セミナーレポートに関する記事

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2022年3月15日
2022年3月15日

【セミナーレポート】精神訪問看護 みんなが楽になるコツ

2022年1月21日に実施されたNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「精神訪問看護 みんなが楽になるコツ」。訪問看護ステーションの統括所長である精神科認定看護師の小瀬古伸幸さんを講師にお迎えし、精神科訪問看護とはなにか、現場では具体的にどんなサポートが求められているかなどを教えていただきました。地域の精神病看護における実践的なノウハウがつまった貴重なセミナーの一部をご紹介します。 【講師】小瀬古 伸幸さん訪問看護ステーションみのり 統括所長、精神科認定看護師、WRAPファシリテーター、Family Work Practitioner経歴:精神科単科病院勤務後、2014年に訪問看護ステーションみのりに入職。2016年には同組織の奈良事業所を開設し、所長に就任。2019年より現職。精神病の利用者さんに対する訪問看護の実践はもちろん、近年はその家族の支援にも注力する。著書に「精神疾患をもつ人を、病院でない所で支援するときにまず読む本」(医学書院)がある。 精神科訪問看護で起こりがちな失敗と基本的な考え方 精神科訪問看護では、利用者さんが「自分らしく生きる」ための方法を本人と一緒に考え、自己決定をサポートします。私が所属する訪問看護ステーションでは、「精神症状と付き合いながら、生活を組み立てていくサポートをしている」と説明しています。重要なポイントは、こちらの考えを押しつけるのではなく、利用者さんの自己決定を支援するという点です。精神科訪問看護に携わりはじめたのころの私は、これができていませんでした。無意識のうちに利用者さんを説得しようとしたり、不安を煽ってしまったりしていたんです。例えば「薬を飲まないと症状が再燃して入院になりますよ。だから薬を飲むべきだと思いますが、どう思いますか?」といった具合です。結果的に、たくさんの利用者さんから拒否されてしまい、「脅しや尋問を受けている感覚になる」という言葉をいただくこともありました。私としては、「どう思いますか?」と意見を聞いているので、なぜ拒否されるのかわからなかったのですが……。このままではいけないとコミュニケーションの術を学び、改めて自身の発言を振り返ることで、私の対応は、利用者さんにとって脅威になっていると気づいたんです。現在では「利用者さんが自分らしい生き方を叶えるサポートをする」のが精神科訪問看護だと考えています。 常に利用者さんの真意を探りながら自己決定をサポートする 先にお話ししたとおり、精神科看護の大前提は自己決定を支援することです。では、自己決定とはなにか。さまざまな事象について主体性をもって自ら選択、決定し、その後も自身の判断に関与していくことをいいます。そして看護師には、決定後の関与の部分までサポートすることが求められます。例えば、アルコール依存症の方がお酒を断つと決めたとしましょう。しかし、スリップを繰り返す様子を見ると、私たちはつい「この人は嘘つきだ、意志が弱い」といったレッテルを貼ってしまいがち。しかし、スリップの背景には必ず理由があるものです。「どんな気持ちだったか」「どんな経緯があったか」「その判断、選択の理由はなにか」といった問いかけをし、その理由、ひいては『その人らしさ』を知ることが必要になります。 「精神科訪問看護の基本の型」を理解し、フェーズに合った支援を では、自己決定の支援だけをすればいいのかというと、もちろん違います。そこは大前提として、精神科訪問看護の軸は、「早期警告サイン(症状が再燃していく兆候)を同定し、対処法を一緒に考えること」にあります。そのためには、「精神科訪問看護の基本の型」を理解したうえでサポートしていくのがいいでしょう。まず、症状の度合いを「普段の生活」「調子の変化」「生活の支障」「破綻の危機」の4段階に分けて考えます。各段階は以下のような状態を指します。 ・普段の生活「いい感じだ」と思える状態。一般的にイメージされる健康的な生活ではなく、本人が充実していると感じられる生活を送っている状態。・調子の変化「いい感じの自分ではない」と感じるタイミングが少しずつ増えている状態。・生活の支障症状が明確に現れはじめ、就業できなくなるなど、日常生活がままならなくなる状態。・破綻の危機症状が活発になり、入院も視野に入れなければならない状態。 例えば、音楽が好きな利用者さんが、曲を聴かなくなったとします。その理由が「疲れているからあえて聴かなかった」のであれば、対処しているとして経過を観察してもいいかもしれません。しかし「自分でも理由はわからないけれど、なぜか聴いていなかった」なら、調子の変化のフェーズに入っている可能性があるため、対処法を検討すべきでしょう。また、破綻の危機のフェーズまで進んでしまった場合は、薬の投与や入院など打てる手は限られます。なお、訪問看護の現場では、生活の支障と破綻の危機の間の段階で対応するケースが多くなっているのが現状です。もっと前の段階で対処し、普段の生活に戻していくことが求められています。 対話時の「自分の位置」を意識し、利用者さんの言葉を引き出す 病気の改善に向け、利用者さんと対話していくなかでは、まず本人の欲求をヒアリングしてみましょう。利用者さんはどんな状態になりたいのか、今なにが不足しているかを聞き、その答えから目指すべきゴールを明確にします。そして、確実にゴールに近づけるようにサポートしていくのです。 このときに気をつけたいのが、対話をする際の「自分の位置」。人と人とが対話を始める際、多くの場合社交辞令から入ります。そこは問題ありませんが、多くの支援者が失敗してしまうのは、社交辞令のあとの流れです。「支援者本位」の話をしてしまい、利用者さんが心を閉ざすという流れはよく耳にします。大事なのは、上の図の「ここから開始」の部分。社交辞令のあとは「相手が話したいこと」に移行することです。その対話のなかで肯定的な反応を引き出せるようになれば、自然と支援者が聞きたいことも話してくれるようになります。対話のなかで、利用者さんから「でも」や「だって」などといった否定的なニュアンスの言葉が聞かれるようになったら、要注意。支援者本位になっている可能性大です。 精神科訪問看護ではなによりもまず利用者さんの気持ちに寄り添って 幻聴や妄想といった症状は、対話だけで解消するのは難しいでしょう。私は、精神科訪問看護でまず目指すべきは、利用者さんの気持ちに寄り添うことだと考えます。幻聴や妄想の根底には、怒りや不安などの感情があるもの。そうした感情が脳のフィルターをとおり、症状として現れるのです。そんなつらさ、先の見えない不安な気持ちに寄り添うことが、私たちには求められます。利用者さんから症状についての説明を聞いて、まずは「それはつらいですね」と共感の声をかける。そうやって寄り添うことで、薬物療法も功を奏すものです。 Q&Aセッション 幻想や妄想について聞いても良いものでしょうか? ぜひ聞いてください。利用者さんのなかには、周りの人に症状について話しても信じてもらえなかったり、うんざりされたりといった経験をしている方が少なくありません。そんな経験をするうちにだんだんと話さなくなり、ひとりで抱え込み、症状が悪化、または固定化していってしまいます。私の経験を振り返っても、関係性ができてきたころに「こんなふうに話を聞いてもらったのは初めて」とおっしゃる方はとても多いです。じっくり話を聞き、寄り添ってあげてください。 ●小瀬古さんからのお知らせ●日々の忙しさのなか、隙間時間を利用して、いつでもどこでも、短時間で精神科訪問看護について学べるようにYouTube「TOKINOチャンネル」を開設しました。お見逃しのないよう、ぜひ、チャンネル登録をよろしくお願いします! 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年2月15日
2022年2月15日

【セミナーレポート】看取りの作法~事例検討と質疑応答編~

2021年12月17日(金)、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーを行いました。講師に田中公孝先生をお迎えした今回のテーマは、2021年11月開催セミナーから引き続き「看取りの作法」。リアルな看取りの実例を通し『医療者が看取りに向き合う』ときに意識したい点について、田中先生のご経験をふまえながらお話いただきました。今日の訪問看護からすぐに取り入れられるエッセンスをピックアップしてお届けします。 2021年11月12(金)開催「看取りの作法」セミナーレポートはこちら≫ 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 「看取り」を見据えた医療者のかかわり方 サービス開始時、利用者の方の情報を分析し、医療の視点からみなさん計画を立てると思います。もちろん決めつけすぎるのは良くありませんが、計画段階で『どこまでを見据えるか』という点は重要です。看護計画に主眼を置きすぎると見落としてしまいがちな「本人はどうしたいのだろう」という視点。この視点もバランス良く持ちながら患者さんとかかわっていく必要があると考えていて、私の場合は「最期をどういうふうに迎えたいか」という点も注視します。・最期について、家族とどうやって話し合うのか・専門職としてどのような意志決定の支援ができるかというところまで思考を拡張させながら、医学アセスメント、家族関係や希望を含め、計画を立てていきます。 家族間の問題が表出したとき、医療者はクッションになり得る 終末期になると家族の問題や関係性が集約されてきます。これまで関係性が希薄だった家族が集合してコミュニケーションをとり始めると、ギクシャクしてしまうことも多い。そういった場面で、専門職はクッションになれる可能性がある。その点についても意識しながら、看護計画を立てていくと良いのかなと考えています。 利用者の方の日々の生活から読み取る観察眼 利用者の方のことを知るために、私が意識しているのは次の2つです。まずひとつは利用者の方に「具体的な質問をする」こと。たとえば「食事のあとはなにをして過ごしますか?」と漠然と聞くのではなく、「新聞は読みますか?」「テレビは観ますか?」など1歩踏み込んで尋ねることで初めて返ってくる答えがあります。もうひとつは「観察する」ことです。利用者の方の身の周りに置いてあるものや日常でよく使うもの、飾っているもの。そういったもののなかに、大切にしたい思い出や誇りを持っていることが隠れている。そこに目配りをすることでコミュニケーションのきっかけができるだけでなく、短期間でも心の距離を縮めやすくなり、心を開いてもらうことにつながります。これは利用者本人だけでなく、家族に対しても同じことが言えます。 グリーフケアのコーディネート 会いたい人に会えるように 看取りの際、私たちの行為にはグリーフケアをコーディネートするという側面が含まれます。ご家族からも話を聞くことは、利用者本人のことを知るだけでなく、ご家族に対する死前のグリーフケアにもなるんです。死前に「悲嘆を共有できる専門職」として家族に認めてもらうことで、死後のグリーフケアもスムーズになります。 グリーフケアの基本についてはこちら≫ また、やりたいことを叶えていくことで、本人はもちろんご家族も「良かった」と思える。死前のグリーフケアという意味も含めて本人に「やりたいことはないですか?」「会いたい人はいますか?」と聞いたり、「会いたい人には会った方が良いですよ」と促したりします。 そして心構えを伝えることも重要です。私たち医療者は事例を見ているので看取りへ向かう経過のイメージができますが、ご家族には難しい。だから事前に「これから1カ月でこうなります」「1週間でこうなります」という変化を専門家として提示することで心構えを促します。そうすると「じゃあ、あれをやらなくちゃ」と家族の行動が変わる。そこをコーディネートするのがすごく重要かなと考えています。 Q&Aセッション 短期間で関係性を構築するためのアドバイスいただけますか? Q 最近は介入後に数週間で旅立たれることが多いです。関係性や信頼関係に中途感があります。短期間で関係性を構築するためのアドバイスをいただけますか? A 事前にどれだけ看取りに向けてのシナリオを描けるかというのが鍵となります。準備無しで行き当たりばったりだと、絶対に中途半端になってしまう。これまでの治療で患者さんや家族が抱えた気持ちのモヤモヤを解きほぐして、家族に看取りへの心構えや経過を説明して、家族関係のコーディネートをして…ということができれば中途感はぬぐえるかなと思います。このとき、ひとりでパンクしないために看取りのためのベストチームを形成しておくことも重要です。同じような価値観で組める医師に依頼して、看取り経験が豊富な看護師、ケアマネージャーともトライアングルチームを組んで、家族のグリーフケアもケアマネージャーにフォローしてもらって、というようなプロデュースをしてチームで手分けできると、かかわる時間が短く自分たちがあまり時間を割けないなかでも、上手くいくように思います。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年1月25日
2022年1月25日

【セミナーレポート】看取りの作法 Q&Aセッション回答編

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。最終回の今回は、「QAセッション」の模様を一部ご紹介します。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 Q1 訪問看護師がエンゼルケアをする事例はある? 私が組んでいる訪問看護ステーションの場合は、エンゼルケアまで行う事例が多いです。看護師さんの方からご家族に「訪問看護師にエンゼルケアをしてほしい」と思わせるような促しをすることも多い印象ですね。看取りにはご家族との細かいコミュニケーションが必要なので、エンゼルケアまでを含めて一つのパッケージとして提供しているところもあります。一方で、そこまでエンゼルケアというものがピンとこないご家族や、お金もかかるので葬儀屋さんでいいですとおっしゃる場合は、葬儀屋さんが担当なさいます。 Q2 誤嚥リスクが高くても飲食したいと言われた場合の工夫は? すごく細かくしてとろみをつける方法があります。そのままの固形物ではなく、味を体感できるように工夫してみてください。飲み込まなくても、少量を口に含んで味を楽しんでもらうというのも一手です。 Q3 予後が1日2日だと感じたとき、看護師から告知を行うのはアリ? 看護師さんの方が頻繁に患者さんを訪問するので、ギリギリの場面で今すぐ伝えなくてはと感じるケースもあるかと思うのですが、まずは医師とコミュニケーションをとることをおすすめします。ひと手間かかって大変だと感じるかもしれませんが、訪問クリニックに連絡して「私からご家族にここまでお伝えしておきますね」というところの確認するのが良いかと思います。最近は、MCSやバイタルリンクなどを使うことで情報をファクトとして共有できるようになったので、訪問クリニックと目線を合わせて実行してみてください。 Q4 本人は入院したくない、家族は入院してほしいケースはどうしたらいい? 結構多いケースですね。この場合、まず「家族はどうして入院してほしいと思っているのか」について深堀りして話を聞きます。働いているから看きれないというのであれば、訪問サービスで固める方法をご提案することもあります。もう一つ、「ご本人はどうして入院したくないのか」についても探ります。家族には素直に本音が言えないこともあるので、私たちが翻訳家や伝言役としてご本人と家族とをつなぐことも少なくありません。ここは多職種介入のミソだと思います。家族の話をたくさん聞き、本人の話もたくさん聞いて、向き合って妥協点を探ることをおすすめします。 Q5 グリーフケアやデスカンファの最適なタイミングは? グリーフケア、デスカンファ、ともにご本人が亡くなってから1カ月後をひとつの目安にしています。ご家族は葬儀でバタバタしたり、銀行をはじめ必要な手続きも多かったりするので、そのあたりのことが落ち着いた1カ月後くらいが目安になります。デスカンファも2カ月空けてしまうと記憶が薄れていることが少なくないので、行うのであれば、1カ月くらいが良いと思います。 Q6 リハ職として、亡くなる1カ月以内ではどんな関わりができますか? できる関わりは多々ありますが、最も重視してほしいのはご本人への「傾聴」です。どんなことを今ご心配されているんですか? とか、先生や看護師さんからどんな話がありました? とか。聞く姿勢をもってくれる人に話をすると患者さんはちょっとすっきりするので、傾聴の関わりをおすすめします。そこで聞いたことを医師や看護師に共有してみるのはどうでしょうか。 Q7 キーパーソンと他の家族の関係性が良くないケースではどうしたら? キーパーソンは他の家族に説明しなくていいと言うが、他の家族は知りたいと言うようなケースでは、まずは、キーパーソンに目線を合わせます。他のご家族との関係性をちゃんと見つめながらキーパーソンに寄り添ってしっかりお話を聞いて、もし他の家族に説明をしない場合は〇〇というトラブルが考えられますが大丈夫ですか?というところまで伝えます。ここで妥協点を引き出せることが多いですね。医療者が家族の間に立ってコーディネートすることで円滑にコミュニケーションがとれるようになる、というのは、後々にも感謝されることじゃないかなと思います。 Q8 怒りを表出している患者さんにどう言葉がけしていますか? 私に対して患者さんが表出する怒りは「前医への批判」であることが少なくありません。そういうときは、私自身は前医を批判しないようにしながら「これからは私に言ってください」という方向に話を運びます。結構きついんですが、割り切って怒りに向き合っていますね。もう1回目の往診はこれだと。私の1回目の治療はこれだというふうに心がけをして、サンドバックになります。このとき、相槌も重要です。合いの手を入れるとさらに話してくださるので、どこで合いの手を入れるかも意識します。これはみなさん抱えている悩みだと思うので、看護師さんどうしでぜひいろんな人の経験を聞いてみてください。 Q9 訪問看護ステーションとの連絡・連携方法で工夫している点は? 医療ICTには、MCS、バイタルリンク、カナミックなどあるかと思うのですが、これらを事前にチームで共有します。相手が読んでいるかどうかはまた別の問題になりますが、タイムリーな共有が可能です。私自身は、末期のときはチーム全員でICTを導入します。文字だけではニュアンスが伝わりにくいこともあるので、内容に疑問をもったときや目線を合わせた方が良いと感じたときは、電話でもコミュニケーションをとるようにしています。 ▶ 編集部まとめ 在宅医療にかかわる医療者にとって大きな課題のひとつでありながら、自分なりの正解を見出すことが難しいと感じている方が多い「看取り」というテーマ。より良い「看取り」とはなにか? という課題に真正面から向き合い、多職種での連携を行いつつ患者さんとそのご家族に真摯に寄り添う田中先生のお話に、セミナー開催後、編集部には参加者の方からたくさんの声が寄せられました。代表的なコメントを一部ご紹介します。 〇セミナー後に参加者の方から寄せられたコメント「看取りの現場の実際の話をたくさん聞けて大変勉強になりました」「在宅専門の先生目線での意見が聞けて勉強になりました」「これで良かったのかと反省しながらまた次にと、すすんでいたので心が楽になりました」 次回セミナーレポートでは、2021年12月17日(金)、引き続き田中公孝先生を講師にお招きして開催した「看取りの作法~事例検討と質疑応答編~」をお届けします。公開まで楽しみにお待ちください。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年1月18日
2022年1月18日

【セミナーレポート】看取りの作法 -後編- 看取り直前の対応とグリーフケア

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。2回目の今回は、「看取り直前の対応とグリーフケア」についてご紹介します。※約60分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 看取り直前の経過をおさえる 看取りの自然経過として、そろそろ食欲がなくなってきた……というタイミングで、ご家族に1週間以内の話をします。そんなことまで伝えるの? と思う方もいるかもしれませんが、これから起こることを前もって知っていると人は冷静になれるので、必ず伝えるようにしています。具体的には、次のような内容をお話します。 死亡前1週間以内・トイレに行けなくなる・水分が飲めなくなる・ADLが落ちていく 死亡前48時間以内・手足が冷たくなる・尿が非常に少なくなる・血圧が脈でしか測れない(70くらい)・死前喘息(ゼーゼーという痰が絡むような音が聞こえる)・手足をバタバタさせる「せん妄」状態に陥る 死前喘息については、吸引しても引けない可能性があり、ご本人にとって吸引が苦痛になるので、ゼーゼー苦しそうに聞こえるからといって「これは引いてもらわないといけない」と思わない方が良いかもしれません、ということも伝えます。せん妄状態についても、結構手足をバタバタさせることを事前に知ってもらいつつ、どうしても辛そうな場合の処方薬を置いておくので様子をみてくださいねと、具体的な対応を含めてお話します。このとき、「看取りのパンフレット」もよく活用しています。 看取りのパンフレットについてはこちら≫ 死生観・グリーフケアを意識する 死というものをリアルに感じ始めると、多くの方は「じゃあ、ここからどうやって生きようか」ということを考えます。家族や友人・知人に会いたいとか、あれを食べたいとか、出てくるんです。死生観、つまり「死を認識したうえで、どう生きるか」というのは、ご本人はもちろん家族や私たち看取りを行う医療者にとっても重要な視点になります。そして、死生観というのは個別的なものなので、押し付けるものではないという基本を忘れないことも大切です。 また、私はグリーフケアを推奨しています。グリーフケアとはなにか? 簡単に言うと「悲嘆をケアすること」です。人は愛する人を失うと大きな悲しみを感じて、長期にわたって特別な精神状態の変化があります。これが「グリーフ(GRIEF/悲嘆)」です。残された家族が体験して乗り越えなければいけないことを「グリーフワーク」、そのケアをすることを「グリーフケア」と呼びます。看取りを通じて、生前からのグリーフケアを行っていきます。 グリーフケアで最も重要なのは「感情表出を手助けすること」。私たちはグリーフケアにおいては「涙を流してもらえる専門職」としてあるべきかなと思っています。ご家族が患者さんご本人の前では見せないようにしているもの・いたものを表出させて、心を軽くするための手助けをする専門職でありたいと思います。なかなかご自身だけ、その場だけで表出させることは難しいので、家族や親戚の方にも手伝ってもらえるようにお願いすることもあります。少し余談になるかもしれませんが、実は葬式は絶好のグリーフケアの場。みんなで集まって食事をしながら故人を偲ぶことでグリーフケアになっているんです。四十九日や三回忌なども同じですね。COVID-19流行の影響でなかなか人が集まれない状況が続いているので、医療者としてよりグリーフケアを意識してみてください。 そして、グリーフケアを通じて医療介護職自身のセルフケアにもなります。なぜなら、看取りには「本当にあれで良かったのかな」「もっと上手くやれたんじゃないかな」というモヤモヤがつきものだから。そういうときに他者からの一言で救われることもあるので、セルフケアという意味でも、ご家族のケアという意味でも、グリーフケアを推奨します。 在宅看取りについての私見 現状、在宅看取り数が少ない日本ではありますが、できるならしたいと思っているご家族がいたり、できるなら最期まで自宅にいたいと思っている患者さんがいたりします。看取りの回数を重ねると「あ、これは似たようなケースを経験したことがある。あのときは上手く看取れた」と、過去のケースと重ねられるように感じることも増えるのですが、類似ケースであっても同じ看取りはありません。 そして、どれだけ看取りのエキスパートになっていても、やっぱり見えていない点や家族の話で聞けていない点は絶対に出てきます。患者さんやご家族が、「看護師だから言うね」「先生(医師)だから話すね」「介護の人だから相談するね」とこそっと言うようなこともありますので。 だからこそ、今後、自宅での看取りを増やしていきたいというのはありつつも、私たち医療者の理想を、患者さんやそのご家族に押し付けることだけはしてはいけないと考えています。「完璧は絶対にない」というのを前提として、一つ一つの看取りに対して十分な配慮をすること、経過のなかで複数の関係者の視点でディスカッションをすることが必要です。看取りを終えてからも、どういうところが良かったのかな、今後改善できるとすればどういうところかな、という話ができるとなお良いですね。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年1月18日
2022年1月18日

【セミナーレポート】看取りの作法 -前編- 医師が考える看取りと向き合うポイント

2021年11月12日(金)、NsPace(ナースペース)主催で行った「看取りの作法」についてのオンラインセミナーの内容を3回に分けてお伝えします。1回目の今回は、「医師が考える看取りと向き合うポイント」についてご紹介します。※約60分間のセミナーのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【講師】田中 公孝先生杉並PARK在宅クリニック院長。家庭医療専門医。経歴:2009年滋賀医科大学医学部卒。家庭医療専門医。2017年東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに参画。2021年春東京都杉並区西荻窪で開業。医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、区や医師会のICT推進事業にも関わる。 医療・介護専門職としての「看取り」と在宅看取り数の現状 私は家庭医療専門医として、在宅クリニックを開業しました。開業から半年、従業員は3名です(2021年11月現在)。訪問エリアは西荻窪を中心に半径6km以内(東京都の23区の西側、新宿より西側のエリア)を担当しています。クリニックのミッションは「医療を通して探求し、あるべき未来に挑戦する」こと。今後の地域包括ケアに貢献していきたいと考えています。そういった想いがある一方で、医療・介護の専門職として「看取り」という日常・仕事にどう向き合っていくか? というのは私にとって大きなテーマです。これはみなさんも同じように感じていらっしゃるのではないでしょうか。 私自身が看取りに向き合って、現在のクリニック開業前を含めて年間20名以上を看取った結果気づいたのは「看取りには一定のお作法がある」ということ。それを言語化したのが今回のセミナーです。どなたでも、きちんと向き合えば徐々にできるようになると確信していますので、ぜひ参考にしてもらえたらと思います。 まずは、現在の在宅看取り数について。こちらは厚生労働省「人口動態統計」で見た「場所別の死亡者数(2019年)」についての円グラフです。やはり病院が非常に多く、自宅での死亡者数は約14%。まだまだ少ない現状にあります。 医師が考える看取りと向き合う5つのポイント 医師という立場から看取りと向き合ったとき、ポイントになると考えているのが次の5つです。ここから順にお話していきます。 1 看取りの流れをおさえる2 死の直前の4つの苦痛をケアする3 患者・家族の認識に向き合う4 看取り直前の経過をおさえる5 死生観・グリーフケアを意識する※1~3については今回(前編)、4・5については次回(後編)にてお伝えします。 看取りの流れをおさえる 流れをおさえるための事例を一つご用意しました。こちらを見ると、看取りまでのだいたいの流れがイメージできるかと思います。 ■70代女性 膵癌末期2017年12月末~心窩部痛あり、2018年2月A病院受診。切除不能、局所進行膵頭部癌の診断。手術は不可、抗がん剤も服用してみたが副作用(食欲不振、便秘、発熱、皮膚搔痒など)のため中止。緩和ケアの方針で、当院訪問診療開始となった。 家族構成:本人、弟夫婦の3人暮らし当院介入後は、前医への不信感・強い悲嘆があり、経緯をお聞きし、今後は私たちと訪問看護師に相談しながら進めていきましょうとお話。 その後、自宅での生活に安心されていたが病状の進行が早く・癌性疼痛が週の単位で悪化。 麻薬を増量するが内服も飲みづらくなり貼るタイプの麻薬も処方・ご本人はもともと繊細な性格だったが、癌になって以降、感情失禁を出す状況。 抗不安薬の屯用で前週よりは対応できるように。・下肢浮腫が著明で利尿剤投与、弾性ストッキングおよび訪問マッサージを導入。・排便コントロールが難しくなり、下剤増量。臨時訪問で浣腸を2回施行。・入院のタイミングをご本人・ご家族と相談。 老老介護のため介護疲弊が限界にきていること、毎週のペースで麻薬を増量しており病状が悪化していることを説明し、緩和ケア病棟入院へ・しかし入院生活は思っていたものと違った、とご本人より話があり、早期退院。・最期はご家族が自宅看取りの覚悟を決められ、数週後看取りとなる。 死の直前の4つの苦痛をケアする 死の直前の苦痛には、主に次の4つがあります。すべてが重なって全人的苦痛(トータルペイン)となります。 ①身体的苦痛②精神的苦痛③スピリチュアルペイン④社会的苦痛 この4つの苦痛については、一つ一つのケースごとにフレームワークで整理して考えていきます。なぜフレームワークに当てはめるのか? というと、視点の偏りを防ぐためです。目の前のことだけに集中すると、たとえば「身体的苦痛」は看られているけれど、「社会的苦痛」への対応が遅れてしまう……というケースも少なくありません。後手にならないよう、フレームワークに当てはめて整理することをおすすめしています。 フレームワークについて詳しくはこちら≫ 患者・家族の認識に向き合う 終末期の現場で私がよく考えることの一つは、患者本人と家族の認識です。 本人の様子は、告知・未告知では、やはり違ってきます。未告知の場合は本人が「おかしい、おかしい」と思ったときに、どういうふうに対応するのか? という点について、家族と目線を合わせておく必要があります。仮に家族が未告知を選択した場合でも、本人の認知機能がしっかりとしていると隠しきれない可能性も高いので、そこも含めて検討してもらいます。 告知をする場合、本人は「腑に落ちた」とおっしゃることが多い印象です。このときポイントとなるのは「本人に予後は伝えない」こと。伝えなくてもうまくいくケースがほとんどです。ただ告知すると本人の感情が大きく揺れ動くので、ご家族にしっかり向き合ってもらえるようコーディネートする必要があります。ちなみに、家族にはきちんと予後を伝えます。残り1週間の気構えと準備、残り2・3日の気構えと準備は異なるためです。ここで伝える具体的な内容は後編でご紹介します。 本人の現在の心情を認識する 本人の受容段階について家族と認識を合わせるために役立つのが、キューブラーロスの「死の受容段階5段階モデル」です。これは私たち医療の専門職にとっても支えになります。 キューブラーロス「死の受容5段階モデル」①否認と隔離②怒り③取引④抑うつ⑤受容 なぜこれが私たちにとっても支えになるのかというと、私たちが向き合う患者さんのなかには、②怒りの段階の方が少なくないからです。医療者も、理不尽な怒りに直面するのはつらい。そういうときに「これは死に向かう過程で必要なプロセスなんだ」と、プロフェッショナルとして認識できていれば、その怒りがどんなに理不尽でも、まず受け止めようというメンタルになれると思います。そして、②怒りの段階から移行しない患者さんの場合、まず間違いなく、家族に言えていないことや、話し合えていないことを心のなかに抱えています。そこのファシリテーターというか、コーディネートをするのが、看取りに関わる専門職として大事な役割だと感じています。全人的苦痛と同じくらい、キューブラーロスについても意識してみてください。 家族の認識に向き合う 多くの家族が「在宅で看取りきれるか?」という点に不安を感じます。だからこそ、事前に家族の介護力や覚悟、緩和ケア病棟を利用する方針などをしっかりと検討することが必要です。最近はCOVID-19流行の影響で自宅看取りが増えてはいますが、「自宅看取りはすごくいいですよ」と押しすぎることは避けます。ここを見誤ると、自宅看取りが最適解ではない事例を無理やり看取ることになるので、フラットな目線を忘れないようにします。ご家族とご本人をしっかりアセスメントして考えることが重要です。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年1月11日
2022年1月11日

【セミナーレポート】訪問看護師の悩みに回答! 浮腫ケアについてのQ&A

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。 セミナーの様子を全3回に分けてお伝えします。最終回の今回は、Q&Aセッションの内容を一部公開します。 >>今までの記事はこちら【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア -原因とアセスメントについて-【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア-在宅看護で行う浮腫ケアの基本- 【講師】岩橋 知美ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 Q1 水疱ができた場合の対策について 【質問】水疱ができた場合の対策について教えてください。ドレッシング剤で保護した場合、内腔の浸出液は自然吸収を待つ方が良いでしょうか? 【回答】水疱に対してはドレッシング剤貼付後、低圧での圧迫をします。内腔の浸出液は自然のままにしています。医師から酸化亜鉛を含む軟膏を処方されることもあります。水疱が破れてしまった場合は、蜂窩織炎などの感染に注意が必要です。リンパ漏になってしまったら軟膏を塗り、ドレッシング剤で保護したあとオムツで圧迫をしています。 Q2 静脈性潰瘍でリンパ漏がある場合の痒みについて 【質問】静脈性潰瘍でリンパ漏あり。筒状包帯を使用していますが、痒みがでてしまいます。何か対策はないでしょうか? 【回答】静脈性潰瘍はもともと痒みを伴うことが多いです。うっ滞性の皮膚炎かもしれないので、まずは、主治医や皮膚科医に診てもらう方がよいかと思います。 下肢全体の痒みの原因として筒状包帯が肌に合っていない可能性も考えられます。パイル地の筒状包帯を試してみてください。 Q3 蜂窩織炎が治っても浮腫がひどい場合、足浴は効果的? 【質問】リンパ浮腫から蜂窩織炎になった方を担当しています。蜂窩織炎が治ったあとも浮腫がひどい場合、足浴は効果があるのでしょうか? 【回答】蜂窩織炎を起こしたことで浮腫がひどくなったのだと思います。炎症が起きているときにドレナージなどのマッサージは禁忌ですが、低圧の筒状包帯は良いと言われています。炎症反応が落ち着いたら圧迫を開始してください。 足浴は、清潔を保持して白癬による蜂窩織炎の再発を防ぐためには有効です。 Q4 低アルブミン血症で肥満、自己管理意欲も低いケース 【質問】左麻痺があり、両下肢浮腫がひどく、水疱・潰瘍ができている方の傷洗浄を担当しています。低アルブミン血症ですが、体重は83kgで肥満もあります。自己管理意欲も低い状態。食事指導は何からしたらいいのでしょうか。 【回答】低タンパクだと筋肉も減少しますから、タンパク質を摂取して糖質を減らす食事が考えられます。豆類はいいと思います。あと、最近はオートミールをおかゆ状にしたものもおすすめしています。低糖質で、タンパク質・鉄分。食物繊維などをバランス良く摂れるのでおすすめです。 意欲の低さについては、左麻痺があることが影響しているのかもしれませんね。麻痺・低アルブミン・肥満という状態ですから、なかなか浮腫のサイズダウンは難しいかもしれませんが、低圧での圧迫をしてみて、少しでも浮腫が改善されれば意欲がでるかもしれません。 以前、アドヒアランスの悪い患者さんのケースで、浮腫に対して圧迫とマッサージをすることで少し下肢の浮腫サイズがダウンし、それ以来積極的に浮腫ケアをされるようになった経験があります。 浮腫そのものに関しては創傷の処置の上から筒状包帯を使用して圧迫をされるといいと思います。 Q5 筒状包帯などを使用したドレナージ実施時間の目安 【質問】筒状包帯などを使用したドレナージ実施時間の目安を教えてください。 【回答】低圧の筒状包帯は、入浴のとき以外24時間装着していてかまいません。ドレナージを実施する場合は、病院の外来では皮膚硬化部をほぐす工程を含めて40分くらい行いますが、訪問においては20分程度になるかと思います。 Q6 リンパ浮腫の改善を促す内服薬はある? 利尿剤は使う? 【質問】リンパ浮腫の改善を促す内服薬はありますか? 利尿剤は効果的でしょうか? 【回答】リンパ浮腫に有効な薬はありません。全身の浮腫ではないので利尿剤も使用することはありませんが、リンパ浮腫と全身性との混合浮腫ならば有効かもしれません。 Q7 ガードルショーツ着用が習慣化している硬性浮腫の女性のケース 【質問】90代認知症の女性で、昔からガードルショーツを着用するのが習慣です。両下肢に硬性浮腫があるため着用しないほうがよいと思うのですが、なかなか理解が得られない場合、なにか対処方法はありますでしょうか? 【回答】患者さんの多くは、浮腫がひどくなりサイズが大きくなっていくとは思っていないものです。そういった方には、リンパ浮腫がひどくなった下肢状態の写真を見てもらうと少し治療に前向きになられます。 ご相談者の場合は認知症もあるので、ガードル着用を完全にやめることは不可能かもしれません。ショーツと緩めのガードル(大腿への締めつけがなく、下腹部は圧迫してくれるもの)などに変えるように誘導してみはどうでしょうか。また、皮膚硬化がある浮腫の場合は垂直圧がかかるものがいいので、平編みの筒状包帯を装着したうえで、緩めのガードルを着用するなど試してみてください。 Q8 アロマオイル使用にあたって、主治医の許可は必要? 【質問】アロマオイル使用に関しては、主治医に使用許可を得ていますか? 指示書にも記入いただいていますか? 【回答】医師の許可はもらいますが、指示書への記入はありません。本人もしくは家族に、アロマセラピーは補完代替医療であるということを説明し、同意書をいただいて導入しています。 *** 今回は「浮腫のアセスメントとケア」セミナーの様子をお届けしました。岩橋さんには多数のご質問にも回答いただき、翌日から役立つ内容が盛り沢山だったのではないでしょうか。  次回のセミナーレポートでは11月12日開催の「看取りの作法」の様子を公開します。お楽しみに!  記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年1月11日
2022年1月11日

【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア-在宅看護で行う浮腫ケアの基本-

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。 セミナーの様子を全3回に分けてお伝えします。第2回となる今回は、浮腫への具体的なアプローチについてご紹介します。 【講師】岩橋 知美ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 まずは「優先順位」を考える 在宅医療で浮腫のケアを行う前提として、もっとも気をつける必要があるのは「血栓」です。血栓がある場合は命にかかわるので、浮腫ケアを始める前に必ずD-ダイマーを確認するようにしてください。在宅ケアでは、優先順位を考えることが大変重要になります。 浮腫のケアで目指すことと、具体的なアプローチ 「QOLが維持でき、心地よく浮腫改善ができる」ことが目標。私が日常的に意識しているのは次の3点です。 浮腫による違和感や疼痛の緩和皮膚損傷や感染の防止継続可能で苦痛を伴わないケア 具体的なアプローチとしては「複合的治療」を行います。すべて事前に医師の許可を得る必要があります。 スキンケアによる創傷・感染予防MLD(用手的リンパドレナージ)浮腫状態に合わせた圧迫療法圧迫下の運動療法(他動運動)QOLを維持し浮腫悪化を防ぐための日常生活指導 1~5について、それぞれどんなことを行うのかについて簡単にご説明します。 スキンケアによる創傷・感染予防 浮腫の皮膚は脆弱で乾燥しやすく、見えない傷が多い傾向にあります。傷つけない・擦らないことを意識して泡で洗浄し、保湿にはアルコール分の低いローションタイプのアイテムを使用します。利用者の方から「市販品ではなにが良いですか?」と聞かれた場合には、乾燥性敏感肌向けのスキンケアや、処方薬と同じ成分が配合されている保湿剤をおすすめしています。清潔の保持を目的とする場合はこれで十分です。 浮腫がひどくなってリンパ小胞やリンパ漏ができた場合は、皮膚障害を拡大させないために感染予防を行います。患部に撥水性の軟膏を塗る→非固着性ガーゼで覆う→オムツで圧迫する、という対応をすることが多いです。 MLD(用手的リンパドレナージ) ドレナージを行っても、浮腫の改善効果としては軽度です。すぐ元の状態に戻りますが、直接患肢に触れるという点で「安心感」や「気持ちよさ」を生みます。 ドレナージを行う際にはぐいぐいと圧をかけることはせず、柔らかくタッチングしてください。台所用スポンジのナミナミした面を平らにするくらいの力加減がベスト。末端から中枢に向かって行います。 浮腫増大が進み皮膚硬化が起こっている場合には、少し強めの力でほぐすこともあります。また、リンパドレナージを行うにあたっての不要な体位変換は避けてください。 浮腫状態に合わせた圧迫療法 圧迫療法を行うには圧の勾配を作って弾性包帯を巻く必要があり、技術習得が必要なため、在宅看護での圧迫療法は難しい傾向です。 導入しやすいのは、インジケーター付きの弾性包帯や、低圧のチューブ包帯。皮膚が弱い方のために、内側がタオル地になっている製品もあります。皮膚の硬化が進んでいる場合には平編みタイプのチューブ包帯や、マジックテープ付きのタイプが管理しやすいです。 圧迫療法を行う際には以下の点に注意します。 皮膚に痒みや湿疹がないか手先、足先の循環障害がないか(ABI 0.7未満)末梢神経障害がないか食い込みやシワによる疼痛を感じていないか胸水、腹水貯留の場合は体液還流に注意 とくに、食い込みやシワが起こると浮腫が悪化したり、傷ができたりすることもあるので注意が必要です。食い込みを予防するために、パッティング材を使用することもあります。 圧迫下の運動療法(他動運動) 筋肉の収縮と弛緩によるポンプ作用で、リンパの流れが促進されます。ここで重要なのは疼痛を与えないこと。そのために、可動域を考えながらの他動運動が有効です。具体的には上半身であれば、手指屈伸・手関節底背屈・肘屈伸・肩関節回旋などを行います。下半身であれば、足関節底背屈・膝関節屈伸・股関節回旋などが中心。私たちがサポートを行い、関節を動かしていきます。 また、深呼吸をすることでもリンパの流れが促進されます。利用者の方ご本人でできることとして、深呼吸をおすすめしています。 QOLを維持し浮腫悪化を防ぐための日常生活指導 利用者の方や利用者家族の方に、次のようなポイントに注意するよう指導しています。 安楽な体位の工夫 患肢を10cm~15cmほど挙上することをすすめています。包帯が食い込まない体位を保つ長時間の下肢下垂は避ける感染防止のため皮膚を傷つけない熱を持って赤くなってきたら炎症の可能性があることも伝えます。着衣による締め付けを避けるとくに、下着、パジャマ、オムツなどのゴムによる圧迫に注意が必要です。低栄養状態/肥満への注意安全な移動浮腫増大により関節可動域が制限されるため、転倒の危険があります。環境調整疲労を避ける 総括 もっとも重要なのは、一人ひとりに合わせたケアを行うことです。標準的な治療が現実的でない利用者さんであれば、浮腫軽減だけを目的とするのではなく、心身の状態を把握して、安全で緩和的なケアを中心に行うのが良いと思います。心に寄り添いながら浮腫による違和感や皮膚の張り感などの緩和を行うことで、心身の快適性を改善し、QOLの向上につなげてあげてください。 *** 次回はQ&Aセッションの内容を一部公開します。>>【セミナーレポート】訪問看護師の悩みに回答! 浮腫ケアについてのQ&A 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

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2022年1月6日
2022年1月6日

【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア -原因とアセスメントについて-

2021年10月21日に開催されたセミナー「浮腫のアセスメントとケア」において、ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者の岩橋 知美さんに『浮腫』についての基本から、具体的なケアを解説いただきました。 セミナーの様子を全3回に分けてお伝えします。1回目の今回は、浮腫の基本についてご紹介します。 【講師】岩橋 知美ICAA認定リンパ浮腫専門医療従事者、メディカル アロマセラピスト、メンタル心理士、リンパ浮腫外来顧問(聖マリア病院、福井県立病院)1988年に看護師資格を取得後、病院にて勤務。2005年にメディカルアロマを学び「アロマセラピスト・アロマ講師」の資格を取得。産婦人科などでアロマケアに携わる。その後、新古賀病院にて「アロマ外来」を開設し、2009年にはICAAを設立。厚生労働省委託事業「リンパ腫専門医療者の育成」主任講師としても活躍。 浮腫のメカニズム 血液は、心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓と循環します。浮腫との関連を考えるうえで鍵となるのが「毛細血管」。動脈側の毛細血管から出た水分は「間質液(組織間液)」として酸素や栄養を細胞に運び、二酸化炭素や老廃物を受け取って静脈側の毛細血管へと再吸収されます。1日あたりの「間質液(組織間液)」量は約20L。そのうち約80~90%(16~18L)は「毛細血管」に再吸収され、残り約10~20%(2~4L)は「毛細リンパ管」に吸収されリンパ液になります。 この「毛細リンパ管」は心臓の拍動の力を受けておらず、周囲の筋肉や呼吸、腸の動きや血管の拍動などの力を借りて動いています。血液は循環するのに対して、リンパ系の流れは一方向。毛細リンパ管は皮膚のすぐ下から始まっていて、毛細リンパ管→集合リンパ管→リンパ本幹→左右の鎖骨下静脈と内頸静脈の合流地点(静脈角)へと運ばれるのです。 浮腫は「間質液(組織間液)がなんらかの原因によって、異常に増加・貯留した状態」になることで起こります。 浮腫の種類とその原因 どのようなメカニズムによって起こるのか次第で、浮腫は5つに分けられます。それぞれの浮腫とかかわりが深い疾患などについてみていきます。 毛細血管内圧上昇による浮腫 毛細血管内圧が上昇する原因として、以下の疾患との関連が考えられます。 DVTや静脈瘤などの静脈弁機能不全心不全腎不全 また、特定の薬を飲むことや加齢によっても血管内圧は上昇し、浮腫の原因になります。具体的には以下です。 薬剤性浮腫高齢者の下肢下垂による下腿浮腫 など 膠質浸透圧低下による浮腫 タンパク質によって起こる浮腫です。タンパク質には水を吸収する働きがありますが、アルブミン濃度が低下すると水を引き込む力が弱くなり、間質に浮腫が出やすくなります。 肝硬変肝不全ネフローゼ症候群 などとの関連が考えられ、栄養失調によっても膠質浸透圧低下が起こります。 血管透過性亢進による浮腫 体内で炎症が起きることによって、プロスタグランジンなどの炎症性物質が合成されて起こりやすくなるのが透過性の亢進です。具体的には以下のような原因が考えられます。 炎症アレルギー火傷 など リンパ管機能障害による浮腫 リンパの流れが悪くなることで起こる浮腫。その原因としては以下のようなケースが考えられます。 リンパ節郭清術後悪性腫瘍リンパ節転移悪性リンパ腫甲状腺機能低下症 組織圧低下による浮腫 皮膚の弾力が落ちることによって組織圧が低下します。その結果、皮膚の薄いところ(顔面、眼瞼、足背、外陰部など)に浮腫が生じやすくなります。高齢者に起こりやすい傾向です。 浮腫のアセスメント 在宅医療における浮腫ケアでは、利用者の方にとっての優先順位を考えると同時に、利用者本人のニーズにあわせたアプローチが必要です。その前提として、利用者・利用者家族との十分なコミュニケーションにより、浮腫の理解とニーズを評価する必要があります。 ここでは、アセスメントにおいて注目すべき点をご説明します。 既往歴の確認 悪化原因となる基礎疾患を理解するために有効です。悪性腫瘍の場合は、まずリンパ浮腫を疑います。 ✓ 心臓、腎臓、肝臓、内分泌(甲状腺)疾患✓ 悪性腫瘍  手術の有無、化学療法・放射線治療を行っているかについて確認します。✓ 内服薬、アレルギー  薬剤性の浮腫の可能性を探ります。 全身状態の観察 輸液がある場合は尿量に対して過剰輸液がないか、また、炎症の疑いがないかなどについて確認します。浮腫の圧迫療法を想定している場合は、知覚神経障害がないかどうかの事前確認も重要です。 ✓ 水分出納  尿量変化がある場合は、腎疾患を疑います。✓ 発熱、発汗、疼痛  炎症を疑います。✓ 知覚、神経障害の有無  浮腫の圧迫療法を想定し、神経への湿潤について事前に確認します。✓ 体重増加  脂肪細胞が増加すると浮腫の原因になるため、肥満の方の場合減量を指導することもあります。✓ 食欲不振、下痢、嘔吐  タンパク質の損失や、カリウム、ビタミンB₁不足を疑います。✓ 動悸、呼吸困難、起座呼吸  心疾患がないかどうかを確認します。✓ 運動機能  筋肉の衰えによってポンプ機能が落ちていないかどうかを確認します。 浮腫が起こりやすい生活をしていないか ✓ 長時間の下腿下垂がないか✓ 運動不足になっていないか という点について確認します。高齢者の場合は介護状況についても確認します。 浮腫の状態 ✓ 浮腫範囲  全身or局所、顔・四肢・体幹・生殖器への出現の有無、抹消or中枢、という視点から確認します。✓ 出現はいつからなのか✓ 出現の速さは急激か緩徐か  静脈系の場合は急激に起こるケースが多いです。✓ 持続性、一過性、日内変動の有無  心不全の場合は夕方に浮腫がひどくなる場合があります。 皮膚の状態 浮腫のケアが行えない状態ではないか? という点について事前に確認を行います。 ✓ 蜂窩織炎(色調、熱感)、創傷の有無(褥瘡、潰瘍)、リンパ小疱、リンパ漏など✓ 圧痕テスト、皮膚の硬さ(シュテンマサイン、肥厚テスト) 環境の確認 ✓ 患者、家族の浮腫への理解度とケアの希望✓ 家族協力の有無 サイズ測定 増大と減少をみるために測定していきます。 臨床検査 ✓ 血液検査  D-ダイマー、CRP、白血球数、貧血、アルブミンを確認します。✓ 静脈ドップラースキャン✓ 腹部超音波  肝転移や腹水の有無を確認します。✓ CTスキャン  下大、上大静脈の近位部に血栓が起こっていないかどうかを確認します。 次回は「在宅看護で行う浮腫ケアの基本」についてお伝えします。>>【セミナーレポート】浮腫のアセスメントとケア-在宅看護で行う浮腫ケアの基本- 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2021年12月21日
2021年12月21日

【セミナーレポート】『看護の質』の評価、地域包括ケアへの対応/訪問看護のこれから<後編>

2021年9月30日(木)、NsPace(ナースペース)主催で行った「訪問看護のこれから」についてのパネルディスカッションの様子を2回に分けてお伝えします。※全90分間のパネルディスカッションのなかから一部ピックアップしてお届けします。 【パネラー(3名)】●落合実さん「ウィル訪問看護ステーション」の運営を行うウィル株式会社 取締役。2019年からは「ウィル訪問看護ステーション福岡」管理者・緩和ケア認定看護師を兼任。 ●新屋将之さん精神科病棟にて9年間勤務。現在は、精神科訪問看護「コモレビナーシングステーション」の業務委託やダンサーとして働いている。 ●関口優樹さん新卒で「ウィル訪問看護ステーション」へ就職し2年間勤務。現在は訪問看護分野での執筆活動を行っている。 【パネルディスカッションテーマ】1 24時間365日体制の整備や規模拡大について2 訪問看護の機能拡大とは?3 『看護の質』の評価について4 地域包括ケアへの対応について 3 『看護の質』の評価について 落合:「『看護の質』の評価ってどうやってしているの?」みんなが悩んでいることですよね。そしてこれは、誰が評価するのかによって大きく変わりますね。医師にとっての良い看護と、患者さんにとっての良い看護と、訪問看護ステーションの管理者が考える良い看護は一部異なることがあります。 新屋:僕のステーション(精神科訪問看護ステーション)では患者さん自身の言葉でどういう風に自立して行きたいか目標を決めてもらって、僕たちがそのサポートをしています。その目標に対してどれくらい達成できたかというのも自分で評価してもらうので、『看護の質』の評価とはちょっと違うかもしれない。 落合:僕は管理者なので「管理者による『看護の質の評価』」という視点からお話すると、「患者さんの満足度=いい看護」というのは違うと思っています。なぜかっていうと、医学的に正しいか正しくないかにかかわらず、患者さんの希望通りに看護すれば患者さんの満足度は上がるから。なので「看護の質の良し悪し=看護目標が達成されるかどうか」だと思っています。 新屋:そもそも『看護の質』ってなんなのかっていうのもある。 落合:病院看護に比べて必要な配慮が多角的だから難しいですよね。たとえば緩和ケアで考えてみても「痛みが減る=いい緩和ケア」なのかっていうと、その痛みを取るプロセスで家族を不安にさせたら、それは『訪問看護師としての看護の質』は高くないのかもしれないとも思う。 関口:患者さんひとりひとり、ご家族それぞれで求めることって違いますよね。 落合:そうそう。だから、「ウィル訪問看護ステーション」では、看護師みんながひとつのフォーマットで看護記録をつけるようにしていて、その情報をもとに定量的にケアの成果を評価する専用のシステムを導入しています。『看護の質の評価』は、なんらかのスケールにのせないと判断が難しいものだと思いますね。 4 地域包括ケアへの対応について 落合:地域包括ケアへの対応について「訪問看護の役割ってどんなこと?」という議題ですね。僕自身の経験としては、行政の計画相談の方にご挨拶に行ったときに「訪問看護の使い方がわからないんだよね」とか「訪問看護がどれだけ何をしてくれるかわからないんだよね」とか、言われることが多いなという印象があります。 新屋:僕も保健師さんに同じこと言われた経験ありますよ。 落合:もちろん、かちっと役割分担を決めることのメリットもあると思うけど、もっとゆるい関係でも良いんじゃないかなと思いますね。あとは、地域によっても訪問看護の役割に違いがある可能性もあるんじゃないのかな。 関口:ヘルパーステーションが少ない地域だと、看護師が担う役割は幅広くなりそうですよね。 落合:一方で、ここのところ訪問看護サービスの開設ブームもありますよね。もう国内の人口増加は止まってしまったから、新しい介護施設を作るよりも将来を見越して訪問系サービスを増やそうという動きになっている。 関口:訪問系サービスめちゃくちゃ増えましたよね。 落合:サービスを行う事業者が増えれば、それに比例してサービスの多様化が起こるのは当然だよね。対応範囲が大きくなると「それは本当に訪問看護師の仕事なのか?」とかおっしゃる方がたまにいるんですけど、僕としては「必要だったらやる」スタンスです。地域によって役割は変わると思う。ケアマネージャーのような仕事もすることもあれば、看護師にしかできない仕事に集中することもある。 新屋:看護師がやらなくてもいいけど看護師がやってもいい、という線引きの難しい仕事も多いですからね。 落合:そうですよね。ただ、行政の地域包括ケア担当の方から「医療的ケアがないと訪問看護が使えない」という説明を受けたこともあります。その結果、地域包括ケアと言いつつ、ケアが必要な人にケアが届かないことも起こってしまっている。なんとかして解決していかないといけない問題ですね。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2021年11月30日
2021年11月30日

【セミナーレポート】看取りの作法 Q&A≪特別先行公開≫

本記事は2021年11月12日に開催したオンラインセミナー「看取りの作法」のレポート≪特別先行公開≫です。 当日は、家庭医療専門医である、杉並PARK在宅クリニック院長の田中公孝先生にご講演いただき、セミナー中にたくさんのご質問をいただきました。今回は先生のご厚意で、時間内に答えきれなかったご質問からいくつか抜粋し、解説いただきました。 在宅医として看取りに向き合う心構えや、訪問看護師さんへの期待について、先生のお考えを記事にいたしましたので、セミナーに参加された方も参加出来なかった方も是非ご覧ください。 老衰の看取りのケース 老衰の看取りの場合、ゆっくり機能が低下していく経過となりますが、ご本人やご家族に、どのようにお話されますか? ご質問ありがとうございます。老衰については、癌末期と違って予後予測が延びたりすることはお話ししています。また、老衰でご本人に説明するというシーンはあまり無いのですが、もしご本人に聞かれたら「もう〇〇歳ですからね、病気も沢山ありますし、年齢による影響は否めないと思います」とやんわり伝えるイメージです。ご家族については、老衰の看取りを自宅で行う決意をされたことを支持することをお伝えし、「病院よりも自然な形で過ごせますしね」や「癌で痛みがある例などに比べると穏やかで寝ているような時間が増えますよ」と声掛けします。また、食事が摂れなくなってきても無理に口には入れず、お楽しみ程度に、数口試して難しければやめるという助言をします。途中、せん妄状態になる方がいることもお話することで、手足をバタバタする、などの状況を理解してもらうように早め早めに説明します。最後の1週間は、講義でもお話した看取りのパンフレットを説明してお渡しし、それに沿って経過が流れることを確認しながら往診します。老衰の看取りはしっかりとサポートするとご家族も満足度が高い印象です。ただ、食事水分がほとんどとれない高齢者が予後予測よりも1週間以上延びたことが経験上あるので、癌末期の事例よりも非癌の事例の方が難しい面があると以前在宅のエキスパートナースの方がおっしゃっていた話は、実感するところです。 ガン末期の方のお看取りの心構え 今まさに、亡くなりそうなガン末期の利用者様がおられます。呼吸が止まれば連絡をいただくようになっています。私自身とても緊張しています。心構えをお教えください。 私も経験がありますので、よくわかります。心構えとしては、呼吸が止まった時の連絡をいただいたとき、どういう声かけや対応するか、死後の対応や説明をどうするか、を想定して詰めておくと少しは不安が和らぐ印象です。 例えば、ご家族の安心と不安の違いを過去に分析して感じたことなのですが、「人間、漠然としたものをそのままにしていると不安が募る」ようです。なので、専門職でも後のことについて漠然としていると不安が募りやすい側面はあると思いますので、この後のことをしっかり具体的に想定しておくことが大事と思います。また、定期の訪問時によくご家族とコミュニケーションをとっておくことも夜間電話がかかってくるかどうかの際の不安軽減につながります。というのも電話しながら、ご家族の表情や感じが目に浮かぶようになれば、呼吸停止の電話でも面と向かって喋っているような感覚で落ち着いて対応できるのではないかなと思います。 普段のケアのコミュニケーションが、いざというときの助けになる、というところは、看取り直前だけではなく、急変の場面でもそうだと思いますので、我々訪問の専門職は日ごろからぜひ意識したいところです。 誤嚥性肺炎を繰り返す方の往診医との連携について 訪問看護師です。現在、誤嚥性肺炎を繰り返している利用者さんがいます。本人は自宅を希望しており、家族も本人の意向を尊重したいと思われています。ただ、妻が食事形態を理解できず普通食を提供することが続いています。自宅看取りの方向ですすんでいますが、往診医はリスク説明をして、何かあれば救急搬送するしかないと言われています。本人家族の意向を叶えつつ、往診医との連携をうまくとっていくのをどうすれば良いか悩んでいます。 それは難しい状況ですね。。往診医との連携についてですが、まずは往診医以外の他職種と相談して、根回しをしながら担当者会議を開くのが良い気がします。本人家族はもちろんのこと、他の職種がリスクを承知でも自宅看取りを支えたいと思っていることを皆で伝えれば、理解を示してもらえる可能性が出てくるやもしれません。 他の手段としては、往診クリニックのスタッフさん(看護師さん、相談員さんなど)で普段からコミュニケーションとっている方がいたら、まずはその方に相談するというのも1つです。もしかしたら伝え方のヒントや一緒に考えてくれるやもしれません。参考にしてみてください。 家族間の看取りの調整 家族での看取りの方法が一致しない場合、どの様に対応したらよいですか? これも難しい場面ですね。。私であれば、まずは家族全員の意見を聞き、家族間の話し合いを促します。ただそれでも難しい場面もあると思いますので、自宅看取りの場面で想定されること、病院への救急搬送を言われる場面など、この後の様々なシチュエーションを想定しておいて、都度都度の対処に臨む心構えを私はしています。 また、意見がそれぞれ違うご家族と一度は直接面談することも重要です。やはりキーパーソンだけ喋っていて、方針の違うご家族と直接しゃべらないとあまりうまくいかない印象で、私も過去にどんでん返しを受けた事例がありました。できる限り意見の違う家族とも会い、この後予想されるシナリオをいくつか想定しながら、集まった情報をもとに多職種で話し合い、ともに考えるといったプロセスが大事かなと思います。 ちなみに多職種で話し合うと別の視点や情報、アイデアなども出てきますので、なかなか担当者会議となると家族もいて目の前ではできないという場合は、点数などは発生しませんが専門職だけで会議することをお勧めします。 特化型ステーションに在宅医が求めること 病院併設の訪問看護ステーションで働いています。緩和ケア病棟から異動になり、終末期に特化したステーションにしたいと思ってます。在宅医が求める訪問看護師について、何を求めるか、何が必要か、教えて頂きたいです。また、先生が考える特化したステーションとは具体的にどのようなステーションか知りたいです。 あと、在宅では介護者の高齢化や子の介入不足、地域性からか子に頼れない親も多く、介護負担で疲弊してしまうケースも少なくありません。初めての待機当番で夜中にオムツ交換で呼ばれ、翌日、主治医や病院側が訪問看護師の負担を考慮して即緩和ケア病棟に入院させたケースもありました。終末期のバルーンカテーテル留置は積極的に行ってよいのか迷います。 もっと在宅医とうまく連携して家族に寄り添ってできたらと日々葛藤です。本人ばかりに注目せず、もっと家族に寄り添い、グリーフケアにつながる看護ができたらと思いますが、なかなかチームでとなると難しいです。 ご質問ありがとうございます。私が看取りに特化した訪問ステーションと呼ぶ訪問看護は、 ・今回お話した看取りの作法ができている・困難だった事例も多く経験していて、イレギュラーな末期事例でも対応できる・麻薬や鎮静薬の提案タイミングが卓越している・グリーフケアの声かけが非常にうまい・家族の療養方針の迷いにしっかり対峙し、アドバイスができる・時には主治医の迷いに対してもしっかり応えられる・ケアマネジャー/サービス担当責任者に報告・連携・フォローしながら進められる あたりができているところだと思います。 私自身、看取りに卓越した訪問看護ステーションと組むと毎回こちらも勉強させられます。それくらい、人の看取りにまつわる技法というものは、医学の知識をしっかり蓄えながら、コミュニケーションの技術も向上させ、経験、心構え、ご自身のあり方を深めることが必要なのだと思います。おっしゃる通り、本人だけのケアでは在宅の看取りケアとしては片手落ちで、家族のケアをしながら、多職種で目線を合わせて迷いや葛藤が現れる過程をしっかりと取り組めるということが大事だと思います。 エピローグ オンラインセミナー「看取りの作法」にご参加いただきました皆さま、ご質問をいただいた皆さま、誠にありがとうございました。 田中公孝 先生のご講演内容やQ&Aセッションの様子を後日、セミナーレポートとして全2回でお送りします。明日からの訪問看護にいきる内容となっておりますので、ぜひご覧ください。 <セミナーレポート前編につづく> ** セミナー講師:田中 公孝 2009年滋賀医科大学医学部卒業。2015年家庭医療後期研修修了し、同年家庭医療専門医取得。2017年4月東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げにかかわり、医療介護ICTの普及啓発をミッションとして、市や医師会のICT事業などにもかかわる。引き続き、その人らしく最期まで過ごせる在宅医療を目指しながらも、新しいコンセプトのクリニック事業の立ち上げを決意。2021年春 東京都杉並区西荻窪の地に「杉並PARK在宅クリニック」開業。 杉並PARK在宅クリニックホームページhttps://www.suginami-park.jp/ 記事編集:NsPace

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