2021年9月14日
病院以外の看護を形にした先達者だからこそ、今言えること
トップランナーから現場へのエール
訪問看護のパイオニアの一人として活躍した宮崎和加子さん。 今回は、訪問看護の夜明けから現在までのご自身の活動をお話ししていただきました。
病院以外の看護を事業として形にしたころ
私が看護師になった1970年代は、看護学校を卒業して病院に入職し、実践を積みながら看護の面白さに気がつくことが多かったと思います。でも私は学生のころから、休みを使って全国のさまざまな地域での看護の実態を見て歩くうち、病院以外の看護の形があることを知りました。当時、日本の高齢者はまだ10%足らずでしたが、日本のこれからの医療や福祉をどうするかという議論が活発になされるなか、私は在宅訪問看護という新しい分野の仕事をつくり上げていきたいと思っていました。
そういうことが実践できる場と仲間がいると知り、学校卒業後は東京都足立区にある医療法人財団健和会の柳原病院に入職しました。当時は訪問看護という制度はなく、医療機関や自治体での試みが少しなされているだけでしたが、柳原病院には、現実を見すえて、地域医療を実践している医師や看護師が多数いました。
そのうち、医療保険で訪問看護が1回1,000円で認められるようになり、やっと訪問看護ステーションの原型ができはじめました。そして1992年、柳原病院の看護師3人で、北千住訪問看護ステーションを開設しました。このステーションは東京都指定第一号となり、数年後には、私は13か所の訪問看護ステーションを束ねる統括所長に就任しました。こうした動きは全国でも広がりをみせ、訪問看護ステーションが全国に誕生していった時期でした。
複数の訪問看護ステーションを束ねるうち、「訪問看護ステーションは必要とされている。やりたいと考えている看護師も多い」と確信を持ちました。それにもかかわらず、全国のステーションの開設数はなかなか増えていきませんでした。なぜかというと、実際には報酬が低くて経営していくことが困難だったからです。そこで私は、現場の仲間たちと全国の訪問看護事業所を調査し、訪問看護が事業として成り立っていくよう、国に意見を出しながら仕事を続けました。
介護保険の誕生が可能にした多様な在宅看護の形
2000年の介護保険法施行と同時に、訪問看護事業は、株式会社など営利企業でも設立できるようになりました。看護師が独立して、自分で株式会社やNPO法人を立ち上げてやっていける時代になったことは、訪問看護の普及に大きく貢献しました。
気がつけば、私の周囲の看護師たちも独立し、自分でステーションを立ち上げる人が増えていました。それも訪問看護だけでなく、ホームホスピスのようなものを含め多様なサービスを提供できる形を整えて、地域で看護を提供しています。2011年には在宅ケアのさまざまなサービスと訪問看護を一体化した「複合型サービス」が誕生し、14年には「看護小規模多機能型居宅介護」と名称を変え、訪問だけではない在宅看護が、制度に位置づけられました。
私は、全国の訪問看護ステーションを訪ね歩いて現場の看護師の声を聞き、それを本にしたり講演活動のなかで紹介したりしてきました。2010年、全国訪問看護事業協会で訪問看護ステーションの普及・整備にかかわるようになり、なかなか増えなかった訪問看護ステーションの開設数を増やすべく、介護保険法改定時の報酬をプラスにするような活動も続けてきました。
本当にやりたいことは何? 還暦からのスタート
そうしたなか、私自身は次第に、再び直接患者さんに寄り添って、一緒に喜んだり悲しんだりしたいと思うようになりました。そして60歳の定年を契機に、八ヶ岳南麓の山梨県北杜市に移り住み、一般社団法人だんだん会を設立しました。還暦からの出発です。
ずっと東京で活動してきたのに「なぜ山梨に?」と多くの人から聞かれました。理由は明快です。自然環境が抜群で、山々に囲まれ、水が豊かで夏でも扇風機が要らない。素晴らしいところに住み、年を重ねたいと思ったからです。しかしそこに住みつづけるためには、地域のサービスの種類と量が不足していました。そこで、訪問看護だけでなく、不足しているサービスを立ち上げ、運営することにしました。
それは、私が長年訪問看護事業の普及に奔走していたころから感じていた「訪問看護だけでは地域はよくならない。看護職がもっと力を発揮できる場はほかにもある」という信念から生まれたものでもあります。
だんだん会は、地域で暮らす看護を必要としている人に直接的なケアを提供するだけでなく、認知症になっても穏やかに暮らせるグループホームや、要介護度・入居期間を問わないシェアハウスなどを運営しています。地域の皆さんにも積極的にかかわっていただき、収益事業ではない認知症カフェなど、誰もがともにいられる居場所づくりにも力を入れています。
だんだん会の一連の事業は、ステーションを運営している管理者が、将来自分たちもこのような「地域の居場所」を作りたいと思えるようなモデルになればという側面もあります。介護保険法施行後、自らステーションを設立して頑張ってきた人の多くは、中高年の方が多いと思いますが、地域のニーズをしっかり見極め、事業を起こすタイミングを見逃さず、ぜひ訪問看護だけでない地域看護の素晴らしさを広めていただきたいと思います。
(後編へつづく)
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宮崎和加子一般社団法人だんだん会理事長
記事編集:株式会社メディカ出版