コミュニケーションに関する記事

心肺停止時の蘇生の方針
心肺停止時の蘇生の方針
特集
2023年5月16日
2023年5月16日

「救急車は呼ばないで」と言われたら?―多職種連携で適切な対応を

この連載では、訪問看護師のみなさんが現場で遭遇しそうなケースをもとに、利用者さんからの相談内容に関連する法律や制度についてわかりやすく解説します。法律に苦手意識がある方でも自信をもって対応できるよう、役立つ知識をお届けします。今回は利用者さんからDNARの意向が示されたときの対応や、そもそもDNARとは何か、終末期医療、ACPの違いなどについても解説します。 事例 お子さんと同居する利用者Iさん(70代女性)。間質性肺炎を患っており、在宅酸素療法を導入しています。最近は呼吸が苦しそうなときが目立ってきました。 そんな中、訪問看護師のJさんは、Iさんから次のように言われました。「これ以上、みんなの世話になりながら生き続けたいと思えなくなった。そろそろ私も潮時ということだと思う。もし、明日私の呼吸が止まったとして、救急車を呼んで一命をとりとめたとしても、意識がないまま生かされ続けるようなことはごめんだ。だから、呼吸が止まっても、救急車を呼ばないでほしい。そのときが来たら無駄なあがきはせず、死を受け入れたい。」  これまで前向きに在宅での療養生活を送り、芯の強い人と思っていただけに、Iさんの言葉に動揺するJさん。「救急車を呼ばない」とは? もし、自分の目の前でIさんが心肺停止したとき、亡くなっていく様子をただ見ていなければいけないの? それって罪に問われないの? と急に不安が襲ってきました。 追い打ちをかけるように、Iさんの発した次の言葉はJさんの頭を真っ白にさせました。「家族には今の話は言わないでほしい。余計な心配をかけたくないし、このことを知ったら、きっともっと生きてほしいと説得されるだけだから。」 さて、困ったことになりました。同居のお子さんに搬送拒否の希望を知らせないとは……。いざというとき大混乱に陥ってしまうことは明白です。Jさんは一体、どのように対応すればよいでしょうか。 対応例 まずはIさんの話を傾聴し、Iさんがどうしたいのかをよく確認します。その後、ステーションの管理者や同僚に情報共有し、必要時、カンファレンスを行います。そして、IさんがDNARを希望されていることを医師に伝え、インフォームド・コンセント(IC)を行ってもらえるように調整。訪問診療のタイミングでもよいですが、Iさんご本人と医師が話をできる機会をつくります。 また、Iさんが「家族に話したくない」と言う段階では、ご家族には話しません。なぜ話したくないのかを傾聴し、リスクやデメリットを説明しつつ、医師を巻き込みながら、なるべくご本人が自発的にご家族と話すことを選べるように支援することが大切です。 DNARは心肺停止時の蘇生の方針を定めるもの みなさんは、DNARという言葉をご存知でしょうか。これは「Do Not Attempt Resuscitation」の略で、「心肺停止時に、患者本人または家族の希望により、成功する可能性が乏しい状況下での心肺蘇生を行わない」ことを意味します。 まさに今回の事例に合致する場面ですね。まずは「Iさんは、DNARを希望されているのだ」と認識しましょう。 また、Jさんが感じた「もし自分の目の前で心肺停止したとき、亡くなっていく様子をただ見ていなければいけないの? それって罪に問われないの?」という疑問については、まさにその点を関係者間で協議する必要があるわけです。 DNARの場合、基本的には心肺停止状態の利用者さんを発見したら、訪問看護師は主治医に連絡し、指示を待つことになります。その間、少しでも苦痛が取り除かれるよう手を握ったり、背中を擦ったりすることは可能です。 ただし、それを超えて心臓マッサージや人工呼吸といった心肺蘇生措置をしてしまうと、DNARに反することになってしまいます。ご本人の意思に沿った対応をとるためにも、ご本人やご家族の同意書とともに、緊急時の対応マニュアルを文章化しておくとよいでしょう。そして、いつでも誰でもが参照できるよう枕元に備えておくと安心です。 蘇生措置を行わないことが犯罪に相当するかという点については、刑法上「業務上過失致死罪」に当たる可能性はあります。しかし、ご本人の意思であることが確認できれば違法性が阻却され、罪に問われることはありません。 もっとも、最終的にその事実を確認するには、何らかの証拠となるものが必要です。そのためにも、ご本人の同意書を取ることは必須といえます。他に、医療機関を交えたカンファレンスの記録やケアマネジャーの支援経過記録なども証拠になり得ます。 まずは関係者で話し合いの場を設ける 利用者さんからDNARの意向が示されたら、訪問看護師としてどのように対応すればよいでしょうか。 日々のケアの中で、利用者さんからふと気がかりなことや願いなど、何らかの思いが表出されるときがあります。そのようなとき、まずは、ご本人の思いを聴き取る機会と捉えて、傾聴をすることが大切です。そして、対応例のとおり、ステーションの管理者や同僚に報告するとともに、ご家族とご本人、また主治医やケアマネジャー、ヘルパーなども交えて対応を協議することが必要です。 極端な話、出入りするヘルパー1人でもIさんのDNARの希望を知らなければ、そのヘルパーの訪問時に容態が急変することで救急車を呼んでしまい、Iさんの希望が叶えられない…という事態になりかねないからです。これを回避するには、すべての関係者がDNARの事実を把握し、いざというときに適切に対応できなければなりません。 そのため、すべての関係者と情報共有する必要性についてIさんに十分説明した上で、理解を得た後に本格的な協議を開始します。 ACPを行い人生の最期に向けて話し合う このように、ご本人とご家族、医療・ケアチームが、将来の医療およびケアについて、ご本人の価値観や人生の目標などをもとに話し合いを行い、ご本人の意思決定を支援するプロセスをACP、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)といいます。ACPは別名「人生会議」とも呼ばれ、その人の人生全般について対応を検討することが目的です。 その中でも、今回の事例のように、心肺停止時に限局された場面でどう対応するのか、その方針を決定するのがDNARです。また、人生の終末期に向け、残された時間を平穏に過ごし、身体的・精神的苦痛を取り除くための措置を終末期医療(ターミナルケア)といいます。 DNARも、終末期医療も、看取りも、すべてACPで話し合うべき重要なテーマなのです。 ACPは、人生のどのステージでも始めることができます。病状や療養環境などの変化に応じて、何度も繰り返し実施することが大切です。 ACPについては厚生労働省発出の「人生の最終段階における医療・ケアの 決定プロセスに関するガイドライン」(改訂 平成30年3月)に詳しくまとめられています。在宅や介護の現場でも活用できるように作成されているので、ぜひご参照ください。 「大ごとにしたくない」と言われたら? もし、IさんがACPに対して乗り気でない場合、どうすべきでしょうか。法的な立場からいうと、現状DNARに関して法令による明確な定めはなく、ACPを経ずともDNAR対応することは可能です。 「とにかく大ごとにしたくない。紙に書いておけばいいんでしょ。あなたたちは医療のプロなんだから、なんとかして」とおっしゃった場合はどう対応すべきでしょう。 Iさんの意思尊重の観点からは判断が難しいところですが、ご家族に何も伝えずDNARを進めることは現実的に不可能です。いざとうときにご本人の意に反した結果にならないためにも、ご家族や近しい人たちと十分に話し合っておくことが大切です。 もし、Iさんとご家族の意向が異なったとしても、原理原則論としてはご本人の意向が優先されます。しかし、ご家族に何も伝えずDNARが実行されてしまうと、「これは母の意思ではなかった」と主張され、刑事告訴されてしまうかもしれません。 どうしてもIさんの望みどおりDNARを遂行したいのであれば、極論すると関わる事業所数を減らし、限られたメンバーだけで日々のケアを行っていく必要があるでしょう。いずれにせよ、救命に関することですから最低限、医師は把握する必要があります。 Iさんに対しては「在宅であってもチームケアでなければ利用者さんを支えることはできず、一事業所や一人の医師が単独で決定し、運営できるものではない」ことを繰り返し伝え、話し合いを重ねる他ないかと思います。それでも同意いただけない場合、「うちではDNARの対応はできない」とお断りせざるを得ないでしょう。 DNARを含め、ACPという概念がより世間一般に拡がることが期待されます。 家族の意向よりご本人の意思が優先される法的根拠 先ほど「刑事告訴」と言いましたが、この言葉にどきっとされた方もいらっしゃると思います。訴訟を回避する方法も知っておきたいところです。ご家族の意向よりご本人の意思が優先される法的な根拠を確認しておきましょう。 法的根拠としては、憲法第13条の幸福追求権が挙げられます。当然のことですが、ご本人の人生はご本人が主役であり、ご本人に決定権があるものです。このことは「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」にも明記されています。 ただし、ご本人の判断力が何らかの理由で著しく落ちている場合や、精神的に不安定な状況下では、冷静な判断ができないものとして、ご家族の意向が重要となってきます。先のガイドラインには「家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。」1)と記されています。 ACPの内容は必ず記録しよう いずれにせよ、最終的にものをいうのは「証拠」です。できるだけ多くの場面におけるやり取りの経過を丁寧に記録していくことが大切です。Iさんとの最初のやり取りから医療・ケアチームとの話し合い、ACPでの協議内容など、多職種間での情報共有のためにもACPのプロセスで話し合った内容は必ず記録してください。 また、「言った、言わない」にならないよう、録音することも一法です。DNARという概念はまだまだ未整備の部分が多く、平穏死までもっていくことは実は険しい道のりかもしれません。ですが、いかなる場合でも「同意」と「記録」、そして「連携」の重要性を頭に入れておきましょう。 執筆:外岡 潤介護・福祉系 弁護士法人おかげさま 代表弁護士 ●プロフィール弁護士、ホームヘルパー2級介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。介護・福祉の世界をこよなく愛し、現場の調和の空気を護ることを使命とする。著書に『介護トラブル相談必携』(民事法研究会)他多数。 YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。https://www.youtube.com/user/sotooka 編集:株式会社照林社 【引用】1) 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(改訂 平成30年3月),p.2.https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf2023/1/25閲覧 【参考】〇日本集中治療医学会倫理委員会「DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)の考え方」(日集中医誌 2017;24:210-215)〇日本老年医学会 倫理委員会「エンドオブライフに関する小委員会」編「ACP推進に関する提言」,2019.〇AMED 長寿・障害総合研究事業 長寿科学研究開発事業「アドバンス・ケア・プランニング支援ガイド 在宅療養の場で呼吸不全を有する患者さんに対応するために」,2022.

家族看護総論【前編】
家族看護総論【前編】
特集
2023年5月9日
2023年5月9日

家族看護とは何か、看護職に求められることは【総論 前編】

この連載では、訪問看護ならではの家族看護について「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」を通して考えます。総論前編となる今回は、このモデルの提唱者である渡辺先生に、そもそも家族看護とは何か、ご家族をケアする上で大切なことを教えていただきます。 「家族看護」を整理しよう 訪問看護師である皆さんは、きっとこれまでにどこかで一度は「家族看護」という言葉を聞いたことがあるでしょう。ただ、「家族看護」と一口にいっても、人によってその捉え方はさまざまです。最初に、家族看護とはいったい何なのかを整理したいと思います。 家族という集団を対象に看護する 「家族看護」の「家族」とは誰のことを指すのでしょうか? 多くの方は、「介護者」を思い浮かべるかもしれません。あるいは、療養者と最も近しい関係にある妻や夫、母親や父親などを挙げる方もいらっしゃるでしょう。 これらはいずれも誰か特定の個人を指していますね。実は、家族看護における「家族」とは、特定の個人を指すのではなく「家族」というひとつの集団を指しています。家族という集団、すなわちひとつのチームを対象とした看護が、家族看護なのです。 例えば、80代の片麻痺のAさんが、夫と2人で暮らす自宅に退院してきたとしましょう。近くに暮らす長女がしばらく通って介護や家事を手伝うことになりました。Aさんと夫、長女のこの3人のチームが、最高のパフォーマンスを発揮してさまざまな困難を乗り切っていけるよう支援することが「家族看護」です。 目的は家族のパフォーマンスを上げること 「チームとしてのパフォーマンスを最大のものにする」これが家族看護の目的です。学問的には、「家族のセルフケア機能を高める」といいます。 介護や病、看取りといった課題をもつチーム(家族)が最大のパフォーマンスを発揮するためには、一人ひとりの健康と日々の生活の質がある程度良好に保持されていることが大切です。そして、メンバー間の関係性も鍵になるでしょう。 例えば、Aさんの自宅での療養を支える訪問看護師は、Aさんの健康状態や生活だけでなく、夫や長女の健康状態や日々の生活にも目配り・気配りを欠かさず、介護役割の獲得に向けた支援を行います。さらに、3人の関係性がより良好であるように、少なくとも介護をめぐる緊張や対立が起こらないようアプローチすることでひとつの家族を看護します。 多様なアプローチを組み合わせ看護する それでは、あらためて家族というチームのパフォーマンスを上げるために必要なアプローチを整理してみましょう。 一人ひとりをターゲットにしたアプローチとしては、まずは挨拶をするところから始まります。挨拶を通して、徐々に顔見知りになり、関係を築きます。次に、労をねぎらい、話に耳を傾け、健康を気遣います。そして、上手な気分転換をすすめ、介護やお世話をしながらもその人らしい生活を送れるように支援します。さらに、病気や障害の理解を促し、この先起こり得ることとそれへの対処の方法を示します。 また、ご本人と家族メンバー間の関係性に働きかけることが必要なケースもあります。その場合、中心になるのは、コミュニケーションを円滑にする支援です。ご本人の思いをご家族に投げかけたり、また逆にご家族の思いをご本人に投げかけたり、あるいは話し合いの場を設けたりすることもあるでしょう。今後の療養や治療の方針に対する合意形成の支援などが含まれます。 加えて、ご家族が、周囲の社会に用意されているサポート資源を活用できるように支援することも家族看護の重要なアプローチです。 このような多様なアプローチを組み合わせながら、ひとつのチームの力を高めていくのです。 家族看護に求められる3つのポイント 最後に、家族看護に求められる3つの大切なポイントをご紹介します。 (1)中立性を保持する 例えば、ご本人の支援に一生懸命になるがあまり、協力的とはいえないご家族に苦手意識を持つことはありませんか? 反対に、ご家族の日々の苦労に深く共感し、家族に無理難題をつきつけるご本人に複雑な思いを抱くことはありませんか?  ひとつのチームを丸ごと支援するためには、誰かだけに深く「肩入れ」するというのではなく、等しくだれにも同じように「肩入れ」することが必要になります。つまり、中立性の保持が重要です。 (2)メタ認知を働かせる もし、家族の中の誰かと関わるのが苦手だと感じたら、ご自分の家族観を振り返ってみるのも役に立つかもしれません。 例えば、「妻というものは夫が病気になったら支えるものだ」という価値観が強いと、そうではない妻に寄り添うことが難しいと感じるでしょう。また、自分の母親が長年介護を続け、その苦労を間近に見てきたとしましょう。すると、訪問先で介護を続ける妻と自分の母親が重なって、妻に深く共感し、中立ではいられなくなるかもしれません。 こうしたことに気づくのは、冷静で客観的な判断をしてくれる「もうひとりの自分」がいればこそです。「もうひとりの自分」が、自分の認知や他者の認知について、考えたり理解したりすることを「メタ認知」といいます。中立性を保持するためには、このメタ認知がひとつの鍵になります。 (3)鳥の目と虫の目を使い分ける 家族というひとつのチームを看護するためには、個々を理解するだけではなく、チーム全体が果たしてうまく機能しているのかを把握することが必要です。「全体を把握する」ためには、まるで悠々と空を飛ぶ鳥のように、一段高いところからひとつの家族を見下ろし全体を把握する、つまり俯瞰するという頭の働きが必要になります。その一方で、療養者のケアをする場合には、物事を微細に診て変化に気づく虫の目が必要です。 療養者を含め、ひとつの家族を看護するためには、この虫の目と鳥の目の両者を適切に使い分けることも大切なポイントといえるでしょう。 >>後編はこちら家族看護 渡辺式家族アセスメント/支援モデルとは【総論 後編】 執筆:渡辺 裕子NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会 理事長「渡辺式」家族看護研究会 副代表 ●プロフィール1982年千葉大学大学院看護研究科修了後、市町村保健師として勤務。その後「家族看護研究所」「家族ケア研究所」を立ち上げ、2022年から現職。長年、患者・家族、職場の人間関係に悩む看護職のサポートを行ってきた。 「NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会」では、「ケアが循環する社会の実現」を理念に掲げ、一般市民を対象とした「かぞくのがっこう」のほか、「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」に関する各種セミナーを実施している。 ▶NPO法人日本家族関係・人間関係サポート協会のホームページ※渡辺式シートのダウンロードも可能です。編集:株式会社照林社 【参考】〇渡辺裕子著.「家族について学ぶ」,渡辺裕子監修.『家族看護を基盤とした地域・在宅看護論 第6版』,東京,日本看護協会出版会,2022,p.42-157.〇鈴木和子著.「家族看護学とは何か」,鈴木和子,渡辺裕子,佐藤律子著『家族看護学 : 理論と実践 第5版』,東京,日本看護協会出版会,2019,p.3-25.〇鈴木和子著.「看護学における家族の理解」,鈴木和子,渡辺裕子,佐藤律子著『家族看護学 : 理論と実践 第5版』,東京,日本看護協会出版会,2019,p.27-60.

教育×訪問看護
教育×訪問看護
特集 会員限定
2023年5月2日
2023年5月2日

オンライン実習事例から学ぶ 教育×訪問看護の連携【セミナーレポート】

2023年1月28日に開催した「【トークセッション】教育×訪問看護の連携」。フリーアナウンサーの中村さん進行のもと、山形大学の松田教授と訪問看護師の川俣さんによるトークセッションを実施しました。山形大学の看護学科で行った「訪問看護ステーションと連携したオンライン実習」の事例を通し、教育と訪問看護が今後どう関わっていくべきかについて考えます。 ※約50分間のトークセッションから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】松田 友美 さん山形大学大学院医学系研究科看護学専攻 在宅看護学分野 教授川俣 沙織 さん山形県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長訪問看護ステーションにこ 管理者【ファシリテーター】中村 優子 さんフリーアナウンサー。著名人のYouTubeチャンネル運営、著者インタビューなどを多数手がける※本文中敬称略 オンライン実習で知識と考える力をつける 中村:川俣さんが管理者を務める「訪問看護ステーションにこ」が山形大学看護学科の在宅看護オンライン実習(以下「オンライン実習」) に協力されたきっかけは、松田先生からのお声がけだったと伺っています。依頼された経緯について教えてください。 松田:コロナ禍で在宅看護実習をすべて中止せざるをえなくなり、川俣さんに藁にもすがる思いで、初めは実習の導入講義をお願いしたんです。 川俣:協力させていただくからには、訪問看護の楽しさや臨場感が伝わる内容にしたくて。私がただ講義をしても面白くないので、ステーション内で相談し、スタッフの協力のもと、現場と学生さんをオンラインで繋いで「同行しているような実習」を行うことになりました。 松田:オンラインではどうしても実際に体験することは難しいですが、訪問看護の重要な視点を事前学習した上で実習を行うことによって、知識とそれを使う思考回路が鍛えられました。技術は社会人になってからでも磨けるけれど、知識や考える力を養うのは学生のうちでないとなかなかできないので、とても良い内容だったと思っています。 実習で訪問看護の力、あり方が伝わった 中村:実際にオンライン実習を受講した学生のみなさんの反応はいかがでしたか? 松田:学生たちの反応は、予想以上に良いものでした。まず、実習はできないだろうと諦めていたのに、現場を見られたことに対する喜びですね。そして何より、看護の力を実感できたようです。教科書には「看護はその人の力を引き出す」と書いてあるけれども、いまいちピンとこない。でも、実際に看護師さんが利用者さんに接する様子を見て、生の声を聞いて、どういうことか理解できた、と。 川俣:複数の学生さんが同じ利用者さんの看護現場を共通体験できるメリットも大きかったと思います。 私たちは日ごろ、ひとりの利用者さんに複数のスタッフが関わるようにしています。利用者さんは「多面体」なので、複数人で関わったほうが気づきを得られると考えているからです。そして、その結果をもとに、どういう方針で看護をしていくかチームで考えます。 今回のオンライン実習では、学生さんたちに、その過程と似たような体験をしてもらえました。お互いに意見を交換する中で、「ほかの人はそう考えるんだな」という、他者の視点からの学びがあったはず。また、「多様な意見があっていい」ということも理解してもらえたと思います。 これは通常の実習ではなかなか得られない学びだと思うので、今後の看護師人生にいい影響を与える経験になったのではないでしょうか。 松田:そうですね。学生からも、「ほかの人から自分では思いつかない意見が聞けて勉強になった」「信頼関係の築き方の多様性を学べた」といった声が寄せられました。 新卒で訪問看護に携わる道もつくりたい 中村:オンライン実習の取り組みを経ての今後の展望について教えてください。 川俣:オンライン実習は臨地実習の代替ではなく、演習と臨地実習の間に挟むことで、学びを効率的に補完できる可能性があると評価しています。コロナ禍に限らず、よりよい形を模索しながら継続できればと思っています。 松田:卒業生に対するアンケートで「どんな教育が今役に立っていると感じるか」という質問をしたところ、「在宅看護のオンライン実習」と答えてくれる学生が多くいました。川俣さんのおっしゃるとおり、今後も積極的に導入していくべきではないかと考えます。 次のステップとしては、実際に在宅看護に関わりたい、訪問看護ステーションに就職したいという人材を増やしていくことではないでしょうか。 川俣:現段階では、新卒看護師を訪問看護ステーションで採用できる事業所はまだまだ少ないと感じています。病院で経験を積んでから訪問看護に移行するというのが多いと思いますが、今回の経験で考えが変わりました。利用者さんの人生に寄り添うという観点では、新卒であっても十分に活躍できると思います。もちろん、技術的な部分での医療機関との連携をはじめとしたフォロー体制は必要で今後の課題でもあります。地域の医療機関等のみなさんと協力体制を構築して、新卒から訪問看護に携わるというキャリアの実現に向けて、頑張っていきたいです。 松田:訪問看護に従事するにあたり、しっかりとした知識や技術、マナー、判断力などが必要なことは確かです。でも、コミュニケーションってそんなに構えなくても良い、難しいことではない、訪問看護はやりがいがあって楽しいということを、私たちも講義や実習で伝えていきたいと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア * * * ※本トークセッションと同日開催した録画配信セミナー、アンコール開催セミナーに関しましては、以下のセミナーレポートをご覧ください。 >>【セミナーレポート】vol.1 BCP策定の基礎知識/BCP策定へのSTEP~いのちと暮らしを守る、継続可能な業務計画を考える~ >>【セミナーレポート】調整役としても活躍する -訪問看護師によるエンゼルケア-

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年5月2日
2023年5月2日

【ピラティス×訪問看護】初心者でもOK。気軽にできるピラティス基本動作

全国の主要都市などに100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACEは、ピラティスのノウハウを在宅医療へ導入するという新しい取り組みを行っています。今回は、ZEN PLACE訪問看護師の日高さんに、看護師がピラティスを行うメリットや今後の展望についてその熱い思いをお伺いするとともに、簡単にできるピラティスの動作をご紹介いただきました。 これまでの記事はこちら>>【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ>>【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACE のキャリアパス&訪問時のピラティス活用法 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護ウェルビーイング創造のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 看護師がピラティスをするメリットとは? ―日高さんが「看護師自身がピラティスを行ったほうが良い」と思われる理由について教えてください。 ピラティスはやればやるほど身体が変わっていきます。利用者さんの心身に良いことはもちろん、自分自身のケアにも使えます。看護師は「大変」「つらい」というイメージがありますし、離職率も高いですよね。まずは自分が満たされないと、「サポートしたい」という気持ちは生まれづらくなると思うんです。「看護が楽しい」と思える人を増やすためのひとつの手段として、ピラティスはとても良いのではないかと思っています。 私も、ピラティスを始めてから自分を俯瞰して見られるようになり、余裕が出てきました。自分が感情的になっている時にすぐに気づき、落ち着いて対応ができるようになったと思います。「これは私個人の感情だな」「ここは対話が必要だな」「私はここができないけれど、ここはできている」という感じで。そうなってくると、利用者さんの表情や様子の変化も見落とさず、気づけるようにもなるんですよね。 ―時間に追われることも多い職業だと思いますが、焦ることやイライラしてしまうことはないのでしょうか。 そうですね。特に訪問看護師になってから、「やらないといけない」「できないとダメ」という自分自身の考えを押し付けないようになりました。 病院にいたときは、「医師に言われたらそれが絶対」「治療優先」という考えも強かったんです。そうなってくると、「○か×」あるいは「100か0」という考えに囚われやすいですし、命を預かっている以上、できない自分や周りの人たちを許せない。新人の看護師に対して「なんでできないの?」というネガティブな言葉を投げる人が多かったり、自分を責めて離職につながってしまったりします。患者さんに対してもそうですね。例えば、処方した薬を飲んでいなかったら、「薬は飲まないといけないものだから、ちゃんと飲んでくださいね!」とお伝えしていました。 でも、在宅医療では、利用者さんやご家族の意思や生活の質が大切になってきます。看護師は利用者さんの「生活」を支援する立場なので、さまざまな考えや価値観を尊重しやすいんですよね。薬が飲めていなくても、「〇〇さんはどうしたいですか?」と利用者さんの意思を確認できます。また、「歩きたいけど練習をさぼってしまって歩けない」ということでも、それも含めてその人。さぼりたいならさぼってもいいのかなと思っています。利用者さんご本人の意思を尊重し、かつその方の頑張れる範囲や現状を受け止めて、サポートするようにしています。 「できない=ダメ」ではない ―訪問看護とピラティスの理念との相性が良い、という側面があるのでしょうか。 そうですね。ピラティスの中にも「できないことは『ダメ』じゃない」という考え方があります。「できない自分」も今の自分として気付いて受け入れてあげるんですよね。 医療現場では、問題にフォーカスして原因を究明し、解決を図る考え方が必要になってきます。でも、そこには本来、人の感情や気持ちも存在していて、そこに気付き感じ取ることも大事だと思うんです。 利用者さんには「できない」ことを理由に落ち込んでほしくないですし、そうした自分の状態を受け止めてもらえるように声かけをしています。こういうピラティスの考え方は、とても訪問看護に活きているなと感じています。 ―看護師さんたちにも、そういったありのまま自分を受け入れてほしい、ということですね。 そうですね。私が看護師こそピラティスをして欲しいなと思っているのはまさにそこです。看護師も職場に対して安心感を求めているはずなんですよね。「できない自分やダメな自分もいて良いんだ」と思えれば気持ちが少し楽になると思っています。 仕事上つらい経験をすることもありますが、それに耐えて慣れていくのが当たり前という認識からか、自分のつらさに気付かず、心が疲弊していく方がたくさんいると感じています。また医療機関は閉鎖的で保守的、職種階級的な部分もあるので、内部で何か問題が発生しても解決できず、同じ悩みやストレスを持ち続けてしまうこともしばしばあります。 看護師がまず自分の状態に気付き、発散することで自分を整えて、心の余裕を持つことができれば、好循環ができます。自分だけではなく利用者さんやご家族、スタッフなど誰に対しても気持ちに余裕を持って接することができるはず。仕事もプライベートも良い方向に向きやすくなるのではないでしょうか。 だからこそ、医療従事者にもっとピラティスが広まってくれたら嬉しいですし、ピラティスを身近で楽しめる環境が増えればいいなと思っています。もちろん、私は自身のケアとしても引き続きピラティスを続け、利用者さんやご家族にも良い看護を提供し続けることを目標としていきたいと思います。 初めてでも気軽にできるピラティスの基本動作の紹介 ―ありがとうございます。では、ピラティスをやったことがない看護師さん向けに、気軽にできる基本動作を教えてください 今回は3つのエクササイズをご紹介します。(1)ピラティスの胸式呼吸(2)ピラティスの骨盤矯正(3)体幹を鍛えるロールアップとロールダウン ピラティスマットを使用しますが、なければヨガマットやバスタオルの上でも大丈夫です。 ベッド上だと身体が安定しにくいので、床の上で行うようにしましょう。 写真提供:ZEN PLACE (1)ピラティスの胸式呼吸 よく「腹式呼吸」という言葉は聞くと思いますが、ピラティスの呼吸法は「胸式呼吸法」といいます。胸式呼吸は交感神経を優位にさせ、全身に血液を送り出そうとして血管収縮が起こり、血圧も上昇し、脈や呼吸も速くなります。また頭が冴えてきて集中力や記憶力などが高まりやすくなるのも特徴的です。 床の上にあぐらをかいて、背筋を伸ばして顎を引いて座って行うのですが、このとき正しい姿勢になることが大事です。背筋が伸びておらず肩が内巻になっていると、心窩部や胸郭が広がりにくいので、胸を広げて肋骨を閉じましょう。 呼吸をする際には、両手を胸の下辺りに添えると胸の膨らみを意識しやすいです。息を吸うときは、胸の下辺りに当てた手が外側に開いていく感じを、吐く際は手が中心に寄っていく感覚を持ち、肋骨が開閉されているかチェックすることが大事です。 口から息を吐き出しながらお腹に力を入れへこませます。そのまま胸を膨らませるように鼻から息を吸い、そのまま口から息を吐きだしましょう。 (2)ピラティスの骨盤矯正 骨盤の位置を把握して正しい位置に戻すことを目的としています。 骨盤ニュートラル 特に女性には、反り腰の方が多いと言われています。脚を組む、バッグをいつも同じ肩に掛けるなど、身体の重心を片側にかけることで骨盤は歪んでしまうと考えられます。特に看護師の場合はベッドに向かってかがんで作業することもあるので、腰に負担がかかりやすく歪みも出やすいのでしょう。 骨盤の歪みは血行不良による身体の不調や痛みの原因にもなるため、まず行っていただきたい基本動作ですね。 反り腰の場合、骨盤が前傾しているので、それを後ろに倒して元に戻す動作を行います。骨盤を立てることでお尻が少し下がるイメージです。ピラティスでは寝ながら骨盤矯正を行います。 マット上で仰向けになり、膝を立てた状態になりましょう。肩の力みを抜きます。この時点で手を腰の下に入れ、手のひらが簡単に入るようであれば前傾、手のひらもまったく入らないようであれば後傾している状態です。 手のひらがぎりぎり入るくらいの状態だとピラティスでいう「ニュートラルポジション」となります。この状態で骨盤を前傾、後傾、戻すという動作を繰り返します。 ペルビックカール ピラティスには「ペルビックカール」という骨盤や腰椎を安定させるエクササイズがあります。 仰向けに寝て膝を曲げ、息を吐きながら骨盤を傾けるように上げて脊柱をマットから離し、息を吸って上でホールド。息を吐きながら、膝を曲げた仰向けの状態に戻るという動作を繰り返します。 (3)体幹を鍛えるロールアップとロールダウン 仰向けに寝て手は拳を向かい合わせにして頭の上に伸ばし、両脚は真っ直ぐ揃えたまま足の爪先まで伸ばします。 息を吸って腕を体の前方に向かって上げていき、腹筋をしめ息を吐きながら起き上がり股関節の上に肩がある姿勢で息を吸ってキープ(Cカール)。息を吐きながら体を倒していくという動作を繰り返します。 そして息をゆっくりと吐きながらお腹を引き締めて、腹筋の力で背中を丸めて足元まで起き上がっていきます。この時、はずみをつけないよう注意し、しっかりと腹筋と身体の軸を意識してゆっくり起き上がりましょう。 起き上がったら手順を逆に行い、元の体勢に戻ります。 * ピラティスは10回やると違いを感じ、20回やると見た目がかわり、30回やると身体のすべてがかわるといわれています。「ちょっと疲れているな」「ジムに行くのは大変だけど自宅で軽く運動をしたいな」という方はもちろん、日々の姿勢や体型を良くしたいという方でも気軽にスタートできるのがピラティスの魅力です。ぜひ一度試していただき、継続していただければいいなと思っています。皆様に少しでもピラティスの魅力が伝われば幸いです。 ―日高さん、どうもありがとうございました。 取材: NsPace編集部編集・執筆: 合同会社ヘルメース

ケースメソッドで考える管理業務
ケースメソッドで考える管理業務
特集
2023年5月2日
2023年5月2日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その2:桐山さんが抱えている問題は何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第11回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」を考えます。 はじめに 前回(「その1:まずすべきことは何か」参照)は、利用者からのクレームがあったときの初動対応について、それぞれの考えを出しあいました。続く今回は、前回のCさんの発言を受け、桐山さんが抱えている問題に注目することで、どんな支援ができるかのヒントを明らかにしていきます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 桐山さんが抱えている問題は何か 講師桐山さんはこのステーションで力を発揮しているとは言い切れないと思います。その原因はなんでしょうか。どんな問題を桐山さんは抱えていると考えますか。 Aさん注2入職3ヵ月とあるので、まだこのステーションには慣れていないと思います。しかも、すでにいるほかのスタッフよりも看護師経験は長く、即戦力というプレッシャーもあって、ほかのスタッフにSOSを出すのも難しいのではないでしょうか。 Bさん経歴をみてみると、以前働いていた訪問看護ステーションの経験が、今の仕事に悪影響を及ぼしているのかもしれません。ステーションごとに記録のしかたのような基本的なところでもいろいろ違いがあるでしょうし、そのほかにも暗黙の前提とかもよくありますよね。ステーションからどんな働きを期待されているかも、明確にされていなくてわからないですよね。 Cさん仕事をしていて疑問に思ったことを誰に聞いていいのかわからない可能性はありそうです。本人の性格もあるかもしれませんが、ほかのスタッフに気軽に聞ける状況ではなさそうです。 Dさん桐山さんの看護技術が劣っているとは思いませんが、もしかすると、クレームがあった利用者のケアには必要な知識やスキルが不足していたのかもしれませんね。 「桐山さんが抱えている問題は何か」の小括 桐山さんが抱えている問題はいくつもあることがみえてきました。ではこの問題についての理解をより深めるために、問題の前提となっている状況と、その状況をふまえた上で生じる課題についてみていきましょう。 桐山さんが置かれている状況の特徴 桐山さんを「中途採用で新しくステーションに入職した人」ととらえると、桐山さんが困難な状況に陥りやすい特徴が二つみえてきます。 1つ目は、即戦力とみられることから周囲のサポートが低くなり、それに伴い、社会的なプレッシャーにさらされることです。 2つ目は、前職で獲得した業務のやりかたや信念といったもののうち、新しい職場では通用しないものを捨て去る必要があることです。 桐山さんが抱えている課題 議論のなかで、桐山さんが抱えている課題が4つ出てきました。 ・ 今の職場だと通用しないことを捨て去る必要がある(学習棄却課題)・ 職場からどのような役割を期待されているのかわからない(役割学習課題)・誰に質問してよいかわからない(人脈学習課題)・必要なスキルが不足している(スキル課題) 次回は、このような状況や課題を理解し、管理者として桐山さんに対してどのような支援ができるのかについて考えていきます。 >>次回「その3:管理者としてどのような支援ができるか」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇中原淳.『経営学習論』東京,東京大学出版会,2012,155-184.

これからの医療的ケア児と訪問看護
これからの医療的ケア児と訪問看護
インタビュー
2023年4月25日
2023年4月25日

見落としがちな親視点 保護者に聞く&寄り添う看護-医療的ケア児と訪問看護

2021年に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行され、医療的ケア児への支援は「努力義務」ではなく「責務」となりました。そうした時代の流れの中で、訪問看護師が医療的ケア児のサポートに入るニーズが増加しています。しかし、技術的なハードルの高さや保護者との関係性に悩む看護師も多いようです。医療的ケア児の支援に造詣が深い、清泉女学院大学の北村千章教授にお話を伺いました。 >>前回の記事はこちら医療的ケア児にまつわる課題&あるべき支援-医療的ケア児と訪問看護 清泉女学院大学 小児期看護学北村 千章(きたむら ちあき)教授看護師・助産師。新潟県立看護大学大学院看護学研究科修士課程修了。「全国心臓病の子どもを守る会」にボランティアとして参加したのをきっかけに、先天性心疾患および22q11.2欠失症候群の子どもたち、医療的ケアが必要な子どもたちを、地域ボランティアチームをつくってサポート。2019年、清泉女学院大学看護学部に小児期看護学准教授として着任。慢性疾患のある子どもたちが大人になったときに居場所を持ち、ひとり立ちできるための必要な支援や体制つくりについて研究している。同年、NPO法人「親子の未来を支える会」の協力を得て、医療的ケア児の就学サポートを開始。医療的ケアが必要な子どもが、教育を受ける機会が奪われないしくみづくりを目指す。2023年4月より、清泉女学院大学看護学部 小児期看護学 教授に就任。 技術的には医療的ケア児の支援は難しくない ―医療的ケア児のケアについて、「技術的に難しい」と感じている訪問看護師も多いようですが、北村先生はどのようにお考えでしょうか。 そうですね。訪問看護の利用者は、終末期を在宅で過ごしたい高齢者の割合が高いと思います。いきなり医療的ケア児の看護に入ることになったら、戸惑うでしょう。私も初めて医療的ケア児のサポートをしたときは、すでに研究の世界に身を置いて臨床から離れていたこともあり、不安でした。ですから皆さんの気持ちは分かります。 でも実は、技術的には終末期患者のケアのほうが大変なんです。医療機器の使い方さえ覚えれば、医療的ケア児のケアのハードルはそこまで高くありません。ベテランの看護師ならなおさら、技術的な部分に対して身構える必要はないと思います。 私が所属する「親子の未来を支える会のチーム」には、志が高い看護師ばかり集まっていますが、やはり技術面において「本当に対応できるのか」と、心配する声は多かったです。でもいざ現場に入ってみると、医療的ケア児の保護者に色々と教えていただきながら、しっかりサポートできています。保護者の皆さんは、ご自身で医療機器の使い方を調べながら、一生懸命お子さんのケアをされています。そんな方々の胸を借りるつもりで、サポートすればいいのではないかと思います。 保護者はずっと「がんばれ」と言われている ―「保護者の胸を借りる」というお話が出ましたが、保護者とうまく関係性を築けずに悩む訪問看護師も多いようです。北村先生は、どのように保護者と関係性を築かれているのでしょうか。 私の場合、あるお母さんとの出会いが大きな学びにつながりました。今から15年ほど前に遡りますが、私は大学院で勉強しながらフリーの看護師をするという、二足の草鞋を履いていました。そのころ出会った福祉施設の方に、「あるお母さんと、うまくコミュニケーションが取れる看護師がいないから困っている」と言われ、放課後等デイサービスで医療的ケア児と関わる機会をいただいたんです。私は、そのお母さんは看護師を信頼できないのかもしれないと思い、「話を聴くしかない」と考えました。 医療的ケア児のBさんは人工呼吸器をつけているのですが、ご自宅を訪問するとすぐに、「とても愛されて大切にされている」ことを肌で感じました。私もお母さんと同じ気持ちで大事にケアをしていきたいと思い、日々お母さんに寄り添いながら傾聴していったところ、最初は不安そうなお母さんの顔がだんだん和らいでいきました。 ひとつ忘れられないエピソードがあります。そのお母さんはとある男性歌手の大ファンだったのですが、Bさんを産んでから1回もライブに行けていませんでした。そんな彼女が、「地元でその男性歌手のコンサートがあるから行きたい」とおっしゃったんです。福祉施設の施設長から「行かせてあげたいから、帰宅するまで子どもを見てくれないか」と頼まれ、引き受けしました。緊急トラブルが起こったときのために、施設長にもサポートしてもらいました。 幸い何事もなく、20時ごろにお母さんは帰宅されたのですが、「本当にありがとう。とってもうれしかった」とものすごく感謝してくださったんです。障害のある子を産み育てていくと、「自分ががんばらなければ」「我慢しなければ」という気持ちになるんですね。その様子をみて、私は「コンサートにも行けなくなるのか」「普通の暮らしが難しくなるんだな」と、切なくなりました。 その後、心を開いてくだったお母さんから、「すごくがんばっているのに、看護師に『もうちょっとがんばりましょう』と言われると、『なんで!』と攻撃的になってしまうんです」と本音を聴くことができました。そのとき、それまで看護師とうまくいかなかった原因が初めて分かったんです。腹を割って話せたことで、お母さんとの距離はさらにぐっと縮まりました。医療的ケア児の保護者の気持ちを学ぶことができて、今でもBさんのお母さんとの出会いに感謝しています。今でもBさんのお母さんとは友達で、これまで技術的な面も含めてたくさんのことを教えていただきました。 ―そのような経験を経て、看護師の保護者との接し方について、どのようにお考えでしょうか。 医療的ケア児の保護者の皆さんは、毎日必死。それまで当たり前だった「日常」を過ごせなくなり、気持ちがずっと張り詰めたままがんばっています。自分を責めている人もたくさんいます。そうした保護者の背景を想像せずに、看護師が「もうちょっとがんばれ」と言ったら、誰でも攻撃的になってしまうでしょう。 私たち看護師は、そんな自責の念で苦しんでいる保護者の気持ちを理解し、忘れてはいけないと思います。また、保護者は常に困っているので、看護師が医療的ケア児をサポートすることは「必ず保護者の助けになる」ことも忘れてはいけません。保護者は「自分の話を聴いてもらいたい」という気持ちがあると思うので、まずは、寄り添って話を聴く。そして技術的なことについては怖がらずに、「どうすればいいですか? 教えてください」と素直に頼ればいいと思います。また、「笑顔がかわいくなったね」「今までと違う動きができるようになったね」「体重が増えてよかったね」などと、お子さんのことを褒められると保護者はうれしいものです。「この看護師さんは、子どもをよく見てくれて、丁寧に関わってもらえているな」と思ってくれると思います。 ―逆に気を付けたほうがよいポイントはありますか。 子どもにとってベストなケアを考えると、看護師は保護者に向かって「子どものためにもっとこうしたほうがいいですよ」というアドバイスをしてしまいます。直接的に「がんばれ」と言っていなくても、こうした発言は保護者の負担になっているケースが多いので、気をつけたほうがいいと思います。 私もNICUで働いていたときは、なかなか保護者の気持ちが理解できませんでした。お母さんの気持ちを理解したくて、助産師の資格を取った経緯もあります。そこからやっと、保護者の立場に立って考えられるようになりました。NICUの看護師の場合は「子どものケア」が中心になるため、「お母さん、母乳で授乳しましょう。おっぱいをあげることは、とてもいいんですよ」などと言ってしまいがちですよね。でも、出産後、赤ちゃんが重度の障害を持っていると言われたら、当然ですがショックが大きくて思考や母乳が止まってしまうお母さんもいます。がんばりたい気持ちがあってもがんばれない。そんな状況の人に対して、「子どものためにがんばって」と追い込むようなメッセージを無意識に発しているケースが多いんです。 少しでも保護者側の視点に立って、寄り添いながら話を聴いてケアをする。やはりそれが一番大切ではないでしょうか。「きちんと保護者の話を聴いて理解しているのか」と自問してみて、自信がない場合は気を付けたほうがいいと思います。 看護学校の教科書で、家族中心のケア(Family-Centered Care; FCC)について学んだと思います。知識はあっても、現場に入るとどうしても患者中心になりがちです。改めて家族にも尊厳と敬意を持ち、家族と十分なコミュニケーションを図って情報を共有すること。そして、家族が望むレベルと、ケアや意思決定への参加を推奨し、支持をして、家族と協働することが大事です。 保護者が持つ看護師のイメージ ―北村先生は、研究上さまざまな保護者の方にインタビューする機会があると伺っています。保護者側からはどんな声が聞こえてきますか? そうですね。話を聞くと、やはり子どもが急性期のときに関わるNICUで最初に出会った看護師に良いイメージ持っていない保護者が多いように感じます。障害がある子を抱えて大きなプレッシャーや不安を感じる中でも、本当は毎日子どもに会いにいきたい。でも、例えば体調が悪く行けないことがあると、「お母さんなんだからがんばってね」と看護師に言われる。それが一番つらくて、行こうとすると足がすくんで、子どもに会いに行けなくなる…。といった保護者の声も聞きました。 もっと「NICUの看護師さんによくしてもらった」「看護師さんが話を聴いてくれてありがたかった」という経験ができるようになればいいと思います。そうすれば、退院して子どもと自宅に戻って暮らし始めても、もっと訪問看護師に甘えられるはずですよね。NICU側も変わっていかなければならないですが、訪問看護師の皆さんには、まずはこうした現状を理解してもらえるとうれしいです。 ―医療的ケア児の保護者で、SNSやブログなどで積極的にコミュニティを作り、前向きに動いている方も多いようです。 本当にそのとおりなんです。LINE、ブログ、SNSなどの情報ツールの発達によって、医療的ケア児を育てる保護者同士のネットワークはすごく広がっていますね。皆さん、医療やケアに関するたくさんの情報を持っています。私も「22q11.2欠失症候群」という遺伝性疾患の会を主催していますが、最新の研究内容をお伝えしようとしたら、すでにその英語の論文を読まれていたという保護者もいらっしゃいました。「100円ショップで見つけたアイテムでこんな風にケアをしています」といった経済的に負担の少ない介護の工夫をされている方もいて、それを私が講演会で他の保護者の方々に紹介するケースもあります。 看護師は「患者やその家族にアドバイスしなければ」と思いがちですが、保護者の方々はそうした最新情報を収集して勉強され、日々実践されています。教えてもらうことのほうが多いので、そういったスタンスで接していくほうがうまくいくと思います。 ―悩みながら医療的ケア児のサポートをしている訪問看護師さんたちに向けて、メッセージをお願いします。 高齢者の訪問看護について、「高齢者が地域でどう暮らしていくか」を考えてケアをされていると思いますが、医療的ケア児もまったく同じです。加えて、彼ら・彼女らには何十年もの先の未来があり、サポート次第で大きく選択肢が広がります。そして、ずっと走り続けてつらい時間を過ごされている保護者の心身のケアをすることも、とても重要な役割です。 医療的ケア児やその保護者との接し方に悩むこともあるかもしれませんが、壁を乗り越えて「貢献できた」と感じられたら、大きなやりがい・喜びを感じられるようになると思います。 ―ありがとうございました。次回は、教育委員会との連携事例について伺います。 >>次回の記事はこちら親子の夢が広がる 医療的ケア児の就学支援事例 【長野県 小布施町】 ※本記事は2022年12月の取材内容をもとに構成しています。 執筆:高島三幸取材・編集:NsPace 編集部

「七夕の奇跡」【つたえたい訪問看護の話】
「七夕の奇跡」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2023年4月18日
2023年4月18日

大賞エピソード漫画化!「七夕の奇跡」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。大賞を受賞したのは、公益社団法人山梨県看護協会ますほ訪問看護ステーション(山梨県)の 石井啓子さんの投稿エピソード、「七夕の奇跡」です。 今回は、大賞エピソードを『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』著者の広田奈都美先生に、全10ページの漫画にしていただきました。ぜひご覧ください! >>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 漫画:広田 奈都美(ひろた なつみ)漫画家/看護師/訪問看護ステーション管理者。静岡県出身。1990年にデビューし、『私は戦う女。そして詩人そして伝道師』(集英社)、『ナースのチカラ ~私たちにできること 訪問看護物語~』『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』(秋田書店)など作品多数。>>『ナースのチカラ』の試し読みはこちら【漫画試し読み】『ナースのチカラ』第1巻1話(その1)投稿者: 石井 啓子(いしい けいこ) 公益社団法人山梨県看護協会 ますほ訪問看護ステーション(山梨県)ますほ訪問看護ステーションで訪問看護師として勤務し約22年…。大変だったこと、辛い思い出もたくさんありますが、それをかき消すほどの胸がグッと熱くなるようなほっこりするエピソード、患者さん・ご家族のありがたい言葉がたくさん頭をよぎります。今回私の書いたエピソードを大賞に選んでくださり、恥ずかしいような、うれしいような、複雑な気持ちですが、私がこのような喜びを得ることができたのは、今まで巡り合ってきたたくさんの患者さん・ご家族のおかげだと感じます。エピソードを漫画化してくださることにより、訪問看護という仕事のやりがい・魅力をこれから訪問看護師を志す人に少しでも伝えることができたらとてもうれしく思います。今後も訪問看護師として、一人ひとりの患者さん・ご家族との出会いを大切に、日々真摯に頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。 [no_toc]

ニャースペースのつぶやき
ニャースペースのつぶやき
特集
2023年4月11日
2023年4月11日

遺族訪問時の請求書って…ニャースペースのつぶやき【訪問看護あるある】

遺族訪問時の請求書のお渡しって、切ない 遺族訪問は、とっても大切で緊張する場面。せっかく良い雰囲気になった後に請求書を渡すのって、ちょっと切ないにゃ… 遺族ケアの集大成である遺族訪問。ご遺族と故人との思い出も振り返ります。当たり前のことですが、そんな状況下でもご請求書を渡さなくてはいけません。ちょっと気まずいな…切ないな…と思っているかたも多いのではないでしょうか。訪問看護師さんからは、「せっかく良い雰囲気になっているのに、請求書を渡すとその雰囲気が壊れてしまう気がする」という声も聞かれました。 ニャースペース病棟看護経験5年、訪問看護猫3年目。好きな言葉は「猫にまたたび」「わかる!」「こんな『あるある』も聞いて!」など、みなさんの感想やつぶやき、いつでも投稿受付中にゃ!>>投稿フォーム

みんなの訪問看護アワード2023 表彰式
みんなの訪問看護アワード2023 表彰式
特集
2023年4月4日
2023年4月4日

みんなの訪問看護アワード2023 表彰式イベントレポート【3月24日開催】

2023年3月24日(金)に、銀座 伊東屋 HandShake Lounge(東京都中央区)にて開催した「みんなの訪問看護アワード2023」表彰式。全国からエピソード投稿者をはじめとしたゲストの皆さまにお越しいただき、表彰、特別トークセッション、懇親会などで盛り上がりました。ここでは、表彰式当日の様子や参加された方々の感想などを、豊富な写真とともにお伝えします。 >>「みんなの訪問看護アワード」全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!【みんなの訪問看護アワード】 受賞者の皆さまへのトロフィー・記念品授与 まずは受賞者への表彰。入賞、審査員特別賞、大賞の順にお一方ずつ審査員の先生方からトロフィー・記念品が授与されました。 入賞エピソード「爪切りを通して」投稿者の古橋 笑生さん(左)と、特別審査員の長嶺由衣子さん(右) 特別審査員の佐藤 美穂子さん(左)と、大賞エピソード「七夕の奇跡」投稿者の石井 啓子さん(右) 大賞エピソード投稿者 石井 啓子さん(山梨県)の受賞コメントを一部ご紹介します。「今回の受賞について、所属しているますほ訪問看護ステーションのみんなや、エピソードに登場する利用者さんの娘さんも一緒になって喜んでくれました。エピソードの漫画化も楽しみにしてくれています。エピソードを通して、訪問看護という仕事のやりがいや魅力が少しでも伝わったらうれしく思います。これからも、日々真摯に一人ひとりの利用者さん・ご家族に向き合っていきたいと思います。」 石井さんの「七夕の奇跡」を大賞作品に選出した理由について、特別審査員の佐藤 美穂子さんからのコメントもご紹介します。「七夕の日に『短冊に願い事を書いてみては』と思いつかれたことがまず素晴らしいと思いました。そして、利用者さんの持てる力を引き出すように『願い事を書いてみますか?』と語り掛け、実際に『喜代子さん ありがとう』という文字になったこと。これは本当に奇跡だと思います。私たちは、グリーフケア(悲嘆へのケア)を遺族に対するケアととらえがちですが、実は看取りのプロセスが大切です。ご本人が『ちょっとした今』を残すことによって、悲嘆を乗り越えられる。そうした体験を記したこのエピソードは、本当に素晴らしいと思います。私たち訪問看護師がたくさんの看取りに立ち会っていくなかで、こうしたエピソードを知ることはとても大切だと考え、審査員一同で、『皆さまに一番つたえたい話』として選出させていただきました。」 エピソード・訪問看護に関するトークセッション 左から特別審査員の長嶺由衣子さん、受賞者の村田 実稔さん(東京都)、長尾 弥生さん(岐阜県)、梁井 史子さん(北海道) 表彰後は、特別審査員の長嶺由衣子さんと、受賞者3名による特別トークセッション。エピソード投稿のきっかけや訪問看護師になった経緯、訪問看護の魅力を伝えるためにどうすれば良いかなど、幅広いテーマについてディスカッションされました。 「実は、ステーションのみんなには内緒で投稿しました。大賞を狙えると思っていたのですが、もっとすごいエピソードがありました」(村田さん)という裏話で会場に笑顔がこぼれる場面も 働くエリアも訪問看護師になった背景も異なる3名ですが、訪問看護の利用者さんの日常や想いに寄り添える点には、共通して魅力を感じているようです。 また、審査員特別賞(「そうだ、訪看がある」)を受賞した梁井 史子さん(北海道)は、現在もリンパ浮腫とつきあい、抗がん剤と鎮痛剤を飲みながら訪問看護師を続けているとのこと。利用者の立場になり、改めて訪問看護が「人生・環境を支えてくれるありがたい存在」だと感じたエピソードや「一日でも長く訪問看護師を続けたい」という想いを語ってくださいました。 訪問看護の魅力を伝える方法については、登壇者以外の皆さまからも「訪問看護師を主役としたドラマが放送されたら良いのでは」「訪問看護の魅力を伝えたくて、思い切って漫画・エッセイを出版社に持ち込んだところ、連載できた」「根強く『5年神話』(病棟で5年経験を積まないと訪問看護師をなることは難しいという考え)が残っているが、新卒訪問看護師もしっかり活躍している。看護学校の先生にも『大丈夫』と伝えていく必要がある」といったコメントがあり、活発な意見交換がなされました。 初対面でも意気投合。盛り上がった懇親会 参加した訪問看護師さんからは「訪問看護が好きな人ばかりで、前向きな気持ちになれた」という声も 式典の終了後は、審査員の先生方、エピソード投稿者の皆さま、協賛企業の皆さまなど、幅広い方々がご参加されての懇親会も開催。初対面の方々が多いはずが、あっという間に意気投合する様子が見られました。普段は違う都道府県で訪問看護師として働く皆さん。担当エリアの広さや訪問時間・利用者さんの傾向の違いなど、地域差の話題で盛り上がっていました。 また、当日は会場内に「質問BOX」を設置。質問が寄せられた方には、懇談会中に回答いただきました。 質問に回答する受賞者の佐藤 理恵さん(神奈川県) 大賞作品の漫画を描いていただく広田 奈都美さん(漫画家/看護師)にも、懇親会中に漫画制作に関するお話を伺いました。 大賞受賞者の石井 啓子さんと、漫画家の広田 奈都美さん 「『七夕の奇跡』の取材では、石井さんから利用者さんのかわいらしいエピソードをたくさん伺いました。そんなかわいらしさが伝わる漫画にしたいと思っています」といったコメントをいただきました。 また、特別に制作中の「七夕の奇跡」の漫画下書きも一部お披露目されました。 審査員の先生方・受賞者の皆さまのご感想 最後に、「みんなの訪問看護アワード」や表彰式について、特別審査員の先生や受賞者の皆さまに伺った感想をご紹介します。 佐藤 美穂子さん(公益財団法人日本訪問看護財団 常務理事)訪問看護の現場の皆さんの声を聞ける場を設けていただいたことに感謝しています。あまり自分のことを語らない奥ゆかしい訪問看護師さんも多いなか、今回のイベントは自分のことを語る良いきっかけになったのではないでしょうか。地域共生社会の実現が求められていますが、訪問看護は自身のライフステージに関わらず、看護師の資格を活かして地域に役立てるお仕事です。この表彰式で訪問看護師さんたちのお話を聞いていると、受け手・支え手に関係なく人生をともにしていくための道筋も見えてきて、とてもうれしく思っています。 高砂 裕子さん(一般社団法人全国訪問看護事業協会 副会長)訪問看護は、日々の季節の移ろいを感じることができるほか、利用者さんやそのご家族との距離が近い魅力ある仕事です。「みんなの訪問看護アワード」は、そうした魅力や日々の訪問看護の実践について多くの方に知っていただく、とても素晴らしい機会です。受賞エピソードが多くの方に読まれることで、在宅で療養されている方に訪問看護の存在を知っていただくことや、「訪問看護師になりたい」と思う仲間が増えることを期待しています。そして、こうした取り組みが継続されることを願っています。 長嶺 由衣子さん(東京医科歯科大学国際健康推進医学 非常勤講師)当初このイベントのお話を聞いたとき、素直に素晴らしい取り組みだと思いました。表彰式では、受賞者の方々からも「受賞が励みになった」「自分たちのやっていることに自信が持てた」という声が聞かれました。こうしたアプローチや応援は大事だと思います。皆さん本当は、お話ししたいエピソードがたくさんありますよね。それを言語化することで仕事の振り返りになり、表彰されるとより自信になる。そして、「訪問看護の魅力を伝える伝道師」として動こうという意識も生まれる。色々な意味で波及効果がある取り組みだと思います。 大石 佳能子さん(医療法人社団プラタナス/株式会社メディヴァ 代表取締役)初開催ながら数多くのエピソードが投稿され、表彰式にも多くの方が集まって、素晴らしい成果が出ていると思います。また、表彰式には全国の中でも想いや技術がトップレベルの方々が集まりました。同じような部分で悩み、乗り越えようと頑張っている皆さんなので、初対面でも結束するのが早いですね。訪問看護というニッチな分野だからこその連帯感もあるように思います。全国に訪問看護師の知り合いがいる、離れていても仲間がいる。そのように業界を支え合っていけるネットワークや連帯感が生まれる予感がしました。 高倉 陽子さん(入賞者/神奈川県)受賞のご連絡をいただいたときは、スタッフや所長をはじめとして、その場にいた全員が絶叫しました(笑)。エピソードの投稿内容も事前にみんなに相談していたので、周囲の支えがあったからこそとれた賞だと思っています。今後、エピソードを色々な方々に知っていただけることがうれしいですし、とても楽しみです。 服部 景子さん(入賞者/北海道)全国各地で一生懸命勤務されている訪問看護師の皆さんと表彰式の場で出会い、お話しできたことをとても光栄に思っています。また皆さんとお会いできる日を楽しみにしています。エピソードの漫画化も、心待ちにしています。 表彰式にご参加いただいた皆さまの集合写真 表彰式にご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。大賞作品の漫画は、2023年4月下旬に公開予定。そのほかの受賞作品についても、順次漫画を制作予定です。ぜひご覧ください。 取材・執筆・編集: NsPace編集部

管理業務への処方箋
管理業務への処方箋
特集
2023年4月4日
2023年4月4日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その1:まずすべきことは何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第10回は、クレームを受けたとの報告がスタッフからあったとき、管理者としてまず何をすべきかについて考えます。 はじめに 「利用者からのクレーム」は、ないに越したことはありません。しかし、クレームがあったときに、管理者として適切な対応ができるよう、事前に考えておくことは有用です。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 管理者としてまずすべきことは何か 講師このケースで議論したいことは、CASEのタイトルにもあるようにクレームを受けるスタッフをどうするかです。まず管理者としてやるべきことは何でしょうか。 Aさん注2桐山さんとの面談が必要です。「訪問に来なくてもよい」と言われた状況を確認したいです。CASEに書かれた情報だけではわからないことが多いです。 Bさん桐山さんとの面談の後は、利用者や家族のところへ伺い、桐山さんからほかの看護師に変更してほしい理由を確認します。その内容から桐山さんと一緒に訪問内容を考えるなどして、解決できることかどうかを判断します。ルート組み替えの場合、誰に行ってもらえばいいか等も考えます。 Cさんルートの組み替えはほかのスタッフへの影響もありますし、桐山さんの今後も考えると、できることなら桐山さんに訪問を継続してもらいたいと私は思います。そのためにもまずは、桐山さんの利用者へのケアを同行訪問で確認したいです。そのときに、看護技術のチェックリストを用意しておいて、できるだけ主観的ではない指標で確認したいです。これができると桐山さんへのフィードバックもやりやすいです。 講師「クレームがあった」と報告を受けたときの、初動対応の案が出てきました。まずは事実確認が大事ですね。桐山さんと利用者、まずはこの二者からの事実確認が大切になります。そして看護技術についてチェックリストを使って確認するという意見も出ました。 クレームを発生させないために管理者ができることは何か 講師初動対応時にやるべきことがいくつか出ました。これとは別に、Cさんは桐山さんに訪問を継続してほしいという意見を持っていましたね。このことについてもう少し伺ってもいいですか。 Cさんクレームがあったときの初動対応としてはみなさんの発言のとおりだと思います。その上で、管理者は、ステーション全体としてクレームが生じないような取り組みもすべきだと思います。利用者から「訪問に来ないで」と桐山さんが言われたことは事実かもしれませんが、ケースの状況を考えてみると、クレームを受けた原因が桐山さんだけにあるとは思えません。桐山さんは入職して3ヵ月です。まだまだ支援が必要だと思います。 次回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」について考えていきます。 >>次回「その2:桐山さんが抱えている問題は何か」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com編集:株式会社メディカ出版

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