セミナーレポートに関する記事

退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス
退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス
特集 会員限定
2024年10月22日
2024年10月22日

退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス【セミナーレポート後編】

2024年7月12日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーのテーマは、在宅緩和ケアと病院との連携。講師には、訪問看護と病院の地域連携部門の両方を経験した廣田芳和さん(楓の風在宅療養支援株式会社)をお招きしました。 セミナーレポートの後編では、退院支援・退院調整の具体的なプロセスを中心にまとめます。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら在宅緩和ケアの課題と退院支援・退院調整の基本【セミナーレポート前編】 【講師】廣田 芳和さん楓の風在宅療養支援株式会社 スーパーバイザー/元 緩和ケア認定看護師(~2024年6月)神奈川県内の病院で約13年にわたって勤務した後、「在宅療養支援ステーション楓の風」に入職し、管理者も経験。その後は前職の病院に戻り、地域連携部門に約3年間勤め、再び訪問看護の現場に戻って現在に至る。 退院支援・退院調整のプロセス 退院支援・退院調整は3段階に分けられ、以下のような内容を実施します。 第1段階:外来入院が決定してから入院後3日以内入院前の生活状況を調査するとともに、入院理由・目的・治療計画などをふまえて退院時の状態像を把握。また、退院支援の必要性を医療者と患者さん、ご家族で共有。第2段階:入院3日目から退院までアセスメントを継続し、チームで情報の共有や支援策の検討を実施。また、患者さんとご家族が疾患について理解、受容するための支援や、退院後の生活イメージの構築も行う。第3段階:必要になった時点から退院まで退院を可能にする制度・社会資源の調整や、退院前カンファレンスを実施。 段階ごとの詳細やポイントも見ていきましょう。 第1段階の内容とポイント 入院前面談 多くの病院では、患者さんの情報を把握し、患者さんに情報を提供するための面談を入院前に行います。主な面談の内容は以下のとおりです。 ・身体・社会・精神的な情報の把握 ・現在利用している介護サービスの把握・褥瘡や栄養状態の評価・服薬中の薬の把握・退院困難な要因の有無の評価・入院中に行われる治療・検査や入院生活についての説明 退院困難要因の把握 早期にスクリーニングを実施し、入院理由や目的、治療計画などをふまえ、退院困難要因の有無を予測します。なお、ほとんどの患者さんが何らかの項目に当てはまるのが実状です。 退院支援の必要性の共有 患者さんとご家族の病状への理解度を確認。退院後の見通しの説明も行います。 第2段階の内容とポイント 継続的にアセスメントし、チームで支援 多くの場合、スクリーニングに基づいたカンファレンスを実施し、情報を整理しながら具体的な支援方法を決めていきます。 退院後の生活イメージを相談・構築 患者さんやご家族の不安を一つひとつ明確にし、在宅に戻る自信がもてるように支援します。不安を払拭するには以下3つの点を意識し、医療・看護を在宅モードに変換することが必要です。 (1)今後の変化を予測し、必要な処置や治療に関する準備・調整をしておく(2)自己管理がどの程度可能か、サポート体制はどのくらい整っているかを把握する(3)生活の場に合わせて可能な限りシンプルに管理できる方法を考える なお、ご家族の介護力をふまえて訪問看護の利用が決まっていれば、この段階で退院指導に訪問看護師も携われると、「在宅での現実的な方法」をより見つけやすくなるはずです。これは、退院前カンファレンスの意義にも通じると思います。 また、入院に伴うADLの低下を最小限にするよう調整すること、家族が不安な思いを表出できるようにすること、食事や排泄、入浴などのアセスメントと支援を行っていくことが重要です。 患者さんとご家族の疾患理解・受容への支援 第2段階では、患者さんとご家族が疾患について理解し、受け入れるための支援も行います。例を挙げながら見ていきましょう。 入院時の患者さんの情報 肝臓がんを患い、外来で化学療法を続けていたが、緊急入院1ヵ月前から食事量が減り、体重も5kg減少体力が低下しており、トイレに行くのがやっとの状態腹部の痛みあり 検査の結果 がんは腹膜にも転移し、腹水が溜まっていた末期状態と診断医療用麻薬が使用され、痛みは改善傾向 検査結果をふまえ、医師から病状と新たな治療選択肢がないことが説明され、「残された時間の過ごし方(病院、ホスピス、家のどこで最期を迎えるか)を考えてほしい」と伝えられました。本人とご家族はもちろんショックを受けて動揺しますが、この先の選択にはあまり多くの時間はかけられません。 この場合、病棟や退院支援部門の看護師は以下のような関わりをします。 ・時間の許す限り不安な気持ちに寄り添う・返答できる質問には真摯な態度で丁寧に答える・利用者さんとご家族の希望を伺う・転帰先をイメージできるよう、ホスピスやそれに類似する施設、もしくは在宅での生活についてそれぞれわかりやすく説明する 特に、不安から「在宅療養は不可能」と判断してしまうご家族が非常に多いです。適切なサービスを利用すれば選択できることを、きちんと説明しなければなりません。 また、以前は病棟看護師が在宅療養は困難と判断してしまうケースもありましたが、最近では在宅緩和ケアの知識をもった退院支援部門の看護師やソーシャルワーカーに対応を任せる病院が増加しています。そのため、説明不足が原因で在宅を選べなくなる事例は減ってきています。 第3段階の内容とポイント 第3段階で行う退院前カンファレンスには、3つの目的があります。 (1)包括的なケアのための情報の共有(2)患者・家族が安心して退院できる環境づくり(3)安定した退院後の療養生活の確保 本来は、地域ケアが必要な全ケースで退院前カンファレンスを行うのが理想的でしょう。しかし、人員が潤沢ではない現状では難しいため、必要性が明確なケースに絞って行われています。 退院前カンファレンスでは、以下のような点を確認します。 ・住環境や家族との関係を含めた利用者さんの基本情報・病名や予後告知の状況、それに対する本人とご家族の理解度・本人とご家族の意向 ・転帰先(在宅or施設)・住環境の改修(手すりの設置や車イスの導入)の必要性・訪問看護指示書をはじめとした書類の内容・薬の処方(退院時処方の量や訪問診療との調整)・退院時の移送方法 そのほか、医療管理の状況や課題を地域ケアチームへ引き継いだり、訪問看護の頻度や内容、その費用を説明したりもします。必要に応じて、ヘルパーやデイサービス、訪問リハビリの活用検討も行います。 * * * 在宅緩和ケアに移行するにあたっての流れや課題を見てきましたが、やはり重要なのは訪問看護と病院の連携です。互いを「同じ地域の一員であり、同じ志をもつ者」と認識し、協力することが、よりよいサービスにつながるはず。ぜひ歩み寄る意識をもっていただけたら幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフィス「在宅ケア移行の為のヒント」https://www.utsunomiyahiroko-office.com/zaitaku.html2024/08/26閲覧

在宅緩和ケアの課題と退院支援・退院調整の基本
在宅緩和ケアの課題と退院支援・退院調整の基本
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2024年10月15日
2024年10月15日

在宅緩和ケアの課題と退院支援・退院調整の基本【セミナーレポート前編】

2024年7月12日に開催したNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「【事例で解説】在宅緩和ケアの課題&病院との連携」。在宅における緩和ケアの課題や退院支援・退院調整の具体的な工夫などを、訪問看護と病院の地域連携部門の両方を経験した廣田芳和さん(楓の風在宅療養支援株式会社)に教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、在宅緩和ケアの課題の概要と、その解消に向けて訪問看護師に求められることなどをまとめました。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】廣田 芳和さん楓の風在宅療養支援株式会社 スーパーバイザー/元 緩和ケア認定看護師(~2024年6月)神奈川県内の病院で約13年にわたって勤務した後、「在宅療養支援ステーション楓の風」に入職し、管理者も経験。その後は前職の病院に戻り、地域連携部門に約3年間勤め、再び訪問看護の現場に戻って現在に至る。 在宅緩和ケアの課題 在宅緩和ケアの難しさは、利用者さんによってアプローチの内容やタイミング、求められることが異なる点にあります。 例えば、がんの利用者さんは非がんの方に比べて「訪問看護開始から死亡までの期間」が短く1)、スピーディーな対応が求められます。一方で、非がんの慢性疾患を抱える利用者さんは予後予測が難しく、死にゆく過程は多様。治療の必要性も最後まで残されており、「終末期」の定義づけが難しいため、緩和ケアが必要になる時期はさまざまです。また、非がん疾患の高齢者の意思決定支援2)では、本人がどう生きたいかを明確にして、その実現を支えることが求められます。 このように、在宅緩和ケアに取り組むにあたっては、医療機関との情報共有が重要になります。そこで必要になるのが、退院支援・退院調整。特に慢性疾患の利用者さんのケースでは、退院支援・退院調整がケアの質を左右するといっても過言ではありません。 退院支援・退院調整とは 退院支援・退院調整とは、それぞれ以下の内容を指します(具体的な内容やポイントは後編でご紹介します)。 退院支援患者さんが自身の病気や障害について理解し、退院後も必要な医療・看護を受けながらどこでどのように生活を送るか、自己決定するための支援。退院調整退院支援で明らかになった想いや願いを実現するために、ご家族の意向をふまえて、「環境・人・物」を社会保障制度や社会資源につないでいく過程。 退院支援・退院調整は、患者さんの「こう生きていきたい」という想いに基づき、人生の再構築をサポートすることといえるでしょう。 少子高齢化が進み、医療費が増加している今、在院日数の削減は全病院の共通の課題。その解消のカギとなるのが、より効率的な退院支援・退院調整です。その重要性はますます認識されており、病院で専門の部門や担当者が設けられたり、関連する診療報酬が追加されたりする動きもあります。 病院との連携に関する今後の課題 在宅緩和ケアへの移行に伴う「訪問看護ステーションと病院との連携」においては、さまざまな課題があります。 多くの病院で看護師が不足する今、一人ひとりの退院後を見据えて退院支援部門につなげたり、訪問看護への依頼を考えたりする時間が十分にとれないことは珍しくありません。また、連携に関する教育が行き届いていないケースもあると思います。 そのために訪問看護師のみなさんにお願いしたいのが、病院関係者への積極的な働きかけです。連携の基本は、相手を知り、理解すること。患者さんが入院している間に退院前カンファレンスをはじめとした話し合いの機会をもち、在宅緩和ケアについて一緒に考えることができれば、連携体制はよい方向に変わるはずです。そんな双方の歩み寄りが、今後の在宅緩和ケアにおける連携で最も重要になると思います。 >>後編はこちら退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】1)厚生労働省.「訪問看護について」(平成23年11月11日)P.30https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001uo3f-att/2r9852000001uo71.pdf2024/08/26閲覧2)藤田愛.『「最期の場所」を決める 最終的な意思決定支援とは』.訪問看護と介護,医学書院.2015,20(2)

2024年度診療報酬改定 DX推進と今後の展望
2024年度診療報酬改定 DX推進と今後の展望
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2024年9月24日
2024年9月24日

2024年度診療報酬改定 DX推進と今後の展望【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)では、2024年6月14日に、オンラインセミナー「2024年度診療報酬改定 訪問看護の注意点&今後の展望」を開催しました。講師にお招きしたのは、訪問診療医で、医療・介護分野のコンサルタントとしても活躍する久富護先生です。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、利用者さんの状態やDX推進に応じた変更点や、今後の診療報酬改定の見通しなどについてご紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら2024 年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価【セミナーレポート前編】>>関連記事2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)解説シリーズ 【講師】久富 護 先生医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医/株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 マネージャー/医療法人寛正会 水海道さくら病院 地域包括ケア部長/社会医学系専門医/医療政策学修士/中小企業診断士大学病院、民間病院に内科医として勤務する中で、医療・介護業界が抱えるさまざまな課題に直面。現在は訪問診療医として臨床現場に立ちつつ、業界の課題解決を目指し、行政や医療機関に対するコンサルティング支援も行っている。 緊急訪問看護加算の変更点 厚生労働省の調査で、緊急訪問看護加算を毎日算定している訪問看護ステーションが全体の約1%あるとわかり、訪問看護基本療養費の適正化のために緊急訪問看護加算の評価の見直しが行われました。具体的には、以下のとおり区分されています。 月14日目まで 2,650円月15日目以降 2,000円 多くの訪問看護ステーションでは従来どおり2,650円を算定できるかと思いますが、新たな算定要件として、訪問看護記録をつけること、加算理由を訪問看護療養費明細書に記載することが必要になりました。業務負担の増加をふまえると、緊急訪問看護加算は「実質減」と考えられるでしょう。 医療ニーズが高い利用者の退院支援の見直し 訪問看護管理療養費の加算として、「退院支援指導加算」が見直されました。これまでは「1回の退院支援指導が90分を超えた場合」のみ算定できましたが、利用者さんの状態によっては長時間の指導が難しく、頻回訪問が必要になるケースがあることから「複数回の退院支援指導の合計時間が90分超えた場合」も算定できるようになりました。なお、退院支援指導を実施した翌日以降に利用者さんが亡くなったり、再入院となったりした場合も退院支援指導加算を算定可能です(訪問看護基本療養費の算定は不可)。 訪問看護医療DXの推進 訪問看護の領域でも50円の「DX活用加算」が新設されました。現状では、オンライン請求を行い、オンライン資格確認ができる体制を整え、「医療DX推進の体制に関する事項及び情報の取得・活用等についての情報」を事業所内かウェブサイトに掲示することで請求可能です。 ただし、約1年間(2025年5月31日まで)の経過措置のうちに、オンライン資格確認プラットフォームの活用と「医療DX推進の体制に関する事項及び情報の取得・活用等についての情報」のウェブサイト掲載の両方を行う必要があります。なお、ウェブサイトには、以下の情報を明記しなくてはなりません。 ・訪問看護事業を行う事業所であること・重要事項(運用規定概要、職員勤務体制、そのほかステーションが定める重要事項)※介護サービス情報公表システムに記載があれば不要・そのほか、診療報酬項目上求められるもの また、レセプトのオンライン請求開始にあたり、訪問看護指示書に「傷病名コード」の記載が必須となりました。傷病名コードがない場合、監査で訪問看護ステーションにも指導が入る可能性があるため注意してください。 明細書の発行が義務化 明細書の発行が義務化されました。ただし、2025年5月31日までは、現行の領収証を領収証兼明細書※としてもよいとされています。 ※▼領収証兼明細書の一例厚生労働省.「医療費の内容の分かる領収証及び個別の診療報酬の算定項目の分かる明細書の交付について」P.8https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001219498.pdf 診療報酬改定から見える国の方針 2024年度診療報酬改定にあたっては、今後2年間で議論してほしい内容をまとめた付帯意見が出されました。以下は、その概要をまとめたものです。 同一建物施設への訪問看護の規制強化 同一建物居住者への効率的な訪問診療、訪問看護体制の検討を今後さらに進めることが求められています。この2年間で締めつけはきつくなる可能性がある、と考えられるでしょう。 ICTのさらなる推進 中央社会保険医療協議会(中医協)は、ICTを用いた情報連携状況調査の実施を決定。これをふまえ、2年後はさらに踏み込んだ推進の方針が示される見込みです。 他事業者との連携への加算 訪問看護ステーションと他事業者の連携について調査し、実施している事業所に対して加算していく姿勢がうかがえます。 また、厚生労働省が診療報酬改定前に出した基本方針を見ると、働き方改革やDX関連、他事業者との連携、口腔・嚥下・栄養領域の医療の推進は、2022年度に続いてアップデートされています。これらの項目は、今後も重ねて改定されると予想できます。 訪問看護ステーションが今後とるべき方針 訪問看護の利用者数はこの20年間で約10倍になり、医療依存度の高い方がどんどん在宅領域に入ってくるようになりました。また、医療費も増大しています。それを受けて、訪問看護ステーションには、「質の向上」と「量へのさらなる対応」の両立が求められるでしょう。 「質の向上」に向けた具体的な取り組みとしては、重症度の高い方や重い精神疾患がある方への対応、専門資格をもった看護師の配置があげられます。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのセラピストによる訪問看護は、引き続き厳しい評価を受ける可能性が高いでしょう。 「量への対応」では、ICTの活用やタスクシフト・シェアによる効率化があげられます。訪問看護管理療養費の見直しのところで同一建物居住者数が全体の7割未満に設定されたように(前編を参照)、医療機関も訪問看護ステーションも、効率的な事業所に対する締めつけは強化される見込みです。 また、連携面の充実化も重要なポイント。訪問診療医やケアマネジャー、歯科領域との連携が利用者さんにもたらすメリットの調査も行われる予定となっているので、今から意識することをおすすめします。 * * * 今回の診療報酬改定を総括すると、「医療保険と介護保険のすり合わせ」が行われた印象です。繰り返しになりますが、今後は質と量の双方を見据えた対応がより求められるため、組織づくりを含めたサービス提供環境の整備がますます重要に。ぜひ、その点を意識した運営を心がけていただければ幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇厚労省.中央社会保険医療協議会 総会(第560回)議事次第.中医協 総-2.「在宅(その3)」(令和5年10月20日)https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001158972.pdf2024/8/29閲覧〇厚生労働省(2024).「令和 6 年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf2024/8/29閲覧

2024年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価
2024年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価
特集 会員限定
2024年9月17日
2024年9月17日

2024年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価【セミナーレポート前編】

2024年6月14日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「2024年度診療報酬改定 訪問看護の注意点&今後の展望」が実施されました。講師として登壇してくださったのは、訪問診療医で、医療・介護分野のコンサルティング支援も行っている久富護先生です。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、働き方改革や訪問看護ステーションの機能に応じた評価に関する変更点をまとめます。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>関連記事2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)解説シリーズ 【講師】久富 護 先生医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医/株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 マネージャー/医療法人寛正会 水海道さくら病院 地域包括ケア部長/社会医学系専門医/医療政策学修士/中小企業診断士大学病院、民間病院に内科医として勤務する中で、医療・介護業界が抱えるさまざまな課題に直面。現在は訪問診療医として臨床現場に立ちつつ、業界の課題解決を目指し、行政や医療機関に対するコンサルティング支援も行っている。 24時間対応体制加算がアップ 「24時間対応体制加算」が見直され、看護業務の負担軽減への取り組みを評価する区分が設けられ、月1回に限り以下のとおり金額がアップしました。 (1)「24時間対応体制における看護業務の負担軽減の取り組み」の要件を満たす場合6,800円(400円アップ)(2)それ以外6,520円(120円アップ) (1)の「24時間対応体制における看護業務の負担軽減策」には以下ア〜カの6つがあり、アかイのどちらかを含む2つを実施すると要件を満たせます。 (ア)夜間対応した翌日の勤務間隔の確保(イ)夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)まで(ウ)夜間対応後の暦日の休日確保(エ)夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫(オ)ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減(カ)電話等による連絡および相談を担当する者に対する支援体制の確保 (ア)の勤務間隔については、具体的な数字は示されていません。通勤時間や勤務形態・勤務実態を考慮し、職員の休息が確保できるよう、厚生労働省の「労働時間等見直しガイドライン」を参照し、各事業所の実態に即して、定めてください。 なお、上記の要件は、介護報酬の「緊急時訪問看護加算(Ⅰ)」と同じ内容です。介護報酬の考え方が診療報酬にも適用されました。 「24時間対応に係る連絡体制」の見直し 24時間対応体制に係る連絡相談について、一定の条件を満たせば業務負担軽減の観点から保健師・看護師(以下「看護師等」)以外の方が対応してもよいことになりました。 ※詳細な条件は以下をご参照ください。厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」(P.28) 「看護師等以外の職員が利用者や家族からの連絡相談に対応するためのマニュアルが整備されていること」という条件がありますが、マニュアルに記載する内容は以下のとおりです。 地方厚生(支)局長に届出を提出する際には、このマニュアルを添付する必要があります。また、添付は不要ですが、勤務体制、状況をまとめた「連絡体制に関する書類」を用意し、各事務所で保管しなければなりません。 なお、24時間対応体制加算は1人の利用者さんに対し、1つの訪問看護ステーションだけが算定可能(介護報酬上の緊急時訪問看護加算との併算定も不可)なのでご注意ください。 管理者の責務が明確化 訪問看護ステーション管理者が担う責任も明確化されています。複数の事業所の管理について、従来は同一敷地内のみだったものが、距離が離れている場合でも許可されました。 ただし、以下のケースは「管理業務に支障がある」と判断され、認められません。 管理すべき事業所数が過剰な場合(数の規定はなし)管理者が併設の入居施設における看護業務と兼務する場合(併設入居施設の所属の場合)距離が遠すぎて緊急の駆けつけが困難な場合(距離の規定はなし) 事業所の機能に応じた管理療養費の見直し 月の初日の訪問の場合 訪問看護管理療養費が、機能強化型訪問看護ステーション以外を含めて見直されました。月の初日の訪問は、230~400円アップします。ただし、BCP(事業継続計画)の策定が条件となっています。 また、機能強化型訪問看護療養費1の施設基準も着目したいポイントです。算定には、以下にある専門の研修を受けた看護師の配置が要件となります。経過措置は約2年間で、2026年6月1日以降は、本要件を満たさないと算定できません(届出に研修修了を証明する文書の添付が必要)。 専門の研修日本看護協会の認定看護師教育課程日本看護協会が認める看護大学、看護系大学院の課程精神科看護協会の課程特定行為研修 月の2日目以降の訪問の場合 月の2回目以降の訪問における報酬は、横ばい、もしくは減少となりました。 訪問看護管理療養費1と2の報酬額500円の差は、利用者さんの数や医療依存度によって決まります。以下の要件を満たさないケースは、すべて2,500円です。 要件1(必須要件)直近1年の全利用者(介護保険のみの利用者を除く)のうち、同一建物居住者数(訪問看護基本療養費2と精神科訪問看護基本療養費3の算定数で計算)が7割未満。要件2(いずれかを満たせばOK)「月当たりの特掲診療料の施設基準等別表7、8※1に該当する利用者数(直近1年間平均)が4名以上」もしくは「月当たりのGAF 尺度※240以下の利用者数(直近1年間平均)が5名以上」。 なお、訪問看護管理療養費1を届け出るときは、「別表7、8」「GAF尺度40以下」に該当する利用者さんの数を各事業者で記録、保管する必要があります。 ※1 「特掲診療料の施設基準等「別表の7、8」は以下をご参照ください厚生労働省.「○特掲診療料の施設基準等」(平成二十年三月五日)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0※2 GAF尺度については以下をご参照ください厚生労働省.「別紙1 GAF(機能の全体的評定)尺度 」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/dl/s1111-2a.pdf 次回はDX推進に応じた変更点や、診療報酬改定における今後の展望などについて解説いただきます。>>後編はこちら2024 年度診療報酬改定 DX 推進と今後の展望【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf2024/8/29閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/8/29閲覧

利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応
利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応
特集 会員限定
2024年9月3日
2024年9月3日

利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)が2024年5月10日・24日に開催したオンラインセミナー、「【訪問看護】利用者・家族からの暴力・ハラスメント対策(全2回)」。訪問看護師への暴力・ハラスメント対策に取り組む北須磨訪問看護・リハビリセンター所長 藤田愛さんを講師にお招きしました。 セミナーレポートの後編では、暴力・ハラスメントへの具体的な対策、対応方法をご紹介します。 >>前編はこちら利用者・家族からの暴力・ハラスメント 基礎知識【セミナーレポート前編】 【講師】藤田 愛さん医療法人社団 慈恵会 北須磨訪問看護・リハビリセンター 所長/慢性疾患看護専門看護師/ヘルスケア・マネジメント修士(専門職)取得神戸市立中央市民病院、兵庫県立西宮保健所に勤務した後、1998年から訪問看護師として活動。2004年の北須磨訪問看護・リハビリセンター開設時から現職。訪問看護師が利用者やその家族から受ける暴力・ハラスメントの予防・改善に長年取り組む。2022年より「訪問看護師等の暴力・ハラスメント研修プログラム」の開発研究も行っている。 暴力・ハラスメント対策は法的な責務 令和3年度(2021年度)の介護報酬改定に伴い、ハラスメント対策は事業者の法的な責務として義務づけられました。利用者や家族から行われるものは、現在のところセクシュアルハラスメントのみが対象ですが、カスタマーハラスメントや暴力への対策も努力義務とされています。暴力・ハラスメントへの対策は、事業所が取り組むべき課題です。 暴力・ハラスメントへの具体的な対応 暴力やハラスメントへの具体的な対策としては、以下の5つが挙げられます。 対策1:管理者の意思決定、表明 まずは、管理者が暴力・ハラスメントを容認しない、職員を自らが守るという意思決定をし、それを表明する必要があります。事業所の基本方針として書面で共有するのもよいでしょう。ポイントは、繰り返し表明すること。そうでないと、「認知症の利用者さんだから仕方がない」「この程度なら我慢できる」などと、次第に元の状態に戻ってしまいます。 対策2:マニュアルの作成 厚生労働省をはじめ、さまざまな機関や組織でつくられたマニュアルを参考に、まずは1ページだけ作成しましょう。立派なマニュアルを用意しても活用できない場合が多いので、最初は簡単なものを目指すのがおすすめです。 対策3:重要事項説明書への記載 重要事項説明書に暴力・ハラスメントへの対応について明記し、利用者や家族に説明の上、合意をとることも大切です。 とはいえ、初回訪問時の契約の段階で暴力・ハラスメントについて言及すると、関係構築に影響するのではないかと心配される方も多いでしょう。これについては、重要事項説明書の前置きとして「質の高いサービスを提供するためにも、利用者・家族のみなさんに協力してほしい」といった内容を記載し、「お茶やお菓子、お礼の品物を受け取らない」といった事業所の方針のあとに、暴力・ハラスメント行為について触れるとよいでしょう。 信頼関係の構築に配慮しつつ、「職員への暴力・ハラスメント等により、サービスの中断や契約を解除することがある」と説明し、事業所としてのスタンスを明確に示すことが重要です。 対策4:発生時の報告・対応フローの取り決め 職員に「暴力やハラスメントがあれば報告してほしい」と働きかけても、実際はなかなか声が上がりません。虐待と同じで、「これは暴力(またはハラスメント)なのだろうか」といった「ためらい」が報告を遅らせます。 そこでフローに明記したいのは、「暴力・ハラスメントかもしれない」レベルで報告や相談すべきという点です。また、いきなり上司に相談するのは抵抗があるケースも多いでしょうから、被害者が話しやすい同僚からの報告も可能とするとよいでしょう。管理者の耳に話が入れば、当人からでなくても構いません。 対策5:全職員の意識、対応力の向上 職場全体で暴力・ハラスメント対策について繰り返し話し合い、意識を一致させましょう。また、訪問前にリスクを想定する、暴力やハラスメントの予兆に敏感になる、必要に応じて2人訪問を選択するといった対応力の向上にも努める必要があります。 暴力・ハラスメント被害者への歩み寄り 暴力・ハラスメントの被害者が出てしまった場合、非常に大きな精神的ダメージを受けているため、「被害に遭った人ファースト」を徹底しましょう。何よりも心情理解を優先し、寄り添うことが大切です。 二次被害の防止を 暴力・ハラスメント行為は一次被害。二次被害とは、上司や同僚など周囲の人々の言動で傷つけることを指します。被害に遭った医療従事者の多くは「自身の能力が原因で暴力やハラスメントを予測・抑制できなかった」と捉える傾向があり、周囲のスタッフも被害者に原因を探してしまうケースが少なからずありますので注意しましょう。利用者の疾患の有無や境遇に関わらず、暴力・ハラスメントを受けた被害者は悪くありません。 相談シートを活用して歩み寄りを よかれと思って見守るのみにとどめると、被害者が孤立する可能性があります。厚生労働省のハラスメント報告用「相談シート」を活用して歩み寄ることをおすすめします。このシートには現在の心の状態を数字で表現する項目があり、「今はここだけの話にしてほしい」「少人数であれば共有可」「全体に共有可」といったように、共有可否も確認できます。被害者の多くは、「大丈夫?」と聞かれれば「大丈夫」と答えがちです。このシートを使えば、本人の意向に沿った対応を目指せるでしょう。 なお、暴力・ハラスメントは記録する必要がありますが、多くの人の目に触れるカルテにはなかなか書きにくいはず。カルテとは別で記録を残す工夫をすることをおすすめします。 * * * 本セミナーの第2回で行われたグループディスカッションでは、参加者の暴力・ハラスメントへの価値基準の確認や、リスクを判断・回避するための「KYT(K:危険、Y:予知、T:訓練/トレーニング)」ワークを実施しました。各事業所でも定期的なトレーニングや情報共有の場を設けていただき、一人でも多くの訪問看護師が主体的に暴力・ハラスメント対策に取り組めるよう、体制を整えていただけたらと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇厚生労働省.「介護現場におけるハラスメント対策」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05120.html2024/8/22閲覧〇厚生労働省. 社会保障審議会「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」(2021年1月18日)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000750362.pdf2024/8/22閲覧〇厚生労働省. 株式会社 三菱総合研究所.「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」令和4(2022)年3月改訂https://www.mhlw.go.jp/content/12305000/000947524.pdf2024/8/22閲覧

利用者・家族からの暴力・ハラスメント 基礎知識
利用者・家族からの暴力・ハラスメント 基礎知識
特集 会員限定
2024年8月27日
2024年8月27日

利用者・家族からの暴力・ハラスメント 基礎知識【セミナーレポート前編】

NsPace(ナースペース)では、2024年5月10日・24日に、オンラインセミナー「【訪問看護】利用者・家族からの暴力・ハラスメント対策(全2回)」を開催しました。講師として登壇してくださったのは、北須磨訪問看護・リハビリセンター所長で、利用者・家族からの暴力・ハラスメント対策に長らく尽力している藤田愛さんです。 本セミナーでは講義とグループディスカッションを行いましたが、今回は講義の内容を前後編に分けて記事化。前編では、暴力・ハラスメントの基礎知識として、その内容や実態、訪問看護の現場ならではのリスクなどをまとめます。 【講師】藤田 愛さん医療法人社団 慈恵会 北須磨訪問看護・リハビリセンター 所長/慢性疾患看護専門看護師/ヘルスケア・マネジメント修士(専門職)取得神戸市立中央市民病院、兵庫県立西宮保健所に勤務した後、1998年から訪問看護師として活動。2004年の北須磨訪問看護・リハビリセンター開設時から現職。訪問看護師が利用者やその家族から受ける暴力・ハラスメントの予防・改善に長年取り組む。2022年より「訪問看護師等の暴力・ハラスメント研修プログラム」の開発研究も行っている。 暴力・ハラスメントの種類と内容 訪問看護において発生しうる暴力・ハラスメントは、以下の4つが挙げられます。 身体的暴力 殴る、蹴る、ものを投げるといった物理的な攻撃を加える暴力。 精神的暴力 大声で怒鳴る、または怒鳴り続けるなど、苦情・クレームの範囲を超えた言葉や態度で攻撃する暴力。 セクシュアルハラスメント 性的嫌がらせ全般。例えば、訪問時にわざとアダルトビデオを流したり、入浴介助のために看護師が着替えているところを盗撮したりといった例がみられます。 カスタマーハラスメント 看護師の些細なミスをあげつらって執拗に攻撃する、土下座を要求するなどといった、過剰な要求や不当な言いがかり。近年特に増えており、相談や研修の依頼が多く寄せられています。 暴力・ハラスメント行為者は、看護師に対し、「利用者およびその家族の要求にはすべて応えるべき」と考えています。その要求の背景には、訪問看護サービスへの過剰な期待や、社会への不満、孤独感、挫折感の発散といった自己中心的な理由がある場合が多いのです。 暴力・ハラスメントの実態 一般社団法人全国訪問看護事業協会から2019年に発表された「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業 報告書」1)によると、全業務期間の中で何らかの暴力・ハラスメントを受けた経験がある方は、全体の半数近くに上りました。具体的な内訳は、身体的暴力が45.1%、精神的暴力が52.7%、セクシュアルハラスメントが48.4%です。 訪問看護師は「よい看護を提供したい」という思いが強いがゆえに、利用者からの過剰な要求に応じることがあります。そして、利用者やその家族からの暴力・ハラスメントに直面しても「仕方がない」と諦め、受け入れてしまう状況が少なくありません。しかし、利用者や家族を大切にし、よりよい看護を提供することと、暴力やハラスメントを受け入れることは同義ではありません。これらをきちんと区別し、暴力やハラスメントを容認しない姿勢が必要です。 自宅訪問における暴力・ハラスメントのリスク 訪問看護における利用者・家族からの暴力・ハラスメントのリスク要因をみていきましょう。 利用者・家族側のリスク要因 利用者・家族側のリスク要因としては、以下のようなものがあります。 疾患に伴う幻覚やせん妄などの症状がある治療や介護について適切な支援を受けられていない違法行為や暴力行為をした過去がある、攻撃的な言動がみられる、人間関係にトラブルを抱えているといった生活歴や背景がある訪問看護サービスへの過度な期待や誤解がある 利用者の症状や生活背景の把握に努めるとともに、サービスの提供範囲や看護の内容を契約書や看護計画に反映し、正確に理解していただくよう働きかけることが大切です。 事業所側のリスク要因 事業所の管理者・経営者の暴力やハラスメントに対する意識が低いと、トラブルが起きた際に初動が遅れてしまい、同様のトラブルが繰り返されるリスクも高まるでしょう。暴力・ハラスメントの予防や撲滅には管理者・経営者の意識が重要です。 環境のリスク要因 訪問看護は、基本的に密室で1対1、家族がいれば1対多数の状況になるため、暴力やハラスメントが行われた際、判断や証明が難しい環境といえるでしょう。病院や施設のように近くにほかの職員がいないので、応援要請にもすぐには応えてもらえません。また、一般家庭にはさまざまな物品があるため、それらが暴力に使用される可能性も。これも大きなリスクと考えられます。 暴力・ハラスメント対策を行う目的と目標 利用者や家族から訪問看護師への暴力・ハラスメント対策の目的は、訪問看護師の基本的人権を尊重することと、質の高いケアを提供することにあります。訪問看護師の安全が脅かされ、心身に悪影響があれば、質の高いケアの継続的な提供は阻害されます。 ここで忘れてはいけないのが、「被害者の心への影響」です。暴力・ハラスメントが起こると、「適切なアセスメントがされなかったのでは」と被害者である訪問看護師個人の問題にされる傾向があります。これによって被害者が我慢したり、自身の未熟さを責めたりして、心の健康を損なうケースが生じるのです。 そして暴力・ハラスメント対策の目標は、暴力・ハラスメントの発生防止に努めること。また、被害が起きてしまったら最小限にとどめることです。 次回は暴力・ハラスメントへの具体的な対応や被害者への理解・二次被害の防止について解説します。>>後編はこちら利用者・家族からの暴力・ハラスメント 対策&対応【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】1)一般社団法人全国訪問看護事業協会「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業 報告書」平成31(2019)年3月https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/h30-2.pdf2024/8/22閲覧

【現地開催】専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア セミナーレポート
【現地開催】専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア セミナーレポート
特集
2024年8月20日
2024年8月20日

【現地開催】専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア セミナーレポート(6/2開催)

2024年6月2日(日)に、東京の銀座駅すぐの会場にてNsPace主催の対面セミナー「専門家に学ぶ!奥の深い爪のケア」を開催しました。ご登壇いただいたのは、看護におけるフットケアの第一人者である西田壽代さん。アシスタント講師として医療フットケアスペシャリストの大慈めぐみさんにもお越しいただき、「見る・聞く・触れるでコツをつかんでやってみる!」をテーマに、爪ケアのイロハを講義いただきました。約4時間にわたるセミナーの様子をダイジェストでお届けします。  【講師】西田 壽代さんJTFA(日本トータルフットマネジメント協会)会長足のナースクリニック代表/足の専門校スクールオブぺディ専任講師皮膚・排泄ケア認定看護師/日本フットケア・足病医学会認定フットケア指導士聖路加国際病院、東京海上ベターライフサービス株式会社、駿河台日本大学病院を経て2010年より「足のナースクリニック」代表を務める。病院や高齢者施設、訪問看護ステーションなどと提携し、フットケアや皮膚・排泄ケア分野におけるスタッフ教育や患者ケア、多職種連携などに取り組む。著書に『実践!介護フットケア 元気に歩く「足」のために』(講談社)など。【アシスタント講師】大慈 めぐみさん訪問看護ステーション ナースであんしん湘南 管理者JTFA(日本トータルフットマネジメント協会)認定の医療フットケアスペシャリストとして活躍し、NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」にて入賞。「足の爪切りから始まる看護」と題して、心に響くエピソードを投稿してくださいました。 座学で爪ケアの基礎知識を学習 巻き爪や肥厚爪、白癬菌に感染した爪など、在宅療養者の爪は十人十色。座学では、動画を用いながら、爪ケアの重要性や医療行為の範囲、爪切り前のアセスメントのポイントなどが解説されました。爪の構造を理解し、器具を正しく使用することは、安全な爪ケアの第一歩となります。 中でも参加者が興味深く取り組んでいたのは、一人ひとりの爪の形に合わせた「爪切り設計図」。鉛筆等で爪に直接ガイド線を書き込み、その線に沿って爪切りを進めます。参加者は、真剣に爪各部の名称や構造を確認しながら設計図作成のポイントを学習していました。座学の終盤には「爪白癬で爪がポロポロと崩れてきてしまう方は、どこまで切れば良いのか?」「上を向いて生えている爪はどう対処すべきか?」などの質問も飛び交いました。 西田さんの分かりやすい講義に引き込まれる参加者の皆さん 専門家が爪ケアのプロセスを実演 座学の後は、アシスタント講師の大慈さんがモデルになり、爪切りのデモンストレーションが行われました。ニッパーや爪用ゾンデ、爪やすりなどの専用器具の紹介や使用方法をはじめ、足指の支え方から角質や爪垢除去のポイントも丁寧に解説。爪切り設計図を作成する際の視点や爪切りのコツ、爪やすりの使い方のコツなども実演されました。 実演中、スクリーンに映し出された先生の手元を参加者全員が食いいるように見つめ、講義に熱中していました。 専用器具の使い方も丁寧に実演 デモンストレーションの後は、各テーブルに配置された足型模型を使用し、参加者の皆さんも技術習得に向けて練習をスタート。2人1組になり、爪切り設計図の作成から爪切りの実践まで、正しく安全にケアするための実技演習を進めました。 誤った爪切りは、皮膚の損傷や出血などのトラブルにつながるだけでなく、巻き爪の原因にもなります。お互いにニッパーの持ち方や使い方などを丁寧に確認し合いながら、慎重に実技を進める様子が印象的でした。  先生のアドバイスをもとに足型模型で爪ケアを実践 バケツや洗面器不要の泡足浴を体験 模型での練習を終えた後は、いよいよ参加者同士で爪ケアの実践です。まずは医療的スキンケア(保清)のひとつである「泡足浴」から実践。ビニール袋と少量の水、ボディーソープを使用した画期的な洗浄方法に参加者からは驚きの声が上がりました。 「この方法ならバケツや大きい洗面器などの道具がそろわなくても、すぐに実践できる」「寝たきりの患者さんの保清にも活かせそう」といった声が聞かれたほか、「ビニールのくしゅくしゅとした感覚や泡が気持ち良い!患者さんのケアに役立てたい」といった声も挙がり、会場全体が一気に賑やかな雰囲気に包まれました。 泡足浴を実践し合い、会場は明るい雰囲気に 爪切りも実習し、現場での実践力を養う 保清の後は、参加者同士で爪周りの角質除去や爪切りを実践。講師の西田さんと大慈さんが各テーブルを回りながら、正しい爪切りに欠かせない「爪切り設計図」の作成のコツをはじめ、足の支え方、ニッパーの持ち方などの一連の流れを直接指導しました。 専門家から直接指導を受け、すぐに実践 参加者の皆さんは、日頃から患者さんの爪ケアに取り組んでいても、「爪」に特化した研修を受けた経験がある方は少なく、爪ケアのプロセスを改めて学び、不安や疑問が解消されるシーンも見受けられました。 道具の使い方も目の前で分かりやすく解説 特にフットケアの第一人者から直接指導を受ける機会はなかなかなく、参加者からは「変形して盛り上がった爪はどう切ればいいのか」「ニッパーの種類はどのようなものを選ぶといいか」「巻き爪で痛みのある方にはどのように対応すべきか」など、質問が多数。訪問看護師さんの日頃の悩みがひしひしと伝わってきました。 参加者の皆さんのお困り事にも丁寧に回答 実技演習の終盤には、参加者同士で爪ケアの流れをおさらいし、確認し合う様子も。終始、明るい雰囲気でセミナーを終えました。 不安や不明点が解消されたとの声も セミナー終了後は、懇親会も開催。参加者は担当患者さんのケア方法を西田さんや大慈さんに相談したり、業務の中で困ったシーンなどを共有したりと、お互いに学びを深め合っていました。 すっかり打ち解け合い、懇親会を楽しむ皆さん ■参加者の感想 「セミナーに参加するまでは、自己流で患者さんの爪を躊躇なく切ってしまっていました。でも、ニッパーの刃先の当て方や切り方、洗浄方法などを実際に練習して、正しいケア方法の基本が理解できました。今回の学びを活かし、患者さんの安全な暮らしに貢献していきたいです。」 「実技演習では、こんなに頻回にテーブルを回ってきてくれると思わず、手厚い指導に驚きました。講義自体の内容も分かりやすく、悩んでいた爪白癬に対しての対応も分かり、現場ですぐに取り組みやすいと感じました。ゆっくり丁寧に教えてもらえて、とても良かったです。」 そのほかにも、「今後の爪ケアへの不明点が解消された」「自分の『くせ』が分かった」「我流で爪をカットしていたことを反省しつつ、注意する点が分かった」といった声も。 講師を務めた西田さんも、大きな手ごたえを感じたご様子。 「訪問看護師さんの中にもさまざまな経験値の方がおられ、不安を感じながらも懸命にケアに当たっている方がいることを改めて実感しました。対面セミナーでは、参加者お一人おひとりのお悩みを聞きながら、直接ケア方法をレクチャーし、より実践的な講義ができたかと思います。私は全国各地でこうしたセミナーや講演を開催していますが、実はあと2県(岩手県と島根県)で全国制覇達成なんです!今後も自身の活動を通して、看護師の皆様のスキルアップに貢献できればと意気込んでいます。」 また、アシスタント講師の大慈さんも、「自分の普段の経験からアドバイスできるシーンもあり、少しでも参加者の皆さんのお役に立てたのであれば何よりです」と明るい笑顔を見せてくださいました。 * * * NsPaceでは今後も訪問看護師さんのためのセミナーを企画していく予定です。その道の専門家から直接指導を受けられるチャンスをぜひご活用ください。 取材・執筆・編集:高橋 佳代子

アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】
アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2024年7月23日
2024年7月23日

アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】

NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「アロマテラピーの基礎知識&活用術~毎日に癒しを~」を2024年4月19日に開催しました。講師として登壇してくださったのは、アロマアドバイザーの資格をもつ訪問看護師の有賀莉奈さん。訪問看護の現場を知る有賀さんに、アロマテラピー(アロマセラピー)の基本的な楽しみ方や注意点、訪問看護での活用方法などを教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。後編では、アロマテラピーの具体的な実践方法をまとめます。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちらアロマテラピー 基礎知識&医療現場での注意点【セミナーレポート前編】 【講師】有賀 莉奈さん訪問看護師/アロマアドバイザー(ナード・アロマテラピー協会)看護師として諏訪赤十字病院で8年間勤務した後、出産・育児に専念する期間を経て、yui訪問看護ステーションにて臨床現場に復帰。アロマテラピーを深く学ぼうと考えたきっかけは、自身の母親が闘病中に「アロマの力」に救われた場面を目の当たりにしたこと。現在は看護業務の傍らメディカルアロマセラピストとして、利用者さんの心身を支えるケアに取り組んでいる。 代表的な精油とその特徴 精油にはさまざまな種類がありますが、その中でも初心者の方が使いやすい、手に入れやすいものを以下にまとめました。 ラベンダー・アングスティフォリア     アロマテラピーの万能薬と言われている。精神的・肉体的にリラックスさせてくれ、ストレス・不眠症の助けになる(使用方法・量を守れば注意事項・禁忌なし)オレンジ・スイート柑橘系のオレンジの香り。気分を軽くさせてくれ、リフレッシュさせてくれる(使用方法・量を守れば注意事項・禁忌なし)ゼラニウム・エジプトバラに似た甘い香り。お肌のケア・リラクゼーションによく使われ、鎮静作用がある成分を多く含んでいる(使用方法・量を守れば注意事項・禁忌なし)マジョラム爽やかでスパイシーな香り。副交感神経を刺激する作用があり、リラックスさせてくれる。精神神経系の不調を感じた時に助けになる(使用方法・量を守れば注意事項・禁忌なし)ユーカリ・ラディアタツーンとした、少し湿布に似た香り。ユーカリの中でも最も刺激が少ない。風邪や呼吸器系の疾患、花粉症の予防や回復の助けになる(使用方法・量を守れば注意・禁忌なし)レモングラス強いレモンの香り。ストレス解消や痛みの軽減に役立ってくれる。冷え性やむくみの改善の助けにも(注意:50%に希釈して使用する)イランイラン高級な香水の香料に使われることも多い。海外では緩和ケアに使用されることもあり、痛みの緩和や入眠の助けになる(使用方法・量を守れば注意事項・禁忌なし) なお、精油は複数の種類を混ぜることで相乗効果が期待できます。気分や体調に合わせて、ぜひ以下の「おすすめレシピ」を試してみてください。 簡単にできる 自分のためのアロマケア 看護師のみなさんの中には、日々忙しい生活を送り、ストレスを抱えている方もいらっしゃることでしょう。そこで、ご自身の生活にもアロマをとり入れてみてはいかがでしょうか。以下に、手軽に実践できる方法をご紹介します。 日々のストレス緩和に   ・精油を瓶ごと持ち歩く・アロマペンダントを使用する・ハンカチに精油を垂らすリラックスタイムに・アロマディフューザーを使用する・アロマバス(湯船に精油を入れる。バスオイル20mlに対して精油15~20滴)・アロマストーンや布・ティッシュに精油を数滴垂らす・アロマトリートメント(植物オイル5mlに対して精油1~2滴を混ぜてケアに使用 ※濃度1~2%)体調管理に・除菌スプレー(無水エタノール18ml、精製水2ml、精油12~20滴 ※濃度3~5%)・加湿機能付きのアロマディフューザーを使用する 医療現場での活用方法 医療現場で利用者さんにアロマテラピーを行うにあたっては、安全性の確保が大前提となります。コストや手間も考慮すると、禁忌や注意事項がない精油を何種類かそろえ、その中で組み合わせていくのがよいでしょう。 具体的な楽しみ方として、簡単に実践できる「芳香浴」「手浴・足浴」「アロマトリートメント」をご紹介します。 芳香浴 精油の香りを部屋に拡散させて楽しむ方法。専用のストーンやディフューザーを使わなくても、ティッシュや布に垂らすだけで十分です。そんな芳香浴のメリットは、同じ空間にいる方と一緒に香りを楽しめるところ。利用者さんだけでなく、日々の介護でストレスを感じているご家族にも喜ばれます。 手浴・足浴 乳化剤と精油を混ぜたものを垂らしたお湯で、手浴・足浴を行います。清拭に使うお湯に垂らす方法もありますが、その際も必ず乳化剤と混ぜて使用してください。 また、清拭のお湯に精油を混ぜるのは、エンゼルケアにも適しています。故人の好きな香り、日頃から使っていた香りを最後のご準備で使えば、ご家族が香りを嗅ぎながら故人との思い出を振り返ったり、心を落ち着かせたりする手助けになるでしょう。 アロマトリートメント 植物オイルに精油を混ぜて、それを塗布しながらアロマトリートメントを行います。肩こりやむくみなどの不調の緩和・改善を目指すものですが、長い時間行うと疲労感が出る場合もあるため、5~10分で十分でしょう。また、姿勢も無理がないように配慮してください。 訪問看護でのアロマテラピーのコスト&説明 アロマテラピーを実践する際にかかるコストとしては、まず精油の費用が挙げられます。精油は多くが1本あたり5~10mlの容量で販売されており、値段は2,000円~10,000円を超えるものまでさまざま。希少な植物から抽出された精油ほど値段は高くなります。ただし、一度に使うのは数滴で、一滴あたりの値段は数十円であることがほとんどです。 精油のほかには、ホホバオイルをはじめとした「キャリアオイル」や、精油を湯に浮かべる際に使う乳化剤などの費用もかかります。 時間としては、手浴・足浴、アロマトリートメントを行った場合で5~10分程度です。特にアロマトリートメントは体に負担をかける可能性があるため、体調不良者や病態の変動を起こしやすい方が多い医療現場では、短めの時間で行うことをおすすめします。 訪問看護でのアロマテラピー導入の流れ 私が所属する訪問看護ステーションでは、まず訪問看護の契約時に、内容や注意事項、料金などを記載したパンフレットを配布します。それを読んで興味をもたれた方には、さらに詳しくご説明。そして、主治医の許可を得てお試しケアを実施します。その際、利用者さんには、アロマテラピーはあくまでリラクゼーションや症状の緩和を目指して行うことをしっかりと説明します。 アロマの施術は訪問看護の時間内に行いますが、治療ではないため、訪問看護指示書には記載されていません。当ステーションの場合、現状では施術料は請求せず、材料費のみいただいています。 施術の内容は、「芳香浴」「手浴・足浴」「オイルトリートメント」から利用者さんに選んでいただきます。当ステーションで採用している精油や植物オイルは以下のとおりです。 使用する精油ラベンダー・アングスティフォリア、マジョラム、オレンジ・スイート、ゼラニウム・エジプト、ラヴィンツァラをそろえています。症状や使用箇所などを考慮し、この中からいくつかを組み合わせて使います。使用する植物オイルオイルトリートメントには「ホホバオイル」を使っています。肌に優しく、敏感肌の方を含め、あらゆる肌質の方に使えるといわれているためです。 * * * 今回はアロマテラピーの基本をご紹介しましたが、お伝えしきれていない魅力がまだまだあります。心地よいアロマの香りは利用者さんの心をほぐし、ストレスを緩和する手助けをしてくれます。これをきっかけにアロマテラピーについて興味を持っていただき、ご自身のケアや日常の看護に取り入れるきっかけとなれば嬉しく思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

アロマテラピー 基礎知識&医療現場での注意点【セミナーレポート前編】
アロマテラピー 基礎知識&医療現場での注意点【セミナーレポート前編】
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2024年7月16日
2024年7月16日

アロマテラピー 基礎知識&医療現場での注意点【セミナーレポート前編】

2024年4月19日に開催されたNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「アロマテラピーの基礎知識&活用術~毎日に癒しを~」。アロマアドバイザーの資格をもつ訪問看護師の有賀莉奈さんを講師にお招きし、アロマテラピー(アロマセラピー)に期待できる効能や訪問看護の現場での活用方法などを教えていただきました。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、アロマテラピーの基礎知識と、医療現場で実践する際の注意点をご紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】有賀 莉奈さん訪問看護師/アロマアドバイザー(ナード・アロマテラピー協会)看護師として諏訪赤十字病院で8年間勤務した後、出産・育児に専念する期間を経て、yui訪問看護ステーションにて臨床現場に復帰。アロマテラピーを深く学ぼうと考えたきっかけは、自身の母親が闘病中に「アロマの力」に救われた場面を目の当たりにしたこと。現在は看護業務の傍らメディカルアロマセラピストとして、利用者さんの心身を支えるケアに取り組んでいる。 アロマテラピーとは アロマテラピーとは、植物の香り成分を抽出した精油(アロマオイル)を用いて、心と体の不調の改善を目指す健康管理法です。精油とは、植物から採取・生成した香りの油(揮発油)のこと。その香りはとても強く、植物の有効成分も高濃度に含んでおり、たった一滴でも十分に楽しめるものが多いです。 代表的なメリットは、心身のリラックス。精油の力で自律神経やホルモンバランスを整え、体の緊張をほぐし、気持ちを落ち着け、心身ともに心地よい状態をつくることを目指します。 なお、精油を活用する方法は、大きく以下の2種類に分かれます。 活用方法1:精油を嗅ぐ 嗅覚は、五感の中で唯一、脳へダイレクトに刺激を伝えられます。精油を嗅ぐと、香り成分が鼻の粘膜から脳に伝わり、自律神経系や内分泌系、免疫系などの神経系に影響を与えます。感情や本能を司る大脳辺縁系にも刺激が直接伝わるため、人は「そのときの自分の体が求めている香り」を嗅ぎ分けられるといわれています。 活用方法2:精油を塗る 精油を体に塗ると、その部位に作用します。中には、皮膚から吸収されて血管に入り、体をめぐって作用する精油もあります。 精油を安全に使用するための原則 精油を扱う際は安全への十分な配慮が必要です。以下の点を必ず守ってください。 ・パッチテストを行うアレルギー反応が出る可能性があるため、使用前はパッチテストを行いましょう。・原液のまま使用しない精油は、ホホバオイルやスイートアーモンドオイルなどの「キャリアオイル(精油を体へ運ぶためのオイル)」で薄めて使用します。精油は「油」なので水には溶けません。そのため、手浴や足浴で楽しむ場合には、乳化剤を使用します。精油が直接皮膚に付着すると皮膚トラブルを起こす可能性があるので、十分に注意してください。・異変を感じたら使用を中止するかゆい、ヒリヒリする、気分が優れないなどの異変を感じた場合は、すぐに使用を中止しましょう。体に精油を塗った場合は、塗布した部位を水で洗い流したり、濡れたタオルで拭きとったりしてください。・安全に配慮して保管する引火性があるため、火のそばに置かないでください。また、子どもやペットの手が届かない場所に保管することも重要です。 なお、使用期限は開封後半年から一年程度と考えてください。それ以上経つと、酸化が進んで香りが変わってしまいます。特に柑橘系の香りは酸化の影響を受けやすいので、半年を目安に使い切りましょう。 医療現場で実践する際の注意点 訪問看護にアロマテラピーをとり入れる場合は、精油の特徴や利用者さんに与える影響、起こりうるトラブルを整理して医師に説明した上で、必ず使用の許可を得てから実践してください。 精油ごとの禁忌事項と、利用者さんの既往歴を照らし合わせることも大切です。例えば、高血圧の方、婦人科系疾患がある方、アスピリンアレルギーの方などには使用できない精油もあります。また、精油を塗布する場合、傷や炎症を起こしている箇所には原則使用しません。 そのほか、以下の2点もチェックしてください。 利用者さんの反応 過去に同じ精油を使ったことがある場合や、パッチテストで問題がなかった場合でも、使用後の利用者さんの反応は必ず毎回確認しましょう。その日の体調によってアレルギー反応が出る場合もあります。また、体調が優れないときは使用を控えてください。 精油の濃度 精油を体の広い範囲に使うときは「3%以下」の低い濃度に調整しましょう。特定の部位に作用させたい場合には、30%以上の濃い濃度で使用することもありますが、皮膚が弱い高齢者の方も多くいらっしゃるので、低濃度にするのがおすすめです。 アロマテラピーの資格 2024年4月現在、日本にはアロマテラピーに関する国家資格はなく、すべて民間資格です。資格ごとに合格条件は異なりますが、教室やサロン、オンライン等で講義を受けて、試験に合格すれば資格を取得できるものがほとんどです。 アロマテラピーを深く学んで資格をとるメリットは、やはり精油の特徴や注意事項などを理解した上で、ケアに活用できる点にあるでしょう。例えば、アロマテラピーの本場であるフランスでは、精油を薬の代わりに使うケースもあります。近年は精油を認知機能低下の予防・改善、精神疾患の治療に活用する研究も進められており、医療現場でのアロマテラピーの注目度は、日本でもさらに高まっていくと予想しています。 >>後編はこちら アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際
麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際
特集 会員限定
2024年7月2日
2024年7月2日

麻痺に伴う痙縮とは~治療のフェーズと実際~【セミナーレポート後編】

2024年3月15日、御所南リハビリテーションクリニック院長・児玉万実先生を講師に迎え、オンラインセミナー「麻痺に伴う痙縮とは〜その症状には治療法があります!〜」を開催しました。セミナーレポートの後編では、ボツリヌス療法の6つのフェーズや、ボツリヌス治療の実際と目指すことなどをご紹介します。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。※帝人株式会社・帝人ファーマ株式会社・帝人ヘルスケア株式会社による共催セミナーです。 >>前編はこちら麻痺に伴う痙縮とは~基礎知識~【セミナーレポート前編】 【講師】児玉 万実(こだま まみ)先生京都大原記念病院グループ 御所南リハビリテーションクリニック 院長/京都府立医科大学 臨床講師/日本内科学会 認定医、日本リハビリテーション医学会 専門医、代議員。獨協医科大学 医学部を卒業後、大学病院、民間病院での勤務を経て、2006年から京都大原記念病院で診療にあたる。2015年には御所南リハビリテーションクリニックに移り、2018年に同院の院長に就任。 ボツリヌス療法6つのフェーズ 私は、ボツリヌス療法は以下の6つのステップに大きく分けられると考えています。 STEP1 お困りごとに患者自身が気づき受診 患者さんご自身が「この筋緊張の症状には治療法があるんだ」と知り、受診いただくことから治療が始まります。 この段階できちんとボツリヌス療法について説明を行います。症状に関係する筋肉に複数の注射を打たなければならないこと、注射をしてもすぐに手足が動きだすわけではないこと、継続が必要なこと、リハビリにも取り組む必要があることなども伝えます。 STEP2 客観的評価 医師や療法士(リハビリスタッフ)が客観的な評価を行い、ボツリヌス治療の適応かどうかを判断。痙縮評価指標のMAS(Modified Ashworth Scale)やMMT(Manual Muscle Test/徒手筋力テスト)だけでなく、装具の適合性や使用頻度、疼痛の有無なども確認します。 STEP3 目標をもとに治療戦略を立てる どんな症状で悩んでいるのか細かくヒアリング。STEP2の評価の内容に加え、どういう目的で手足をスムーズに動かしたいか、患者さん自身の現実的な目標に基づき、治療戦略を立てます。中枢をメインにするか、末梢を多めにするかなども考えていきます。 STEP4 施注(注射) 戦略に沿って注射を打ちます。 STEP5 情報共有 注射後は、すぐにマンツーマンのリハビリを行います。注射した箇所の筋肉をしっかりとストレッチしつつ、自宅での自主トレーニングのやり方をお伝えします。 ただし、疾患別リハビリテーション期限を越えている方で介護認定がおりている患者さんの場合、基本的には医療保険を使ったリハビリはできません。そこで、注射した箇所や単位、在宅で必要なリハビリなどについて申し送りをしています。情報共有は患者さん本人だけでなく、訪問看護師のみなさんをはじめとした、在宅で患者さんを支える方々にも行っています。 ちなみに、医療保険によるリハビリには期限の定めがあります。脳卒中をはじめとした痙縮の原因になる病気を発症して急性期の病院での治療が落ち着くと、回復期リハビリテーション病院に転院して本格的なリハビリテーションが始まります。しかし、国が定めた「医療保険を使って医療機関で密度の濃いリハビリができる期間」は、発症した日から半年のみ。これは制度上仕方のないことなのですが、ボツリヌス療法と濃いリハビリを組み合わせることが難しいのが問題点です。半年を過ぎた後の生活期は、介護保険を使った訪問リハビリや、デイケア(通所リハビリ)などを利用することになります。ですので、介護保険サービスの担当の方々ともしっかり連携を取ることが重要です。 STEP6 効果的な自主トレとフィードバック 指導に沿った自主トレーニングを患者さんに行ってもらい、訪問リハビリやデイケアの方などとも連携をとり、3ヵ月後に2回目の注射をします。来院時にフィードバックをし、注射とリハビリを繰り返し、3回目、4回目と続けていきます。 施注(注射)の実際 施注について、もう少し詳しくご紹介しましょう。 筋緊張が見られる箇所を針筋電図や超音波で細かく確かめながら注射を打っていきます。私は痛みのない超音波を選択することが多く、注射針が狙った箇所に刺さっているか、液体(薬剤)をきちんと注入できているかも超音波で確認。左手に超音波の機器を持ち、右手で注射を打ちます。なお、筋肉に注射すると体が反射的に動くこともあるので、療法士と看護師さんと3人1組で治療は行います。 注射箇所を見極めるためどうしても施注時間が長くなりがちですが、患者さんにとっては苦痛が大きい時間。なるべく短い時間で終えられるように心がけています。正確に、でもなるべく早く。そうやって患者さんの苦痛を最小限にすることが、継続のためのコツだと考えています。 ご本人と介護者のよりよい生活を目指して 痙縮へのボツリヌス療法は、医療従事者でも知らない方がまだまだ多いのが現状です。訪問看護師のみなさんには、ぜひ、痙縮に悩む患者さんをボツリヌス療法につなげてほしいと考えています。 経験豊富な医師に超音波で確認しながら施注してもらうのが理想ではありますが、比較的大きな筋肉や触診でわかる筋肉にはブラインドで注射を打つことも可能です。「オムツの交換が難しいので、硬くなっている太ももの内側の筋肉に注射する」といったやり方でも、筋肉の緊張を緩和し介護負担の軽減につながる可能性はあります。困難を抱えている患者さんや介護者の方に、まずはボツリヌス治療にどうにか結びついていただきたいと思っています。 訪問リハビリの担当者さんから、ボツリヌス治療を受けた患者さんが「新聞をとりにいったり、食器を洗ったりと、家庭での役割が増えた。IADL(手段的日常生活動作)が着実に拡大している」といったうれしい報告をいただくことが多々あります。 ボツリヌス治療の目的は、数値の改善ではなく、ご本人や介護者の生活が変わっていくこと。痙縮に悩む方々がひとりでも多くよりよい毎日を過ごせるよう、お伝えした知識をぜひ現場でいかしていただけたらうれしいです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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