インタビュー 2021年1月21日 2021年1月21日 研究を飛び越えて、魅せる強み ビュートゾルフ柏では「住み慣れた地域での穏やかで彩りある人生に生涯を通じて伴走する」をモットーにしています。研究と臨床を両立しているからこそできる、制度の活用やステーションを運営することになった経緯について伺いました。 ビュートゾルフの4要素 ―モットーには、どのような思いが込められていますか。 吉江: イメージしているのはイギリスやオランダの家庭医みたいなものです。 同じ地域の中で「この人は支えるけど、この人は支えない」ということはなくて、子どもでも、高齢者でも、障害のある方でも、すべてみる。地域の住民全体と契約をするイメージです。 精神科や小児科など何かに特化するというやり方は性に合わなくて、特化するなら区域に、と考え立ち上げのときに作った絵がこちらです。今もこのコンセプトは変わっていません。 訪問看護ステーションという形で立ち上げたのですが、それだとどうしても基本自宅にいて、外出しないという方が対象になってしまい、元気に外を歩いている方とは仕事上でお会いする機会がないですよね。そこをなんとかしたいと思いました。 訪問看護ステーションを始めた時期に、行政の地域支援事業として住民による通いの場や生活支援体制整備事業が推進され始めました。 タイミングも良かったので、私たちもやってみたら、たまたまうまくいきました。これは、ビュートゾルフの4要素に通じるものがあります。 ―ビュートゾルフの4要素とは、どういうものでしょうか? 4要素とは「場」「住民」「看護師」「各種制度をうまく組み合わせる知恵」のことです。 「看護師」と「住民」が互酬的な関係を持ち、また住民同士が支え合う「場」を作る。その際に「各種制度をうまく組み合わせる」ことで、補助金や助成金などを上手く利用していくというのが、基本的な考えです。 ―地域支援事業などを上手く利用していくにはどうしたら良いでしょうか。 制度を組み合わせる知恵というのは、地域包括ケアの分野で研究をしてきた私の強みでもあるかもしれません。 地域包括ケアのしくみは本当に細分化されていて、これをやらせてあげる代わりにこれが義務として発生するなど、一長一短があるなと思っています。 そこを熟知して役所とも渡り合いながら、本当の意味で住民をハッピーにできるような道具だけを使っていきたい、足枷を増やさないように努めています。 研究から実践へ ―なぜ吉江さんは、オランダのビュートゾルフを日本に導入して、ステーションを始めようと思ったのですか? 吉江: 当時は東京大学で研究職をやっていて、千葉県柏市の在宅医療のプロジェクトなどをやっていました。看護師として地域包括ケアに関わる中で、私自身も訪問看護ステーションの運営を経験してみたいなと漠然と思っていました。 その時期にちょうど、オレンジクロスという新設の財団法人でビュートゾルフの研究プロジェクトを1年間やるので、プロジェクトマネジャーみたいなことをやらないか誘われたことがきっかけです。 ―ビュートゾルフのプロジェクトとはどのようなものだったんですか? 吉江: 正式名称は地域包括ケアステーション実証開発プロジェクトといいます。 日本でもビュートゾルフの考え方を広めるために、もし日本でやるとしたらどういう形がいいのか、みんなで勉強しながら進めていくプロジェクトでした。 黒船が来たみたいに拒否反応を示されるのは避けつつ、ビュートゾルフの名前を使う、使わないに関係なく、日本の実践者のみなさんにも参考になればいいなという思いで、研究を進めていました。 その中で、ビュートゾルフの名前を使って実践しているところも必要だよねという話が出て、私が訪問看護ステーションを立ち上げることになりました。 一般社団法人Neighborhood Care 代表理事 / 東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員 / ビュートゾルフ柏代表 / 看護師・保健師 吉江悟 東京大学に入学後、看護学コースに進学し、看護師の資格を取得。大学卒業後は、大学院の修士課程と博士課程に進学。並行して保健センターや虎の門病院に勤務。大学院卒業後は、東大の研究員や病院での非常勤講師と並行して、在宅医療のプロジェクトに関わるようになる。2015年に、研究として関わっていたビュートゾルフを日本でも展開するプロジェクトとして、ビュートゾルフ柏を立ち上げ、代表に就任。現在も、看護師として現場に関わりながら、研究員としてさまざまなプロジェクトに参加し、臨床と研究の両立を大切にしている。 地域で活躍する訪問看護ステーションについてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。 この度はNsPaceにお越しいただき、ありがとうございます。 NsPaceは訪問看護に携わる皆さま、これから携わりたいと思っている皆さまのための場所です。 日々、皆さまのお仕事に役立つ情報を発信していく予定ですので、よろしくお願いします。 ご面倒かと思いますがご利用の際は、会員登録(無料)をお願い致します。
特集 2021年1月20日 2021年1月20日 地域に信頼される訪問看護ステーションになろう 病院から在宅へと療養の場が移り変わる中、地域包括ケアシステムの必要性が求められています。その一端を担っているのが、訪問看護ステーションです。そんな中、「もっと地域に貢献したいけど、どんなことをすればいいかわからない」という方もいるのではないでしょうか。この特集では、コミュニティカフェの運営や見守りネットワークを構築を通して地域で活躍するステーションにスポットライトを当ててご紹介します。 「見える事例検討会」で地域力の底上げに貢献 木のように伸びる地図が、カラフルに描かれたホワイトボード。「見え検マップ」と呼ばれるこの地図は、課題解決の糸口を見つけるのに役立ちます。冨田さんは、病床数が減り病院の受け皿が少なくなる中、在宅メインの生活を実現するためには多職種連携が必要と考え「見える事例検討会」を開始しました。「名刺交換したらネットワークが広がった気になることもあると思うんですが、名刺交換した人がどんな気持ちで利用者さんと関わっているか、知る機会はなかなかありません」野花ヘルスプロモート代表の冨田昌秀さんは語ります。「見える事例検討会」は医療面に偏りがちな医療者の視点に対し、ケアマネジャーなど他の職種は社会面や経済面など異なった切り口で事例を見てくれるため、お互いを補い合う関係性に気づくことができます。また、自分の事業所はこんな思いで訪問看護をしています、と地域の方々に知ってもらう場にもなり、交流だけでなく事業所のPRにも繋がります。それ以外にも、NOBANASIDE CAFEというカフェ運営、地域の見守りネットワーク「みま〜も」の活動など、幅広く活動しています。地域に出ていくことで、普段の訪問看護だけでは繋がれないような方と繋がることもでき、自然とファンが生まれるのです。詳しくはこちらの取材記事をご覧ください。地域の強みを活かし合う「見える事例検討会」とは(野花ヘルスプロモート 冨田昌秀) 住民同士が支え合える環境づくりも、看護のひとつ ビュートゾルフ柏(千葉県柏市)では、地域住民を巻き込んでコミュニティカフェの運営をしています。カフェは住民がおしゃべりをしたり、ボランティアさんが昼食を作ってくれたり、ご近所さんや小学生が遊びに来たりなど、地域住民の居場所となっています。研究者でもある代表の吉江さんは、自治体とも協力した地域支援事業として通いの場の運営を始めました。「訪問看護ステーションという形で立ち上げたのですが、どうしても基本自宅にいて、外出しないという方が対象になってしまいます。元気に外を歩いている人とは仕事上でお会いする機会がないですよね。そこをなんとかしたいと思いました」と語ります。住民と看護師が持ちつ持たれつの関係をつくることを目指し、また、住民同士が支え合える環境づくりも看護のひとつと考えて運営をされています。開設にあたっては地縁のある柏市役所のOBさんから、ボランティアの核になってくれそうな人を紹介してもらい、運営の手伝いをしてもらっているそうです。住民の方との繋がりでネットワークを拡大することが、地域との接点を持つための鍵になるようです。詳しくはこちらの取材記事をご覧ください。研究を飛び越えて、魅せる強み(ビュートゾルフ柏 吉江悟) 地域に出ることが看護師のモチベーションにも繋がる 「元気なころから訪問看護ステーションの看護師が関わっていれば、利用者さんとしても安心できるし、例えば看取りの時期も本人自身では思いを表出できなくなったとしても、その方の生き方を支えていけると思うんです」牧田総合病院(東京都大田区)の地域ささえあいセンター長の澤登久雄さんは言います。澤登さんは、前述の「みま〜も」の立ち上げに携わった第一人者です。今では大田区以外にも広がり、高齢者の見守りネットワークを各所で展開しつつあります。「みま〜も」にも看護師をはじめとした専門職が関わっており、地域の元気な高齢者と共に活動することでモチベーションの向上にも繋がっているそうです。地域の活動で出会った住民の方が、何かあった時に「この訪問看護ステーションを選びたい」と思ってもらえることも組織のメリットになります。地域で多職種や住民で集まる会が盛り上がりを見せている今、そういった会や地域の活動に参加することで、顔が見える関係になることができます。詳しくはこちらの取材記事をご覧ください。地域に選ばれる訪問看護ステーションになる(牧田総合病院 地域支えあいセンター 澤登久雄) こうした関わりで地域からの信頼度もアップし、地域に根付いたステーションになっていくのではないでしょうか。保険サービス以外に地域での活動がしたい方のヒントになれば幸いです。 この度はNsPaceにお越しいただき、ありがとうございます。 NsPaceは訪問看護に携わる皆さま、これから携わりたいと思っている皆さまのための場所です。 日々、皆さまのお仕事に役立つ情報を発信していく予定ですので、よろしくお願いします。 ご面倒かと思いますがご利用の際は、会員登録(無料)をお願い致します。