2022年2月8日
胃瘻患者さんの家族から「口から食べられませんか?」と相談された場合【訪問看護のアセスメント】
高齢患者さんの症状や訴えから異常を見逃さないために必要な、フィジカルアセスメントの視点をお伝えする連載です。第3回は、胃瘻造設の患者さんで、ご家族から「元気になってきたから、もう口から食べられるのではないでしょうか?」と相談されました。さて訪問看護師はどのようにアセスメントをしますか?
事例
85歳男性で、入院前にはADLが自立していました。肺炎で入院し嚥下の状態が不安定だったため、胃瘻を作り経管栄養となりました。肺炎が完治したため自宅に戻りました。現在は座位が安定して取れるようになり、短距離の歩行もできるようになりました。家族から、「元気になってきたので、もう口から食べられるのではないでしょうか?」と相談されました。
全身状態の改善に伴い、嚥下機能が改善した可能性のある患者さんです。食事開始は医師の指示によりますが、経口摂取の可能性がどれだけあるのかをアセスメントし、報告することで言語聴覚士(ST)や医師の判断を促すことができます。呼吸状態を確認し、問題がないようなら嚥下に関するアセスメントを行ない、他職種と結果を共有し、ケアプランを考えましょう。
ここに注目!
●筋力が戻れば経口摂取の再開が可能ではないか?●嚥下の機能改善についてアセスメントする必要がある。
主観的情報の収集(本人・家族に確認すべきこと)
▪ 食事摂取の意欲、空腹感はあるか▪ 呼吸器症状(痰の量、咳嗽・むせの有無、痰の喀出ができるか、など)
客観的情報の収集
今回の事例は、神経麻痺の可能性は低いと考えられますが、念のために口腔と嚥下の状態をアセスメントします。
口唇を閉じることができるか
「パ」の音を発音してもらって確認します。口唇を閉じないと、正しく「パ」を発声することができません。
または、頬を膨らませてもらい、息漏れがないかを観察することでも確認できます。
口蓋垂の偏位
「あー」と声を出してもらい、口蓋垂の偏位がないかを確認します。舌咽神経・迷走神経に麻痺がある場合、健側に偏位します。
舌の偏位
舌の動きが悪くなると、食塊を奥に運ぶことができませんので、舌の動きを確認します。舌を前にいっぱいに出してもらい、偏位がないか、上下左右に動かしてもらい、スムーズに動くかを確認します。
舌の動きは舌下神経がつかさどっています。麻痺がある場合は、麻痺側に偏位し、動きも鈍くなります。
これらの症状がすべてみられなければ、経口摂取できる可能性が高まります。
歯の状態
歯牙の状態、入れ歯が合うかどうかを確認します。しばらく経口摂取していなかったため、入れ歯が合わなくなっている可能性があります。
舌の表面
舌の表面を視診し、清潔に保たれているか確認します。舌苔があったり、凹凸がなくてつるりとしていたりすると、味覚を感じにくくなり、食欲不振につながります。せっかく食事を始めても、味わう楽しみが得られません。
嚥下のアセスメント
唾液を飲み込んでもらい、喉頭隆起の動きがスムーズか、むせがないかを確認します。麻痺がある場合は、麻痺側の運動が遅れるので、うねるような動きがみられます。
嚥下の評価テストには、空嚥下を30秒以内に3回以上できるかを確認する反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test;RSST)や、水を飲みこませてむせや呼吸の状態を確認する水飲みテスト(modified water swallow test;MWST)などがあります。医師に相談して許可が得られれば行なってみましょう。
報告のポイント
▪患者・家族ともに経口摂取の意欲があること▪呼吸の状態▪嚥下にかかわる神経障害の有無、嚥下評価テストの結果
執筆 角濱春美(かどはま・はるみ) 青森県立保健大学健康科学部看護学科健康科学研究科対人ケアマネジメント領域教授 記事編集:株式会社メディカ出版