ケア知識に関する記事

ノーリフティングケア インタビュー
ノーリフティングケア インタビュー
インタビュー
2023年11月7日
2023年11月7日

知っておきたいノーリフティングケア 看護師の腰痛予防や利用者の拘縮緩和も

看護や介護の現場では、人力で寝たきりの要介護者を移動させるため、腰痛発生率が高まり、離職率の増加につながっています。それを防ぐのが、欧州では主流の「ノーリフティングケア」です。リフトを活用して要介護者を動かすことで看護師や介護士の腰痛予防になるほか、リフトの活用そのものがリハビリとなり、利用者の拘縮緩和も期待できます。そこで、「ノーリフティングケア」の普及活動に奔走する理学療法士の下元 佳子さんに、国内外の現状やリフトを活用するメリットについて伺いました。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 〇プロフィール 下元 佳子(しももと よしこ)さん 理学療法士。17年間病院に勤務した後、合資会社オファーズを設立。訪問看護、訪問介護、子どもの通所介護の事業所を運営。「二次障害を引き起こさない福祉用具ケア」を普及させるため、一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワークを設立し、代表理事を務める。高知市内に拠点を置き、福祉用具の展示·相談、人材育成のための研修等を行っている。 ※文中敬称略 オーストラリアでは看護師がリフト活用を推進 ―リフトの存在は知っていても活用していなかったり、「ノーリフティングケア」のメリットをきちんと理解していなかったりする看護や介護の現場がほとんどだと思います。ノーリフティングケアの状況やメリット、そして、医療・介護業界に広める活動をされている理由を教えてください。 下元: 「ノーリフティング」という言葉は、看護・介護・福祉の現場から職業病としての腰痛を予防する取り組みを指します。海外に視線を向けると、欧州では1980年代からリフトを使って看護や介護することが日常になっています。 オーストラリアでは看護師の身体疲労による腰痛訴え率が上がったため、1998年に国が腰痛予防策の義務化をし、積極的に取り組んできたのです。歴史は浅いですが、人力のみの移乗を禁止して福祉用具を活用しようと、看護や介護、福祉現場での常識が変わってきています。 現地で率先して活用を広めているのが、看護師です。私は2008年にオーストラリアの看護や介護現場を見学しましたが、「なぜ看護師がリフトの活用を広めているの?」と看護師に質問すると、「患者さんをサポートする役目の私たちが、自分の体を痛めて治療費を払うなんて、話にならないわよね」と答えてくれました。質の高い仕事をするために、ムダなことはしたくないと話していたことにも、プロ意識を感じました。 ―日本とは大きく状況が異なるのですね。なぜ、日本ではノーリフティングケアの導入がなかなか進まないのでしょうか。 日本では1970年代に「重量物取り扱いルール」が制定されましたが、建設業・輸送業など「物」を対象とする業界で実践されてきました。そのため、人に対しては何の対策も取られず、介護や看護に携わる人たちの腰痛が増え続けてしまったのです。2013年に国が「職場における腰痛予防対策指針」を出しましたが、現場が実際に変わるほどの効果はなかったように思います。昨年、厚生労働省による労働災害の防止の取り組み「従業員の幸せのSAFEコンソーシアム」や、今年の「第14次労働災害防止計画」の中に、「介護はノーリフティングケアでやりなさい」という内容が、ようやく明記され始めたのが現状です。 国をあげての問題になった今、看護師や介護士、そして長時間一緒に過ごされるご家族の体を守るために、私はノーリフティングケアの普及活動に力を入れています。 看護や介護職の人たちは、「自分が要介護者の手足を動かしてケアすること」こそ、本人やご家族に喜ばれると考え、それが目標や自身への評価にしがちです。しかし、大事なのは、ご家族を含めた介護するチーム全員が自分の体をしっかり守りながら、ケアを継続すること。看護・介護のプロとしても、腰痛予防のための「ノーリフティングケア」を取り入れるべきだと思います。 日本の要介護者が屈曲状態で拘縮する理由 ―下元さんは30年以上前にカナダの医療や介護の現場へ「ノーリフティングケア」の視察に行かれ、どこに行っても拘縮(関節が固まってしまう状態)の要介護者がいない事実に驚かれたとのこと。日本ではなぜ拘縮の人が多いのでしょうか。 下元: 私が理学療法士を目指して勉強していたころは、「寝たきりなどで体を動かさないから拘縮が起こる」と習いました。でも、実際に臨床現場で働くと、寝たきりなら関節が伸展した状態で拘縮するはずなのに、なぜか上肢は肘で大きく曲がり胸にくっつき、指も握ったまま、下肢も大きく曲がり踵がお尻にくっつきそうな人が多く、不思議に思いました。 セラピーの時間に手足を動かして「少し筋肉が緩んだかな?」と思っても、看護師さんに患者さんを病棟のベッドに移してもらった途端、セラピー前の固さに戻っていることもありました。吸引して拘縮が強くなっていることもあり、もしかしたら、筋肉が緊張する状態が続くと拘縮になるのではないかと思いました。 強い刺激や速い刺激を与えると、筋肉の緊張度合は上がります。例えば、横向きに寝るように体を動かし、股関節を開くといったおむつ交換の作業でも、乱暴に動かすと筋肉は緊張します。時間が経って緊張が少し緩んでも、また次の介護ケアで筋肉が緊張してしまう。私たちのようにふーっと息を吐くなど、要介護者は筋肉の緊張を緩めるようなコントロールができません。つまり、介護ケアの連続が、筋肉の緊張状態を継続させていたのです。これは、人によって「つくられた拘縮」ともいえます。 28歳で地域の高齢者病院に転職したときに驚いたのが、拘縮で手足が屈曲し固まっている患者さんが病室にたくさんいたことです。医師からは山のように「拘縮改善」のオーダーがありました。でも1日数十分体を動かすだけでは、固くなった体を改善することはできません。カナダのバングーバーの施設を視察したのはそのころ。もう30年前の話ですが、拘縮している要介護者はいませんでした。その後に行ったデンマークやオーストラリアでも、生活習慣による円背はあっても、日本でたくさん見るような拘縮した人はいなかった。つまり「ノーリフティングケア」を実践している国では、拘縮している要介護者がほとんどいないのです。 ―リフトの活用が拘縮を防ぐということでしょうか。逆に、筋肉が緊張しそうなイメージもあります。 下元: 吊り上げるときは、大腿後部と背中全体をシートで支えます。広い範囲でしっかり体重を支えながらゆっくり動かせば緊張するどころか、逆に緊張を緩めてくれるのです。だから我々は、「要介護者を抱え上げられないからリフトを使おう」ではなく、「筋肉の緊張を緩めるためにリフトを使いましょう」と在宅介護や医療現場で提案します。拘縮を改善する道具として使えることを、ぜひ多くの看護・介護・福祉の現場で働く人々に知っていただきたいです。 嬉しそうにリフトを利用している利用者さんの様子 ベッドからの移動にリフトを活用(左)。利用者さんのお母様の負担が軽減した。また、体幹トレーニング(中央)や、リラクゼーション(右)にもリフトが活用されている 私が活動する高知県では、全国に先駆けて「ノーリフティングケア」に取り組み、2015年からモデル施設をつくっています。8年経ちますが、拘縮の方が本当に減りました。県外から視察されに来た方を施設にお連れすると、ホールに座っている高齢者を見て、「高知県は特養介護度が低いのですか?」と皆さん同じことをおっしゃいます。日本には拘縮している高齢者が多いので、「自分で自由に動けない介護度が高い人=拘縮している」というイメージなのでしょうが、「ここにいる皆さんは要介護度5ですよ」と伝えると必ず驚かれます。 リハビリもやらなければと思う看護師たち ―先生は、訪問看護師を養成する県のプログラムで講師もされていると伺っています。受講される看護師は「ノーリフティングケア」についてどのようなイメージを持っているのでしょうか。 下元: 年2回、「在宅リハビリテーション」というテーマで1日研修の講師を担当しています。最初に「在宅リハビリテーションに、どんなイメージありますか?」と質問すると、「ベッド上の要介護者の手足を動かす」と看護師さんたちは答えます。私は「リハビリテーションとは、そういうことではない」ということから講義を始めるんです。 理学療法士や作業療法士が不在の介護現場では、「自分がリハビリの仕事をしなければ」と考える看護師さんが多いようです。「リハビリのやり方を教えてください」と看護師さんからよくお願いされますが、「要介護者の手足を動かすことが理学療法士や作業療法士の仕事ではない。週に一度や二度それを実施しても拘縮は予防できません。ケアを変える提案をする方が大事であり、成果が出ます」と伝えます。そして、「リフトで吊り上げてゆらゆら動かすと体の緊張が緩んできます。ベッドの上で要介護者の手足を動かすよりも拘縮予防になります」と説明すると看護師さんたちは驚かれ、「リフトを活用したい!」とおっしゃるのです。 ―リフトを実際に使っている方やそのご家族の様子を教えてください。 下元: リフト利用者やそのご家族は、活動的になる傾向があります。 玄関リフトや電動車いすなどを活用してお出かけをする利用者さん。「人に相談する」「福祉用具を使ってゆとりを作る」ことで、お母様の負担を減らしながら活動量を増やし、暮らしが豊かになった リフトは自費でレンタルできるので、ホテルに設置してもらって1泊2日で国内旅行に行く方もいます。私の勤務先のリフト利用者も、海外旅行を楽しんでいました。リフトの活用が進んでいる海外のほうが手配しやすいとも思います。その方は70代の男性で、難病が進行し、昨年、人工呼吸器を装着されました。在宅介護は厳しいかもと思いましたが、家に戻って来られたんです。「帰ってきたんですね」と言うと、「いやいや息ができなくなっただけでしょ?」とおっしゃる。病気の進行に合わせて補助器具を導入する生活を送り、リフトさえあれば在宅介護ができるんじゃないかという前向きな考えに至ったのだと思います。奥様もリフトとヘルパーさんの力を借りることで、仕事を辞めることなく在宅介護ができると判断されたようです。 リフトを活用している筋ジストロフィーのお子さんは、体が動かないので床に置かれるだけで大泣きする状態でしたが、今は移乗に使うだけでなく、吊り具を使って立ち上がり、1時間ぐらい遊んでいます。干している洗濯物を落として喜ぶなど、ちゃんといたずらができることも発達の表れです。 体調を崩して入院すると、「帰る、帰る」と言うそうです。「帰って何をするの?」と聞くと、ブランコに乗るようなしぐさをして「家でリフトに乗りたい」と主張する。動ける自由に楽しさを感じているのでしょう。 リフトを使えば起きたいときに起きられるし、ラクに車いすに乗れて移動できるようになるので、要介護者とご家族のQOLは確実に上がります。利用者の奥様に、「リフトはどんな存在ですか?」と尋ねたら、「相棒」とおっしゃっていました。「子どもたちに夫の移動を頼むと嫌がられるけれど、リフトは1回も嫌って言ったことがないのよ」と話されていたことも印象的でした。 >>後編はこちら在宅に「ノーリフティングケア」の導入が難しい…は誤解? ※本記事は、2023年8月時点の情報をもとに構成しています。 執筆: 高島 三幸取材・編集: NsPace編集部

在宅の褥瘡・スキンケア (浸軟)
在宅の褥瘡・スキンケア (浸軟)
特集 会員限定
2023年11月7日
2023年11月7日

浸軟の基礎知識 予防的スキンケア&療養生活環境アセスメント

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として医療行為に関する詳細な記述や症例写真等を掲載しているため、NsPace会員様(医療関係者)限定で公開しています。また、損傷を伴う皮膚画像を含みますので、あらかじめご了承ください。 浸軟は、皮膚が水に浸漬することで角層の水分が増加し、一過性に体積が増えふやけることで生じる変化です。失禁関連皮膚炎(IAD)や褥瘡発生を防ぐためには、浸軟を予防すること、さらにはその前段階である湿潤を起こさないためのスキンケアが重要です。 今回は、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、「浸軟」の基礎知識やスキンケア、アセスメントについて解説していただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 皮膚の浸軟とは 皮膚は、長時間の入浴などで一時的に一定の水分保持能力を超えると、体内に水分が吸収されることにより膨潤し、見た目としては白くなります。この状態が一般的に「ふやけ」といわれる、浸軟です。 左:浸軟した皮膚 右:健常な皮膚 一時的な水分の浸漬によって皮膚が膨潤しても、時間の経過とともに角層に吸収されて元の状態に戻ります。角層には、水分を保つ能力(保水能)があり、適度に水分を含んだ角層は、柔らかく滑らかです。角層の持つ水分の保湿に関係するものは、天然保湿因子、皮脂膜、細胞間脂質で、水分保持能力は加齢に伴い変化をします。 健康な皮膚の場合、バリア機能が発揮されるため、細菌や化学物質などは、簡単に体内に入ることはできません。浸軟による角層の過剰な水分の存在は、角質細胞間脂質の流出や細胞同時をつなぐ分子の破綻、細胞間隔の拡大を招きます。それにより、体内の水分の喪失が増え、本来の健康な皮膚が持つバリア機能が障害されるのです。 失禁状態で常に排泄物が皮膚に付着している人、おむつを使用しており、おむつ内部が高温多湿な環境にある人、発汗量の多い人などは、皮膚が湿潤しやすい状況にあります。皮膚の湿潤が持続すると、皮膚のバリア機能が低下して浸軟をきたし、スキントラブルが起こりやすくなります。 浸軟を予防する毎日のスキンケア 洗浄方法&洗浄剤選びのポイント・注意点 洗浄の際は、皮膚の浸軟状態をよく観察しこれまでのスキンケアの評価を行います。浸軟の原因となる汗や排泄物などの汚れを取り除く際、皮膚を擦らないように注意しましょう。 失禁などで皮膚に浸軟を生じている場合、洗浄剤を用いた頻回な洗浄は、皮脂を過剰に取り除いてしまいます。さらに皮膚を擦るという機械的な刺激が加わることで皮膚の表面を損傷し、バリア機能がさらに低下。そこに排泄物の刺激が加わると、スキントラブルを起こす可能性がさらに高くなります。 IAD:臀裂部潰瘍周囲皮膚の浸軟 失禁状態の療養者のスキンケアは、おむつの交換毎に洗浄剤を用いた洗浄を行う必要はありません。洗浄剤の使用は1日1回として、皮膚を守る洗浄のスキンケアを行いましょう。洗浄剤をよく泡立ててから、泡で皮膚を覆い優しく撫でるように洗浄します。洗浄剤の成分を皮膚に残さないように、微温湯で十分に洗い流しましょう。この時も、擦らずに洗い流すことが大切です。洗浄剤は、低刺激性のもの、弱酸性のものを選びます。さらに脆弱な皮膚には、セラミド含有皮膚保護成分配合の洗浄剤を選択しましょう。また、便失禁による排泄物の拭き取りには肛門用清拭剤を用いて、ふき取り時に生じる皮膚への摩擦を軽減します。 保護のスキンケアのポイント&タイミング 浸軟の予防には、保湿剤を使用した保湿のスキンケアに加え、皮膚皮膜剤、撥水性保護クリームを用いた保護のスキンケアが大切です。排泄物による汚染が予測される部位には、あらかじめ撥水性保護クリームなどを用いて、排泄物の付着から皮膚を保護します。皮膚が脆弱で摩擦による皮膚の損傷の恐れがある場合、スプレータイプの皮膚皮膜剤を使用するとよいでしょう。 保護のスキンケアは、おむつ交換で排泄物を拭き取ったタイミングで行うと効果的です。撥水性保護クリームは皮膚に撥水性の皮膜を作るため、排泄物から皮膚を守り、摩擦を軽減することができます。 皮膚が密着している部位は、毎日意識的に観察を行いましょう。特に、皮膚と皮膚が密着している腋窩や臀裂部などは、常に皮膚が湿潤しやすい状態にあります。また、関節拘縮のある方は、身体同士の密着部の領域が増加し、前前腕部と前上腕部の密着面、後上腕部と前胸部の密着面や、麻痺側手指の拘縮による手掌部に、湿潤や浸軟を生じやすくなります。麻痺側手指にハンドロールを使用する場合は、通気性がよく硬すぎない材質のものを利用しましょう。 浸軟を生じる療養生活環境をアセスメント 室温・湿度 高温多湿な療養環境はじめとした、発汗に影響を及ぼす生活環境があるのかを確認しましょう。冬季の暖房器具(エアコン)調節下の室内では、こまめな換気や室温湿度の調整が行われず、療養者の発汗量が増加していることもあります。また、電気毛布や電気あんかを使用している場合、設定温度が発汗に影響していないか、定期的に評価を行い調節することが必要です。 寝衣・寝具 発汗により皮膚が湿潤する場合、皮膚のバリア機能が低下します。肌着や寝具などで汗を吸収し、熱放散により皮膚の浸潤を予防することが大切です。着用する肌着は、木綿素材で汗を吸収する柔らかいものがおすすめです。肌着や寝衣の重ね着、寝具の掛けすぎなどに留意し、室温、湿度にあった寝床環境を調整しましょう。 体圧分散マットレスやベッド上に防水シーツなどを使用している場合、吸水性のない製品は蒸れや発汗の原因になります。さらに、背部にバスタオルを敷いていると、温度が上昇して皮膚の湿潤の原因になりますので、吸湿性のあるシーツを使用することをおすすめします。体圧分散マットレスを使用している場合、身体はマットレスに沈み込むと熱がこもり、汗をかきやすくなります。特に、自力で寝返りができない、可動性や活動性が低下している方には、マイクロクライメット管理のできる体圧分散マットレスもあります。 医療用テープの使用 透湿性の低い医療用テープは皮膚への刺激が強く、浸軟が生じやすくなります。透湿性の高い低刺激性の医療用テープを用いることをおすすめします。 おむつの使用 おむつの交換頻度、使用しているおむつの種類や枚数、おむつ交換時のスキンケア方法を確認しましょう。尿漏れを予防しようと、何枚ものおむつを重ね付けしている場面を見かけます。おむつや尿取りパッドは、それぞれ機能や吸収量が異なります。療養者の排泄状況にあったおむつを使用しているのか、アセスメントを行うことが重要です。 おむつは、体格や排泄状態にあったおむつを選択しましょう。おむつの使用サイズは、テープタイプはヒップサイズ(最大腰回り)、パンツタイプはウエストサイズ(臍回り)が基本となります。大きめのサイズを使用すると隙間が生じ、尿が漏れやすくなります。一方、小さいサイズを使用すると皮膚への圧迫が強くなり、発赤や掻痒感、スキントラブルの要因になります。 また、おむつの重ね付けには、注意が必要です。おむつとパッドの重ね使いは、原則的にアウター(おむつ)1枚とインナー(パッド)1枚までです。インナーの外側は防水フィルムで覆われているため、下のパッドに尿は吸収されず複数枚重ねても吸収量は増えません。さらに、インナーを重ねることで、アウターの立体ギャザーの高さが低くなるため、尿が漏れる原因になります。おむつは、適切な使用方法によって、蒸れや漏れを予防することができるのです。 失禁のある療養者の場合、経済的な問題によって、おむつ交換間隔が長くなり、皮膚に浸軟を生じる場合もあります。各自治体には、さまざまなサービス(おむつ給付サービスや特殊尿器の福祉用具貸与など)があります。また、おむつ代の医療費控除をはじめとした助成制度(税金の控除)もあります。各家庭の経済力を把握し、地域の社会資源の活用を検討しましょう。 医師との連携 皮膚の浸軟が続くと真菌性疾患、失禁関連皮膚炎、褥瘡などを発症するリスクが高くなります。浸軟の原因を取り除き、正しいスキンケアを継続しても皮膚症状が改善しない、もしくは悪化をする場合は、速やかにかかりつけ医や皮膚科専門医へ報告、相談をしましょう。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。編集: NsPace編集部 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』日本看護協会出版会.2022.

失禁関連皮膚炎(IAD)のアセスメントと予防
失禁関連皮膚炎(IAD)のアセスメントと予防
特集 会員限定
2023年10月24日
2023年10月24日

スキンケアのポイントは?失禁関連皮膚炎(IAD)のアセスメントと予防

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として医療行為に関する詳細な記述や症例写真等を掲載しているため、NsPace会員様(医療関係者)限定で公開しています。また、損傷を伴う皮膚画像を含みますので、あらかじめご了承ください。 おむつで覆われている皮膚は、高温多湿な環境にあり、排泄物の付着により浸軟しやすく感染リスクも高くなります。特に脆弱な皮膚の高齢者や乳幼児には注意が必要です。療養者は、局所にスキントラブルを生じた場合、排泄物の付着による不快感や掻痒感、疼痛などの苦痛を伴います。同時に、頻回な局所の観察や治療が必要になると、療養者にはさらに精神的な苦痛を強いることになりQOLにも影響を及ぼすといえるでしょう。 療養者の自尊心や羞恥心に配慮した排泄ケア・看護を行うとともに、失禁関連皮膚炎(IAD:incontinence associated dermatitis 以下「IAD」)を理解した上で、予防的なスキンケアを実践し継続することが求められます。今回は、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、失禁関連皮膚炎(IAD)の予防的スキンケアを中心に解説いただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 IADのアセスメント IADは、おむつに覆われた皮膚(角質層)が湿気により浸軟して、バリア機能が破綻した状態になっているところに、排泄に含まれる消化酵素や細菌が、皮膚(真皮)組織の内部に入ることで生じる皮膚組織の障害です。 排泄物が付着する部位は、排泄物の性状や量、おむつの材質や当て方などにより、場合によっては大腿部にもみられます。個々の排泄状況やケア状況を確認することが必要となり、注意深く観察することが大切です。 アセスメントのポイント 【皮膚をみる】 部位(どこに)、時期(いつから)、程度(どのように) 発症の経緯 皮膚の状態(たるみ・浸軟・紅斑・びらん・潰瘍) 掻痒感の有無 痛みの有無・程度 局所ケアの方法 使用している外用薬 IAD-setを用いた評価 【全身状態をみる】 年齢、性別、基礎疾患 失禁の状態、排泄物の性状・量 ドライスキンの有無 浮腫の有無 糖尿病(血糖コントロール不良) 放射線治療の既往・継続中(骨盤内照射) 薬剤の使用(下剤、止痢剤、免疫抑制剤、抗がん剤、ステロイド剤、抗菌剤) 膀胱直腸瘻、直腸膣瘻 バイタルサイン 関節拘縮の有無、関節可動域 食事摂取量、水分摂取量 栄養摂取経路(方法)、経腸栄養投与速度・量 栄養状態 尿・便以外の刺激物の接触(帯下、下血) 【生活環境をみる】 失禁が生活に及ぼす影響 日常生活動作(ADL)・好みの体位・1日の多くを過ごす姿勢 頭側挙上の有無・時間、座位の有無・時間 おむつの使用(交換頻度、使用しているおむつの種類・枚数、おむつ交換時のスキンケ ア方法) 寝具の種類 介護者の介護力・介護方法 経済状況 【人・ライフスタイル・価値観をみる】 清潔習慣、入浴の頻度・入浴時の湯温度・入浴時間 スキンケアの方法(洗浄剤・保湿剤の種類、具体的なケア方法、頻度) ケアの拒否・困難さ 家庭にあるスキンケア用品 本人の思い・希望 家族の思い・希望 アセスメントには、おむつに覆われた皮膚の状態と療養環境を観察することが大切です。 尿失禁や便失禁の原因、行われている治療やケアのアセスメントも欠かせません。下痢のアセスメントには、栄養管理の情報も必要になります。特に下痢には、経腸栄養剤の種類や投与方法、投与時間の確認などが大切になりますが、下剤の使いすぎということも少なくありません。また、下剤の使用量やタイミングによって便秘と下痢を繰り返し、スキントラブルが改善しないということもあります。 介護する家族によっては、臀部を消毒用アルコールで清拭をしている方、おむつ交換ごとに石鹸を用いた洗浄を行なっている方などさまざまです。個々の生活習慣や価値観によって、さらにはそれぞれの家庭ごとに排泄に関するケアが異なります。排泄に影響を及ぼすさまざまな要因を、広い視点でみることが必要です。 IADのアセスメントには、「IAD重症度評価スケール:IAD-set」があります。IAD-setは、日本創傷・オストミー・失禁管理学会学術教育委員会によって開発されたIADのアセスメントができるツールです。IAD-setは、排泄物が皮膚に付着する状況にある場合に使用します。評価は、【Ⅰ皮膚の状態】と【Ⅱ付着する排泄物のタイプ】の2つを行います。評点が大きいほど重症と判断し、点数が減少することで改善と判断することができます。 IAD重症度評価スケール:IAD-set IADの予防的スキンケア IADの標準的なスキンケアは「清拭・洗浄・保湿」です。加えて、排泄物が皮膚に付着することを予防するために、保護のスキンケアを行うことも大切です。 便失禁のスキンケア ■清拭排泄を確認したら、その都度清拭を行いましょう。市販のおしりふきやトイレットペーパーに皮膚清拭剤などを使用すると、拭き取りの際の滑りがよく、皮膚への機械的刺激の軽減が期待できます。また、清拭の際は、皮膚を強く擦らないことが大切です。使用するタオルは、皮膚への機械的刺激が少ない、柔らかくふんわりしたものを選びましょう。 ■洗浄のスキンケア洗浄剤を用いて1日1回、皮膚に付着した排泄物や汚れを洗い流します。排泄物が付着していると洗浄剤を用いた洗浄を行いたくなるものです。しかし、皮膚洗浄剤を用いた頻回な洗浄は、皮膚への化学的刺激が大きくなります。そのため、排便回数が多い場合でも洗浄剤の使用は1日1回としましょう。弱酸性洗浄剤を選択し皮膚への化学的刺激を最小限にとどめます。 ■保湿のスキンケア1日1回以上、保湿剤を塗布しましょう。洗浄により皮脂は洗い流されるため、入浴や洗浄後に、保湿剤を塗布するということを習慣化できると良いです。保湿剤は、排泄物が付着している部位や、排泄物が付着する可能性があるすべての部位に塗布しましょう。 ■保護のスキンケア排泄物が皮膚へ付着することを予防するために白色ワセリンやジメチコン(シリコーンオイル)などが配合されている撥水性皮膚保護剤(撥水性皮膚保護クリームや保護オイル)を塗布します。 撥水性皮膚保護剤は、製品の皮膚保護力により使用する頻度や撥水の程度が異なります。保湿成分含有の製品もあります。使用する製品の特徴を理解した上で、皮膚の状態やケア環境にも考慮し、使う人にあった製品を選びましょう。 尿失禁のスキンケア 便失禁のスキンケアと同様の清拭・洗浄・保湿を行い、おむつなどを用いて尿の収集を行います。 ■おむつ選びについて便失禁・尿失禁のある療養者のおむつ選びは、日常生活自立度、身体のサイズ、失禁のタイミングや回数・量などを考慮して選択します。排泄物を吸収したパッドやおむつは、皮膚pHに影響を与えるため、排泄後は速やかに交換を行いましょう。尿取りパッドを選択する際は、逆戻りがない、通気性の良い高性能、吸収体の面積が小さく尿の接触面積を縮小できるものがおすすめです。なお、男性には、男性用の尿取りパッドがあります。 ■療養生活への配慮水様便に対応する軟便専用のパッドがあります。軟便専用パッドは、尿取りパッドに比べ便の収集率が高く、水様便の流れ出しが軽減できます。便の収集率や吸収に優れているとはいえ、軟便専用のパッドを、長時間使用し続けることは避けましょう。便の付着を完全に防ぐ製品ではありませんので、水様便が排泄されたら、速やかにパッド交換を行うという意識を持つことが大切です。製品によって、吸収量やパッド内部の構造が異なりますので、便の性状や量、皮膚の状態に合った製品を選びましょう。 夜間、頻回な尿取りパッドの交換により、療養者や介護者の安眠が妨げられる場合や、尿取りパッドでは対応が困難な場合、男性にコンドーム型収尿器を紹介することもあります。コンドーム型収尿器は、装着に技術を要する場合もありますので、皮膚・排泄ケア認定看護師の技術支援が得られる方法を検討することも必要です。便の性状に経腸栄養剤が影響している可能性がある場合は、かかりつけ医や管理栄養士に相談をして、経腸栄養剤の種類や投与方法について検討しましょう。緩下剤を使用している場合は、かかりつけ医に相談をして便性状の調整を検討することも大切です。 在宅WOCナースがおすすめするIADのケア びらん・潰瘍部:スキンケアのポイント 洗浄のスキンケアの際、洗浄に痛みを伴う場合は、温めた生理食塩水を使用すると疼痛が軽減できます。びらんを生じている場合、局所にストーマ用品の粉状皮膚保護剤を散布した後、びらん部に粉が密着した上に皮膚被膜剤を塗布します。 粉状皮膚保護材を使用 失禁の頻度や機械的刺激によって粉状皮膚保護剤が剥がれてしまう場合は、皮膚・排泄ケア認定看護師などへ相談し、粉状皮膚保護剤と亜鉛華単軟膏を混ぜたものを塗布することを検討しましょう。亜鉛華単軟膏に粉状皮膚保護剤を合わせることで緩衝作用に優れ、皮膚の保護においても効果を発揮します。 亜鉛華軟膏を使用 なお、この方法は、カンジダ症の疑いがある場合は、症状を悪化させる可能性があるので注意が必要です。 ハイドロコロイドドレッシング材やストーマ用の板状皮膚保護剤を使用する場合は、適当な大きさにカットしモザイク状に局所へ貼付します。排泄物で汚染した部分や溶解・膨潤した部分など、一部のみを交換することができます。さらに、モザイク状に貼付した隙間には粉状皮膚保護剤を充填することにより、露出した皮膚を保護することができます。 ポリエステル繊維綿によるケア ポリエステル繊維綿で、肛門周囲から会陰部にかけての皮膚と、おむつの間の隙間を埋める製品もあります。水様便が臀部皮膚に拡散せずパッド内へ吸収されることにより、皮膚への付着を軽減できます。ポリエステル繊維綿はパッドと一緒に、排便ごとに交換します。 装着型肛門様装具や単品系ストーマ装具によるケア 水様便が持続する場合(非感染性の下痢)、装着型肛門様装具や単品系ストーマ装具などで便を回収することもできます。ただし、装具の装着には技術が必要で、療養者は装着中の違和感を伴うことも。装具の購入費用もかかります。療養者・家族と相談の上で使用を検討しましょう。また、装具装着の際は、皮膚・排泄ケア認定看護師の技術支援が得られる方法を検討することも必要です。 医師との連携 皮膚科医によりIADと診断された潰瘍の治療方法については、皮膚科医が指示する外用薬を使用しましょう。皮膚カンジダ症をはじめとした感染徴候が確認されたら、かかりつけ医もしくは皮膚科医へ相談し、感染の有無の確認をすることが大切です。感染が確定したら、医師の指示のもと治療を行います。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』日本看護協会出版会.2022.〇一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会編. 『IADベストプラクティス IAD-setに基づくIADの予防と管理』照林社,2015.

在宅の褥瘡・スキンケア/スキン-テア編
在宅の褥瘡・スキンケア/スキン-テア編
特集 会員限定
2023年10月10日
2023年10月10日

高齢者に多いスキン-テア 予防ケアのポイント&第一発見時の対応を解説

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として医療行為に関する詳細な記述や症例写真等を掲載しているため、NsPace会員様(医療関係者)限定で公開しています。また、損傷を伴う皮膚画像を含みますので、あらかじめご了承ください。 スキン-テアは、主に高齢者に発生する皮膚損傷で、摩擦やずれによって皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷です。スキン-テアは、医療的ケアや療養生活の中で生じる摩擦やずれによって発生し、強い痛みを伴い、治りにくく再発しやすいという特徴もあります。毎日介護する家族にとって、スキン-テアの痛みに苦しむ家族の姿を見ることや、その介護は痛々しく悲しいものです。 在宅で要介護状態にある高齢者は、療養生活のケアを家族や他者に委ねることが多くなります。そのため、ケアに当たる時間が多い家族や介護ヘルパーは、皮膚の観察をする頻度が最も高く、第一発見者になる可能性も。今回は、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、スキン-テアについて、発症を予防するケアのポイントや発生時の対応方法を解説いただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 「スキン-テア」を起こしやすい皮膚や状況は?:アセスメント スキン-テアが発生する場面 摩擦とずれによって皮膚が損傷することで、スキン-テアが発生します。例えば、以下のようなケースがあります。 ベッド柵に上肢をぶつけて皮膚が裂けた 更衣時に衣類が擦れて皮膚が裂けた リハビリ時に身体を支持していたら皮膚が裂けた 上体を引き上げようとしたら皮膚が裂けた 車椅子のレバーに手をぶつけて皮膚が裂けた 医療用テープを剥がすときに皮膚が剥がれた 車椅子のブレーキレバーに打撲して損傷 車椅子のブレーキレバーに打撲して損傷 更衣時に衣類が擦れて損傷 上肢を強く掴んだ時に損傷 アセスメントのポイント スキン-テア保有者は、75歳以上の後期高齢者、日常生活自立度ランクC2に多く、両上肢に多くみられるという特徴があります。薄く(菲薄)脆い(脆弱)皮膚、特に以下の皮膚状態にある人は要注意です。 ■スキン-テアの既往がある現在スキン-テアを有している人や既往のある人は、スキン-テアの発症リスクが高いため、予防的なケアが重要になります。過去にスキン-テアの既往があるかどうか、現在スキン-テアを有しているか、本人や家族に確認しましょう。皮膚の観察は、スキン-テアが治癒した後に認める特徴的な瘢痕があるかを確認します。 特徴的な瘢痕とは、白い線状や白い星状の瘢痕です。このような症状を認めた場合、過去にスキン-テアを発症したことになります。 スキン-テアの既往:白い線状の瘢痕 スキン-テアの既往:白い星状の瘢痕 ■乾燥しているドライスキンは、皮膚の柔軟性が低下し硬く脆くなり、水分量が減少した状態です。皮膚のバリア機能が低下しています。 ■浮腫がある浮腫(※)は、ドライスキンが生じやすくなります。※詳しくは「在宅の褥瘡・スキンケア 脆弱な皮膚 編」参照 ■紫斑がある(老人性紫斑)加齢による血管の脆弱性(老化)が原因で、軽微な外力でも皮下に出血を起こし、紫斑を生じます。抗凝固剤服用中の療養者によくみられます。 紫斑 ■ティッシュペーパー様の皮膚皮膚がティッシュペーパーのように白くかさかさしていて、とても薄い状態です。高齢者で長期間ステロイド薬を内服している療養者に多くみられます。 ■高齢である皮膚は加齢により脆弱化し、わずかな摩擦やずれでもスキン-テアが生じやすくなります。療養者が「年齢75歳以上か」という視点は大切なアセスメントポイントとなります。 ■外力発生要因を確認する:患者行動・管理状況外力発生要因のリスクアセスメントは、療養者本人の行動によって摩擦やずれが生じる「患者行動」と、ケアによって摩擦やずれが生じる「管理状況」をみます。 患者行動には、痙攣・不随意運動、不穏行動、物にぶつかるなどがあります。管理状況には、体位変換や移動介助、入浴・清拭などの清潔ケア介助、更衣の介助、医療用テープの貼付、器具(抑制帯、医療用リストバンドなどの使用)、リハビリテーションの実施などがあります。介護の場面、居室の環境、ケアの介助など、毎日の生活の場面で生じる摩擦やずれによってスキン-テアは発生しますので、スキン-テア発生リスクの観点を持ち、療養者の療養状況を確認することが必要です。 ■ガイドラインに基づいた評価とケアを行うスキン-テアは予防が大切ですが、発生したスキン-テアは、早期に治癒できるように適切な評価とケアを行うことが重要です。スキン-テア発生部の創の観察は、STAR(Skin Tear Audit Research)分類システムを用いて行います。 一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会の『ベストプラクティス スキン-テア(皮膚裂傷)の予防と管理』内に掲載されている、「STARスキンテア分類システムガイドライン」で推奨されるケアをおすすめします。 スキンケアのポイント スキン-テアの発生と再発の予防的ケアは、毎日の細やかな観察、栄養管理、外力保護ケア、スキンケア、医療・介護メンバーや療養者・家族の教育が重要です。 栄養管理のポイント スキン-テアとドライスキンは関連していると考えられています。栄養管理によってドライスキンが改善できればスキン-テアの予防につながります。 栄養状態は、食事摂取量の減少、摂食嚥下状態、脱水症状など、本人の身体状況や生活の中でも把握できるポイントがあります。特に高齢者は脱水になりやすいため、毎日の尿量(オムツ交換回数など)や皮膚や舌の乾燥、手指の爪甲を圧迫した際の再充血の遅延、せん妄状態などの観察が重要です。 皮膚の乾燥に効果的な栄養素としてコラーゲンペプチドがあります。コラーゲンペプチドは、経表皮水分蒸散量を減少させ、角層水分量の減少を抑制する効果が示されています。褥瘡治癒の促進にも有効であるといわれていることから、スキン-テアでも効果が期待されている栄養素の一つです。 外力保護のポイント スキン-テアの発生部位は、上肢が最も多く次に下肢となっており、四肢がベッド柵などの物にぶつかることで多く発症しています。スキン-テアを予防するには、皮膚を外力から保護する対策、療養生活環境を整えること、外力から皮膚を保護するケア、安全な医療用品を使用することが大切です。 ■ベッド周囲の環境療養者に、認知機能の低下、痙攣や不随意運動、不穏行動などがある場合、ベッド柵への接触やベッド柵の隙間から手足を出す行為などによって、スキン-テアを生じる可能性があります。ベッド柵をあらかじめカバーで覆い、直接皮膚がベッド柵に接触することを予防し、ベッドの床上にはティッシュケースなどの物を置かないようにしましょう。ベッド上下のボード、ベッド周囲の家具など、身体が接触する可能性のある角の部分にカバーや緩衝材を着けるなどの配慮も必要です。 ■車椅子への移動時の環境スキン-テアを発症する場面に、車椅子への移乗があります。車椅子に移る前に、四肢の露出がないことを確認しましょう。あらかじめ上肢にはアームカバーや手袋、下肢には靴下、レッグウォーマーを着用し皮膚を守ることが大切です。アームカバーやレッグウォーマー、日焼け防止長手袋などは手軽で便利に使用できます。車椅子のブレーキやアームサポート、フットレストなどは、肘や上肢、手背、下肢などが接触しやすい部分でもありますので、素材の柔らかいもので覆い皮膚への接触を軽減しましょう。 ■体位変換や移乗の介助スキン-テアは、体位変換や移乗動作をはじめとする介護の場面など、日常生活の支援で行われるケアに関連して発生します。特に介護する人が高齢者で、体力的な問題がある場合、力任せに引っ張る・引きずるなど、強い力を加える介助はスキン-テアの発生率を高めます。 介助方法のポイント体位変換や移乗動作などの介助は、原則的に2名で行うことが望ましいです。しかし在宅では、マンパワーの不足もあり常時2名で介助を行うことが難しい状況もあります。そのような時は、体位変換補助具の使用をおすすめします。スライディングシート、スライディングボード、スライディンググローブ、介護用リフトなどの使用は、摩擦やずれの低減に繋がり、療養者も介護する人も安全で安楽に行うことができます。在宅では、スライディングシートの代わりに、レジャーシート、ビニールシートなど表面が滑りやすい素材のシートを活用する場合もあります。介助動作のポイント体位変換時や更衣時、上下肢の挙上や支える際に上肢や下肢を掴むと、一ヵ所に力が集中し、圧迫と摩擦、ずれによってスキン-テアが発生します。四肢の挙上には、必ず下から両手で優しく支えるように保持して、掴み上げることや強く握ることは避けましょう。体位変換は、背部や肩、腰部など大きな面積を支えるように行います。体位変換やポジショニングに使用するクッション、着用している寝衣、寝具、おむつを引っ張る行為は、皮膚に摩擦やずれを生じますので控えましょう。 ■皮膚保護のポイントスキン-テアの予防には、皮膚の露出を避けることが大切です。寝衣や衣類は、皮膚が蒸れて浸軟をしないように、吸湿性が高く肌触りが柔らかいもの、すべりの良い素材が好ましいです。また、伸縮性があり、ゆとりのあるものを選択しましょう。きつく伸縮性の少ない衣類は、更衣時にスキン-テアを生じる可能性が高くなります。関節拘縮のある療養者には、やや大きめで伸縮性のある、皮膚が擦れない寝衣を選択すると良いです。 関節拘縮が強い療養者の場合、あらかじめ上肢をアームカバーなどで保護した上で、更衣を行います。スキン-テアのリスクが高い人、既往のある人は、日常的に長袖、長ズボンの寝衣を着用する、靴下は膝下まで覆えるものにするなどの留意が必要です。 予防的なスキンケアのポイント 入浴の際、皮膚は覆うものがなく、濡れて摩擦抵抗は高く、湯温や発汗などで浸軟しやすい状態にもなります。入浴介助は、十分注意をしながら行いましょう。 ■保湿のスキンケア使用する保湿剤は、低刺激性でローションタイプの伸びの良いものがおすすめです。硬く伸びにくい保湿剤の使用は、皮膚に摩擦やずれを生じ、スキン-テアを生じさせる可能性があります。1日2回以上行えると予防効果が高まります。 保湿剤を塗布する際、強く擦りながら行うと、皮膚に摩擦とずれが生じ新たな皮膚損傷を起こす可能性があります。保湿剤の塗布は、ディスポ手袋をした手に保湿剤を馴染ませ、毛の流れにそって押さえるように行います。乾燥が強い場合は、保湿ケアの後、油脂成分のクリームを重ねて塗布することで保湿のケア効果を高めることもできます。皮膚の乾燥状態に応じて、保湿のケアの回数を増やすなどの検討を行います。1日2回以上の保湿のスキンケアが困難な場合には、入浴や清拭時の温湯に保湿成分配合入浴剤を使用するなど、確実に継続できる方法を考えます。 発症後のスキンケア:第一発見者の初期対応 スキン-テアを最初に発見した人は、速やかな初期対応が求められますが、在宅では限られた衛生材料の中でケアを行わなければなりません。その家庭にある衛生材料でできる安全なケア方法を検討しましょう。 第一発見者が家族や介護ヘルパー 出血がある場合は、ガーゼ、ハンカチ、紙おむつやパッドなど、清潔な当てもので保護をして、早急に訪問看護ステーションやかかりつけ医に連絡をします。 第一発見者が訪問看護師など医療従事者 出血がある場合は、ガーゼなどを当て止血します。洗浄後、できる限り皮弁を元の位置に戻し、ガーゼに白色ワセリンなどの油脂性基剤の軟膏を塗布して創面に当てます。ガーゼのみを当てると皮弁がガーゼに固着し二次的損傷を招きます。当てものが創面に固着しないように保護をして、包帯、筒状包帯、ガーゼなど自宅にあるものを使用して固定します。訪問者が、非固着性創傷パッドやシリコーン系ドレッシング材を持っている場合は、優先的に使用します。 両腋窩を支持し上体を引き上げた時に損傷 洗浄後、皮弁を戻しシリコーンゲル粘着性親水性ポリウレタンフォームドレッシングでケア 受傷27日後に治癒を確認 皮弁を元の位置に戻す場合の留意点 スキン-テアは、皮膚が真皮レベルで剥離したものです。そのままでは皮膚が再生しないと治癒に至りません。皮膚は、皮弁を戻すことにより速やかに治癒することができます。しかし、皮弁を戻す際には疼痛を伴います。事前にきちんと説明した上で実施するようにしましょう。 皮弁は、湿らせた綿棒、手袋をした指、または無鉤鑷子を使用してゆっくり戻します。皮弁を元の位置に戻すことが難しい場合、生理食塩水で湿らせたガーゼを5〜10分貼付して再度試みます。皮弁を破損しないように、慌てず丁寧に行いましょう。 日頃から備えておきたい衛生材料 スキン-テアのハイリスク状態にある療養者には、ガーゼ、白色ワセリン、非固着性ガーゼ類、包帯類などを備えておくと応急手当てに役立ちます。また、第一発見者となる可能性の高い介護者や介護ヘルパーには、初期対応のケアの方法や医療者への緊急連絡先などを伝えておくことも大切です。スキン-テアの予防とケアには、医療職、看護職だけでなく、高齢者を支援する地域全体で高齢者の皮膚を護る意識と知識が大切です。 医師や多職種との連携 医療的なケアが必要な場合は、かかりつけ医や皮膚科専門医、皮膚・排泄ケア認定看護師に相談しましょう。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』日本看護協会出版会.2022.〇一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会編. 『ベストプラクティス スキン-テア(皮膚裂傷)の予防と管理』照林社,2015.

脆弱な皮膚編
脆弱な皮膚編
特集 会員限定
2023年9月26日
2023年9月26日

脆弱な皮膚(ドライスキン・浸軟・浮腫)のスキンケア 予防&日常の留意点

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として症例写真等を掲載しているため、NsPace会員様(医療関係者)限定で公開しています。 スキントラブルを予防するには、脆弱な皮膚の特徴を理解することと、毎日の皮膚の観察、予防的スキンケアの継続が重要です。今回は、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、高齢者に見られる脆弱な皮膚の症候「ドライスキン」「浸軟」「浮腫」にまつわるスキンケアの基本を解説いただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 脆弱な皮膚:ドライスキン、浸軟、浮腫 皮膚には加齢とともに変化していく老化現象があります。それに加え、低栄養や貧血、疾患による皮膚症状、治療の影響、免疫・代謝機能や自然治癒力の低下により、皮膚の生理機能はさらに低下するのです。高齢者の皮膚はスキントラブルを起こしやすく、一度スキントラブルを生じると悪化しやすく治りにくい特徴があります。疾患を持ちながら在宅で療養する高齢者、特に要介護状態にある方の皮膚はとても脆弱な(脆くて弱い)状態にあります。 高齢者の皮膚 ドライスキン 高齢者の皮膚は、角層の柔軟性が低下して硬く脆くなり、角層の水分量が減少し、健康な皮膚が持つバリア機能が障害された状態。さらに角質細胞間脂質、皮脂、発汗の減少により角質の水分量が減少し、表面が乾燥します。 また、表皮細胞の新陳代謝(ターンオーバー)が低下するため角層が厚くなります。そのため、真皮の水分が角質表面に十分達することができず乾燥するのです。角層の水分含有量は、正常では約20〜30%とされていますが、ドライスキンの状態では10%以下にまで減少します。 ドライスキン ■ドライスキンの症状角層の水分が減少すると、皮膚はカサカサして、細かい鱗屑が付着した乾皮症状態になります。体動による皮膚の伸展により、皮膚表面には亀裂を形成することも。ドライスキンは、特に冬の季節、腰背部や下腿に多くみられ加齢とともに増加します。 皮膚の乾燥が長期間続くと、痒みの神経が表皮内に進入してくるため、わずかな刺激でも痒みに敏感になります。掻破により、皮膚や末梢神経が損傷し、さらに掻破行為を高めるという悪循環に陥るのです。 浸軟 健康な皮膚は、バリア機能が発揮されるため、体内に侵入しようとする細菌や化学物質などは、簡単に入ることはできません。しかし皮膚は、長時間の入浴などによって一定の水分保持能力を超えると、水分が吸収されることにより膨潤し、見た目には白くなります。 浸軟 ■浸軟の症状浸軟は、皮膚が水に浸漬することで角層の水分が増加し、一過性に体積が増え「ふやける」ことで生じる変化です。失禁状態で、常に排泄物が皮膚に付着している、おむつをしていて内部が高温多湿な環境にある、発汗量の多い、といった人は、皮膚が湿潤しやすい状況にあります。皮膚は湿潤の状態が持続すると、皮膚のバリア機能が低下し浸軟を生じます。浸軟した皮膚の摩擦力は5倍になるといわれ、容易にスキントラブルを発症します。さらに皮膚の浸軟は、失禁関連皮膚炎(IAD)や褥瘡発生の要因となるのです。 浮腫 成人の体重の約60%は液体成分です。そのうち約40%は細胞内にあり、約20%は細胞外にあります。細胞外の液体成分を細胞外液と言い、約5%は血管内に、約15%は組織間液として細胞間に貯留しています。この組織間液がさまざまな要因によって増加すると、浮腫を生じます。浮腫のある皮膚は、容易に損傷を受けやすく多くのスキントラブルをはじめ褥瘡の原因にもなるのです。 ■浮腫の症状浮腫のある皮膚や粘膜は、循環障害により栄養や酸素供給、皮膚温度も低下します。また、皮膚は菲薄化して、弾力性の乏しい状態に。さらに、皮脂の分泌低下や水分保持機能が低下をするためドライスキンを生じます。そのため、外部からの刺激に弱くなり損傷を起こしやすいばかりでなく、損傷した皮膚は、組織液が多く治癒が遅延し、さらに免疫力の低下から感染しやすい状態にあります。 浮腫 脆弱な皮膚:予防的スキンケア 脆弱な皮膚は、ドライスキン、浸軟、浮腫を引き金に、失禁関連皮膚炎(IAD)やスキン-テア、褥瘡などを発症するリスクが高くなります。 スキントラブルや創傷へと移行しないように、毎日の予防的スキンケアを継続することが大切です。 洗浄のスキンケア 洗浄の方法は、療養者個々の状態に合わせて入浴・シャワー浴・部分浴・清拭などを行い清潔を保持します。洗浄の際は、同時に全身の皮膚を観察し異常の早期発見に努めましょう。 皮膚の洗浄は、38~40℃の熱すぎない温湯を用い、皮膚のバリア機能の低下や乾燥を防ぎます。 洗浄剤は、刺激性の強い石けんの使用を避け、低刺激な弱酸性洗浄剤を選びましょう。さらに脆弱な皮膚には、セラミド含有皮膚保護成分配合の洗浄剤を選択します。 失禁のある療養者の場合、洗浄剤を用いた頻回な陰部洗浄は、皮脂を過剰に取り除くことになる上、皮膚を擦るという機会的な刺激が加わることで皮膚の表面を損傷し、バリア機能がさらに低下してしまいます。バリア機能が低下した皮膚に排泄物の刺激が加わると、スキントラブルを起こす可能性がさらに高くなります。洗浄剤を使用した洗浄は、1日1回に留めましょう。毎日の洗浄のスキンケアに、ミコナゾール硝酸塩配合石けんを用いると真菌感染症の予防に期待ができます。 保湿のスキンケア 脆弱な皮膚の療養者は、軽微な摩擦やずれで表皮剥離を生じる場合があります。保湿剤を塗布する際は、皮膚の皮溝に沿って、強く擦りすぎないように、皮膚を優しく押さえるように塗り込みましょう。保湿剤は、ベタつきが少なく伸びのよいクリームやローションを使用すると皮膚への刺激を軽減できます。 浮腫のある皮膚の場合、ローションタイプのものが皮膚なじみや伸びが良いため、使用しやすいように思えますが、水分含有量が多いことから水分の蒸発に伴う皮膚の乾燥を招く場合もあります。低刺激のクリームタイプの保湿剤や、乳液タイプのローションがおすすめです。保湿成分入りの入浴剤を併用すると、より保湿効果が期待できます。保湿のスキンケアを行うことで、皮膚は滑らかになり摩擦などの外部からの刺激を受けにくくなるでしょう。 保湿剤は、一度にたくさん塗布せず、少量を両手に薄くのばし、擦らず優しく塗布します。乾燥が強い場合は、重ね塗りをしましょう。 保護のスキンケア 失禁などでおむつを使用している場合、おむつ交換時や陰部洗浄後に、撥水性保護クリームや保護オイルを使用することで、排泄物の水分や刺激から皮膚を守ることができます。洗浄のスキンケアを行った後、水分を優しく押さえ拭きしてから、擦らずに優しく撥水性保護クリームを塗布します。排泄物による汚染が予測される部位には、あらかじめ撥水性保護クリームやオイルなどを用いて、排泄物の付着から皮膚を保護します。 皮膚が脆弱で摩擦による皮膚の損傷の恐れがある場合、スプレータイプの皮膚被膜剤などを使用します。保護のスキンケアのタイミングは、陰部洗浄後やおむつ交換で排泄物を拭き取った時に塗布をすると効果的です。 脆弱な皮膚:日常生活の留意点 スキンケア 洗浄時、皮膚への化学的・物理的刺激を避けるため、入浴時に使用する石けんは、香料の強いものやアルカリ性のものを避けましょう。ナイロンタオルやブラシの使用は、角層を損傷し角質水分や皮脂を喪失しますので使用はなるべく控えましょう。 清拭を行う場合も皮膚の摩擦を最小限に行いましょう。全胸部、背部、腰部、上肢、下肢など、広範囲を温タオルで覆い、皮膚を柔らかくしてから清拭を行うことで、皮膚を強く擦らなくても汚れが落ちます。温タオルは、本人が気持ち良いと感じる温度で、熱傷に留意しながら行いましょう。皮膚の乾燥にドライヤーを使用することは、熱傷やドライスキンの原因になりますので避けましょう。 医療用テープの使用 浮腫のある皮膚への医療用テープの使用は、テープを剥離する時に、表皮剥離を生じる可能性が高くなります。また、粘着剤による化学的刺激もスキントラブルの要因になります。医療用テープの使用はできる限り避け、包帯や筒状包帯、アームカバーなどを用いた固定をおすすめします。 脆弱な皮膚に、医療用テープでの固定が必要な場合は、あらかじめ皮膚被膜材を使用することで、皮膚を刺激から守ることができます。低刺激なテープを選択し、貼付面積を少なく使用する、毎日テープの位置を変えることで、皮膚への負担を軽減します。テープの貼り替え時、剥離には刺激を伴いますので、剥離剤を使用してゆっくり丁寧に行いましょう。皮膚被膜材や剥離剤を使用する際は、使用する部位の皮膚にトラブルがないことを確認した上で用いましょう。また、使用中にスキントラブルを生じた場合は、速やかに使用を中止します。その後、基本的なスキンケアを行い、症状が悪化する場合は、皮膚科医へ相談しましょう 食事 食事は、栄養バランスや消化吸収の良い食生活を心がけ、アルコール・香辛料・味の濃い食品・熱い食品などの刺激物は控えます。こまめな水分摂取にも留意しましょう。 環境の調整 冬の季節は、外気の乾燥や暖房による湿度の低下により、ドライスキンが悪化する可能性があります。室温は、冬の季節20〜22度、夏の季節25〜27度。湿度は、ドライスキンの予防においては50%前後がおおよその目安といえます。暖房器具を使用する場合、設置位置は、身体に直接温風が当たらない場所に配置しましょう。肌着や寝衣の重ね着、寝具の掛けすぎなどにも留意し、室温、湿度にあった寝床環境を調整しましょう。 衣類 着用する肌着は、化学繊維や身体に密着する下着が物理的刺激になる場合もあります。木綿や絹製の物を着用すると皮膚への刺激が少なくなります。汗を吸収する柔らかいものがおすすめです。また、下着の縫い目やタグ類も刺激になりえます。下着を裏返して着用することや、タグ類はあらかじめカットしておくなどの心配りも必要です。 着用する肌着や寝衣のしわやゴムも、皮膚の圧迫や摩擦などの要因になります。体位変換やポジショニングの際は、しわを除去し、衣類の素材は伸縮性のある素材を選択するなどの配慮も必要です。また靴下のゴムは、皮膚を圧迫し損傷を起こす場合があります。ゴムの弱い製品や締め付けの少ない靴下を使用しましょう。 マイクロクライメット(温度と湿度)の管理 ベッド上に防水シーツなどを使用している場合、吸水性のない製品は蒸れや発汗の原因になります。さらに、背部にバスタオルを敷いていると、温度が上昇して皮膚の湿潤の原因になりますので、吸湿性のあるシーツを使用することをおすすめします。 体圧分散寝具を使用している場合、身体はマットレスに沈み込むと熱がこもり、汗をかきやすくなります。特に、自力で寝返りができない、可動性や活動性が低下している方には、マイクロクライメット管理のできる体圧分散マットレスもあります。 皮膚の損傷を予防する 脆弱な皮膚は外力に弱く、容易に皮膚損傷を起こします。外的な刺激から皮膚を守る、という意識を持つことが重要です。療養者本人が、自ら皮膚を損傷しないように、日頃から爪の手入れを行います。ケアを行う人も爪は短く切り、ケア中に皮膚を損傷しないように気を付けましょう。 脆弱な皮膚は、軽微な外力や摩擦、ずれによりスキン-テアを起こしやすい状態にあります。ベッド柵にカバーを掛ける、ベッド周囲にティッシュケースを置かないなど、ベッド周りの環境整備が大切です。皮膚損傷を予防するため、皮膚の露出を最小限にする工夫も必要です。 かかりつけ医・皮膚科専門医との連携 スキントラブルを生じた場合、日常的なスキンケアで改善しない皮膚症状や皮膚病変に関しては、速やかにかかりつけ医や皮膚科専門医に相談できる体制を整えましょう。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。編集: NsPace編集部 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』日本看護協会出版会.2022.

スキンケア編
スキンケア編
特集
2023年9月12日
2023年9月12日

スキンケアで褥瘡予防 洗浄・保湿・保護のポイント

スキンケアは、皮膚の生理機能を正常に保ち、その機能を十分発揮するための看護です。健やかな皮膚を維持するためには「皮膚を清潔に保つこと」「皮膚に潤いを与えること」「皮膚を守ること」を正しく理解し、ケアを継続することが大切。正しいスキンケアの継続は、失禁関連皮膚炎(IAD)、褥瘡などのスキントラブルの予防につながります。 今回は、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、在宅看護に役立つスキンケアのポイントを解説いただきます。日々実践しているスキンケアをもう一度振り返り、正しいスキンケアを継続していくための「洗浄のスキンケア」「保湿のスキンケア」「保護のスキンケア」の基本をご紹介します。「保湿」と「保護」は混同しやすいので、これらの違いについてもしっかり確認しましょう。 洗浄 ~やさしい気持ちで洗いましょう~ 皮膚に付着する「よごれ」 皮膚に付着する主な汚れは、垢、汗、排泄物などです。皮膚に塗布した外用剤や保湿剤などが時間の経過とともに変化したものや、それらに付着した埃、ちり、微生物なども汚れの原因になります。垢には、古くなった皮脂や雑菌などが付着しています。皮脂や汗は、時間の経過とともにベタつきや臭いの原因に。さらに、長時間皮膚に付着した排泄物は、刺激性物質として皮膚に影響を及ぼし、失禁関連皮膚炎(IAD)などの要因になります。皮膚に付着した汚れは、適宜洗浄により除去することが皮膚を健やかに保つことにつながるでしょう。また、洗浄による爽快感は、気分転換やストレスの緩和にもつながります。 洗浄のスキンケア 汚れの成分は、皮脂と混合した油性の汚れが多いため、洗い流そうとしても水が弾き返されてしまい、水だけでは汚れを落としきれない場合もあります。そのため、洗浄剤を使用します。洗浄のスキンケアを行う際は、皮膚局所や全身状態、汚れが付着する原因や特徴、生活環境をアセスメントした上で、汚れの程度や部位、皮膚の状態に見合った洗浄剤を選択することが大切です。 洗浄剤は「皮膚の状態と汚れの程度」によって使い分ける 健康な皮膚表面のpHは4~6の弱酸性です。健康な皮膚は、洗浄時石けん(pH9〜11)の使用によって皮膚pHが一時的にアルカリ性に傾きますが、2〜3時間で回復します。これを皮膚の緩衝作用といいます。ただし、高齢者の皮膚は、皮脂量の減少などによる生理的特徴からアルカリ性に傾いているため、洗浄後の皮膚が弱酸性に戻りにくくなります。またアトピー性皮膚炎、ドライスキン、化学療法や放射線療法によって生じる皮膚症状など、脆弱な皮膚をもつ療養者においても同じことがいえるでしょう。 私は日頃、高齢者や脆弱な皮膚の療養者には、弱酸性洗浄剤の使用をおすすめしています。皮膚バリア機能の保持を考慮すると、弱酸性洗浄剤の使用は、皮膚への刺激が少なく皮膚に優しいという理由からです。一方、汚れの落ち方という点では、アルカリ性洗浄剤が洗浄力効果を発揮します。 洗浄剤には、含まれる添加物や界面活性剤などによってスキントラブルが起こる場合もあります。全身の皮膚をよく観察し、汚れの程度や皮膚の状態によって、洗浄剤を適宜使い分けることも必要です。 洗浄のスキンケアの実践 洗浄の際は、全身の皮膚を観察して異常の早期発見に努めましょう。皮膚同士が密着している部位などは、汚れが貯留しやすくなりますので留意して洗浄します。 (1)温湯の調整皮膚の洗浄に使用する微温湯は、38~40℃の熱すぎない温湯を用い、皮膚のバリア機能の低下や乾燥を防ぎます。 (2)洗浄時のポイント■泡で洗浄するきめが細かく密度のあるふわふわした弾力のある泡で洗浄すると、泡がクッションの役割を発揮して皮膚への刺激が低下します。泡の量が少ない場合、皮膚への刺激が強くなります。特に、脆弱な皮膚は、軽微な摩擦や刺激でも皮膚の損傷やスキントラブルを生じます。皮膚を強く擦らず、たっぷりの泡を転がすように優しく洗浄しましょう。 汚れが固着している場合は、あらかじめ温かいタオルなどを当てておき、汚れを軟化させてから洗浄剤を用いて洗浄すると除去しやすくなるでしょう。 入浴時、ナイロンタオルやブラシなどを用いた洗浄は、角層を損傷し角質水分や皮脂を喪失しますので、手や柔らかいタオルの使用をおすすめします。 ■洗浄剤を皮膚に残さないように洗い流す 洗浄剤成分が皮膚に残るとスキントラブルの原因になりますので、十分な微温湯で洗い流します。微温湯で洗い流すことが難しい場合は、洗い流しが不要で拭き取るタイプの洗浄剤(泡状やクリーム状皮膚洗浄剤、液状洗浄剤)などもあります。 ■皮膚の水分を拭き取る洗浄後は、清潔なタオルで優しく押さえ水分を取り除きます。この際も、皮膚へ機械的な刺激を与えないように、強く擦ることを避け丁寧に押さえ拭きをします。皮膚の乾燥にドライヤーを使用することは、熱傷やドライスキンの原因になりますので避けましょう。 皮膚の状態を評価する 特に汚れや汗が留まりやすい部分は、耳介、耳介後部、頚部、腋窩部、乳房下部、臍部、陰部、足趾間などの脂漏部・間擦部・発汗部です。洗浄や水分の拭き取りの不十分さがあると、皮膚の湿潤、さらには浸軟を生じる可能性が高くなりますので、汚れを溜めない洗浄と細やかな皮膚の観察が大切です。 保湿 ~心をこめて塗布しましょう~ スキンケアにおいて保湿とは、角層が水分を保持する働きを助け、低湿度な環境においても角層の水分量の低下を防ぐこと、といえます。 先に述べた洗浄剤を用いた洗浄のスキンケアは、汚れのみに限らず、皮膚の保湿に必要な成分も洗い流してしまいます。保湿のスキンケアを行うことにより、角層の水分保持、乾燥の予防、さらには皮膚の柔軟性や弾力性を維持することができます。 保湿のスキンケアは、冬の季節や、加齢や生活環境の影響、疾患や治療などによる皮膚の乾燥を感じる場合のみに行うのではなく、すべての年齢層の人々が、年間を通して継続することが大切です。それにより、皮膚は健やかな状態を維持できるようになります。さらにケアの継続は、かゆみの緩和やスキントラブルの予防につながります。保湿剤は、療養者個々の皮膚の状態をアセスメントした上で安全性の高い製品を選び、適切なタイミング、方法、回数、使用量で塗布することが大切です。 保湿のスキンケアの実践 (1)塗布のタイミング保湿剤を塗布するタイミングは、可能であれば入浴後15分以内が有効であるといわれています。しかし在宅では、マンパワーの不足などにより教科書通りのタイミングで保湿剤を塗布することは難しい状況もあります。大切なことは、入浴や清拭後、時間が経っても忘れずに保湿のスキンケアを行うことです。 (2)塗布の方法保湿剤を手掌にとり、手掌全体を使って皮膚に塗布すると、広範囲に均一に伸ばすことができます。皮膚の皮溝に沿って横の方向に、強く擦りすぎないように塗布します。特に高齢者や脆弱な皮膚の療養者は、軽微な摩擦やずれで表皮剥離を生じる場合があります。保湿剤の水分を封じ込めるように皮膚をやさしく押さえ、塗り込むように塗布します。皮膚の乾燥や掻痒感が出現しやすい下腿部、大腿部、側腹部、腰部などは保湿剤を丁寧に塗り込みましょう。 保湿剤のタイプ保湿剤にはさまざまな種類があります。タイプにより、べたつきや伸びの良さなどの使用感が異なります。べたつきの多い順に、軟膏>クリーム>ローションとなります。保湿剤は、ベタつきが少なく伸びのよいクリームやローションを使用すると皮膚への刺激を軽減できます。本人の好みやケアを行う家族などが使いやすいものに考慮し、皮膚の状態や季節に応じて使い分けることが大切です。 (3)塗布の回数塗布する回数が1日2回以上だと保湿効果が高くなるといわれています。特にスキン-テアの既往がある療養者は、1日2回の保湿のスキンケアを習慣化し、継続できるようにしましょう。 ただし、在宅では高齢な介護者が一人で保湿のスキンケアを行う場合もあります。高齢な介護者にとって、入浴直後や清拭後に療養者の全身に保湿剤を塗布することは大変な労力を要し、介護への疲労感や負担感を招く可能性があります。そのような場合は、温湯に浸ることで全身の皮膚表面に潤いを与え、皮膚の乾燥を防ぐことができる、保湿効果のある入浴剤を取り入れた保湿のスキンケアもおすすめです。また、在宅の予防的な保湿のスキンケアでは、たとえ1日1回であっても毎日継続して行うことが大切です。重要なことは、間隔が空いたとしても保湿を忘れず、「その家で継続できる保湿のスキンケアを習慣化する」ことです。 (4)適切な使用量保湿剤の塗布量は、皮膚がしっとり潤いつやつや光る程度が適量です。塗布後、皮膚にティッシュペーパーを当てると、ゆっくりはがれ落ちる程度が目安となります。ティッシュパーパーが保湿剤で湿り張り付いて落ちてこない場合は、塗布量が多すぎるといえるでしょう。一方、ローションやゲルタイプの保湿剤は、伸びがよいので塗布量が減少する可能性がある上、少量の使用であってもティッシュパーパーが張り付きやすくなります。皮膚の潤いやなめらかさを確認しながら、2度塗りなどで適量を塗布しましょう。 保護 ~丁寧に保護しましょう~ スキンケアにおいて保護とは、何かを皮膚に塗布(被覆)して皮膚を健やかに保つこと、といえます。皮膚は、身体の最外層でバリア機能を発揮することにより、外部の刺激から身体を守っているため、常に外部からの化学的・機械的・物理的刺激にさらされている状態です。保護のスキンケアは、皮膚の水分喪失を防ぎ、皮膚の潤いを保持し、さまざまな外部の刺激から皮膚を守る効果があります。健康な皮膚を維持するためには、毎日の保湿のスキンケアと併用して保護のスキンケアを行うことで、スキントラブルを予防することができます。 保護のスキンケアの実践 保護のスキンケアの目的は、(1)日常的に皮膚を守る、(2)排泄物から皮膚を守る、(3)外力から皮膚を守る、ことです。目的によって使用する用品やケア方法が異なります。用いるスキンケア用品には、皮膚に被膜を形成する「皮膚被膜剤」、皮膚保護クリームや撥水クリームといわれる「撥水性保護クリーム」や「保護オイル」などがあります。これらの用品を使用することで、皮膚を保護する効果を高めます。 皮膚被膜材は、使用する部位の皮膚にトラブルがないことを確認した上で用いましょう。また、使用中にスキントラブルを生じた場合は、速やかに使用を中止します。その後、基本的なスキンケアを実践し症状を観察します。症状が改善しない、もしくは悪化する場合は皮膚科専門医へ相談しましょう。 (1)日常的に皮膚を守る  日常的な保護のスキンケアの実践は、皮膚の乾燥、掻痒、浸軟の予防、さらにスキン-テア、褥瘡などの発生リスクを低減することにつながります。毎日の洗浄・保湿のスキンケアに加え、撥水性保護クリームを用いたケアを継続しましょう。 (2)排泄物から皮膚を守る  失禁などでおむつを使用している場合、おむつに覆われた皮膚は浸軟や失禁関連皮膚炎(IAD)などのスキントラブルを生じる可能性が高くなります。また、スキントラブルから褥瘡発生につながることもあります。毎日のスキンケア方法、排泄物の性状や量、おむつ交換の頻度、使用しているおむつの通気性などをアセスメントした上で、褥瘡発生部位である仙骨部、尾骨部、坐骨結節部などはもちろん、おむつに覆われている皮膚全体を含めた予防的スキンケアが大切です。おむつ交換時や陰部洗浄後に、撥水性保護クリームや保護オイルを使用することで、排泄物の水分や刺激から皮膚を守ることができます。 (3)外力から皮膚を守る 在宅療養者は、日常生活の中でさまざまな姿勢や体位をとり、移動や姿勢保持の際には、皮膚に圧迫や摩擦、ずれという外力が加わります。特に、基礎疾患や老化によって活動性・可動性の低下や低栄養のある療養者は、筋力が低下し、骨が突出した部位に外力が加わることで褥瘡を発症する可能性が高くなります。骨突出部にはあらかじめ皮膚保護材などを使用して、外力から皮膚を保護することが必要です。 また、医療用テープを使用している場合、脆弱な皮膚ではテープの剥離時などにスキントラブルを生じることがあります。医療用テープを貼付する皮膚に、あらかじめ皮膚皮膜材を使用したり、剥離剤を使用してテープを剥がしたりすることにより、皮膚への刺激を低減することができます。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。編集:NsPace編集部 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』日本看護協会出版会.2022.

ご遺体への最新詰め物事情
ご遺体への最新詰め物事情
特集 会員限定
2023年7月18日
2023年7月18日

納棺師解説/ご遺体への最新詰め物事情【セミナーレポート後編】

2023年4月14日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」。納棺師の大垣麻里さんを講師に迎え、在宅でのエンゼルケアについて、知っておきたい基礎知識やCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行を受けての変化を教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、COVID-19流行以降のエンゼルケア・葬儀の情勢や、ご遺体への詰め物の対応についてご紹介します。 >>前編はこちら納棺師解説/死後24時間以降のご遺体変化と対処法【セミナーレポート前編】 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 COVID-19がお別れに与えた影響 COVID-19が発生してから3年以上が経ちましたが、その間、エンゼルケアや葬儀のあり方は大きく変わってきました。 まず発生当時、亡くなった方は直火葬となり、ご家族は収骨もできない状況でした。しかし2022年頃からは、ご遺体を透明の納体袋に入れて棺の蓋をしたままであれば、フィルム越しではあるものの、対面してのお別れが可能に。とはいっても、故人に直接触れることはできませんでした。 そして、2023年1月6日。厚生労働省から「ご遺体を清拭し、鼻や肛門に詰め物をし、紙オムツを使用していれば、納体袋には入れずにこれまでどおりの形式で葬儀をしてもよい」という事務通達が出たのです。現在では、まったく従来のとおりに、故人の顔や体に触れながらのお別れができています。葬儀の形式についても、何の制限もなく行われています。 詰め物をするメリットとデメリット エンゼルケアにあたり、対応を悩まれる方が多いのが詰め物でしょう。詰め物をするメリットとしては、やはり体液漏れが起こるリスクを低減できることです。しかし、亡くなったという事実を受け止めがたく感じているご家族の方からは「詰め物をされると、息ができないように見えて痛々しい」という声がよく聞かれます。 これをふまえて、私は見た目が悪くならないように詰め物をするのがベストではないかと考えています。 部位別の詰め物対応のポイント 詰め物をする際に気をつけたいポイントついて、部位別に詳しくご紹介していきます。 耳、鼻、口 まず、耳には基本的に詰め物を入れなくても構いません。交通事故に遭われ頭蓋骨骨折があり、出血が予想されるといったケースでは耳にも詰め物をしていますが、亡くなられたときに耳から出血や体液漏れなどが起きていなければ不要です。 続いて鼻は、小鼻ではなく、上の図に矢印で示したように鼻の奥へしっかりと詰め物をしてください。 同じく口も、図の矢印が示す部分、咽頭奥深くに舌を巻き込まないよう注意しながら詰め物を入れます。口腔内ではなく、その奥に詰めることで、気管や食道からの体液漏れをしっかりと防ぐことができます。 尿 尿漏れへの対処法は男性と女性とで異なります。 まず女性の場合は、男性よりも尿道が短いので、膀胱に溜まっている尿が出てくる可能性があります。そのため、できるだけ尿パッドをつけるといいでしょう。在宅の利用者さんは、多くの場合尿パッドや紙オムツをつけられていると思いますので、その対応で十分です。 また、膣への詰め物については、子宮疾患があって出血が見られるといった特別な事情がなければ不要です。 一方男性の場合は尿道が長いので、ご遺体を動かすたびに尿が漏れることは女性と比較すると少ないですが、念のため紙オムツを装着したり、男性用の尿パッドを巻いたりされると安心かと思います。 なお、尿道カテーテルをされていた方は、カテーテル抜去によって尿道から出血することがあるので、尿パッドをきちんと巻いてください。 便 便については、性状よって対応が異なります。硬い便の場合は、直腸に溜まっているものを可能な範囲で摘便したら、その後さらに出てくることはありません。ただし、タール便や液状便が出ている方の場合は、対処が必要です。とはいっても綿を肛門に詰める必要はなく、周囲をきれいにしてから綿で肛門を塞ぐようにして、その上から紙オムツを当てれば大丈夫です。紙オムツと肛門の間に隙間がなければ、ダラダラと漏れ出てくることはありません。 詰め物の必要性をどう判断するか 前提として、葬儀において「●●しないといけない」という決まりは2つだけしかありません。ひとつは、亡くなった後24時間は火葬できないこと。もうひとつは、棺に収めること。それだけなんです。着物を左前に着せなければならない、帯を縦結びにしなければならないといったことは、決まりではなく風習です。詰め物についても、原則としてご家族のご意向を受け止めて対応されるとよいと思います。仮に、「体液が流出したとしても詰め物をしたくない」といったご意向があれば、それに沿って対応します。 ただし、とくに在宅でお看取りをされたケースでは、COVID-19の影響も考慮されてか、ご家族は詰め物をしないことに不安を感じられることが多い印象です。また、多くのご家族は、ただでさえ急なことにショックを受け、今後のこともなかなか想像できていらっしゃらない状況です。その状況下で、体液が流出するリスクをふまえて詰め物をすべきかどうかのご判断をすることは、かなり難しいでしょう。 こうしたご家族の状況や心情をふまえると、先ほども少し触れたとおり、亡くなられた方のお顔の印象を損なわないよう、ご家族の目に触れない奥の部分に詰め物をしていくのが、私はよいと思っています。見栄えに十分に配慮して詰め物をすることが、ご家族のお気持ちに寄り添いつつ、お見送りまでの時間をトラブルなく安心して過ごしていただける方法ではないでしょうか。 可能な限り、最後の身支度はご家族と一緒に これはエンゼルケア全般に通じる話ですが、故人の身支度は、できるだけご家族と一緒に行っていただきたいです。在宅看護を選択されてきたご家族の多くは、「家族を自宅で送りたい」という想いが強いので、身支度に参加できるよう調整すると喜ばれるかと思います。 正直なところ、ご家族と一緒に支度をするとスムーズにいかないこともあるかと思います。しかし、それよりもご家族の方が「私たちも最後の身支度をしてあげた」と思えることのほうが大事ではないかと私は考えています。その経験はきっと、ご家族のその後の支えになっていくのではないでしょうか。 * * * ご家族ができるだけ心を痛めずに故人とお別れできるようにするには、ご遺体をきれいに保つための対処が必要不可欠です。そして、その対処の多くは可能な限り早く行うことが求められます。 訪問看護師のみなさんには、今回ご紹介した在宅でのエンゼルケアの方法をぜひ現場で実践していただき、「ご家族が前を向けるお別れ」の実現をサポートしてもらえたらと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情
【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情
特集 会員限定
2023年7月11日
2023年7月11日

納棺師解説/死後24時間以降のご遺体変化と対処法【セミナーレポート前編】

2023年4月14日に開催したNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」。納棺師の大垣麻里さんを講師に迎え、在宅でのエンゼルケアについて、知っておきたい基礎知識やCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行を受けての変化を教えていただきました。 そのセミナーの内容を、前後編に分けてご紹介。前編では、死後のご遺体に起こるさまざまな変化と、その対処法についてまとめます。 ※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 死後24時間以内に起こる変化「死斑」 死斑(亡くなった方の皮膚に見られる赤紫や青紫色の斑点)は、故人が息を引き取ってから徐々に発生し、死後15時間程度で最高潮となります。発生を避けることはできませんが、きちんと対策すれば、顔に死斑が出ないようにすることはできます。 ご遺体が仰向けに寝ている場合、耳や首、背面部に死斑が出現し、顔は蒼白化していきます。これは体液や血液が重力に従って下がっていくためで、自然な死斑の現れ方です。逆に、亡くなられたときにうつ伏せの状態だった場合は、顔をはじめ体の前面に死斑が出現します。 しかし、中には仰向けになっているにも関わらず、顔が腫れてきたり、どんどん紫色に変化したりするケースがあります。これは大変よくない状況で、体内の血液が顔に流れてしまっています。ご家族の目に触れる顔をきれいな状態に保つためには、すぐに対策しなければなりません。 顔に死斑が出ないようにする方法 仰向けに寝ていても顔に向かって血液が流れてしまう場合は、できるだけ早く上体を起こすようにします。枕を少し高くしたり、座布団を挟んだりしても構いません。 このような現象が発生する方は、体格がよくて胸板が厚く、横から見たときに心臓の位置が顔より高いことがほとんどです。顔が心臓よりも下にならないようにすれば、顔への血液の流れを防ぐことができます。 また、横向きに寝ているのが安楽だった利用者さんが亡くなった場合、「故人が安楽に感じる姿勢のままにしてあげたい」と、ご遺体を横向きのままにすることを望むご家族は少なくありません。お気持ちはとてもよくわかりますが、少なくとも顔だけは、亡くなった後すぐに上に向けるようにしてください。 もしそのままにしておくと顔の片側にだけ死斑が出てしまい、それをカバーするために通常よりも濃いお化粧をしないといけなくなります。普段お化粧をしていなかった利用者さんもその方らしいお支度で送れるよう、顔に死斑が出ないように予防することがとても大事です。 死後24時間以内に起こる変化「死後硬直」 みなさんご存知のとおり、人は亡くなると体がこわばって自由に動かなくなりますが(死後硬直)、この硬直は自然に解けていきます。死後15〜20時間でだんだん硬直が強くなり、夏なら約2日、冬なら約3日で、どなたでも必ず緩解していきます。 とはいっても、例えば「着替えをさせたいので、自然に緩解する前に硬直を解きたい」といったこともあるでしょう。そのときは、腕を自然に曲げ伸ばしするだけで、柔らかく動くようになります。骨が折れるほどの力をかけたり、関節を特殊なやり方で動かしたりといった必要はありません。下肢の場合も同様で、筋肉をマッサージして伸ばすだけで硬直は解けます。 なお、死後15〜20時間以内に筋肉を動かして硬直を解いた場合、再度体がこわばることもありますが、その際はもう一度曲げ伸ばしすれば問題ありません。 ここでのポイントは、「死後硬直はいつでも解ける」ということです。これを知っていると、「亡くなったら着せてあげたい服があるので、急いで取りにいきます」とご家族がおっしゃる場合でも、「着替えはいつでもできるので、焦らずゆっくり用意していただいて大丈夫ですよ」とお声がけできます。 拘縮が見られる方への対応 ただし、生前に拘縮が見られる方は、亡くなっても固まった関節が緩解することはありません。死後に無理やり体を伸ばそうとすると、骨折や筋の損傷を起こす原因になるので、十分に気をつけてください。 死後24時間以内に起こる変化「乾燥」 死後は、皮膚の乾燥がどんどん進み、茶色くくすんだり硬くなったりします。顔の乾燥を防ぐために、できるだけ早く保湿をしてください。ご家庭にあるような一般的な保湿クリーム、もしくはハンドクリームやスキンケア用オイルなどを使ってもよいです。 ご遺体の顔に白いハンカチがかかっている様子をご覧になったことがあると思いますが、あれには乾燥を防ぐ意味合いもあります。 死後24時間以内に起こる変化「腐敗」 「腐敗」とは、体内のたんぱく質が細菌に分解されて、水・気体・臭気が発生している状態をいいます。空気中の細菌がご遺体に作用して起こるのではなく、亡くなった方ご自身の体内にいる菌によって起こるため、これを防ぐためにできることは、温度コントロールしかありません。ご遺体の温度を下げて菌が繁殖しにくい状態を保ち、腐敗をできるだけ進行させないようにします。 具体的には、まずは大腸菌や腸球菌の温床となっている腹部を、次いで血液が溜まっている胸部を冷やしてください。このように内臓を冷やすことが、腐敗を進行させないために重要です。 腐敗が進行すると、体内でガスが発生して体腔内圧が高まり、口や鼻から体液や血液が漏れ出てきます。 在宅で意識したい腐敗対策 在宅では、気温が低い冬でもご遺体の腐敗が進んでしまうケースがよくあります。その原因となるのが、ホットカーペットや電気敷布・毛布、ご遺体に向いたエアコンやストーブです。エンゼルケアを行う際は、まずご家族と一緒にこれらの状態を確認し、腐敗が進行しないようにうまく声をかけながら調整してください。 カテーテル抜去部や点滴痕からの出血に注意 死後に注意すべき点として、カテーテル抜去部や点滴痕からの出血や体液の漏れも挙げられます。こうした医療処置による創傷があると、体内で発生したガスに押された血液や体液が、そこから漏れ出す可能性が高いです。しかも、ガーゼやドレッシング材でカバーしても、ちょっとしたシワから体液や血液が滲み出してしまうケースがほとんどです。 正しい圧迫固定の方法 これを防ぐには、正しい方法で創部を圧迫固定する必要があります。 上の図のように、小さく固めた綿花やガーゼなどでカテーテル抜去部や点滴痕をしっかりと圧迫します。また、テープで腕一周を巻くように留めて、さらに圧迫を強めましょう。こうすることでテープが剥がれにくくなります。大きく平たく創部を覆うのではなく、局所的に圧迫してください。 鼠径部も同じ方法で圧迫固定します。搬送の際にテープが剥がれるケースが多いので、伸縮性のあるテープを使用し、腸骨から内股にかけてぐるっと一周巻いて圧迫をします。 >>後編はこちら納棺師解説/ご遺体への最新詰め物事情【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

ご遺体変化&詰め物事情セミナー
ご遺体変化&詰め物事情セミナー
特集 会員限定
2023年6月27日
2023年6月27日

特別先行公開! 死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情 セミナーQ&A

2023年4月14日(金)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」を開催いたしました。納棺師で株式会社沙羅代表の大垣 麻里氏を講師に迎え、エンゼルケアの後にご遺体に何が起こっているのか、詰め物の処置をどうすべきかなどについて解説いただきました。 本記事では、セミナー時に受講者の皆さまからいただいたご質問への回答を、セミナーレポートに先んじて公開いたします。当日、時間の都合により回答し切れなかった質問にも回答いただきました。セミナーにご参加いただいた方も参加できなかった方も、ぜひご覧ください。 【講師/質問回答】大垣 麻里さん湯灌師・納棺師・介護福祉士/株式会社沙羅代表介護の仕事に従事する中で、多くの高齢者が自らの死への不安を抱いていることに気がつき、その旅立ちを支援する湯灌師、納棺師に転身する。その後、湯灌・納棺・メイクサービスを提供する株式会社沙羅を設立。これまで20年以上にわたり、亡くなった方やそのご家族と向き合い、「温かいお別れの場」を提供してきた。 ■お役立ちツールも公開!お役立ちツール『「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧』では、より多数のご質問への回答を読むことができます。ぜひご活用ください。>>「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧 死後の対応・医療的処置について <Q1>検死になる条件について教えてください。例えば、訪問診療を導入しておらず、延命処置を希望しない方が孤独死した場合、救急車を呼ぶしかないのでしょうか。 医療にかかっていない状態で死亡された場合には、その原因をはっきりさせるために検死が行われます。孤独死の方のご遺体を発見された場合や、救急車を呼んだけれど到着した時点ですでに亡くなっていた場合も検死となってしまいます。ですので、ご質問にある訪問診療を導入していない孤独死の方の場合、検死になりますし、救急車を呼ぶのではなく警察に連絡することになります。 セミナー内でお伝えした通り、検死になるとご遺体が着衣なしで袋に入れられた状態での帰宅となり、ご家族が大変ショックを受けるケースが多いものです。「万が一の際にはかかりつけ医や訪問看護ステーションに連絡を」ということを、ご家族にお伝えいただいたほうがよいかと思います。 救急車到着時点でお亡くなりになっていない場合には検死にはなりませんが、救急車内で心臓マッサージや酸素吸入、点滴などがなされるかと思います。よくお伺いする事例として、心臓マッサージをして肋骨がすべて折れてしまい、ご家族が亡くなった後にそのことを知り、「救急車を呼んだせいで、痛い思いをさせてしまった」と落ち込まれることがあります。こうした、予想外の最期になってしまわないようにするためにも、ご家族に事前のご説明をしていただくのがよろしいのではないかと思います。 <Q2>最近は火葬場が混み合い、1週間程度後に火葬されることも多々あると思います。その状況を踏まえて気をつけるべきことがあれば、教えてください。 確かにCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の流行時は、1週間~10日と長くお待ちいただくことが大変多くありました。やはり、一番のポイントは乾燥対策と保冷です。 訪問看護師さんには、保湿剤をしっかりお顔やその周辺に塗っていただけると助かります。保冷については、訪問看護師さんがドライアイスを使用することは難しいかと思いますので、できるだけ室内の温度を低くしていただき、まずは腹部を、次いで胸部を保冷剤で冷却いただければと思います。その後、我々葬儀社が臓器の上や顔の横をしっかりとドライアイスで保冷していきます。 腐敗・冷却について <Q3>葬儀社が到着する前に冷却しなくてよいのでしょうか。室内の温度設定については、どれくらいがいいでしょうか。 ご遺体のことだけを考えればできるだけ早い冷却がよいでしょう。しかし、ご家族の立場に立ったとき、亡くなったばかりで、まだその状況を受け入れられていないときに、ご遺体に冷却材をのせられるというのは、非常につらいことだと思いますので、タイミングへの配慮が必要だと思っております。 例えば、高熱を出してお亡くなりになった方に、熱冷ましのイメージで「熱がおありだったので、少し置かせていただきますね」と保冷剤を置く…といった対応はできるかと思いますが、状況によって限界があるかと思います。 葬儀社が到着し、ドライアイスで強く冷却するのは、死後10時間~15時間程度経過後が一般的(※)かと思います。そのタイミングでも、もちろんご家族がおつらいのですが、比較的受け止めていただきやすいものです。無理はせず、強い冷却は葬儀社にお任せいただくのがよろしいかと思います。 室温は、腐敗防止の観点では一番低い設定温度でお願いできればベストですが、そばで見守るご家族にも配慮する必要があるでしょう。「できるだけ低い」温度設定でお願いできればと思います。 ※亡くなられた後、ご家族がどれくらいで葬儀社に連絡されるかによります。ただし、葬儀社を選択され、翌日に連絡したり、何社か見積もりをとって検討されたりする方もいらっしゃるため、ある程度の時間経過はあるものとお考えください。 <Q4>すい臓がんの方で、死亡確認翌日に全身が腫れあがり、たらこ唇になってしまったことがあります。生前のお顔と変わってしまったため、ご家族からご相談を受けました。お亡くなり直前に高熱が出ていたため、エンゼルケア後に腹部に保冷剤を載せ、暖房も切っていましたが詰め物はしていませんでした。どう対応すればよかったのでしょうか。 典型的な腐敗現象です。お亡くなりになる前からお身体の状態が悪く、腐敗が進行しやすい条件がそろっていたのではないかと思います。詰め物との関連性はなく、保冷が足りなかったことが主原因です。状態の悪い方については、ドライアイスを使用しての急速な保冷を行うことが大切だと思います。葬儀社に引継ぐ際、「状態が悪いので至急ドライアイスをしっかりあててください」とご伝言くださると助かります。 <Q5>エンバーミングについて教えてください。どのような内容で、どんなご遺体に実施されるのでしょうか。 簡単に説明いたしますと、血管を通じて血液を排出し、代わりに赤く着色した防腐液(ホルマリン、フェノール等)を注入し、体に行き渡らせることで、腐敗進行を遅らせるような処置を施していきます。それにより、ご遺体を長期間維持できるようにするご遺体保全処置がエンバーミングです。 事情があって火葬までの期間が長いケースや、ご遺体の損傷修復のためにも行われますが、実際には「感染予防になるから」「きれいになるから」といったご要望に基づく実施が多いです。 体液漏れについて <Q6>生前(数日前)に点滴の抜針をして、止血を確認しました。エンゼルケア時に抜針したわけではないですが、死亡後にその抜針した部位から血液や浸出液が出てくることはありますか? 2~3日前の皮下点滴の痕であっても、圧迫固定は必要になりますか? はい、生前止血を確認しても、針穴から体液が漏れることはあります。 皮下点滴の痕についても、実際に漏れるかどうかはケースバイケースですが、その後のご遺体の安置環境が不確定なため、圧迫固定の処置をされていたほうが安心だと思います。 詰め物について <Q7>訪問看護の現場では詰め物をしないように指導を受けていますが、詰め物をしたほうがよいのでしょうか。また、葬儀社では詰め物をしてもらえないのでしょうか。 確かに、詰め物をしていないケースは多いかと思います。在宅看護の方だけではなく、病棟・検死の方も含むデータですが、弊社(株式会社沙羅)の調査でも、60%近い方が「詰め物をしていない」という結果でした。 しかし、新型コロナウイルスの感染、もしくは感染疑いのある方に対し、詰め物・紙おむつ等をして体液の漏出予防を行った場合、納体袋不要という厚生労働省のガイドラインも出ました(2023年1月)。それに基づき、ご家族から詰め物のご要望があることもございます。また、必ずご遺体から体液が出るということはございませんが、詰め物をしていれば体液漏れのリスクが少なくなります。新型コロナウイルス感染有無に限らず、少しでも体液流出の可能性を少なくしたほうがよいのではないかとも考えます。「詰め物をしないといけない」とまでは思いませんが、「できるだけ詰め物をしたほうがよいのではないか」というのが現状の私の見解です。 葬儀社が詰め物をするかどうかについては、会社により対応がまちまちな現状があります。きちんと行うケースもあれば、まったく何も行わないケースもあり、一概に「葬儀社がちゃんと詰め物をしてくれます」と言えないのが心苦しいところです。 「どんな葬儀社に頼んでも、〇〇は行ってもらえる」ときちんと言えるような信頼できる業界になるべく、私も働きかけていきたいと思っております。 <Q8>訪問看護ステーションで用意しておくべき詰め物や、詰める際の道具についてアドバイスをお願いします。詰める際に割り箸をつかうことが多いのですが、ご家族がみていらっしゃることを思うと、心苦しいです。また、肛門に詰め物をせずに面で抑える際には、具体的にどのような処置をするとよいのでしょうか。 詰め物は、綿花が扱いやすいかと思います。詰める際には、可能ならエンゼルケア専用の鑷子(せっし/ピンセット)をご用意いただけたらベストです。 肛門については、肛門を覆うようにガーゼ・綿花・尿パット等でふさぎ、紙おむつと空間ができないようにしておくイメージです。 エンゼルケア・保湿について <Q9>ご遺体の手は組んだほうがよいのでしょうか。 死の習俗として手を組むイメージを持たれている方が多いのですが、そうしなければいけないという根拠はありません。ご家族のご要望があった場合に組む、という対応でよいかと思います。葬儀社では、搬送の際にストレッチャーに手が挟まってけがをさせないようにするために手を組んだり、合掌バンドを装着したりしている現状があります。 なお、例えば拘縮があるような場合は、手を組むことが難しいかと思います。ご家族に対して「無理に組まなくても問題はない」というお声がけをすると、安心いただけるかと思います。中には、「組まなければ成仏できない」と考え、不安に思われるご家族もいらっしゃいます。 ここで拘縮がある方のお身体を無理に伸ばしてしまうと、骨折してしまうこともあります。葬儀社は、制限はあるものの、ある程度高さ・幅に余裕のある棺をご用意するかと思いますので、ご安心ください。 <Q10>目の閉じ方を教えてください。目が閉じずに、眼球が乾燥している場合はどうしたらよいですか? 文章での説明がなかなか難しいのですが、目が薄く開いている程度でしたら、綿を眼球の上に乗せて閉じています。イメージとしてはコンタクトレンズのように薄く綿花をのせていただき、下まぶたを上げて上まぶたを下げます。 綿で閉じることが難しい場合は、エンゼルケア用の整容ゲルを用います。整容ゲルにはアルコールが含まれているのですが、アルコールを注入することで、体液と混ざって膨らみ、目が閉じやすくなります。 <Q11>保湿について、使用する保湿剤や頻度、ポイントなどを教えてください。メイク後の保湿方法や、白色ワセリンを使用してよいかについても教えてください。 保湿剤は、お手持ちの保湿剤でよろしいかと思います。頻度は、あくまで目安ですが一日一回程度です。お顔だけでなく、唇、耳、首などの周辺も忘れないようにしてください。 メイク後の保湿のやり方ですが、オイル系でもクリーム系でも、メイクスポンジに保湿剤を含ませてそっとおさえるように足していきます。白色ワセリンでも問題はありませんが、保湿効果が高い一方で、少しべっとり感があり、テカリが強く出ます。気を付けないと仕上がりに違和感が生じることがありますので、塗りすぎないようにお気を付けください。 <Q12>特別な化粧品を使ったほうがよいのでしょうか。ご本人が使用したものを使っていますが、問題ありませんか? また、自然に見せるためにはどうすればいいかについても教えてください。 我々はご遺体専用の化粧品を使用していますが、皆さんはご本人使用のお化粧品があればそちらでよいかと思います。ただし、ご遺体は体温が低いので、温度で発色するタイプの化粧品は使用することができません。また、クレンジング後、ベースメイクの前に保湿するようにしてください。保湿剤を充分にお持ちでない場合、足して差し上げてください。ベビーオイル・ハンドクリーム・ワセリンなどでも問題ありません(ワセリンは塗りすぎ注意)。 自然に見せる方法については、亡くなられた方によって好みが違うため、どのような見せ方が「その方にとっての自然」と感じるメイクなのか、非常に難しいところです。ただ、どのようなメーカーの化粧品でも、「保湿効果が高いものを選ぶこと」「色の濃淡の種類を多く用意すること」がポイントだと思います。 湯灌(ゆかん)について <Q13>湯灌の定義や、葬儀社が行う湯灌の内容について教えてください。また、訪問看護で清拭を行った場合も、湯灌は行うのでしょうか。 湯灌は、なかなか一口に説明をするのが難しいものですが、温かいお湯に入っていただく、火葬前の最後のお風呂です。洗髪・洗顔・お顔剃りなどを行い、全身を丁寧にボディソープで洗い流します。ただし、地域によっては清拭を「湯灌」と呼ぶこともあります(特に、関東より東の地域)。 湯灌は葬儀のプランの中でご家族が希望された場合に行うことなので、訪問看護でお体をきれいにされていた場合、通常は湯灌しないケースが多いかと思います。 <Q14>湯灌の前に、詰め物やエンゼルケアを行っても問題ないのでしょうか。詰め物がとれてしまうことはありませんか。湯灌する場合、ポリマーの詰め物はよくないというお話も聞きました。 問題ありません。特別なことがない限り、湯灌の際に詰め物が出ることはないでしょう。詰め物は、濡れるため湯灌後に葬儀社で交換するのですが、それでも意味があります。亡くなられてから湯灌されるまで間に、寝台車で移動されたり、安置されたりとお身体を動かすことが多いため、体液漏れの予防処置としての詰め物をお願いしたいです。 ポリマーは水を含むと100倍近く増えるため、どうしてもあふれ出ますが、湯灌をされるかどうかはエンゼルケア時には不確定のため、ポリマー処置されていても問題ありません。ただし、鼻腔については副鼻腔内ではなく、より奥にポリマーを注入しておいていただければと思います。 葬儀社の対応と訪問看護との連携について <Q15>訪問看護では、エンゼルケアは自費負担をしていただいています。葬儀は費用を抑えたものや湯灌なしのものなど、さまざまなプランがあるようで、どこまで自分たちが行うべきか迷います。訪問看護と葬儀社で、対応の違いはあるのでしょうか? 訪問でするべき対応は何だと思われますか。ご家族に説明するためにも知りたいです。 皆さんをはじめ医療者の方々が行うエンゼルケアは、病気と闘い人生を終えられた後、その方らしく身支度を整えること、本来の姿へ戻ること、という意味合いが強いと考えております。一方、我々葬儀社が行うケア・身支度は、「宗教儀式に向けての準備」という意味合いが強いです。 私は葬儀社サイドの者なので、ご家族に会うのは亡くなられた後になります。でも、皆さんは訪問看護でご家族のことも、亡くなられた方のこともよくご存知のはず。私がご家族だったら、故人が生前からお世話になった方に最後の身支度をしてほしいと思います。ですから、訪問看護師さんができる限り亡くなられたときの身支度をされるのが、ご家族の心情としてはベストではないでしょうか。ご家族のご要望に沿うことが基本ですが、場合によっては髪の毛を解くだけだったり、ご本人の口紅を塗ったりするのみでもよろしいかと思います。私は、ご家族が葬儀社に対し、「訪問看護師さんに綺麗にしてもらったからもう大丈夫です」とおっしゃるケースがもっと増えたらよいのではないかと考えています。 また、費用の兼ね合いから葬儀を当初の想定より縮小される方も大変多くいらっしゃいますので、結果的に訪問看護師さんによるエンゼルケアが最後のお支度になることもあります。 <Q16>訪問看護師がご遺体のお着替えをした後、葬儀場でもまたお着替えをすることになるのでしょうか? また、エンゼルケアのやり直しを行うことはありますか? ご家族に、看護師とエンゼルケアをしたいか、葬儀社にお任せしたいかの確認を行っていますが、看護師と行う場合も、例えば詰め物のやり方が不十分だったのではないか、やり直しをするのであれば無駄に金銭的負担をかけているのではないか、と不安になります。 ご家族の金銭的ご負担も考慮の上、そのようなお声がけをしていただいていること、大変ありがたく思います。 ご家族がどの葬儀社に依頼されるかによって異なりますが、弊社の場合は、訪問看護師さんがご遺体のお着替えやメイクをされていた場合、ご家族がそれを望まれたと判断し、特にご要望がない限りはお着替えやメイクをいたしません。 ただし、葬儀社によっては、例えば「白装束を販売したい」という都合によって、お着替えをしているにも関わらず「仏着に着替えないといけません」といった言い方をする良くないケースもあるようです。基本的には、ご家族から再度の着替え要望がなければ、する必要はないと私は考えております。メイクについても、ご家族から「イメージと違うのでやり直してほしい」というようなご要望がない限り行いません。 詰め物については、時間経過とともに変化が起きることも多いため、「完璧な処置」というのはどの時点であっても不可能だと思っています。状況に応じてやり直しが発生します。しかし、詰め物をしていただくことで、体液漏れの予防処置になりますので決して無駄にはなりません。ご遺体・ご家族のためにも大変ありがたいです。 <Q17>小児の場合にも大人と同じような処置をしていますか? 小児の方の場合、綿花詰をしないことが多いです。小さなお鼻やお口に詰め物をすることに、大変心苦しさを感じるためです。ご両親、特にお母様のご要望に寄り添い、どうされたいのかを充分に聞き取って対応するようにしています。また、ご両親がお見送りまでの間に何度も抱っこできる状態にしておけるように気を付けております。訪問看護師の皆さんも、ぜひご両親に対して、「抱っこしてもよい」ということをお伝えいただければと思います。 * * * 後日、オンラインセミナー「【納棺師解説】死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」の講義内容をダイジェストにしたレポート記事も公開いたします。ぜひそちらもご覧ください。 >>シリーズ一覧はこちら「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」セミナーレポート>>お役立ちツールはこちら「死後24時間以降のご遺体変化&最新詰め物事情」 Q&A一覧 編集: NsPace編集部

訪問看護の褥瘡ケア
訪問看護の褥瘡ケア
特集 会員限定
2023年5月16日
2023年5月16日

写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 事例に学ぶ創部の見方/セミナーレポート後編

本記事は、医療関係者のスキルアップを目的として医療行為に関する詳細な記述や症例写真等を掲載しています。また、損傷を伴う皮膚画像を含みますので、あらかじめご了承ください。 2023年2月10日に開催されたNsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「写真事例で解説!訪問看護の褥瘡ケア」。在宅創傷スキンケアステーションの代表で、皮膚・排泄ケア認定看護師でもある岡部美保さんを講師としてお迎えし、褥瘡の評価やケアのポイントについて、実際の事例を交えながら教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、褥瘡評価スケール「DESIGN-R2020」(※1)を使って実際の褥瘡を評価する、ケーススタディの様子をご紹介します。 >>前編はこちら写真で解説!訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価/セミナーレポート前編 【講師】岡部 美保さん皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表赤十字病院や複数の訪問看護ステーションにて勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマに関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。 「DESIGN-R2020」で褥瘡評価 「DESIGN-R2020」での評価方法について学んできたところで、ここからは実際の褥瘡の写真を見ながら、「DESIGN-R2020」を用いて評価してみましょう。 事例1:壊死組織で創底が見えない場合 こちらは、1ケース目の褥瘡です。「DESIGN-R2020」での評価は「DU-e3s8i1G6N6p0:24点」となります。 <基本情報>・褥瘡のサイズは6cm×5.8cmで、ポケットはありません。・褥瘡のケアとしては、1日1回ガーゼの交換を行っています。・ガーゼの約半分が汚染される程度の滲出液が見られます。 褥瘡を見てみると、創部は色が黒くなっており、創周囲の皮膚は赤くなっているので、「DTI(深部損傷褥瘡)ではないか?」と思われるかもしれません。しかし、この褥瘡は壊死組織(黒色部分)が全面を覆っていて、創底が見えない。つまり、壊死組織によって深さの評価ができない褥瘡です。また、創面が壊死組織で覆われていることから、肉芽も上がっていません。 創周囲の皮膚は、先にも触れたとおり赤くなり、炎症を起こしています。現段階では炎症で済んでいますが、今後感染に移行してしまう可能性も十分にあります。こういう場合は、創周囲の皮膚にポケットができていないか、膿が溜まっていないかを必ず確認しましょう。 また、速やかに壊死組織を除去することが重要なポイントです。このケースでは、スルファジアジン銀クリームを使って、壊死組織の自己融解を進めています。そのため、壊死組織の外縁から中心に柔らかい組織に変化していっていることがわかるかと思います。 事例2:DTI(深部損傷褥瘡)疑いの場合 続いて2ケース目の褥瘡。「DESIGN-R2020」での評価は「DDTI-e1S15i1g0n0p0:17点」となります。 <基本情報>・サイズは18.5cm× 10cmで、ポケットはありません。・褥瘡ケアは、1日に1回行われています。・滲出液は少なく、ガーゼにわずかに付着する程度です。 こちらはDTI疑いの褥瘡です。「DESIGN-R2020」では、深さの表記は「DDTI」とします。 DTI疑いの場合の評価のポイントのひとつが、肉芽組織(Granulation)の項目。DTIのときの肉芽組織は、0点(g0と表記)で評価するという決まりです。みなさんが訪問看護の現場でDTIの褥瘡の評価に当たる際、「このあたりはいい肉芽が育っているかもしれない」と感じられることもあるかもしれませんが、「肉芽はまったくできていない」と判定しましょう。 事例3:複数の深刻な褥瘡がある場合 3ケース目は、仙骨部と右坐骨結節部、左坐骨結節部の3ヵ所に褥瘡がある方です。「DESIGN-R2020」での評価は、順番に「D4-E6s9I3cG6n0P6:30点(※2)」「D4-E6s6I3cG6n0P6:27点」「D3-E6s6I3cG6n0P12:33点」となります。 ※2 Dは従来通り合計点数には含まれません。また臨界的定着疑い(「訪問看護の褥瘡ケア 褥瘡の評価 /前編」参照)は3cと記載し点数は3点とします。 <基本情報>・仙骨部にはぬめりがあり、淡黄色の滲出液が多く分泌されています。・右坐骨結節部にはぬめりがあり、淡黄緑色の滲出液が多く分泌されています。・左坐骨結節部にはぬめりがあり、淡黄色〜淡黄緑色の滲出液が多く分泌されています。・栄養状態が低下しており、脱水も確認できます。・頭側挙上をしており、食事にも時間がかかるため、長時間にわたって座位姿勢をとっています。・自力での体位変換はできません。 今回のケースでは、以下のような評価ができるでしょう。 1. 肉芽の状態創面は赤くなっているように見えますが、浮腫性の不良肉芽で覆われています。すべての褥瘡において「良性肉芽が育っていない」と評価します。 2. 肉芽の剥離、段差の有無仙骨部の褥瘡には、肉芽の剥離と段差が見られます。これには、頭側挙上をしていること、座位姿勢をとっている時間が長いことが関係していると考えられるでしょう。ギャッジアップをした際、ずれと圧迫が加わって肉芽が剥がれてしまっています。 さらに、左右の坐骨結節部にも肉芽の剥離がありますね。長時間の座位姿勢をとっているために圧迫され、さらに慢性的な体位のずれも加わって、肉芽が剥離しています。とくに左坐骨結節部は、左側への体幹の傾きを生じているためより強い外力が加わることにより、肉芽は深くまで剥離しています。 3. 滲出液の量3カ所ともぬめりが見られ、多量の滲出液があります。黄緑色の滲出液が出ている部位も確認できました(緑膿菌感染の疑い)。さらに、3ヵ所とも創周囲の皮膚は浸軟しています。これはつまり、臨界的定着疑いの褥瘡であると考えられるでしょう。 4. 巻き込み(エピロール)の有無臨界的定着の疑いがある上に、座位姿勢の時間が長かったり、自身で体位変換ができなかったりして、局所には慢性的に圧迫やずれが加わります。さらに、マイクロクライメット管理も不十分であることから表皮の巻き込みという現象が起こります。これは褥瘡治癒を遅延させるリスクの高い状態といえます。 5. ポケットの有無褥瘡にはポケットも確認できます。体位変換をするときに左右にずれることから、ポケットも左右に広がっています。さらに、ギャッジアップをすることで縦方向にもずれが加わりますから、上部にもポケットが残っています。 複数の褥瘡がある場合も、評価の方法は変わりません。一つひとつの創面を指で触ってぬめりや感触(創周囲がぶよぶよしていないか、膿がたまっていないかなど)を確かめたり、段差や肉芽の剥離がないかをチェックしたり、生活の中で生じている外力(圧迫、摩擦やずれ)がないかを検討したりして、各褥瘡に何が起こっているかを評価してください。 * 褥瘡ケアでは、なにより重要なのは「予防」。一方、すでにできてしまっている褥瘡に対しては「DESIGN-R2020」を使って褥瘡評価を行うことが大切です。創面と創周囲の皮膚に何が起こっているのか、その要因は何なのかについて、局所ケアの状況や生活などから多面的に見極める必要があります。 そして、ご本人や家族と一緒に実践できるケアを考えることが大事です。褥瘡の状態や利用者さんのライフスタイルをふまえ、継続できる最善のケア方法を考えましょう。 ※1 DESIGN-Rは、一般社団法人日本褥瘡学会の登録商標です。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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