セミナーレポートに関する記事

特集 会員限定
2022年10月11日
2022年10月11日

【セミナーレポート】vol.1 現場で感じる3つのメリット/訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは

2022年7月22日(金)に行ったNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは」では、田中公孝先生を講師に迎え、医療・介護領域におけるICTの必要性や活用方法などを教えていただきました。その内容を3回に分けてレポート。第1回の今回は、ICTの基礎知識やもたらすメリットをご紹介します。 【講師】田中 公孝 先生杉並PARK在宅クリニック 院長日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/難病指定医2017年より東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに携わるかたわら、医療・介護分野におけるICTの普及活動に従事。市や医師会のICT事業にも参加する。2021年春には杉並PARK在宅クリニックを開業し、区内の医療現場でのICTによる多職種連携を牽引している。 目次▶ チャットツール感覚で便利に使える「ICT」 ・杉並区では「バイタルリンク」を導入▶ コロナ禍で多職種連携の質が低下 ・杉並区における多職種連携の継続、強化への取り組み▶ 【導入メリット1】職種間で目線を合わせやすくなる ・薬局や訪問入浴とのICT連携も視野に入れたい▶︎ 【導入メリット2】写真による状況把握ができる▶︎ 【導入メリット3】休みの間の状況を細かに把握できる --> ▶︎ チャットツール感覚で便利に使える「ICT」 ICTとは、「 Information and Communication Technology 」の略称で、日本語では情報通信技術と訳されます。要するに、インターネットを利用したコミュニケーションのことですね。具体的には、「チャットツール」をイメージしてもらえるといいと思います。コミュニケーションという観点では、形式こそ異なるものの、メールなどと変わりません。ただし、メールはアドレスを知らないと連絡できませんが、ICTならアカウントがあればアドレスを知らない人同士でも情報を共有できます。 そんなICTの位置づけは、「対面」と「電話・FAX」の中間と考えてください。対面でのやりとりでは、細かな情報を共有しやすいですよね。ICTも対面には及びませんが、電話やFAXよりも気軽に「緊急で報告するほどではないけれど伝えておきたい情報」を共有できます。とはいえ、電話もやはり必要です。ICTでは、相手が情報を確認するのが数時間後や翌日になってしまうこともあるので、緊急性が高い場合は電話がベストでしょう。 杉並区では「バイタルリンク」を導入 私のクリニックがある杉並区では、帝人ファーマ株式会社の医療・介護多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」を使用しています。ICT導入にあたっては、やはりセキュリティの問題が気になるかと思いますが、「バイタルリンク」は厚生労働省がガイドラインで定めるセキュリティ基準をクリアしています。また、オンライン会議を簡単に開始できる機能(参加用のURLを共有する機能)が備わっているのも魅力。退院時カンファレンスや担当者会議などにも、もっと活用していくべきだと考えています。 ▶︎ コロナ禍で多職種連携の質が低下 近年、医療現場において多職種連携の強化は大きな課題です。しかし、新型コロナウイルスの流行により、その機会が減っているという危機的状況にあります。杉並区でもこの2〜3年は地域の連携会が非常に少なくなっていますし、おそらくどの市区町村でも同じ状況でしょう。 今や現場での連絡方法のメインは電話・FAXになり、対面のやりとりは激減しています。他職種の方との連携においても、緊急度が高いときや「ニュアンス」を確認するときにしか電話は使わず、FAXにいたっては、サインをもらうなどの用途がほとんど……という方も多いはず。つまり今、「対面」「電話・FAX」のコミュニケーション手段しか持っていない場合、多職種連携の質はコロナ前よりも低下している可能性が高いのです。 杉並区における多職種連携の継続、強化への取り組み 杉並区では、コロナ禍で多職種連携の質が低下するリスクを受け、昨年から地域福祉部委員会内にICT小委員会を設置。ICT普及に向けた取り組みを推し進め、連携の維持、強化を目指しています。また、多職種が参加するオンライン会議を実施し、感染状況が落ち着いたタイミングでは対面での会合開催も検討しています。なお、困難事例については、綿密に話し合いを行わないと職種ごとに目線がずれてしまいがち。オンライン会議を積極的に行ったり、短時間に収めるなど気をつけながら対面で打ち合わせをしたりといった工夫をしないと、連携の質が低下してしまう実感があります。 ▶ 【導入メリット1】職種間で目線を合わせやすくなる ICTの特徴は、職種を問わず、利用者さん全員に情報を一網打尽に流せること。これにより「情報を知らない人」をつくりにくくできます。この「情報を知らない人」には医師も含まれます。医師が2週間に1回しか訪問しないケースでは、前回の訪問時の最新情報がすでに古くなっていることもざらにあるので、訪問看護師さんにはぜひICTに最新情報を書き込んでほしいですね。 というのも、訪問看護師さんとご家族とで話し合った情報を医師が把握していないと、医療判断が「押しつけ」になってしまうケースが少なくありません。事情をよく知っている看護師さんが患者さんのご家族に「先生が来たら●●を伝えると良いですよ、▲▲してほしいと言ってくださいね」などとアドバイスをし、看護師さんから聞いたことをご家族が医師に伝える……という、『ご家族を通じての医師への情報伝達』を試みた経験がある方も多いかと思うのですが、これではニュアンスまで伝わらないことがほとんど。結果的に医師が、ご家族や担当看護師さんの思いに反する判断をしてしまうリスクがとても高いんです。今後はICTを活用して、クリニックと訪問看護が直接コミュニケーションを図るのが望ましいと考えます。また、訪問看護師さんからさまざまな情報が共有されることで、生活をベースにした医療提案を実現しやすくするというメリットもありますね。 訪問看護師さん側も、自分たちだけで抱えていていいものか迷う情報をICTに流し、そこに医師から「いいね」がつけば、自分たちだけが責任を負う状態ではないという安心感を得られるでしょう。 薬局や訪問入浴とのICT連携も視野に入れたい 薬局が最新の薬の処方状況や管理方法などの情報をICTに書き込んでくれれば、より連携の質が向上するはず。現段階ではこうした対応をしてくれる薬局はまだ少ないですが、引き続き薬局業界への啓発を行い、よりよい連携の形をつくっていければと思います。それから、訪問入浴やヘルパーの方々も、ぜひICTに入ってほしいところ。利用者さんの最新の状況を受け、医師や訪問看護師さんが「入浴は控えて清拭にしてください」などの指示を出せれば、関係者の負担を軽減できます。 ▶︎ 【導入メリット2】写真による状況把握ができる 訪問看護におけるICTのメリットとして、「写真による情報伝達」が挙げられます。ICTに写真や書類を添付すれば、情報共有の量、質ともに向上できます。例えば、私のようにクラウドカルテを利用していれば、その情報をコピーアンドペーストもしくはスクリーンショットすれば、迅速にデータを共有することが可能です。また、逆に訪問看護師さんからの写真報告を受けて、医師がフィジカルアセスメントをすることもできます。触診はできなくても「百聞は一見にしかず」で、遠隔での診断の質は確実に向上するでしょう。それから、利用者さんの居住環境の把握にも役立ちますね。「連絡帳はここ、薬はここに保管する」などといったルールも、ICTで写真を共有すれば確実に認識できます。これがFAXだと、「黒く塗りつぶされてしまって見えない」ということが起こりかねません。 ▶︎ 【導入メリット3】休みの間の状況を細かに把握できる 土日や夜間など、休みの間の利用者さんの状況を無理なく把握できることも、大きなメリットのひとつ。訪問看護ステーション内での情報共有に役立つのはもちろん、医師にとっても有益です。たとえば、訪問看護師さんから「(休みの間に)緊急で対応しましたが、様子を見ても問題ないと判断して退出しました。ご報告まで」などとICTに記録があれば、医師は「次回出勤時にフォローアップしておこう」と判断できます。自分が休んでいる間の利用者さんの状況はぜひとも知りたいですが、やはり電話は緊急のときのみにしてほしいもの。こういうシーンでも、ICT活用のメリットを実感しますね。 次回は、「vol.2 ICT活用の成功事例」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年8月30日
2022年8月30日

【セミナーレポート】vol.3 専門家が考える正しいフットケアQ&A ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に実施した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。講師に皮膚科医の高山かおる先生、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、訪問看護の現場における足元のケアについて考えました。セミナーレポート第3回となる今回は、Q&Aセッションの様子をお届けします。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい?▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは?▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて!▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある?▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は?▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない?▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 --> ▶ Q1 白癬を患っている方の脆い爪はどこまで切ったらいい? 【質問】白癬を患っている利用者さんが多く、厚く、脆くなっている爪を整える場面がよくあります。脆い爪は際限なく削れてしまうのですが、どこまでケアしたらいいのでしょうか? 【回答】高山先生:出血などしない程度であれば、自然に剥離してしまっている部分は削ってしまっても問題ありません。爪が靴下などに引っかからないようにする、隣の指を傷つけるなど危なくないようにするという意識をもってもらうといいと思います。 ▶ Q2 肥厚爪、巻き爪のケアのポイントは? 【質問】肥厚した爪、巻いている爪はどのように除去したらいいですか? 【回答】大場さん:まずはその方が歩けるかどうかで、残す爪の長さを検討してみましょう。歩く方の場合は、痛みが出ないように配慮しつつ、ある程度の長さを保って端から切っていきます。爪が皮膚に食い込んでいる場合はヤスリを使ってください。ただ、巻き爪は長くなればなるほど巻きが強くなるので要注意。あとは炎症が起きていたり、化膿していたりする場合は処置が必要になるので、その見極めも重要です。 高山先生:痛みがなければ、巻き爪であること自体は悪いことではありません。大場さんがおっしゃるとおり、伸びてしまうと先端が丸くなるので、適切な長さに整えることが大切です。すでに痛みを訴えている方の場合は、痛むポイントを探してあげて、そこに念入りにヤスリをかけるのもいいですよね。 大場さん:そうですね。痛みを取り除いてあげるだけでも、歩けるようになりますから。ADLの低下だけは避けたいので、私も歩行に支障が出ないようなケアをすること、自身では対応できないケースは訪問看護師さんにお願いすること徹底しています。 ▶ Q3 おすすめのケアアイテムを教えて! 【質問】大場さんが現場で使用している愛用のヤスリを教えてください。 【回答】大場さん:基本的にダイヤモンド平ヤスリを使っています。 高山先生:厚い爪甲も削れますか? 大場さん:はい、ほとんどのケースで削れますよ。煮沸消毒できるので、衛生面を考えてもおすすめです。 ▶ Q4 訪問看護で実践できる白癬の応急処置はある? 【質問】次回の診療までに、訪問看護の現場でやっておくべき白癬の応急処置はどんなものですか? 【回答】高山先生:きれいに洗ってもらえれば十分です。白癬の餌は角質なので、足浴と保湿で角質をなくしてあげれば、症状は進行しにくくなります。なお、ワセリンで白癬が繁殖することはないので、保湿もしっかり行ってください。特別なことをして刺激を与えるより、基本的な処置を徹底してくださいね。 ▶ Q5 深爪にしてはいけない理由は? 【質問】利用者さんから、まだあまり爪が伸びていない段階で「切ってほしい」とお願いされて判断に迷います。深爪にしてはいけない理由はあるのでしょうか? 【回答】高山先生:足の爪には体重の負荷を支える役割があるため、深爪はNGです。爪を切りすぎたり、斜めに切ったりすると、巻き爪につながってしまいます。また、そもそも適切な爪の長さを知らずに長年深爪にしてしまい、結果巻き爪になってしまっている方も多く見られます。まさに生活習慣病ですね。この利用者さんには、靴下に引っかかるなど不快な状態にならないように、ヤスリのかけかたを教えてあげるといいと思います。 ちなみに、歩行時にきちんと踏み込めている方は、理論的には深爪にはできません。なぜかというと、きちんと指先まで使って踏み込んで歩くためには、硬さのある爪が必要不可欠だからです。足を踏み込むと床反力(足と床の接地部分にかかる反力)が生じますが、必要十分な長さの爪がないと、この床反力が上手く体に伝わりません。つまり深爪にしてしまう方は、きちんと歩けていない可能性も高いと考えられます。 ▶ Q6 足浴時に軽石を使用しても問題ない? 【質問】足底の白癬で皮膚が肥厚している方に対し、足浴時に軽石で削りながら洗い、保湿剤を塗布することを一年半ほど続けています。現在は肥厚部がかなり薄くきれいになりましたが、この方法を続けてもいいでしょうか? 【回答】高山先生:軽石でゴシゴシ削ることには賛成しかねますが、削りすぎにならない程度に、目の細かいヤスリをかけるのはいいと思います。ただ、濡れている足を削ると傷がつく恐れがあるので、風呂場などで行うのは控えてください。削りすぎて逆に皮膚が厚くなってしまう可能性もあります。このケースでは、おそらく保湿剤をしっかり塗っていることが効いているのだと思いますね。 ▶ Q7 爪切り器具の洗浄方法を教えてください。 【質問】爪切りに使う器具の洗浄はどのようにしていますか? 【回答】高山先生:体液がつかなければ、表面の汚れを落として乾かす、つまり除菌すれば十分だと考えています。もちろん、出血が見られたときなどは滅菌が必要ですが。衛生管理の専門家の先生に聞くと、大切なのは毎回同じ工程で洗浄することとおっしゃいますね。そうすることで習慣化でき、洗浄不足になることを防げるので。器具のどこをどうやって何回洗うか、ルールを決めて実践してみてください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年8月23日
2022年8月23日

【セミナーレポート】vol.2 具体的なケア方法 ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日に行われたNsPace(ナースペース)の訪問看護師向けオンラインセミナー「フットケア・爪のケアのポイント」。皮膚科専門医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さんをお招きし、それぞれの視点から高齢者の足元のケアについてお話をいただきました。セミナーレポート第2回となる今回は、大場マッキー広美さんによる「在宅でのフットケアの実際」をご紹介します。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 ・ケアプランの具体的な記載方法▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ・まずはよく観察する ・爪切りの流れとポイント ・足浴(清拭)のポイント▶ フットケアがもたらす心身へのメリット --> ▶ 訪問看護でフットケアを行う意義 足や爪のトラブルは、転倒や下肢筋力の低下、ADL・QOLの低下につながるリスクが大変高い重大な問題です。訪問看護師のみなさんにはそのことを理解していただき、ぜひフットケアを看護の一環として積極的にケアに組み込んでほしいと思っています。 具体的なアクションとしては、まず利用者さんの足の状態をよく見て、医師に報告します。その上で、訪問看護指示書にフットケアについてしっかりと記載してもらい、ケアプランに盛り込むといいでしょう。その際、ケアマネージャーやご家族の方々にも、フットケアの必要性や期待される効果を説明してあげてください。 なお、訪問看護ステーションでのフットケアの提供方法については、自費サービスのメニューに組み込むことをご提案しています。 ケアプランの具体的な記載方法 ケアプランの記載方法に決まりはありませんが、私は単に『フットケア』とだけ書くのではなく、足浴や足の清拭、軟膏の塗布、爪切りなど、具体的なアクションの一つひとつを明記するといいと考えています。 ▶ 爪切り、足浴(清拭)の具体的なやりかた ここからは、実際に現場で提供するフットケア、爪切りと足浴(清拭)のノウハウをご紹介していきます。 まずはよく観察する まず、足や爪の状態をチェックする上で注目すべきポイントを細かく確認します。利用者さんの足を見る際は、以下の点に着目してみてください。 ・皮膚や爪の色・爪の長さ、厚さ、形・足の指の状態(伸びた爪で傷がついていないか など)・浮腫の有無・皮膚の温度、乾燥の具合・関節や皮膚の硬さ・脈 とくに爪の長さは要チェック。伸びたまま放置されているケースが多く見受けられます。 爪切りの流れとポイント STEP 1 ゾンデで爪と皮膚の境界線を分ける安全に爪切りを行うためには、ゾンデという細い棒状の器具を使って、まず爪と皮膚の境界線を分けましょう。フリーエッジ(爪床とつながっていない部分)にゾンデを優しく差し込み、しっかりと『切れる部分』を確認してください。このとき、ゾンデで溜まった汚れや角質を掃除すると、境界線を確認しやすくなりますよ。このゾンデを使った事前準備を怠ることで、出血してしまう爪切り事故が起きやすくなります。大きな問題がない爪であれば介護士も切ることができるので、ぜひ介護職の方にもやりかたを指導してあげて、現場でうまく分担できるようにしてみてください。 STEP 2 ニッパーで爪の端から切る爪と皮膚の境界線を確認したら、ニッパーで切っていきます。その際、爪の端から切ることで、短く切りすぎたり皮膚を巻き込んだりといった事故を防げます。なお、爪が厚い、もしくは固い場合は、まずは横からニッパーを入れて切り、次にその先端部分に向かって縦に切ると上手にカットできます。また、爪の長さをどのくらい残すかは、利用者さんの生活によって判断が異なります。歩ける方はある程度の長さをとっておかなければなりませんが、歩かないのであれば短く整えてもいいでしょう。 STEP 3 ヤスリでなめらかに整える次に、ヤスリで爪を整えましょう。ニッパーで切っただけだと角が残り、隣の指を傷つけてしまったり、靴下の繊維に引っかかって痛みが生じたりすることがあります。指で爪に触れて、引っかかりがないくらいを目指してください。また、爪に厚みがある場合は上から削ってもいいと思います。 なお、爪切り後は皮膚の状態をチェックしましょう。長年爪に覆われていた部分の皮膚は弱く、ひどい場合は傷になっていることもあります。爪切り直後はぬるま湯につけただけで皮膚がピリピリすることもあるので、扱いには細心の注意を払ってください。 足浴(清拭)のポイント フットケアにおいて、保清・保湿は重要なポイントです。足浴(清拭)を行い、仕上げに保湿する流れは、ぜひ実践していただきたいと思います。ここで間違えてほしくないのが、単に温かい湯に足をつける『足湯』ではなく、足を洗う『足浴』が必要だということ。清潔保持の観点では、石鹸を使って足の指や趾間まできちんと洗うことが大切です。 ▶ フットケアがもたらす心身へのメリット フットケアには、おそらくみなさんの予想を超えた効果があります。これまで外出できなかった方が少しずつ歩けるようになるといった事例は、決して珍しくありません。巻き爪、陥入爪、むくみなどが改善することで、歩くのが億劫ではなくなるのです。 また、利用者さんとの信頼関係が深まることも大きなメリット。私はこれまで、「今まで足元のケアなんてしてもらったことがない、うれしい」ととても喜んでくださる利用者さんをたくさん見てきました。高齢者の中には、自分の爪は一生このままよくない状態なのだと諦めている方が多いので、爪が短くきれいになるだけで心情に大きな変化があるのです。 利用者さんの身体にも心にもいい影響を与えるフットケア、訪問看護の現場にもっと浸透してほしいと考えています。 次回は、「専門家が考える正しいフットケアQ&A」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年8月16日
2022年8月16日

【セミナーレポート】vol.1 フットケア アセスメント ‐訪問看護のフットケア・爪のケアのポイント‐

2022年5月27日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーでは、訪問看護師の方に向けて「フットケア・爪のケアのポイント」をご紹介しました。講師は、皮膚科医の高山かおる先生と、介護福祉士でフットヘルパー協会理事の大場マッキー広美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。第1回の本記事では、高山先生にお話いただいた「高齢者のフットケア アセスメント」についてまとめます。※約90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】高山 かおる先生日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/済生会川口総合病院皮膚科 部長病院で診療にあたる傍ら、2015年には一般社団法人 足育研究会を設立。親子教室や検診などを通じ、足の健康を維持する重要性の啓発活動に取り組む。著書に「足爪治療マスターBOOK」「足育学 外来でみるフットケア・フットヘルスウェア」(全日本病院出版会)「医療と介護のための爪ケア」(新興医学出版社)など。 大場 マッキー 広美さん介護福祉士2020年にプライベートサロン「トータルフットケア足助人(あしすけっと)」を開設。訪問看護ステーションと業務提携し、サロンを訪れる顧客だけでなく、訪問看護利用者にもフットケアを提供している。また、一般社団法人 フットヘルパー協会の理事として、全国各地での講演や書籍の執筆などのフットケア普及活動にも注力する。 目次▶ フットケアの重要性 ・足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病▶ 足や爪のトラブルの原因 ・白癬 ・皮膚の老化 ・筋力や関節可動域の低下▶ フットケアに期待される効果 ・足浴の効果は絶大▶ 爪切り難民を救うために必要なこと --> ▶ フットケアの重要性 日本は人生100年時代を迎え、超高齢社会に突入しました。そこで考えなければならないのが、介護を要する年数を短くする方法です。介護を要する年数とは、すなわち経済を圧迫する年数。私たち足育研究会は、国民にのしかかる負担をこれ以上増やさないためにはどうしたらいいか、足元に着目してその解決策を模索しています。なぜなら、足や爪のトラブルは歩行に支障をきたすため。歩けなくなることは、介護が必要になるリスクに直結します。 足元のトラブルは子ども時代から始まる生活習慣病 足元のトラブルは生活習慣病であり、そのスタートは子ども時代にあります。私は日ごろから子どもたちの足を見ていますが、すでに足趾の変形が認められ、爪のトラブルが発症しているケースは少なくありません。これを放っておくと、加齢に伴い足趾の変形はさらに強まり、爪に不可逆的なトラブルが起こり、重症化します。そうして転倒しやすくなったり、痛みなどが生じて歩けなくなれば、フレイルや寝たきりになるリスクが高まったりもするでしょう。私たちは、この負のスパイラルをできるだけ早く断ち切るべく取り組んでいます。訪問看護師のみなさんにおかれましても、ぜひ足元のトラブルの成り立ちや患者さんが被る不利益を理解し、積極的にケアにあたっていただければと思います。 ▶ 足や爪のトラブルの原因 高齢者の足や爪のトラブルの代表的な原因としては、以下の3つが挙げられます。 白癬 非常に多くの高齢者が罹患している白癬は、爪を悪くする原因になります。爪は、爪母と呼ばれる皮膚に隠れた根元の部位でつくられ、爪床という『爪のベッド』に沿って前へと運ばれて、常に新しいものに置き換わる構造になっています。 そもそも、白癬というのは、足の白癬から始まります。①足の水虫(白癬)を放置してそれが爪に入ると②のような「くさび形」になるなどの変化が生じます。②の状態であれば、まだ爪の形を保ち、爪としての機能も果たせているケースが多いです。しかし、そのまま放置して重症化すると③のように変化して、爪の機能を果たせなくなるほどになります。糖尿病や下肢の末梢動脈疾患を抱えている方、もしくは透析を受けている方などのケースでは、④のような壊疽にもつながります。 皮膚の老化 高齢者の皮膚は、褥瘡をつくりやすい状態にあります。具体的な特徴は以下のようなものです。 【表皮】表皮細胞が減少し、免疫やターンオーバー、皮膚感覚が低下します。また、角層では皮脂の分泌が減り、天然保湿因子が枯渇して、強い乾燥が起こります。これによりバリア機能が低下したり、亀裂が生じたりして、アレルゲンや細菌などが皮膚内部に入りやすくなります。 【真皮】コラーゲンや弾力繊維が減少し、血管に変化が起きます。それが外力に対しての脆弱化を招き、創傷治癒力のさらなる低下、血管の閉塞をもたらします。 【脂肪組織】著明に萎縮します。とくに踵は筋肉がなく、脂肪組織だけで守っているため、ダメージを受けやすくなります。 筋力や関節可動域の低下 関節可動域が低下することで通常の歩行ができなくなり、皮膚や爪に過度な、もしくは不適切な負荷がかかって、指先を傷めたり爪が変形したりします。私たち足育研究会の調査では、巻き爪は足趾間力の低下がもたらしているというデータも得られました。 また、膝や股関節の可動域の低下、さらには筋力の低下によって座り方も変化します。大腿部をそろえて座ることができなくなり、足がパカッと開いてしまうのです。すると、踵の外側に強い圧力がかかり、褥瘡が現れやすくなります。 このように足や爪のトラブルの背景には、皮膚や関節、筋肉の変化など、さまざまな要因があります。これ以外にも、靴の問題なども深く関係してきます。こうした全身的な老化現象、生活習慣の果てにあるのが、高齢者の足の問題なのです。 先ほども少し触れたとおり、問題の発端は子ども時代にさかのぼります。柔らかい足で合わない靴を履いたり、運動量が不足したり。そして、足のケアが不足した状態も続き、やがては白癬や膝・腰の痛み、糖尿病、脳梗塞などの合併症が起きて、足元のトラブルにたどり着く……足や爪の状態は、その人の人生を色濃く反映しているといえます。 ▶ フットケアに期待される効果 そんな足や爪のトラブルを抱えた高齢者にぜひ行ってあげてほしいのが、フットケアです。肥厚した爪甲のケアは、フレイルやサルコペニアなどの予防につながることがわかっています。歩いても痛みがない状態、靴下などに引っかからない状態に爪を整えてあげることで、下肢機能の低下を改善できるからです。現場では、フットケア後に今まで運動できなかった方が歩き出したというケースはよく見られます。 また、爪白癬を患う要介護者に積極的にフットケアを行ったところ、実施期間中は介護度が上がらなかった、つまりADLを維持できたという研究結果もあります。歩ける期間をできるだけ長くするために、そして歩けない方も安全・安楽・衛生的に過ごすために、フットケアをやらない理由はありません。 足浴の効果は絶大 フットケアの中でぜひ行っていただきたいのが、足浴です。利用者さんに気持ちいいと感じてもらえることはもちろん、皮膚や粘膜の機能と関連のある器官を正常に保って感染を予防できる、筋肉を温めながらマッサージすることで運動効果を得られるなど、さまざまな効果が期待できます。継続的に足浴を実施すると、足関節の背屈可動域が改善するというデータも出ているほどです。足は『感覚臓器』。足浴で触ってあげる、少し動かしてあげることで、正常な感覚を呼び戻してあげてください。 ▶ 爪切り難民を救うために必要なこと このように、高齢者へのフットケアは大変重要であるにもかかわらず、『爪切り難民』は少なくありません。とくに介護を受けておらず、病院にも通っていない方は、多くの場合適切な爪のケアを受けられずにいます。 近年、足育研究会では爪切り難民対策として薬局に専門家を派遣してフットケアを行う取り組みを全国で始めていますが、こちらは要介護予備軍の方々を対象としています。介護を受けている方は自宅や施設で爪切りができることが前提の取り組みです。訪問看護の現場や、高齢者施設などは、当然『患者さんの足を守る場所』であってほしいと考えています。 みなさんには、高齢者の足の衛生や機能を守るという意識をもって、ぜひできる範囲でフットケアに取り組んでいただければと思います。 次回は、「在宅でのフットケアの実際」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年7月26日
2022年7月26日

【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~押さえておきたい変更点のポイント~

2022年4月20日に開催した、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』。セミナーレポート第3回となる今回は、訪問看護関係者が押さえておきたい変更ポイントをまとめます。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ 「専門性の高い看護師」への期待と評価 ・同行訪問の条件追加 ・専門管理加算の新設 ・医師の手順書加算の新設▶ より合理的な算定を目指すための改定 ・複数名による訪問についての見直し ・情報提供にかかる条件変更 ・ターミナル療養費の条件変更 ・退院支援指導加算の見直し ・遠隔死亡診断補助加算の新設▶ 届出内容に変更が生じた場合に必要な対応▶ 訪問看護指示書の様式 ・リハビリテーション欄変更▶オンライン対応による業務の効率化・合理化を推進 ・カンファレンスの条件変更 ・在宅管理の評価見直し ・入退院支援加算1の算定要件の変更 --> ▶ 「専門性の高い看護師」への期待と評価 ・同行訪問の条件追加 訪問看護ステーションの看護師が訪問する際、専門性の高い看護師が同行すると、追加で点数を算定できます。これまでは「専門性の高い看護師=国または医療関係団体等が主催する褥瘡ケアに係る専門の研修を600時間以上受けた者」と定義されていましたが、今回の改定では「創傷管理関連の特定行為研修(特定行為に係る看護師の研修制度の創傷管理関連の区分の研修)を受けた者」という条件も追加されました。 ・専門管理加算の新設 緩和ケア・褥瘡ケアまたは人工肛門ケアおよび人工膀胱ケアに係る専門の研修を受けた看護師が単独で計画的管理を行った際の評価が新設されました。「専門管理加算」といい、月1回2,500円を算定できます。特定行為研修を修了した看護師も対象になりますが、その場合は医師が訪問指示書と併せて手順書を発行する必要があります。すなわち、特定行為研修を修了した看護師の訪問に専門管理加算を算定できるのは、手順書加算を算定できる利用者を診たときのみです。なお、専門管理加算を算定する月には、専門性の高い看護師が必ず1回以上訪問しなければなりません。また、ひとりの利用者に対して専門管理加算を算定できるのは月1回のみ。複数名の専門の高い看護師が別々に訪問した場合も、算定は1回だけです。 ・医師の手順書加算の新設 医師や歯科医師が、看護師の診療補助を目的に手順書(文書または電磁的記録)を発行した場合、6ヶ月に1回(手順書の有効期限が最大6ヶ月であるため)、150点の手順書加算の算定が認められました。この手順書加算が算定されないと、特定行為研修を修了した看護師の専門管理加算が算定できないので要注意です。 ▶ より合理的な算定を目指すための改定 ・複数名による訪問についての見直し 別表7や別表8に該当する方、特別訪問看護指示書に係る指定訪問看護を受けている方、暴力行為が見られる方などの訪問では「複数名訪問看護加算」を算定できますが、その同行者の定義が明確になりました。「看護補助者」の記載が「その他職員」に変わり、看護師、准看護師、看護補助者(事務職員等を含む)がこれに含まれます。ただし、職種によって訪問回数に上限があります。看護師やPT・OT・ST、准看護師は週1回、看護補助者は週3日です。なお、これまで看護補助者は訪問看護事業所で雇用されていない人員でも構いませんでしたが、秘密保持や安全の観点から事前に研修を行っておくことは重要でしょう。 ・情報提供にかかる条件変更 訪問看護情報提供療養費1には、情報提供先に指定特定相談支援事業者と指定障害児童支援事業者が追加され、算定対象の年齢は15歳未満の小児が18歳未満の児童に拡大されました。訪問看護情報提供療養費2では、情報提供先に高等学校が追加され、算定対象の年齢はすべての条件において15歳未満から18歳未満に引き上げられています。 ・ターミナル療養費の条件変更 利用者が退院翌日に亡くなった場合、退院日は退院支援指導加算を算定するため、その日の訪問は訪問看護ターミナル療養費の算定基準となる2回にカウントできませんでした。今回の改定では、退院支援指導加算の対象日もカウントが可能になり、訪問看護ターミナル療養費を算定しやすくなっています。 ・退院支援指導加算の見直し 長時間にわたる療養上必要な指導を行ったときは、退院支援指導加算を8,400円算定していいという要件が加わりました。 ・遠隔死亡診断補助加算の新設 遠隔死亡診断を行う際、従来は看護師のサポートへの評価は行われていませんでしたが、遠隔死亡診断加算として1,500円を算定できるようになりました。ただし、厚生労働大臣が定める地域に居住する利用者であること、厚生労働省「在宅看取りに関する研修事業」および「ICTを活用した在宅看取りに関する研修推進事業」により実施されている研修を受けた看護師が配置されていることという条件を満たした場合のみになります。 ▶ 届出内容に変更が生じた場合に必要な対応 従来は、届出内容に変更があって当該届出基準を満たさなくなった、もしくは当該届出基準の届出区分が変更となった場合は、変更の届出を行うことが義務づけられていました。今回の改定では、「機能強化型訪問看護療養費に係る届出」に記載した看護職員数等について、当該届出基準に影響がない変動なら、変更の届出は不要となっています。なお、「専門管理加算に係る届出」に記載した専門の研修を受けた看護師が退職し、同様の研修を受けた看護師を新たに雇用した場合は、算定要件に影響するため変更の届出が必要です。 ▶ 訪問看護指示書の様式 訪問看護指示書内の「留意事項及び指示事項」Ⅱの1記載が変更になりましたが、2022年3月31日以前に交付した分は、変更後の様式による再発行は不要です。 ・リハビリテーション欄変更 訪問看護指示書のリハビリの欄について、PT・OT・STの誰が行くのか、また1日あたり何分、週何回行くのかの指示が必要になりました。PT・OT・STの訪問回数が決まったことにより、看護師の代わりにPT・OT・STが訪問するのもNGに。指示書と異なる訪問を行う場合は再発行が必要です。 ▶ オンライン対応による業務の効率化・合理化を推進 ・カンファレンスの条件変更 医療従事者等によって行われるカンファレンスについて、参加者全員のオンライン参加が可能になりました。例えば退院後カンファレンスもオンラインのみで完結します。 ・在宅管理の評価の見直し 在宅時医学総合管理料(施設入居時等医学管理料)について、これまでは月の訪問回数が2回または1回の2種類で管理料を定めていましたが、今回の改定から「月2回の訪問のうち1回はオンラインで管理」という種類が加わり、点数が新設されました。 ・入退院支援加算1の算定要件の変更 100床以上を有する地域包括ケア病棟は入院支援加算1の算定が必須となり、連携する医療機関や介護施設など、訪問看護ステーションを含む25ヶ所以上の職員と、年3回以上の面会が必要になりました。なお、この面会はオンラインでOK。つまり、病院にとってオンライン対応ができない訪問看護ステーションは連携しにくいということです。オンライン設備の整備・活用は、今後必須になるといっても過言ではないでしょう。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年7月19日
2022年7月19日

【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~これからの訪問看護ステーションに求められること~

2022年4月20日に開催したオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』。セミナーレポート第2回となる今回は、改定によって「これからの訪問看護ステーションには、なにが求められるのか」についてお届けします。※約60分間のセミナーのから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ より高まる「機能強化型」訪問看護ステーションへの期待 ・地域医療機関や住民への情報提供 ・地域の訪問看護ステーションへの研修の実施 ・「専門の研修を受けた看護師」の配置は今後2年間で検討を▶ これからは事業継続計画(BCP)の策定が必須に ・複数の訪問看護ステーションによる、24時間対応体制の評価拡大 --> ▶ より高まる「機能強化型」訪問看護ステーションへの期待 2024年以降は病院の病床数を減らし、その分訪問看護をもっと活用していこうという流れがあるなかで、今回の診療報酬改定では「機能強化型1」「機能強化型2」にあたる訪問看護ステーションの単価が増額されました。その代わりに、以下のとおり新たに求められることも増えています。 ・地域医療機関や住民への情報提供 訪問看護の利用拡大に向けた課題のひとつに、「訪問看護がどういうときに使えるか、どんなメリットがあるか」が十分に理解されていない現状が挙げられます。病院の医師や看護師を含め、「訪問看護は、点滴など何らかの処置が自宅で必要になったときに利用するもの」だと思っている方も多いですが、実際はそうではありませんよね。みなさんご存じのとおり、病状を観察したり、患者さんの家族の相談に応じたりといった対応も行っています。そうした「訪問看護に関する正しい情報を、地域の医療機関や住民に発信する」ことが、機能強化型1、機能強化型2の訪問看護ステーションに新たに求められます。 ・地域の訪問看護ステーションへの研修の実施 訪問看護ステーションのなかでも、機能強化型1、2に分類される施設には多くの看護師が在籍していて、看取りの対応や重症の患者さんの看護経験も豊富な傾向にあります。そこで、機能強化型1、2の訪問看護ステーションで培われた「質の高いノウハウを、地域のそのほかの訪問看護ステーションに研修で伝える」ことが義務づけられました。これにより、各地域の訪問看護の品質を底上げすることが狙いです。 この「研修」の内容や期間については、現在のところ明確な基準は特にありません。訪問看護の品質向上やより幅広い利用につながるものであればOKとされています。例えば、地域の訪問看護ステーションと連携して事業継続計画(BCP)を策定し、その内容を研修や訓練という形で共有する。または、地域の医療従事者の方々に訪問看護に同行してもらい、実際の現場の様子を見せながら研修を行うといったことが挙げられるでしょう。 なお、研修の形式はオンラインでも可能とされています。ご自身の事業所の状況に合う研修の形を考えてみてください。 ・「専門の研修を受けた看護師」の配置は今後2年間で検討を 今回の改定で注目したいポイントのひとつが、すべての機能強化型訪問看護ステーションに「在宅看護に係る専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましい」という記載があることです。「在宅看護に係る専門の研修」とは、具体的には以下のとおりです。 ・日本看護協会の認定看護師教育課程・日本看護協会が認定している看護系大学院の専門看護師教育課程・日本精神科看護協会の精神科認定看護師教育課程・特定行為に係る看護師の研修制度により、厚生労働大臣が指定する指定研修機関において行われる研修 なお、2022年の改定では「配置されていることが『望ましい』」という記載にとどまっていますが、2024年にはおそらく配置が『必須』になると予想されます。次回の改定の際に焦ることのないように、今後2年間のうちに専門の研修を受けた看護師の配置を実現できるよう対応を進めておくことをおすすめします。 ▶ これからは事業継続計画(BCP)の策定が必須に もうひとつ今回の改定で義務づけられたのが、業務継続に向けた取り組みの強化、つまりはBCPの策定です。感染症や非常災害が発生した際も利用者に訪問看護の提供を継続的に実施すること、もしくは非常時の体制で早期にサービス提供の再開を図ることを目指します。なお、BCPの策定は2021年の介護報酬改定でも義務づけられています。その際に対応している場合は、同じ内容で問題ないでしょう。 ・複数の訪問看護ステーションによる、24時間対応体制の評価拡大 BCPの策定にあたって知っておきたいのが、24時間対応体制の構築における複数の訪問看護ステーションの連携ルールが変わったことです。これまでも、2つの訪問看護ステーションが連携して24時間対応をした場合であっても、「24時間対応体制加算」の算定は認められていました。ただし、特別地域もしくは医療資源が少ない地域に所在する訪問看護ステーションのみという条件がついていたのです。 しかし今回の改定では、前述の条件に加えて、自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワークに参画している訪問看護ステーションでも算定が認められることになりました。「自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワーク」とは、具体的には以下の3つを指します。 ・都道府県、市町村または医療関係団体等が主催する事業・自然災害や感染症等の発生により業務継続が困難な事態を想定して整備された事業・都道府県、市町村または医療関係団体等が当該事業の調整等を行う事務局を設置し、当該事業に参画する訪問看護ステーション等の連絡先を管理している なお、医療資源が少ない地域の訪問看護ステーションと、(特別地域もしくは医療資源が少ない地域にある)地域の相互支援ネットワークに参画している訪問看護ステーションとが連携した場合も、24時間対応体制加算の算定が可能です。 次回は、「押さえておきたい変更点のポイント」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年7月12日
2022年7月12日

【セミナーレポート】訪問看護の診療報酬改定ポイント~2022年改定の目的とは~

2022年4月20日、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー『訪問看護の診療報酬改定ポイント』を開催しました。講師は、株式会社リンクアップラボの代表取締役、医業経営コンサルタントの酒井麻由美さん。3回に分けてセミナーの様子をお届けします。※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】酒井 麻由美さん株式会社リンクアップラボ代表取締役。医業経営コンサルタント。急性期病院の医事課に勤務した後、2002年から医療や介護領域のコンサルタントとして活動。2018年には独立、自身の会社を設立する。「月刊保険診療」(医学通信社)、「看護管理」(医学書院)、「月刊WAM」(福祉医療機構)など医業・介護経営雑誌に多数寄稿。 目次▶ 高齢者の支え手、医療人材の不足を受けた診療報酬改定▶ 地域医療構想のこれまでの変遷と、2024年以降の見通し▶ 病床削減に向けて22年改定で示された2つの方針 ・方針1:地域包括ケア病棟機能の見直し ・方針2:在院日数の短縮・入退院支援機能の強化▶ 訪問診療、オンライン診療のニーズはますます拡大する --> ▶ 高齢者の支え手、医療人材の不足を受けた診療報酬改定 2022年の診療報酬改定の背景には、深刻な少子高齢化があります。高齢者が増えると同時に、その方々を支える若い人が減っていることは、我が国が抱える重大な問題です。具体的には、2012年はひとりの高齢者を2.4人で支えていたのに対し、2050年にはひとりあたり1.2人で支えるところまで減少する見通しになっています。そこで必要なのが、支え手を増やす努力。今回の診療報酬改定にもその方針が反映されました。また、少子高齢化に紐づく問題として、労働人口の減少も挙げられます。医療資源が限られるなかで、高品質のサービスを効率的に提供し続けられるしくみづくり、すなわち「地域医療構想」も、今回の改定でさらにその内容が見直されています。 ▶ 地域医療構想のこれまでの変遷と、2024年以降の見通し 2012年から始まった地域医療構想は、以下のように段階を踏んで、医療現場が抱える課題の解決を目指しています。 2012年〜2017年:機能分化、役割分担まず2017年までには、機能分化と役割分担が進められました。具体的には、これまで精神科を除く病院の病床は「一般/療養」の2種類に分けられていたものを、2014年6月には「高度急性期/急性期/回復期/慢性期/自宅・介護施設・高齢者住宅」の5つに細分化しています。 2018年〜2023年:機能強化続いて2018年からは、各役割の業務内容の見直しが進められ、機能強化を図っています。急性期・高度急性期は医師・看護師の人員配置が厚いのだから、相応の取り組み、救急医療や専門・集中的な治療を中心にやるなどといった具合です。 2024年以降:病床削減そして2024年以降は、主に急性期を中心に病床削減が進むことが予想されています。コロナ禍でも2022年の改定が厳しい内容となったのは、2024年からの病床削減に向けた準備が必要だったからであると考えられます。 ▶ 病床削減に向けて22年改定で示された2つの方針 2024年からの病床削減に向け、今回の診療報酬改定では大きく2つの方針が示されました。 ・方針1:地域包括ケア病棟機能の見直し まずは、地域包括ケア病棟の機能の見直しです。加齢に伴って増える肺炎や尿路感染、脱水、骨折などの疾病は、高度急性期・急性期ではなく、より看護師配置の割合が低い(10:1〜13:1)地域包括ケア病棟で対応することが求められています。これによって実現するのが、急性期の病床削減、すなわち人材不足問題の解消と医療費の削減です。看護師配置が5:1〜7:1の急性期の入院単価は、40,000円以上。看護師配置20:1、単価19,000円の慢性期と比較すると、急性期を減らすことでどれだけ大きな効果が得られるかがわかるでしょう。 ・方針2:在院日数の短縮・入退院支援機能の強化 そしてもうひとつが、在院日数の短縮。患者さんが今より短い期間で退院すれば、自ずとベッドの使用率を下げることができます。そうして病棟全体の病床数を減らし、その代わり看護師配置30:1の自宅・介護施設・高齢者住宅のベッドを増やすのです。 これはすなわち、疾病によっては病院の外の領域で治療をしていくということになります。実際に2021年の介護報酬改定では、介護老人保健施設で肺炎、尿路感染、帯状疱疹、蜂窩織炎の治療をする場合、1日475単位、つまり4,750円を10日間算定できると定められました。訪問看護においても、今回の改定で同じような変更がありました。医師が指示書と手順書を発行すれば特定行為の研修を受けた看護師が、在宅で褥瘡や脱水などの治療をして良いと明確に認められたのです。これからの時代は「完治したら退院」ではなく、「完全には治ってはいないけれど、続きの治療は老健や在宅で行う」という考え方になっていくことが予想されます。 ▶ 訪問診療、オンライン診療のニーズはますます拡大する 今後、訪問看護のニーズは確実に拡大していきます。なぜなら、2025年には団塊の世代の方々が全員75歳以上に突入し、85歳以上の人口がどんどん増大していくからです。年齢別に要介護認定を受けている方の割合を見ていくと、75歳以上では約3割なのに対し、85歳以上になると約6割にも上ります。これはつまり、6割の方は外来受診が難しくなるということを指します。 実は現在ほとんどの地域で、外来患者数はすでにピークを過ぎています。「新型コロナの影響で患者数が減った」とおっしゃる医師も少なくありませんが、実際は新型コロナの流行と外来患者が減る時期とが重なったのです。オンライン診療が推進された理由も、医療費削減だけではなく、そもそも病院に通えない患者さんが増えていることがあります。また、これからの10年間は亡くなる方が増えます。しかも単身世帯や、老老世帯が増えている状況下にありますから、診療だけでなく、看取りの対応も課題になってくるでしょう。 次回は、「これからの訪問看護ステーションに求められること」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年4月12日
2022年4月12日

【セミナーレポート】訪問看護ステーションの採用から定着戦略 ~いい人材を集め、強い組織にするためには~

2022年2月18日、NsPace(ナースペース)のオンラインセミナー「訪問看護ステーションの採用から定着戦略」を開催しました。講師にお迎えしたのは、桜新町アーバンクリニックチームの事務長で、主に医療機関に向けてコンサルティングを行う株式会社メディヴァのシニアマネージャーでもある村上 典由さん。看護師の採用と定着で成果を収める村上さんに、心構えや実践的なノウハウを伺いました。 【講師】村上 典由さん桜新町アーバンクリニックチーム 事務長、株式会社メディヴァ シニアマネージャー、国際医療福祉大学 非常勤講師。経歴:広告代理店や飲食店事業会社 副社長を経て、株式会社メディヴァ入社。桜新町アーバンクリニックチームでは事務長を務め、看護師採用や育成に取り組む。著書に「在宅医療 経営・実践テキスト」(日経ヘルスケア)など。 今、看護師の離職率は 公益社団法人日本看護協会が行った「2019 年 病院看護実態調査」によると、『病棟勤務の正規雇用看護師の平均離職率』は「11.5%」。まずこれを基準に、ご自身の組織が今どんな状態か判断するといいと思います。スタッフの離職は、経営に大きな打撃を与えます。紹介会社を利用した場合、看護師ひとりにかかる平均コストは約92万円。これに教育への投資なども含めれば、一人が辞めることの損失はとても大きい金額になります。加えて、組織の雰囲気の悪化など、金額換算できないダメージも看過できません。 これからは病棟で働く看護師へのアプローチも重要 日本は国策として、今後さらなる病床の削減と在宅医療の推進を目指しています。これに伴い訪問看護師の数を増やす必要があり、2025年には東京や大阪を中心とした都市部で、その数が大きく不足することが見込まれています。 国が掲げる目標を実現できるか否かは、「受け皿が整うかどうか」にかかっていると言えるでしょう。一事業所が病院勤務の看護師をどれだけ訪問看護に呼べるかで、地域包括ケアの未来が左右されると考えています。 積極的に採用すべき「いい人材」とは? そもそも、積極的に採用すべき「いい人材」や「適切な人材」とはどんな人でしょうか。 私は「スキルが高い即戦力になる人」ではなく、「主体性や創造性、情熱がある人」と考えています。人の能力には、変化しやすいものとそうでないものがあります。例えば、知識やコミュニケーション力は、教育で変えられるもの。一方、情熱や粘り強さなどは変化しにくいとされています。面接ではスキルや経歴、コミュニケーション力を見がちですが、それらは最も重視すべき点ではありません。加えて、組織のカルチャーにマッチするかどうかも確認したい点。スキルが高くても、カルチャーに合わないと定着しないリスクが高くなります。そうしてチームに溶け込める「主体性や創造性、情熱がある人」が集まれば、自ずと組織がいい方向に変化していきます。 「いい人材」を集めるために今日からできること 事業成功の肝は、「いい人材」を採用し、定着させること。その第一歩が、広く応募者を募ることです。具体的な方法としては、紹介会社や有料求人媒体など、「Push型」の広告を採用しましょう。自社の採用サイトに求人情報を掲載するだけ「Pull型」では、現状採用に悩んでいる訪問看護ステーションはまずうまくいきません。そして、併せて取り組みたいのが、採用パンフレットの作成。これをつくると、組織の特徴や強みを明確にでき、求職者にきちんと情報を届けられるようになります。そのほかの求人媒体でのアピールも容易になるでしょう。 従来の選考を見直し、応募者をより正確に知ることが採用成功のカギ 人材を選ぶ際には、面接だけでなく、看護の現場で応募者のスキルを確認しましょう。同行見学してもらったり、カンファレンスに参加してもらって意見や感想を聞いたりすれば、面接では得られない情報を引き出せます。事務スタッフの採用も、簡単な文書作成や給与計算に取り組んでもらうのがおすすめです。 また、面接は応募者の適性やスキルなどをより正確に評価できる「構造化面接」を実践してみてください。構造化面接とは、評価基準を明確にしたうえで、決められた質問に沿って事実を確認していく面接です。面接官の主観が影響しにくく、より客観的な情報を得られます。当事業所では、今退職を考えている理由、応募の決め手などの情報をくまなく拾います。そこから、組織のなかでどんな役割を担うことが多いか、自分が入職することで当事業所にどんな影響があるかなど、深掘りする質問をしています。 なお、面接は「応募者から選んでもらうための場」「応募者を口説く場」でもあることも忘れてはいけません。採りたい人材の面接にはエース級の人材を同席させる、「あなたに来てほしい」ときちんと伝えるなどの工夫をしましょう。 強い組織にするために、思考の軸を見直しEVPを増やそう いい人材が集まる組織であるには、リーダーの素質が問われます。ポイントは、思考の軸を「なにをするか(what)」ではなく「なんのためにするか(why)」に据えることです。例えば、「病や障害がある人も生きやすい社会にするため、よりよい在宅医療の実現を目指す。それにはまず、スタッフがイキイキと働き、学べる職場をつくりたい」と考える、といった具合。リーダーには、思考でも人への発信でも、目的からスタートすることが求められます。 また、「この事業所で働きたい」「この事業所でないとだめ」と感じてもらえる要素(EVP:従業員への価値の提案)をできるだけ多くつくることを目指しましょう。例えば当事業所には、クリニックを併設していたり、非営利の地域活動をしていたりといったEVPがあります。「自分たちには特長がない」という方もいるかもしれませんが、在籍するスタッフの質や職場の雰囲気のよさ、勤務時間の自由度も、重要なEVPのひとつです。優秀な人材にとってレベルの高い環境で働くことは満足感につながります。 ぜひ組織の改善に取り組み、人が集まり、定着する組織を目指してください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年3月15日
2022年3月15日

【セミナーレポート】精神訪問看護 みんなが楽になるコツ

2022年1月21日に実施されたNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「精神訪問看護 みんなが楽になるコツ」。訪問看護ステーションの統括所長である精神科認定看護師の小瀬古伸幸さんを講師にお迎えし、精神科訪問看護とはなにか、現場では具体的にどんなサポートが求められているかなどを教えていただきました。地域の精神病看護における実践的なノウハウがつまった貴重なセミナーの一部をご紹介します。 【講師】小瀬古 伸幸さん訪問看護ステーションみのり 統括所長、精神科認定看護師、WRAPファシリテーター、Family Work Practitioner経歴:精神科単科病院勤務後、2014年に訪問看護ステーションみのりに入職。2016年には同組織の奈良事業所を開設し、所長に就任。2019年より現職。精神病の利用者さんに対する訪問看護の実践はもちろん、近年はその家族の支援にも注力する。著書に「精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本」(医学書院)がある。 精神科訪問看護で起こりがちな失敗と基本的な考え方 精神科訪問看護では、利用者さんが「自分らしく生きる」ための方法を本人と一緒に考え、自己決定をサポートします。私が所属する訪問看護ステーションでは、「精神症状と付き合いながら、生活を組み立てていくサポートをしている」と説明しています。重要なポイントは、こちらの考えを押しつけるのではなく、利用者さんの自己決定を支援するという点です。精神科訪問看護に携わりはじめたのころの私は、これができていませんでした。無意識のうちに利用者さんを説得しようとしたり、不安を煽ってしまったりしていたんです。例えば「薬を飲まないと症状が再燃して入院になりますよ。だから薬を飲むべきだと思いますが、どう思いますか?」といった具合です。結果的に、たくさんの利用者さんから拒否されてしまい、「脅しや尋問を受けている感覚になる」という言葉をいただくこともありました。私としては、「どう思いますか?」と意見を聞いているので、なぜ拒否されるのかわからなかったのですが……。このままではいけないとコミュニケーションの術を学び、改めて自身の発言を振り返ることで、私の対応は、利用者さんにとって脅威になっていると気づいたんです。現在では「利用者さんが自分らしい生き方を叶えるサポートをする」のが精神科訪問看護だと考えています。 常に利用者さんの真意を探りながら自己決定をサポートする 先にお話ししたとおり、精神科看護の大前提は自己決定を支援することです。では、自己決定とはなにか。さまざまな事象について主体性をもって自ら選択、決定し、その後も自身の判断に関与していくことをいいます。そして看護師には、決定後の関与の部分までサポートすることが求められます。例えば、アルコール依存症の方がお酒を断つと決めたとしましょう。しかし、スリップを繰り返す様子を見ると、私たちはつい「この人は嘘つきだ、意志が弱い」といったレッテルを貼ってしまいがち。しかし、スリップの背景には必ず理由があるものです。「どんな気持ちだったか」「どんな経緯があったか」「その判断、選択の理由はなにか」といった問いかけをし、その理由、ひいては『その人らしさ』を知ることが必要になります。 「精神科訪問看護の基本の型」を理解し、フェーズに合った支援を では、自己決定の支援だけをすればいいのかというと、もちろん違います。そこは大前提として、精神科訪問看護の軸は、「早期警告サイン(症状が再燃していく兆候)を同定し、対処法を一緒に考えること」にあります。そのためには、「精神科訪問看護の基本の型」を理解したうえでサポートしていくのがいいでしょう。まず、症状の度合いを「普段の生活」「調子の変化」「生活の支障」「破綻の危機」の4段階に分けて考えます。各段階は以下のような状態を指します。 ・普段の生活「いい感じだ」と思える状態。一般的にイメージされる健康的な生活ではなく、本人が充実していると感じられる生活を送っている状態。・調子の変化「いい感じの自分ではない」と感じるタイミングが少しずつ増えている状態。・生活の支障症状が明確に現れはじめ、就業できなくなるなど、日常生活がままならなくなる状態。・破綻の危機症状が活発になり、入院も視野に入れなければならない状態。 例えば、音楽が好きな利用者さんが、曲を聴かなくなったとします。その理由が「疲れているからあえて聴かなかった」のであれば、対処しているとして経過を観察してもいいかもしれません。しかし「自分でも理由はわからないけれど、なぜか聴いていなかった」なら、調子の変化のフェーズに入っている可能性があるため、対処法を検討すべきでしょう。また、破綻の危機のフェーズまで進んでしまった場合は、薬の投与や入院など打てる手は限られます。なお、訪問看護の現場では、生活の支障と破綻の危機の間の段階で対応するケースが多くなっているのが現状です。もっと前の段階で対処し、普段の生活に戻していくことが求められています。 対話時の「自分の位置」を意識し、利用者さんの言葉を引き出す 病気の改善に向け、利用者さんと対話していくなかでは、まず本人の欲求をヒアリングしてみましょう。利用者さんはどんな状態になりたいのか、今なにが不足しているかを聞き、その答えから目指すべきゴールを明確にします。そして、確実にゴールに近づけるようにサポートしていくのです。 このときに気をつけたいのが、対話をする際の「自分の位置」。人と人とが対話を始める際、多くの場合社交辞令から入ります。そこは問題ありませんが、多くの支援者が失敗してしまうのは、社交辞令のあとの流れです。「支援者本位」の話をしてしまい、利用者さんが心を閉ざすという流れはよく耳にします。大事なのは、上の図の「ここから開始」の部分。社交辞令のあとは「相手が話したいこと」に移行することです。その対話のなかで肯定的な反応を引き出せるようになれば、自然と支援者が聞きたいことも話してくれるようになります。対話のなかで、利用者さんから「でも」や「だって」などといった否定的なニュアンスの言葉が聞かれるようになったら、要注意。支援者本位になっている可能性大です。 精神科訪問看護ではなによりもまず利用者さんの気持ちに寄り添って 幻聴や妄想といった症状は、対話だけで解消するのは難しいでしょう。私は、精神科訪問看護でまず目指すべきは、利用者さんの気持ちに寄り添うことだと考えます。幻聴や妄想の根底には、怒りや不安などの感情があるもの。そうした感情が脳のフィルターをとおり、症状として現れるのです。そんなつらさ、先の見えない不安な気持ちに寄り添うことが、私たちには求められます。利用者さんから症状についての説明を聞いて、まずは「それはつらいですね」と共感の声をかける。そうやって寄り添うことで、薬物療法も功を奏すものです。 Q&Aセッション 幻想や妄想について聞いても良いものでしょうか? ぜひ聞いてください。利用者さんのなかには、周りの人に症状について話しても信じてもらえなかったり、うんざりされたりといった経験をしている方が少なくありません。そんな経験をするうちにだんだんと話さなくなり、ひとりで抱え込み、症状が悪化、または固定化していってしまいます。私の経験を振り返っても、関係性ができてきたころに「こんなふうに話を聞いてもらったのは初めて」とおっしゃる方はとても多いです。じっくり話を聞き、寄り添ってあげてください。 ●小瀬古さんからのお知らせ●日々の忙しさのなか、隙間時間を利用して、いつでもどこでも、短時間で精神科訪問看護について学べるようにYouTube「TOKINOチャンネル」を開設しました。お見逃しのないよう、ぜひ、チャンネル登録をよろしくお願いします! 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年2月15日
2022年2月15日

【セミナーレポート】看取りの作法~事例検討と質疑応答編~

2021年12月17日(金)、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーを行いました。講師に田中公孝先生をお迎えした今回のテーマは、2021年11月開催セミナーから引き続き「看取りの作法」。リアルな看取りの実例を通し『医療者が看取りに向き合う』ときに意識したい点について、田中先生のご経験をふまえながらお話いただきました。今日の訪問看護からすぐに取り入れられるエッセンスをピックアップしてお届けします。 2021年11月12(金)開催「看取りの作法」セミナーレポートはこちら≫ 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 「看取り」を見据えた医療者のかかわり方 サービス開始時、利用者の方の情報を分析し、医療の視点からみなさん計画を立てると思います。もちろん決めつけすぎるのは良くありませんが、計画段階で『どこまでを見据えるか』という点は重要です。看護計画に主眼を置きすぎると見落としてしまいがちな「本人はどうしたいのだろう」という視点。この視点もバランス良く持ちながら患者さんとかかわっていく必要があると考えていて、私の場合は「最期をどういうふうに迎えたいか」という点も注視します。・最期について、家族とどうやって話し合うのか・専門職としてどのような意志決定の支援ができるかというところまで思考を拡張させながら、医学アセスメント、家族関係や希望を含め、計画を立てていきます。 家族間の問題が表出したとき、医療者はクッションになり得る 終末期になると家族の問題や関係性が集約されてきます。これまで関係性が希薄だった家族が集合してコミュニケーションをとり始めると、ギクシャクしてしまうことも多い。そういった場面で、専門職はクッションになれる可能性がある。その点についても意識しながら、看護計画を立てていくと良いのかなと考えています。 利用者の方の日々の生活から読み取る観察眼 利用者の方のことを知るために、私が意識しているのは次の2つです。まずひとつは利用者の方に「具体的な質問をする」こと。たとえば「食事のあとはなにをして過ごしますか?」と漠然と聞くのではなく、「新聞は読みますか?」「テレビは観ますか?」など1歩踏み込んで尋ねることで初めて返ってくる答えがあります。もうひとつは「観察する」ことです。利用者の方の身の周りに置いてあるものや日常でよく使うもの、飾っているもの。そういったもののなかに、大切にしたい思い出や誇りを持っていることが隠れている。そこに目配りをすることでコミュニケーションのきっかけができるだけでなく、短期間でも心の距離を縮めやすくなり、心を開いてもらうことにつながります。これは利用者本人だけでなく、家族に対しても同じことが言えます。 グリーフケアのコーディネート 会いたい人に会えるように 看取りの際、私たちの行為にはグリーフケアをコーディネートするという側面が含まれます。ご家族からも話を聞くことは、利用者本人のことを知るだけでなく、ご家族に対する死前のグリーフケアにもなるんです。死前に「悲嘆を共有できる専門職」として家族に認めてもらうことで、死後のグリーフケアもスムーズになります。 グリーフケアの基本についてはこちら≫ また、やりたいことを叶えていくことで、本人はもちろんご家族も「良かった」と思える。死前のグリーフケアという意味も含めて本人に「やりたいことはないですか?」「会いたい人はいますか?」と聞いたり、「会いたい人には会った方が良いですよ」と促したりします。 そして心構えを伝えることも重要です。私たち医療者は事例を見ているので看取りへ向かう経過のイメージができますが、ご家族には難しい。だから事前に「これから1カ月でこうなります」「1週間でこうなります」という変化を専門家として提示することで心構えを促します。そうすると「じゃあ、あれをやらなくちゃ」と家族の行動が変わる。そこをコーディネートするのがすごく重要かなと考えています。 Q&Aセッション 短期間で関係性を構築するためのアドバイスいただけますか? Q 最近は介入後に数週間で旅立たれることが多いです。関係性や信頼関係に中途感があります。短期間で関係性を構築するためのアドバイスをいただけますか? A 事前にどれだけ看取りに向けてのシナリオを描けるかというのが鍵となります。準備無しで行き当たりばったりだと、絶対に中途半端になってしまう。これまでの治療で患者さんや家族が抱えた気持ちのモヤモヤを解きほぐして、家族に看取りへの心構えや経過を説明して、家族関係のコーディネートをして…ということができれば中途感はぬぐえるかなと思います。このとき、ひとりでパンクしないために看取りのためのベストチームを形成しておくことも重要です。同じような価値観で組める医師に依頼して、看取り経験が豊富な看護師、ケアマネージャーともトライアングルチームを組んで、家族のグリーフケアもケアマネージャーにフォローしてもらって、というようなプロデュースをしてチームで手分けできると、かかわる時間が短く自分たちがあまり時間を割けないなかでも、上手くいくように思います。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら