくれる。信頼できる上司だ」と思ってもらえるように心がけます。 Step2 1on1を設定する  1on1を定期的なイベントとしてスケジュールに組み込みます。週に1回、最低でも月に1回の頻度で、1回あたり15~30分程度をめやすに実施します。直接会えない場合は、電話などで柔軟に対応し、短時間でもよいのでコミュニケーションの機会を設けるようにします。1on1は維持・継続することが大切です。 Step3 テーマを決める  テーマを決めずに1on1を始めると、時間がかかってしまいがちです。あらかじめ話すテーマを決めておき、質問事項や伝達事項をお互いに考えておくとよいでしょう。Step2で決めた実施時間を守るためにも効率的に進める工夫が必要です。 Step4 実施と記録  1on1では、部下の意見や考えをしっかり受け止め、認めることが大切です。また、「こういう問題を抱えているのではないか」「前回こう言っていたので今日はこれをアドバイスしよう」といった先読みや深読みはせず、先入観をもたずに、その場で部下が話すことに耳を傾けます。部下が安心して話せるような雰囲気をつくります。 そして、1on1の内容は共有できるように議事録を残すとよいでしょう。記録があれば認識の違いを避けることでき、振り返りにも活用できます。 質の高い1on1で人材育成を 1on1を定期的に行っていると、職員の成長や変化にすぐに気づくことができます。機動的に部下の行動計画をサポートすることができ、その結果として部下自身が自律的にスピーディかつ柔軟に目標達成に向けた行動をとれるようになります。 1on1は最初からスムーズに進むとは限りませんし、その効果はすぐにあらわれないかもしれません。しかし、1on1成功の秘訣は、継続・維持することです。回数を重ねるうちに信頼関係が深まるとともに、部下の実践能力が向上していきます。上司自身が成長する機会にもなるため、組織にとってプラスに働くことが期待できます。ぜひ質の高い1on1を取り入れ、職員の育成に取り組んでください。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社

インタビュー
2021年9月21日
2021年9月21日

仕事だけが生きがいの人生にならないために

トップランナーから現場へのエール 長年、訪問看護の世界をリードしてきた宮崎和加子さんは、60歳を機に、山梨県に一般社団法人だんだん会を設立しました。その背景にはある気づきがありました。多くの看護師に慕われた宮崎さんから、ベテラン看護師に贈る言葉とは。 頑張りの限界を自覚することも大切 訪問看護の分野はベテランが担うケースが多く、管理者が50歳以上、看護師の平均年齢は40歳を超えている事業所もあります。小規模なステーションでは、ICT化に積極的に取り組んでこなかったことから、いまだにタブレット端末が使えず、手書きで記録をしているところもあると聞いています。現在、それが解消されているかというと、そうでもないようで、やはり訪問看護の分野はどうしてもICTの導入は遅れていると私は見ています。でも、その人たちには、重度の人をチームで支えるために必須の、ナースとしての力量があります。何より、現在の訪問看護の手本になっている人たちです。でも私はあえてその方々に言いたいことがあります。それは、「自分ができないことをできると思い込んでいないか」ということです。 私自身、訪問看護は自分の生きがいだと思ってやってきましたが、客観的に見たら、65歳の高齢者です。以前は平気だったのに、夜10時まで仕事をしていて、やっと床に就こうとした深夜1時に電話が鳴ったり、夜遅くに雨が降っていたりすると、「訪問するのが嫌だな」と思う自分がいるわけです。それはもう、「今までできたことができなくなっている」ということなんです。 ベテランの訪問看護師の皆さんが、仕事に誇りを持っておられることは素晴らしいし、ぜひ続けていっていただきたい。けれども、どこかで「これまでできていたことができなくなっている自分」がいないか、無理していないかを、一度立ち止まって確認してください。自覚がないまま続けると、そのうち利用者やスタッフに迷惑をかけてしまうことになりかねません。もちろん若いスタッフは、迷惑だなあと思っても、管理者やベテラン看護師に面と向かって伝えたりはできないことが多いです。自分で気づくしかないのです。 私の友人の訪問看護師は、「私がこれだけ働いていると、周りのみんなが少しは休みなさいとか、ちゃんと食事もしないと倒れる、もう少し休んだほうがいいって言うんだけど、よけいなお世話よね」と言うのです。そして、自分の望みは死ぬまで仕事をしていたいと。それはそれで素晴らしい生きかただと思います。でも、ちょっと立ち止まって「それでいいのかな」と考えてみることが必要かもしれません。 入居者から学ぶ自らの引き際 だんだん会が運営するシェアハウス「わがままハウス山吹」に最近入所された人がいます。奥様を10年前に亡くされてから、96歳まで東京で独り暮らしをしていました。しかし、失禁なども始まって一人で生活することが難しくなったため、娘さんが住むこの地に引っ越して、入居されました。明らかに独り暮らしは限界で、手助けがないと暮らせない状態でした。ですが、ご本人はいまだに「僕はまだ独り暮らしができる。東京に帰ります」と、住み慣れた自宅を離れたことに納得していない。以前はできたことが、もうできなくなっている自覚がないんですね。 私がその人から学んだのは、私自身が「まだできる」と思っていないかということです。以前なら平気で徹夜で原稿を書いたり、夜中の急変にも対応したりできていた。それが自分の使命だと思ってやってきたけれど、客観的に見たら、もう無理ができない年齢です。責任の重い仕事をするなら、なおさら、今までできたことができなくなっている自覚を持ち、「できない」と引く勇気も必要なんです。 訪問看護黎明期にステーションを立ち上げたベテランの方々は、最後まで現役でいたいと思っている人たちがたくさんいらっしゃいます。仕事に生きがいを感じ、大きな使命感を持って働いていらっしゃるから、なおさらです。でも、どこかでできなくなっている自分がいないかを確認しないと、周囲に迷惑をかけてしまうことに、気づいてほしい。私自身がそう感じています。 現在、働きかた改革が進み、訪問看護の世界でも、世代間の考えかたに距離を感じることがあります。今の20~30代が看護学校で学んだ看護教育や環境と、私たちの世代が受けた教育とは、かなりの開きがあるように思います。そこを理解せず、これまでのやりかたで統一しようとしても、若い人たちは納得できないでしょう。これからの管理者は、世代間の考えかたの違いを自覚したうえで、どう組織をまとめあげるかを考えていく必要があると思います。 最近は、医療ニーズが高くても、在宅で暮らす割合が高まってきました。先日も、食道がん末期で入院中の人が「コロナ禍で家族と面会もできないなら、最期の時間を病院ではなく家で過ごしたい」と退院され、だんだん会の訪問介護事業所がかかわらせていただくことになりました。新型コロナの関係で病床が逼迫しているので、病棟並みの管理が必要な重度の人が家に戻るケースもあるようです。そのような人たちを支えるには、看護師の力だけでなく、相当のチーム力が必要です。年齢の壁、考えの違いを十分理解し、若い人たちの声にも耳を傾け、自らをも振り返ることで、よりよいチームとなっていくと考えています。 ** 宮崎和加子一般社団法人だんだん会理事長 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2021年9月21日
2021年9月21日

第3回 計画的な人材採用と育成/[その2]ミスマッチを防ぐ「採用面接」のポイント

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。今回のテーマは“採用面接”です。求人広告を出し応募者が集まったら、次に行うのが面接です。今回は採用担当者が押さえておきたい求職者の人物像を見きわめるポイントと面接の場を活用した入職後のミスマッチを防ぐ方法をご紹介します。 ●ここがポイント!・面接は事業所の採用担当者と求職者がともに互いの理解を深め、ミスマッチがないか確認する場である。・面接の短い時間で求職者の能力や特性をすべて見きわめることは難しい。求める人物像をイメージし、そこからチェックする項目を絞り込む方法もある。・事業所について正確な情報提供を行い、求職者自身の考えや期待することとのギャップをできるだけ小さくすることが大切。 面接とは 面接は、求職者の性格や仕事に対する意欲や適性、能力の確認を行うために実施します。また質疑応答や意思確認などをとおして、事業所の採用担当者と求職者がともに互いの理解を深め、ミスマッチがないか確認するための場でもあります。 採用担当者の視点 採用担当者としては、大事な利用者を任せるので、本人と家族が安心できる人物を選びたいと考えるのではないでしょうか。例えば「仕事への情熱やプロ意識がある」、「安全な医療行為に関する知識がある」などは確認したい事項です。また、利用者や家族との間に何かトラブルが生じたときに適切に対応できないと、事業所にとっては顧客を手放すことになりかねません。「利用者の話をしっかりと聴くことができる」、「難しい状況や不測の事態に対処できる能力がある」といったスキルや適性も見きわめたいところです。 面接時のポイント 面接の短い時間で求職者の能力や特性をすべて見きわめることは難しいです。そこで、求める人物像をイメージし、そこからチェックする項目を絞り込むという方法を提案します。ここでは、一例として「利用者やその家族、ほかの職員との信頼関係を築ける人かどうか」という観点でチェックする際のポイントについてご紹介します。 相互理解を深めるコミュニケーション能力があるかどうか 訪問看護ステーションではさまざまな人たちとともに働きます。その中で、ほかの人の意見を聴き、気がついたことがあれば助言をしていくことも大切です。ていねいな言葉づかいや相手の話を聞く態度、自分の意見を話すときは5W1H(When・Where・Who・What・Why・How)を意識して相手に伝わる話し方をしているかなども、面接をとおして見ていきます。 基本的な接遇・マナーを身につけているかどうか 好感のもてる身だしなみや誠実な対応は、ぜひ身につけておいてほしいところです。例えば利用者のお宅に伺う際、明るく元気に挨拶をして、靴を揃えて上がれる人なのかどうかといった点は、面接室への入り方や身だしなみ、表情、声の大きさなどから判断します。 責任感があるかどうか 仕事に対する姿勢として責任感も大切です。例えば、過去の職場での不満や失敗などのエピソードからどのように対応したのかを聞き出して、責任感から行動する人物なのか、自分勝手な行動をする人物なのかがある程度推測できます。 学習意欲があるかどうか 学習意欲の有無も重要です。実務経験や資格などから仕事に対する学習意欲があるかどうかなどを判断します。 笑顔 最後に、面接で特に重視してほしいのが笑顔です。人を元気づけられる笑顔をもっているか、面接時の様子からストレートに評価してみてください。 入職後のミスマッチを防ぐために 面接には、求職者の人物像を見きわめる以外に、とても大切な役割があります。それは事業所について正確な情報提供を行い、入職後のミスマッチを防ぐということです。 面接時の質疑応答をとおして、事業所の理念や組織の雰囲気、採用条件や仕事内容、求めるスキルを求職者に伝えて、求職者自身の考えや期待することとのギャップをできるだけ小さくすることが大切です。ギャップが大きいと職員のモチベーションが低下し、入職後の定着に結びつかず、せっかく入ってくれた人材を逃すことになってしまいます。 事業所側は入職につながるよう、よいところだけをアピールしてしまいがちですが、採用前にネガティブな情報も含めてきちんと伝えられるようにしましょう。求職者がその情報も含めて入職を決められるプロセスを経ることが、その後の早期離職を防ぐ一助になるということを忘れないでください。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社

コラム
2021年9月14日
2021年9月14日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 内部体制に関する方針 パート2~

第10回は、前回に引き続き「内部体制に関する方針」についてのパート2をお伝えします。今回は主に組織の管理部門について言及していますが、ここまでこのコラムをお読みになった皆様においては、腑に落ちる内容ではないかと思います。何のための管理部門なのか?その答えは明確、「お客様のため」です。決して、社員の自己都合のため、ましてや管理のための管理にならないよう、皆様の組織の管理部門をぜひ改めて見直してみてください。 管理部門の仕事と役割について ①事業経営を上手くコントロールするには、一般に (1)仕入 (2)加工 (3)販売 (4)会計この4部門に段階的に「強いリーダー」を配置することです。医療・看護・介護業界に置き換えると、 (1)仕入=人事 (2)加工=教育/研修 (3)販売=サービス提供・営業 (4)会計=会計 となります。 ②「人事/総務」「教育/研修」「サービス統括」「営業」「会計」が組織の重要な管理機能です。実務は管理が中心ですが、これが目的ではありません。お客様との良好な関係作りのため、実際のスタッフ訪問の後方支援が目的です。 ③人事部門は、有能な人材確保という最重要課題を抱えています。市場・業界・学生動向など広く社会現況を見渡し、各所にご縁作りをして、計画的でタイムリーかつ経済的な手を適切に打つことです。また、競合他社の研究(経営状況・募集要項・イベントなどの人事計画)も怠らないことが大事です。 ④人事計画はいつでも先手を打つことが必須です。企画・募集・面接・採用・雇用契約・評価・更新・異動と、各自の人生に関わる重要場面を担いますが、クールヘッド&ウォームハートが鉄則です。 ⑤人事担当者は就業規則の変更・追記、社員報酬、配置、各内部制度について、毎年見直しを実施します。特に制度改正や改定時には慎重に対応し、経営に響かないよう留意します。 ⑥総務担当者は、各種事務手続き、福利厚生管理、設備入替・投資、各種規制、制度の認識・普及、各会議・取締役会の議事取りまとめの役割を担当します。またニュース発行紙面、プレスリリース、ホームページ更新やSNS発信など、広報の役割も担当します。 ⑦教育/研修は、医療介護知識や手技向上のほかに、管理者・事務職に対して、制度情報の改正、改定などの要点を早くキャッチして、共通認識させることが大事です。また、人事部門とともに社員資質・スキルのフォローアップを定期実施することにより離職の防止につながります。 ⑧会計・経理は社長直轄です。月間試算表、予実管理表、資金繰り表などは毎月同日に提出すること。移動年計表、国保連請求分析も同様です。社長が経営分析をし、定期性をもって関係先・銀行などへ報告をします。 ⑨国保連請求管理、自己負担金管理、日常の出納管理を行う事務職は、経理課へ定期的に報告、相談をして、疎通を深くしてください。Face to faceを推奨します。未然に請求事故・金銭トラブルなどを防ぐために重要です。 小規模な訪問看護事業所では、上記をすべて管理者が(訪問看護業務・管理者業務と並行して)担当していることも多いですが、職務分掌することによって、より質と労働生産性の高い仕事ができることと思います。組織がある程度の規模になってきたら、訪問現場に理解のある管理部門のプロフェッショナルを採用増員することをおすすめします。 次回は、「内部体制に関する方針」パート3です。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【略歴】2012年ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務

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