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指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識
特集
2025年3月25日
2025年3月25日

指定難病に関する医療費助成 訪問看護師が知っておきたい基礎知識

指定難病の医療費助成制度においては、患者さん自身が「自己負担上限額管理票」を使って毎月の自己負担額を管理しています。そのため、月初からのレセプト処理が終わると、患者さんの自己負担上限額管理票を確認した上で、訪問看護の利用料金を請求しなければならないことがあります。自己負担上限額管理票からもらう金額が毎月バラバラになるため、患者さんや家族から説明をしてほしいと言われることもあります。今回は、指定難病と医療費助成制度について解説します。 ※本記事は、2025年2月時点の情報をもとに構成しています。 指定難病とは 難病および指定難病は「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)により、次のように定義されています。 難病とは発病の機構が明らかでなく、治療法が確立されていない希少な疾病で、長期にわたり療養を必要とするもの指定難病とは上記のうち、患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%)に達しておらず、客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が確立している疾病 2024年4月現在、指定難病に該当する疾患は341あります1)。 なお、難病法は、難病の克服をめざすこと、難病患者さんが社会参加の機会を確保できること、地域社会において尊厳を保ちながら他の人々と共生できることを基本理念としています。 指定難病の医療費助成制度のしくみ 指定難病に対する医療費助成制度は、難病法の第5条で、その対象や助成額などが規定されています。 医療費助成の対象 指定難病は、個々の疾病ごとに診断基準と重症度分類が設定されています。その基準に基づき、指定難病と診断され、以下に該当する場合、難病法による医療助成の対象になります。 重症度分類で病状が一定程度以上 軽症高額該当(重症度分類を満たさない軽症者でも、月ごとの医療費総額が33,330円を超える月が3ヵ月以上ある場合2)) 医療費助成を受けるには申請が必要 指定難病の医療費助成を受けるには、医療受給者証が必要です。医療受給者証は、都道府県や指定都市の窓口(住所地を管轄する保健福祉事務所や保健所など)に申請を行い、審査の結果、認定されると交付されます。 交付された医療受給者証を、指定医療機関(病院、診療所、薬局、訪問看護ステーションなど)に持参し提示することで、医療費の助成を受けられます。なお、認定審査には時間がかかるため、申請日から医療受給者証が交付されるまでの間に指定医療機関でかかった医療費は、払戻し請求ができます。 医療費助成の開始時期と有効期間 医療費助成の開始時期は、前倒しすることも可能です。さかのぼりの期間は、原則として申請日から1ヵ月です。また、医療費助成の支給認定には有効期間があり、原則1年。治療の継続が必要な場合には更新の申請が必要です。 医療費助成における自己負担上限額 指定難病の医療費助成には、自己負担の上限額が設定されています。医療費が高額になった場合でも、この上限額を超えて支払うことはありません。自己負担上限額は、表1に示したとおり、患者さんの所得や治療の状況に応じて設定されています。 例えば、医療サービスを多く受けて医療費が高額になり、自己負担額が50,000円になった場合でも、「低所得Ⅰ」の患者さんは2,500円、「上位所得」の患者さんは30,000円が支払いの上限額となります。 自己負担割合は3割負担から2割負担に 医療保険や介護保険の負担割合が3割の場合、助成を受けている医療費は2割に軽減されます。ただし、年齢・年収等の条件によりすでに医療保険の負担割合が2割や1割に軽減されている場合は、それ以上負担割合が減ることはありません。介護保険も同様です。 表1 医療費助成における自己負担上限額(月額) (単位:円) ※「高額かつ長期」とは、月ごとの医療費総額が5万円を超える月が年間6回以上ある者(例えば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円を超える月が年間6回以上)。 文献2)より引用 自己負担上限額管理票の記載方法 指定難病患者さんは、公費負担者番号が54番から始まる医療受給者証を持っており、この医療受給者証を持つ患者さんの自己負担額は、毎月「自己負担上限額管理票」で管理する必要があります。レセプト処理後、指定難病の医療費助成を受けている患者さんについては、自己負担上限額管理票をもとに自己負担分を請求します。 この自己負担額に入院・入院外(外来)の区別はありません。複数の指定医療機関で負担した自己負担額をすべて合算し、患者さんが自己負担額の上限を超えて支払うことがないように毎月管理しているのです。 患者さんは受診した指定医療機関で、管理票に医療費総額や自己負担額、自己負担の累積額(月額)などを記入してもらいます。指定医療機関では累積額を確認し、自己負担上限額に達していなければ本人に請求し、達した場合は上限額を超える分をすべて公費請求するという流れです。 自己負担上限額管理票の各記載項目と記載方法については図1で説明します。 図1 自己負担上限額管理表の記載項目(例) ※自己負担上限管理票は都道府県ごとに様式が異なります。ここでは、東京都保健医療局が作成した資料に掲載されている管理票の様式を例に解説します。東京都保健医療:特定医療費に係る自己負担上限額管理票等の記載方法について(指定医療機関用).https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/r3kisai 1患者さんの自己負担上限月額が記載されています。この例では10,000円が上限額です。2自己負担額を徴収した日付を記載します。3自己負担額を徴収した指定医療機関名を記載します。4医療費・介護サービス費の総額を記載します。54の自己負担額を記載します。2割負担の患者さんであれば、総額の2割の金額を記載します。6自己負担の累積額を記載します。その月支払った合計額です。7自己負担の累計額は、A病院の自己負担額2,000円とB薬局の4,000円を合計した6,000円になります。8D訪問看護ステーションが医療費50,000円を請求しました。本来、50,000円×2割負担で、自己負担額は10,000円ですが、患者さんはすでにC診療所までで合計7,600円を負担しています。そのため、この日は上限額との差額分2,400円のみを患者さんに請求します。上限額を超える分は、すべて公費請求します。9上限月額(10,000円)に達したため、同月内のそれ以降の医療費は患者さんに請求せず、斜線を引きます。10上限月額(10,000円)に達したときの指定医療機関が記載します。 訪問看護師としてサポートできること 指定難病の医療費助成制度は、患者さんやご家族の経済的な負担を軽減する大切なしくみですが、自己負担上限額管理票の管理が必要となり、手間がかかることが課題です。今後、マイナンバーカードをはじめとしたICTを活用することで、管理の簡素化が期待されます。それまでは訪問看護師として、しっかりと制度を理解し、患者さんとご家族が適切に管理できるようサポートすることが大切です。 執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授 武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある 編集:株式会社照林社 【引用文献】1) 厚生労働省:指定難病.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000084783.html2025/2/21閲覧2) 難病情報センター:指定難病患者への医療費助成制度のご案内.https://www.nanbyou.or.jp/entry/54602025/2/21閲覧

訪問看護師が知っておきたい医療費助成制度 基礎知識&概要
訪問看護師が知っておきたい医療費助成制度 基礎知識&概要
特集
2025年3月4日
2025年3月4日

訪問看護師が知っておきたい医療費助成制度 基礎知識&概要

医療費助成制度は、患者さんの自宅療養を支える上で欠かせないサポートですが、複雑で分かりにくい側面があります。そのため、訪問看護師として助成制度についてしっかりと理解しておくことが重要です。今回は、訪問看護にかかわる代表的な助成制度を取り上げ、その概要を分かりやすく解説します。 ※本記事は、2025年1月時点の情報をもとに構成しています。 医療費助成制度の基礎知識 患者さんから質問されて、特に答えにくいのが医療費に関することではないでしょうか。健康保険証を持っている場合、医療費の自己負担割合は、原則として高齢者は1割、未就学児は2割、それ以外の人は3割と決められており、年齢によって割合が異なります。また、高齢者の医療費は1ヵ月の上限が18,000円だったり、自治体によっては小児の医療費がかからなかったりと、条件によってまちまちで複雑です。 改めて、医療費助成制度に関する考え方を図1で簡単に示します。 図1 医療費と自己負担分、助成制度 (1)は、治療を受けたときの医療費の総額を示しています。(2)は、医療費の保険者負担分と自己負担分を表しています。(3)は自己負担分に対して医療費が助成される場合を示しています。(4)は、自治体からさらに助成を受けられる場合のイメージです。 訪問看護においては、患者さんの金銭的な負担を減らすさまざまな制度があります。病院では相談室の社会福祉士や事務が対応しますが、訪問看護ステーションでは訪問看護を担当する看護師が直接質問を受けることも多いでしょう。 ここからは、訪問看護を行う上で知っておいたほうがよい医療費に関する代表的な助成制度の概要を説明したいと思います。 指定難病に関する助成制度 指定難病患者さんへの医療費助成は、患者さんの自己負担が所得に応じて1,000円から30,000円まで変化します。病院や診療所、薬局、訪問看護ステーションなどの自己負担額は、患者さんごとに決められた上限額までです。 なお、患者さんによって月初に「自己負担上限額管理票」の記入が必要となる場合があります。その際は、毎月月末に患者さんの自己負担額が確定してから記入します。 高額療養費制度 医療機関を受診し、自己負担額が高額になったときに、患者さんの負担を少なくしてくれるのが高額療養費制度です。医療機関や薬局に支払った額が、上限額を超えた場合に、その超えた金額が支給されます。一時的な自己負担はありますが、申請すれば、後から払い戻されます。 支払いを上限額までに抑えたい場合は、「限度額適用認定証」またはマイナンバーカードによる健康保険証(マイナ保険証)※1を利用します。限度額適用認定証は、訪問看護がスタートした患者さんから、健康保険証と別に確認してほしいと言われることがあります。 ※1 マイナンバーカードによる健康保険証(マイナ保険証)は、限度額適用認定証を兼ねています。 高額療養費制度は患者さんが恩恵を受けることが多く、大抵の場合、70歳以上であれば18,000円、70歳未満であれば85,000円以内に収まります※2。また、「世帯合算」や「多数回該当」のしくみにより、さらに負担額を減らすことも可能です。 ※2 上限額は、年齢や所得によって異なります。適用区分と上限額に関する詳細は厚生労働省のサイトをご参照ください。▼厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html さらに、介護サービスを利用していれば「高額介護合算療養費制度」が活用できます。この制度は、医療保険と介護保険における1年間の自己負担の合算額が高額な場合に、自己負担を軽減する制度です。 自立支援医療制度(精神通院医療、更生医療、育成医療) 自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するための医療を提供するにあたり、患者さんの医療費の自己負担を軽減する制度です。 小児に関する支援医療制度が更生医療と育成医療、精神科系の疾患に関する支援医療制度が精神通院医療として区分されています。 更生医療は、身体障害者福祉法第4条に規定された身体障害者が対象となります。また、育成医療は、児童福祉法第4条第2項に規定される障害児(幼児:満1歳から、小学校就学の始期に達するまでの者)が対象となります。精神通院医療は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条に規定された統合失調症、精神作用物質による急性中毒またはその依存症、知的障害、その他の精神疾患を有する者が対象となります。 自己負担額は0円から20,000円までですが、一定所得以上に該当する場合や「重度かつ継続」(継続的に相当額の医療費負担が発生する方1))に該当しない場合は対象外となります。 その他の医療支援制度 生活保護の医療扶助と介護扶助 その他の医療費に関する支援制度として生活保護における医療扶助と介護扶助があります。医療・介護サービスは公費で負担されるため自己負担はありません。 特定疾病療養費 特定疾病療養費は、慢性腎不全や血友病、HIV感染者の高度な治療を長期間にわたって継続しなければならない療養について、自己負担限度額を減額する高額療養費の特例の制度です。 基本的には、毎月10,000円の負担となりますが、透析については70歳未満の標準報酬月額53万円以上の方は自己負担限度額が20,000円になります。 * * * 医療費には、各地方が独自に実施する助成制度もあります。都道府県や市区町村ごとに異なる助成が行われています。 代表的なものとして子どもの医療費にかかる助成が挙げられます。「中学卒業まで」や「高校卒業まで」と住んでいる自治体によって対象となる年齢の違いがあります。さらに、乳幼児医療やひとり親家庭医療、重度心身障害者医療に対する支援も行われています。支援内容は、地域による差が大きく、その違いは各自治体を比較してみると分かると思います。 医療費助成制度を正しく理解しよう 訪問看護ステーションでの毎月のレセプト作成や、患者さん・利用者さんから自己負担額を受け取るにあたって疑問に思うことも多くあると思います。それは医療保険制度や医療費助成制度が複雑で理解しづらいためです。 今回は訪問看護に関連する助成制度の概要を解説しました。今後は、各助成制度の具体的な利用方法や申請のポイントをさらに詳しく紹介していきます。患者さんや家族が適切な支援を受けられるよう、必要な知識をしっかりと身につけましょう。知識を深めることで、あなたの仕事にもきっと役立つはずです。 【今後のラインアップ】第2回 指定難病に関する助成制度について第3回 高額療養費制度について第4回 小児に関する医療支援制度について第5回 精神科領域に関する医療支援制度について第6回 その他の医療支援制度について(生活保護、特定疾病療養など) 執筆:木村 憲洋高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科 教授 武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部機械工学科卒業、国立医療・病院管理研究所研究科(現・国立保健医療科学院)修了。民間病院を経て、現職。著書に『<イラスト図解>病院のしくみ』(日本実業出版社)などがある 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)厚生労働省:障害者福祉.https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jiritsushienhou04/ 2025/1/31閲覧

医療と介護の2025年問題とは?「看護師が余る」噂についても解説
医療と介護の2025年問題とは?「看護師が余る」噂についても解説
特集
2025年1月7日
2025年1月7日

医療と介護の2025年問題とは?「看護師が余る」噂についても解説

「2025年問題」は、2025年に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に達することで、医療と介護の需要が急増し、現場が逼迫するほか、社会保障制度の持続性にも影響を与えるとされる社会問題です。本記事では、2025年問題の課題と対応方法に加え、「看護師が余る」という噂の真相にも触れていきます。 医療と介護の2025年問題とは 2025年問題は、団塊の世代(1947年~1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者になることで、医療および介護の需要が急増し、社会保障制度や医療・介護体制に深刻な影響を及ぼすとされる社会問題です。日本全体で少子化が進む一方で、団塊の世代が一斉に高齢期に突入するため、「現役世代の負担増加」「医療・介護人材の不足」が一気に加速します。 医療の2025年問題の原因 内閣府が公表した「令和4年版高齢社会白書」によると、2025年には75歳以上の後期高齢者人口が2180万人、65~74歳の前期高齢者人口が1497万人に達する見込みです。国民の約3人に1人が65歳以上、約5人に1人が75歳以上となり、高齢化が極めて深刻な段階に進むことが示されています。 一方で、少子化の傾向も顕著です。総務省の「我が国のこどもの数」によると、2023年4月1日時点で日本の総人口に占める15歳未満の子どもの割合は11.5%となり、49年連続で低下しました。労働人口の減少が進む一方で、高齢者を支える現役世代の負担はますます増えると予測されます。 医療と介護の2025年問題で起こり得る問題 2025年以降、医療と介護でどのような問題が起こり得るのか、より具体的に見ていきましょう。 医療・介護利用者の増加と人手不足 高齢化の進行によって、医療機関の受診者数の増加や入院期間の長期、介護施設や在宅医療サービスの利用者増加が見込まれます。医療・介護従事者の安定した確保が難しくなります。 国が地域包括ケアシステムを推進していることから、在宅療養を支援する訪問看護の需要が高まっていますが、訪問看護師の不足により、在宅医療の供給体制が追いつかない事態が予測されています。介護士も不足しており、介護現場の負担がさらに増加する見込みです。家族への負担も大きくなり、介護離職がさらに増加するでしょう。 社会保障制度の負担増加 高齢者が増えて医療費と介護費が増加する一方で、現役世代が少ないために、社会保障制度の持続可能性が課題です。年金、医療、介護などの社会保障給付費は、現役世代の保険料だけでは足りず、税収入、国債などでまかなわれていますが、社会保険料も上がり続けており、手取り収入が減ることで生活への影響も増していきます。 地方と都市部の医療格差が広がる 日本の医療体制では、都市部に医師や医療資源が集中する一方、地方では医師不足が深刻な問題となっています。この傾向は、2025年問題の進行に伴い、さらに拡大する可能性があります。 2025年問題で看護師が余る? 「2025年問題で看護師が余る」という話を聞いたことがある人もいるかもしれませんが、これは高度急性期病棟を中心に発生すると考えられている問題です。 「平成26年度診療報酬改定の概要」では、高度急性期病棟の病床数を約35万7,500床から18万床へ縮小する方針が決定されました。それに伴い、徐々に高度急性期病棟における看護師の需要が低下していくものと見られています。 しかし、看護師全体では当然不足傾向にあります。厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会 中間とりまとめ案(概要)」によると、2025年の看護師の需要推計が188万~202万人であるのに対し、供給推計は175万~182万人と、6万~27万人が不足するとされています。また、厚生労働省の「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によれば、訪問看護ステーションの求人倍率(※)(2021年度)は3.22倍。訪問看護師の人材確保が困難な状況であることがわかります。 ※「有効求人数÷有効求職者数」で計算され、1.0倍以上になると求職者数よりも求人数が多いことを示す。 医療と介護の2025年問題への対応方法 医療と介護の2025年問題に対応するために、医療従事者の増加につながる施策だけではなく、医療の効率化が現場で進められています。対応方法について見ていきましょう。 ICT活用による医療の効率化 電子カルテやAI診断などのICT導入により、医療業務の効率化を図る方法があります。なかでもAI診断は、病気の発見を補助し、医師の負担を軽減することが期待されています。 また、オンライン診療の普及により、通院が難しい患者が自宅にいながら医師の診察を受けられるケースが増えれば、医療の地域格差を縮小できる可能性があります。 在宅医療の推進 訪問看護は、病気や障害を持つ人が住み慣れた地域やご自宅でその人らしい療養生活を送れるよう支援するサービスです。団塊の世代が後期高齢者となる中、医療費削減という観点からも、地域で患者を支える在宅医療の拡充が急務です。 これを実現するためには、訪問看護師の育成と支援、働きやすい環境の整備が必要です。昨今、大規模化によって個々人の負担軽減や多様なニーズへの対応につなげている事業所や、新卒訪問看護師の育成に取り組み、専門スキルを段階的に磨ける環境を用意する事業所も増えています。 タスク・シフト、タスク・シェア タスク・シフトとは、これまで医師や看護師が担っていた業務の一部を、介護職をはじめ他の職種に移譲することです。一方、タスク・シェアは、複数の職種が業務を分担しながら協力して行う体制を指します。 医療現場や介護施設における人材不足を補い、各職種の負担を軽減するため、医療職と介護職のタスク・シフト/シェアが検討されているため、訪問看護においても導入が進んでいくでしょう。 * * * 2025年問題を乗り越えるためには、訪問看護師の存在がこれまで以上に重要になります。在宅医療の最前線で患者を支える方々が、それぞれの専門性を活かしながら地域に根ざしたケアを提供することが、医療と介護の未来を支える鍵となるでしょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇内閣府「高齢化の状況」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf2024/12/23閲覧〇総務省「我が国のこどもの数」(2023年5月4日)https://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/pdf/topics137.pdf2024/12/23閲覧〇日本医師会「診療報酬改定をプラス改定とする方策とは」(2024年2月5日)https://www.med.or.jp/nichiionline/article/011548.html2024/12/23閲覧〇日本看護協会「訪問看護アクションプラン 2025」https://www.jvnf.or.jp/wp-content/uploads/2019/09/actionplan2025.pdf2024/12/23閲覧

2024年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価
2024年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価
特集 会員限定
2024年9月17日
2024年9月17日

2024年度診療報酬改定 働き方改革と機能評価【セミナーレポート前編】

2024年6月14日、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「2024年度診療報酬改定 訪問看護の注意点&今後の展望」が実施されました。講師として登壇してくださったのは、訪問診療医で、医療・介護分野のコンサルティング支援も行っている久富護先生です。 今回はそのセミナーの内容を、前後編に分けて記事化。前編では、働き方改革や訪問看護ステーションの機能に応じた評価に関する変更点をまとめます。 ※約60分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>関連記事2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)解説シリーズ 【講師】久富 護 先生医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック 訪問診療医/株式会社メディヴァ コンサルティング事業部 マネージャー/医療法人寛正会 水海道さくら病院 地域包括ケア部長/社会医学系専門医/医療政策学修士/中小企業診断士大学病院、民間病院に内科医として勤務する中で、医療・介護業界が抱えるさまざまな課題に直面。現在は訪問診療医として臨床現場に立ちつつ、業界の課題解決を目指し、行政や医療機関に対するコンサルティング支援も行っている。 24時間対応体制加算がアップ 「24時間対応体制加算」が見直され、看護業務の負担軽減への取り組みを評価する区分が設けられ、月1回に限り以下のとおり金額がアップしました。 (1)「24時間対応体制における看護業務の負担軽減の取り組み」の要件を満たす場合6,800円(400円アップ)(2)それ以外6,520円(120円アップ) (1)の「24時間対応体制における看護業務の負担軽減策」には以下ア〜カの6つがあり、アかイのどちらかを含む2つを実施すると要件を満たせます。 (ア)夜間対応した翌日の勤務間隔の確保(イ)夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)まで(ウ)夜間対応後の暦日の休日確保(エ)夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫(オ)ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減(カ)電話等による連絡および相談を担当する者に対する支援体制の確保 (ア)の勤務間隔については、具体的な数字は示されていません。通勤時間や勤務形態・勤務実態を考慮し、職員の休息が確保できるよう、厚生労働省の「労働時間等見直しガイドライン」を参照し、各事業所の実態に即して、定めてください。 なお、上記の要件は、介護報酬の「緊急時訪問看護加算(Ⅰ)」と同じ内容です。介護報酬の考え方が診療報酬にも適用されました。 「24時間対応に係る連絡体制」の見直し 24時間対応体制に係る連絡相談について、一定の条件を満たせば業務負担軽減の観点から保健師・看護師(以下「看護師等」)以外の方が対応してもよいことになりました。 ※詳細な条件は以下をご参照ください。厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」(P.28) 「看護師等以外の職員が利用者や家族からの連絡相談に対応するためのマニュアルが整備されていること」という条件がありますが、マニュアルに記載する内容は以下のとおりです。 地方厚生(支)局長に届出を提出する際には、このマニュアルを添付する必要があります。また、添付は不要ですが、勤務体制、状況をまとめた「連絡体制に関する書類」を用意し、各事務所で保管しなければなりません。 なお、24時間対応体制加算は1人の利用者さんに対し、1つの訪問看護ステーションだけが算定可能(介護報酬上の緊急時訪問看護加算との併算定も不可)なのでご注意ください。 管理者の責務が明確化 訪問看護ステーション管理者が担う責任も明確化されています。複数の事業所の管理について、従来は同一敷地内のみだったものが、距離が離れている場合でも許可されました。 ただし、以下のケースは「管理業務に支障がある」と判断され、認められません。 管理すべき事業所数が過剰な場合(数の規定はなし)管理者が併設の入居施設における看護業務と兼務する場合(併設入居施設の所属の場合)距離が遠すぎて緊急の駆けつけが困難な場合(距離の規定はなし) 事業所の機能に応じた管理療養費の見直し 月の初日の訪問の場合 訪問看護管理療養費が、機能強化型訪問看護ステーション以外を含めて見直されました。月の初日の訪問は、230~400円アップします。ただし、BCP(事業継続計画)の策定が条件となっています。 また、機能強化型訪問看護療養費1の施設基準も着目したいポイントです。算定には、以下にある専門の研修を受けた看護師の配置が要件となります。経過措置は約2年間で、2026年6月1日以降は、本要件を満たさないと算定できません(届出に研修修了を証明する文書の添付が必要)。 専門の研修日本看護協会の認定看護師教育課程日本看護協会が認める看護大学、看護系大学院の課程精神科看護協会の課程特定行為研修 月の2日目以降の訪問の場合 月の2回目以降の訪問における報酬は、横ばい、もしくは減少となりました。 訪問看護管理療養費1と2の報酬額500円の差は、利用者さんの数や医療依存度によって決まります。以下の要件を満たさないケースは、すべて2,500円です。 要件1(必須要件)直近1年の全利用者(介護保険のみの利用者を除く)のうち、同一建物居住者数(訪問看護基本療養費2と精神科訪問看護基本療養費3の算定数で計算)が7割未満。要件2(いずれかを満たせばOK)「月当たりの特掲診療料の施設基準等別表7、8※1に該当する利用者数(直近1年間平均)が4名以上」もしくは「月当たりのGAF 尺度※240以下の利用者数(直近1年間平均)が5名以上」。 なお、訪問看護管理療養費1を届け出るときは、「別表7、8」「GAF尺度40以下」に該当する利用者さんの数を各事業者で記録、保管する必要があります。 ※1 「特掲診療料の施設基準等「別表の7、8」は以下をご参照ください厚生労働省.「○特掲診療料の施設基準等」(平成二十年三月五日)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0※2 GAF尺度については以下をご参照ください厚生労働省.「別紙1 GAF(機能の全体的評定)尺度 」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/dl/s1111-2a.pdf 次回はDX推進に応じた変更点や、診療報酬改定における今後の展望などについて解説いただきます。>>後編はこちら2024 年度診療報酬改定 DX 推進と今後の展望【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf2024/8/29閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/8/29閲覧

訪問看護師は政策・制度検討の場に参画
訪問看護師は政策・制度検討の場に参画
インタビュー
2024年6月18日
2024年6月18日

訪問看護師は政策・制度検討の場に参画を~訪問看護のパイオニアとして~

兵庫県の西宮市訪問看護センター(社会福祉法人西宮市社会福祉事業団)は、西宮エリア内で最も長く地域を支え、幅広い取り組みを実施してきた訪問看護ステーション。当事業所で長年管理者を務めた山﨑 和代さんに、ステーション運営のノウハウやご経験談、お考えを伺いました。その内容を3回に渡りご紹介します。 今回は、山﨑さんが訪問看護師になるまでの経緯と、訪問看護をスムーズに実践するための地域づくりについてのお話です。 山﨑 和代(やまさき かずよ)さん保健師・看護師・養護教諭1級、経営学修士、日本看護協会認定看護管理者。大阪医科大学付属病院を経て、1995年に西宮市社会福祉事業団に入団。2001年~2024年3月まで西宮市訪問看護センターで管理者を務め、2024年4月に「株式会社医療・介護を受ける人と担う人のナーシングカンパニー」を起業。兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会 副会長、兵庫県 訪問看護師・訪問介護員離職防止対策検討会議委員、兵庫県 訪問看護推進会議委員。 制度ができる前から訪問看護の道を志す ─山﨑さんが訪問看護師になるまでの経緯をお教えください。 母が看護師だったことに影響を受けて、看護の道を志しました。大学病院付属の学校に進学し、卒業後すぐに保健師学校に入学。そこで保健師免許を取ったあと、臨床経験を積みたいと思って大学病院へ入職しました。配属先は一般消化器外科の外来で、かなり多忙でした。 当時、印象的な出来事があったんです。肝がんが進行してADLが低下し、ストレッチャーで運ばれてきた重症患者さんがいらしたのですが、受け入れができない状況だったため、関連の病院に入院できるのは後日ということになってしまったんです。「この状態で自宅に帰すのか」と、大きな衝撃を受けました。 昔のことなので詳細は覚えていないのですが、どうしてもそのままにできなかった私は、外来看護師としてルール違反だと知りつつ、保健所に連絡したんです。当時は訪問看護制度がなかったのですが、保健師学校で市町村実習に行った際、保健師が地域で活動していることを知っていました。私ができることといったら、保健師に繋ぐことくらいだと思ったんです。その後、保健師さんから訪問できた旨をご連絡いただき、安心したのを覚えています。 それ以降、「患者さんの自宅で看護をする仕事がしたい」と考えるようになりました。保健師として保健指導をするのではなく、「看護」をしたいと。そのことを保健師学校の先生に相談したのですが、ちょうど訪問看護制度自体ができたばかりのタイミングで、近隣に求人はありませんでした。 一旦西宮の保健所で働きながら、「私、訪問看護をしたいんです!」とさまざまなところで話していたら、たまたま西宮市訪問看護センターが人員を募集していると知り、採用試験を受けました。当時はインターネットがないので、近場の求人もなかなか知ることができないんですよね。奇跡的に見つけられてよかったです(笑)。 政策・制度の検討に訪問看護師も参画を ―山﨑さんは30年間の訪問看護師歴のうち、23年管理者として務められましたが、管理者としてこれまで大切にしてきたことを教えてください。 管理者として大切にしてきたことはたくさんありますが、主に以下の5つです。 西宮市は人口48万人の中核都市で、西宮市訪問看護センターは市の委託を受けて社会福祉事業団がモデル事業として開設した事業所です。1992年の訪問看護制度創設と同時に、全国で最初に老人訪問看護ステーションの指定を受けた事業所のひとつでもあります。 当センターの理念は、当初から変わらず「住み慣れた場所で最期まで過ごせる地域づくり」です。初代管理者は「訪問看護のパイオニアとして良質な訪問看護のスタンダードを目指す」と宣言し、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を柱として、私が管理者を引き継いでからも、教育・地域連携・訪問看護の質向上などに注力しながら、新しい取り組みを積極的に行ってきました。 ─西宮訪問看護センターは大変規模が大きいと思いますが、職員数や運営体制について教えてください。 はい。2022年度の実績は、常勤換算50.7名、年間総利用者実数1,071人、総訪問回数36,455回、在宅死者数65名、指示受け主治医数約220名。24時間緊急対応は、利用者さんのうち約7割に契約いただいています。毎朝サテライトの拠点を含む全チームでミーティングやケースカンファレンスを実施していて、チーム間や多職種との連携にはクラウドツールを使っています。 ─「地域づくり」に関して、具体的なお取り組み内容を教えてください。 地域包括ケアシステムを構築すべく、多職種連携、市内の訪問看護ステーション間のネットワーク強化などを行いました。こうしたさまざまな取り組みは看護が地域でスムーズに実践されることにも繋がりました。「訪問看護ステーションネットワーク西宮」の会長をやらせていただいたのも、この取り組みの一環です。 さらに、訪問看護師が市の医療介護政策決定における会議に参加できるようにも働きかけました。災害に関しては、阪神・淡路大震災の災害時看護経験を生かして災害対策体制が構築できるよう、行政危機管理局と協働しさまざまなしくみを整えました。 また、医療的ケア児のインクルーシブ教育(障害の有無、言語・国籍の違い等で区別を受けることなく同じ場所で学ぶ教育)については、教育委員会から相談を受けたことが始まりで、小学校に訪問看護師を派遣できる支援体制を構築しました。のちに訪問看護ステーションネットワーク西宮が相談窓口の役割を担うようにして、最初は2名だった対象者もいまでは2ケタに増えています。 看看連携推進のために、ある急性期病院では退院調整会議に当ステーションの訪問看護師が在宅側の立場で参加する機会を確保しました。看護看護連携の重要性を看護部長と共有し、交渉して実現したものです。病院とのネットワークを生かして、県内で初めて新卒訪問看護師採用後の実習・研修も受け入れていただき、新卒スタッフ間の交流が継続しています。 こうした多種多様な取り組みが行えたのは、大規模な事業所ならではの利点とチーム全体の努力があったからだと思います。私も微力ながらその一端を担うことができました。 ─政策決定の場に訪問看護師が入ることについて、ご苦労はありませんでしたか? はい。当初は、「医師会の先生や看護協会の方が入っていますよ」と言われ、断られてしまうこともありました。行政の方から見れば同じ医療従事者なので、そのお気持ちも理解できますが、訪問看護師だからこそ見える部分があり、課題として捉えられることがあることを理解してもらえるよう、資料を持参し説明を重ねました。 時間はかかりましたが、医師会の先生のご協力があって実現しました。今では、高齢者福祉計画、医療計画の策定などにもどんどん入れるようになっています。会議の場に出て、訪問看護師の意見をしっかりと発言すること、政策決定のテーブルにつくことはとても重要ですし、苦労して得た経緯を知っているぶん、次世代の方々に今後もぜひ引き継いでいって欲しいです。 緊急訪問が必要になる状況を減らすために ─西宮市訪問看護センターで今掲げている目標について教えてください。 訪問看護に期待される、在宅看取り、重症・小児・24時間対応、地域貢献などの要件を満たすステーションに認められる、医療保険の「機能強化型Ⅰ」を取得しています。重症度の高い利用者さんを多く受け入れることが要件になっているため、医療法人を併設していない西宮市訪問看護センターが機能強化Ⅰを継続するのは容易ではないのかもしれません。でも、せっかく取得したので継続していきたいですね。 また、西宮市訪問看護センターでは、設立当初から「起こり得ることを予測して事前に対策する」ことを大切にしてきました。これは、リスクマネジメントや看護の質向上に直接繋がる、考え方の柱です。なので、「緊急を起こさない」を合言葉に、いかに緊急訪問対応を減らすか、ということにも取り組んでいます。 ─緊急訪問対応を減らす難易度は大変高いのではないかと思いますが、お取り組みの内容や背景にある思いを教えてください。 はい。緊急訪問に対応できることは非常に重要です。一方で、緊急訪問が発生しにくい状況をつくることも同時に重要だと考えています。利用者さんやご家族にとって、緊急対応が必要な状況が発生することや、夜中に他人が自宅を訪れることは大きな負担になるはず。安心して暮らしていただくために、緊急訪問が必要になる状況を減らしたいのです。 そのために、できるだけ利用者さんやそのご家族に知識や技術をお伝えしています。また、初回訪問時のアセスメントが非常に重要です。西宮市訪問看護センターでは、安心して在宅療養をするために必要な4種類のアセスメントシートを作成しています。これを使ってチームで支援の方向性を検討し、主治医やケアマネとも情報を共有しているほか、目標や訪問看護終結の目安を設定し、利用者さんとも合意形成をしているんです。訪問看護の終結はタスクシフトの一環であるとも考えています。 あくまで主体は利用者さんとご家族 ─入念にアセスメントをしてあらゆるリスクを想定するだけではなく、利用者さんや他の職種の方々ともしっかり連携されているんですね。 そうです。ご本人の希望と、療養生活の見通しをすり合わせた目標が、自立支援やセルフケアに繋がる。これが、我々がもっとも目指すべきところですね。あくまで「ご本人とご家族が主体」という考え方に基づいて支援しています。 看取りも同様ですが、医療者が意見を押し付けないように気を付けながら状態を見立て、それに基づいてご家族が「しっかり看取った」と思えるケアをしていくことが大切です。そのためにアセスメントシートを使ってアセスメントし、ケアマネや医師などと連携しています。 アセスメントシートが浸透するまでには約3年かかりましたが、現在はスタッフのみんながその必要性を理解してくれています。状況を可視化することでチームでの意識統一もでき、アプローチもしやすくなりました。 ─それでも避けられない緊急訪問が発生することもあるかと思うのですが、どのように対応されているのでしょうか。 どのようなケースであっても、最初から「仕方なかった」とは考えず、「緊急はなぜ起こったんだろう?」「日頃の訪問で抜けていた視点は?」などと振り返って、「どうすれば起こらなかったか」を話し合うカンファレンスを行っています。スタッフも「はなから諦めたらあかん」と言っており、支援内容をブラッシュアップしています。頼もしいですよね。 現在、契約数に対して連絡数は最大25%、緊急訪問数は最大20%、主治医連絡数は最大3%です。頑張りが現れている数字だと思っています。 ―ありがとうございました。次回は、ICT化や災害対応などについて伺います。 >>次回の記事はこちら阪神・淡路大震災とコロナ禍を経て~ICT化とトリアージ~ ※本記事は、2024年3月時点の情報をもとに記載しています。 執筆:倉持 鎮子取材・編集:NsPace編集部

2024年度障害福祉報酬改定 ポイント解説/相談支援における連携への対応など
2024年度障害福祉報酬改定 ポイント解説/相談支援における連携への対応など
特集
2024年5月28日
2024年5月28日

2024年度障害福祉報酬改定 ポイント解説/相談支援における連携への対応など

医療、介護に加え、トリプル改定のもう1つの対象が障害福祉サービスです。訪問看護の場合、障害福祉での報酬は発生しませんが、診療・介護報酬による障害福祉サービス利用者への訪問看護の提供は可能です。そうしたケースでの障害福祉サービス側との連携のしくみに注目します。 障害福祉サービス利用者も訪問看護は利用可能 障害福祉サービスを利用しつつ、居宅や共同生活援助(以下、グループホーム)で生活している人は、診療報酬による訪問看護の利用が可能です。また、障害福祉サービスの利用者が65歳以上になって介護保険の利用が優先されると、介護報酬で訪問看護を利用するケースも想定されます。 その場合、利用者にかかわる障害福祉、医療、介護など多様な機関による情報連携が重要になります。今回のトリプル改定では、こうした情報連携に関するしくみが新設・見直しされました。連携機関の1つとなる訪問看護事業所としては、障害福祉サービス事業所等からの情報提供の求めに応じる際の連携環境がどのように変わっていくか注意が必要です。 相談支援事業所の多機関連携加算 注目したいのは、相談支援事業所が手がける計画相談支援および障害児相談支援の「医療・保育・教育機関等連携加算」です。相談支援事業所とは、障害福祉サービスの利用意向がある人から、さまざまな相談を受けたり、具体的なサービス計画(以下、サービス利用等計画)の立案およびサービス調整を行う機関です。 そのサービス利用等計画を作成する際に、当事者が利用する医療や保育、教育機関などの職員と面談した上で、必要な情報提供を受けた場合に算定されるのが上記の加算です。対象となる障害当事者1人につき、月1回を限度として算定されます。 相談支援事業所と訪問看護事業所の連携が明記 同加算の訪問看護に関係する見直し点は、第一に算定の留意事項(通知改正)で、相談支援事業所の連携対象に「訪問看護事業所」が明記されたことです。これにより、相談支援専門員から面談(テレビ電話等の活用含む)を通じて、訪問看護提供時の利用者の心身の状態に関する情報提供依頼が増える可能性があります。 また、訪問看護事業者からの情報提供だけでなく、訪問看護側で利用者へのサービス提供に際して必要な情報が生じた場合、担当の相談支援専門員に情報提供を求めることができます。その求めに相談支援専門員が応じた場合の加算区分が新設されました。 医療・保育・教育機関等連携加算のしくみ 「精神障害者支援体制加算」と訪問看護の関係 指定相談支援事業所の報酬で、訪問看護との連携体制が要件となるものが、「精神障害者支援体制加算」です。 これは、精神障害者支援にかかる一定の研修を修了した相談支援専門員を配置している事業所を評価するものです。一定の研修とは、地域生活支援事業による精神障害者の障害特性およびこれに応じた支援技法等に関する研修、またはそれに準じた研修で都道府県知事が認める研修課程を指します。 今改定では、この加算が2区分となり、上乗せとなる新要件を満たした場合に、高単位の区分が算定できることになりました。その新要件とは、以下の内容です。 精神障害者支援体制加算の新区分(Ⅰ)の上乗せ要件重点的な支援を要する精神疾患の患者(前1年以内に以下の機関への通院・利用をしていること)を支援する以下の機関に所属する保健師、看護師、精神保健福祉士と連携する体制が構築されていること1. 診療報酬の療養生活継続支援加算を算定する病院等2. 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則第57条第3項に規定する訪問看護ステーション等(精神科重症患者支援管理連携加算の届出があること) なお、この場合の「連携する体制」 とは、 研修を修了した相談支援専門員病院や訪問看護ステーションの保健師、看護師、または精神保健福祉士 が1年に1回以上面談または会議を行い、精神障害者に対する支援に関して検討を行っていることを指します。 つまり、訪問看護事業者としては、加算対象となる相談支援事業所からの依頼を受けて合同検討会を開催することになります。 横断的な改定ポイントが地域生活移行支援 今回の障害福祉サービスの報酬改定では、横断的なポイントとして、利用者の意向に沿った地域生活移行支援の強化が上げられます。 例えば、地域生活支援拠点等に位置づけられている障害者支援施設において、当事者の地域移行に向けた動機付け支援として、グループホーム見学や食事体験、地域活動への参加などを行った場合の評価が設けられました。これを「地域移行促進加算(動機付け支援を強化した区分はⅡ)」といいます。 また、グループホームから居宅生活への移行を望む当事者に対し、退居から一人暮らしに向けた計画作成と支援を行った場合を評価するという方針で、「自立生活支援加算」も見直されました。 障害者の地域生活移行の際、連携対象に注意 このように、本人の意向に沿って、施設から居住系サービス、さらには居宅への移行が進むと、主に医療保険で対応する訪問看護の利用ケースも増えてくることになります。 もちろん、それまでと生活環境が大きく変わることになるので、当事者が新しい暮らしになじむためには、移行前後での手厚い支援が欠かせません。例えば、グループホームでは、グループホームから居宅生活に移行した人への継続的な支援を評価する加算「退居後共同生活援助サービス費」が新設されました。これは、グループホーム側が退居後の利用者の居宅を週1回以上訪問し、本人の心身の状況や環境、そのほか日常生活全般の把握を行った場合に算定できます。 移行支援では、退居後に利用する障害福祉サービス事業者や医療機関、訪問看護事業者との連絡調整も必要となります。訪問看護事業者としても、こうした「居宅生活への移行支援」に関連して、利用者が以前生活していたグループホームの担当者との連携機会が生じることも頭に入れておきたいものです。 ※本記事は、2024年4月30日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○厚生労働省(2024).「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202214_00009.html2024/4/30閲覧

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定
2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定
特集
2024年5月21日
2024年5月21日

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定

2024年度介護報酬改定では、多くのサービスにまたがる義務化措置や加算の見直しが行われています。また、報酬の適正化という観点からの改定も行われました。今回は、そうしたテーマについて取り上げます。 BCPが未策定の場合の減算規定 まずは、2021年度に基準上の規定が設けられ、3年の経過措置をもって完全義務化された業務継続計画(以下、BCP)策定等の取り組みと高齢者虐待防止の推進です。いずれも2024年度からの完全義務化に伴い、未実施の場合の減算規定も設けられました。 1つめのBCP策定に関する完全義務化の内容を整理すると以下のようになります。 1. 感染症および自然災害の発生時を想定したBCPの策定2. 1に従い必要な措置(備蓄品の管理や担当者の使命など)を講ずること3. 従事者に対して、1にかかる研修を実施すること※4. 従事者に対して、1にかかる訓練(シミュレーション)を実施すること※ ※3および4に関しては、訪問看護の場合で年1回以上 上記のうち、1、2が未実施の場合の減算が設けられました。これを「業務継続計画未策定減算」といい、未策定の状況が解消されるまで所定単位数から1%が減算されます(施設・居住系については3%)。感染症および自然災害のBCP、いずれか1つでも未策定の場合で減算適用となるので注意しましょう。ただし、訪問看護を含む訪問系サービスについては、感染症対策の強化に関する義務化から日が浅いため減算規定の適用は2025年3月末まで猶予されます。 なお、減算になる期間は「1、2を満たさない状況が発生した翌月(状況の発生が月の初日であればその月)」からスタートし、「1、2を満たさない状況が解消された月」までです。 高齢者虐待防止措置の未実施も減算 高齢者虐待防止の推進において、2024年度から完全義務化となる項目は以下のとおりです。 1. 虐待の防止のための対策を検討する委員会(オンライン開催可能)を定期的に開催すること2. 1の結果について、従事者に周知徹底を図ること3. 虐待の防止のための指針を整備すること4. 従事者に対し、虐待の防止のための研修を年1回以上実施すること5. 1~4の措置を適切に実施するための担当者を置くこと この1~5のいずれかでも実施されていない状況が生じた場合、速やかに都道府県*1に「改善計画」を提出しなければなりません。その上で、「改善計画」に則った取り組みを行い、「実施されていない状況」が生じて*2から3ヵ月後に、改善状況をやはり都道府県に報告して「改善」が認められることが必要です。 上記の「実施されていない状況が生じた月の翌月」から「最終的に都道府県に改善が認められた月」までの間は、減算が適用されます。これを「高齢者虐待防止措置未実施減算」といい、月あたり所定単位数から1%の減算が行われます。 *1 看護小規模多機能型居宅介護の場合、市町村(指定権者)に改善計画を提出する。 *2 運営指導等で未実施が発見された場合、その発見月の翌月からとなる。 身体的拘束等の適正化が運営基準に 先の高齢者虐待防止の取り組みは、利用者の尊厳確保に関して不可欠なテーマです。同様のテーマから定められた規定がもう1つあります。それが「身体的拘束等の適正化」です。診療報酬改定でも規定されていますが、改めて取り上げましょう。 >>診療報酬改定の「身体的拘束等の適正化」についてはこちら2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化 具体的には、以下の規定が運営基準に設けられました。 1. 利用者または他の利用者等の生命・身体を保護するための「緊急やむを得ない場合」を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下、身体的拘束)を行ってはならない。2. 身体的拘束等を行う場合には、その態様および時間、その際の利用者の心身の状況ならびに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。 いずれも施設系、居住系、短期入所系、小規模多機能系ではすでに設けられている規定ですが、2024年度からは訪問系や通所系、居宅介護支援でも定められました。 1の規定にある「緊急やむを得ない場合」とは、 切迫性(利用者等の生命・身体への危険が切迫していること)非代替性(他に方法がないこと)一時性(一時的であること) の3つの要件を満たすことです。各要件の確認については、組織としての手続きを慎重に踏む必要があります。現場の一従事者の判断だけに任せてはいけません。 特別地域加算等の地域の範囲見直し 訪問系、通所系、小規模多機能系など複数のサービスにまたがる加算上の見直しとしては、特別地域加算、中山間地域等の小規模事業所加算、中山間地域に居住する者へのサービス提供加算があります。いずれも、訪問時の移動に過剰な時間が費やされがちな地域で、その人件費・燃料費等のコストを考慮した加算です。 具体的な対象地域を示します。 いずれの対象地域にも含まれている「過疎地域」。この場合の「過疎地域」とは、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」の第2条第1項に規定された地域です。一方で、同法では「みなし過疎地域」に関する公示もあり、今改定ではこの「みなし」とされていた地域も含めることになりました。 PT等による訪問にかかる厳しい減算 最後に、利用者ニーズに合わせた訪問看護の適切な提供を図るための改定を取り上げます。具体的には、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(以下、PT等)によるサービス提供への評価です。 近年、訪問看護ステーションにおけるPT等の従事者割合が増えており、PT等の訪問による単位数も増加傾向にあります。 こうした状況を受け、リハビリ系サービスとの役割分担の観点から、2021年度改定ではPT等による訪問での基本報酬が引き下げられました。それでも、例えばPT等による訪問回数が看護職員による訪問を上回っているといったケースも指摘されていました。 そこで、2024年度からは、PT等による訪問についての減算も設けられました。減算の対象はPT等による訪問で、要件は以下のとおりです。 1. 事業所における前年度(前年4月から当該年3月まで)のPT等による訪問回数が、看護職員による訪問回数を超えていること2. 1に適合しない場合であっても、前6ヵ月間において、緊急時訪問看護加算、特別管理加算、看護体制強化加算をいずれも算定していないこと【上記を満たす場合】1回につき8単位を所定単位数から減算(なお、1について、2023年度の実績に応じ、2024年度は同年6月1日から2025年3月末までの減算となる) 上記は介護予防訪問看護でも同様です。 なお、2021年度改定では、介護予防訪問看護の適正化の観点からサービス提供が12ヵ月超の場合に5単位の減算が適用されています。このケースについて、上記のPT等による過大訪問の減算が適用されている場合、減算幅は「5単位」⇒「15単位」となります。かなり厳しい減算となる点に注意が必要です。 次回は、トリプル改定のうちの障害福祉サービスの中から、訪問看護に関係のある内容を取り上げます。>>次回の記事はこちら2024年度障害福祉報酬改定 ポイント解説/相談支援における連携への対応など ※本記事は、2024年4月23日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/4/23閲覧○厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15日)」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001230308.pdf 2024/4/23閲覧

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保
2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保
特集
2024年5月14日
2024年5月14日

2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保

トリプル改定のうち、今回と次回は訪問看護の介護報酬について取り上げます。介護報酬改定も、診療報酬とおおむね同様のテーマに沿った改定が行われました。さらに、診療報酬側との整合性を取ることで、医療・介護問わず切れ目ない支援がめざされています。 まず注意したいのは、介護報酬改定の施行時期です。介護報酬改定の施行時期は原則2024年4月ですが、訪問看護については診療報酬改定の施行時期との整合性を取るために6月施行となりました。 この点を頭に入れつつ、具体的な改定項目を見ていきましょう。 24時間対応の充実に向けた加算再編 診療報酬側では、利用者ニーズへの即応性や現場の業務負担の軽減という2つのテーマをめぐり、24時間対応体制の充実が図られました。介護報酬側でも、これに対応して「緊急時訪問看護加算」の改定が行われています。 改定前の同加算の区分は1つ。その要件は「利用者やその家族から、電話等で看護に関する意見を求められた場合に、保健師や看護師(以下、看護師等)が常時対応できる体制にあること」でした。今改定では、追加要件を付した新区分Ⅰが設けられ(旧要件のみの区分はⅡ)、単位が上乗せされています。 緊急時訪問看護加算(月あたり) ※「上記以外」とは「病院・診療所の場合」および「一体型定期巡回・随時対応型訪問 介護看護事業所の場合」をいう 追加要件「現場の業務負担の軽減策」とは 新区分Ⅰに追加された要件は、「緊急時訪問における看護業務の負担軽減に資する十分な業務管理等の体制整備が行われていること」です。具体的には以下の6項目で、そのうち2項目以上を満たす必要があります。 緊急時訪問看護加算(Ⅰ)の看護業務の負担軽減に資する取り組み1. 夜間対応した翌日の勤務間隔の確保2. 夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)まで3. 夜間対応後の暦日(午前0時から24時まで)の休日確保4. 夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫5. ICT・AI・IoT等の活用による業務負担軽減6. 電話等による連絡・相談を担当する者に対する支援体制の確保 なお、上記の6の連絡・相談を担当する者は、以下の条件を満たしている場合には、看護師等以外の職員が担当しても構わないとされました。 ア 看護師等以外の職員が、利用者・家族等からの電話等による連絡・相談に対応する際のマニュアルが整備されていることイ 緊急の訪問看護の必要性の判断を、看護師等が速やかに行える連絡体制および緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていることウ 事業所の管理者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員の勤務体制や勤務状況を明らかにすることエ 看護師等以外の職員は、電話等により連絡・相談を受けた際に、看護師等へ報告すること。報告を受けた看護師等は、当該報告内容等を訪問看護記録書に記録することオ アからエまでについて、利用者・家族等に説明し、同意を得ることカ 事業者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員について届け出ること 新区分Ⅰにかかる追加要件と連絡・相談担当者の範囲拡大は、診療報酬側の「24時間対応体制加算」をめぐる要件や届出基準と同じであることが分かります。 専門性の高い看護師による管理を評価 利用者ニーズの即応性に関しては、在宅での重度療養ニーズへの対応強化が図られました。 まずは新加算「専門管理加算(月250単位)」です。これは専門性の高い看護師による利用者への計画的な管理を評価した加算です。要件は、(1)一定の専門研修を受けた看護師が、(2)厚生労働省(以下、厚労省)の定める利用者に計画的な管理を行った場合に算定されます。この(1)と(2)には2ケースあり、具体的な内容は以下のとおりです。 なお、診療報酬では「機能強化型訪問看護管理療養費1」の施設基準として「専門の研修を受けた看護師の配置」が求められました。ここでも、診療報酬との関連が見られます。 退院時にかかわる評価の見直し 退院時の共同指導における要件見直し 重度療養ニーズを有する利用者へのサービスでは、入院医療機関から退院するタイミング以降のかかわりも大きなポイントです。そのタイミングにかかる2つの評価が見直されました。 1つめは、「退院時共同指導加算(1回600単位)」の見直しです。これは、医療機関からの退院や介護老人保健施設からの退所にあたり、(医療機関の医師やそのほかの従事者と合同での)利用者・家族への共同指導、およびその直後の初回訪問看護について評価する加算です。 この要件について、共同指導の内容を「文書」で提供するという規定がなくなりました。利用者の退院後には本人・家族にさまざまな不安や戸惑いが生じがちです。そうした状況への対応に集中するための効率化が図られました。 退院後の「初回加算」はどうなった? 2つめは、先の「退院時共同指導加算」を算定していない場合に退院後の初回訪問を評価した「初回加算」です。同加算について、「退院・退所の当日の訪問」と「当日以降の訪問」によって2区分に再編されました(併算定はできません)。 初回加算 これも、退院当日から本人や家族は大きな不安・戸惑いに直面しがちであるという点から、当日訪問を手厚く評価したことになります。 在宅療養に不可欠な「口腔衛生管理」 自宅療養を行う利用者に対して、自立支援・重度化防止の取り組みも強化されています。2024年度の介護報酬改定で、重点が置かれている取り組みの1つが「口腔衛生」の管理です。 この取り組みへの推進に向け、訪問看護をはじめとした訪問系サービスのほか、短期入所系サービスにおいて、利用者の口腔衛生の状況確認を評価する加算が設けられました。それが「口腔連携強化加算」です。1回50単位で、月1回に限り算定されます。要件は以下のとおりです。 口腔連携強化加算の算定要件1. 訪問看護師等が、利用者の口腔の健康状態の評価を実施すること2. 利用者の同意を得て、1の評価結果を、歯科医療機関および介護支援専門員に情報提供(※)すること※「口腔連携強化加算に係る口腔の健康状態の評価及び情報提供書情報提供書」は以下のリンク先を参照のことhttps://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F12300000%2F001227893.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK3. 1の評価を実施するにあたり、診療報酬の歯科訪問診療料(歯科点数表区分番号C000)の算定実績がある歯科医療機関の歯科医師または歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、訪問看護師等からの相談に対応する体制を確保し、その旨を文書等で取り決めていること 看取り期での医療保険と介護保険の整合性 在宅療養においては、利用者や家族が「退院して在宅での看取りを望む」といったケースも増えています。仮に本人が介護保険の適用対象にもかかわらず要介護認定を受けていない場合、訪問看護は医療保険でのサービス提供となります。 そうしたケースが増えてくると、医療保険と介護保険での訪問看護にかかるしくみの整合性がますます問われます。その点を考慮した介護報酬側の改定が2つ行われました。 「ターミナルケア加算」の単位アップ 1つは、介護報酬側の「ターミナルケア加算」です。これは、死亡日および死亡日14日以内に2日以上訪問した場合に、死亡月につき算定されます(末期がんなど厚労省が定める疾患に限る)。診療報酬上でこれに対応するのが「訪問看護ターミナルケア療養費」ですが、両者で単位数が異なっていました。今回の介護報酬改定では、以下のように揃えることになりました。 ターミナルケア加算 参考:診療報酬の「訪問看護ターミナルケア療養費Ⅰ(在宅で死亡した場合)」は25,000円1点=10円で計算した場合に診療報酬側とそろう 死亡時の遠隔診断にかかる加算も もう1つは、今改定で誕生した「遠隔死亡診断補助加算(1回150単位)」です。利用者が厚労省の定める離島や過疎地域、豪雪地帯などに居住しており、死亡時に医師が訪問できないとき、訪問看護師が情報通信機器を用いて医師の死亡診断を補助した場合に算定されます。算定要件は以下のとおりです。 遠隔死亡診断補助加算の算定要件1. 訪問する看護師が、「情報通信機器を用いた在宅での看取りに係る研修(日本医師会などが実施)」を受けていること2. 利用者が診療報酬上の「死亡診断加算」の対象(計画的・定期的な訪問診療を行っていること)であること3. 正当な理由のために、医師が直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要することが見込まれる状況であること この加算も、2024年度の診療報酬改定で訪問看護に「遠隔死亡診断補助加算」(1回150単位)が誕生したことに合わせたものです。 次回は、2024年度から完全義務化された業務継続計画(BCP)の策定など、多くのサービスにまたがって適用された運営基準や加算・減算について取り上げます。 >>次回の記事はこちら2024年度介護報酬改定 ポイント解説/BCP・高齢者虐待防止措置の減算規定 ※本記事は、2024年4月16日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○ 厚生労働省(2024).「令和6年度介護報酬改定について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html2024/4/16閲覧○ 厚生労働省(2024).「介護保険最新情報Vol.1225『「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol1)(令和6年3月15日)」の送付について』」https://www.mhlw.go.jp/content/001227740.pdf2024/4/16閲覧

2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化
2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化
特集
2024年5月7日
2024年5月7日

2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化

診療・介護・障害福祉サービスの各報酬にかかる、個別の改定ポイントを解説。今回は、訪問看護における医療DXにかかる新加算や機能強化型訪問看護ステーションの評価アップ、多様なニーズへの対応、既存加算における各種評価の適正化などを取り上げます。 医療DXへの対応 「訪問看護医療DX情報活用加算」が新設 居宅同意取得型のオンライン資格確認等システムを通じて利用者の診療情報を取得し、その活用によって質の高い訪問看護を提供した場合について、「訪問看護医療DX情報活用加算」が新たに設けられました。月1回に限り50円(5点)が加算されます。 「居宅同意取得型」とは、利用者の自宅でオンラインの資格確認(マイナンバーカードによる本人確認にもとづく資格情報の取得)や薬剤情報の提供に関する同意を、デジタル端末で得ることをいいます。 施設基準は以下の通りです。 施設基準1. 電子情報処理組織の使用による請求(オンライン請求)を行っていること2. 電子資格確認を行う体制を有していること3. 事業所の見やすい場所に、以下の事項を掲示していること ● 医療DX推進の体制に関する事項 ● 上記体制により,質の高い訪問看護を実施するための十分な 情報を取得していること ● 上記の情報を活用して訪問看護を行っていること4. 3の事項について、原則としてウェブサイトに掲載していること なお、4の基準は2025年5月末までの経過措置が設けられています。 オンライン請求に伴う指示書様式の見直し 医療DXに関しては、2024年6月から訪問看護レセプトのオンライン請求が始まります。これを踏まえ、訪問看護指示書(精神科訪問看護指示書含む)の記載事項や様式が見直され、「主たる傷病名」にそれぞれ「傷病名コード」を付すことが原則となりました。 医師の死亡診断に関しICTを使った補助も評価 業務のデジタル化という点では、在宅ターミナルケア加算においてICTを活用した新加算「遠隔死亡診断補助加算(1回150点)」が加わりました。在宅での利用者の看取りに際し、医師が行う死亡診断を、訪問看護師がICTを活用して遠隔で補助した場合の評価です。利用者が離島などに在住し、死亡時に医師の訪問が難しいケースを想定したものです。 対象は、在宅ターミナルケア加算を算定している利用者。その利用者に対し、ICTを用いた在宅での看取りに係る研修を受けた看護師が、医師の指示のもとで死亡診断の補助を行うことが要件です。 機能強化型訪問看護ステーションの評価手厚く 今改定では利用者ニーズへの即応性に関する見直しも行われています。 1つめは、機能強化型訪問看護ステーション(以下、機能強化型)に関する評価です。機能強化型は、24時間の対応体制や手厚いターミナルケアの実績など、重度化する在宅のニーズに応える体制を整えているのが特徴です。今改定では、この機能強化型の訪問看護管理療養費が1~3の各区分ですべて引き上げられました。 機能強化型訪問看護管理療養費(月の初日の訪問の場合) 区分1では、「専門研修を受けた看護師の配置」が「望ましい(推奨)」から「必須」に格上げされています。 なお、2024年3月末までに区分1にかかる届出を行っている事業所は、上記の格上げ要件を満たさなくても、2026年5月末までは区分1の基準を満たしているとみなされます。 機能強化型以外も初日の訪問は引き上げ 機能強化型以外の事業所による「訪問看護管理療養費」についても、月の初日の訪問は以下のように引き上げられました。 機能強化型以外の訪問看護管理療養費(月の初日の訪問) また、算定留意事項には以下の内容が加わりましたので、確認しておきましょう。 訪問看護管理療養費の新たな留意事項(一部意訳)災害等が発生した場合でも、訪問看護の提供を中断させないこと。中断しても可能な限り短期間で復旧させ、利用者への訪問看護の提供を継続的に実施できるよう業務継続計画(BCP)を策定し、必要な措置を講じていること。 介護保険では業務継続にかかる取り組みは、2024年度から完全義務化されています。医療保険でもBCP策定や研修・訓練の実施が問われたことになります。 2日目以降の訪問は? 適正化の細かい基準に注意 一方、2日目以降の訪問は、報酬上の評価がニーズへの対応に見合っているかが精査された上で「適正化」が図られました。 単価は2区分に再編され、区分ロ(訪問看護管理療養費2)については引き下げとなりました。 訪問看護管理療養費[月の2日目以降の訪問(1日につき)] 訪問看護管理療養費1の基準は以下の通りです。 【訪問看護管理療養費1の基準】⇒以下の(1)、(2)にともに該当していること(1)同一建物居住者(※1)が7割未満(2)以下のAまたはBのいずれかに該当することA. 特掲診療料の施設基準等別表の7、8(※2)に該当する者への訪問看護について相当な実績を有することB. 精神科訪問看護基本療養費を算定する利用者のうち、GAF尺度(※3)による判定が40以下の利用者の数が月に5人以上 ※1 同一建物居住者…対象となる利用者と同一の建物に居住する他の者に対して、同一日に指定訪問看護を行う場合※2 特掲診療料の施設基準等別表の7、8は以下のリンクを参照▼厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0※3 GAF尺度…以下のリンク先を参照▼厚生労働省「GAF(機能の全体的評定)尺度」https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/11/dl/s1111-2a.pdf 上記の(1)に該当しない、あるいは(2)のA・Bいずれにも該当しない場合は、訪問看護管理療養費2の算定となります。なお、2024年3月末時点で指定を受けている事業所では、2024年9月末までは、上記の要件を満たしていなくても訪問看護管理療養費1の算定が可能です。 「緊急訪問看護加算」も適正化により減算 サービス提供実態によって「適正化」が図られた評価には「緊急訪問看護加算」もあります。同加算は(1)利用者・家族の求めに応じ、(2)主治医の指示にもとづき、(3)緊急の訪問看護を行った場合に算定されるものです。 ただし、訪問が頻回となった場合、それが「緊急訪問として適切か」が問われました。そこで、日数に応じて「月15日以降」の緊急訪問看護に減算が適用されます。 緊急訪問看護加算 算定要件も新たな規定が加わりました。それは、記録の明確化と算定理由の記載です。 緊急訪問看護加算の新基準(意訳)● 緊急に指定訪問看護を実施した場合は、その日時、内容及び対応状況を訪問看護記録書に記録すること● 緊急訪問看護加算を算定する場合には、同加算を算定する「理由」を、訪問看護療養費明細書に記載すること 医療ニーズが高い利用者の退院支援 ニーズへの即応性に関し、さらに注目したいのが次の2つです。(1)医療ニーズの高い利用者の退院支援(2)母子への適切な訪問看護の推進 医療ニーズの高い利用者の退院支援 具体策は、「退院支援指導加算」の要件見直しです。同加算は、利用者の退院にあたり、訪問看護師が退院日に「在宅での療養上必要な指導」を行った場合に算定されます。 変更点は「長時間の訪問を要する者への指導」に関する要件です。改定前は、「1回の退院支援指導が90分超」のみ算定できましたが、ここに「複数回の退院支援指導の合計が90分超」も算定可能となりました。この見直しは、利用者の状態によって長時間指導が難しい(頻回訪問による指導が望ましい)ケースがあるという実態に沿ったものです。 母子への適切な訪問看護の推進 母子への適切な訪問看護の推進には乳幼児の状態に応じた対応への評価と、ハイリスク妊産婦に対する支援の充実が示されています。 前者は、訪問看護基本療養費の「乳幼児加算」の見直しです。同加算は、6歳未満の乳幼児に訪問看護を行った場合に算定されますが、ここに対象者が超重症児や準超重症児などの場合の単価を引き上げた評価が新設されました。 一方で、従来区分については単価を引き下げ、訪問看護での対応ケースの重点化も図られています。 乳幼児加算の見直し ※(2)の別表第七、(3)の別表第八に関しては以下を参照▼厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9733&dataType=0 後者の具体策は「ハイリスク妊産婦連携指導料」の要件追加です。同加算は、精神疾患を合併したハイリスク妊産婦への支援に向け、診療方針にかかる多職種カンファレンスを2ヵ月に1回開催した場合に算定されます。適用されるのは産科・産婦人科医院ですが、この多職種連携の対象に、患者を担当する訪問看護ステーションの看護師、保健師、助産師が加わりました。 利用者の尊厳保持にかかる2つの基準見直し 最後に、「利用者の尊厳保持」という観点からの訪問看護の運営基準上での見直しに注目します。 具体的には、(1)虐待防止措置、(2)身体的拘束の適正化の推進が定められました。(1)は、訪問看護の運営規程の中に「虐待の防止のための措置に関する事項」を盛り込むことが義務づけられ、(2)については具体的取扱い方針に以下の2つが盛り込まれました。 指定訪問看護の具体的取扱い方針の第15条より(要約)● 指定訪問看護の提供に当たっては、利用者または他の利用者等の生命・身体を保護するため「緊急やむを得ない場合」を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」)を行ってはならない● 前号の身体的拘束等を行う場合には、その態様および時間、その際の利用者の心身の状況、「緊急やむを得ない理由」を記録しなければならない 上記の「緊急やむを得ない場合」とは、切迫性、非代替性(他に方法がないこと)、一時性の3つの要件を満たすことです。また、その要件の確認については、組織としての手続きを慎重に行う必要があります。個人の判断に任せてはいけないということに注意しましょう。 次回は、介護報酬上の改定点について取り上げます。>>次回記事はこちら2024年度介護報酬改定 ポイント解説/医療・介護の整合性確保 ※本記事は、2024年4月9日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】○厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 医療DXの推進」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001219984.pdf2024/4/9閲覧○厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf 2024/4/9閲覧

2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善
2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善
特集
2024年4月16日
2024年4月16日

2024年度診療報酬改定 ポイント解説/24時間対応体制加算&訪問看護処遇改善

今回から、診療・介護・障害福祉サービスの各報酬にかかる、個別の改定ポイントを取り上げます。前回の「全体像 ポイント解説」でも述べた課題への対応に向け、訪問看護ではどのような改定が行われたのでしょうか。まずは診療報酬での改定から取り上げます。 >>トリプル改定 全体像 ポイント解説についてはこちら 2024年度トリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉報酬改定)の全体像 解説 医療・介護・障害福祉の各分野が直面する(1)高齢化に伴うニーズの多様化、(2)賃金水準向上と人手不足、(3)現場業務の効率化を図るためのDXという3つの課題。この課題に総合的に対応したのが、訪問看護管理療養費における「24時間対応体制加算」の見直しです。同加算を再編して評価を手厚くし、さらに「看護業務の負担軽減の取組」を評価した高単位の区分を設けました。 「24時間対応体制加算」は報酬を引き上げ2区分に 本改定では、24時間対応体制への評価は以下のように2区分に見直されました。 イは「24時間対応体制における看護業務の負担軽減の取組を行っている場合」、ロは「それ以外の場合」です。イの業務負担軽減の取り組みは以下の6項目です。そのうち、a・bのいずれかを含む2項目以上を満たしている必要があります。 看護業務の負担軽減の取り組み(届出基準通知)a.夜間対応した翌日の勤務間隔が確保されているb.夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)までc.夜間対応後の暦日の休日が確保されているd.夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫がなされているe.ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減がなされているf.電話等による連絡・相談を担当する者への支援体制が確保されている 連絡・相談対応のための担当者配置に特例 24時間対応では、利用者・家族からの相談対応や連絡の体制確保に向けた担当者の配置が必要です。ここでも、事業所の保健師や看護師(以下、看護師等)の「業務負担の軽減」から、サービス提供体制が確保されていれば、看護師等以外の職員を担当としても差し支えない特例が設けられました。 ただし、以下の6つの条件をすべて満たすことが必要です。 ●看護師等以外の担当者が利用者・家族からの連絡・相談に対応する際のマニュアルが整備されていること●緊急の訪問看護の必要性の判断を、保健師や看護師が速やかに行える連絡体制および緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていること●事業所の管理者は、看護師等以外の担当者の勤務体制および勤務状況を明らかにすること●看護師等以外の担当者は、電話等により連絡・相談を受けた際に保健師や看護師へ報告すること。報告を受けた保健師や看護師は、その報告内容等を訪問看護記録書に記録すること●上記4項目について、利用者・家族に説明し、同意を得ること●事業者は、看護師等以外の担当者に関して地方厚生(支)局長に届け出ること(様式あり) 訪問看護の処遇改善に「訪問看護ベースアップ評価料」 24時間対応体制などを機能させる上で、先のような「特例」もさることながら、やはり保健師・看護師の確保が欠かせません。そのためには処遇改善が何より重要です。 訪問看護の処遇改善において、カギとなるのは毎月決まって支払われる賃金を引き上げること、つまりベースアップです。これについては改定前から「看護職員処遇改善評価料」が設けられていましたが、訪問看護の職員は対象とはなっていませんでした。 そこで、訪問看護職員にも手厚いベースアップが図れるような加算「訪問看護ベースアップ評価料」が設けられたのです。 ベースとなる加算Ⅰに上乗せとなる加算Ⅱ 訪問看護ベースアップ評価料は、2段階で構成されます。基本はⅠで、給与総額の1.2%増が目指されます。ただし、小規模ゆえにⅠだけでは1.2%増が達成できない場合に、Ⅱが上乗せされます。 処遇改善の対象は、訪問看護に従事する職員(リハビリ職や看護補助者含む)で、事務作業専属の職員は含まれません。ただし、看護補助者が訪問看護に従事する職員の補助として事務作業を行うケースは対象となります。また、訪問看護に従事する職員の賃金が2023年度との比較で一定以上引き上げられた場合には、事務作業専属の職員の賃金改善にあてることができます。 職員の賃金改善にかかる計画作成などが要件 Ⅰ・Ⅱに共通する算定要件は以下のとおりです。 算定要件(Ⅰ・Ⅱともに共通の要件を抜粋)1.2024年度・2025年度の職員の賃金改善にかかる計画を作成していること2.2024年度・2025年度に、対象職員の賃金(役員報酬を除く)の改善(定期昇給を除く)を実施すること。ただし、2024年度分を翌年の賃金改善のために繰越す場合は、この限りではない3.2については、基本給または毎月決まって支払われる手当の引上げにより改善を図ることを原則とすること4.1の計画にもとづく賃金の改善状況を、定期的に地方厚生局長に報告すること Ⅱについては、Ⅰにおいて算定される金額の見込み額が、対象者の給与総額の1.2%未満であることが必要です。介護保険での訪問看護も行っている場合は、対象者の給与総額について「医療保険の利用者の割合」を乗じた上で計算しなければなりません。 区分Ⅱはさらに18区分に細分化 具体的な金額は、以下のようになります。 Ⅱは1~18、つまり18区分あります。これは算定回数の見込みから、以下の計算式で導き出した数字により区分されます。 ※「対象職員の給与総額」は、直近12ヵ月での1月あたりの平均数値※加算Ⅱの算定回数の見込みは、訪問看護管理療養費(月の初日の訪問の場合)の算定回数を用いて計算する。直近3ヵ月での1月あたりの平均の数値を用いる 上記で導き出した「X」について、適用例は以下のようになります。 ここまでの計算が手間という場合は、厚生労働省が「訪問看護ベースアップ評価料計算支援ツール」を示しているので活用してください。 ▼ベースアップ評価料計算支援ツール(訪問看護) https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.mhlw.go.jp%2Fcontent%2F12400000%2F001219494.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK 人員不足の時代に向けた管理者「兼務」の緩和 処遇改善が進んでも、労働力人口そのものの減少下では、人員確保のハードルは上がり続けます。特に複数の事業所を設ける法人では、それぞれに管理者を配置することが難しくなることもあります。 そこで、訪問看護の管理者要件が一部緩和されました。管理者は「専従・常勤」であることが原則ですが、訪問看護ステーションの管理業務に支障がない場合に、同じ敷地や隣接の敷地内に限らず、ほかの事業所・施設の管理者や従事者を兼務できるようになりました。 なお、改定後の緩和条件として「管理業務に支障がない状態」が明確化されています。それは、ほかの事業所・施設で兼務する時間帯でも、 管理者を務める事業所において利用者へのサービス提供の場面等で生じる事象を適時適切に把握できること職員・業務への「一元的な管理および指揮命令」に支障が生じないこと です。 次回は、医療DXに関する見直しなどを取り上げます。>>次回の記事はこちら2024年度診療報酬改定のポイント解説/医療DX、既存加算の適正化 ※本記事は、2024年4月3日時点の情報をもとに記載しています。 執筆:田中 元介護福祉ジャーナリスト 編集:株式会社照林社 【参考】〇厚生労働省(2023).「令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001224801.pdf2024/4/3閲覧〇厚生労働省(2024).「令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)」https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001226864.pdf 2024/4/3閲覧

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