ターミナルケアに関する記事

心に残る利用者さんのエピソード【つたえたい訪問看護の話】
心に残る利用者さんのエピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年11月5日
2024年11月5日

心に残る利用者さんのエピソード【つたえたい訪問看護の話】

訪問看護をしていると、いろいろな利用者さんとの出会いと別れがあります。「みんなの訪問看護アワード2023」に投稿されたエピソードから、いつまでも私の胸に残る思い出深いエピソードを5つご紹介します。 「ミラクルな1日」 利用者さんにとって、心の中に溜めていた周囲への感謝や喜びが溢れでた1日だったのかもしれません。 27歳訪問看護師3年目、看護師になって7年目。看護学生時代の担任の先生が訪問看護ステーションを始められ、一緒に働いている。いろんな利用者さんに出会ってきた。その中でも印象深い利用者さんがいる。誤嚥性肺炎で余命1ヵ月と言われ、在宅へ帰ってきた。物腰柔らかな奥様としっかり者の娘様が手厚く介護されていた。在宅で療養中も誤嚥性肺炎を何度も起こし、そのたびに補液や抗生剤を使用し回復されていた。自営で仕事一筋で過ごされ、とっても頑固。家族やスタッフにも感謝の言葉はあまりなく、いつも「悪態」をついて怒鳴っていた。段々と具合が悪くなっていき、ある日とてもミラクルなことが起きた。目がキラキラと輝き、家族やスタッフにたくさんのありがとうを言い、嬉しそうにたくさん笑っていた。余命1ヵ月と言われながらも7ヵ月頑張って過ごされ、その日の夜に家族に見守られ亡くなられた。「ミラクルな1日でした」と言った家族の顔と、ご本人の輝いた瞳が忘れられない。 2023年1月投稿 「訪問看護の中の密かな楽しみ」 お互いを想う気持ちや二人で物語を楽しむ一時が伝わってくるエピソードです。 もう亡くなってしまったけれど、忘れられない人がいます。私より一回りほど年上の女性。難病で声を失った彼女は日中いつも一人で、帰るときは決まって寂しそうでした。楽しめることはないかと、訪問の終わりの僅かな時間に、彼女の好きな本を読むことにしました。1ヵ月かけて好きな作者を知り、ご家族に手持ちの本を幾つか用意していただき、半年以上かけて一冊読み終えました。週2回の訪問なので前回の話を忘れていたりして、行きつ戻りつでした。私は彼女に楽しんで欲しくて、時々リアクションを入れたり感想を述べたり。彼女はいつも笑って応えてくださいました。読み切った後本を選んだ理由を尋ねると、私が好きそうだったからと。楽しんでもらうつもりが、楽しませてもらっていました。10年以上も前の話ですが、彼女の笑顔は今も鮮明に覚えています。サービス提供者も沢山のものをいただいていることを深く心に刻むことができた大切な思い出です。 2023年2月投稿 「笑顔がみられますように」 コミュニケーションを工夫していった結果、利用者さんからの意思表示が生まれ、最後には意思疎通ができたのかもしれません。不満話に笑顔を見せる利用者さんが印象的です。 50代、くも膜下出血の後遺症から遷延性意識障害になったYさん。ご主人が日中お仕事に行かれるお昼間に排泄援助と胃ろうから栄養剤を注入するため、週3回訪問を担当。意思表示もなくコミュ二ケーションもとれません。そこで、快の刺激でコミュニケーションがとれないかなあと考えました。足裏には全身のツボがあることから、注入食の前に足裏とふくらはぎのマッサージをしました。数ヵ月たったころに、何となく目が合うような感じがありました。その日は何の気なく、私の主人の不満をYさんのご主人と重ね合わせて話しかけました。すると口をいがめて声をあげて笑うんです。一瞬、え!とびっくりしました。笑うのは、なぜかご主人の不満話なんですが、通じるものなんだと思いました。残念ながら再びシャント不全を起こしてしまい入院されましたがしばらくは笑顔を見せてもらえて私の訪問看護の中では忘れることがない出来事です。 2023年2月投稿 「認知症のおばあさんが放った言葉」 人の言葉には考え方や捉え方を変容させる力があることを認識するエピソードです。 理学療法士として訪問していた認知症のおばあさんとのお話です。その方は認知症で記憶力が低下しており、有料老人ホームに入居されていました。約2年間一緒にリハビリをしてきましたが、私の顔と名前を覚えられていないご様子でした。ですが、私のユニフォーム姿を見て「リハビリの人」という認識はできていたと思います。とても明るく、お話し好きでもあり、ときには私が悩み相談をしていることもありました。そんな中、自分の転機により退職することとなり、最後の日にお別れの挨拶をすると悲しそうな顔をされていました。ですが、「私は何でもすぐに忘れてしまうから悲しいのもきっと今だけ。そう思うともの忘れも悪くないなあ。」と返ってきました。この返答には大変驚き、身体がビビッとなったのを覚えています。この出来事以降、「認知症の方」に対する考え方や関わり方が私の中で大きく変わったように思います。これからも私の忘れられない一場面です。 2023年2月投稿 「訪問看護だからこそ」 利用者さんを看護師が観察するように、利用者さんも看護師をしっかりと見ています。だからこそ利用者さんから発せられた言葉だったのだと思うエピソードです。 病棟勤務から訪問看護に異動した私にとってSさんは病棟時代から関わっていた患者さんだった。訪問看護に異動してすぐにSさんの初回訪問から携わった。異動して不慣れな私の成長を見守っててくれていた。ある日Sさんが「やっと前の◯◯さんに戻ってきたね、病棟のころにいた時と近くなってきた」と言った。肩に力が入っていた私を心配していた、と言ってくれた。思わず涙してしまった時、Sさんから「◯◯さんの良さは訪問看護だからこそ伸びるんだと思う。時間に、患者に追われ過ぎてた◯◯さんよりずっと今の方が楽しそうだよ。自信を持って続けたらいいと思うよ」と笑って言ってくれた。元々准看護師だった私が、正看護師合格とともにずっとやりたかった訪問看護に異動願いを出し、念願叶って訪問看護師になれたものの一つも看護師としての自信がなかった私にとって、Sさんの言霊がとても胸に響いた。悲しいことにSさんは昨年逝去してしまったが、これからも続くであろう訪問看護人生で絶対にSさんのことは忘れない。訪問看護ならではの利用者さんとの一対一の関わりを大事に、ずっとやりたかった訪問看護を続けていきたい。 2023年2月投稿 思い出は糧となる 人との出会いは、自分にとって一生の宝物になることも。自分を変えるきっかけや学びになるような出会いを積み重ねながら、思い出とともに今日もまた訪問看護に携わっていくのでしょう。改めて自分の中にあるたくさんの人とのつながりを思い返す、そんなエピソードでしたね。 編集: 合同会社ヘルメースイラスト: 藤井 昌子

スピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】
スピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】
特集
2024年10月29日
2024年10月29日

スピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】

「スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア【スピリチュアルケア】」で解説した「基盤となるケア」に続き、今回はもう1つのケア「個別のケア」について解説します。患者さんのスピリチュアルペインの訴えに焦点をあて、スピリチュアルケアの実践を学んでいきましょう。 ケア提供者の基盤となる「気遣う」姿勢 看護師がスピリチュアルケアを実践するには、前回も述べたように、普段から「全般的なケア」である基盤となるケアを念頭において、まずは患者さんとのよりよい関係性を構築することが重要です。看護師は傾聴や共感、沈黙、ともにいることといった基本的コミュニケーションを用いて、患者さんが直面している苦しい現実や、そのために生じる否定的な感情を表出できるように援助していくことが大切です。 ケア提供者である看護師は、専門職としての知識や技術、倫理観を備えていることを前提として、以下の5つの姿勢で患者さんを「気遣う」ことが望まれます。 積極的な傾聴ができる共感的な感性を磨く自己の価値観や倫理観から自由である自己の弱さや限界を認めるチームの一員としてかかわる 患者さんのスピリチュアルなニーズに気づき、スピリチュアルペインをケアしていくためには、患者さんに関心を寄せて、そこに「居合わせること(presence)」1)が重要です。看護師は、患者さんと居合わせることにより、いつもとは違う感情が表現されていることや、行為や行動が違っていることに気づけるのです。 「事例で検討 スピリチュアルペインのアセスメント【スピリチュアルケア】」で示したがんの終末期にあるAさん(男性、60代、膀胱がん)の事例で表出されたスピリチュアルペインをもとに、個別のケアとして、「負担感/申し訳なさ」(関係性のスピリチュアルペイン)に関するケアの工夫と、「自分のことができないつらさ」(自律性のスピリチュアルペイン)に関するケアの工夫について、そのポイントを以下に挙げます2)。 「負担感/申し訳なさ」に関するケアの工夫 「負担感/申し訳なさ」に関するケアの工夫には6つのポイントがあります。順に説明します。 1 患者さんの価値観を理解する●患者さんがどんな価値観をもっているかを知る●患者さんの価値観を否定することなく、気持ちを理解しようとしていることを伝える2 負担感/申し訳なさについて患者さんとご家族が気持ちを伝え合えるようにコーディネートする●患者さんの負担感/申し訳なさを感じている気持ちを聴く●ご家族は実際にどう感じているのか、ご家族の気持ちを聴く●ご家族が負担とは感じていないことや、本人・家族相互の気持ちを自然体で伝え合えるようコーディネートする、または橋渡しする3 患者さんの負担感/申し訳なさが減るケアを工夫する●患者さんが負担だと感じることは何か、なぜそれを負担と感じているかを知る●日常生活で負担を感じさせない工夫をする●「してあげる」ケアを避ける●患者さんのがんばりを支える●喪失を最小化する●今までの人生の価値を振り返る4 新たな視点を提示する●患者さんの価値観を尊重しつつ、新たな視点を提示してみる●新たな視点を提示する言葉は、患者さんの負担にもなりうることをケア提供者が知っておく5 ご家族の負担を和らげる●ご家族に対する十分な情緒的サポート、ねぎらいを行う●ご家族が介護と生活を両立できるためのサポートを行う●ソーシャルワーカーと連携し、適切な社会資源を紹介する6 患者さんのコーピングを支持する●患者さんの行っているコーピングを理解し、支持する文献3)をもとに作成 「自分のことができないつらさ」に関するケアの工夫 「自分のことができないつらさ-自分で自分のことが思うようにできないつらさ」に関するケアの工夫には3つのポイントがあります。 1 喪失を最小限にする●患者さんが自分でできるようサポートする●患者さんが自分の力を最大限活かせるための環境を整備する●リハビリテーションの導入を相談する●補助具(コルセット、ステッキ、歩行器、車いす、電動車いすなど)の使用を相談する●患者さんの希望に沿った症状緩和を行う2 コントロール観を最大限にする●何を、いつ、どこで、どんな方法で行うかを患者さんが選択できるように配慮する●達成が難しいようなことでも否定せず、患者さんが挑戦することを支持する3 患者さんのコーピングを支持する●患者さんのコーピングを理解し、支持する文献4)をもとに作成 ケア提供者に求められる態度・考え方とは スピリチュアルケアにおけるケア提供者の基本的な態度や考え方を調査した研究結果5)から、スピリチュアルケア提供者の「心構え」として次のことが示されています。「患者さんの可能性を信頼し、人生へ敬意を払う」<人間への信頼と敬意><傾聴がケアとなることの自覚>、「心・苦悩・人生に意識を向ける」<スピリチュアリティの探求>、「問題解決的関わりや過度な期待によって巻き込まれることへの自戒」<医療者本位への自戒>です。 また、患者さんのスピリチュアルな側面のニーズを満たすためには、「誠実さ、謙虚さ、ケアリングを意識して患者さんに向き合う姿勢」が必要とされています。ケアリング(caring)の概念は明確化されていませんが、共感や気づかい、思いやりなど、ケア提供者の心情や態度を表すものとされています。 患者さんにケアリングを行うとは、患者さんを精神的に成長しうる存在として捉え、共感や気遣い、思いやりを基盤としながら、一方的に患者さんを支援するという態度では成り立ちません。患者さんの成長や自己実現のために(実現を助けるために)、患者さん・ご家族とともにケアを行っていくことが大切です。 一方、スピリチュアルな苦悩の中にある患者さんとの関わりは容易なものとは言い難いでしょう。自分自身がどのような意識の志向性をもった人間で、今自分が何を感じ、どのような感情を抱いているのか、時に自己を見つめ直す機会をもつことはとても重要です。自然や、文化、芸術などに触れ、自分自身へのケアも意識的に取り入れることも大切なことです。 看護師として、一人の人間としてケアにあたる スピリチュアルペインは、本来、終末期の患者さんに限らず有限の生を生きるわれわれ誰もが直面せざるをえない苦しみです。その内容は非常に個人的であり、人格的なものです。したがって、スピリチュアルケアは、その人をあるがままに受けとめ、その人が「どのように生きるか、どのように生きてきたか」という、生きることそのものを支えるケアであるといえるでしょう。 鷲田 清一氏6)は、「自分の言葉がわかってもらえたかどうかよりも、その言葉が受けとめられたかどうかのほうがはるかに大きな意味をもっている。揺れている、無防備な自分をそのまま認めて肯定してくれる他者がそばにいてくれること自体が、私たちを支えてくれるのだと思う」と述べています。 人間存在そのものへの問いかけや、スピリチュアルな側面での苦悩をもつ人への関わりは、一方的な解釈や答えを与えることでも、励ますことでもありません。苦しみを、悲しみあるいは怒りとして、個々に表出するその人を、ありのままに、それでよいのだと受け入れることから始まるのだと思います。そして、その人の背景にある苦しみに(喜びにも)、寄り添いたいとの思いで、ともにあり続けることが大切であり、そのようなケアの担い手でありたいと願っています。 執筆:前滝 栄子京都大学医学部附属病院 緩和ケアセンターがん看護専門看護師 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Tamura K, Kikui W, Watanabe M (2006) Caring for the spiritual pain of patients with advanced cancer: a phenomenological approach to the lived experience. Palliative and Supportive care4, 1-10.2)田村恵子,森田達也,河正子編.看護に活かすスピリチュアルケアの手引き.第2版,青海社,2017,p. 58-65.3)同上,p.59-60.4)同上,p.62.5)同上,p. 129-131. 6)鷲田清一.そこにいる力、聴くことの力.ターミナルケア,2000,10(3).p.199-204.

退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス
退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス
特集 会員限定
2024年10月22日
2024年10月22日

退院支援&調整のプロセスと退院前カンファレンス【セミナーレポート後編】

2024年7月12日のNsPace(ナースペース)主催オンラインセミナーのテーマは、在宅緩和ケアと病院との連携。講師には、訪問看護と病院の地域連携部門の両方を経験した廣田芳和さん(楓の風在宅療養支援株式会社)をお招きしました。 セミナーレポートの後編では、退院支援・退院調整の具体的なプロセスを中心にまとめます。 ※約75分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら在宅緩和ケアの課題と退院支援・退院調整の基本【セミナーレポート前編】 【講師】廣田 芳和さん楓の風在宅療養支援株式会社 スーパーバイザー/元 緩和ケア認定看護師(~2024年6月)神奈川県内の病院で約13年にわたって勤務した後、「在宅療養支援ステーション楓の風」に入職し、管理者も経験。その後は前職の病院に戻り、地域連携部門に約3年間勤め、再び訪問看護の現場に戻って現在に至る。 退院支援・退院調整のプロセス 退院支援・退院調整は3段階に分けられ、以下のような内容を実施します。 第1段階:外来入院が決定してから入院後3日以内入院前の生活状況を調査するとともに、入院理由・目的・治療計画などをふまえて退院時の状態像を把握。また、退院支援の必要性を医療者と患者さん、ご家族で共有。第2段階:入院3日目から退院までアセスメントを継続し、チームで情報の共有や支援策の検討を実施。また、患者さんとご家族が疾患について理解、受容するための支援や、退院後の生活イメージの構築も行う。第3段階:必要になった時点から退院まで退院を可能にする制度・社会資源の調整や、退院前カンファレンスを実施。 段階ごとの詳細やポイントも見ていきましょう。 第1段階の内容とポイント 入院前面談 多くの病院では、患者さんの情報を把握し、患者さんに情報を提供するための面談を入院前に行います。主な面談の内容は以下のとおりです。 ・身体・社会・精神的な情報の把握 ・現在利用している介護サービスの把握・褥瘡や栄養状態の評価・服薬中の薬の把握・退院困難な要因の有無の評価・入院中に行われる治療・検査や入院生活についての説明 退院困難要因の把握 早期にスクリーニングを実施し、入院理由や目的、治療計画などをふまえ、退院困難要因の有無を予測します。なお、ほとんどの患者さんが何らかの項目に当てはまるのが実状です。 退院支援の必要性の共有 患者さんとご家族の病状への理解度を確認。退院後の見通しの説明も行います。 第2段階の内容とポイント 継続的にアセスメントし、チームで支援 多くの場合、スクリーニングに基づいたカンファレンスを実施し、情報を整理しながら具体的な支援方法を決めていきます。 退院後の生活イメージを相談・構築 患者さんやご家族の不安を一つひとつ明確にし、在宅に戻る自信がもてるように支援します。不安を払拭するには以下3つの点を意識し、医療・看護を在宅モードに変換することが必要です。 (1)今後の変化を予測し、必要な処置や治療に関する準備・調整をしておく(2)自己管理がどの程度可能か、サポート体制はどのくらい整っているかを把握する(3)生活の場に合わせて可能な限りシンプルに管理できる方法を考える なお、ご家族の介護力をふまえて訪問看護の利用が決まっていれば、この段階で退院指導に訪問看護師も携われると、「在宅での現実的な方法」をより見つけやすくなるはずです。これは、退院前カンファレンスの意義にも通じると思います。 また、入院に伴うADLの低下を最小限にするよう調整すること、家族が不安な思いを表出できるようにすること、食事や排泄、入浴などのアセスメントと支援を行っていくことが重要です。 患者さんとご家族の疾患理解・受容への支援 第2段階では、患者さんとご家族が疾患について理解し、受け入れるための支援も行います。例を挙げながら見ていきましょう。 入院時の患者さんの情報 肝臓がんを患い、外来で化学療法を続けていたが、緊急入院1ヵ月前から食事量が減り、体重も5kg減少体力が低下しており、トイレに行くのがやっとの状態腹部の痛みあり 検査の結果 がんは腹膜にも転移し、腹水が溜まっていた末期状態と診断医療用麻薬が使用され、痛みは改善傾向 検査結果をふまえ、医師から病状と新たな治療選択肢がないことが説明され、「残された時間の過ごし方(病院、ホスピス、家のどこで最期を迎えるか)を考えてほしい」と伝えられました。本人とご家族はもちろんショックを受けて動揺しますが、この先の選択にはあまり多くの時間はかけられません。 この場合、病棟や退院支援部門の看護師は以下のような関わりをします。 ・時間の許す限り不安な気持ちに寄り添う・返答できる質問には真摯な態度で丁寧に答える・利用者さんとご家族の希望を伺う・転帰先をイメージできるよう、ホスピスやそれに類似する施設、もしくは在宅での生活についてそれぞれわかりやすく説明する 特に、不安から「在宅療養は不可能」と判断してしまうご家族が非常に多いです。適切なサービスを利用すれば選択できることを、きちんと説明しなければなりません。 また、以前は病棟看護師が在宅療養は困難と判断してしまうケースもありましたが、最近では在宅緩和ケアの知識をもった退院支援部門の看護師やソーシャルワーカーに対応を任せる病院が増加しています。そのため、説明不足が原因で在宅を選べなくなる事例は減ってきています。 第3段階の内容とポイント 第3段階で行う退院前カンファレンスには、3つの目的があります。 (1)包括的なケアのための情報の共有(2)患者・家族が安心して退院できる環境づくり(3)安定した退院後の療養生活の確保 本来は、地域ケアが必要な全ケースで退院前カンファレンスを行うのが理想的でしょう。しかし、人員が潤沢ではない現状では難しいため、必要性が明確なケースに絞って行われています。 退院前カンファレンスでは、以下のような点を確認します。 ・住環境や家族との関係を含めた利用者さんの基本情報・病名や予後告知の状況、それに対する本人とご家族の理解度・本人とご家族の意向 ・転帰先(在宅or施設)・住環境の改修(手すりの設置や車イスの導入)の必要性・訪問看護指示書をはじめとした書類の内容・薬の処方(退院時処方の量や訪問診療との調整)・退院時の移送方法 そのほか、医療管理の状況や課題を地域ケアチームへ引き継いだり、訪問看護の頻度や内容、その費用を説明したりもします。必要に応じて、ヘルパーやデイサービス、訪問リハビリの活用検討も行います。 * * * 在宅緩和ケアに移行するにあたっての流れや課題を見てきましたが、やはり重要なのは訪問看護と病院の連携です。互いを「同じ地域の一員であり、同じ志をもつ者」と認識し、協力することが、よりよいサービスにつながるはず。ぜひ歩み寄る意識をもっていただけたら幸いです。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフィス「在宅ケア移行の為のヒント」https://www.utsunomiyahiroko-office.com/zaitaku.html2024/08/26閲覧

訪問看護の緩和ケア&看取り 学べる情報まとめ
訪問看護の緩和ケア&看取り 学べる情報まとめ
特集
2024年10月22日
2024年10月22日

訪問看護の緩和ケア&看取り 学べる情報まとめ 疼痛管理、家族看護etc.

緩和ケア・看取りのケアは、どんなに経験を積んでもその度に学びをいただけるもの。訪問看護師だからこそできるケアや叶えられる希望があり、やりがいを感じている方も多いと思います。その一方で、ご本人・ご家族にとっての「最善」は何か、悩むことも多いのではないでしょうか。 NsPace編集部にも「緩和ケアや看取りについて知りたい」というご意見を数多くいただいており、これまで多くの記事を公開してきました。今回は、「何から読もう」と迷っている方に向けて、はじめにお読みいただきたい記事をピックアップしてご紹介します。ご本人・ご家族にとってはもちろん、看護師自身もともに豊かな時間を共有できるように、学びを深めていきましょう。 悩むことの多いケアに関する学びを深める 緩和ケアでは、多くの調整困難な苦痛が出現し、その対応や関わりに苦慮します。NsPaceでは緩和ケアを系統的に学んでいただけるように、「がん疼痛」「がん身体症状」「精神症状」「スピリチュアルペイン」についての解説記事をシリーズでお届けしています。 例えば、以下のような記事があります。 がん疼痛の種類を知ろう【がん身体症状の緩和ケア】 事例をとおしてがん疼痛に関する基本的な知識を学べる内容になっています。適切な薬剤調整によって疼痛の緩和、QOLの向上が叶うことがあります。日々関わる看護師が痛みの特徴を知り、痛みをどう聴き、どうアセスメントするかが、医師の効果的な薬剤選択、苦痛が緩和できるかに大きく関わってくるでしょう。この記事も含めて「がん身体症状の緩和ケア」に関する記事は4本あります。ぜひご活用ください。 せん妄への対応【精神症状の緩和ケア】 せん妄は、ご本人・ご家族、支援者にも多大な苦痛や負担を与えてしまうことが多く、在宅療養の継続を断念する大きな要因にもなります。改善できる要因があるにもかかわらず、見過ごされたり、「終末期せん妄」と判断されたりして、介入されずに悪化させてしまうことも。早期の積極的な介入により、せん妄の改善が見込めるため、看護師によるアセスメントが重要です。ぜひ知識を深めていただきたいテーマです。 その他の緩和ケアシリーズ記事は、以下からお読みください。>>緩和ケアシリーズ一覧https://www.ns-pace.com/series/palliative-care/ がん性創傷のケア アセスメントと痛み・滲出液・出血・臭気対策(会員限定) 皮膚・排泄ケア認定看護師の岡部美保さんにご執筆いただいた「在宅の褥瘡・スキンケア」シリーズでは、がん性創傷についても症例写真を交えながらケアのポイントを詳しく解説いただいています。創傷がどんどん広がる、浸出液が増える、臭気がつらい…。さまざまなご本人の苦痛、ご家族のケアの負担など、困難を伴うことが多いがん創傷ケア。「少しでもよい方法を」と日々悩みながら工夫されている分野ではないでしょうか。 ターミナル期における家族ケアを深める 緩和ケアでは、ご家族を本人と同等、またはそれ以上に苦痛を抱える「ケア対象」と考えます。訪問看護では、ご家族との関わりに苦慮することも多いはず。家族ケアについて学びを深められるコンテンツをピックアップしました。 妻の病状を受け入れらない夫に対する関わり【家族看護 事例】 終末期の病状を家族が受け入れられないとき、家族の言動を「現象」としてそのまま受け止めて対応することもあるでしょう。しかし、その言動の奥にあるご家族の思いや背景、関係性に焦点を当ててアセスメントとアプローチを重ねると見えてくるものがあります。関わる看護師自身の価値観や感情が影響しているという認識も必要です。 「家族看護シリーズ」では、「渡辺式/支援モデル」を使用した事例展開をとおして、関わりに困ったときの支援の方策を導き出す手法を学びます。シリーズ冒頭では、家族看護に関する総論(家族看護における大切な視点、「渡辺式/支援モデル」についての解説)もありますので、あわせてご覧ください。 >>家族看護シリーズhttps://www.ns-pace.com/series/family-nursing/ 【セミナーレポート】ご家族を支えるために看護師がすべきこと -ターミナル期における家族看護-(会員限定) 具体例を交えながら、ターミナル期における家族看護のポイントについて紹介しています。Vol.2のQ&A記事では、訪問看護師が迷いやすい場面に関する具体的なノウハウも紹介されていますので、あわせてご参照ください。これから緩和ケア・看取りのケアに取り組む方にも、知っておいていただきたい内容を学べます。 【緩和ケア座談会 前編】子どもに親の死をどう伝えるか/外国人家族のケア ホスピスケアに注力している「在宅療養支援ステーション楓の風」の経験豊富な訪問看護師さんたちに普段働く事業所を越えて集まっていただき、座談会形式でお話を伺いました。「子どもに病気や死をどう伝えるか」や「外国人家族への関わり」といった苦慮するテーマに対して試行錯誤の過程も踏まえながらご経験談をお話しいただいており、学びを深められる記事になっています。 看取りとの向き合い方 いよいよ最期が近づいてきたとき、訪問看護師としてどのように対応すればいいのか。特に、訪問看護師になったばかりの方は迷うことでしょう。コラムやセミナーレポートをぜひ参考にしてください。 看取りの作法 ~ 最期の1週間 杉並PARK在宅クリニック院長の田中公孝先生に、家庭医療専門医の視点から、看取りの作法について解説いただいているコラムです。最期の1週間を迎えたとき、どのような説明をご家族にするか。「看取りのパンフレット」の活用方法や、「訪問看護師に期待すること」などについて知ることができます。 【セミナーレポート】看取りの作法 Q&A≪特別先行公開≫(会員限定) 同じく田中先生にご登壇いただいたセミナーのレポート記事も公開しています。セミナーレポートでは、セミナー開催時に寄せられた訪問看護師の皆さまからのご質問への回答も豊富に掲載されていますので、ぜひ参考にしてみてください。 視点を広げるために役立つ情報 緩和ケアでは、「視点を拡げること」も力になります。ちょっと視点を変えたコンテンツもピックアップしました。 アロマテラピー 代表的な精油&訪問看護での活用法【セミナーレポート後編】(会員限定) アロマを手軽に活用する方法を学べます。利用者さんやご家族にリラックスいただくことはもちろん、場の心地よさを整えることは、心のケアにもつながります。エンゼルケア時の清拭にアロマを活用することで、ご家族が故人との思い出を振り返る手助けになることも。アロマの基礎知識や具体的な使用方法、注意点、看護師自身のアロマケアについても紹介されています。 【学会レポート】第6回 日本在宅医療連合学会大会「在宅医療を紡ぐ」 在宅分野の学会ではさまざまな活動が紹介されており、同じような悩みを抱えながら活路を見出そうとしている方々から勇気をもらえることがあります。看取り・緩和ケアに関するプログラムの様子もご紹介しています。ぜひ、今後のご参考にしてみてください。 * * * 悩み・苦しむことが多く、時には負担に感じることもある反面、訪問看護師としての醍醐味ややりがい、多くの学びをいただく緩和ケア・看取りのケア。ご本人・ご家族にとっての最善に関われたと思えることが看護師としての大きな力になっていきますよね。学びをとおして、その喜びがより広がっていくことを願って、これからもコンテンツをお届けしていきます。 執筆・編集: NsPace編集部

スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア
スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア
特集
2024年9月24日
2024年9月24日

スピリチュアルペインを和らげる全般的なケア【スピリチュアルケア】

患者さんのスピリチュアルペインを時間存在、関係存在、自律存在の枠組みで理解したら、次はスピリチュアルケアを考えていきます。本記事では、スピリチュアルケアの方法として欠かすことのできない基盤となるケアについて解説します。 >>前回の記事はこちら事例で検討 スピリチュアルペインのアセスメント【スピリチュアルケア】 基盤となるケアと特定の苦痛に対するケア スピリチュアルケアに関する欧米論文の文献レビューを行った結果1),2)より、スピリチュアルケアは「全般的なケア」と「個別のケア」とに分けられると報告されています。 「全般的なケア」は、スピリチュアルペインに対するケアの「基盤となる」ものです。「個別のケア」は、高い頻度でみられ、スピリチュアルペインに関連したケアとして考えられるものです。SpiPas(スピパス)の3次元の項目の概念に基づき、関係性、自律性、時間性のそれぞれの概念での特定の苦痛に対する個別のケアになります。 今回は、まず「全般的なケア」である「基盤となるケア」について説明します。 基盤となるケアには以下のものがあります。 信頼関係を構築する生きる意味・心の穏やかさ・尊厳を強めるケアを行う現実を把握することを援助する情緒的サポートを行う置かれた状況や自己に対する認知の変容を促すソーシャルサポートを強化するくつろげる環境や方法を提供する積極的に症状を緩和するチームをコーディネートする ケアの具体的な方法は表1をご覧ください。 表1 全般的なケア スピリチュアルケアの実践に必要な心構え 信頼関係を構築する 深い苦悩を抱えているように見える患者さんがいるとき、その人に対して単に直接的に「スピリチュアルペインはありませんか」とたずねても、患者さんは何も答えようとはしないでしょう。 まずは、身体症状や精神症状としての苦痛が緩和され、患者さんのニーズに沿って生活しやすいように、日常生活援助を適切に丁寧に行うことが大切です。そうした援助から「自分は関心をもたれている、尊重されている」という意識が患者さんに生まれ、信頼関係が築かれていきます。 スピリチュアルな側面に関心を向ける 入院時の問診から前回ご紹介したSpiPas3)のような体系だったアセスメントをしていきます。同時に、日常のケアの場面で患者さんが語る言葉や行動を通して、患者さんの拠り所となっていることへの理解を深めます。患者さんのスピリチュアリティの状態を注意深くアセスメントしていくことが大切です。 患者さんは、「どのように今の時間を過ごしているのか」、「生活において、今どのようなことを大切にしたいのか/これまで何を大切にしてきたのか」をポイントにしていきます。 ケアのニーズをチームで検討する これまでに述べたようなアセスメントを通して、ケアの対象となっている患者さんに、スピリチュアルペインが存在するのか、存在するならばそれはどのような苦悩なのかを把握します。そして、スピリチュアルペインに対するケアのニーズはどのようなものなのかについて、チームによるケアカンファレンスで検討していきます。 スピリチュアルケアの目標 スピリチュアルペインの重要な点は、患者さんの問いかけが、相手(看護師)に答えを求めて発せられるのではないというところにあります。スピリチュアルペインは、他者が答えを与えることでも、解決することでもなく、その痛みや苦しみの意味をその人自身が見出すことで初めてその人にとって真実なものになるのです。 なぜなら、スピリチュアルペインは、まさに、その人自身の主観的領域の核である「価値観」に向き合う痛みだからです。周りの評価や世間の価値観とは異なり、死を前にしたその人自身の価値観が問われる苦しみであるということを、われわれは十分に心得てケアにあたる必要があります。 患者さんが穏やかな状態、納得のできる状態をケア提供者が一緒に見つけていくことが、スピリチュアルケアの1つの目標です。完全に穏やかな状態にはなれなくても、「苦悩をもちつつも生きていける」、すなわち、本人がその人なりに生きていけると思える状態に到達できればよいと考えられます。 スピリチュアルケアは個別性が高いものですので、心理面の対応(適切なコミュニケーション)がケアとなる場合もあれば、死の恐怖のように宗教的対応が必要となる場合もあります。スピリチュアルケアの到達点は、患者さん一人ひとりにとっての、穏やかな状態、苦悩との折り合い、生きる意味の自分なりの納得が目当てになるといえるでしょう。 次回は、「個別のケア」について解説していきます。>>次回の記事はこちらスピリチュアルペインを和らげる個別のケア【スピリチュアルケア】 執筆:前滝 栄子京都大学医学部附属病院 緩和ケアセンターがん看護専門看護師 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)森田達也,鄭陽,井上聡,他.終末期がん患者の霊的・実存的苦痛に対するケア:系統的レビューに基づく統合化.緩和医療学 3,2001,p.444-456.2)森田達也,赤澤輝和,難波美貴、他.がん患者が望む「スピリチュアルケア」―89名のインタビュー調査.精神医学 52,2010,p.1057⁻1072.3)田村恵子,森田達也,河正子編.看護に活かすスピリチュアルケアの手引き.第2版,青海社,2017,p.30.

理想の看護&目標エピソード【つたえたい訪問看護の話】
理想の看護&目標エピソード【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年9月17日
2024年9月17日

理想の看護&目標エピソード【つたえたい訪問看護の話】

看護師としての目標は勤め先や関わる仕事内容によっても変わってきますが、皆さんはどのような目標を設けていますか?「みんなの訪問看護アワード2023」から、「どういう看護師で在りたいか」「どういう看護を届けたいのか」という目標を定め、それを体現しようとしているエピソードを5つご紹介します。 「60点からのBCPスタート!」 策定まで試行錯誤が必要なBCP(業務継続計画)。定めた目標を段階的に評価して達成していくことの重要性を感じられるエピソードです。  「当事者のようで当事者でない」兵庫県西宮市出身の私は、阪神淡路大震災の時は千葉におり、東日本大震災の時は西宮に戻っていたので、まだ大きな揺れを経験したことがありません。自分ごとにできない弱みから、災害対策マニュアルの作成にも本腰が入らず、台風や停電の時も「大丈夫だろう」と正常性バイアスにまんまとハマってしまう日々でした。そんな私がBCP策定に着手できたのは、この当事者意識の薄さを乗り越えたい自身への挑戦でもありました。訪問看護サミットの視聴も大きなきっかけとなり、BCP策定を通して「出逢うべくして繋がった」多くの方たちの後押しが原動力となりました。BCPはやればやるほどその壮大さに圧倒されます。最初に自機関のBCPができた時には、「計画だもの。満点を目指さなくて良いんだ。60点からのBCPスタート!」と言い聞かせました。コレは、訪問看護の利用者の意思決定支援における、ゼロかヒャクかで決められない人の人生の支え方に通じます。利用者を支えている訪問看護スタッフを支える管理者の仕事として、BCPを自分ごとに昇華していけるよう挑み続けたいと思います。 2023年1月投稿 「訪問看護の力」 利用者さんにとっては入院生活と自宅生活は精神的に大きな違いがあり、訪問看護師として在宅生活の支援に注力したいという目標に共感できるエピソードです。 これまで回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟で勤務し、さまざまな理由で自宅退院を諦める方を見てきました。昨年8月に訪問看護師となり、これまでできないことばかりに注目し自宅に帰れない理由を探していたのではと思いました。病棟勤務の時に入院されていた方に訪問する機会があり、自宅で生き生きと暮らす姿に感動しました。認知症のため離床センサーをつけていた方にお会いした時は、目の輝きに驚きました。病棟では自由が制限され、固い表情だったのだと思います。その方が体調を崩し医師から入院を強くすすめられた時、絶対に入院しないと譲らず、点滴と体調管理のために連日訪問することになりました。入院せずに普段の生活に戻ることができた時、訪問看護の力を強く感じました。この経験を生かし、患者の「家にいたい」と願う気持ちに寄り添える看護師として成長していきたいです。 2023年1月投稿 「取り憑かれている私」 利用者さんの人生や生き様が、訪問看護師としての人生の目標や生き方を決めるきっかけになったエピソードです。 私には、勝手に「魂の言葉」と名づけ、取り憑かれているある利用者さんの言葉がある。私が30代前半で訪問看護ステーションに配属になり、1人立ちという単独訪問ができるようになったころ、神経難病の方のお宅へ訪問していた。その方は社会的地位も高く、知的で穏やかで若輩者の私にも丁寧に接してくれ、私の声がけのリハビリも一生懸命行ってくれた。進行の予防に取り組みながら、病気についても調べ、最新治療の情報を集めたりと積極的に向きあっていた。排泄が上手にできなくなり処置が必要になったころ、その方は「治療は諦めたけど、生きるのは諦めない」という言葉を言った。その方は、程なく入院し胃ろうを造設、気管切開をし、亡くなった。訃報を聞いたその時は、最後まで生きることに真剣に向き合った、「生きることを諦めなかった」結果だと思った。十数年たった今、「生きることを諦めない」とは、自分を知り、生きるということに向き合い、自分の意思で生き方を決めることだということがわかる。私は「魂の言葉が聞きたい」という思いで今も訪問看護に就いている。 2023年1月投稿 「生きた看護が生まれる場所」 看護師としてどういうスタンスで看護を行うか。目標や心がけは接遇や所作に表れます。そのことを明確に体現されているエピソードです。 在宅で療養する患者さん、介護をされている家族が安心して過ごせるように手助けをするのが訪問看護師の役割だと思う。そんな私が訪問時に心がけていることは特別なことをし過ぎないことである。医師からの指示や、複雑で家族ができないような処置をしているときは私の看護は始まっていない。家族に「私にもできそう」と思ってもらえるケアができたときが看護の始まりである。例えば、痰がうまく出せない患者さんには横向きになってもらい背中を擦る。呼吸が楽になるようにストレッチをして体の緊張ほぐす。この時にゆっくりと丁寧な所作で行う。なにをしていたか分からないような複雑な動きはしない。ケアを見ていた家族が「あれをしたら気持ちよさそう、楽になりそう」と思ってもらえたらケアは成功だ。ケアをやってみようと思ってくれる家族が増える。私がいない時間でも私の看護が生き続ける。そんなやさしい手が増えますようにと思い、日々訪問している。 2023年2月投稿 「看護師のゆらぎ」 目標を掲げることは、利用者さんに対してだけではなく、職場内のスタッフにも好影響を及ぼすことがわかるエピソードです。 一次病院から経験8年目にして在宅に飛び込んできた看護師。医師が側にいない、検査がすぐにできない環境で一人で訪問すること、検査ができない中でのアセスメント、すぐに苦痛の緩和ができない。アセスメント能力、コミュニケーション能力も今までよりも必要になると痛感し自信も崩れ看護師である自分に対して「今までの自分がクソだった」と泣きながら話すこともあった。個別面談や毎朝チームでのミーティングも行ったり泣きながら、笑いながら日々奮闘している。最近はチームに向けた勉強会を開催したいと自ら発信し実施した。ほかのスタッフ達も入職して一年は特に「目の前の人と向き合うことは自分自身と向き合う、自分自身を知る一年だった」と話していた。彼女自身のスキルアップと同時に彼女自身が自分と向き合えるようチームでこれからも伴走していきたい。そして在宅未経験な看護師達が地域に飛びこめる環境を整えていきたい。 2023年2月投稿 目標は成長につながる 「なぜ看護師という職業に就いたのか?」ということを振り返るきっかけになりそうなエピソードばかりでした。「仕事=賃金をもらうための対価」としてだけ捉えると、ルーティンワークになりがちですが、仕事はひとつの自己表現ともいわれています。時間をかけてやるからには「自分が成したいこと」を見つけ、目標として目指していきたいものですね。編集: 合同会社ヘルメースイラスト: 藤井 昌子

事例で検討 スピリチュアルペインのアセスメント【スピリチュアルケア】
事例で検討 スピリチュアルペインのアセスメント【スピリチュアルケア】
特集
2024年8月6日
2024年8月6日

事例で検討 スピリチュアルペインのアセスメント【スピリチュアルケア】

本記事では、事例をもとにがんの終末期にある患者さんが訴える内容から、スピリチュアルペインのアセスメントを行います。身体的・心理的・社会的な訴えとともに表出されるスピリチュアルペインに対して、適切なケアにつなげるためのアセスメントの理論的枠組みを紹介します。 スピリチュアルペインのアセスメント 前回、スピリチュアルペインを「時間存在」「関係存在」「自律存在」の3つの次元で分類する村田理論1)を紹介しました(<<終末期にある患者さんのスピリチュアルペインを知る【スピリチュアルケア】を参照)。それぞれの内容を再度確認しておきましょう。 人間にとっての「死」を主題としてとらえると、時間存在のスピリチュアルペインとは、将来を失うことにより現在の無意味を生む苦悩です。関係存在のスピリチュアルペインとは、他者との関係を失うことにより孤独・空虚の無意味を生む苦悩です。自律存在のスピリチュアルペインとは、自立と生産性を失うことにより無価値・無意味・負担・迷惑という苦しみを生む苦悩です。 それぞれの観点から苦痛を分析すると、スピリチュアルペインには表1に示す14項目が挙げられます。14項目それぞれのスピリチュアルペインの定義については、表3に示しています。 表1 スピリチュアルペインの14項目 がん終末期にある患者さんの事例 ここで病状進行のため自分のことができなくなってきたがん終末期にあるAさんの事例を示します。患者さんの訴えにどういったスピリチュアルペインが含まれているのか、一緒に考えていきましょう。 Aさんは、60代男性、膀胱がん終末期で在宅療養中。肺・骨転移により、徐々にADLが低下しており、身の回りのことを自分1人で行うことは困難になりつつある。肺転移による症状は特になく、骨転移による痛みは鎮痛薬の調整で現在落ち着いている。家族は妻と高校生の長女との3人で、妻は訪問看護のサポートを受けながらパート勤務を継続。予後は1ヵ月程度の見通しであり、本人・家族ともに説明を受けている。Aさんは、最近は特に何をすることもなく、黙ってベッドに臥床していることが多くなっていた。ある日、訪問看護師が排便調整のための処置を行い、Aさんの身の回りを整えていると、Aさんが「自分1人では何もできなくなってしまって…。家族にも、看護師さんたちにも迷惑かけるばかりで。こうやって横になって過ごすことしかできなくて、情けない。生きていても意味がない…。もう早く終わりにしたい」とうなだれながら語った。 訴えに内包されたスピリチュアルペイン Aさんは、看護師に手を借りながら生活することを余儀なくされ、病状の進行に伴い日ごとに動けなくなっていく自身の状況を目の当たりにする中、非常につらい思いをされていることが分かります。そして、ご家族や看護師に迷惑をかけるだけでしかない自分には存在価値がなく、生きている意味が見出せない状況にあると推察されます。 すなわち、Aさんの苦悩は、自分で自分のことが思うようにできなくなっていく自己を無価値な存在として認識していることです。同時に、家族や看護師に迷惑をかけるだけの自分の生には意味がないと感じることによって現れる、自律性のスピリチュアルペインが生じていると考えられます。 また、Aさんは、負担でしかない自分の存在を日々支えてくれる妻や長女の愛情を感じていると思われる一方で、自分の現状を知り病状の悪化を自覚されています。そうした状況から、死をより間近に意識し、家族との別れが迫ってきていることも実感していると推測されます。Aさんの「情けない」との言葉からも、夫として、父親としての役割が果たせない虚無感や、申し訳なさ、孤独感によって現れる、関係性のスピリチュアルペインが生じていると考えられます。 そして、トイレにさえ1人で歩いていくことのできない自分の現実を目の当たりにする中で、死が迫っていることや、家族との別れが近づいていることを実感し、生きることへの無意味、無目的として感じています。Aさんの「生きていても意味がない…」との言葉は、それらのことによって現れる、時間性のスピリチュアルペインとして捉えることができます。 回復する見込みがなく、先の見えない状況に置かれているAさんは、このように究極の孤独の中にあることがわかります。今、生きていることの意味が見出せず、家族へ負担をかけないためにも、「いっそのこと早く終わりにしたい、早く死んでしまいたい」との苦悩としての叫びであると考えます。 体系化されたアセスメントで苦悩を捉える スピリチュアルペインを把握し、ケアにつなげていくアセスメントの方法として、村田 久行氏による三次元の苦悩の内容を軸に、田村 恵子氏らが作成したスピリチュアルペインアセスメントシート(spiritual pain assessment sheet:SpiPas/スピパス)1)の質問があります(表2)。 事例に示されるような患者さんからの明らかな表出がなくとも、終末期にある患者さんと関わり始める初期の段階から、SpiPasのような体系立てたアセスメントを行います。それにより患者さんのニーズをタイムリーに把握し、ニーズを踏まえたケアを早期から提供することが可能となります。ただし、SpiPasは個々の患者さんの反応に合わせて展開していくものですので、用い方については十分に学んでから活用する必要があります。 表3にSpiPasによる特定の次元におけるスピリチュアルペインのアセスメントのための質問例と表現例を示します。 表2 SpiPasによるスクリーニングのための質問 文献2)より許諾を得て転載 表3 特定の次元のスピリチュアルペインをアセスメントするための医療者の質問例と患者さんの表現例 文献2)より許諾を得て転載 執筆:前滝 栄子京都大学医学部附属病院 緩和ケアセンターがん看護専門看護師 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)村田久行.末期がん患者のスピリチュアルペインとそのケア:アセスメントとケアのための概念的枠組みの構築.緩和医療学.2003,5,p.157-165.2)田村恵子,森田達也,河正子編.『看護に活かすスピリチュアルケアの手引き』第2版,青海社,2017,p.145-146.

受賞作品漫画「最期のキッス」【つたえたい訪問看護の話】
受賞作品漫画「最期のキッス」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年6月26日
2024年6月26日

受賞作品漫画「最期のキッス<後編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、大矢根 尚子さん(社会医療法人 三宝会 南港病院訪問看護ステーション/大阪府)のホープ賞エピソード「最期のキッス」をもとにした漫画の後編をお届けします。 ※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。  「最期のキッス」前回までのあらすじがん終末期の利用者 大野ゆみさんと夫のだいすけさんは、訪問看護に行っても「二人でできるから大丈夫」と言い、あまりケアができない状態でした。ユマニチュードを徹底することで少しずつ距離が近づき、思い出話も伺えるようになり、ゆみさんが好きな曲を流しながらケアするようにもなりました。しかし、だいすけさんはなかなか奥様の死を受け入れられないご様子で…。>>前編はこちら受賞作品漫画「最期のキッス<前編>」【つたえたい訪問看護の話】 最期のキッス<後編> 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。エピソード投稿:大矢根 尚子(おおやね なおこ)社会医療法人 三宝会 南港病院訪問看護ステーション(大阪府)元々は訪問看護を続けられるかどうか不安を抱いていた私が、大野さんご夫婦(仮名)の訪問に入らせていただいたことで、「どう支えるのがベストか」を常に考えながらお仕事をするようになりました。ご自宅という利用者さんの生活の中に入らせていただき、その方の「人生の一部」にさせていただける訪問看護は本当に魅力的です。最初は紙袋を使っていた私も、お二方との関わりを機に、ちゃんと布バッグを新調しました(笑)。また、所属先の訪問看護ステーションの反応もすごく、受賞がわかったときはみんなで大盛り上がりだったので、建物が揺れたかと思うくらいでした(笑)。法人内にも受賞したことが共有され、「訪問看護の仕事が魅力的だということがよくわかり、勉強になった」「法人としても嬉しい」といった言葉ももらえました。本当にありがとうございました。 * * * 次回、「第3回 みんなの訪問看護アワード」の「つたえたい訪問看護の話」エピソードは、2024年秋から応募開始予定です。 [no_toc]

受賞作品漫画「最期のキッス」【つたえたい訪問看護の話】
受賞作品漫画「最期のキッス」【つたえたい訪問看護の話】
特集
2024年6月25日
2024年6月25日

受賞作品漫画「最期のキッス<前編>」【つたえたい訪問看護の話】

NsPaceの特別イベント「第2回 みんなの訪問看護アワード」で募集した「つたえたい訪問看護の話」。今回は、大矢根 尚子さん(社会医療法人 三宝会 南港病院訪問看護ステーション/大阪府)のホープ賞エピソード「最期のキッス」をもとにした漫画をお届けします。>>全受賞エピソードはこちらつたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!大賞・審査員特別賞・ホープ賞・協賛企業賞つたえたい訪問看護の話 受賞エピソード発表!入賞 ※エピソードに登場する人物名等は一部仮名です。 最期のキッス<前編> >>後編はこちら受賞作品漫画「最期のキッス<後編>」【つたえたい訪問看護の話】 漫画:さじろう山形県在住のイラストレーター/グラフィックデザイナー/漫画家。都内デザイン会社を経て現在フリーランスで活動中。『ダ・ヴィンチ』『東京カレンダー』『Men’s NONNO』『SUUMO』など多数の雑誌のほか、釣り具メーカー『DAIWA』『LIFE LABEL』などのWebやYouTube、CMでもイラスト・漫画制作を手掛ける。エピソード投稿:大矢根 尚子(おおやね なおこ)社会医療法人 三宝会 南港病院訪問看護ステーション(大阪府) [no_toc]

緩和ケア スピリチュアルペイン1
緩和ケア スピリチュアルペイン1
特集
2024年6月18日
2024年6月18日

終末期にある患者さんのスピリチュアルペインを知る【スピリチュアルケア】

訪問看護の現場において、終末期にある患者さんから、「身体はちっともよくならない。こんな状態なら生きていても意味がない」「皆に迷惑かけるばかりでつらい。もう早く終わりにしたい」などの発言を聴くことは、決してまれなことではありません。患者さんがこのような言葉を発するとき、私たち看護師は、患者さんがそのような思いを打ち明けている大切なときであると捉え、患者さんの背景にある真の苦しみをしっかりと感じとり、その思いをあるがままに受けとめていく必要があります。患者さんが感じているスピリチュアルペインを認識し、看護師自身も自己に向き合いながら、最期まで患者さんと「ともにいる」ことの重要性について理解を深めていきましょう。 スピリチュアル/スピリチュアリティとは スピリチュアルペインについて説明する前に、まずは「スピリチュアル」や「スピリチュアリティ」とは何なのかを押さえておきましょう。 スピリチュアルやスピリチュアリティは明確に定められた概念ではなく、その意味する内容は多義に渡っています。 欧米のスピリチュアリティの定義は、人生の意味と目的、赦し、愛情と関係、希望、創造性、宗教的な信条など多様な要素が含まれます。河 正子氏1)は、スピリチュアリティについて「個人の生きる根源的エネルギーとなるものであり、存在の意味に関わる。スピリチュアリティは個人の身体的、心理的、社会的領域の基盤として各側面に影響を及ぼす」とし、個人の中のスピリチュアルな領域を、身体的領域、心理的領域、社会的領域、すべての領域の「核」として、その関係を示しています。 以下に、WHO2)の「スピリチュアル」の考え方を表記します。 ● スピリチュアルとは、人間として生きることに関連した経験的一側面であり、身体感覚的な現象を超越して得た体験を表す言葉である● 多くの人々にとって、「生きていること」が持つスピリチュアルな側面には宗教的な因子が含まれているが、スピリチュアルは「宗教的」と同じ意味ではない● スピリチュアルな因子は身体的、心理的、社会的因子を包含した人間の「生」の全体像を構成する一因子とみることができ、生きている意味や目的についての関心や懸念と関わっている場合が多い● 特に人生の終末に近づいた人にとっては、自らを許すこと、他の人々との和解、価値の確認などと関連していることが多い スピリチュアリティは、人の存在の土台や生きるよりどころに関わるものであるため、死が差し迫ったときや死を意識するとき、苦悩が生まれます。終末期にある患者さんは、身体症状の悪化や、身体機能の低下、日常生活の制約の増大、他者への依存の増大などを体験します。その結果として、自己の価値観の再吟味を迫られたり、生のあり方を深めることを求められたりするなど、精神的・心理的苦痛とは異なる次元における苦悩が生じます。このように、「どう生きるか」についての苦悩をスピリチュアルペインと呼んでいます。 スピリチュアルペイン トータルペイン(全人的苦痛)の概念を提唱したシシリー・ソンダース(Cicely Saunders)氏3)は、「人は身近に死を感じるようになると、最も大切なことをはじめなくてはという思いになるし、真実なもの、価値のあるものを求めるようになる。また、不可能なこと、無価値なことを見分ける感覚が出てくる。不条理な人生に深い怒りをもち、過ぎ去った多くのことに後悔し、深刻な虚無感にとらわれる。ここにスピリチュアルペインの本質がある」と述べ、スピリチュアルペインとそのケアの必要性について言及しています。 看護師は、常に、患者さんが全人的な存在であることを踏まえケアしていく必要があります。すなわち、身体的、精神的、社会的な側面と同様に、スピリチュアルな側面での安寧(spiritual well-being)が保たれているかに注目しケアにあたることが大切です。 村田 久行氏4)は、スピリチュアルペインとそのケアを論じる場合、その背後に存在し、患者さんの苦しみに大きな影響を与えるのが、「死」という主題であると述べています。そして、哲学の一領域である現象学を基盤としたスピリチュアルペインの考え方として、スピリチュアルペインを「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義します。さらに、この苦しみを、人間の存在の三つの側面から捉えて、「時間存在」「関係存在」「自律存在」として分類しています(表1)。 表1 哲学的な視点によるスピリチュアルペイン スピリチュアルペインのアセスメント・ツール スピリチュアリティのアセスメント・ツールとして、FICA*1やDT Question Protocol*2などがありますが、日本でスピリチュアルペインの評価法として開発されたものが、Spiritual Pain Assessment Sheet(以下、SpiPas:スピパス)です(図1)。この研究では、終末期がん患者さんのスピリチュアルペインを、村田氏の「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義し、スピリチュアルペインは死の接近によって人間の存在構造の本質的な要素を喪失する(他者との関係性の喪失、自律性の喪失、将来の喪失)ことで引き起こされる、という概念枠組みを適用しています。 *1 FICA(Faith,Importance/Influence,Community,Address)Spiritual History Tool:アメリカの精神科医プチャルスキ(Puchalski)ら(2000)によって開発されたアセスメント・ツール。がん患者さんに対して、標準的な病歴にスピリチュアリティに関する自由回答式の質問を統合する方法として紹介された。FICAはFaith:信仰または信念・意味、Importance/Influence:重要性と影響、Community:グループと仲間、Address:取り組みの4つの次元においてスピリチュアリティを探究するための11個の質問で構成される。 *2 DT(Dignity Therapy)Question Protocol:カナダの精神科医チョチノフ(Chochinov)ら(2005)によって作成された心理療法的アプローチに基づく質問票。患者さんが捉える尊厳を調査し、その結果明らかとなった7つの尊厳のテーマから9つの項目を含む質問で構成される。これらの質問をもとに、終末期にある患者さんがこれまでの人生を振り返り、自分にとって大切なことを明らかにしたり、周囲に伝え残しておきたいメッセージを文書として残したりすることができるようになる。 SpiPasは、患者さんのスピリチュアルの状態についてアセスメント(スクリーニング)を行い、特定の次元(関係性・自律性・時間性)において現れるスピリチュアルペインをアセスメントし、個々の患者さんが抱えるスピリチュアルペインへのケアを導き出します。 図1 SpiPas 文献5)より許諾を得て転載 次回から、SpiPasを使用したアセスメントについて事例を用いて解説していきます。 >>次回の記事はこちら事例で検討 スピリチュアルペインのアセスメント【スピリチュアルケア】 執筆:前滝 栄子京都大学医学部附属病院 緩和ケアセンターがん看護専門看護師 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)河正子.わが国緩和ケア病棟入院中の終末期がん患者のスピリチュアルペイン.死生学研究.2005,5,p.48-82.2)世界保健機関編,武田文和訳.『がんの痛みからの解放とパリアティブ・ケア―がん患者の生命へのよき支援のために』金原出版,1993,p.48-49.3)Saunders C:Hospice Future,Morgan J (Eds),Personal Care in an Impersonal world:A multidimensional look at bereavement,New York,Baywood,1993,p.247-251.4)村田久行.末期がん患者のスピリチュアルペインとそのケア:アセスメントとケアのための概念的枠組みの構築.緩和医療学.2003,5,p.157-165.5)田村恵子,森田達也,河正子編.『看護に活かすスピリチュアルケアの手引き』第2版,青海社,2017,p.145-146.

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