2023年1月24日
マネジメントに必要な心構えとは 訪問看護管理者のためのメンタルヘルスケア
この連載では産業医学が専門の精神科医・西井重超先生に、訪問看護にまつわるキャリア別メンタルヘルスケアについて解説いただきます。今回は、管理者としての心構えをご紹介しつつ、ストレスとの向き合い方を考えていきます。
訪問看護ステーションで働く看護師は20~60代まで幅広い年齢層の方がいますが、特に多い世代は40~50代のようです。管理者の年齢層も40~50代が多く、非常勤で働く訪問看護師も同年代が多いようです1)。この年代に限っていうと、管理者か非常勤かの二極化と言ってもよいかもしれません。キャリアとしては訪問看護10年目前後から管理者になる人が出てきます。
スタッフはサラッと辞めてしまうと理解しておく
管理者はマネジメントが業務として含まれてくるので、看護技術とは別のスキルと心構えが必要になってきます。まず、マネジメントにおいて理解しておくとよいのは「スタッフは辞める」ということです。極端な表現かもしれませんが、ビックリするほどサラッと辞めます。 スタッフのマネジメントも管理者の重要な業務ですので、突然の退職は、当然想定しておく必要があります。
よくあるハラスメントと捉えられかねない事例ですが「長く続けるのが当然、途中でやめるのは問題」などと自身の人生観やキャリアを他人に押し付けることはよくありません。相手にも苦痛になりますし、自分と重ね合わせようとする考え方自体が柔軟な対応の邪魔になり、自分自身を悩ませ苦しめることになります。
スタッフを信頼しても過剰な期待はしない
マンパワーは流動的で、いつ誰が急に休んだり辞めたりするかはわかりません。そのため経営する側としてはマンパワー的に少なくとも0.5人分程度の余剰人員で回すくらいの人員管理は必要でしょう。もしあなたが経営者でない管理者であって、経営者が余裕を持った人員配置を理解してくれない職場で働いているなら、その職場自体は今後改善の余地が非常に大きいと思われます。
管理者の苦労は管理者にならないとわかりません。管理者をめざそうとしている人であれば少しはわかってくれるかもしれませんが、そうでない人にとってはわかる必要のない世界なのです。管理者業務もステーション業務の1つなのだから理解しようとするのは当然ではないかとの意見もあるでしょう。でもそれは、あなたが管理者になるキャリアを歩んできた人だからそう思うのであって、他の人も同じ考えであるとは限りません。
主人公が海賊王をめざす某人気漫画を例示してよく言われるように、今の世代は、導くリーダーよりも一緒に戦う仲間を欲しているという感覚を知っておいてもよいでしょう。管理者のメンタルヘルスがテーマなのに、管理者にとって厳しい話をしているようですが、「スタッフを信頼するけれど非現実的な期待をしない」ことが上手に管理者を務めるための心構えです。思い通りにならないことが多いと非常にストレスを感じます。精神医学で言う認知(物事の受け止め方)を変える、つまりこの場合は思い通りにならないと理解することがストレス軽減につながります。
板挟みの孤独と強すぎる正義感
日常診療をしていると、訪問看護ステーションの管理者が受診されることはしばしばあります。管理者が抱える悩みは大体2つのパターンに分けられます。
最も多いのは、裁量権の小さい管理者で経営者と他のスタッフとの間に挟まれているパターンです。結果、自身が業務を背負ってしまい、過重労働に陥ってしまいます。管理者は自分自身がトップ、もしくはトップに近い立場であるため、相談先がほとんどありません。まじめで考え込んでしまう人ほど、一人で悩みを抱えこみがちになります。
割合は減りますが、もう1つは自分の正義感に振り回されるパターンです。「スタッフがよく辞めていく」「スタッフから怖いと言われる」「正しいことを伝えているのに相手がなぜか泣き出す」、このような経験がある場合、注意が必要です。「あなたのためを思っている」「患者さんのためを思っている」といった言葉とともに強い怒り、もしくは強い悲しみが湧き出てくるタイプの人が多いです。
このパターンの方は周囲に疲弊して受診をされるのですが、実は周囲もこの人に疲弊しているという負の連鎖が起こっています。正論を突き通そうとするあまり、バランスのよい最適解に妥協することができず、周囲とぶつかることが多いです。そして、自分の正論を押し付けて揉めに揉めた結果、スタッフへのパワーハラスメントになることがあります。この場合、本人も周囲が理解してくれず自分がしんどくなっていき、被害者のような感覚になります。さらに収拾がつかず、スタッフもあきれ果てて次々に辞職していくパターンを取ります。
仲間を作ってストレス発散
このように厳しい立場にある管理者ですが、行き詰まらないためにも取り組んでおきたいことがあります。それは仲間を作ることです。トップになれば自分と同列で話せる人は職場にはほとんどいないかもしれません。その場合、職場以外のコミュニティで仲間を作り、相談してみるのはいかがでしょう。業務上の役割や立場を意識せずに、悩みを話したりもできますし、人の話を聞くことで自分と他の人の違いを知ることもできます。暴走しているようであれば気づきを得ることも可能です。よいストレス発散にもなります。
通院してくる方に聞くとストレスの発散が苦手な人もいます。問題解決に目を向けすぎて、問題が消えていない状況で小休止を取るのはよくないことだと考えてしまい、上手に発散ができないのです。旧知の知人と疎遠になっているなら、習い事を始めて新しい仲間を作ってもいいですし、学会のような懇親会に参加するのもよいでしょう。医療分野に限らず、経営者勉強会の集まりもありますし、今はSNSのようにインターネットを利用していろいろな人とつながることもできます。職場の行き来だけになっている人は、人と会うことを考えてみてはいかがでしょうか。
執筆 西井 重超はたらく人・学生のメンタルクリニック 院長 ●プロフィール日本精神神経学会専門医・指導医。元東京アカデミー看護師国家試験対策講座講師。奈良県立医科大学病院精神科を経て産業医科大学精神医学教室へ移り、在籍中に助教・教育医長を歴任。現在は大手企業の専属産業医・次長として勤務しながら、「はたらく人・学生のメンタルクリニック」の院長を務める。専門は医学教育、職場・学校のメンタルヘルス、成人期ADHD。著書に『精神疾患にかかわる人が最初に読む本』(照林社) がある。 記事編集:株式会社照林社
【引用文献】1)日本看護協.「2014 年 訪問看護実態調査 報告書」,https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/report/2015/homonjittai.pdf2022/10/25閲覧