2021年11月30日
【セミナーレポート】看取りの作法 Q&A≪特別先行公開≫
本記事は2021年11月12日に開催したオンラインセミナー「看取りの作法」のレポート≪特別先行公開≫です。
当日は、家庭医療専門医である、杉並PARK在宅クリニック院長の田中公孝先生にご講演いただき、セミナー中にたくさんのご質問をいただきました。今回は先生のご厚意で、時間内に答えきれなかったご質問からいくつか抜粋し、解説いただきました。
在宅医として看取りに向き合う心構えや、訪問看護師さんへの期待について、先生のお考えを記事にいたしましたので、セミナーに参加された方も参加出来なかった方も是非ご覧ください。
老衰の看取りのケース
老衰の看取りの場合、ゆっくり機能が低下していく経過となりますが、ご本人やご家族に、どのようにお話されますか?
ご質問ありがとうございます。老衰については、癌末期と違って予後予測が延びたりすることはお話ししています。また、老衰でご本人に説明するというシーンはあまり無いのですが、もしご本人に聞かれたら「もう〇〇歳ですからね、病気も沢山ありますし、年齢による影響は否めないと思います」とやんわり伝えるイメージです。ご家族については、老衰の看取りを自宅で行う決意をされたことを支持することをお伝えし、「病院よりも自然な形で過ごせますしね」や「癌で痛みがある例などに比べると穏やかで寝ているような時間が増えますよ」と声掛けします。また、食事が摂れなくなってきても無理に口には入れず、お楽しみ程度に、数口試して難しければやめるという助言をします。途中、せん妄状態になる方がいることもお話することで、手足をバタバタする、などの状況を理解してもらうように早め早めに説明します。最後の1週間は、講義でもお話した看取りのパンフレットを説明してお渡しし、それに沿って経過が流れることを確認しながら往診します。老衰の看取りはしっかりとサポートするとご家族も満足度が高い印象です。ただ、食事水分がほとんどとれない高齢者が予後予測よりも1週間以上延びたことが経験上あるので、癌末期の事例よりも非癌の事例の方が難しい面があると以前在宅のエキスパートナースの方がおっしゃっていた話は、実感するところです。
ガン末期の方のお看取りの心構え
今まさに、亡くなりそうなガン末期の利用者様がおられます。呼吸が止まれば連絡をいただくようになっています。私自身とても緊張しています。心構えをお教えください。
私も経験がありますので、よくわかります。心構えとしては、呼吸が止まった時の連絡をいただいたとき、どういう声かけや対応するか、死後の対応や説明をどうするか、を想定して詰めておくと少しは不安が和らぐ印象です。
例えば、ご家族の安心と不安の違いを過去に分析して感じたことなのですが、「人間、漠然としたものをそのままにしていると不安が募る」ようです。なので、専門職でも後のことについて漠然としていると不安が募りやすい側面はあると思いますので、この後のことをしっかり具体的に想定しておくことが大事と思います。また、定期の訪問時によくご家族とコミュニケーションをとっておくことも夜間電話がかかってくるかどうかの際の不安軽減につながります。というのも電話しながら、ご家族の表情や感じが目に浮かぶようになれば、呼吸停止の電話でも面と向かって喋っているような感覚で落ち着いて対応できるのではないかなと思います。
普段のケアのコミュニケーションが、いざというときの助けになる、というところは、看取り直前だけではなく、急変の場面でもそうだと思いますので、我々訪問の専門職は日ごろからぜひ意識したいところです。
誤嚥性肺炎を繰り返す方の往診医との連携について
訪問看護師です。現在、誤嚥性肺炎を繰り返している利用者さんがいます。本人は自宅を希望しており、家族も本人の意向を尊重したいと思われています。ただ、妻が食事形態を理解できず普通食を提供することが続いています。自宅看取りの方向ですすんでいますが、往診医はリスク説明をして、何かあれば救急搬送するしかないと言われています。本人家族の意向を叶えつつ、往診医との連携をうまくとっていくのをどうすれば良いか悩んでいます。
それは難しい状況ですね。。往診医との連携についてですが、まずは往診医以外の他職種と相談して、根回しをしながら担当者会議を開くのが良い気がします。本人家族はもちろんのこと、他の職種がリスクを承知でも自宅看取りを支えたいと思っていることを皆で伝えれば、理解を示してもらえる可能性が出てくるやもしれません。
他の手段としては、往診クリニックのスタッフさん(看護師さん、相談員さんなど)で普段からコミュニケーションとっている方がいたら、まずはその方に相談するというのも1つです。もしかしたら伝え方のヒントや一緒に考えてくれるやもしれません。参考にしてみてください。
家族間の看取りの調整
家族での看取りの方法が一致しない場合、どの様に対応したらよいですか?
これも難しい場面ですね。。私であれば、まずは家族全員の意見を聞き、家族間の話し合いを促します。ただそれでも難しい場面もあると思いますので、自宅看取りの場面で想定されること、病院への救急搬送を言われる場面など、この後の様々なシチュエーションを想定しておいて、都度都度の対処に臨む心構えを私はしています。
また、意見がそれぞれ違うご家族と一度は直接面談することも重要です。やはりキーパーソンだけ喋っていて、方針の違うご家族と直接しゃべらないとあまりうまくいかない印象で、私も過去にどんでん返しを受けた事例がありました。できる限り意見の違う家族とも会い、この後予想されるシナリオをいくつか想定しながら、集まった情報をもとに多職種で話し合い、ともに考えるといったプロセスが大事かなと思います。
ちなみに多職種で話し合うと別の視点や情報、アイデアなども出てきますので、なかなか担当者会議となると家族もいて目の前ではできないという場合は、点数などは発生しませんが専門職だけで会議することをお勧めします。
特化型ステーションに在宅医が求めること
病院併設の訪問看護ステーションで働いています。緩和ケア病棟から異動になり、終末期に特化したステーションにしたいと思ってます。在宅医が求める訪問看護師について、何を求めるか、何が必要か、教えて頂きたいです。また、先生が考える特化したステーションとは具体的にどのようなステーションか知りたいです。
あと、在宅では介護者の高齢化や子の介入不足、地域性からか子に頼れない親も多く、介護負担で疲弊してしまうケースも少なくありません。初めての待機当番で夜中にオムツ交換で呼ばれ、翌日、主治医や病院側が訪問看護師の負担を考慮して即緩和ケア病棟に入院させたケースもありました。終末期のバルーンカテーテル留置は積極的に行ってよいのか迷います。
もっと在宅医とうまく連携して家族に寄り添ってできたらと日々葛藤です。本人ばかりに注目せず、もっと家族に寄り添い、グリーフケアにつながる看護ができたらと思いますが、なかなかチームでとなると難しいです。
ご質問ありがとうございます。私が看取りに特化した訪問ステーションと呼ぶ訪問看護は、
・今回お話した看取りの作法ができている・困難だった事例も多く経験していて、イレギュラーな末期事例でも対応できる・麻薬や鎮静薬の提案タイミングが卓越している・グリーフケアの声かけが非常にうまい・家族の療養方針の迷いにしっかり対峙し、アドバイスができる・時には主治医の迷いに対してもしっかり応えられる・ケアマネジャー/サービス担当責任者に報告・連携・フォローしながら進められる
あたりができているところだと思います。
私自身、看取りに卓越した訪問看護ステーションと組むと毎回こちらも勉強させられます。それくらい、人の看取りにまつわる技法というものは、医学の知識をしっかり蓄えながら、コミュニケーションの技術も向上させ、経験、心構え、ご自身のあり方を深めることが必要なのだと思います。おっしゃる通り、本人だけのケアでは在宅の看取りケアとしては片手落ちで、家族のケアをしながら、多職種で目線を合わせて迷いや葛藤が現れる過程をしっかりと取り組めるということが大事だと思います。
エピローグ
オンラインセミナー「看取りの作法」にご参加いただきました皆さま、ご質問をいただいた皆さま、誠にありがとうございました。
田中公孝 先生のご講演内容やQ&Aセッションの様子を後日、セミナーレポートとして全2回でお送りします。明日からの訪問看護にいきる内容となっておりますので、ぜひご覧ください。
<セミナーレポート前編につづく>
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セミナー講師:田中 公孝
2009年滋賀医科大学医学部卒業。2015年家庭医療後期研修修了し、同年家庭医療専門医取得。2017年4月東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げにかかわり、医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、市や医師会のICT事業などにもかかわる。引き続き、その人らしく最期まで過ごせる在宅医療を目指しながらも、新しいコンセプトのクリニック事業の立ち上げを決意。2021年春 東京都杉並区西荻窪の地に「杉並PARK在宅クリニック」開業。
杉並PARK在宅クリニックホームページhttps://www.suginami-park.jp/
記事編集:NsPace