2023年3月28日
【セミナーレポート】後編:装具を選ぶポイントとケーススタディ-明日から生かせる! ストーマトラブルへの対応-
2022年12月16日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「明日から生かせる!ストーマトラブルへの対応」を開催いたしました。講師は、急性期病院でストーマ管理を長きにわたって経験し、現在は訪問看護ステーションを開設している「皮膚・排泄ケア認定看護師」の原 慎吾さんです。
本記事では、前後編に分けてセミナーの一部ご紹介。後編では、適切な装具の選び方や、ケーススタディの内容をまとめています。
※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。
【講師】原 慎吾さんながのホームケアコンサルティング代表/皮膚・排泄ケア認定看護師看護師として急性期の中核病院に20年以上勤務し、ストーマ、褥瘡の管理などを10数年経験。その中で、トラブルが起きても通院できない患者さんをサポートする必要性を感じ、その課題を解決すべく独立。現在は「看護のスペシャリストを在宅へ」をコンセプトに掲げ、病院や施設、医療機器メーカーへのコンサルティング事業を展開。2021年には訪問看護ステーションも開設している。
目次 1. 選択の基本 (1)皮膚保護剤(面板)の組成 (2)装具の形状 2. 選択するときに注意したいポイント ・皮膚保護剤の粘着面の溶け具合 ・あらゆる体位での腹壁の質感 ・利用者さんの言動 3. ケーススタディ:びらんがある利用者さんへの対応 (1)アセスメントを行う (2)粉状皮膚保護剤(パウダー)を活用する (3)頻回に装具を交換する
1. 選択の基本
装具を選ぶにあたっては、大きくふたつのポイントがあります。ひとつめは皮膚保護剤(面板)の組成、ふたつめは形状です。
皮膚保護剤(面板)の組成
皮膚保護剤(面板)は、水になじまない「疎水性ポリマー」と、水になじむ「親水性ポリマー」とを組み合わせてつくられています。この割合が製品ごとに異なり、疎水性ポリマーの量が多ければ多いほど水に強く、粘着力が高いです。逆に親水性ポリマーの量が多いと、水には弱くなるものの、皮膚の負担は少ないというメリットがあります。皮膚保護剤は「長期用」「中期用」「短期用」に分けられていますが、疎水性ポリマーの量が多いものが長期用(使用期間5〜7日)、親水性ポリマーの量が多いものが短期用(使用期間1〜4日)です。なお、その中間に位置する中期用もあります(使用期間3〜5日)。ただし、これはあくまでも目安です。
利用者さんのご自宅にうかがった際は、ぜひ装具の名前を調べ、適切に使用できているかチェックしてあげてください。万が一、長期用のものを毎日交換するようなことがあれば、皮膚はあっという間に発赤やびらんなどのトラブルを起こします。逆に短期用を1週間も貼っていれば、突然装具が剥がれてしまう可能性もあるでしょう。
装具の形状
装具には、柔らかくて皮膚への影響が少ない平面装具と、硬いプラスチックでできた凸面装具とがあります。ちなみに、1枚のコストは前者のほうが低いです。
硬い腹壁には平面装具(および柔らかい皮膚保護剤)を、柔らかい腹壁には凸面装具(および硬めの皮膚保護剤)を使うとよいといわれています。お腹に対して指の向きを並行にして押し当て、沈む指が1本以下なら硬い、1本以上2本未満なら普通、それ以上は柔らかいと判断します。
筋肉質だったり皮下脂肪が少なかったりする方は、お腹を押さえるとすぐに腹直筋にあたる、つまり硬いですよね。そこに凸面装具をつけると、お腹が装具を押し上げてしまい、皮膚損傷の原因になります。漏れといったトラブルが起きた際も、ぜひ腹壁を触ってみてください。
さらに、「しわ」の状態も確認が必要です。しわが多い方に平面装具、柔らかい皮膚保護剤を使用してしまうと、これも漏れの原因になります。
2. 選択するときに注意したいポイント
装具選択のときに私が必ず見ているポイントについて、もう少し細かくお伝えします。
皮膚保護剤の粘着面の溶け具合
装具を交換する際、剥がしたものをすぐに捨てずに、必ず面板の裏面(粘着面)を確認しています。粘着面がいびつな形で溶け出している部分は、腹壁がへこんでいる、隙間ができるということ。つまり、漏れや便の潜り込みなどのトラブルが起きやすい部分なので注意が必要です。うまく貼れていれば、面板の裏面は均一の幅でリング状に溶けていることを確認できると思います。
あらゆる体位での腹壁の質感
指を押し当てて腹壁の質感を調べるというやり方はすでにお伝えしましたが、座位、臥位、立位と、その方がとりうるすべての体位でチェックすることがポイントです。体位を変更すると、腹壁が変形したり、しわの入り方が変わったりします。座ると臥位では見られなかったしわが入ることも多いので、必ず確認しましょう。寝たきりの利用者さんであっても、その方が日常生活の中でとる体位変換を実践してもらい、お腹の動きを見てください。
利用者さんの言動
利用者さんがどのくらい動けるか、指示に従えるか、手に震えはないかなど、全体的な言動も見ています。装具選択時には、その方にとって使いやすいかどうかを見極めることが大切です。そのため、ADLやセルフケアの状況・理解度・受容段階などをアセスメントします。
訪問看護師のみなさんは、初めての訪問の際に確認していただければと思います。
3. ケーススタディ:びらんがある利用者さんへの対応
ここからは、「ストーマの近接部にびらんが見られるが、面板全体では問題がない利用者さん」というモデルケースを挙げて、対応方法を時系列に沿って考えてみましょう。
(1)アセスメントを行う
まずはアセスメントを行い、トラブルの原因を明らかにしていきます。ストーマの近接部にびらんが見られるものの面板全体では問題がない場合、化学的原因(排泄物の付着)が原因だと考えられます。現在の装具を使い続けていると、びらんになっている箇所が常に便に汚染されてしまう状態です。
(2)粉状皮膚保護剤(パウダー)を活用する
びらんからは常に滲出液が出るため、面板を貼っても装具は密着せず、装具と皮膚の間に排泄物が入り込んでしまいます。すると、いつまで経っても治らず、状態が悪化する可能性も高いでしょう。
こういうケースでは、パウダーを使います。パウダーがびらんと面板の間に入り、滲出液を吸いながらゼリー状になって、排泄物をブロックしてくれます。さらに、パウダーにはpH緩衝作用があり、排泄物を中和して皮膚を守ってくれる効果もあります。
ただし、パウダーは名前のとおり粉状なので、水分を吸うと次第に溶けて崩れていきます。そのため、イレオストミー(回腸ストーマ)やウロストミー(尿路系ストーマ)の場合は、排泄物と一緒に短時間でパウダーが流れてしまうでしょう。しかし、数時間は皮膚を守ってくれるので、治療の一助になるかと思います。
(3)頻回に装具を交換する
そして、頻回に装具を交換し、排泄物がびらんに付着する時間をできるだけ短くしましょう。私はこのような状態になった利用者さんには、「皮膚がヒリヒリしたら装具交換のタイミングだよ」とお伝えしています。びらんがある状態で新しい装具を使っても面板が密着しないので、まずは皮膚を治すのが最優先。短期用の皮膚保護剤(面板)やアクセサリーを使うなどして、可能な限り皮膚をきれいに保つようにしてください。
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ストーマトラブルが発生すると利用者さんの背負う負担はより大きくなります。今回お伝えした対応をとってみても課題が解決できない場合、ストーマ外来や皮膚・排泄ケア認定看護師に相談してみることも選択肢のひとつ。ご自身やご自身のステーションで抱え込まず、よりよい対策を模索してみてください。
編集:YOSCA医療・ヘルスケア
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