キャリア形成に関する記事

日本訪問看護認定看護師
日本訪問看護認定看護師
インタビュー
2023年7月4日
2023年7月4日

日本訪問看護認定看護師協議会 立ち上げ経緯&想い【特別インタビュー】

「訪問看護認定看護師/在宅ケア認定看護師」は、日本看護協会が行う認定審査に合格し、訪問看護において高いレベルの技術力や知識を持つと認定されたスペシャリストのこと。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会の取り組みについて、代表の大橋奈美さんと、監事の野崎加世子さんにお話しいただきます。 <参考> 新認定看護師制度への移行について2020年度から新認定看護師制度が誕生し、訪問看護認定看護師は「在宅ケア認定看護師」に名称変更。また、これまでは別途行っていた特定行為研修(※)が認定看護師制度に取り込まれることになりました。旧認定看護師制度は2026年度で教育終了予定です(認定審査は2029年度までで終了)。 ※看護師が医師による手順書により特定行為(診療の補助)を行う場合に特に必要とされる研修。在宅ケア認定看護師を目指す場合、在宅・慢性期領域の特定行為(呼吸器、ろう孔管理、創傷管理、栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連)を学ぶ。 ○プロフィール大橋 奈美(おおはし なみ)さん/協議会代表理事看護学校卒業後、総合病院等に勤務。2004年ハートフリーやすらぎ訪問看護ステーションに入職し、現在は常務理事。訪問看護のユニフォームを着て病棟に行けば病棟看護師に声をかけられ、近所を歩けば地元の方とフランクに会話するなど、地域に密着している現役の訪問看護師でもある。現監事の野崎さん(当時代表)の訪問看護師としての姿勢に感銘を受け、協議会へ。 野崎 加世子(のざき かよこ)さん/初代 協議会代表理事&現 監事看護学校卒業後、総合病院に勤務。岐阜県看護協会訪問看護ステーションの立ち上げから関わり、2023年3月末に定年退職。ステーション連絡協議会の会長職を10年以上歴任。岐阜県内で初めてナーシングデイを開設する、高山市内唯一の医療福祉アドバイザーに就任するなどパイオニア的な存在。現在「これからの在宅医療看護介護を考える会」の代表として活躍中。豊富な経験を基に訪問看護の魅力を伝えており、講演依頼が絶えない。 ※文中敬称略 協議会の活動内容&立ち上げ経緯 ―そもそも日本訪問看護認定看護師協議会は、どんなことをしている団体なのでしょうか。 大橋: 日本訪問看護認定看護師協議会(以下、「協議会」)は、訪問看護認定看護師のネットワーク構築と、訪問看護全体の質向上を目指して2009年に誕生しました。「施設から在宅へ」という大きな流れがあるなかで、訪問看護・在宅ケアのスペシャリストである認定看護師は、重要な役割を担っています。認定看護師同士で情報交換をしつつ自己研鑽を積み、地域包括ケアシステムの推進に貢献できるように日々活動しています。 ■日本訪問看護認定看護師協議会 活動 日本訪問看護認定看護師協議会ホームページ(https://jvncna.net/block_act/)より 当初は100名からのスタートでしたが、地道にネットワークを全国に広げていき、現在では362名の仲間がいます。認定看護師同士の研修会・勉強会はもちろん、協議会の外に向けても積極的に情報発信していますね。 例えば、2024年度の医療保険・介護保険の同時診療報酬改定に向けた要望書の作成や、訪問看護ステーションの運営・多機能化に関するコンサルテーション活動等を行っています。また「訪問看護に新たなツールを導入できないか」という試みを行ってくださる団体・法人等からのお声がけに対しても積極的に協力しています。 ―どのような組織単位で活動しているのでしょうか。 大橋: まず、年2回の総会をはじめとした協議会全体としての活動があります。また、地域特性もありますので、全国を大きく9ブロックに分けて地域単位の活動もしているんです。ブロックごとに交流や研修会の開催、地域貢献活動の企画&運営等も行っています。 ■日本訪問看護認定看護師協議会の9ブロック 日本訪問看護認定看護師協議会ホームページ(https://jvncna.net/block_act/)より ―ありがとうございます。2009年に協議会を設立されたとのことですが、初代 代表の野崎さんに、当時の経緯を教えていただきたいです。 野崎: はい。私は日本訪問看護財団の訪問看護認定看護師 教育課程(※)の2期生でした。当時はまだ開講したばかりだったので仲間も少なく、病院の看護師からは「訪問看護認定看護師って具体的に何をするの?」と聞かれてしまうほど知名度も低かったんです。認定看護師の役割である実践・相談・指導をどう進めるべきか、悩みました。 ※日本訪問看護財団の認定看護師教育課程(訪問看護)は2021年度より閉講。 そこで教育課程時代の恩師に相談したところ、団体(協議会)を作ることをすすめていただき、「あなたが代表ね!」と言われたんです(笑)。そういったきっかけで協議会を設立し、活動をさらに充実させるために2014年に一般社団法人化。今は大橋さんに代表をバトンタッチしたという経緯です。会員も当時の3倍以上になり、ずいぶん仲間が増えましたね! ―設立するにあたり、認定看護師さんたちや関係各所の方にはどのように声掛けをしていったのでしょうか。 野崎: すべての認定看護師の教育課程拠点に順次説明をしにいき、「在宅療養者が望むように過ごすには、質の高い看護を追求する仲間が必要です」という想いを伝えました。また、総決起大会を開き、「私たち訪問看護認定看護師はこれからも地域のために、看護のために活動します!」という宣言もしました。 設立後も、訪問看護認定看護師がいない自治体には、直に出向いてその意義をご説明する…といった地道な活動もしましたね。 ―反対意見やご苦労はありませんでしたか? 野崎: そうですね。協議会設立に限らず、新しいことをしようとすると、大抵反対のご意見はあるものです。「協議会はいらないのでは?個人で活動すればよいのでは?」というお声もいただきました。でも、「私たちの目指すところは地域ネットワークの構築であり、訪問看護の充実なんだ」という想いは、皆さん一緒なんです。しっかり対話していくことでご理解いただけて、無事に設立できました。 ―野崎さんの真摯にご説明をされる姿勢、前向きに周囲を巻き込んでいくパワフルさはなかなか真似できないものだと思います。大橋さんも、野崎さんの講演会を聞きにいかれたことがきっかけで協議会に入られたそうですが、そのときのことを教えてください。 大橋: そうなんです! 当時、別の訪問看護認定看護師さんの講演にも行っていたのですが、そこでは訪問看護に関するネガティブなことがたくさん語られていました。その上で最後に「やりがいがあるから皆さん来てください」っておっしゃるのですが、正直「こんなことを聞いて誰が訪問看護をやるんだろうか」と思っていました…。 これではいつまで経っても訪問看護師も認定看護師も増えない、と思っていた時に、野崎さんの講演を聞いたんです。野崎さんのお話のなかにはネガティブな言葉が一切なく、お話にも心から共感しました。私は「これぞ理想の認定看護師だ!」と、すっかり心を奪われたんです。もっとお話が聞きたくて、知り合って間もないのに「仲間たちと一緒に岐阜まで行っていいですか?」と連絡したことも。大歓迎してくださり、下呂温泉にも連れて行ってもらいました(笑)。 野崎: そんなこともありましたね(笑)。 大橋: だから私の講演も、99%は成功体験を語るようにしています。野崎さんのすごさは、協議会設立時もそうですが、それ以外でも積極的に行政や病院、関係者にアプローチして交渉し、新たな体制を作りあげていくことです。「体制がないなら作る」というポジティブな発想は、私のロールモデルになっています。 野崎: ありがとうございます。協議会の私たちが暗い顔をしていたら「訪問看護師になりたい」「協議会に入りたい」と思えませんから、これからも笑顔かつポジティブでいたいですね。 全国の仲間たちと訪問看護の質向上に貢献 ―協議会設立から約15年、法人化から約10年経ちました。協議会の活動を通して、訪問看護認定看護師の認知度や活動内容は変化しましたか? 野崎: はい、確実に変わっていますね。まず、困難事例があった際は、認定看護師が所属している事業所に依頼が来るようになりました。また、多職種が集う会議に参加した際、認定看護師が中心となってまとめている姿を見たこともあり、地域包括ケアの中心的な立ち位置になっていっていることを実感します。 大橋: 冒頭でも少し触れましたが、「訪問看護に関する協力要請は協議会に」という流れも定着しつつありますよ。例えば最近は大学との協働案件が多く、ポケットエコーやVRの研究に協力しています。コロナ禍には、日本訪問看護財団から感染防護具を各県に配布したいというご依頼をいただいたのですが、協議会のネットワークを活用して迅速かつ公平に対応できました。日本財団から遺贈基金をいただいて「在宅看取りを実践できる訪問看護師の育成事業」を実施できたことも、大きな功績です。 野崎: 認定看護師の知識と経験、そして使命感をもってやり遂げられたことは、協議会としても誇れることですね。 大橋: 全国に信頼できる仲間がいるからこそ、こうした大きな事業や取り組みができます。誠実な仲間たちに感謝です。 ―改めて、訪問看護認定看護師の存在意義や求められる姿勢について教えてください。 大橋: 我々には、大変な場面でも逃げずに利用者さんの側に居続ける姿勢が求められると思います。しっかりとアセスメントをして、諦めずにとことん考えていくことが認定看護師の存在意義ではないでしょうか。 野崎: 利用者と向き合う強さが必要なので、ズルい人にはできないですし、真摯に向き合うことが大事だと思います。訪問看護は、熱いハートと冷静な頭脳を持たないとできませんが、そこが魅力でもありますね。 大橋: 全部引き受ける覚悟も必要ですよね。覚悟があるから、よく勉強もする。病棟と違って対象者は全世代であり、疾患もさまざまです。本当にみんなよく勉強していると思います。野崎さんや私も、最近特定行為の研修を修了しましたしね! また、全国の訪問看護師さんたちの相談に乗るのも、私たちの重要な役目です。私が相談に乗る時は、なるべく可視化してお伝えするようにしています。「ストンと腑に落ちました」と言っていただけると、気づきを促す実践・指導ができた、と思えます。認定看護師は社会資源のひとつなので、ぜひ活用いただきたいです。 野崎: 本当にそうですね。全国に訪問看護認定看護師がいるので、壁にぶつかった時はぜひ気軽に相談してもらいたいです。 新たな仲間たちとともにさらにパワーアップ ―今後の協議会は、どのように発展していきたいと思いますか? 野崎: 認定看護師が継続して学べる環境の整備と、国の政策に活かせる活動をしていきたいですね。最近では企業から相談事業の依頼を受けることもあるので、情報交換をしながら活躍の場を広げたいと思っています。 大橋: 訪問看護ステーションに就職する際、「認定看護師がいる事業所なので選びました」という方も多いようです。認定看護師の役割を人材育成にも広げ、互いに育み合いながら裾野を広げていけるといいですね。 また、若手にとってもベテランにとっても、利害関係のない認定看護師に悩みごとや相談ごとを吐露できる環境があることは大切だと思います。今後はどんどん特定行為ができる「在宅ケア認定看護師」も増えてきます。名称は変わっても目指す部分は同じなので、これまで創り上げてきた基盤を大事にしつつ、新たな仲間を増やしてネットワークを強化したいと思っています。 ※本記事は、2023年4月の取材時点の情報をもとに構成しています。 取材・執筆:山辺 智子 日本訪問看護財団 研究員/看護師・保健師研究を通して訪問看護認定看護師の能力と行動に魅了され、活動を応援している一人編集:NsPace編集部

教育×訪問看護
教育×訪問看護
特集 会員限定
2023年5月2日
2023年5月2日

オンライン実習事例から学ぶ 教育×訪問看護の連携【セミナーレポート】

2023年1月28日に開催した「【トークセッション】教育×訪問看護の連携」。フリーアナウンサーの中村さん進行のもと、山形大学の松田教授と訪問看護師の川俣さんによるトークセッションを実施しました。山形大学の看護学科で行った「訪問看護ステーションと連携したオンライン実習」の事例を通し、教育と訪問看護が今後どう関わっていくべきかについて考えます。 ※約50分間のトークセッションから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】松田 友美 さん山形大学大学院医学系研究科看護学専攻 在宅看護学分野 教授川俣 沙織 さん山形県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長訪問看護ステーションにこ 管理者【ファシリテーター】中村 優子 さんフリーアナウンサー。著名人のYouTubeチャンネル運営、著者インタビューなどを多数手がける※本文中敬称略 オンライン実習で知識と考える力をつける 中村:川俣さんが管理者を務める「訪問看護ステーションにこ」が山形大学看護学科の在宅看護オンライン実習(以下「オンライン実習」) に協力されたきっかけは、松田先生からのお声がけだったと伺っています。依頼された経緯について教えてください。 松田:コロナ禍で在宅看護実習をすべて中止せざるをえなくなり、川俣さんに藁にもすがる思いで、初めは実習の導入講義をお願いしたんです。 川俣:協力させていただくからには、訪問看護の楽しさや臨場感が伝わる内容にしたくて。私がただ講義をしても面白くないので、ステーション内で相談し、スタッフの協力のもと、現場と学生さんをオンラインで繋いで「同行しているような実習」を行うことになりました。 松田:オンラインではどうしても実際に体験することは難しいですが、訪問看護の重要な視点を事前学習した上で実習を行うことによって、知識とそれを使う思考回路が鍛えられました。技術は社会人になってからでも磨けるけれど、知識や考える力を養うのは学生のうちでないとなかなかできないので、とても良い内容だったと思っています。 実習で訪問看護の力、あり方が伝わった 中村:実際にオンライン実習を受講した学生のみなさんの反応はいかがでしたか? 松田:学生たちの反応は、予想以上に良いものでした。まず、実習はできないだろうと諦めていたのに、現場を見られたことに対する喜びですね。そして何より、看護の力を実感できたようです。教科書には「看護はその人の力を引き出す」と書いてあるけれども、いまいちピンとこない。でも、実際に看護師さんが利用者さんに接する様子を見て、生の声を聞いて、どういうことか理解できた、と。 川俣:複数の学生さんが同じ利用者さんの看護現場を共通体験できるメリットも大きかったと思います。 私たちは日ごろ、ひとりの利用者さんに複数のスタッフが関わるようにしています。利用者さんは「多面体」なので、複数人で関わったほうが気づきを得られると考えているからです。そして、その結果をもとに、どういう方針で看護をしていくかチームで考えます。 今回のオンライン実習では、学生さんたちに、その過程と似たような体験をしてもらえました。お互いに意見を交換する中で、「ほかの人はそう考えるんだな」という、他者の視点からの学びがあったはず。また、「多様な意見があっていい」ということも理解してもらえたと思います。 これは通常の実習ではなかなか得られない学びだと思うので、今後の看護師人生にいい影響を与える経験になったのではないでしょうか。 松田:そうですね。学生からも、「ほかの人から自分では思いつかない意見が聞けて勉強になった」「信頼関係の築き方の多様性を学べた」といった声が寄せられました。 新卒で訪問看護に携わる道もつくりたい 中村:オンライン実習の取り組みを経ての今後の展望について教えてください。 川俣:オンライン実習は臨地実習の代替ではなく、演習と臨地実習の間に挟むことで、学びを効率的に補完できる可能性があると評価しています。コロナ禍に限らず、よりよい形を模索しながら継続できればと思っています。 松田:卒業生に対するアンケートで「どんな教育が今役に立っていると感じるか」という質問をしたところ、「在宅看護のオンライン実習」と答えてくれる学生が多くいました。川俣さんのおっしゃるとおり、今後も積極的に導入していくべきではないかと考えます。 次のステップとしては、実際に在宅看護に関わりたい、訪問看護ステーションに就職したいという人材を増やしていくことではないでしょうか。 川俣:現段階では、新卒看護師を訪問看護ステーションで採用できる事業所はまだまだ少ないと感じています。病院で経験を積んでから訪問看護に移行するというのが多いと思いますが、今回の経験で考えが変わりました。利用者さんの人生に寄り添うという観点では、新卒であっても十分に活躍できると思います。もちろん、技術的な部分での医療機関との連携をはじめとしたフォロー体制は必要で今後の課題でもあります。地域の医療機関等のみなさんと協力体制を構築して、新卒から訪問看護に携わるというキャリアの実現に向けて、頑張っていきたいです。 松田:訪問看護に従事するにあたり、しっかりとした知識や技術、マナー、判断力などが必要なことは確かです。でも、コミュニケーションってそんなに構えなくても良い、難しいことではない、訪問看護はやりがいがあって楽しいということを、私たちも講義や実習で伝えていきたいと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア * * * ※本トークセッションと同日開催した録画配信セミナー、アンコール開催セミナーに関しましては、以下のセミナーレポートをご覧ください。 >>【セミナーレポート】vol.1 BCP策定の基礎知識/BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~ >>【セミナーレポート】調整役としても活躍する -訪問看護師によるエンゼルケア-

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年5月2日
2023年5月2日

【ピラティス×訪問看護】初心者でもOK。気軽にできるピラティス基本動作

全国の主要都市などに100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACEは、ピラティスのノウハウを在宅医療へ導入するという新しい取り組みを行っています。今回は、ZEN PLACE訪問看護師の日高さんに、看護師がピラティスを行うメリットや今後の展望についてその熱い思いをお伺いするとともに、簡単にできるピラティスの動作をご紹介いただきました。 これまでの記事はこちら>>【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ>>【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACE のキャリアパス&訪問時のピラティス活用法 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護ウェルビーイング創造のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 看護師がピラティスをするメリットとは? ―日高さんが「看護師自身がピラティスを行ったほうが良い」と思われる理由について教えてください。 ピラティスはやればやるほど身体が変わっていきます。利用者さんの心身に良いことはもちろん、自分自身のケアにも使えます。看護師は「大変」「つらい」というイメージがありますし、離職率も高いですよね。まずは自分が満たされないと、「サポートしたい」という気持ちは生まれづらくなると思うんです。「看護が楽しい」と思える人を増やすためのひとつの手段として、ピラティスはとても良いのではないかと思っています。 私も、ピラティスを始めてから自分を俯瞰して見られるようになり、余裕が出てきました。自分が感情的になっている時にすぐに気づき、落ち着いて対応ができるようになったと思います。「これは私個人の感情だな」「ここは対話が必要だな」「私はここができないけれど、ここはできている」という感じで。そうなってくると、利用者さんの表情や様子の変化も見落とさず、気づけるようにもなるんですよね。 ―時間に追われることも多い職業だと思いますが、焦ることやイライラしてしまうことはないのでしょうか。 そうですね。特に訪問看護師になってから、「やらないといけない」「できないとダメ」という自分自身の考えを押し付けないようになりました。 病院にいたときは、「医師に言われたらそれが絶対」「治療優先」という考えも強かったんです。そうなってくると、「○か×」あるいは「100か0」という考えに囚われやすいですし、命を預かっている以上、できない自分や周りの人たちを許せない。新人の看護師に対して「なんでできないの?」というネガティブな言葉を投げる人が多かったり、自分を責めて離職につながってしまったりします。患者さんに対してもそうですね。例えば、処方した薬を飲んでいなかったら、「薬は飲まないといけないものだから、ちゃんと飲んでくださいね!」とお伝えしていました。 でも、在宅医療では、利用者さんやご家族の意思や生活の質が大切になってきます。看護師は利用者さんの「生活」を支援する立場なので、さまざまな考えや価値観を尊重しやすいんですよね。薬が飲めていなくても、「〇〇さんはどうしたいですか?」と利用者さんの意思を確認できます。また、「歩きたいけど練習をさぼってしまって歩けない」ということでも、それも含めてその人。さぼりたいならさぼってもいいのかなと思っています。利用者さんご本人の意思を尊重し、かつその方の頑張れる範囲や現状を受け止めて、サポートするようにしています。 「できない=ダメ」ではない ―訪問看護とピラティスの理念との相性が良い、という側面があるのでしょうか。 そうですね。ピラティスの中にも「できないことは『ダメ』じゃない」という考え方があります。「できない自分」も今の自分として気付いて受け入れてあげるんですよね。 医療現場では、問題にフォーカスして原因を究明し、解決を図る考え方が必要になってきます。でも、そこには本来、人の感情や気持ちも存在していて、そこに気付き感じ取ることも大事だと思うんです。 利用者さんには「できない」ことを理由に落ち込んでほしくないですし、そうした自分の状態を受け止めてもらえるように声かけをしています。こういうピラティスの考え方は、とても訪問看護に活きているなと感じています。 ―看護師さんたちにも、そういったありのまま自分を受け入れてほしい、ということですね。 そうですね。私が看護師こそピラティスをして欲しいなと思っているのはまさにそこです。看護師も職場に対して安心感を求めているはずなんですよね。「できない自分やダメな自分もいて良いんだ」と思えれば気持ちが少し楽になると思っています。 仕事上つらい経験をすることもありますが、それに耐えて慣れていくのが当たり前という認識からか、自分のつらさに気付かず、心が疲弊していく方がたくさんいると感じています。また医療機関は閉鎖的で保守的、職種階級的な部分もあるので、内部で何か問題が発生しても解決できず、同じ悩みやストレスを持ち続けてしまうこともしばしばあります。 看護師がまず自分の状態に気付き、発散することで自分を整えて、心の余裕を持つことができれば、好循環ができます。自分だけではなく利用者さんやご家族、スタッフなど誰に対しても気持ちに余裕を持って接することができるはず。仕事もプライベートも良い方向に向きやすくなるのではないでしょうか。 だからこそ、医療従事者にもっとピラティスが広まってくれたら嬉しいですし、ピラティスを身近で楽しめる環境が増えればいいなと思っています。もちろん、私は自身のケアとしても引き続きピラティスを続け、利用者さんやご家族にも良い看護を提供し続けることを目標としていきたいと思います。 初めてでも気軽にできるピラティスの基本動作の紹介 ―ありがとうございます。では、ピラティスをやったことがない看護師さん向けに、気軽にできる基本動作を教えてください 今回は3つのエクササイズをご紹介します。(1)ピラティスの胸式呼吸(2)ピラティスの骨盤矯正(3)体幹を鍛えるロールアップとロールダウン ピラティスマットを使用しますが、なければヨガマットやバスタオルの上でも大丈夫です。 ベッド上だと身体が安定しにくいので、床の上で行うようにしましょう。 写真提供:ZEN PLACE (1)ピラティスの胸式呼吸 よく「腹式呼吸」という言葉は聞くと思いますが、ピラティスの呼吸法は「胸式呼吸法」といいます。胸式呼吸は交感神経を優位にさせ、全身に血液を送り出そうとして血管収縮が起こり、血圧も上昇し、脈や呼吸も速くなります。また頭が冴えてきて集中力や記憶力などが高まりやすくなるのも特徴的です。 床の上にあぐらをかいて、背筋を伸ばして顎を引いて座って行うのですが、このとき正しい姿勢になることが大事です。背筋が伸びておらず肩が内巻になっていると、心窩部や胸郭が広がりにくいので、胸を広げて肋骨を閉じましょう。 呼吸をする際には、両手を胸の下辺りに添えると胸の膨らみを意識しやすいです。息を吸うときは、胸の下辺りに当てた手が外側に開いていく感じを、吐く際は手が中心に寄っていく感覚を持ち、肋骨が開閉されているかチェックすることが大事です。 口から息を吐き出しながらお腹に力を入れへこませます。そのまま胸を膨らませるように鼻から息を吸い、そのまま口から息を吐きだしましょう。 (2)ピラティスの骨盤矯正 骨盤の位置を把握して正しい位置に戻すことを目的としています。 骨盤ニュートラル 特に女性には、反り腰の方が多いと言われています。脚を組む、バッグをいつも同じ肩に掛けるなど、身体の重心を片側にかけることで骨盤は歪んでしまうと考えられます。特に看護師の場合はベッドに向かってかがんで作業することもあるので、腰に負担がかかりやすく歪みも出やすいのでしょう。 骨盤の歪みは血行不良による身体の不調や痛みの原因にもなるため、まず行っていただきたい基本動作ですね。 反り腰の場合、骨盤が前傾しているので、それを後ろに倒して元に戻す動作を行います。骨盤を立てることでお尻が少し下がるイメージです。ピラティスでは寝ながら骨盤矯正を行います。 マット上で仰向けになり、膝を立てた状態になりましょう。肩の力みを抜きます。この時点で手を腰の下に入れ、手のひらが簡単に入るようであれば前傾、手のひらもまったく入らないようであれば後傾している状態です。 手のひらがぎりぎり入るくらいの状態だとピラティスでいう「ニュートラルポジション」となります。この状態で骨盤を前傾、後傾、戻すという動作を繰り返します。 ペルビックカール ピラティスには「ペルビックカール」という骨盤や腰椎を安定させるエクササイズがあります。 仰向けに寝て膝を曲げ、息を吐きながら骨盤を傾けるように上げて脊柱をマットから離し、息を吸って上でホールド。息を吐きながら、膝を曲げた仰向けの状態に戻るという動作を繰り返します。 (3)体幹を鍛えるロールアップとロールダウン 仰向けに寝て手は拳を向かい合わせにして頭の上に伸ばし、両脚は真っ直ぐ揃えたまま足の爪先まで伸ばします。 息を吸って腕を体の前方に向かって上げていき、腹筋をしめ息を吐きながら起き上がり股関節の上に肩がある姿勢で息を吸ってキープ(Cカール)。息を吐きながら体を倒していくという動作を繰り返します。 そして息をゆっくりと吐きながらお腹を引き締めて、腹筋の力で背中を丸めて足元まで起き上がっていきます。この時、はずみをつけないよう注意し、しっかりと腹筋と身体の軸を意識してゆっくり起き上がりましょう。 起き上がったら手順を逆に行い、元の体勢に戻ります。 * ピラティスは10回やると違いを感じ、20回やると見た目がかわり、30回やると身体のすべてがかわるといわれています。「ちょっと疲れているな」「ジムに行くのは大変だけど自宅で軽く運動をしたいな」という方はもちろん、日々の姿勢や体型を良くしたいという方でも気軽にスタートできるのがピラティスの魅力です。ぜひ一度試していただき、継続していただければいいなと思っています。皆様に少しでもピラティスの魅力が伝われば幸いです。 ―日高さん、どうもありがとうございました。 取材: NsPace編集部編集・執筆: 合同会社ヘルメース

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年4月11日
2023年4月11日

【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACEのキャリアパス&訪問時のピラティス活用法

全国の主要都市に100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACEは、ピラティスのノウハウを在宅医療へ導入するという新しい取り組みを行っています。今回は、ZEN PLACE訪問看護の日高さんに、ZEN PLACEにおけるキャリアや実際にどのようにピラティスを訪問看護に取り入れているのかなどを伺いました。 >>前回の記事はこちら【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護ウェルビーイング創造のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 スタッフのニーズに合わせたピラティス研修 ―ZEN PLACEでの研修やキャリアについてお聞かせください。入職してからピラティスのインストラクター資格を取得することも可能だそうですね。 はい、可能です。福利厚生の一環でスタジオを利用することができるので、趣味としてスタジオに通うスタッフもいれば、ピラティスを学び将来的に職務に活かそうとするスタッフもいて、さまざまですね。実際に入職してから資格を取っている人もいますよ。 ZEN PLACEでは、WE(Wholebody Educator)と呼ばれるスタジオのスタッフが、訪問看護師向けに理念やピラティスの概要説明を行う研修があります。興味を持ちピラティスの資格を取りたいと思った場合は、養成コースに通うこともできるんです。 以前は、インストラクターと両立している看護師や理学療法士がいたこともありますね。現在は、基本的に訪問看護をしたいのであれば看護師としてステーションに所属し、スタジオでピラティスを教えるインストラクターになりたい場合はスタジオに所属するというパターンが多いです。 ピラティスを取り入れた訪問看護とは? ―実際、どのように訪問看護にピラティスを取り入れているか教えてください。 訪問時に「ピラティスだけをやる」ということはなく、基本的には訪問の目的に応じて、できるピラティスの動作を行っていただくことが多いですね。利用者さんの既往や現在の疾患、ADLの状況に応じてできない動作もあるので、可能な範囲内でピラティスの一部を行っていただくイメージです。 例えば、すぐにできるものだと呼吸のしかたですね。呼吸だけでもすごく変わりますよ。病気の有無にかかわらず、現代人は不安やストレス、不規則な生活から呼吸が浅くなりがちです。ピラティスは「鼻から吸って口から吐く」という呼吸で行うのですが、この呼吸のみを利用者さんと一緒に行うこともあります。(図1)。 図1:座位での呼吸練習 これを続けるだけで身体が温かくなってきますよ。利用者さんは疾患のことや将来のことなど、さまざまな不安を抱えているケースが多いのですが、呼吸を変えると気持ちも落ち着きやすくなります。お話を聞きながら、「ピラティスで行う呼吸を少し練習してみましょう」と促しています。 特に身体動作に支障がなければ、上向きになって骨盤を傾ける動作もしていますし(図2)、頭が後ろに行ってしまってうまく起き上がることができない方には、「ローリング」という背中を丸めて転がる動作をリハビリに組み込んで、起き上がりがうまくできるようにサポートすることもあります(図3)。 図2:骨盤の位置確認 図3:起き上がりの練習動作 夜眠れなくて眠剤を使っている利用者さんに、できるだけリラックスして穏やかに眠れるように、「ピラティスをしてから寝てみましょう」とお声がけしたところ、しっかり継続してくださった事例もありました。また、リハビリによる基本的動作の改善を実感していただいたり、「すごくスッキリしました」「リフレッシュしました」と言っていただけたりすると、もともと転職をしたきっかけがピラティスだったこともあり、とてもうれしくなりますね。 病院だとどうしても治療が優先なので、点滴や内服に頼らざるを得ないところもありますが、在宅ではお家でその人らしい生活をしていけるように促していけたらいいなと思っています。 少しずつ確実に広がっているピラティス ―訪問時には、基本的に毎回ピラティスを取り入れているのでしょうか? 利用者さんによってまちまちですね。場合によっては、当然医療的なケアを優先します。リハビリを担当する理学療法士のほうが積極的にピラティスを取り入れていて、訪問看護師は医師からリハビリの指示があった利用者さんに対して可能な限りピラティスを取り入れています。 指示書に「ピラティス」という言葉が入っているわけではないですが、「筋力低下の予防」や「歩行訓練」等の指示をいただいた際に、必要な動作や姿勢の形成にピラティスを用いますね。 ―利用者さんから「ピラティスを取り入れてほしい」と要望があるケースはありますか? ステーションの特徴としてピラティスを謳っているので、それを見て時々連絡して下さる方はいらっしゃいます。ただ、まだ医療・介護領域で一般的ではないこともあるせいか、利用者さん自ら「ピラティスを」とご要望をいただくことは少なく、こちらから働きかけて組み込んでいくことの方が多いですね。 ―訪問看護にピラティスを取り入れた際、介護保険の加算は取れるのでしょうか? 残念ながら加算が取れるわけではありませんが、「こういうエクササイズをしています」と報告書に書いて医師に伝えることはしています。 ―リハビリの一環として、ピラティスも取り入れているというイメージですね。 そうですね。ZEN PLACE以外でもこうした動きは強まっていて、最近はピラティスを学ぶ医療従事者の方が増えていると感じています。病院内のリハビリに取り入れているケースもありますよ。 ZEN PLACEのスタジオや養成講座に違う病院やクリニックで働く看護師の方が通われていることもありますし、ピラティスの必要性を感じている医療従事者が増えているようで、うれしいですね。 ―ありがとうございました。次回は、看護師がピラティスを行うメリットや気軽にできるピラティスの動作について伺います。 >>【ピラティス×訪問看護】初心者でもOK。気軽にできるピラティス基本動作 ※本記事は、2023年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 編集・執筆: 合同会社ヘルメース取材: NsPace編集部 【参考】○ZEN PLACE「【医療従事者向け】ピラティスインストラクター養成コース」https://www.pilates-education.info/courses/healthcare2023/3/20閲覧

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年3月22日
2023年3月22日

【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ

全国の主要都市に100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACE。実はそのピラティスのノウハウを、在宅医療へ導入していることを皆さんはご存じでしょうか? 今回は、自身もピラティスに魅了され、ZEN PLACE訪問看護で勤めることになった看護師の日高さんに、ピラティスの魅力やZEN PLACE入職のきっかけなどを伺いました。 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護心身ケアと未病のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 ピラティスを追いかけて訪問看護の道へ ―病棟勤務時代にピラティスにご興味を持たれたようですが、きっかけを教えてください。 私は元々ダンスが好きで、病棟看護師をしながらジャズダンスのインストラクターをしていました。当時、看護部長からも「素敵だからぜひ頑張って」と応援してもらえて、時間を調整しながらレッスンをしていたんです。ピラティスとの出会いは、そのダンススタジオのメンバーから「ピラティスいいよ」っておすすめされたことがきっかけですね。偶然にも家の近所にピラティススタジオがあったので、興味本位で通ってみました。 ―実際に体験されていかがでした? 実際やってみると身体が変わることを実感して、すごく面白いと感じました。私も医療従事者なので、身体に関する知識があるぶん、余計に楽しくなっちゃって。 また、ジャズダンスはバレエが基礎になっているので、体幹やコアマッスルが足りないと踊れないんですよね。ピラティスをやり始めることで、「身体の軸がしっかりしてきたな」と感じて、ピラティスへの興味が深まっていきました。 ―その後、ピラティスのインストラクターコースも受講されたとか? はい、受講しました! とても充実した時間になりました。 私は通学してセミナーを受講しましたが、最近はオンラインや通学+オンラインのハイブリッドコースなど、自身のライフスタイルに合わせて受講できるスクールが多いです。例えば、basiピラティスのマット通学コースの場合、集中した講義を合計36時間学び、100時間以上の自己実践、20時間以上のレッスン見学や30時間以上の指導練習を通し、資格取得が可能になります。資格を取得し、ようやくスタートラインに立てました! ―ZEN PLACEに転職しようと思ったのも、やはりピラティスがきっかけなのでしょうか? そうですね。どんどんピラティスへの興味が増して、「ピラティスを看護の仕事に活かせないかな」とインターネットで色々調べるうちに、ZEN PLACEを発見したんです。利用者さんに対してもそうですし、働き手である看護師に対してもピラティスを推奨している点に共感しました。 私も当初はダンスのトレーニングの一環として始めたピラティスでしたが、すごく自分の身体や心が整うのを感じて、「もっと働く看護師にピラティスが広まり、健康的な生活を手に入れて欲しい」と思うようになったんです。 特に急性期の病棟に勤めていると、「人が生きるか死ぬか」という命の瀬戸際のなかで看護をしているので、感情的になってしまいがちです。私も、ICUではやりがいや喜びを感じながら働いていましたが、改めて振り返ってみると心身ともに疲れていることが多かったように思います。「本当は運動して発散したいけど、仕事が忙しくて続かない」という悩みが多いのも看護師の実情です。もっと看護師にピラティスが広まってほしいと思います。 ―病棟から訪問看護への転職ですし、住むエリアも変わるなかで、悩まれなかったですか? 正直とても悩みました。急性期での看護も楽しい面ややりがいがありましたし、在宅の現場は、過去に派遣の仕事として訪問入浴をしたことがある程度。転職後の仕事内容のイメージもあまりできず、不安がありました。でも、最後は「自分がやりたいことをちゃんとやりたい」「やってみなきゃわからない!」と思い、転職を決めて東京へ引っ越しました。 ピラティスを活用するZEN PLACE訪問看護とは? ―入職後のことをお伺いします。ZEN PLACEでは、同一のステーションに訪問看護師や理学療法士、作業療法士等の色々な職種が在籍されていますが、職種間の連携について教えてください。 同じ利用者さんに看護師と理学療法士両方で入っていることもあるので、「今日はこういう状態だった」とステーション内で情報交換をしています。また、訪問看護のみで入っている利用者さんでもリハビリをしたほうが良いケースもありますし、逆にリハビリメインで入っている利用者さんに医療的な処置が必要になった場合は、看護師が入ったほうが良いこともあります。多職種と連携が取りやすく、意思疎通がスムーズで良い環境ですね。 ―職場の雰囲気としてはいかがでしょうか。 基本的にスタッフはみんな明るくて、職場内では笑顔や笑い声が絶えません。ピラティスが好きなメンバーばかりで、みんなで仕事後にレッスンを受けに行くこともありますし、和気あいあいとした職場でとても楽しいです。 ―皆さんにとって、本当にピラティスはリフレッシュもできる大切な時間なんですね。仕事の後にピラティスをするケースが多いのでしょうか。 そうですね。今もステーションの近くにあるスタジオで、「期間中に50日間ピラティスをしよう」というイベント(「50days challenge」)に同僚と参加しています (笑)。 こうしたイベントがないときでも、ZEN PLACEが運営するスタジオは各所にあるので、ステーションや自宅の近くにあるスタジオに寄ってから帰ることが多いですね。オンラインレッスンもあるので、家に帰ってからやることもあります。 人によっては朝ピラティスをしてから出勤しているケースもあると思いますし、ZEN PLACEでは福利厚生として、月に2回までは業務時間内でピラティスを受けに行っても良いという制度があります。訪問にキャンセルがでた時に行くこともありますね。 ―雰囲気が良くスタッフ同士も仲の良い職場のようですが、ピラティスを行っている影響もあると思われますか? もちろん、すべてがピラティスの効果だとは言い切れませんが、私は一助になっていると思っています。医療従事者は献身的に仕事をされている方が多い印象なので、自分のために何かをする時間って意識しないと取れないんですよね。でも、ピラティスをすると、その間は自分の身体と心と向き合うことになるので、「今日はあまり足が上がらないな」「仕事のことをいっぱい考えているな」など、色々と感じ取ることができます。 ピラティスは「動く瞑想」とも言われますが、自分に向き合うことで自分を大切にできるし、心身が整う効果があると思っています。自分自身が整うことで、利用者さんへの良い看護の提供や職場の雰囲気の安定につながるのかな、感じています。 心が安定すると、ネガティブな言葉も言わなくなりますね。「こういう嫌なことがあったよ」という話が出ても、愚痴になるのではなく、「そうなんだね、大変だったね」と受けとめたあと、「こうしたら改善するんじゃない?」とみんなで意見を出し合いますし、誰かがポジティブな言葉や思考に変換してくれます。 ―ありがとうございます。次回は、ZEN PLACEでのキャリアや、どのようにピラティスを訪問看護に取り入れているのかを伺います。>> 【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACEのキャリアパス&訪問時のピラティス活用法 ※本記事は、2023年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 編集・執筆: 合同会社ヘルメース取材: NsPace編集部

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと
新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと
インタビュー
2022年11月15日
2022年11月15日

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと

前回「新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること」の記事で、新卒から訪問看護の世界に飛び込んだ3名の看護師の声をお伝えしました。今回は、その3名がキャリアを積んでから感じたこと、新卒者が訪問看護に携わることに対しての思いを取り上げます。 先輩になった今、後輩にしているサポートは? 職業を問わず、最初は新人であっても年月を経るにつれて経験を積み、次第に教える立場になっていきます。では、3名の新卒者は自分が先輩の立場となり、後輩をどう支えているのでしょうか?Aさん・訪問看護歴6年「最初は分からないこと自体が分からないと思うので、自分や歴代の新卒者さんがどのような勉強をしたかを伝え、誰もが同じようにできなかったところから乗り越えていることを伝えるようにしています」 Bさん・訪問看護歴6年「まずは相手の思いや考えを聞き、一旦受け止めます。そして、できていることは些細なことでも言葉にして伝えています」 Cさん・訪問看護歴7年「相手のできていないところばかりではなく、できているところはそのまま認めて、フィードバックすることを大切にしています。また、後輩の話を聞くときは、必ず手を止めて聞きますね。そして後輩が考えている時には待つ。答えをいわないようにして、後輩が自分自身で考えられるようにしています」 まずは後輩の思いや悩みを受け止める、という点は3名に共通しています。これには理由があり、自身の経験が少なかったころに「もう少し振り返りの時間がほしかった」(Bさん)、「自信を持てるような声かけ、フィードバックがほしかった」(Cさん)と感じたからだそうです。これから新卒者を迎える管理者、先輩看護師の方は、じっくり話を聞く時間を設けると良いかもしれません。 新卒を受け入れるために必要な環境、体制、心構えは? 未経験の人が訪問看護ステーションで働き、成長していくためには、何が必要なのでしょうか。大きく分けて、「新卒を受け入れる心構え」と「技術を学ぶ場」の2点が挙がりました。 Aさん「教育担当者や所長だけでは受け入れる側の負担も大きくなってしまうため、スタッフ全員で新卒を育てる気持ちが大切だと思います」 Bさん「看護技術・手技の勉強と復習を行いやすい環境が大切だと思います。受け入れる側の心構えとして、新卒でもできる、応援しているというスタンスが必要ではないでしょうか」 Cさん「受け入れる側の心構えとして『できなくて当然。時間がかかって当然』『新卒ウェルカム!』という余裕は必要だと思います。看護技術取得ができるような体制づくりも必要だと考えます」 新卒だからこそ、いち早く技術を習得して少しでも先輩方に追いつきたいもの。技術取得のための体制については、「大きめのステーションのほうが教育・体制面が整っている傾向にありそう」(Cさん)といった声も聞かれました。 「新卒からの訪問看護」にはどんなメリット・デメリットがある? 最後に、新卒者が訪問看護に携わるメリット・デメリットを聞いてみました。Aさん メリット・さまざまな先輩看護師と同行訪問することで、多様な看護観に触れられる。・一般常識が身につく(医療・介護物品などのコスト意識、訪問先のご自宅や外部連携でのマナーなど)。 デメリット・手技の獲得やひとりだちまで時間がかかり、ある程度自信をもって訪問できるまでは不安や劣等感を感じやすい。・事業所の教育体制によっては、ひとりで訪問する重圧、不安が大きい可能性がある。 Bさん メリット・利用者さんの生活や人生の一部に入り込むことができる。加えてもらえる。・医療者や支援者の知識が必ずしも正解ではないことを、利用者さんを通して気付ける。 デメリット・病院に就職した同期と比較してしまうと、スピード感の違いに落ち込む。・新卒訪問看護師への偏見がまだある印象がある。 Cさん メリット・夜勤がないため生活リズムが整いやすいこともあり、それによって『しんどいからやめたい』という看護師は少ないように思う。・キャリアが広がる印象がある(管理者、大学・大学院の教員、ケアマネ取得など)。 デメリット・スタッフのマンパワーが必要なケースが多い。・ステーションによって教育のしかたやスタッフの関わり方・雰囲気、利用者さんの受け入れ幅などが異なるが、新卒訪問看護師向けの情報が少ない。 「新卒からの訪問看護」は、乗り越えるべき課題がありますが、今回お話していただいたかつての新卒者の方々も、現在では一人前の訪問看護師として立派に仕事をこなしています。 新卒者を募る場合、訪問看護のメリットをアピールしつつ、ステーションとして新卒者の悩みや課題に向き合う姿勢を示してみてはいかがでしょうか。 記事編集:NsPace編集部

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること
新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること
インタビュー
2022年11月1日
2022年11月1日

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること

訪問看護師の中には、新卒ですぐに訪問看護ステーションで働く人もいます。こうした新卒の訪問看護師のみなさんは、どんな思いで働き始め、何に悩んでいるのでしょうか? NsPaceでは、新卒から訪問看護師になった3名の方々にお話を伺いました。 新卒で訪問看護を選んだ理由は? まず、なぜ新卒で訪問看護師の道を選んだのか、聞きました。すると、次のような三者三様の答えが返ってきました。 Aさん・訪問看護歴6年「自分の祖父母が在宅医療という選択肢をもてるようにしたいと思っていたことや、大学のサークル活動で神経難病を患っている方がご家族と穏やかに自宅で過ごしている場面に出会い、素敵だと思ったからです」 Bさん・訪問看護歴6年「利用者さんとゆっくり関わることができるからです。在宅看護学実習で、テキパキと処置をしながら、利用者さんに適切な情報を伝える・聞き出す訪問看護師に憧れを抱きました。誰もやったことがないことだから、おもしろそうと思い、飛び込みました」 Cさん・訪問看護歴7年「訪問看護に興味を持ったきっかけは、大学での領域実習でした。在宅では、 利用者さんと向き合う時間的な余白があり、利用者さんと看護師が対等の立場であるように感じました。その人がその人らしく生活できて、それを支援できる訪問看護がすごく魅力的に感じたので、訪問看護師になろうと思いました」 ご家族に訪問看護師という選択肢を加えたい、実際の訪問看護師の姿に憧れた、在宅医療・訪問看護に医療の理想の形を見た、というのが訪問看護師になった直接的な理由でした。一方、共通点として看護学生時代の経験を踏まえて、最終的に訪問看護師となる決心をしたことが見て取れます。 ひとりだちするまでの過程で困難に感じたことは? では、実際に新卒から訪問看護師となって感じた壁は何でしょうか。こちらの質問も、さまざまな悩みをもったという答えが返ってきました。 Aさん「一つひとつの判断が正しいか、症状を見落としていないかという不安がありました。先輩への報告でも、簡潔に必要な情報と自分のアセスメントをまとめることが難しかったです。状況や体調に変化があった場合に臨機応変に報告をしたり、手順を変更したりすることも困難に感じました。また、時間がかかりすぎて、訪問時間内に必要なケアを行うことも難しかったです」 Bさん「できなかったことに注目して落ち込み、自信がなくなるというループから抜け出せなくなることがありました。自分の『できるであろう』の基準を高く設定してしまい、落ち込みやすくなっていました」 Cさん「看護技術、特に点滴などの経験が積みにくく、技術の習得は大変苦労しました。コミュニケーションが元々苦手で、人見知りも激しかったため、利用者さんとの会話に壁を感じることもありました。また、次の訪問まで待てるのか?今すぐ対応すべきなのか?と、緊急度合いの判断がつきづらいときも困難さを感じました」 技術的な悩みもさることながら、判断に間違いがないか、との不安を抱きやすいようです。そして、「週1回2時間ほどの振り返り面談をしていただきました」「オンコールは管理者の許可を得てから訪問し、実際に報告すると『合っているよ、いいよ』と声掛けをしてもらえて、認めてくれるようなサポートをされていました」(どちらもCさん)というように、その都度のフィードバックがあると新卒者は安心感をもつようです。 先輩・利用者さん・ご家族からの言葉で印象に残っていることは? このように技術を身に着けていく間で、看護師のモチベーションとなるのが利用者さんや先輩看護師からの言葉です。また、直接的な感謝や励ましでなくても、先輩が自分を思ってくれているのがわかると、嬉しさを感じるとの声もありました。 Bさん「利用者さん・ご家族からの『いつもありがとうね』『助かるわ』『待ってたよ』という言葉です。また、しばらく訪問していなかった利用者さんが『元気にしとるんか?』と気にかけていたよ、と先輩から聞いたときも嬉しかったです」 Cさん「利用者さんからの言葉では、何度もクレームをいただいた方に『Cさんだったら、任せられるわ』と声をかけてもらえたことが印象に残っています。先輩からの言葉では、『どうしたらCさんにとって良いのか分からない』といわれたとき、私のことを考えてくれていることが伝わって嬉しかったですね。ほかにも『訪問するときに何が一番大切か分かる?毎回訪問時、同じテンション、声のトーンで訪問すること』と教えられたなど、数え切れないほどあります」 利用者さんからストレートにかけられる感謝や信頼の言葉は、新卒者に限らずベテランの訪問看護師でも嬉しさを感じることは変わらないでしょう。一方、前述の「困難に感じたこと」と同様に、先輩からのアドバイスは具体的に、どこを良くすれば改善されるかまで言及すると、新卒者や若い看護師自身の成長にもつながります。 続きの記事もありますので併せてご覧ください。次回「新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと」 記事編集:NsPace編集部

インタビュー
2021年12月21日
2021年12月21日

訪問診療クリニックで働くということ(後編)

訪問診療クリニックで働く菅 基さん。今回は一風変わったプロフィールと、病棟勤務から転職した際の驚きの経験を語っていただきました。 なぜ文系四大卒が看護師に? 一般の文科系大学を出て就職もしたのに、どうして看護師になったのかとよく問われます。 新卒で入社した会社では営業職でしたが、仕事内容や今後のキャリアに対して自分の軸がみえず、悩んでいました。偶然、実家の近所に都立の看護学校があったこともあり、看護師の資格を生かした仕事をしようと決心しました。 入学してみると、学生は若い女性ばかりではなく男性も多いし、30代・40代の方もいて、違和感なく学べました。 これまでずっと学校での成績基準の世界で生きてきて、看護学校には、それだけでは推し量れない世界があることにまず驚きました。また、ずっと文系だったので、理系科目には苦労もしました。大学入試より勉強したかもしれません。 そしてみなさんそうだと思いますが、実習期間中は課題が多すぎて眠れないのには参りました。でも目的がはっきりしているので、乗り切れました。 価値観はアップデートしていくもの 国家試験合格後は、5年間病棟勤務を経験しました。呼吸器内科、血液内科など内科系混合病棟でしたが、3年目以降、男性看護師は私一人だったので、目立つというか、下手なことはできない(笑)。力仕事的な部分では頼られましたが、男性が一人の環境は、なかなか肩身が狭かったです。 ふり返って思うのは、自分の経歴や経験で価値観を固めてはいけないな、と。今でも心掛けています。 大学卒だから看護学校でも成績がすごい良かったかというとそんなことは全然なかったし、職場でも家庭でも、その時の自分のステージや将来性を見すえ、総合的にその場での自分の価値観をアップデートさせることが必要だなと学びました。 医療の常識が通用しない訪問看護という仕事 そろそろ異動のタイミングという5年目に、もともと興味があった在宅系で、地域の人とかかわりながら経験が積めることを期待し、訪問看護ステーションに転職しました。 訪問看護は、患者さんの自宅での限られた物品と限られた空間でサービスを提供するので、病院では当たり前だと思っていたことが通じない世界でした。 また、患者さんやご家族の医療に対する考えや価値観が優先されるので、そこをはねのけると「もう来なくていいです」と言われてしまいます。実際、私もそう言われたことがありました。 ALSでずっと在宅療養されている方のところに私が入った時です。ご家族がALSの患者さんであるご本人のために介護の会社を立ち上げたほどで、鉄壁の価値観 ── たとえば酸素飽和度が1%でも下がったら困るなど ── が形成されていました。私はそこを理解せず、医療の正当性を主張して失敗しました。 「24時間対応なんて無理」と考えている人へ 高齢者の増加に伴い、訪問診療を必要とする人はますます増えていきます。サービスを提供する私たちの将来的なビジョンとして、少ない人数でいかに業務を回していくかを考える必要があります。先にお話ししたICTの導入も、業務効率化、残業ゼロへの有効な手段です。 訪問看護はやってみたいけれど、24時間対応は無理と考えている方。深夜に駆けつけることは、事業所の方針にもよりますが入職前に思っていたよりはずっと少ないとお伝えしたいです。実際に訪問看護ステーションに在籍されている方なら、みなさんご存じだと思います。 なぜ深夜の訪問をしなくてすむのか。私たち医療者は、夜間に起こりそうなことをあらかじめ予測し、日中できることでしっかり予防・対応します。また、今後起こりうることを患者さんやご家族にもしっかり説明しています。そうすることで、患者さんやご家族は安心され、コールが減り、緊急連絡にも多くが電話対応ですむことになりました。 訪問診療が入るときには多職種チームが形成されている 訪問診療は、在宅系サービスのなかでは最後に入るサービスだといわれます。 たとえば高齢になって生活に支障が出てくるようになると、まずは地域包括支援センターに相談し、ケアマネジャーが入り、要介護認定が下りると訪問介護やデイサービス・デイケアを利用しはじめます。 病後など、やがて医療が必要になってくると訪問看護が入り、ご本人が病院にも行けなくなると、最後に訪問診療が入ります。つまり患者さんにかかわる多職種がすでに形成されていることが多いのです。 すでにサービスを利用している患者さんのところに私たちが加わるため、訪問看護師さんの役割はとても重要で、連携を大切にしています。当院にも懇意にしている訪問看護ステーションは複数あり、それぞれの個性と特徴を把握し、訪問看護を依頼しています。 訪問診療クリニックも、キャリアと家庭の両立に適した職場 もちろんターミナルで自宅に戻られた方や、一切サービスを使っておらず突然調子が悪くなったけれど入院はしたくない方など、先に診療が入るケースもあります。そんなときは、私たちが介護保険とは何かなど、制度的なことを説明しています。 いざ訪問してみると、家族関係に問題があったり、必要な在宅サービスが入っていなかったりなど、手が足りないと感じる部分もあります。医療だけにとどまらず、患者さんとご家族の悩みも受け止められるよう今後も頑張っていきたいですね。 そのためにも、現在、一緒に働く仲間を増やしたいと考えています。 キャリアと家庭を両立させながら働ける職場だと自負しています。訪問看護経験者で、在宅診療クリニックに関心のある方、チームで働いてみたいという方は、ぜひご連絡ください。 ** 菅 基(すが もとむ)杉並PARK在宅クリニック(東京都杉並区)看護師 杉並PARK在宅クリニックhttps://www.suginami-park.jp/ 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2021年12月14日
2021年12月14日

訪問診療クリニックで働くということ(前編)

サラリーマンを経験してから看護師になった訪問診療専門のクリニックに勤務する菅 基さんに、訪問看護ステーションとの働きかたの違いなどを語っていただきました。 自己実現とライフステージに合致した職場を求めて 私は私立大学で社会学を学び、一度は一般企業に就職しました。しかし仕事にやりがいを感じられず、どうせなら資格を生かした仕事をしたいと考え、家族など周囲に医療系の仕事をしている人が多かったことから、看護学校に入学しました。 卒業後、病棟で5年、訪問看護ステーションに2年勤務したのち、訪問診療専門のクリニックに看護師として入職しました。現在は、杉並PARK在宅クリニックに在籍しています。 訪問看護ステーションでは学ぶことも多かったのですが、ちょうど自分の結婚というライフイベントのタイミングと重なり、家庭も大事にしたいと思い、家から通いやすい範囲にある職場を探しました。すると、近所で訪問診療クリニックが看護師を募集していて、これまでとは異なるスキルを得られるのではと考えて転職しました。 当院は東京都杉並区西荻窪に2021年4月に開院したばかりです。家庭医療専門医である田中公孝院長とは、前職(三鷹市のぴあ訪問診療クリニック三鷹)からのお付き合いで、今回、クリニックの立ち上げから参加しました。 『個』から『集』へのジョブチェンジ 訪問診療クリニックでの仕事は多岐におよびますが、一つには医師の訪問診療に同行して、必要な用具や機器を揃えるなど、診察のサポートを行います。 訪問看護は通常一人で訪問しますが、訪問診療は当院の場合、院長と私と相談員の3人のチームで訪問します。そして、チームのなかで、自分がどういうスキルを提供できるのかを常に考えながら行動します。言ってみれば、訪問先では訪問看護ステーションは「個」の仕事、訪問診療クリニックは「集」の仕事と考えます。 「個」の仕事である訪問看護は、訪問先では基本最初から最後まで一人で完結するため、判断力や行動力が磨かれます。しかし困ったときにすぐ横に相談できる人がおらず悩みを抱えがちになってしまう面があります。 一方、「集」で行動している現在は、常に医師と相談しながらケアを提供できる点で絶対的な安心感があります。ただし、訪問同行は医師が主体のため、訪問看護のときほど自分が前面に出ることは、さほどありません。 地域をよく知り医療中心の多職種連携の要となる 訪問同行以外では、「多職種連携の窓口」も大切な仕事の一つです。 訪問看護師は医師の指示のもとでサービスを提供しますが、患者さんの状態についての報告や相談など、看護師から医師に連絡するのは気が重いと感じる方も多いと思います。その点、連絡先である訪問診療クリニックに看護師がいれば、訪問看護ステーションの看護師は相談しやすいと思います。 私自身も、看護師とのコミュニケーションの際には、先生には言いづらいことも話してもらえるよう意識して接しています。 これは訪問看護ステーションにもいえると思いますが、在宅系サービスを新たな地で新規開業するには、地域のコミュニティーの傾向をよく知り、そこにいかに入り込むかが重要だと思います。 開業時には、地元の医師会やケアマネ協議会、地域包括支援センターなどのほか、商店街など地域をよく知る方たちにも挨拶に伺いました。この地(西荻窪)は、訪問診療の導入が想像していたより多くなかったこともあり、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所からは「頼りにしています」と受け入れてもらいました。 ICTの導入で効率化を図り残業を削減 現在、患者さんは、地域包括支援センターや居宅介護事業所、訪問看護ステーションから紹介いただくケースが多いですね。よく連絡する先にはどのような連絡手段がもっとも受け入れられやすいかを知っておくと、スムーズな連携につながります。 当院の場合は電話と医療介護専用のSNS(LINEのようなソーシャルネットワークシステム)などのICTも積極的に利用しています。日々の業務では、緊急を要する場合は電話で、急ぎではないときはSNSを使うなど、臨機応変に使い分けています。 連携している訪問看護ステーションの中には、ICTを利用していないところもあるのですが、業務量の削減という観点からは、導入するメリットは大きいと思います。 ICTの活用でも、変わらない大事なこと 電話やファックス、メールなど従来の連絡手段では、すぐに電話に出られなかったり、事業所に戻ってからでないと対応できなかったりするため、どうしても記録や連絡などの事務業務は残業になってしまいがちです。でもICTツールを使えば、隙間時間にササッと連絡できるし、スマホやタブレットで連携できるので、事務所にいないときでもチェックできます。 ただICTツールばかりに頼ると、こちらが意図したことを誤解したままサービスが提供されていたり、すれ違いが起こったりする場合もあるので、合間あいまに電話で直接話して、相手との目線を合わせることは必要です。これは当院の院長も常日頃から言っていることで、どんなに便利なツールがあっても、最終的には人と人との関係性が重要なのです。(後編へ続く) ** 菅 基(すが もとむ)杉並PARK在宅クリニック(東京都杉並区)看護師 杉並PARK在宅クリニックhttps://www.suginami-park.jp/ 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2021年11月2日
2021年11月2日

第2回 心不全患者の療養生活を支えるために

心不全患者の再発・重症化予防のための地域ぐるみの取り組みが進んでいます。福岡大学病院循環器内科と博多みずほ訪問看護ステーションでは連携して、病院の医師と訪問看護師が医療とケアの両面で在宅療養者を支えています。療養指導の質を高めるための新しい認定資格「心不全療養指導士」は、心不全患者の日常生活指導などを行う場面で力を発揮しています。心不全療養指導士の資格を持つ、博多みずほ訪問看護ステーションの黒木絵巨所長にお話を伺いました。 博多みずほ訪問看護ステーション黒木絵巨 所長 心不全療養指導士とは 「心不全療養指導士」は、心不全の再発・重症化予防のための療養指導に従事する医療専門職のための認定資格で、看護師、保健師、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士、公認心理師、臨床工学技士、歯科衛生士、社会福祉士などが取得できます。特に実務経験は問いませんが、資格取得のために提出する5症例の症例報告書のためには、実質的に心不全患者の療養にかかわる実務経験が必要になります。あくまでも医療専門職のための制度で、医師は対象ではありません。2021年度から制度が開始され、第一期の資格取得者1,771名が活動を始めています。黒木さんも第一期取得者の一人です。 ― なぜ、心不全療養指導士の資格を取ろうと考えたのですか。 私どものステーションは循環器疾患の利用者さんに特化しているわけではありませんが、福岡大学病院との連携で、退院後の心不全療養者への援助が増えてきています。心不全患者の再発や急性増悪を防ぐためには、食事指導・運動指導・服薬指導などの日常生活援助が決め手になります。 福岡大学病院循環器内科の志賀悠平医師も、在宅での生活指導・保健指導については私たち訪問看護師に任せてくださっています。療養者の生活に責任をもって関わるうえで、医学的なエビデンスも含めて知識・技能のレベルアップを図りたいと考えていたところ、日本循環器学会で新しい資格制度をつくるという情報を知ったのがきっかけです。 ― 資格を取るためにはどのようなプロセスが必要ですか。 学会が示している資格取得のためのフローチャートを以下に示しました。 心不全療養指導士・資格取得までの流れ(抜粋) 日本循環器学会ホームページ 『資格を取るまでの流れ』 (https://www.j-circ.or.jp/chfej/flow/)を参考に作成 まず、日本循環器学会の会員になることが条件です。会員になったら、最初にeラーニングを受講します。総受講時間は6時間半弱で、非常に多岐にわたる講義が用意されています。「心不全の概念」「心臓の基礎疾患の特徴」「薬物療法」「非薬物療法」などの医学的内容から、「栄養管理」「服薬アドヒアランス」「心理的指導」などの療養支援の基本に関する講義まで幅広いテーマです。中でもとても勉強になったのが「療養指導に必要な患者指導の考え方」「療養指導の評価および修正」「認知機能低下のある患者への対応」など、患者指導の技術でした。 勤務を続けながらの受講でしたので、自宅に戻った夜や休日の自分の時間を有効に使いました。eラーニングはいつでもどこでも自分の裁量で時間の都合をつけられるので便利です。 eラーニング講習の後、症例報告書を提出します。症例はすべて異なる患者で2テーマ以上5例作成します。テーマ例としては、「ステージ別心不全患者の療養指導」「高齢心不全患者への療養指導」「多職種連携、地域連携の強化が必要な心不全患者への療養指導」などが挙げられています。最終的に認定試験を受けて審査があり、合否が決まります。eラーニング受講から約10か月の期間で取得できます。 ― 心不全患者の再入院を防ぐ取り組みで効果がみられた症例をご紹介ください。 70歳代の女性の利用者さんで、入退院を繰り返しておられました。独居の方で在宅に戻って2週間もすると必ず再入院となるのです。家で療養していると、浮腫が出て息切れが続き、また入院となるということの繰り返しでした。 私たちが週2回、訪問看護に入ることになって様子を見ていると、昔からの食生活を続けていることが原因であることがわかりました。梅干しが好きで、いつもご飯と一緒に食べておられ、さらにハムなどの加工食品で過剰な塩分を摂取されていました。本人も入退院を繰り返すのは嫌で、家でずっと暮らしたいとおっしゃっていました。 そこで、食事指導を徹底しました。塩分の摂りすぎがどうして心臓の負担を増やしてしまうのかというしくみからお話しして、毎食の塩分チェックを継続していきました。主治医とも相談して、むくみの程度によって利尿薬の増減についてご指示いただき、コントロールするようにしました。 別居している家族の方からも「私たちが言っても聞いてくれないけど、看護師さんの言うことは聞くみたいですね」と言われました。専門職が週2回入ってきっちりお話しすることで、この方の意識も変わっていったようです。日常生活の立て直しができて、再発・入退院を繰り返すことがなくなりました。 心不全の方は入院してつらい思いをしても、軽快するとすぐ忘れてしまい、元の状態に戻りがちです。食事や運動などの行動を変えていただくのは非常に難しいことだと思いますが、身体のしくみや薬が効くメカニズムなどを丁寧に説明すれば理解してくださいます。 一方的に「指導」するのではなく、行動科学的なアプローチによって行動変容を「促す」関わりが大切だと思います。そういう意味でも「心不全療養指導士」の資格はとても役に立っていると感じています。 * 心不全療養指導士の役割の1つとして、「医療機関あるいは地域での心不全に対する診療において、医師やほかの医療専門職と円滑に連携し、チーム医療の推進に貢献する」という項目があります。心不全患者の重症化・再入院を防ぐためには、病院だけでなく地域ぐるみの多職種の連携が不可欠です。チーム医療推進の要として活躍する「心不全療養指導士」の役割は、今後ますます大きくなりそうです。 ※詳しくは、一般社団法人日本循環器学会のホームページ上の「心不全療養指導士」(https://www.j-circ.or.jp/chfej/)をご覧ください。 ** 黒木 絵巨博多みずほ訪問看護ステーション 所長 大分県出身。3児の母。総合病院、透析クリニック勤務の後、2018年から訪問看護師として勤務。2021年3月に心不全療養指導士資格取得。 記事編集:株式会社照林社

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら