多職種連携に関する記事

ケースメソッドで考える管理業務
ケースメソッドで考える管理業務
特集
2023年5月2日
2023年5月2日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その2:桐山さんが抱えている問題は何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第11回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」を考えます。 はじめに 前回(「その1:まずすべきことは何か」参照)は、利用者からのクレームがあったときの初動対応について、それぞれの考えを出しあいました。続く今回は、前回のCさんの発言を受け、桐山さんが抱えている問題に注目することで、どんな支援ができるかのヒントを明らかにしていきます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 桐山さんが抱えている問題は何か 講師桐山さんはこのステーションで力を発揮しているとは言い切れないと思います。その原因はなんでしょうか。どんな問題を桐山さんは抱えていると考えますか。 Aさん注2入職3ヵ月とあるので、まだこのステーションには慣れていないと思います。しかも、すでにいるほかのスタッフよりも看護師経験は長く、即戦力というプレッシャーもあって、ほかのスタッフにSOSを出すのも難しいのではないでしょうか。 Bさん経歴をみてみると、以前働いていた訪問看護ステーションの経験が、今の仕事に悪影響を及ぼしているのかもしれません。ステーションごとに記録のしかたのような基本的なところでもいろいろ違いがあるでしょうし、そのほかにも暗黙の前提とかもよくありますよね。ステーションからどんな働きを期待されているかも、明確にされていなくてわからないですよね。 Cさん仕事をしていて疑問に思ったことを誰に聞いていいのかわからない可能性はありそうです。本人の性格もあるかもしれませんが、ほかのスタッフに気軽に聞ける状況ではなさそうです。 Dさん桐山さんの看護技術が劣っているとは思いませんが、もしかすると、クレームがあった利用者のケアには必要な知識やスキルが不足していたのかもしれませんね。 「桐山さんが抱えている問題は何か」の小括 桐山さんが抱えている問題はいくつもあることがみえてきました。ではこの問題についての理解をより深めるために、問題の前提となっている状況と、その状況をふまえた上で生じる課題についてみていきましょう。 桐山さんが置かれている状況の特徴 桐山さんを「中途採用で新しくステーションに入職した人」ととらえると、桐山さんが困難な状況に陥りやすい特徴が二つみえてきます。 1つ目は、即戦力とみられることから周囲のサポートが低くなり、それに伴い、社会的なプレッシャーにさらされることです。 2つ目は、前職で獲得した業務のやりかたや信念といったもののうち、新しい職場では通用しないものを捨て去る必要があることです。 桐山さんが抱えている課題 議論のなかで、桐山さんが抱えている課題が4つ出てきました。 ・ 今の職場だと通用しないことを捨て去る必要がある(学習棄却課題)・ 職場からどのような役割を期待されているのかわからない(役割学習課題)・誰に質問してよいかわからない(人脈学習課題)・必要なスキルが不足している(スキル課題) 次回は、このような状況や課題を理解し、管理者として桐山さんに対してどのような支援ができるのかについて考えていきます。 >>次回「その3:管理者としてどのような支援ができるか」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇中原淳.『経営学習論』東京,東京大学出版会,2012,155-184.

ポータブルエコーの基礎知識
ポータブルエコーの基礎知識
特集
2023年4月18日
2023年4月18日

手軽で便利…でも難しい? 訪問看護師が知っておきたいポータブルエコーの基礎知識

新たなアセスメントツールとして訪問看護でも採用され始め、最近話題のポータブルエコー。使ってみたいと思っても、基礎教育を受けていない看護師にとっては、難解な専門用語を前に、敷居が高いと感じる人も多いのではないでしょうか。東葛クリニック病院でエコー回診を担い、その技術と判断方法を看護師にも指導している臨床検査技師・佐野由美先生に、エコーのしくみと使うために必要な基礎知識を教えていただきました。 音の反射信号を画像化するエコー エコーは、人の耳には聞こえないほどの高い音(超音波)をプローブから出して臓器にあて、跳ね返ってくる信号をプローブが受信し、画像化します。患者にとって無侵襲で、レントゲンのように被曝がなく無害であるため繰り返し検査することができます。 また、レントゲンは撮影後すぐに見ることができませんが、エコーならばリアルタイムで見ることができます。エコーで見ることができるのは、実質の臓器(中身の詰まっている臓器:肝臓、腎臓、膵臓、脾臓など)。尿や血液も見られますが、空気、骨に対しては不向きです。難点は、エコー画像の判断が実施者の技量に大きく左右されるところです。 エコーは深さ・部位ごとに3つのプローブがある プローブは3種類あり、見る深さや部位によってプローブを替える必要があります(図1)。お腹のやや深い部分、例えば膀胱を見る場合は、周波数の低いコンベックス型プローブを使います。コンベックス型プローブは先端が丸くなっており、広い範囲を観察することができます。 褥瘡エコーは表皮に近いところですので、体表に近い部分(乳腺や甲状腺、血管など)を見る周波数の高いリニア型プローブを選択します。薄く小型のセクタ型プローブは心臓に特化したもので、肋骨の間から心臓を見ることができます。 図1:「プローブの種類と使い分け」(提供:佐野由美氏) プローブの持ち方・走査方法 まず、プローブにゼリーを塗り、親指と人差し指、中指でプローブを握り、薬指は肌に添えて固定します(図2)。 図2:「プローブの持ち方 良い例 悪い例」(提供:佐野由美氏) 握りしめたり、持つ位置が上になりすぎたりしないようにしましょう。初心者は、固定が不十分で、強く握りしめすぎるあまり、細やかな動きができなくなりがちです。 横断像は、体軸に対して垂直にプローブを置き、縦断像は、体軸に並行にプローブを置いて描出します。この時、プローブマークの位置が重要です(図3)。 図3:「プローブマークについて」(提供:佐野由美氏) プローブマークとは、プローブの横についている突起のことです。このマークを横断像では患者の左側に、縦断像では患者の足側に向けてプローブを持つことが基本です。横断像ではプローブを当てた部分で切った断面を下からみた画像、縦断像ではプローブを当てた部分を切った断面を右から見た画像がそれぞれ描出されます(図4、図5)。 図4:横断像 (提供:佐野由美氏) 図5:縦断像 (提供:佐野由美氏) そこで重要となるのが、人体の解剖についての知識です。「この断面だから、この臓器がこんな形で見られるはず」とイメージできるようにしておく必要があります。私がエコーを教える時は、実際の解剖図を照らし合わせながら、画像を見ています。 走査方法は2つあり、プローブの角度を変えずに平⾏にスライドさせる平行走査と、プローブ設置面を支点とし傾けながら扇状に動かす扇動走査があります(図6)。 図6:平行走査と扇動走査 (提供:佐野由美氏) エコー画像 調整・判断の知識 エコーを扱う際には、画像の調整(ゲイン、フォーカス、ダイナミックレンジなど)の知識が最低限必要になってきます。特に、ポータブルエコーでは、全体の明るさを調整するゲインの知識が重要です(図7、図8)。 図7:画像の調整(提供:佐野由美氏) 図8:明るさの調整 ゲイン (提供:佐野由美氏) また、画像の判断で最低限覚えてほしいのはエコーレベルです。エコーレベルには、真っ黒の無エコーから、真っ白の高エコーまであり、そのエコーレベルで画像を判断していきます。戻ってきたエコーの力が大きい(硬いもの)ほど、白で描出され、小さい(柔らかいもの)ほど、黒で描出されます。しかし、空気やガスは例外で、白く見えます。 図9:エコーレベル (提供:佐野由美氏) 膀胱は見えやすい方ですが、尿の貯留具合などで左右され、個人差があります。健診で来られる方々はきれいに見えることが多いですが、高齢者は便秘気味でガスが多く、見えにくくなりがちです。 そのほか、エコーには、アーチファクト(画像ノイズ)という、実際には存在しないのに映し出される虚像がつきものです。理解していないと誤診につながる場合や、画像判断の手がかりにできる場合もあり、知っておく必要があります(図10)。 【多重反射】強い反射面が体表面付近で並行に向き合っている場合、反射面の実像の後方に砂を敷いたような画像に見えることがある。 【サイドローブ】エコーはプローブからまっすぐ垂直の方向に放射されるメインローブによって画像が抽出されますが、斜めの方向に放射されるサイドローブによって実像とは異なる画像が抽出されてしまうことがある。 【音響陰影】エコーを強く反射または吸収する物質の後方は、エコーが減弱あるいは消失した領域となる。これを音響陰影という。 【後方エコー増強】音響陰影とは逆に周囲に比べて白く描出されます。画面上にある嚢胞の後方が輝度が高くみえている。 【鏡面現象】鏡に映りこんでいるものが、鏡の向こう側にもあるのと同様に、エコーでもその現象が起こることを鏡面現象という。エコーを強く反射する平面があると、鏡の役割を果たして起こる。 図10:アーチファクトの一例 (提供:佐野由美氏) ポータブルエコー 技術習得と機器選びがカギ エコーは、臨床検査技師でもまだまだ未熟な領域が多くあり、使う人の技術がカギを握ります。研修やアフターケアで質問を受け付ける教育機関があり、看護師は超音波検査士という資格の対象職種となっています。管理者は、ある程度一人が習熟してから次を育てる、というように長いスパンで教育プランを作成する必要があるでしょう。 また、ポータブルエコーは以前より低価格になったとはいえ、最低でも数十万円以上と、決して安くはありません。でも、安いものはどうしても画質が劣ります。画質が悪いエコーでは分かりにくいため、途中で諦めてしまったり、継続使用ができなくなったりするケースがあります。個人的には、初心者の方は、低価格のものより画像がきれいな機器を選んでほしいと思います。 取材協力佐野由美氏(臨床検査技師)編集:メディバンクス株式会社 【引用・参考】(1)田中宏治. 『ナースのためのポケットエコー実践ガイド』 医歯薬出版株式会社, 2020.(2)『超音波検査技術テキスト』 一般社団法人日本超音波検査学会, 2012.(3)真田弘美・藪中幸一・野村岳志(編集). 『役立つ!使える!看護のエコー』 照林社, 2019.

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年4月11日
2023年4月11日

【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACEのキャリアパス&訪問時のピラティス活用法

全国の主要都市に100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACEは、ピラティスのノウハウを在宅医療へ導入するという新しい取り組みを行っています。今回は、ZEN PLACE訪問看護の日高さんに、ZEN PLACEにおけるキャリアや実際にどのようにピラティスを訪問看護に取り入れているのかなどを伺いました。 >>前回の記事はこちら【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護ウェルビーイング創造のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 スタッフのニーズに合わせたピラティス研修 ―ZEN PLACEでの研修やキャリアについてお聞かせください。入職してからピラティスのインストラクター資格を取得することも可能だそうですね。 はい、可能です。福利厚生の一環でスタジオを利用することができるので、趣味としてスタジオに通うスタッフもいれば、ピラティスを学び将来的に職務に活かそうとするスタッフもいて、さまざまですね。実際に入職してから資格を取っている人もいますよ。 ZEN PLACEでは、WE(Wholebody Educator)と呼ばれるスタジオのスタッフが、訪問看護師向けに理念やピラティスの概要説明を行う研修があります。興味を持ちピラティスの資格を取りたいと思った場合は、養成コースに通うこともできるんです。 以前は、インストラクターと両立している看護師や理学療法士がいたこともありますね。現在は、基本的に訪問看護をしたいのであれば看護師としてステーションに所属し、スタジオでピラティスを教えるインストラクターになりたい場合はスタジオに所属するというパターンが多いです。 ピラティスを取り入れた訪問看護とは? ―実際、どのように訪問看護にピラティスを取り入れているか教えてください。 訪問時に「ピラティスだけをやる」ということはなく、基本的には訪問の目的に応じて、できるピラティスの動作を行っていただくことが多いですね。利用者さんの既往や現在の疾患、ADLの状況に応じてできない動作もあるので、可能な範囲内でピラティスの一部を行っていただくイメージです。 例えば、すぐにできるものだと呼吸のしかたですね。呼吸だけでもすごく変わりますよ。病気の有無にかかわらず、現代人は不安やストレス、不規則な生活から呼吸が浅くなりがちです。ピラティスは「鼻から吸って口から吐く」という呼吸で行うのですが、この呼吸のみを利用者さんと一緒に行うこともあります。(図1)。 図1:座位での呼吸練習 これを続けるだけで身体が温かくなってきますよ。利用者さんは疾患のことや将来のことなど、さまざまな不安を抱えているケースが多いのですが、呼吸を変えると気持ちも落ち着きやすくなります。お話を聞きながら、「ピラティスで行う呼吸を少し練習してみましょう」と促しています。 特に身体動作に支障がなければ、上向きになって骨盤を傾ける動作もしていますし(図2)、頭が後ろに行ってしまってうまく起き上がることができない方には、「ローリング」という背中を丸めて転がる動作をリハビリに組み込んで、起き上がりがうまくできるようにサポートすることもあります(図3)。 図2:骨盤の位置確認 図3:起き上がりの練習動作 夜眠れなくて眠剤を使っている利用者さんに、できるだけリラックスして穏やかに眠れるように、「ピラティスをしてから寝てみましょう」とお声がけしたところ、しっかり継続してくださった事例もありました。また、リハビリによる基本的動作の改善を実感していただいたり、「すごくスッキリしました」「リフレッシュしました」と言っていただけたりすると、もともと転職をしたきっかけがピラティスだったこともあり、とてもうれしくなりますね。 病院だとどうしても治療が優先なので、点滴や内服に頼らざるを得ないところもありますが、在宅ではお家でその人らしい生活をしていけるように促していけたらいいなと思っています。 少しずつ確実に広がっているピラティス ―訪問時には、基本的に毎回ピラティスを取り入れているのでしょうか? 利用者さんによってまちまちですね。場合によっては、当然医療的なケアを優先します。リハビリを担当する理学療法士のほうが積極的にピラティスを取り入れていて、訪問看護師は医師からリハビリの指示があった利用者さんに対して可能な限りピラティスを取り入れています。 指示書に「ピラティス」という言葉が入っているわけではないですが、「筋力低下の予防」や「歩行訓練」等の指示をいただいた際に、必要な動作や姿勢の形成にピラティスを用いますね。 ―利用者さんから「ピラティスを取り入れてほしい」と要望があるケースはありますか? ステーションの特徴としてピラティスを謳っているので、それを見て時々連絡して下さる方はいらっしゃいます。ただ、まだ医療・介護領域で一般的ではないこともあるせいか、利用者さん自ら「ピラティスを」とご要望をいただくことは少なく、こちらから働きかけて組み込んでいくことの方が多いですね。 ―訪問看護にピラティスを取り入れた際、介護保険の加算は取れるのでしょうか? 残念ながら加算が取れるわけではありませんが、「こういうエクササイズをしています」と報告書に書いて医師に伝えることはしています。 ―リハビリの一環として、ピラティスも取り入れているというイメージですね。 そうですね。ZEN PLACE以外でもこうした動きは強まっていて、最近はピラティスを学ぶ医療従事者の方が増えていると感じています。病院内のリハビリに取り入れているケースもありますよ。 ZEN PLACEのスタジオや養成講座に違う病院やクリニックで働く看護師の方が通われていることもありますし、ピラティスの必要性を感じている医療従事者が増えているようで、うれしいですね。 ―ありがとうございました。次回は、看護師がピラティスを行うメリットや気軽にできるピラティスの動作について伺います。 >>【ピラティス×訪問看護】初心者でもOK。気軽にできるピラティス基本動作 ※本記事は、2023年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 編集・執筆: 合同会社ヘルメース取材: NsPace編集部 【参考】○ZEN PLACE「【医療従事者向け】ピラティスインストラクター養成コース」https://www.pilates-education.info/courses/healthcare2023/3/20閲覧

管理業務への処方箋
管理業務への処方箋
特集
2023年4月4日
2023年4月4日

CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか_その1:まずすべきことは何か

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第10回は、クレームを受けたとの報告がスタッフからあったとき、管理者としてまず何をすべきかについて考えます。 はじめに 「利用者からのクレーム」は、ないに越したことはありません。しかし、クレームがあったときに、管理者として適切な対応ができるよう、事前に考えておくことは有用です。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE4 クレームを受けるスタッフをどうするのか 入職3ヵ月になるスタッフナースの桐山さんから、「利用者のJさんから『桐山さんには訪問に来ないでほしい』と言われた」と報告を受けた。 桐山さんは病院で3年、いくつかの介護施設で6年、他社訪問看護で1年の経験のある看護師。とても真面目な性格で、職場で冗談を言うこともなく、むしろ冗談を間に受けてしまう様子がある。何かを伝えると一語一句漏らさずに細かな字でメモをとるが、肝心なときにそのメモがどこにあるのかわからずミスをしてしまうのだ。 当ステーションは、管理者と桐山さんを除くと20歳代の看護師が2人。入職時期は2人のほうが早いが、年齢的にも看護師としての経験年数も桐山さんのほうが上である。ほかのスタッフと軽く雑談をすることも桐山さんには難しいようだ。そして他スタッフからは「桐山さんとは一緒に働きづらい」と相談を受けている。管理者として、どうすればよいだろうか? 設問もしあなたがケースに登場する管理者であれば、桐山さんやほかのスタッフに対してどのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 管理者としてまずすべきことは何か 講師このケースで議論したいことは、CASEのタイトルにもあるようにクレームを受けるスタッフをどうするかです。まず管理者としてやるべきことは何でしょうか。 Aさん注2桐山さんとの面談が必要です。「訪問に来なくてもよい」と言われた状況を確認したいです。CASEに書かれた情報だけではわからないことが多いです。 Bさん桐山さんとの面談の後は、利用者や家族のところへ伺い、桐山さんからほかの看護師に変更してほしい理由を確認します。その内容から桐山さんと一緒に訪問内容を考えるなどして、解決できることかどうかを判断します。ルート組み替えの場合、誰に行ってもらえばいいか等も考えます。 Cさんルートの組み替えはほかのスタッフへの影響もありますし、桐山さんの今後も考えると、できることなら桐山さんに訪問を継続してもらいたいと私は思います。そのためにもまずは、桐山さんの利用者へのケアを同行訪問で確認したいです。そのときに、看護技術のチェックリストを用意しておいて、できるだけ主観的ではない指標で確認したいです。これができると桐山さんへのフィードバックもやりやすいです。 講師「クレームがあった」と報告を受けたときの、初動対応の案が出てきました。まずは事実確認が大事ですね。桐山さんと利用者、まずはこの二者からの事実確認が大切になります。そして看護技術についてチェックリストを使って確認するという意見も出ました。 クレームを発生させないために管理者ができることは何か 講師初動対応時にやるべきことがいくつか出ました。これとは別に、Cさんは桐山さんに訪問を継続してほしいという意見を持っていましたね。このことについてもう少し伺ってもいいですか。 Cさんクレームがあったときの初動対応としてはみなさんの発言のとおりだと思います。その上で、管理者は、ステーション全体としてクレームが生じないような取り組みもすべきだと思います。利用者から「訪問に来ないで」と桐山さんが言われたことは事実かもしれませんが、ケースの状況を考えてみると、クレームを受けた原因が桐山さんだけにあるとは思えません。桐山さんは入職して3ヵ月です。まだまだ支援が必要だと思います。 次回は、このクレームをスタッフナースの成長支援の機会ととらえ、管理者として支援を行うために、まずは「桐山さんが抱えている問題」について考えていきます。 >>次回「その2:桐山さんが抱えている問題は何か」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com編集:株式会社メディカ出版

ピラティス×訪問看護
ピラティス×訪問看護
インタビュー
2023年3月22日
2023年3月22日

【ピラティス×訪問看護】病棟看護師から訪問看護師へ転職したきっかけ

全国の主要都市に100店舗以上のピラティス・ヨガスタジオを運営する株式会社ZEN PLACE。実はそのピラティスのノウハウを、在宅医療へ導入していることを皆さんはご存じでしょうか? 今回は、自身もピラティスに魅了され、ZEN PLACE訪問看護で勤めることになった看護師の日高さんに、ピラティスの魅力やZEN PLACE入職のきっかけなどを伺いました。 日高 優(ひだか ゆう)2008年より急性期病院での看護師(ICUや救急外来など)を経て、2020年よりZEN PLACE訪問看護ステーションにて勤務。病院勤務時代にピラティスのインストラクターコースを修了。カウンセリング技術を学び、SNSを通して看護師に自分と向き合うことの大切さを発信している。ZEN PLACE訪問看護心身ケアと未病のリーディングカンパニーであるZEN PLACEが運営する訪問看護ステーション。ピラティスの技術を医療や介護の場に用い、働くスタッフから利用者様すべての人が心身ともに健康で豊かな人生が歩めることを目指している。「したい看護をするのではなく利用者様とご家族が望む生活のサポートをすること」がモットー。 ピラティスを追いかけて訪問看護の道へ ―病棟勤務時代にピラティスにご興味を持たれたようですが、きっかけを教えてください。 私は元々ダンスが好きで、病棟看護師をしながらジャズダンスのインストラクターをしていました。当時、看護部長からも「素敵だからぜひ頑張って」と応援してもらえて、時間を調整しながらレッスンをしていたんです。ピラティスとの出会いは、そのダンススタジオのメンバーから「ピラティスいいよ」っておすすめされたことがきっかけですね。偶然にも家の近所にピラティススタジオがあったので、興味本位で通ってみました。 ―実際に体験されていかがでした? 実際やってみると身体が変わることを実感して、すごく面白いと感じました。私も医療従事者なので、身体に関する知識があるぶん、余計に楽しくなっちゃって。 また、ジャズダンスはバレエが基礎になっているので、体幹やコアマッスルが足りないと踊れないんですよね。ピラティスをやり始めることで、「身体の軸がしっかりしてきたな」と感じて、ピラティスへの興味が深まっていきました。 ―その後、ピラティスのインストラクターコースも受講されたとか? はい、受講しました! とても充実した時間になりました。 私は通学してセミナーを受講しましたが、最近はオンラインや通学+オンラインのハイブリッドコースなど、自身のライフスタイルに合わせて受講できるスクールが多いです。例えば、basiピラティスのマット通学コースの場合、集中した講義を合計36時間学び、100時間以上の自己実践、20時間以上のレッスン見学や30時間以上の指導練習を通し、資格取得が可能になります。資格を取得し、ようやくスタートラインに立てました! ―ZEN PLACEに転職しようと思ったのも、やはりピラティスがきっかけなのでしょうか? そうですね。どんどんピラティスへの興味が増して、「ピラティスを看護の仕事に活かせないかな」とインターネットで色々調べるうちに、ZEN PLACEを発見したんです。利用者さんに対してもそうですし、働き手である看護師に対してもピラティスを推奨している点に共感しました。 私も当初はダンスのトレーニングの一環として始めたピラティスでしたが、すごく自分の身体や心が整うのを感じて、「もっと働く看護師にピラティスが広まり、健康的な生活を手に入れて欲しい」と思うようになったんです。 特に急性期の病棟に勤めていると、「人が生きるか死ぬか」という命の瀬戸際のなかで看護をしているので、感情的になってしまいがちです。私も、ICUではやりがいや喜びを感じながら働いていましたが、改めて振り返ってみると心身ともに疲れていることが多かったように思います。「本当は運動して発散したいけど、仕事が忙しくて続かない」という悩みが多いのも看護師の実情です。もっと看護師にピラティスが広まってほしいと思います。 ―病棟から訪問看護への転職ですし、住むエリアも変わるなかで、悩まれなかったですか? 正直とても悩みました。急性期での看護も楽しい面ややりがいがありましたし、在宅の現場は、過去に派遣の仕事として訪問入浴をしたことがある程度。転職後の仕事内容のイメージもあまりできず、不安がありました。でも、最後は「自分がやりたいことをちゃんとやりたい」「やってみなきゃわからない!」と思い、転職を決めて東京へ引っ越しました。 ピラティスを活用するZEN PLACE訪問看護とは? ―入職後のことをお伺いします。ZEN PLACEでは、同一のステーションに訪問看護師や理学療法士、作業療法士等の色々な職種が在籍されていますが、職種間の連携について教えてください。 同じ利用者さんに看護師と理学療法士両方で入っていることもあるので、「今日はこういう状態だった」とステーション内で情報交換をしています。また、訪問看護のみで入っている利用者さんでもリハビリをしたほうが良いケースもありますし、逆にリハビリメインで入っている利用者さんに医療的な処置が必要になった場合は、看護師が入ったほうが良いこともあります。多職種と連携が取りやすく、意思疎通がスムーズで良い環境ですね。 ―職場の雰囲気としてはいかがでしょうか。 基本的にスタッフはみんな明るくて、職場内では笑顔や笑い声が絶えません。ピラティスが好きなメンバーばかりで、みんなで仕事後にレッスンを受けに行くこともありますし、和気あいあいとした職場でとても楽しいです。 ―皆さんにとって、本当にピラティスはリフレッシュもできる大切な時間なんですね。仕事の後にピラティスをするケースが多いのでしょうか。 そうですね。今もステーションの近くにあるスタジオで、「期間中に50日間ピラティスをしよう」というイベント(「50days challenge」)に同僚と参加しています (笑)。 こうしたイベントがないときでも、ZEN PLACEが運営するスタジオは各所にあるので、ステーションや自宅の近くにあるスタジオに寄ってから帰ることが多いですね。オンラインレッスンもあるので、家に帰ってからやることもあります。 人によっては朝ピラティスをしてから出勤しているケースもあると思いますし、ZEN PLACEでは福利厚生として、月に2回までは業務時間内でピラティスを受けに行っても良いという制度があります。訪問にキャンセルがでた時に行くこともありますね。 ―雰囲気が良くスタッフ同士も仲の良い職場のようですが、ピラティスを行っている影響もあると思われますか? もちろん、すべてがピラティスの効果だとは言い切れませんが、私は一助になっていると思っています。医療従事者は献身的に仕事をされている方が多い印象なので、自分のために何かをする時間って意識しないと取れないんですよね。でも、ピラティスをすると、その間は自分の身体と心と向き合うことになるので、「今日はあまり足が上がらないな」「仕事のことをいっぱい考えているな」など、色々と感じ取ることができます。 ピラティスは「動く瞑想」とも言われますが、自分に向き合うことで自分を大切にできるし、心身が整う効果があると思っています。自分自身が整うことで、利用者さんへの良い看護の提供や職場の雰囲気の安定につながるのかな、感じています。 心が安定すると、ネガティブな言葉も言わなくなりますね。「こういう嫌なことがあったよ」という話が出ても、愚痴になるのではなく、「そうなんだね、大変だったね」と受けとめたあと、「こうしたら改善するんじゃない?」とみんなで意見を出し合いますし、誰かがポジティブな言葉や思考に変換してくれます。 ―ありがとうございます。次回は、ZEN PLACEでのキャリアや、どのようにピラティスを訪問看護に取り入れているのかを伺います。>> 【ピラティス×訪問看護】ZEN PLACEのキャリアパス&訪問時のピラティス活用法 ※本記事は、2023年1月の取材時点の情報をもとに制作しています。 編集・執筆: 合同会社ヘルメース取材: NsPace編集部

訪問看護師が使うメリット
訪問看護師が使うメリット
特集
2023年3月22日
2023年3月22日

利用者の負担軽減も。訪問看護師がポータブルエコーを使うメリット&課題

近年、手軽に利用できる低価格のポータブルエコーが、訪問看護の現場でもみられるようになりました。アセスメントツールのひとつとして医師への報告や多職種連携に活用され、ケアの質向上にも期待が高まっています。しかし、ポータブルエコー購入や技術習得にかかる経済的・時間的な負担が大きく、ハードルの高さを感じる方が多いのではないでしょうか? 今回は、看護師がポータブルエコーを使うメリットと課題について、褥瘡・排便ケアにポータブルエコーを活用する東葛クリニック病院の皮膚・排泄ケア特定認定看護師の浦田克美先生にお話を聞きました。 ポータブルエコーの主なメリット3つ ポータブルエコーのメリット(1)ケアの客観的な根拠にできる 看護師がポータブルエコーを使う第一のメリットは、画像をケアの根拠にできる点です。看護師にとってポータブルエコーは、さまざまな場面で役に立ちます(図1)。 図1:「ポータブルエコーが役立つ場面の一例」(提供:浦田克美氏) たとえば、褥瘡ケアの分野では、褥瘡の深さ、発赤、DTI(深部組織損傷)など、皮膚表面からの観察は看護師の経験値や知識レベルに左右されます。しかし、ポータブルエコーの使用によって、皮下脂肪や筋肉組織内に隠れている褥瘡を可視化できます。 排泄ケアの分野でも、通常、直腸まで便が下りてきているかどうか、看護師の経験や肛門診をした際の感覚で想像し、判断することが多くあります。そこでポータブルエコーを使えば、直腸に便が溜まっていることが可視化され、浣腸、摘便といったケアも明確な根拠のもと行うことができます。 ポータブルエコーのメリット(2)客観性のある画像で判断に自信が生まれる 第二に、客観性のあるポータブルエコー画像で、判断に自信が生まれます。五感による観察は、看護師として必要ですが、経験値の格差は少なからずあります。ポータブルエコーは、必要なケア方法を導くための補完的なツールとなる可能性を秘めています。一歩立ち止まって、果たしてこれでよいのかと考える時、ポータブルエコーの画像は大きな判断材料になるでしょう。 訪問看護の現場では、膀胱留置カテーテルからの尿流出がなくなった時、カテーテル交換で済むレベルなのか、急な受診を要するレベルなのか、判断を迫られる場面があると思います。カテーテルの閉塞・屈曲などのトラブルなのか、尿閉・乏尿などの問題なのかを一人で見極めなければなりません。 しかし、ポータブルエコーがあれば、より根拠を持って、直ちに見分けられます。画像でカテーテルは膀胱内にあるけれども、膀胱内に尿がたまっていないのを確認すれば、尿閉・乏尿で腎機能低下の可能性があるため、受診をすすめる根拠として画像提供できます。利用者さんやご家族にとって、急な受診は大きな負担となるため、救急車を呼ぶのか、明日の外来まで待てるか、それは大きな違いではないでしょうか。画像を撮影しておけば、医師が不在でも後で所見を聞き、利用者さん宅を出た後でも対応できます。 ポータブルエコーのメリット(3)多職種や利用者さんと現状を共有できる 第三のメリットは、医師や多職種、利用者さん、ご家族との情報共有による関係性の向上です。ポータブルエコー導入前から同僚や多職種との情報共有のメリットは予想していましたが、これは予想外のメリットでした。利用者さんやご家族など、医療の専門性に関わらず画像提示し、褥瘡の深さや便、尿の貯留部位を見せると納得が得られやすく、ケアに説得力が生まれます。 当院での事例ですが、「毎日便が出ないと気持ち悪い」と下剤に固執していたある患者さんは、食事摂取量が少なく、活動性も低いため、毎日便が出る状態ではありませんでした。そこで、ポータブルエコーを使い、その画像を患者さんと見ながら「便は今、ここにありますよ」と画像を共有しました。便は白くモコモコした雲のように画像化されるのでわかりやすく、患者さんも画像を見ることで「排便は今日じゃないな」というのを理解できるのです。 一方、排便がしばらくみられないことを心配した看護師が、患者さんの訴えがなくても浣腸や摘便を実施することがあります。 しかし、実際には直腸には便が溜まっていなかったり、摘便を実施したけど便が下りていない状態であったり、結果的に浣腸は不必要な排便ケアだった、というケースも多くあります。ポータブルエコーを用いることで、便が下りていないことが分かれば、患者さんは不必要な排便ケアを免れ、苦痛を回避することができます。また、直腸に便があれば浣腸や摘便、無ければ下剤と便秘の状態に合わせてケア方法を選択できます。例えば、「直腸に便が溜まってないから今日は浣腸しません」と伝えることができるので、訪問看護師にとっても業務の効率化に繋がるのではないでしょうか。 ポータブルエコーは、患者さんとの情報共有や信頼関係形成といった面でも、とても有益だと感じます。患者さん自身が排便の時期を予測できると、ポータブルエコーが患者さんのセルフケアに貢献できる部分もあります。 訪問看護師のポータブルエコー活用の課題 ポータブルエコー活用の課題(1)機材が身近にない 訪問看護師がポータブルエコーを使うケースも出てきましたが、大きな壁が2つあります。1つ目はポータブルエコーの機材そのものがないことです。最近、ポータブルエコーは手頃な価格のものも増えましたが、まだまだ浸透していません。やはり、血圧計やサチュレーションモニターのように、ポータブルエコーがもっと身近に判断できるツールとなればと思います。 ポータブルエコー活用の課題(2)技術習得までのサポートを得にくい 2つ目は、ポータブルエコーを学ぶ看護師の環境が十分に得られにくいことです。看護師にとって、基礎教育でまったく学ばなかったポータブルエコーの走査や画像の読み方を、一人で学ぶことは難しいと思います。質問したらすぐ答えてくれる指導者がいるといった、学びの環境を整えることが重要でしょう。 私たちの医療チームでは、褥瘡回診からポータブルエコーの使用を始めました。検査部がポータブルエコーを持って参加し、チームメンバーと一緒に画像を読影しています。その中で、プローブ走査のコツや持ち方、見やすく説得力のある画像の描出方法を教えてもらいます。気長に分かりやすく教えてくれる指導者がそばにいることが大きなカギになります。 ポータブルエコー活用で質の高いケアを提供する 訪問看護でポータブルエコーの活用をしていくためには、管理者が根拠を持ち、質の高いケアを行っていこうという風土を作ることも重要です。確かにポータブルエコーを活用しなくても質の高い看護は提供できます。多くの看護師は、使った事もないポータブルエコーをゼロから学ぶ時間も余力も無いと感じているでしょう。 しかし、褥瘡写真はどうでしょう。カメラの購入やカルテに貼り付ける手間があっても、以前に比べかなり一般化しました。 それは、ケア方法の統一や医師や家族と情報共有するメリットの方が大きく、診療報酬がつかなくても費用対効果が高いと感じているからです。 デジタル時代となり、医師と褥瘡の写真をやりとりするなどの情報共有が一般的になりつつあります。褥瘡を画像化する事で、ケアの統一や教育、家族指導にも活用できるようになりました。これからは、皮膚表面から見えない領域を、ポータブルエコーで見ることもできます。五感を使ったプロの技と客観的な画像を掛け合わせれば看護の質はもっと発展していくはずです。 また、ポータブルエコーの採用を検討している管理者の方には、ポータブルエコーでおこなったアセスメントとケアに対して、適宜フィードバックしてあげてください。上司からのフィードバックがあるだけで、ポータブルエコーを使ったアセスメントに自信を持ち、ケアする喜びにつながるはずです。 取材協力浦田克美氏(皮膚・排泄ケア特定認定看護師)編集:メディバンクス株式会社

ケースメゾットで考える管理業務
ケースメゾットで考える管理業務
特集
2023年3月7日
2023年3月7日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その3:どのように働きかけることが効果的なのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第9回はCASE3「ドクターをどう動かせばいいのか」の議論のまとめです。 はじめに 前回(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)は、なぜK医師とは連携しにくいのかについて、A・B・C・Dさんそれぞれの意見を交換しました。今回は、訪問看護管理者としてどのようにK医師に働きかけるかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか  「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?  設問あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 K医師にどのように働きかけることが効果的なのか 講師ここまで(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)のみなさんの意見から、K医師とよい連携をするために管理者としてできることは、「K医師と訪問看護の目標を一致させる」「K医師と訪問看護の情報の非対称性を解消する」の二つが出ました。では、具体的な取り組みとして訪問看護管理者は何ができるでしょうか? Aさん注2当たり前のことですが、 各利用者の在宅生活の目標についてよく知ってもらい、医師と看護で目標を一つにするために、K医師と話し合う時間をとりたいです。訪問看護は、利用者の意思を尊重したケア体制を構築したいので、K医師に看護側の考えを理解してもらうことは必須のことと思います。 BさんK医師はお忙しいのでしょうから、報告書を持参して相談するなどの機会を探ってみるのがよいかもしれませんね。専門医による診察がない状態がこのまま続くことによって、「利用者にこんな支障が起こりうるのでは」など、看護側がどんなことを懸念していて、なぜK医師に相談したいと思っているのかを、まず報告書に書くことも一つです。 CさんあまりにもK医師の対応がひどいなら、医療法人の本部に相談することも必要だと思います。なので、K 医師の対応について客観的な事実を集めるようにスタッフには指示をしておこうと思います。 Dさんケアマネジャーなどの関係者との情報交換を通じて、誰に働きかければK医師が動くのかを考えたいです。また、この在宅療養支援診療所には他の訪問看護ステーションもかかわっているでしょうから、地域の訪問看護ステーションの管理者会議などでK医師について聞いてみることもできると思います。 講師K医師に情報を提供するさまざまな手立てと、K医師やK医師が所属する医療法人の情報を収集するための具体的な取り組みが出てきましたね。さまざまな困難があることでしょうが、医療法人の本部との相談も視野に入れ、利用者の利益を中心としたケア体制の構築を進めていってください。 連携の鍵は「目的の不一致」と「情報の非対称性」の解消にある 講師では、これまでの議論を受けて、CASE3のまとめです。 みなさんの意見から、・利用者の状況を小まめに医師に伝えること・利用者ごとの在宅療養の目標を医師と看護師で擦り合わせておくことの必要性が見えてきました。 医師に限らず、多職種連携の場面においてキーとなる人物がなかなか動いてくれないという話はよく聞きます。その人自身に問題があるというよりは、その人物の合理的な選択の帰結として生じるものと捉えるほうが、効果的な働きかけを考えることができます。どなたかも発言されていましたが、人の性格などは急に変わるものでもありません。 今回のケースで管理者としてできることは、K医師との「目的の不一致」と「情報の非対称性」(その2:なぜ連携がうまくいかないのか?を参照)を解消するために動くことです。 Cさん連携しにくい医師への対応をしていて、「どうしてこの人はわかってくれないのだろう」と思うことが多々あったのですが、相手のことを十分に理解していなかったかもしれないと思いました。 講師はい、そうなんです。変えられないところを気にしても自分が疲れてしまうだけです。働きかけをして効果がありそうなところにご自身の力を集中させてください。ある人や組織との連携がうまくいかないことがあれば、「目的の不一致」と「情報の非対称性」の解消を考えてみてください。このことは他の場面でも応用できる考えかたですよ。 * 次回は、CASE4「クレームを受けるスタッフをどうするのか」を考えます。 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇入山章栄.『世界標準の経営理論』東京,ダイヤモンド社,2019,114-132.

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?
CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?
特集
2023年2月7日
2023年2月7日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その2:なぜ連携がうまくいかないのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第8回は前回に引き続き、連携がしにくいと評判のドクターについてのケースです。 はじめに 前回(「その1:なぜ連携しにくいのか?」参照)は、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、K医師に関係する周囲の人々の状況について、A・B・C・Dさんそれぞれの考えを出しあいました。続く今回は、なぜK医師との連携がうまくいかないかをテーマに意見交換を進めます。 議論の題材となっているケースと設問は以下のとおりです。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか  「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?  設問あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 なぜ連携がうまくいかないのか 講師ここまで(「その1:なぜ連携しにくいのか?」参照)のみなさんの意見から、K医師との連携がうまくいかない理由として、①K医師の特徴と②多職種連携の際に生じる問題、の二つが出てきました。では、この二つを連携がうまくいかないことの原因として考えたとき、みなさんはどんな意見を持ちますか? Aさん注2性格って、人から言われて変わるものではないですよね。在宅医療の経験を増やすといっても、これには時間もかかります。組織や職種も違いますし、私たち訪問看護管理者が働きかけられることでもありません。 Bさん他の組織の、違う職種に関することですし、私たちが無闇にどうこう言うことで、今後その医療法人との連携で角が立つのもよくないと思います。とはいえ、利用者のことや今後の連携を考えると、何かはしないといけませんよね。 講師他人の性格を変えようとするのは難しいことですね。私たちに何ができるかを考えると、多職種連携の際に生じる問題の解決に目を向けるほうが建設的ですね。 Cさんケースに書かれているのは「K医師が看護師の提案に耳を傾けてくれない」という看護師側の訴えだけで、K医師の考えはわかりません。K医師の考えや、K医師の所属する診療所としての考えを聞いてみてもよいかもしれません。 Dさんもしかしたら、看護師からの提案がK医師にとっては自分への批判ととらえられてしまっているのかもしれませんよね。ふだんから、「看護師がどのような情報を持っていて何を考えているのか」を伝えていくなどのコミュニケーションも必要でしょうね。 「なぜ連携がうまくいかないのか」の小括 議論が進むと、K医師自身(性格や働きかた など)を変えることの難しさが改めて浮き彫りになりました。そして話題は「他職種連携の際に生じる問題」の難しさに移りました。この問題の難しさの原因は、突き詰めると二つです。 目的の不一致K医師(利用者の治療を目指す)と訪問看護(利用者の在宅生活の維持向上を目指す)の目的が一致しない。K医師の行動は、違う目的を持った訪問看護の側からは理解しにくいかもしれない。情報の非対称性医師が病院や診療所内でどのように動いているのか、利用者の治療についてどのように考えているかが、訪問看護側からは見えにくい。 逆に、医師からは訪問看護が何を考えてどのように動いているか、訪問看護が把握している利用者の普段の生活状況や悩みなどの情報が見えていない可能性もある。 この二つを解消するために動くことが管理者には必要です。そして次回は、「管理者として連携しにくいと評判の医師に、どのように働き掛けるか」を考えていきます。 >>次回「その3:どのように働きかけることが効果的なのか?」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版 【参考】〇入山章栄.『世界標準の経営理論』東京,ダイヤモンド社,2019,114-132.

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか _その1:なぜ連携しにくいのか?
特集
2023年1月17日
2023年1月17日

CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか_その1:なぜ連携しにくいのか?

管理者として課題に直面したとき、自分以外の管理者がどう判断するかを知りたくなることはありませんか? この連載は、参加者どうしで考えをシェアしあう研修手法である、ケースメソッド注1セミナーの形式に沿って、訪問看護管理者が直面する課題を考えていきます。第7回は、連携がしにくいと評判のドクターについて、なぜ連携がしづらいのかについて多角的に考えます。 はじめに 「ドクターをどう動かせばいいのか」という悩みは、看護管理者の方からよく聞くテーマです。みなさんもセミナーに参加したつもりで、「自分だったらどうするだろう」と考えながらこの連載を読んでいただければと思います。 ケースと設問 CASE3 ドクターをどう動かせばいいのか   「K医師と連携がしにくい。どうしたらよいか」とスタッフナースから相談を受けている。K医師は、地域で在宅療養支援診療所を複数経営している大きな医療法人に所属している。K医師はふだん大学病院で働いており、在宅医療は初めてだそうだ。  K医師が担当する利用者の多くは内科疾患を持つ人だが、なかには認知症を疑わせる症状がある人や、専門的なリハビリが必要と思われる人もいる。訪問看護としては、それらの症状に対して専門の医師にもみてもらいたいと考えているが、K医師は取り合おうとしない。利用者本人や家族は、「他の医師にみてもらったとわかったら主治医であるK医師が怒るのではないか」と考えているようで、自ら他院を受診はできないと言っている。管理者としてどうしたらよいだろうか?   設問 あなたこの管理者であれば、連携がしにくいという評判があるK医師に対して、どのような働きかけをすべきだと考えますか。ご自身の経験から考えたアイデアをみなさんにシェアしてください。 連携しにくいと評判の医師について 講師このケースで議論したいことは、「管理者として連携しにくいドクターをどのように動かすか」です。その前にまず、連携しにくいと評判のK医師の特徴や、そのK医師に関係する周囲の人々の状況について、皆さんはどのように考えますか? Aさん注2K医師はふだんは大学病院で働いていますし、在宅医療の経験があまりないので、訪問看護の状況をよくわかっていないと思います。こういうことってよくあるのではないでしょうか。 Bさんすごく対応のよい医師とそうでない医師の差が大きいですよね。もともとの性格などもあるかもしれませんが、医師の経験や価値観が、在宅医療へのかかわりに影響していそうだと個人的には思っています。ここは訪問看護としてはどうしようもないですが。 Cさん医師はどうしても治療に目が行きがちなのかもしれません。特に、病院勤務で、在宅の経験があまりないとその傾向が強い気がします。でも訪問看護の目的は、在宅生活の維持・向上です。私の経験上、ここが一致しないためになかなか話が進まないことがよくありました。 DさんK医師は、利用者の状況を、診察時点の「点」でしかみていないのではないかと思います。利用者やご家族のなかには、「医師に生活全体の状況や困っていることを率直に伝えられない」という人もいらっしゃいます。 「連携しにくいと評判の医師について」の小括 最初の議論は、「連携しにくいと評判のK医師の特徴やそのK医師に関係する周囲の人々の状況について」、それぞれの考えを出しあいました。 これらの発言は、①個人の特徴 ②多職種連携の際に生じる問題、の大きく二つに分類できます。 ①K医師の特徴・本業は病院の医師であり、かつ在宅医療の経験があまりない。・在宅医療への理解が不足しており、自己の価値観を優先している。②多職種連携の際に生じる問題・K医師は治療を、訪問看護は在宅生活の維持・向上を目指しており、目標が一致していない。・医師の立場では、看護師に比べて、利用者の細かな生活状況がわかりにくい。 発言をこのように分類してみると、管理者として働き掛けることができる部分は、②多職種連携の際に生じる問題であることが、参加者のみなさんには見えてきたようです。 次回は、「なぜ連携がうまくいかないのか」について、この二つの面から考えていきます。 >>次回「その2:なぜ連携がうまくいかないのか?」はこちら 注1ケースメソッドとは、架空事例(ケース)について、参加者それぞれの考えをシェアしあうことで、学びを得ていく授業形式です。ケースの教材には、訪問看護管理者が問題に直面している状況が、物語風に構成されています。参加者は、ケースの教材を予習し、自分がこのケースの主人公ならどうするかを事前に考えた状態で、授業に参加します。ケースメソッドの授業では、講師のリードのもと、参加者どうしでアイデアをシェアしながら議論をすることによって学びます。これは講義形式のセミナーとはずいぶん違ったものです。参加者の発言が何よりもセミナーを豊かにする鍵となります。 注2発言者はA・B・C・Dとしていますが、常に同一の人物ではありません。別人であっても便宜上そのように表記しています。 執筆鶴ケ谷理子合同会社manabico代表慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。看護師、保健師、MBA。大学病院(精神科)、訪問看護、事業会社での人事を経験後、株式会社やさしい手看護部長として訪問看護事業の拡大に寄与。看護師250人超の面談を実施し、看護師採用・看護師研修などのしくみづくりをする。看護師が働きやすい職場環境作りの支援を目指し合同会社manabicoを立ち上げる。【合同会社manabico HP】https://manabico.com 記事編集:株式会社メディカ出版

ホームレスからホームヘルパーへの就労支援を創出し地域共生社会の旗を掲げる
ホームレスからホームヘルパーへの就労支援を創出し地域共生社会の旗を掲げる
インタビュー
2023年1月10日
2023年1月10日

ホームレスからホームヘルパーへの就労支援を創出し地域共生社会の旗を掲げる

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第12回は、路上生活者支援に始まり、制度の隙間にある人の生活支援、就労支援も行う「ふるさとの会」の佐久間裕章さん。共生社会のありかたについて話しあった。(内容は2018年11月当時のものです。) ゲスト:佐久間裕章NPO法人自立支援センターふるさとの会理事1996年ごろから山谷地区の炊き出しボランティアとして参加。出版社勤務を経て、1999年、自立支援センターふるさとの会へ事務局長として入職。ふるさとの会理事および有限会社ひまわり取締役を兼任。ふるさとの会は、路上生活者のための居所の提供、ケア付き住宅、就労支援ホーム、精神障害者グループホーム、ヘルパーステーションなど、時代とニーズに応じて多彩な事業を展開している。 すべては山谷の炊き出しから始まった 川越●長い歴史をお持ちのNPOとして、ふるさとの会は以前から知っていました。地域包括ケアシステムが目指す「地域共生社会」と、会の活動は深くつながっていると思います。 佐久間●ふるさとの会は、生活困窮者や路上生活者の炊き出しボランティアとして1990年にスタートしました。僕がふるさとの会でボランティアを始めたのは96年ごろでしたが、1年くらいやっていると、しだいに徒労感を覚えるんです。炊き出しをすることで路上生活の人が減るわけでもない、自己満足じゃないかって。 川越●リーマンショック後の「年越し派遣村」なども有名になりましたが、そこだけやって救えるものでもないということですね。 佐久間●そうなんです。炊き出しは必要だけれども、そのなかで一人二人でも路上を脱して畳の上で暮らせるような支援をやろうと考え、アパートの一室を借りて、食事と相談ができるサロンをつくりました。まずは対象を高齢者に限りました。特に高齢の方は「この冬、越せるかな」というリスクがあるので。ご飯を食べながら話を聞いて、「生活保護を受けて地域で安定して暮らしたい」と希望する人の役所申請に同行しました。 川越●交流できる場をつくり、そこで話がつながった人を行政につなげていったんですね。住所不定でも生活保護は受けられるんですか? 佐久間●受けられます。ただ、なかには、これまで何度か保護を受けたけれど家賃を滞納して失踪したとか、役所に顔を出しにくい人もいるんです。 川越●手続きがちゃんとできれば生活保護につなげられるし、ご本人が申請しづらければサポートするということですね。 NPO法の成立で支援の幅が広がった 佐久間●サロンに食事に来る人で、手伝いをしてくれるリーダー格のような人が、あるとき具合が悪くなって救急搬送されて、脳梗塞か何かで障害が残ったんです。住んでいたのはドヤと呼ばれた簡易旅館で、バリアフリーでもなく、戻りたいのに戻れず、転院を繰り返して病院で亡くなられて。 その方はご自身を、「インパール作戦の生き残り」と言い、みんなを束ねる人間的魅力のある人でした。入院後、山谷に戻りたいと言い続けましたが、僕らは結局、何もしてあげられなかった。 川越●彼らを家に戻せる支援や制度はなかったわけですね。 佐久間●そのうち、役所の人から「そんなに言うならふるさとの会で場所をつくればいいじゃない」と。ちょうどNPO法案が施行されたころで、法人格を取得して事業主体になれると言われて。自前の資源が何もない、力のなさを実感していたので、99年に法人格をとって宿泊所をつくったんです。 ホームレスからホームヘルパーへ 佐久間●このころ初めて「社会的入院」という言葉を知ったんですが、病院を転々として、数ヵ月後に自分がどこにいるかわからないでいる人も、広義のホームレスだと思いました。そこで、ふるさとの会でも介護ができるようなしくみをつくろうと決めたんです。 川越●困窮者支援から住まいの提供、介護も提供できる住まいへと転換していったんですね。 佐久間●当時、山谷はまだ危険な街というイメージで、依頼しても来てくれるヘルパーがいなかった。一方、働く意欲はあるのに長期的な失業状態の方がいたので、その人にヘルパーになってもらおうと(笑)。もともと建設業で働いていた人たちです。機械化が進んで仕事が減っていくし、工法が変わって昔の技術が必要とされなくなってきていたんです。 周囲からは「建設現場の日雇いにヘルパーができるわけがない」とさんざん言われましたが、僕と一緒に勉強して、当時のヘルパー2級資格をとった人がいたんです。新聞やニュース番組でも「ホームレスからホームヘルパーへ」と紹介してもらって(笑)。 川越●成功例があると行政へもアピールしやすくなりますね。 佐久間●その後、東京都がプログラムを組んで、地元の福祉事務所が協力してくれて、12人が修了して、実際にヘルパーとして働きはじめました。 孤立した世帯をまるごと支援 佐久間●介護保険は1人の利用者さんに対する支援ですが、世帯という単位で支援をしていく方向でないと、地域包括ケアはうまくいかないと思います。NPOのいいところは、ニュートラルに部署を横断してかかわれるんです。80代の認知症のおばあさんのところに行ったら部屋の奥に引きこもりの50代の息子さんがいたケースでは、地域包括支援センターと僕らと区の障害福祉課の保健師さんとがチームを組んで、世帯全体を支援することができました。 川越●現状の制度だけでは支援が届きづらい、地域で孤立した世帯をまるごと支援することも、地域包括ケアシステムの大切な役割です。 佐久間●地域就労支援や共生型サービスなどは、今の縦割りの政策では難しいところがありますが、これからは地域のなかで一つまるごと支援という方向も必要だと思います。地域包括ケアシステムも、当初はそれぞれのイメージがバラバラでした。10年、20年という単位でやっていくと、だんだんと浸透していくと思うんです。 川越●短期間にあれもこれもはできないことを認めた上で、10年後にこんな地域共生社会がくることを目指して取り組むことが大切ですね。 自分たちも医療の面から、住みやすい地域づくりにかかわっているわけなので、同じところを目指しているのですね。ありがとうございました。 ─第13回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2018年11月発行より要約転載。本文中の数値は掲載当時のものです。

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