2024年6月4日
訪問看護認定看護師トークセッション 人材育成編【セミナーレポート前編】
2024年2月3日に実施した、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「訪問看護認定看護師によるトークセッション〜人材育成と地域連携の実例紹介~」。訪問看護認定看護師の野崎加世子さん、富岡里江さんをスピーカーにお迎えし、トークセッション形式で、訪問看護が抱える課題や解決方法を考えました。
今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、訪問看護師や新任管理者の教育についての議論をまとめます。
※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。
【講師】野崎 加世子さん初代訪問看護認定看護師協議会代表理事、現監事。「これからの在宅医療看護介護を考える会」代表。富岡 里江さん訪問看護ステーションはーと勤務。POOマスター、「渡辺式」家族看護認定インストラクター。東京都訪問看護教育ステーション事業における研修の企画・運営も担当。【ファシリテーター】中村 優子さんフリーアナウンサー・インタビュアー。著名人のYouTubeチャンネル運営他、著者インタビューを多数手掛ける。
※本文中敬称略
人材不足の現場における教育の難しさ
中村: 訪問看護師の人材不足についてはよく耳にしますが、実際のところはいかがでしょうか?
富岡: 看護師のみなさんは、訪問看護に対して「緊急時にひとりで対応できるか不安」「オンコール対応の負担が大きいのでは」といった懸念を抱くようです。確かに、訪問看護はあらゆる年齢層や疾患、障害をお持ちの利用者さんを看ます。豊富なスキルや経験が必要だと考えて、不安ゆえになかなかチャレンジできない気持ちもわかります。
また、訪問看護師の中にも勤務時間を限定する雇用形態を選ぶ方は多いため、現場ではオンコール当番を含めてスタッフの確保に苦労していると思います。
中村: そのような厳しい状況下で、教育面ではどのような課題がありますか?
富岡: 全国の訪問看護ステーションにおける看護職の平均在籍人数は、わずか5人程度。看護職の人数が少ない小規模な訪問看護ステーションでは、OJT、OFF -JTを行おうにも限界があるのが現状です。
たとえば新任者教育のために同行訪問を行うにしても、得られる訪問料はひとり分なのに対し、ステーションは2人の訪問看護師を派遣した分の負担を背負うことになります。また、スタッフを外部研修に参加させると、訪問の計画を組むのが難しくなるでしょう。
中村: 人手不足な中で、収益や日程調整などの課題があるのですね。
富岡: そうですね。それに利用者さんが置かれている状況は実にさまざまで、同じケースは一例もなく、学びには終わりがありません。これも訪問看護の難しさではないかと思います。
新任管理者に対する教育の重要性
中村: 新任管理者の教育にも大きな課題があると伺っています。
富岡: はい。最近は訪問看護未経験のまま管理者になる方が増えていて。訪問看護に関する制度や適切な運営方法、利用者さんやご家族との適切な関わり方などがわからないまま管理業務に当たらなければならず、悩む新任管理者さんが多いようです。
野崎: 2023年4月時点で、全国の訪問看護ステーションは1万5,000ヵ所を超え、新設数は1年間で約1,800に上ります。一方で1年間に700〜800の事業所は閉鎖、もしくは休止してしまうんです。
その主な原因は、富岡さんがおっしゃったように、管理者に訪問看護ステーションをきちんと運営する知識やノウハウが不足していること。せっかく「訪問看護をやりたい」と情熱をもった新任管理者さんが行動を起こしても、在宅特有のレセプト業務や地域連携といった難しい壁にぶつかり疲弊してしまいます。こうした問題をなんとか解決すべく、私たちも研修を行っているんです。
中村: どのような研修なんですか?
野崎: たとえば、岐阜県では訪問看護認定看護師協議会に所属する15人の訪問看護認定看護師が集まって、地域の新任管理者や着任3年以内の訪問看護師が悩みを打ち明け、解消できる場を提供しています。管理者同士、新人同士でお互い悩みを話し合ってもらうんです。
こうした研修会は、日本訪問看護財団や事業協会が全国で行っています。新任管理者、新人訪問看護師の育成のためには、研修会やステーション内のケアカンファレンスなどを頻回に行うのが重要だと考えています。
富岡: 私が所属する事業所にも、新任管理者の方が体験研修にいらっしゃり、その後も引き続き相談を受けるケースは多いです。ただ、時間がないために相談先を探せず、ひとりで問題を抱え込んでしまう方も少なくないと思います。
>>関連記事日本訪問看護認定看護師協議会や訪問看護認定看護師の取り組みについてはこちら「訪問看護認定看護師」シリーズ一覧https://www.ns-pace.com/series/certification-nurse/
訪問看護師、新任管理者の相談先
中村: 今問題を抱えている方は、どちらに相談するのがよいでしょうか?
野崎: 各都道府県にある訪問看護ステーション連絡協議会や、訪問看護支援センターが相談に乗ってくれますよ。私たちのような訪問看護認定看護師や在宅ケア認定看護師も頼ってほしいです。訪問看護認定看護師は全都道府県にいるので、訪問看護ステーション連絡協議会ホームページを参照し、ぜひお近くの者にご連絡ください。
また、連絡協議会では、コンサルテーション事業やメール相談も行っています。実際にたくさんの管理者さんから相談を受けているので、みなさまも遠慮なく活用してください。あとは、経験豊富な訪問看護師からアドバイスをもらうのも手だと思います。
中村: ありがとうございます。
>>後編はこちら訪問看護認定看護師トークセッション 地域連携編【セミナーレポート後編】
執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア