2025年2月25日
ストーマトラブル対処法 装具選択とケーススタディ【セミナーレポート後編】
2024年11月8日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「事例で解説!ストーマトラブル対処法」。講師は、ながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師の原慎吾さんです。豊富な経験をふまえ、ストーマトラブルの解消につながるアセスメントや装具選択について、具体的に紹介してくださいました。セミナーレポート後編では、装具の選び方や、実際の事例検討の様子をまとめます。
※75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。
>>前編はこちらストーマトラブル対処法 アセスメントと原因【セミナーレポート前編】
【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、起業。病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開するほか、ストーマアクセサリーの開発も手がける。2021年には訪問看護ステーションも開業。
装具とアクセサリーの選択
装具の変更を検討するにあたっては、以下の4つのポイントを押さえておきましょう。
ポイント1:皮膚保護剤の組成
面板選びでは、皮膚保護剤の素材を考慮する必要があります。細かく理解するのは大変なので、長期用、中期用、短期用といった使用期間に着目するのがおすすめです。
>>関連記事皮膚保護剤(面板)の組成については以下をご参照ください。【セミナーレポート】後編:装具を選ぶポイントとケーススタディ-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応-
ポイント2:面板の形状
装具には、柔らかくて皮膚への影響が少ない平面装具と、硬いプラスチックや皮膚保護剤で作られた凸面装具とがあります。
硬い腹壁には平面装具(および柔らかい皮膚保護剤)を、柔らかい腹壁には凸面装具(および硬めの皮膚保護剤)を選択するとよいといわれています。硬い腹壁に硬い凸面装具を貼ると、互いに押し合うことで剥がれやすくなったり、お腹の皮膚に圧力がかかり、皮膚損傷の原因となったりすることがあります。逆にしわの多い腹壁に柔らかい平面装具を使うと、その腹壁のしわで伸びたり縮んだりして、漏れの原因になるため注意しましょう。
腹壁の状態は、お腹に対して指の向きを並行にして押し当てて確認します。沈む指が1本以下なら硬い、1本以上2本未満なら普通、それ以上は柔らかいと判断します。
なお、凸面装具の形状には、メーカーごとに違いがあります。また、同じように「柔らかい凸面」と表現されていても、プラスチックの柔らかさは会社によって異なるもの。そのほか、コンベックスの有無、コンベックスの高さにも差があります。各メーカーの特徴を把握すると選択しやすくなるので、ぜひ利用者さんの装具を触って研究してみてください。
ポイント3:コスト
凸面装具よりも平面装具のほうが単価は安く、1枚300円台から購入できるため、コストを考えれば平面装具で管理できるストーマが理想的です。
ただ、最も重要なのは「漏れないこと」なので、単価にとらわれすぎないようにしてください。実際に、私の印象では、ストーマ保有者の8割以上は凸面装具を使っています。
ポイント4:アクセサリーの選択と使用
装具に加えて選択されるアクセサリーとしては、粉状皮膚保護剤や、粘土のような用手成形の皮膚保護剤が代表的です。在宅の場合、ストーマを保有する利用者さんの皮膚トラブルにはよく粉状皮膚保護剤を使うので、1本は用意することをおすすめします。くぼみやしわの補整に使う用手成形は、アレルギーがなければ、どのメーカーのものを使ってもOKです。
ストーマ傍ヘルニアへの対応
ストーマの周囲の皮膚が膨隆する「ストーマ傍ヘルニア」は、術後時間が経ってから発生する慢性合併症です。座位や立位をとって重力がかかると腸管が脱出し、臥位になると戻ります。腹壁が動くため、面板を貼るのが難しく、剥がれやすくもなります。
このケースでは、突き出た部分と反発したり皮膚を傷つけたりする可能性があるため、硬い凸面装具は使えません。同じく深い凸面装具も、押し合ってしまうのでNGです。平面装具や柔らかい凸面装具、浅い凸面装具は、実際に試してみないとわかりませんが、漏れのリスクが高まります。
そこで活用してほしいのが、ストーマ用ベルト。10,000円ほどかかりますが、腹壁の動きを抑え、安定させてくれます。臥位になる就寝中は外し、活動時のみ着ければOKです。
嵌頓(かんとん)には注意を
ストーマ傍ヘルニアには、臥位でも腸管の突き出しが戻らない「嵌頓」という状態もあります。臥位になると腹壁が平らになる場合は心配ありませんが、嵌頓が見られた際には医師に相談してください。
ストーマ皮膚トラブル・ケーススタディ
最後に、実際の事例における対応を見ていきましょう。
ストーマ近接部にびらんがある場合
面板をストーマより1、2mm大きめにカットして貼ると、びらん、浸出液が出る部分に重なるため密着しません。そこに排泄物が入り込み、びらんが悪化します。
対処方法としては、粉状皮膚保護剤を使用します。散布すると、浸出液を吸ってゼリー状になり、びらん表面に膜を作って皮膚を保護してくれます。
ただし、粉状皮膚保護剤の効果は長くもちません。とくにびらんがひどい場合は、粉状皮膚保護剤を使いながら装具の交換を連日行い、排泄物が皮膚を溶かす時間をなるべく減らします。すると、10日ほどで状態が改善するので、そこから装具の変更やアクセサリーの追加を検討しましょう。
ストーマの最大径と基部径の差が大きい場合
ストーマの頭(最大径)が大きく首(基部径)が小さい「マッシュルーム型」になるケースでは、面板を頭のサイズに合わせてカットするとストーマ周囲の皮膚の露出が大きくなり、ただれてしまいます。
この場合は、面板の穴を首のサイズに合わせ、放射状に切り込みを入れましょう。そうすれば、皮膚の露出を抑えられます。
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ストーマを造設すると、精神面でも身体面でも大きなハンディキャップを背負うことになります。その上トラブルが生じれば、利用者さんにとっての負担はより大きくなるでしょう。このことを心に留めながら、トラブルの早期改善や予防に努めていただければ幸いです。
本セミナーでお伝えした内容が、皆さんのケアに少しでも役立ち、利用者さんの状態や身体の変化に寄り添う継続的な支援につながることを願っています。
執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア