地域包括ケアに関する記事

訪問看護認定看護師 活動記/東海北陸ブロック
訪問看護認定看護師 活動記/東海北陸ブロック
コラム
2023年11月21日
2023年11月21日

介護職員養成&通学支援【訪問看護認定看護師 活動記/東海北陸ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 東海北陸ブロック、松下 容子さんの活動記です。介護職員向けの喀痰吸引等研修や、三重県で2023年度より導入されている医療的ケア児の通学支援の取り組みなどをご紹介いただきます。 執筆:松下 容子看護学校を卒業後、総合病院に勤務し、2000年から訪問看護に従事。2011年 訪問看護認定看護師資格取得2012年 四日市社会保険病院 訪問看護ステーション管理者(現:四日市羽津医療センター)2021年~現在 みんなのかかりつけ訪問看護ステーション四日市 管理者 全国で1番の会員数を誇る東海北陸ブロック 私は、日本訪問看護認定看護師協議会の理事に就任して4年目になります。担当業務は総務で、主に総会・同時開催研修会と交流集会の計画、開催等に関わっています。研修会の講師や内容については、会員の皆様からのアンケート調査に基づき、皆様のご希望を反映できるよう、心がけています。 例えば、2023年6月の総会後の同時開催研修会は以下のような内容で実施しました。 第1講「認定更新申請の情報提供」5年目の訪問看護の認定更新を済まされた会員からの情報提供第2講「法律制度を活用したコミュニケーション向上術」看護師であり、社労士事務所代表の方によるご講演 次に、私が所属している東海北陸ブロックの活動状況を紹介します。当ブロックは静岡、愛知、岐阜、三重、福井、富山、石川の7県から構成され、会員数は101名となりました(2023年10月時点)。協議会全体での会議とは別に、ブロック内で年に2回の研修会と交流会、年に数回の役員会を開催しています。役員は、ブロック長をはじめ各地区代表の10名で構成されており、研修会をはじめとした企画・運営を取り仕切っています。9月末には、今年度最初の研修会として、「在宅ケアにおける倫理」をテーマに開催しました。 喀痰吸引等研修講師として10年目 個別で行っている講師活動についてもご紹介します。私はこれまでの10年間、毎年喀痰吸引等研修の講師を務めています。喀痰吸引等研修とは、「たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)」と「経管栄養(胃ろう、経鼻経管栄養)」を行える介護職員等を養成するための研修です。また、この介護職員を現地で指導するための指導者研修(看護師)もあり、いずれも研修内容は講義と演習で構成されています。そのほか、これまでに介護職員数名の実地研修の指導者としても関わらせていただきました。 喀痰吸引等研修会演習風景 今後もこの活動を通して介護職員の喀痰吸引等に関する手技の維持・拡大と喀痰吸引等提供の質確保に努め、介護職員を含めた多職種による協働体制の構築に尽力していきたいと思います。 県初、医ケア児の通学支援開始 医療的ケア児への支援活動についてもご紹介します。四日市市には特別支援学校があり、多くの医療的ケア(人工呼吸器や喀痰吸引、胃ろう管理等)を必要とする児童が通学をしています。しかし、ほとんどの児童はスクールバスへの乗車が困難な状況です。スクールバスに乗れない児童は家族送迎を余儀なくされ、家族の負担は非常に大きいものとなっています。例えば、母親による往復の送迎に1時間程度かかる場合、母親の仕事の時間が削られているケースはもちろん、就業を諦めざるを得ないケースもたびたび見かけられます。 三重県では、そんな家族の負担を軽減すべく、2023年度に「三重県医療的ケア児通学支援事業」が試行され、現在、当ステーションでは週に2回、朝の通学支援に協力させていただいています。業務内容は、指定された福祉タクシーに同乗し、運転手さんと協力して安全に児童を特別支援学校まで送り届けることです。道中、車内での児童の状態観察と喀痰吸引の必要があれば実施し、学校到着後に担任教員に母親からの伝達事項や車内での状態を引き継ぐという流れになっています。 まだ開始したばかりの事業であり、実際、受け入れのできる訪問看護ステーションも、まだまだ少ないのが現状です。障害があっても健常な児童と変わらず、平等に学習機会が確保され、必要な支援のもと、児童の成長、発達と家族へのサポートがますます促進されるよう、今後も微力ながら関わっていきたいと考えています。そして、誰もが豊かに暮らせる地域に発展することを心から願っています。 * * * この記事をお読みいただいている訪問看護師の皆様にも、ぜひ安心・安全の提供と、自分らしい生活・ありたい姿の実現を見据えながら、療養者様やご家族に寄り添っていただけたら幸いです。 ※本記事は、2023年10月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

【医師に聞く】地域医療と訪問看護2
【医師に聞く】地域医療と訪問看護2
インタビュー
2023年11月14日
2023年11月14日

【医師に聞く】地域医療と訪問看護~接遇の大切さと100点満点を目指さない理由~

20年以上にわたり神奈川県横浜市金沢区とかかわりを持ち、当地に田川内科医院を開業した田川暁大先生。地理的・医療的環境が異なるさまざまな地域でキャリアを積み、糖尿病、ぜんそく・COPDなどの分野で患者さんの在宅療養に心を傾けています。そんな田川先生に、地域医療や訪問看護への想いを語っていただきました。 田川内科医院 院長田川 暁大(たがわ あきひろ)先生1998年山形大学医学部卒業、2004年横浜市立大学大学院医学研究科博士課程修了。2016年より現職。医師としてのキャリアを神奈川県内各地のさまざまな医療機関で積み、呼吸器内科・糖尿病内科を中心に診療するクリニックを横浜市金沢区に開業。専門性を生かし、患者さんやご家族と一緒に考えながら実行可能で継続できる治療を推進している。コロナ禍においては自院でのワクチン接種や発熱患者の受け入れにも積極的にかかわる。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医、日本糖尿病協会糖尿病認定医。 患者さん一人ひとりへの接遇を大事に —まずは、地域の患者さんとかかわる喜びや、心がけていることについて教えてください。 開業したのは2016年ですが、横浜市金沢区内の複数の病院で20年来医療に従事してきました。そのため、何年も前に別の病院で診察した患者さんが来院なさるケースがあります。新型コロナワクチン接種で当院を受診した方に、「実は20年前に別の病院で診ていただきました。あのときはありがとうございました」と言われたり、「ここはあのときの田川先生のクリニックなんじゃないかなと思って建物の前を通っていたんです」といった話もうかがったり。患者さんにそんなふうに言っていただけるのは嬉しいですね。 そもそも病院自体が「行きたい場所」ではなく、嫌な医師なら来院しませんから。「何かあればまたこの病院にかかりたい」と思っていただけるような適切な対応・接遇、何より信頼を得ることが大事だと、スタッフとも常々話しています。 田川内科医院の外観(左)と受付の様子(右) どの地域でも最新の標準治療を提供するために —地域医療について課題を感じることはありますか? 私のいる金沢区は非常に医療環境に恵まれており、呼吸器も糖尿病も、当院のように専門医が在籍しているクリニックが複数あります。加えて区内には横浜市立大学附属病院や横浜南共済病院、県立循環器呼吸器病センターといった基幹病院もあり、各診療科に専門医が複数いる環境です。 一方、高齢化や過疎化が懸念される地域ほど専門医が少ない傾向にあると感じています。そういった地域では各分野の知識が更新されづらくなり、標準治療の提供も難しくなってしまう可能性があります。 今後、より地域医療に求められるだろうと感じているのが、各科の医療水準の均衡化と考えます。専門医が少ない地域・いない地域でも最新の標準治療が提供できるように、非専門の先生と協力していく必要があります。もちろん、我々専門医の研鑚や積極的な発信が必要なのは言うまでもありません。 —訪問看護師に関しても同様のことが言えるでしょうか。 そうですね。みなさん本当に真摯に患者さんと向き合っておられますが、例えば糖尿病に関して「血糖値に応じてインスリンを何単位」といった、「かつては当たり前だったが今は違う」知識に基づいてお話されている訪問看護師さんもいらっしゃることは事実です。もちろん、「今は違うんですよ」とご説明をしますが、比較的情報が入ってきやすい大きな病院と異なり、お一人で訪問することが多い訪問看護ステーションでは、どうしても情報更新が難しいケースがあるのかなと感じます。 標準治療の提供のために、訪問看護師さんにも積極的に学んでいただければと思いますし、我々も必要に応じて情報提供を続けていきたいと思っています。 敬意をもって患者さんに接する大切さ —患者さんとの接し方や医師への連携について、アドバイスいただけないでしょうか。 忙しいとき、多くの医療者は自分が伝えたいことを一方的に話してしまいがちです。しかし本当に重視すべきは「患者さんに正しく意図が伝わる」こと。そのために私は丁寧な言葉を選ぶよう心掛けています。丁寧に話すだけで、早口ではなくなりますから。 また、医師・看護師に限らず医療従事者のなかには、患者さんに対して高圧的だったり、逆に子どもをあやすように接したりする人がいます。私はどちらも違うのではないかと思っています。おすすめしたいのは、敬意をもって患者さんに接すること。そうすると患者さんのちょっとした違いに気付いたり、貴重な情報を患者さんから引き出せたりするものです。 とくにご高齢の方は皆さん我慢強く、体調の変化をあまり訴えない傾向があります。しかしそこに病気のサインが隠れている可能性もあり、「おやっ」と感じることがあればぜひ医師と連携してほしいですね。 100点満点の生活改善は目指さない —先生は呼吸器と糖尿病がご専門で、生活習慣が症状に影響する疾患の患者さんを多く診ていらっしゃいます。安定した在宅療養を継続するために重要と考えていることを教えてください。 「100点満点を目指さない」ことでしょうか。85点くらいで十分ですね。年齢を重ねるほど、できないことが増えてくるので、ご本人・ご家族と医療者とで「落としどころ」をすり合わせて共有することが重要です。 具体例を挙げると、たとえば「医師に制限・禁止されている食べ物を食べてしまった」と患者さんに打ち明けられたとします。それが絶対にNGなものでなければ、どこまでなら減らせるか患者さん自身と相談します。このとき、私はまず患者さんの発言を受け入れるようにしています。そして患者さん自身が決めた目標を達成できるようがんばってもらい、結果が出たら一緒に達成を喜ぶんです。 そこで、「じゃあ次はもう少し制限しましょう」…とは言わず、「これを継続しましょう」と伝えます。「本当にそれでいいの?」と思うかもしれませんが、結果が出ると患者さんは楽しくなり、ご自分から量を制限するようになります。そうなったらしめたもので、患者さんの行動変容につながっていくんです。 訪問看護師さんが気軽に患者さんの情報を共有していただけたら、もっとアドバイスができると思いますし、どこが「これだけは守ってほしい点=85点」なのかを一緒に検討することもできるでしょう。患者さんと長く接している訪問看護師さんからの情報は医師にとって貴重な気づきになります。これからも、一緒に地域医療を支えていきましょう。 ※本記事は、2023年9月の取材時点の情報をもとに構成しています。 取材・執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

認定看護師活動記 南関東
認定看護師活動記 南関東
コラム
2023年10月10日
2023年10月10日

「看護を語る」ことを大切に【訪問看護認定看護師 活動記/南関東ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 南関東ブロック、伊藤 みほ子さんの活動記です。南関東ブロックの活動内容や訪問看護総合支援センターの開設、「在宅看取り語りの場」の取り組みなどをご紹介いただきます。 執筆:伊藤 みほ子介護支援専門員/訪問看護認定看護師/認定看護管理者。看護学校卒業後、赤十字病院にて病棟、外来、訪問看護ステーションで勤務。現在は長野県看護協会 常務理事 地域支援部 訪問看護総合支援センター担当。 「看取りを考える会」を年4回開催 私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会 南関東ブロックは、神奈川、山梨、長野の3県の訪問看護認定看護師協議会 会員による活動を行っています。 協議会の活動が始まった10年前は、ブロック長を中心とした年1回の交流会(研修会)を開催していました。現在は活動の幅が広がり、ブロック長、各県代表とブロック理事によるブロック会議で交流会や研修会などを企画し、開催しています。南関東ブロックの会員数は30名弱と少人数ですが、オンラインの会議や交流会により、情報共有が有意義にできています。 例えば、2022年度に全ブロックで開催した「在宅看取りを実践できる訪問看護師の育成事業」は、ブロック会員の協力により有意義な研修となりました。この事業に参加した南関東ブロックの会員から、「ブロックの活動として在宅看取りについて検討する場を継続していきたい」という意見があり、2023年度は「看取りを考える会」を年4回開催する計画となりました。 それぞれ多忙なため、ブロック活動の参加者が少人数になることもありますが、しっかり継続できています。訪問看護認定看護師同士が「看護を語る場」として、実践を語り、互いに学べる場は貴重であり、各々がその意義を感じているためと考えています。 訪問看護提供体制の強化とさらなる推進 私が長野県看護協会の常任理事として行っている活動についてもご紹介します。特に注力しているのは、長野県全域の訪問看護提供体制の強化と推進で、2023年4月には「訪問看護総合支援センター(以下「支援センター」)」を看護協会の中に開設しました。2021年に日本看護協会の支援センター試行事業に参加して以降、今回の開設に向けて準備をしてきました。支援センターには、私を含めた訪問看護認定看護師2名を配置し、訪問看護の課題に取り組んでいます。 支援センターの役割は、「経営支援」、「人材確保」、「訪問看護の質向上」の3つです。具体的には、以下のようなことを行っています。 【1】訪問看護支援事業(長野県受託事業) 訪問看護事業所運営基盤整備:コンサルテーション訪問看護制度等の電話相談事業所訪問による看護技術等のシミュレーションによる演習や講義等訪問看護事業所の新規開設支援潜在看護師、プラチナナース等の就業および転職支援新卒訪問看護師採用に向けた取り組み訪問看護に関する調査・実態把握教育・研修の企画、実施 【2】地域住民への訪問看護周知と活用推進としての在宅看取りに関する取り組み 【3】長野県訪問看護ステーション連絡協議会との連携(事務局) 支援センター開設以降、新規訪問看護事業所開設の相談や制度についてなど、問い合わせが増えています。認定教育課程で学んだ知識を活かして対応できることにやりがいを感じています。 また、「在宅看取り」については、日本訪問看護財団の助成を受け、県内の訪問看護認定看護師たちと研究に取り組んでいます。日本訪問看護認定看護師協議会のネットワークがこうした活動の連携に活かされており、研修の講師として活躍いただける場も提供できています。 訪問看護師による「在宅看取り語りの場」 前述した支援センターの事業のうち、「【2】在宅看取りの取り組み」として、訪問看護師による「在宅看取り語りの場」という活動も行っています。 訪問看護師に在宅看取りの様子を語ってもらい、地域の一般参加者の方々にも今の思い(介護していること、今までに経験した家族の看取りのことなど)を語っていただくことで、自分の思いに気づき、表出することができます。また、地域の方々に在宅医療や看護について知っていただくきっかけにもなります。 私は以前から、訪問看護の終末期ケアの実践から学べることは大変多いと考えていました。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を進めていく上でも、終末期や在宅看取りに関する具体的なイメージを持っていただくことは大切です。 訪問看護師の「技」といっていいスキルのうち一つにコミュニケーション能力があり、認定看護師に限らず、多くの訪問看護師が終末期ケア、在宅看取りを実践しながらコミュニケーション能力を磨いていると思います。そうした強みや経験を活かして、在宅で最期まで暮らせることの幸せを地域の方々に伝える取り組みができれば、と考えています。 「在宅看取り語りの場」の様子 * * * 私は、今までも「看護を語る」ことを実践し、意義を感じてきました。これからも、「看護を語る」ことから学ぶ機会をつくっていきたいと考えています。 ※本記事は、2023年9月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

認定看護師活動記 北海道
認定看護師活動記 北海道
コラム
2023年9月19日
2023年9月19日

病院や看護学校での啓蒙活動【訪問看護認定看護師 活動記/北海道ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師・在宅ケア認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 北海道ブロックに所属する、田川 章江さんの活動記です。病院や看護学校での講演活動もされている田川さんに、北海道ブロックの活動内容や、退院指導・生活指導にまつわる看看連携、看護学生に訪問看護の魅力を伝える活動などをご紹介いただきます。 執筆:田川 章江訪問看護認定看護師/日本訪問看護認定看護師協議会 理事(2021年~地域貢献活動担当理事)。看護学校卒業後、総合病院で勤務。現在は、社会医療法人 孝仁会 訪問看護ステーションはまなす(北海道釧路市)でスタッフとして勤務。「現場の職人」でいたいという想いが強く、スタッフ歴を更新中 広ーい北海道でアットホームに活動中です まずは、私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の「北海道ブロック」についてご紹介しましょう。北海道ブロックは、札幌、函館、帯広、釧路、紋別、稚内にメンバーがいます。面積は広いのですが人数は少なめで、8名で活動中です(2023年8月現在)。私は頼りない北海道ブロック理事なのですが、皆様のお力を借りながら、コンサルテーション担当として研修会の企画を行っています。 新型コロナウイルスの感染拡大前は、主に私たち協議会のメンバーが北海道の各地で地域の看護師向けに研修会を開催していました。特にテーマとして多かったのは、訪問時の緊急事態が起こった際の対応についてです。その後、コロナ禍でオンライン化が進んだこともあり、最近はZoomを利用してメンバー間でハラスメントの事例検討会を行ったり、外部の講師の方をお呼びして研修会を開催したりと、活動の幅を広げています。和気あいあいとした雰囲気で、話し出すと止まらず、あっという間に時間が過ぎることも多々あります。 広大な北海道では移動にも時間がかかり、なかなか対面で集まる調整難易度が高いのですが、オンライン化が進んだことによって、参加しやすくなりました。ただ、各地域で集まって、勉強会後においしいものを食べることもメンバーの楽しみの一つ。完全にオンライン化するのではなく、対面での研修会の企画も継続していきたいと考えています。 病院での講義~訪問看護からみた退院指導 私の個別の活動についても、一部ご紹介したいと思います。先日は、釧路市内の病院で開催された糖尿病に関する検討会で、看護師向けの講義をさせていただきました。 私が所属している訪問看護ステーションの利用者さんで、その病院に通院している方の話を絡めながら、 実際の生活の場で、どのように服薬やインスリン注射をしているか薬物療法を継続することの難しさ在宅での食事について などをお話しさせていただきました。 病棟看護師が患者さんに「服薬や生活指導について理解してもらった」と思っていても、退院後の在宅の場では継続が難しいことは多々あります。経済的な問題や介護力の問題で、わかっていてもできないこともあります。在宅での現状を踏まえ、病院での退院指導や生活指導を検討していただきたいことを伝えました。 訪問看護師の立場から、病院からは見えない「生活の場の利用者さん」の姿を伝えることは、非常に有意義だと思っています。また、情報を伝えるだけにとどまらず、地域の病棟看護師と訪問看護師との「顔の見える関係」づくりにもつながっていきます。 未来の看護師さんに訪問看護の魅力を伝える 看護学校で、戴帽式を済ませた学生さんへ講義する機会をいただいたこともあります。看護学生さんたちにとっては、訪問看護は仕事内容がイメージしづらいので、積極的に訪問看護の魅力を伝えていくことが大切だと思っています。 当日は、訪問看護の事例を含めた訪問看護師についての説明や、私が訪問看護師として働く中で大切にしていることなどをお話ししました。 当時の講演内容をもとに著者作成 学生さんたちからは、「自宅での看取りをイメージできた」「着実にやっていくことが大切と分かった」といった感想をいただきました。この看護学校の生徒さんたちは、私が所属する「訪問看護ステーションはまなす」に実習に来ていただいています。「いつか訪問看護師として働いてみたい」と思っていただけるように、実習の場も含めて、今後も訪問看護の魅力を伝えていきたいと思います。 * * * 在宅でも病棟でも、看護師として働く中で色々なストレスがかかり、疲弊しがちな方は多いと思います。今後も私が認定看護師としてお伝えできることをしっかり伝え、一緒によりよい案や対応を考えていきたいと思います。 ※本記事は、2023年8月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

認定看護師活動記 近畿
認定看護師活動記 近畿
コラム
2023年8月22日
2023年8月22日

地域と病院をつなげる取り組み【訪問看護認定看護師 活動記/近畿ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 近畿ブロック、雨森 千恵美さんの活動記です。近畿ブロックの活動内容や、フィードバックカンファレンスの導入をはじめとした看看連携の取り組み、地域で訪問看護の存在感を高める取り組みなどをご紹介いただきます。 執筆:雨森 千恵美訪問看護ステーション ゆげ(滋賀県) 管理者。看護学校卒業後、医科大学付属病院に勤務、代謝・内分泌内科病棟での臨床経験を活かし、糖尿病療養指導士の資格を取得する。結婚出産後は、夜勤のない職場に復帰するため訪問看護ステーションに再就職。在宅看護の魅力にとりつかれ2012年に独立。訪問看護を深く学ぶため訪問看護認定看護師の資格を取得した。2018、2019年には協議会の近畿ブロック長に就任。「近畿ブロックの規約」の作成を行い、その後も「在宅看取りの育成研修事業」を企画。実行力や統率力を評価されている。 現在は、訪問看護のパイオニアとして後任の指導と、地域と病院がつながるしくみ作り(フィードバックカンファレンスの定着)や認定看護師の活躍の場作り、災害時支援チームの一員としての活躍の場をますます広げている。 会員相互の交流を図りネットワークを構築 まずは、私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の、近畿ブロックの活動についてご紹介します。 近畿ブロックでは、毎年訪問看護認定看護師としての日頃の実践報告を6府県の代表者が発表する日を設けています。認定看護師として自身の活動を振り返り、今後に活かす貴重な機会です。また、実践報告と同時に「経営について」や「災害といのち」などの関心の高いテーマの基調講演を行っており、学びつつ交流もできる、非常に充実した1日になるため、会員の満足度も高くなっています。これらの活動に参加していると、訪問看護認定看護師として同じ志を持った熱い仲間と交流することができるため、企画すること自体が非常に楽しいです。 フィードバックカンファレンスで看看連携 私が行っている、地域での活動についてもお伝えします。私が住んでいる滋賀県では、全世代型地域包括ケアシステムの充実のために、圏域別に地域看護ネット会議を開催しています。過去には、地域課題として「退院後の振り返りができていない」ことが取り上げられ、まずは「病院と在宅との看看連携強化が必要」との意見も出ました。 そこで私は、訪問看護認定看護師実践報告会で聴いた「フィードバックカンファレンス」の手法が、看護職同士がつながるしくみとして効果的ではないかと提案しました。フィードバックカンファレンスとは、フィードバックが必要だと感じたケースについて、病院側・地域側のどちらからでも依頼できる、というしくみです。例えば病院側が訪問看護ステーションにフィードバックカンファレンスを依頼することにより、退院時の支援や調整が適切であったか、振り返ることができます。 2019年から始め、今年で5年目。コロナ禍で一時はオンライン形式の開催に変更し、調整が難航する時期もありましたが、2023年7月時点までで16例の実績をつくることができました。 実際に開催してみると、フィードバックカンファレンスは、相互理解や信頼関係の構築に役立つのはもちろんのこと、認定看護師の指導を受ける機会になる、看護師以外の専門職とつながる機会になる、そして本人・家族の思いを共有できる場になる、といったメリットがあることがわかりました。今後は、よりフィードバックカンファレンスが全国に普及するよう願っています。 地域での訪問看護の存在価値を高める そのほかにも、地域の中で訪問看護の存在価値を高めるための活動を行っています。 病院看護では医療職同士のつながりのみとなってしまうケースも多くありますが、地域ではさまざまな専門職が協働しています。医療と介護と看護が一体となって、療養者の日常生活の支援から看取りまで実践していきます。多職種との連絡・調整・協働は、訪問看護の最も得意とする分野であり、必要不可欠。人的ネットワークを広げて信頼関係を構築しておくことは、困難なケースでの交渉・円滑な支援につながるでしょう。 最近は、高齢一人暮らしの利用者が増えています。癌ターミナルや認知症になっても、最期まで家で過ごすためにどうしたら良いか。地域の特性を活かして行政と一体となり、地域住民も巻き込んでいく必要があります。本人・家族はもちろん、支援者のすべてが穏やかでいられる方法を模索するのも、やりがいがあって楽しいものです。 また、医療的ケア児をとおして学校関係者とつながったり、育児相談事業を行って、地域の母親たちとつながったりする活動も行っています。新たなつながりを構築することにもやりがいを感じています。新型コロナウイルス感染症によって自宅療養者が急増したときは、保健所の負担を少しでも減らしたいと、電話による健康観察や自宅訪問事業も受託しました。多いときは1ヵ月で2,000件を超える対応を行いました。今後も、さまざまな場面で訪問看護の力を発揮し、地域での存在価値を高めていきたいと考えています。 * * * 訪問看護の魅力は何でしょうか?道中は四季を感じながら利用者宅に向かうと「待ってました」の笑顔に迎えられ、時には想像以上の力を発揮され隠されたパワーに驚かされます。日常生活を一緒に過ごし、喜びと悲しみを共有し、人として成長させていただきます。訪問看護をはじめて25年。在宅医療をこよなく愛し、日々やりがいを持って看護を行っています。訪問看護を目指す方が増え、一緒に訪問看護の素晴らしさを共有できる日を待ち望んでいます。 ※本記事は、2023年7月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

認定看護師活動記
認定看護師活動記
コラム
2023年7月25日
2023年7月25日

看多機(かんたき)を通じて広げる「輪」 【訪問看護認定看護師 活動記/北関東ブロック】

全国で活躍する訪問看護認定看護師・在宅ケア認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 北関東ブロックに所属する、山崎 佳子さんの活動記をご紹介します。 看護小規模多機能型居宅介護事業所(看多機)の管理者としても活躍する山崎さんに、北関東ブロックの活動や、看多機の管理者としての活動などをご紹介いただきます。 執筆:山崎 佳子在宅ケア認定看護師株式会社やさしい手 看多機かえりえ南佐津間 管理者福岡県出身。看護学校卒業後、総合病院・医療器メーカー・CRC等に従事。2005年より訪問看護に携わる2007年 介護支援専門員資格取得2017年 訪問看護認定看護師教育課程修了2018年9月 「看多機かえりえ河原塚」管理者となる2020年度~2021年度 松戸市小多機看多機連絡協議会会長、松戸市介護保険運営協議会委員2022年 特定行為研修 在宅ケアパッケージ修了2023年5月 新規オープンの「看多機かえりえ南佐津間」管理者となる 訪問看護認定看護師 北関東ブロックの活動 まずは、私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の「北関東ブロック」についてご紹介します。北関東ブロックは、千葉・群馬・栃木・新潟・茨城の5県の会員で構成しており、会員数は2023年7月時点で40名弱。半数以上は千葉の会員、群馬・新潟・栃木は5名前後、茨城は1名のみです。2022年度の活動としては、前期に事例検討会、後期に地域向け研修会を実施しました。 人数構成上、どうしても例年、活動が千葉県中心になってしまうので、年1回行っている地域向け研修会を、各県の持ち回りで行うことにしています。2022年は、5名の群馬県の会員を中心に、他県の実行委員を加えた10名で研修会の企画を進めていきました。会費をいただいての研修なので、失礼があってはならないと色々なことを想定して準備を進め、Zoomでの会議のほか、LINEを使って話し合いをもち、時には夜遅くまで意見交換をすることもありました。その結果11月の研修会は46名の参加をいただき、スムーズに開催をすることができました。 実際には、北関東ブロック内で一度も対面でお会いしていないメンバーもたくさんいますが、ブロック全体で力を合わせて開催できたと感じました。2023年度もこの取り組みを継続しており、新潟県のメンバーが中心になって新しい実行委員も加わり研修の準備を進めているところです。 看多機の管理者として多職種連携に取り組む では、ブロック活動以外に、私が普段どのような活動をしているかについてもご紹介します。私は、約5年前に社内異動で訪問看護ステーションの管理者から看護小規模多機能型居宅介護事業所(看多機かえりえ河原塚)の管理者になりました。当時、「看多機」という名称は知っていましたが、実際にどんなことをやっているのかはまったくといっていいほど理解していない状態。私は、この異動をきっかけに多職種連携に正面から取り組むことになったのです。 看護職と介護職の違い 赴任して、まず私に立ちはだかった壁は、「看護師と同じように伝えても、介護職には伝わらない」ということです。しかし、ある時、介護職の一人が「介護は、『寄り添いなさい』『受け入れなさい』って教育されるのですよ」と言ったのです。その言葉を聞き、看護職は問題解決思考になりやすく、いつも利用者さんが抱える問題点を探しているように思い、その違いにはっとしました。なるほど…。視点が違うのだから、理解や思いにも違いが生じるのは当たり前だ、と改めて気づいたのです。 互いに伝えることが大切 そして、介護職が看護師に遠慮して、自分たちの思いや考えを言いそびれている場面をよく見かけたので、介護職がそれらを言語化し、発信できるようになることが必要と感じました。介護職は生活援助を通して看護師より利用者さんのそばにいる時間が長いので、ありのままの利用者像を知っていることが多いと感じます。「看護師には言えないんだけど…」というような、利用者さんの本音を聞く機会もあるようです。介護職が持っている情報はとても大切で重要なものだということを自覚して、とにかく自信を持ってその情報を発信してほしい、と伝え続けています。 また、一番身近な介護職が利用者さんの変化に気づくことができれば、病状の変化にもいち早く対応できると思います。それを実現するためには、疾病の知識、観察点、予後予測などを看護師がしっかり学んで理解し、常日頃から介護職に丁寧に伝達していくことが、必要と考えます。介護職にわかってもらえるためにはどうしたらよいか…。看護師には、特に伝える力を養ってほしいと考えています。 看多機では、看護師と介護職が同じ空間で同じ利用者さんを、それぞれの専門性をもってみることができます。互いの情報を持ち寄れば、より快適な療養生活を送るには何が必要か、見えてきます。それをもとに重度の方にも安心して過ごしていただけるための支援を考え、実践していけるのではないかと感じています。 今後も、定期的に利用者さんについて話し合う機会を持ち、お互いの専門性を認め合い、意見を遠慮なく言い合える雰囲気づくりを心掛けていきたいと考えています。 松戸市の小多機・看多機連絡協議会の活動 地域での活動についてもご紹介しましょう。私が赴任した看多機かえりえ河原塚は、千葉県の松戸市というところにあります。松戸市の人口は50万人弱ですが、そこに小多機・看多機が9つずつあり、計18事業所が「小多機・看多機連絡協議会」に参加しています。 主に小多機・看多機の普及活動や、市、医師会、介護連(他の介護事業所が集まった協議会)などとの連携、自己研鑽のための研修などの活動をおこなっています。私は看多機の管理者になって2年目に、前会長の退職をきっかけに協議会の会長に就任することになりました。会長として介護保険運営協議会、基幹の地域ケア会議、医師会在宅ケア委員会等へ参加して、地域の医療や介護の事業のしくみを学べたのはとても有意義な経験でした。定例会は2ヵ月に1度開催して、さまざまな意見を話し合います。そこで出た意見を行政(松戸市)に伝え、ルール変更や統一の対応をしていただいたこともありました。 こうした活動を通じて、同業者との横のつながりは、仕事をしていく上での大きな心の支えになることも実感しました。「競合他社」ではありますが、管理者の悩みは一緒であることが多いもの。話をしていると互いに気持ちをわかりあえることが心地よく、「明日も頑張ろう」という力が湧いてくるのを感じました。 2023年7月 千葉県看多機協議会を立ち上げ その後、私は松戸市の隣の鎌ヶ谷市の看多機(看多機かえりえ南佐津間)への異動が決まったため、2年で会長を辞任しました。 鎌ヶ谷市では1件目の看多機なので、今まで協議会の仲間や市とコミュニケーションをとりながら過ごしてきた私は心細さを感じ、同じ県内で看多機を立ち上げておいでの福田裕子先生(株式会社まちナース まちのナースステーション八千代統括所長)にお願いして、2023年の7月に千葉県看多機協議会の立ち上げをすることになりました。 看多機かえりえ南佐津間 立ち上げ準備のために千葉県内の看多機を調べ、連絡を取ってみて気づいたのは、自治体に看多機が1ヵ所しかないところもまだまだ多いということ。そして、管理者の皆様が、「同業者と話をしたい」と思っているということです。 千葉県看多機協議会は、横の繋がりを強化することで、それぞれの事業所が安心していきいきと運営できるよう活動していきたいという思いで設立されます。看多機はできてまだ10年。本当にこれでよかったのか、もっと良い使い方はないのか、現場では毎日試行錯誤しながら実践に取り組んでいます。協議会の活動を通して、地域の頼れる社会資源として成長していきたいと考えています。 * * * 私は、在宅に携わった看護師がみんな、「この仕事をしてよかった」と思ってもらいたいと考えて、日本訪問看護認定看護師協議会の活動に参加してきました。今後は対象を広げ、在宅に関わるすべての職種に「よかった」と思ってもらうことを目指して、活動していきたいと思っています。 ※本記事は、2023年7月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部

これからの医療的ケア児と訪問看護
これからの医療的ケア児と訪問看護
インタビュー
2023年5月2日
2023年5月2日

親子の夢が広がる 医療的ケア児の就学支援事例 【長野県 小布施町】

清泉女学院大学の北村千章教授が主宰するNPO法人「親子の未来を支える会」では、学校への看護師をはじめとした医療的ケア児の就学支援を行っています。今回は、そんな「親子の未来を支える会」と自治体が連携を図り、医療的ケア児の就学支援に成功した事例をご紹介します。北村教授と長野県 小布施町教育委員会 関口氏にお話を聞きました。 >>前回の記事はこちら見落としがちな親視点 保護者に聞く&寄り添う看護-医療的ケア児と訪問看護 清泉女学院大学 小児期看護学北村 千章(きたむら ちあき)教授看護師・助産師。新潟県立看護大学大学院看護学研究科修士課程修了。「全国心臓病の子どもを守る会」にボランティアとして参加したのをきっかけに、先天性心疾患および22q11.2欠失症候群の子どもたち、医療的ケアが必要な子どもたちを、地域ボランティアチームをつくってサポート。2019年、清泉女学院大学看護学部に小児期看護学准教授として着任。慢性疾患のある子どもたちが大人になったときに居場所を持ち、ひとり立ちできるための必要な支援や体制つくりについて研究している。同年、NPO法人「親子の未来を支える会」の協力を得て、医療的ケア児の就学サポートを開始。医療的ケアが必要な子どもが、教育を受ける機会が奪われないしくみづくりを目指す。2023年4月より、清泉女学院大学看護学部 小児期看護学 教授に就任。小布施町教育委員会関口 和人(せきぐち かずと)氏2002年長野県の小布施町役場に入職し、建設水道課、健康福祉課等を経て、2022年度より教育委員会子ども支援係の係長に就任。子ども支援係では、保育園・幼稚園~小・中学校までの支援を担当している。 ※本文中敬称略 行政との連携で子どもたちの自立をサポート ―小布施町教育委員会と、「親子の未来を支える会」との関係性について教えてください。 北村: 最初に、「親子の未来を支える会」と小布施町教育委員会とが連携したのは、胃ろうからの経管栄養が必要な医療的ケア児のAさん・Bさん(下記)の事例でした。このお二方は、看護師や学校の先生、自治体といった多職種の連携サポートによって小学校に通えるようになったあと、「胃ろうから自己注入ができるようになった」「経口摂取が可能になった」など、大きな成長が見られたんです。子どもたちには、我々には分からない未知数の「持っている力」があって、そうした力を引き出せるということが看護師にとっての一番の魅力であり、やりがいだと思います。一方、看護師だからできる医療的ケアもあるものの、当然学校の先生や教育委員会の方々との協力体制がなくてはサポートが実現できません。 関口: 教育委員会の者は、当然ながら医療従事者に比べてずっと医療的な知識が少なく、それまで医療的ケア児の就学支援を行った前例もありませんでした。各ご家庭のニーズ・状況に合わせて医療従事者に適宜質問しながら対応策を考え、行動するしかなかったんです。Aさん・Bさんの事例以降、マニュアルの作成や支援会議の開催などの準備段階から、その都度、北村先生にはご相談をしていて、助言のおかげで比較的スムーズで柔軟な対応ができていると思います。■小布施町教育委員会と親子の未来を支える会との連携事例 【事例】・医療的ケア内容:Aさん・Bさんともに「胃ろうからの経管栄養」 ・Aさん:町外の特別支援学校に通っていたが、小布施町の小学校に転入し、学校看護師を配置して通常級へ。 栄養剤からミキサー食に変更したほか、現在は中学校の通常級に通いながら、胃ろうからの自己注入も可能に。自立への道が開けた。 ・Bさん:Aさんの転入前は、訪問看護ステーションの協力を得ながら小布施町の小学校に通学。Aさんの転入に伴い、学校看護師によるBさんの医療的ケアが可能に。現在は給食の経口摂取をしている。 ―Bさんがもともと通っていた小学校にAさんが転入したことがきっかけで、小布施町との連携事例が始まったと伺っています。詳しく経緯を教えてください。 関口: もともとその小学校がBさんを受け入れることができていた理由は、主に2点あります。まずは、訪問看護ステーションの協力を得られ、学校に看護師を派遣してくださっていたこと。ふたつ目は、Bさんが常時医療的ケアが必要なお子さんではなく、給食を胃ろうから注入するケアのみで、サポートのハードルが低かったことです。 そこに、Aさんの転入を受け入れるお話があり、どうすればいいか検討していく過程で「親子の未来を支える会」と出会い、連携が始まりました。 北村: Aさんのご自宅から小学校までは徒歩5分。学習能力も十分にあるのに、胃ろうがあるために小学校に受け入れてもらえず、隣の市の支援学校に入学することになったんです。隣の市へ毎日送迎するお母さんは、とても大変なご様子でした。そんな中で、我々「親子の未来を支える会」に、小布施町の相談支援員さんからAさんの件でご相談をいただいて、関わらせてもらったのです。 その後、Aさんは小布施町の小学校に転入し、学校看護師を配置して通常学級へ通えるようになりました。総合栄養剤からミキサー食に変更したほか、転校から4年経った現在は、中学校の通常級に通いながらいろいろと学習され、自己注入もできるようになっています。「医療的ケア児」の定義から外れるまでに、Aさんが自分でできることが増えていったのです。 以前は「高校に通う」ことも想像できなかったかもしれませんが、今は家族も本人も高校に通う夢を叶えたいと思っていらっしゃると思います。 ―Bさんについてはいかがでしょう。 北村: 低体重で生まれて嚥下障害もあったBさんは、保育園や小学校の低学年のころは、訪問看護師さんが経管栄養の管理だけサポートしていました。その訪問看護師さんが介入していたことがとても大きくて、例えば、給食を注入しているときにBさんが欲しがるそぶりを見せた際、少し口から摂取できていたそうなんです。それを見ていた訪問看護師さんが、「口からも食べている」「もしかしたら、もうちょっと口から食べられるんじゃないか」といった情報を我々に提供してくださいました。また、通っていた放課後等デイサービスの看護師さんからも、「子どもたちが集まる場所だとBさんは口から食べようとするし、実際に少し食べている」という情報も得ることができた。こうした情報がなければ、ずっと注入だけを続けていたかもしれません。もちろん家でケアをする親御さんも、経口摂取を諦めず、チャレンジされていました。 ただ、学校側としては当然主治医の指示書通りにやらねばならず、給食を口から食べさせるチャレンジはできていませんでした。そこで私は、まず小布施町のかかりつけ医のところに行き、経口摂取へのチャレンジをすすめる意見書を書いていただけないか相談しました。その意見書や諸々の根拠・データ類を持ってBさんが通っていた小児専門の主治医に会いに行ったんです。最初は、「何言っているの?先天的に嚥下障害があるんだよ?」と言われました。でも、データを見せながらお話していくと、「少しだけなら食べさせてもいい」とおっしゃったんです。Bさんに以前から関わっている看護師さんたちのアセスメントも強い追い風になり、私たちは少しずつですが給食の経口摂取にチャレンジできるようになりました。現在のBさんは、注入しないで給食を食べられるまでになっています。 やはりBさんは、幼いころから専門性が高い訪問看護師のケアを受けていたことがとても大きかったと思います。そこで「食べられるかもしれない」と看護師が気づかなければ、我々がサポートしても、注入なしで給食を食べさせるといったチャレンジには到達できなかったでしょう。 ―AさんもBさんも、胃ろうによる経管栄養のケアをしているなかで、自立への道が広がったのですね。改めて、「食の自立」の重要性についても教えてください。 北村: まず、総合栄養剤とミキサー食では栄養がまったく異なりますし、ミキサー食のほうが当然ながら体重も増えます。 Bさんが「食べたい」と思ったのは、友達が給食を食べている様子を見たからではないかなとも思うんですね。みんなと同じ給食のメニューを、目の前に運んできます。「これをミキサーするね」と見せるんです。この時点で他のお友達と一緒のメニューだとBさんは分かります。おいしそうなごはんやみんなが食べる様子を見て、自分も食べたいという欲求が湧く。それに訪問看護師さんが気づいて、口から給食を食べるという支援につながっていきました。食べることは五感を使いますし、幸せなことです。五感を働かせる環境をつくることはとても大切だと思います。 子どもの「やりたい」「うれしい」が波及 ―通常学級で医療的ケア児を受け入れることのハードルの高さは感じますか? 北村: そうですね。全国的にもまだ難しいと思います。例えば、小布施町の事例ではないですが、15年ほど前に総合栄養食を使っていた福祉施設に疑問を感じて、ミキサー食を実施しようとしたのですが、「二回調理することになるからNG」と言われてしまいました。この施設に限らず、NGと言われるケースは結構多いと思います。そのときは、やる気のある施設長が「そんなことできるの?やってみよう!」と言ってくれたので、最終的にミキサー食を作ることができ、ご本人も親御さんも喜んでいました。でも基本的には、学校の教育現場でも調理現場でも「何かあったら困る」という考えになってしまいがちです。 初めて医療的ケア児を受け入れるのですから、先生たちが心配されるのは無理もありません。だから私たちは、Aさん・Bさんのケースでも先生たちが安心するまでは終日看護師がつかなければいけないと考え、それに賛同してくださった小布施町が予算をつけてくれたんです。看護師がケアする様子を実際に見て、学校の先生たちの不安も軽減していきました。「もう大丈夫だな」と思ったところで、看護師の派遣時間を減らしていきました。 ―多職種の連携によって、学校側も次第に安心して支援ができるようになっていったのですね。 北村: そうですね。例えばAさんの場合、地元のこども病院も協力してくださいました。たまたまAさんが入院することになったとき、訪問看護師さんや我々が作った自己注入のマニュアルを病院に持って行き、病院の看護師さん立ち会いのもと、Aさん主体で自己注入を実践しました。これが「見守りのもとなら自己注入ができる」という実績になりましたし、「これほどしっかり手技を取得できているのだから、学校でもできるよね」という考えが広がっていったのです。医療従事者や学校の先生、自治体などがひとつのチームになって連携すると、「安心」が増えていくのだと思います。 でも、やはり最も影響力があるのが、お子さん自身の「自分でできる」「できてうれしい」というメッセージですね。Aさんからは、「もう自分でいろんなことができるようになったから、そんなに看護師さんたちがケアしてくれなくてもいいよ」との言葉がありました。Aさんの成長やうれしそうにしている様子は、学校の先生や教育委員会の人たちへの最も強いメッセージになったんです。 ―子どもの自立をサポートしたい気持ちはひとつだからこそ、子どもからのメッセージは影響力があるんですね。関口さん、医療的ケア児の就学支援について、行政側が考える課題も教えてください。 関口: はい。そもそも自治体としてまだ医療的ケアが必要なお子さんを受け入れる体制が作れていない現実があります。やはり、自治体側の医療的ケア児に関する知識が根本的に足りないんです。例えば、医療的ケア児の保護者様から入園に関するご相談をいただく際も、ケア内容がケースバイケースですし、柔軟・スピーディに対応しきれていない状況なんです。 そのため、医療従事者を教育委員会内に入れたほうがよいと考えました。 教育委員会内で看護師を雇用 ―小布施町では、2023年度より教育委員会として看護師配置が決まったのですよね。 関口: はい、2023年4月以降、教育委員会内に看護師を配置しました。NPO法人「親子の未来を支える会」と契約しての連携も非常に良かったですが、契約によってどうしても業務内容が限られてしまい、やれることの限界があります。今後は保護者の相談をはじめとした初期対応や学校の先生・外部の医療従事者との連携など、フットワーク軽く柔軟な対応ができる体制に整えるようにしていきたいと思っています。 ―保健師さんがそういった動きを担うことは、やはり難しいものなのでしょうか。 関口: そうですね。そういったご質問をいただくこともあります。制度が変われば保健師が介入する道もあるかもしれません。ただ、現状保健師は母子保健のほうで手一杯で、実際に医療的ケア児やそのご家族と関われるのは、基本的に就学前だけなんです。 北村: その現状がありますね。その中で、小布施町教育委員会内の看護師配置は、今後につながるとても良い取り組みだと思います。これを機に、医療的ケア児や保護者の環境がより良くなっていくことを期待しています。 ―ありがとうございました。 ※本記事は2022年12月および2023年1月の取材内容をもとに構成しています。 執筆:高島三幸取材・編集:NsPace 編集部

これからの医療的ケア児と訪問看護
これからの医療的ケア児と訪問看護
インタビュー
2023年4月18日
2023年4月18日

医療的ケア児にまつわる課題&あるべき支援-医療的ケア児と訪問看護

厚生労働省によると、医療的ケア児(NICU等に長期入院した後、人工呼吸器・胃ろう等を使用して、医療的ケアをしながら日常を送る児童)の数は約2万人に上り、2008年ごろと比べると2倍になっています。2021年には、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行され、医療的ケア児への支援は「努力義務」ではなく「責務」となりました。そうした時代の流れの中で、医療的ケア児にまつわる課題やあるべき支援、訪問看護師できることは何でしょうか。清泉女学院大学 北村千章教授にお話を聞きました。 清泉女学院大学 小児期看護学北村 千章(きたむら ちあき)教授看護師・助産師。新潟県立看護大学大学院看護学研究科修士課程修了。「全国心臓病の子どもを守る会」にボランティアとして参加したのをきっかけに、先天性心疾患および22q11.2欠失症候群の子どもたち、医療的ケアが必要な子どもたちを、地域ボランティアチームをつくってサポート。2019年、清泉女学院大学看護学部に小児期看護学准教授として着任。慢性疾患のある子どもたちが大人になったときに居場所を持ち、ひとり立ちできるための必要な支援や体制つくりについて研究している。同年、NPO法人「親子の未来を支える会」の協力を得て、医療的ケア児の就学サポートを開始。医療的ケアが必要な子どもが、教育を受ける機会が奪われないしくみづくりを目指す。2023年4月より、清泉女学院大学看護学部 小児期看護学 教授に就任。 目標は、子どもたちの未来を広げること ―先生が理事をされているNPO法人「親子の未来を支える会」では、「赤い羽根福祉基金」による活動として、医療的ケア児の就学支援体制の構築や、「学校における高度な医療的ケアを担う看護師」(以下、「学校看護師」)の派遣、各種施設の視察、学校看護師を集めるための研修会等を実施されています。どのような想いで活動されているのでしょうか。 学ぶ意欲があり、学べる能力があっても、生活する中で医療的なケアを必要とする子どもの学び先は、特別支援学校に限られてしまうことが大半でした。「親子の未来を支える会」では、そうした子どもの就学先の選択肢が狭まってしまう現状を課題に掲げ、彼らが学校で学べるように「学校看護師の配置」の実現を最低限の目標にして活動を続けてきたのです。 以前は、人工呼吸器をつけている医療的ケア児は長生きができないという現実がありましたが、今は決してそんなことはありません。むしろ人工呼吸器をつけている状態のほうが安全であるという時代となり、医療的ケア児は成長して大人になります。そんな彼らの未来を想像すると、日常生活において自分でできることを増やしたり、彼らの持っている能力を引き出したりといった教育を、子どものころから施すことが本当に大切だと思うのです。子どもの成長を最大限に促すためにも、医療的ケアの専門知識を生かして学校職員や保護者と連携・協働ができる「学校看護師」の存在が欠かせません。 実際に支援活動を続けていると、学校で教育を受けた医療的ケア児は驚くほど自身でできることが増えていくことを実感しています。もちろん、病気や疾患を抱えているので無理はできません。主治医とも連携しながら子どもが持っている力を引き出し、これから先も続く彼らの未来が少しでも明るくなるようなサポート体制を整えていければと考えています。 教育機関に医療関係者が入るハードルの高さ ―活動されるなかで、苦労されることもあったのではないでしょうか。 そうですね。試行錯誤の連続でした。「親子の未来を支える会」で最初に支援させていただいたのは、新潟県のAさんという医療的ケア児。Aさんは小学校の途中から病気が進行して人工呼吸器をつけることになり、特別支援学校に移りました。 Aさんは知的レベルが高く、理解力もあり、何よりも本人が学校で学びたいと思っていました。でも、安全面を第一に考える学校側としては、「人工呼吸器をつけるほど重症な子どもを学校で受け入れることは難しい」という発想になってしまいます。学校側はサポートできないし、だからといって保護者がずっとAさんに付き添うという選択は、ご家族が仕事を辞めることになったり、心身ともに疲弊してしまったりする恐れもあり、現実的ではありません。教育現場に医療従事者が入ることについても高いハードルがあり、特別支援学校に移る選択肢しかなかったのです。 でも私は、Aさんの未来を考えるとやはり学校に通えたほうがいいと思い、校長先生のもとに何度も通ってAさんが学校で教育を受ける必要性や、学校に看護師を配置することの重要性を訴え続けました。先生から、「(当時の)県のガイドラインでは、医療的ケア児を学校に通わせることはNGとされているのに、北村先生はどうしてそんなに頑張るのですか?」と言われたこともあります。 ―交渉が難航する中で、どのようにして学校看護師の配置が実現したのでしょうか。 ディスカッションを重ねていくうちに、私たち以上に学校の先生たちのほうが、心情的にはAさんにそのまま学校で学んでほしいという思いが強いことに気づきました。先生は、「県のガイドラインに逆らうことは難しい」と言っていただけで、Aさんを「通わせたくない」「受け入れたくない」とは言っていなかったんです。「どうして理解してくれないのか」と訴えていた、我々の最初のアプローチのしかたが間違っていたのだと思いました。そこで一歩引いて、「どうすれば『学校看護師』の配置が実現できるか、一緒に考えていただけませんか」と相談するような姿勢に変え、先生方が主体となって考えていくと、物事が動き始めたんです。 現在は新潟県のガイドラインも変更されているので、医療的ケア児が学校に通うのはOKになりました。でも、Aさんが通い始めたときはまだガイドラインが変更される前だったので、校長先生が「人工呼吸器」を「生活補助具」として扱ってはどうかと県に提案してくださいました。そこから流れが変わり、我々のチームから学校看護師を配置できるようになり、Aさんは再び学校に通うことができたんです。 あくまでも我々は医療的ケアをする役割なので、教育について一方的に口出しするのではなく、まず先生方の考えをヒアリングすることが大切。その上で学校看護師が介入するとしたらどのような形で入ることができるのかを相談しながら、学校側を主体に話を進めていくことの重要性を学びました。このときの経験は、他の自治体で調整するときにも役立っています。 ―現在は、学校に看護師が介入するハードルは下がっているのでしょうか。 学校看護師の設置はかなり進んできましたが、全国的に見るとまだ、学校側は「どんな人が来るのかな」「あまり余計なこと言わないでほしいな」などと思いながら、恐る恐る受け入れている現状があると思います。それでは介入のハードルは下がりませんし、いいサポート連携にもつながりません。だからこそ、私たちは「学校看護師の役割」を明確にし、定義していかなければいけないと考えています。 地域で医療的ケア児を支える世の中へ ―地域連携に関しても伺っていきたいと思います。北村先生は「減災ナースながの」という活動もされています。地域の災害対応の取り組みについて教えてください。 「減災ナースながの」(https://gensainurse-nagano.org/)Webサイトより 2019年、長野県・千曲川の洪水で長沼地区のほぼ全域が浸水したという水害があった際、医療的ケア児は避難できなかったんです。幸いみんな命に別状はなかったものの、災害対応について大きな危機感を抱くようになりました。個別の支援計画はありましたが実際には何もできず、地域連携型支援も機能していませんでした。 避難所に移動するにも人の手が必要ですから、まずは医療的ケア児の存在を周囲に知ってもらえるネットワークづくりが大事だと思っています。 また、医療的ケアを必要とする人にとって電力は24時間欠かせないものであり、災害時の電力確保は喫緊の課題になります。そこで自動車メーカーの協力を仰いで、電気自動車を使用して電力を確保し、実際に人工呼吸器や加湿器の作動を試行しました。人工呼吸器は問題なく作動し、加湿器の温度上昇も確認できました。 さらに、「一緒に災害時のシミュレーションをしませんか」と県に提案し、「減災ナースながの」のホームページを立ち上げて医療的ケア児の存在を発信したり、イベントを開催して助成金を集めたりもしています。 電力確保のために動くことも大切ですが、いざというときに1日や2日でもいいので、吸引をはじめとした医療的ケアができる看護師の存在も大切になりますね。そうした連携が取れるしくみ作りを目指して、今後も活動を続けていきます。 ―医療的ケア児のケアプランを考える際、医療従事者が入っていないことにも課題があると伺っています。 高齢者の介護でケアマネジャーが介護計画を立てるように、医療的ケア児のサポート計画を考えるケアプランナーがいます。でもその役を担うのは発達支援センターに所属する相談支援専門員で、医療ではなく「福祉」の人。人工呼吸器をつけて病院から自宅に戻ってきた子どもをケアプランナーと保健師が連携して支えていますが、医療的サポートが必要だからこそ、訪問看護師が介入できる体制になったほうがいいように思います。 また、普通学級がいいのか、特別支援学級のほうがいいのかといった、子どもの就学先に関して地域の関係者が集まって話し合う「支援会議」があります。私も参加していますが、そこには保健師や訪問看護師の姿はありません。 かつて医療的ケア児は短命で、自宅に戻って来られるのは「医療的ケアの必要がない子ども」が主だったので、医療従事者が介入する必要性はないと考えられていたのかもしれません。しかし、医療技術の発達とともに医療的ケア児が増えることで、ケアの形も変化する必要があります。例えば、医療的ケア児を幼いころからサポートしてきた訪問看護師にも「支援会議」に参加してもらい、「この子はここまで自分でできます」「このサポートは続けたほうがいい」といった情報をシェアして提案してもらえるだけでも、より充実したサポートにつながるはずです。そう考えると、医療的ケア児をサポートする側と、訪問看護ステーションとの連携が大切になるとも思います。 ―訪問看護師は、医療的ケア児のケアにどのように関わっていくとよいと思いますか? 「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」では、学校における医療的ケアも責務だとされており、「学校看護師」を設置することで保護者も働けるとうたっています。しかし、実際にはそう簡単なことではありません。夜間や土日は保護者が面倒を見なければいけませんし、学校看護師の数も足りず、制度も十分に整っていません。そこで、地域の訪問看護師がさっと学校に入り、30分でもいいので子どものケアができるようになれば、本当はすごくいいなと思っています。 医療的ケア児が退院して自宅に戻ってきたときから訪問看護師に支えてもらえれば、子どもたちも保護者も安心で助かるはずです。子どもが学校に行くようになれば、その子のことも学校のこともよく知る地域の訪問看護師がサポートしていく。さらに理想を言えば、小学校から中学校に上がっても、同じ訪問看護師が継続的にサポートしていくのがベストだと思います。 訪問看護師の皆さんは、「利用者が地域で生活していくためにどうすればいいか」について普段から考えていると思います。割合としては高齢者の方へのサポートが大半だと思いますが、その中で医療的ケア児のサポートがもっと広がっていくといいなと思います。 ―ありがとうございました。次回は、医療的ケア児の保護者との関わり方について伺っていきます。 >>次回の記事はこちら見落としがちな親視点 保護者に聞く&寄り添う看護-医療的ケア児と訪問看護 ※本記事は2022年12月の取材内容をもとに構成しています。 執筆:高島三幸取材・編集:NsPace 編集部

命まで責任を負う団地自治会のまちづくり
命まで責任を負う団地自治会のまちづくり
インタビュー
2023年1月31日
2023年1月31日

命まで責任を負う団地自治会のまちづくり

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。シリーズ最終回は、「日本一住みたい」と言われる東京都立川市の大山団地。会長を15年務めた佐藤良子さんに自治会加入率100%、住民主体の運営の秘訣をお聞きした。(内容は2017年5月当時のものです。) ゲスト:佐藤良子東京都立川市大山自治会相談役1999年より東京都立川市の大山団地で15年間自治会長を務める。現在は相談役。在任中に自治会加入率100%、自治会費回収率100%、孤独死ゼロ、格安自治会葬を手掛けるなど、そのアイデアと行動力で「日本一の自治会」と称される自治会を育て上げた。2004年内閣府男女共同参画局「女性のチャレンジ賞」受賞、09年「全国防災まちづくり大賞」受賞、11年東京都地域活動功労者表彰、14年厚生労働大臣賞表彰。 新聞配達も巻き込み孤独死ゼロを達成 川越●大山団地は、自治会活動が評価され「日本でいちばん住みたい団地」といわれています。どれくらいの規模で何世帯の住民がいるんですか。 佐藤●26棟約1,600世帯です。1棟100世帯以上のところはさらに2つに分けているので31区分あります。構成はざっくり高齢者が3分の1、子育て世代も3分の1、残りがその他です。 川越●高齢者の多い団地では、孤独死が重要なテーマになっていますが、大山団地ではどうですか。 佐藤●実は、団地内でも以前、住民が孤独死されました。隣近所に助け合いの意識があれば防げたかもしれないと、以後、見守りネットワークができました。住民には自宅の両隣、つまり2軒のお宅の存在を確認してくださいと呼びかけ、郵便や新聞がたまっていないか、洗濯物はどうか、ゴミを捨てている様子はあるか。もしいつもと様子が違うなら、住民がすぐ自治会に連絡します。自治会の携帯電話を交代で持ち、24時間いつでも対応していました。 川越●まさに向こう三軒両隣ですね。効果はありましたか。 佐藤●てきめんでした。自治会費が毎月集金制なのは、実は安否確認の意味もあるんです。ほかにも、公共料金の検針時に前月からまったく使われていなかったら連絡を、新聞も新聞受けにたまっていたら連絡してもらえるよう6紙の配達所にお願いしました。 川越●お金のやりとりなしに、みんな承諾していただけたんですか。 佐藤●はい。それでも孤独死ゼロになるまで5年かかりました。2004年からは1件もありません。 ゴミ出しボランティアも無償 川越●在宅医療をやっていると、地域包括ケアの行きつくところはまちづくりであることに気づきます。佐藤さんは、そんな地域のしくみづくりに20年近く取り組んでおられたことに驚きました。たとえば、引きこもりの方は把握していますか。 佐藤●いろいろな活動に誘っても出てこないから、わかります。訪問したり電話したりしますが、引きこもりの人って「この人なら話してもいい」と人を選ぶんです。 川越●それは相性なんでしょうか。 佐藤●そうですね。「民生委員さんもお隣さんもだめだけど、○○さんなら入れてくれる」とか。ささいな会話や昔話などからその人の趣味嗜好がわかり、そこから興味がありそうなサークルがあるとか、無料の古い映画上映会があるから来ないかとか、常にコンタクトをとって誘い出します。これでうつ病が治った方もいて、病院の先生がびっくりしていました。 川越●高齢者のゴミ出しはどうなっていますか。 佐藤●捨てに行けないからゴミがたまるわけです。大山団地にはゴミボランティアさんが何十人もいます。玄関先に置いておけば誰かが捨ててくれるしくみで、いつかはわが身だから全部無償です。 川越●団地は1,600世帯もあるわけですから、当然介護を受けている人もたくさんいるでしょう。ヘルパーさんが団地を車で巡っている感じですか。 佐藤●車を使っていますね。警察に申請すると公道に停めることができる許可証をもらえますが、公道から遠い棟の場合は、住民が借りている駐車場で、介護の車に日中貸してもいい人を募って、提供しています。もちろん無償です。 川越●住民の駐車場のどこかが空いている点は、大規模団地のメリットですね。 地域のいろいろな人によって化学反応が起こる 川越●独居の方を自治会で看取ったことはありますか。 佐藤●それはまだないですね。認知症になってひとり暮らしが難しくなった人に施設を紹介したことはあります。 川越●行政との調整が必要になりますね。 佐藤●はい、行政もそうですし、ふだんから近隣のホームともかかわりをもっておくと、施設から「食事を作ってくれるパートの人を紹介してくれないか」という依頼も来るわけです。そうやってお互いに持ちつ持たれつも大事です。 高齢者にはお弁当をとっている人もいますが、いつも家でつくっているお惣菜を少し多めにつくればやれるよねと、グループで食事をつくって提供している人もいます。私はそれが当たり前にできる世の中にしたいんです。 川越●どこまでも地域住民として活動していることが強みです。よく、自治会の役員をやりたがらない人が多いと聞きますが、どうですか。 佐藤●車いすの方が、車いすを押してくれれば会合に行けると言うので、サポーターを付けました。障害のある人が役員になることで、「歩道の凸凹が不便」「集会場の段差が超えられない」など、市への要望がたくさん出ました。健常者には気づけない視点です。班長になると言ってくれた要介護の人にもサポーターを付けて、夜の会議のときには送迎もしました。 川越●医療者は医療、介護者は介護の枠で考えがちなんですけど、そうではなくてみんな地域で生きて生活していて、いろいろな人がいて、そのなかで化学反応が起こるということなんでしょうね。 佐藤●医療も介護も、葬儀にしても、どんな場合でも困らないまちを作ることだと思います。誰かが困っていたら誰かが気がつき支え合える、困らないまちづくり。それが組織を作る上での目標であり、これからも追い続けていくテーマです。 あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2017年5月発行より要約転載。本文中の数値は掲載当時のものです。

コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する
コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する
インタビュー
2023年1月17日
2023年1月17日

コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第13回は、演劇というツールを使いコミュニケーション教育に取り組んでいる劇作家・演出家の平田オリザさんと、医療や教育に必要なものについて話し合った。(内容は2018年7月当時のものです。) ゲスト:平田オリザ劇作家・演出家こまばアゴラ劇場芸術総監督・城崎国際アートセンター芸術監督。国際基督教大学教養学部卒業。1995年「東京ノート」で第39回岸田國士戯曲賞受賞。大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐、京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事長、埼玉県富士見市民文化会館キラリ☆ふじみマネージャー、日本演劇学会理事などを歴任。 医師の診療は患者との対話である 川越●平田さんは、劇作家、演出家としてだけでなく、教育の現場や自治体の依頼で演劇を用いたコミュニケーションデザインを教えていると伺いました。コミュニケーションをデザインするとは、どのようなことなんでしょう。 平田●たとえば「患者が医者に質問しにくいのは、医者が高圧的なのではなく、病院に来るまでに交通機関を乗り継いでへとへとになっているからかもしれない。それなら交通行政を変える必要があり、医療行政だけでは解決しない」というのがコミュニケーションデザインの考えかたです。 川越●がん治療中の人が、電車やバスを乗り継いで1時間以上かけて病院に来ても、外来で医師と話すのはせいぜい15分。医師がその時間で何もかも説明するのは難しく、ましてや患者さんが的確な質問をするのはより難しいでしょうね。 平田●あるセンテンスのなかで、本当に伝えたいこと以外の言葉がどれくらい入っているかを、冗長率といいます。家族との世間話がいちばん冗長率が高いように思えますが、ふだんの会話では、実は冗長率はそんなに高くならないんです。 川越●言いたいことだけを言っているわけですね。 平田●そうです。いちばん冗長率が低いのは、長年連れ添った夫婦間の「飯、風呂、新聞」という会話です(笑)。逆に冗長率が高くなるのは「会話」ではなく「対話」なんです。異なる価値観のすり合わせや新しいことを伝える瞬間なので、どうしても時間がかかってしまう。 川越●医者と患者の関係がまさにそうですね。医師の診察が「対話」だという認識はなかったです。どうしても問診をして、説明するという感じになっています。 平田●いわゆる家庭医、ファミリークリニックで実績のある方たちは、そこがうまい。 都会でも地方でも子どもの地域社会がない 川越●これだけコミュニケーションが大事といわれるのは、現代社会は人と人とのつながりが希薄になってきているからでしょうか。 平田●コミュニケーション能力とは本来、子どもがままごとやごっこ遊びで自然に身につけるものなんですが、少子化や核家族化、地域社会の崩壊などで、そういうことを経験していない子が増えています。特に小学校から私立だと、まず地域社会がない。 地方でも少子化で、隣の友だちの家まで1時間とか、学校の統廃合が進んでスクールバス通学になると、寄り道ができない。子どもにとって通学路ってとても大事なコミュニケーションの場所なんですが、社会が合理的になっていくと、どんどんコミュニケーションの機会が失われます。 川越●確かに電車通学だと、放課後一緒に遊べないですね。 平田●それに習い事などで忙しくて、同じ階層の子としか付き合わなくなってしまう。都心部だと7~8割が中学受験をするので、地域社会が完全に崩壊しているわけです。 川越●都心に住んでいても、遠くの大病院にわざわざ1時間かけて行くのと似ていますね。 平田●私は都内の国立大学でも教えているんですが、学生の8割が男子、7割が関東出身、6割が中高一貫校の出身で、ディスカッション型の授業をやっても、みな同じ意見になってしまう。「貧乏って何?」という感じで、実感としてわからないんですね。 川越●在宅医療はご自宅に行くので、さまざまな家庭があることを自然に経験できて、医療は画一的にはできないことを学ぶんですが、病院しか知らないと、ベッドの上の患者さんは生物としての対象になってしまうのと同じですね。 勉強はできても異性とちゃんと話せない 平田●ある進学校で演劇教育を取り入れているんですが、男子校なので、うちの劇団に「女性との付き合いに慣れさせたいので、そういう劇をやってほしい」というオーダーがくるんです。 それで行ったら、うちの女優が初対面の高校生にいきなり「バストいくつですか」と聞かれたことがあって、保護者会などでこの話をすると、さすがにお母さんたちも焦る。だってそういう子たちが弁護士や医者になるんですから(笑)。勉強はできても、異性とちゃんと話せないんですね。 川越●男性の生涯未婚率が23パーセント(注:2018年時点で最新のデータであった2015年数値)という現実もあり、均質化やコミュニケーション能力が乏しいことが少子化の原因の一つかもしれません。男女交際の話は、もう国家施策としてやったほうがいいかもしれませんね(笑)。でないと国が滅びます。 文化による社会包摂の機能が見直される 川越●これから都市部では孤独死などが増えていくと思いますが、あれはインフォーマルな見守り機能が崩壊しているからだと思うんです。 平田●あとは行政もなかなか手が出せないようなごみ屋敷の問題。あれも完全に社会と隔絶してしまった結果でしょうね。 川越●毎日、何らかのかたちで自然に社会とつながっていれば、そういうことは抑止されるかもしれないですね。 平田●最近、文化による社会包摂機能というものが見直されています。何でもいいから、とにかく社会とつながっていてもらいたいと。 川越●コミュニティとしてのつながりが増えないかぎり、包摂機能は尻すぼみになって、ごみ屋敷や孤独死として顕在化するのでしょうね。 今まで、学校は知識を与える場所、医療機関は医療を施す場所のように思われていましたが、そんな単純な話ではなくなっていて、これからは社会のあらゆるところにコミュニケーション教育をビルトインしていくことが求められているんですね。 >>次回「命まで責任を負う団地自治会のまちづくり」はこちら あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2018年7月発行より要約転載。本文中の数値は掲載当時のものです。

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