多職種連携に関する記事

社会的に孤立している人に「断らない福祉」を提供
社会的に孤立している人に「断らない福祉」を提供
インタビュー
2022年11月15日
2022年11月15日

社会的に孤立している人に「断らない福祉」を提供

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第8回は、コミュニティソーシャルワーカーの生みの親でもある勝部麗子さんと、引きこもりやごみ屋敷問題について話しあった。(内容は2019年7月当時のものです。) ゲスト:勝部麗子大阪府豊中市社会福祉協議会事務局長。1987年に豊中市社会福祉協議会に入職。2004年に地域福祉計画を市と共同で作成、全国で第1号のコミュニティソーシャルワーカーになる。地域住民の力を集めながら数々の先進的な取り組みに挑戦。その活動は府や国の地域福祉のモデルとして拡大展開されてきた。NHKドラマ「サイレント・プア」のモデルであり「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演。著作に「ひとりぽっちをつくらない―コミュニティソーシャルワーカーの仕事」(全国社会福祉協議会)がある。 困っていてもSOSを出せない人たち 川越●豊中市社会福祉協議会(以下、「社協 」と称する)のコミュニティソーシャルワーカー(以下、「CSW 」と称する)は、その活動がテレビドラマにもなり、一躍全国に知られるようになりましたね。 勝部●豊中社協は制度のはざまに落ちている人のために、2004年、全国で初めてCSWを置き「断らない福祉」をやろうと始めました。当時、ごみ屋敷などの問題は、高齢者であれば高齢支援課が、障害があれば障害福祉課が、と、扱う部署が違いました。そして障害もなく高齢でもなければお手上げです。引きこもりの問題もいろいろな背景があるのに、外からでは事情がわかりません。 川越●背景に何らかの病理が存在している場合もあり、早めに医療が介入できれば出口が見つかるかもしれません。 勝部●ところが、家族は必ずしも医療が必要だと思っていません。CSWがアウトリーチを始めたのは、周りは困っているけど、本人は困っていない人たちに寄り添うためでした。 ごみ屋敷問題も、本人はごみと思ってなくて、違うことで困っている。発達障害の人も物を整理できなくて必要なものが見つからず、ずっと探しものをしながらいつも不安でいる。なので、私たちはまずは本人の困り感にアプローチしながら、だんだん心に近づいて行って、結果、医療や介護、経済的問題の解決へとつなげていきます。 川越●アウトリーチした人たちに一定の傾向などはありますか。 勝部●ほとんどは社会的に孤立している人たちです。相談する相手もいないし助言してくれる人もいない。結局どこにもSOSを出せない人でした。 ごみ屋敷問題では、敷地内に放し飼いの犬とごみを放置して問題になった人がいました。保健所が行っても解決せず、社協に依頼が来て私がピンポンしたら、70代の男性が壁を伝って出てきました。「お体どうされたんです?」と聞いたら「あんただけやな、体のこと聞いてきたのは」って。 川越●そういうことなんですよね。本当に。 勝部●聞くと3ヵ月に肺炎になって、犬の散歩に行けなくなって、敷地内で放し飼いにしたと。ごみも捨てに行けなくなって玄関に出していた。「困った人」ではなく「困っている人」だったんです。 住民参加の活動が地域の縁をつなぎなおす 川越●以前はそうした支援は保健師がやっていましたが、介護保険制度ができて、65歳以下で難病でもない人は、蚊帳の外になってしまいました。豊中では住民参加で見守り・見廻りをやっていると聞きましたが、どうやっているのですか。 勝部●CSWと民生委員だけでなく、地域住民にも研修を受けてもらっています。地震などの災害時に、部屋の家財が倒れても身近な人に助けを呼べず、停電が続いて集合住宅では水もエレベータも使えず大混乱でした。そこでみんなで考えてつくったのが「無事ですシート」。災害時に自分のところが無事だったら、「無事です」と書かれたマグネットシートをドアに貼ってもらい、「無事ですシート」が出ていないお宅には安否確認して回ります。人口40万の町でも、そんな地道な活動で地域の縁をつなぎなおすことができるんです。 困った息子には働けない事情がある 勝部●男性は定年後、社会とのつながりが切れて孤立してしまいます。何とかできないかと話していたら、土地を貸してくださる人が現れ、そこに男性を集めて農業を始めました。野菜は生産性がはっきりしていて、しかも毎日誰かが世話しないと育たたないので、皆さん能動的にかかわります。 川越●結果がはっきりしているから、仕事人間のお父さんをやる気にさせるのでしょうね。 勝部●最初20人くらいだった「豊中アグリカルチャー」は、今では120人くらいになり、4ヵ所の土地で野菜を作っています。参加者は仲間ができてストレスが発散できるだけでなく、1年も経つと血糖値や血圧が落ち着いてきて健康になってくる(笑)。今ではみなさん、かっこいいユニフォームを着て名刺を持って、収穫したサツマイモで芋焼酎を作ったり移動販売したりしています。 川越●楽しそうですね。まさに居場所づくりですね。CSWの活動がメディアで取り上げられたことで、何か変化はありますか。 勝部●引きこもり問題がクローズアップされたのは大きな進歩だと思っています。それまでは8050の子世代は「働かず親の年金を無心する困った人」という認識で、どうやって息子を隔離して親だけを救うかということをやっていました。でも息子のほうは不登校から始まっているし、発達障害かもしれないし、もっと年をとったら年金も当てにできずやがて共倒れです。CSWだけで解決できるものでもなく、今の制度の問題点や、サポートが足りないところをほかの専門職と連携して解決することも多いです。 成功体験の蓄積で 住民の力も上がる 川越●ごみ屋敷にしろ独居の見守りにしろ、豊中で、住民が問題解決に積極的に参加できるのはどうしてなんでしょう。 勝部●かかわる多職種も住民も、この人と連携したらうまくいったという経験を共有しているから、自分たちの問題として一緒に解決しようとします。もう十数年すごい件数をこなしてきたので、住民の力も上がっていくし、結果として地域包括ケアとなるんです。 川越●やはり成功体験の共有や経験の蓄積が住民の力になるのですね。 在宅医療の医師も、どうやったらこの人の生活の質を維持改善できるのかに関心を持っています。医療が担当すべき「診断」や「未来の臨床経過の予測」がわかっていないと、どうやって介護や福祉が介入すればいいか方針が立てられないことも多くありますから。今後ますます、福祉と医療が手を携えていく機会が多くなるでしょうね。 ー第9回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2019年7月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

予防と外来と訪問、すべてを管理栄養士のフィールドに
予防と外来と訪問、すべてを管理栄養士のフィールドに
インタビュー
2022年11月1日
2022年11月1日

予防と外来と訪問、すべてを管理栄養士のフィールドに

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第7回は、フリーランスで活動する管理栄養士の米山久美子さん。在宅高齢者の栄養問題と、訪問管理栄養士の活動について話を聞いた。(内容は2018年3月当時のものです。) ゲスト:米山久美子管理栄養士、認定在宅訪問管理栄養士、在宅栄養専門管理栄養士 管理栄養士として病院に勤務後、イギリスへ留学。2010年、訪問栄養食事指導・居宅療養管理指導所「地域栄養サポート自由が丘」を開設。日本栄養士会認定栄養ケアステーション「eatcoco(イートココ)」主宰。日本在宅栄養管理学会、日本静脈経腸栄養学会、摂食嚥下リハビリテーション学会所属。 訪問管理栄養指導を必要とする人は 川越●今日は、在宅高齢者の栄養問題と、栄養のプロである訪問管理栄養士の活動について話を聞かせください。 米山●地域のクリニックに所属するかたちで、訪問栄養食事指導・居宅療養管理指導所を開設しています。10人の管理栄養士が在籍し、50人の栄養指導を行っています。一人につき、だいたい月1~2回程度訪問します。 川越●栄養指導を必要とする人はどんな人が多いですか。 米山●在宅で療養している高齢者がほとんどです。多くは認知症があって、腎臓病や糖尿病、腎臓病、摂食嚥下障害、低栄養の方で、認知症があったり骨折後に歩けなくなったりして通院できないような人たちです。がんの人も数人います。低栄養の人は、自分で食事を用意できないことも多く、ヘルパーさんの活用や買ってきたものでどうするかなど、今の環境のなかでできることを提案していきます。 川越●ただ「弱ってきたね」と言われるだけで、栄養に問題があることにすら気づかれない人も多いと思います。気づかないと介入が始まらない。医者は栄養学まで学んでいませんから、やはり専門職がいるといいですね。 実際の手技が少なく説明しにくい仕事 米山●管理栄養士は、診療報酬・介護報酬の制度上でもリハビリのようなわかりやすい手技が少ないので、医療者に対しても仕事内容を説明しづらいんです。 川越●たとえば栄養アセスメントでは、食形態や味、調理、お金のかからない工夫などの指導は、ご家族にもわかりやすい。あとは、疾患ごとにアプローチが異なる部分がありますね。 医師はカロリーのことは詳しくなくても、1ヵ月後に1kg太らせたいという指示は出せます。栄養状態が改善すれば肺炎のリスクも下がるし、サルコペニアは呼吸不全にもがんにも影響するので、筋肉を戻したいとか、そういう指示なら出せるかもしれません。 米山●漠然とした指示でも、私たちは患者さんの経済状態などを考えて介入していくので、先生たちは栄養士を上手に利用してほしいです。それに、「糖尿病になったらもう甘いものは食べられない」と考える人が多いのですが、私は食べたいものを食べながら、ほかの部分で調整して数値を下げるような指導を心掛けています。食と口腔のサポートでフレイルや低栄養が解決すると、車いすの人が杖をついて歩けるようになることもあります。 賞味期限切れが「見えていない」ことも 川越●月2回程度の介入で結果は出せますか。 米山●もちろん家族や本人、ヘルパーの協力があってこそですが、出せます。 食べたものを聞き取って、冷蔵庫の中を見てアセスメントできるのは、明確に数字を食品に置きかえられる管理栄養士だけだと思うんです。 川越●冷蔵庫の中を見て、朝昼晩何をどれくらい食べているかを聞けば、だいたいわかりますか。 米山●わかります。今日訪問してきた人も、最初は「冷蔵庫開けるの?」と抵抗していましたが、開けてみたら案の定、賞味期限が10年以上前の食品が出てきました(笑)。高齢者には食品パッケージの表示が見えていない人が多いんです。だから古いものがいつまでも冷蔵庫にしまわれている。 川越●それは盲点ですね。冷蔵庫だけじゃなくて、レトルト食品が多いとかお酒のびんが増えているとか、そんなところからも情報が得られますね。本人からの聞き取り以上に、よりリアルに食の実態がみえるんですね。 70歳を過ぎると食べかたが変わる 川越●たとえばリハの強度を上げようとすると、栄養も上げないといけない。それを医師がわかっていないので、低栄養の人がリハだけやっても筋肉はむしろ減っていくというような、本来あってはいけないことが行なわれている可能性があります。 米山●そういう例が実際ありました。早く私たちを呼んでくれればと思いました。 川越●たとえば骨粗鬆症なのに診断されていなくて、治療もしていない人はたくさんいると思います。骨折の既往歴があるだけでイエローカードなのに、診断名も薬の処方もされていない。 米山●そういう点からも、私は全国民が70歳になったら栄養チェックができないかと思っています。なぜなら70歳を過ぎると食べかたが変わってくるので、シニアの食事にシフトしないといけない。それを知ってもらうためにも、全員にアセスメントするくらいのほうがいいと思っています。 川越●シニアの食事とは? 米山●体内での栄養の吸収などが変化してくるので、食べかたも変えていかないといけない。なのにメタボな食事を気にしすぎて低栄養になっている人がたくさんいます。 川越●地域包括支援センターでスクリーニングをかけて、ハイリスクの人が洗い出せれば、そこに予防的に入ることができますね。管理栄養士の活躍が期待されます。 米山●在宅の栄養指導で結果を出すことで、管理栄養士が地域で必要とされる職種の一つにならなくてはと思っています。そして栄養ケア・ステーションとして、地域で啓発のための講話や料理教室などさまざまな取り組みをして、管理栄養士が独り立ちできるようにしていきたいです。 ー第8回に続く あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護 Next」2018年3月発行より要約転載。本文中の状況などは掲載当時のものです。

特集 会員限定
2022年10月25日
2022年10月25日

【セミナーレポート】vol.3 上手な活用のポイント/訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは

2022年7月22日(金)、NsPace(ナースペース)主催オンラインセミナー「訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは」を開催。田中公孝先生を講師に迎え、医療・介護領域におけるICTの必要性や活用方法などを教えていただきました。セミナーレポート最終回となる今回は、ICTをより有効活用するために意識したいポイントをご紹介します。 【講師】田中 公孝 先生杉並PARK在宅クリニック 院長日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/難病指定医2017年より東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに携わるかたわら、医療・介護分野におけるICTの普及活動に従事。市や医師会のICT事業にも参加する。2021年春には杉並PARK在宅クリニックを開業し、区内の医療現場でのICTによる多職種連携を牽引している。 目次▶ 【ポイント1】職種ならではの言葉を理解しようとする意識をもつ ・多職種連携を成功させるには『三方よし』の精神が必要▶ 【ポイント2】災害時にこそ、多職種でICTの積極的な活用を▶ 【ポイント3】ICTでの連絡頻度は、患者さんの状態によって判断 ・ICTでの連絡で訪問看護に期待されること▶ 【ポイント4】ICTを有効活用できるかどうかは関係性が左右する --> ▶︎ 【ポイント1】職種ならではの言葉を理解しようとする意識をもつ 多職種がICTを利用する体制を構築できると、『その職種ならではの言葉』を理解しやすくなります。たとえば、看護師さんからはよく「随伴症状」という言葉を聞きますが、介護職の方には伝わりづらいかもしれません。そんなふうにどの職種にもよく使われる専門用語があって、これがICT上で文字のコミュニケーションを重ねることで、徐々に理解できるようになる。すると、職種間の連携のハードルがどんどん下がっていきます。 また、ICTでこまめにやりとりをすることで、他職種の人の考え方やクセへの理解も深まるでしょう。個人的には、「文字化されることでお互いを理解しやすくなる構造」は、多職種連携を推進するための重要なポイントだと考えています。 多職種連携を成功させるには『三方よし』の精神が必要 近江商人の有名な理念に『三方よし』というものがあります。売り手と買い手だけでなく、世間にもいい影響を与える商売をしようという、私も大好きな考え方です。 この精神は、多職種連携にも通じるものです。具体的には、みなさんが売り手としてサービスを提供するとき、買い手である患者さんやご家族を満足させるだけでなく、他職種の人たちのことも意識してほしいという思いがあります。薬剤師やリハビリ職、ヘルパーなど、ケアに携わる全員がいいと思える形をつくることが、多職種連携を成功させるためには必要なんです。もちろん、ケアは常に利用者さん本意であるべきですが、職種間できちんと目線を合わせることも同じくらい重要なポイントだと思います。そしてそのためには、ICTを活用するなどして、ほかの職種が大事にしていることや背景を理解することが有効でしょう。 ▶︎ 【ポイント2】災害時にこそ、多職種でICTの積極的な活用を ICTを活用するなら、ぜひ災害時の備えになることも意識しておきたいですね。まず、電話以外に情報の入手・発信ができる手段があるという点だけでも大きな価値があります。そして、ICTを多職種で活用することで、お互いにほかの職種がもっている情報を入手できます。災害時は情報が勝負になるので、幅広い情報をタイムリーに入手できることはとても有益です。また、最近はBCPも業界で注目のテーマとなっていますが、その観点でもICTは活躍してくれます。利用者さんの情報を共有することで、より確実に、効率的に安否確認ができるでしょう。 ▶︎ 【ポイント3】ICTでの連絡頻度は、患者さんの状態によって判断 「ICTでの連絡はどれくらいの頻度でするのがいいですか?」という質問をよくいただきますが、そこは患者さんの状態に応じて判断するといいでしょう。病状が不安定な方や、介入してからまだ日が浅い方の場合は、比較的まめに情報を共有するべきです。一方で、生活が落ち着いている方の場合は、たまにでいいと思います。 頻回共有が必要なケースとしては、やはり終末期が挙げられます。お看取りの直前は、強い疼痛や不眠などが頻繁に見られる事例があり、その際はレスキュー、眠剤の使用も多くなりがち。少なくとも終末期の患者さんにはICTでやりとりができる訪問看護ステーションと連携できるとありがたいと思っています。すでに東京都では、医師に合わせてICTを導入している訪問看護ステーションが増えている状況なので、この動きがさまざまな地域にもぜひ広がってほしいですね。 ICTでの連絡で訪問看護に期待されること 訪問看護師のみなさんにまずお願いしたいこととしては、ご家族の発言や不安、臨時対応についての情報共有です。こちらは先にお伝えした連絡頻度の目安にかかわらず、ぜひ連絡してください。 また、ほかの職種より高頻度で訪問されている訪問看護師さんだからこそできる提案も積極的にしてほしいですね。例えば末期がんの患者さんなら、麻薬のベースアップや排便コントロールなど。それから、今後は独居の高齢者の見守りも増えていくと思うので、そうした情報も多職種に連携していただくことを期待しています。 ▶︎ 【ポイント4】ICTを有効活用できるかどうかは関係性が左右する ICTを効果的に活用するためには、メンバーの関係性が重要になります。「こんなこと聞いていいのかな」と思わない・思わせない関係がないと、ICTを導入したものの、情報がまったく共有されないという結果になってしまいます。つまり、『ICTが入るとチームの連携がよくなる』のではなく『日々コミュニケーションがとれている関係の中で、ICTがよりよく活きる』と考えるべきなんです。 また、ICTを導入した後も、それだけに頼ることはおすすめしません。ずっと文字だけでやりとりをしていると、どうしてもニュアンスがずれるなどの課題が生まれてしまいます。電話や対面でのコミュニケーションもしっかりとりながら、ICTを併用してもらえるといいと思います。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年10月18日
2022年10月18日

【セミナーレポート】vol.2 ICT活用の成功事例/訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは

2022年7月22日(金)、NsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは」を開催。田中公孝先生を講師に迎え、医療・介護領域におけるICTの必要性や活用方法などを教えていただきました。全3回に分けてお届けしているセミナーレポートのうち、第2回となる今回は、田中先生が実際に見てきたICT活用の事例と分析をご紹介します。 【講師】田中 公孝 先生杉並PARK在宅クリニック 院長日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/難病指定医2017年より東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに携わるかたわら、医療・介護分野におけるICTの普及活動に従事。市や医師会のICT事業にも参加する。2021年春には杉並PARK在宅クリニックを開業し、区内の医療現場でのICTによる多職種連携を牽引している。 目次▶ 【事例1】時間外対応の細かな内容把握が可能に ・緊急連絡にICTは基本的にNG。チーム内でルール確認を▶ 【事例2】終末期の情報共有における負担を軽減▶ 【事例3】独居見守りにおける、多職種での情報交換が迅速に▶ 【事例4】地域とのつながりが明らかになり、より行き届いたケアを実現 --> ▶︎ 【事例1】時間外対応の細かな内容把握が可能に 訪問看護ステーションで22時過ぎに患者さんから電話相談を受けた。相談内容について、看護師による回答を含めた詳細と、その後は患者さんからとくに連絡がなかった旨を、看護師がICTで報告。医師は翌日の朝に内容を確認。時間外対応の情報を無理なく報告することが可能になり、医師もこれまで把握できなかった情報を得られるようになった。 この事例からわかるのは、ICTを活用すれば、夜間や土日などの時間外対応の情報を関係者が無理なく把握できるということです。勤務時間外の患者さんの状況について、担当者以外はなかなか把握しにくい状態にありますよね。もちろん、緊急性が高いケースでは、電話で情報共有がされているでしょう。しかし、「電話をかけるほどではない」と判断された情報は、ほかの事業所に伝達されないケースも多いのではないでしょうか。ICTは、電話と違って受け手が無理のないタイミングで情報を確認できるため、緊急性が低い内容も報告しやすくなります。そうして多くの情報が入ってくることで、患者さんの状態の理解や今後の予測がしやすくなるのです。 緊急連絡にICTは基本的にNG。チーム内でルール確認を ただし、緊急対応にICTが適さないことは、チーム全員が理解しておく必要があります。「土日に書き込んだ情報を相手が見るのは、週明け月曜日になる可能性がある」という前提で使わないと、トラブルを招きかねません。ICTを導入する際は、最初にチーム内で『目線合わせ』をきちんと行うことが重要です。 ▶︎ 【事例2】終末期の情報共有における負担を軽減 終末期の患者さんのケアを行う際、訪問看護師が容態(意識レベルや排尿量、血圧、脈拍、SpO2など)やご家族の様子をICTにて都度報告。看取りの際は、医師が死亡診断と死亡時刻、およびその場の状況などをICTに報告。関係者の疲弊を防ぎながらスムーズなお看取りにつながった。 一日でダイナミックに状態が変わることも多い、つまり連絡頻度が極めて高くなる終末期の情報共有は、ICTが最も活躍するといっても過言ではない場面です。すべての報告を電話で行っていると、関係者はかなり疲弊してしまいますからね。電話で細かなニュアンスの確認をする機会はもちろん必要ですが、とくにお看取りが近いタイミングの報告には、ぜひともICTを活用したいところです。私の場合は、終末期の患者さんのケアには、ほぼすべてのケースで訪問看護師さんにICTを使っていただいています。私もお看取りの際には、ICTで死亡診断と死亡時刻などを必ず報告します。これをやっておくと、ターミナルケア加算の算定にも便利です。 ▶︎ 【事例3】独居見守りにおける、多職種での情報交換が迅速に 独居の方への訪問時、軽度の症状や日々のケアの中で気になったことなど、細かなことをICTで共有。服薬管理がうまくいっていないなどの課題を報告することで、多職種で迅速に改善方法を模索することも可能に。 こちらは、ICTの可能性を別の角度からお伝えするための事例です。独居の方のケアでは、職種間の連携が課題になるケースが多く見られます。たとえば服薬管理なら、看護師さんは「患者さんがうまく服薬できていないので、もっと工夫してほしい」と望んでいるものの、薬剤師側は「訪問回数などの兼ね合いで責任をもちきれない」と考えるなどといった具合ですね。 このような状況では、まず関係者全員が情報をこまめに把握できる状態をつくることが望まれます。ご自宅に連絡帳を置いて情報共有する方法もありますが、連絡帳を確認するには、現場に行かなければならないため、課題をタイムリーに認識することが難しい。場合によっては、一週間以上経って情報が伝わることもあるでしょう。しかしICTなら、訪問しなくても情報をキャッチすることが可能。質の高いケアを目指しやすくなるでしょう。 ▶︎ 【事例4】地域とのつながりが明らかになり、より行き届いたケアを実現 医師が訪問時、同じタイミングで地域の民生委員の方が訪問。患者さんがその方から生活のサポートを受けていることを把握。また、民生委員の方から「ゴミ出しがうまくできていない」「新聞を複数契約してしまっている」などといった情報を入手し、併せてICTで関係者に共有。情報を受け、ケアマネージャーが積極的に介入するようになった。 この事例から伝えたいのは、幅広い情報を共有しやすくなるというICTのメリットに加えて、『実は私たち専門職が見えている範囲は狭いかもしれない』ということです。みなさんの中には、患者さんだけでなく、そのご家族まで見ている方も多いでしょう。しかし、患者さんが独居や二人暮らしの場合は、地域の方々が深く関わっていることもある。そんなケースでは、家族以外との関係にも目を向けられるのがベストです。まさにこの事例では、民生委員さんとの連携が生まれ、日常生活の困りごとを専門職間で共有できたことで、よりケアの質が高まりました。 すべてのケースにおいて地域の方との関係を意識する必要はありませんが、「地域包括支援センターからケアマネージャーさんにサポートが切り替わると、地域とのつながりが途切れてしまうケースもある」という話は耳にするので、紹介しました。これから独居高齢者を支えていくためには、地域資源の存在を意識することがより必要になっていくのではないでしょうか。 次回は、「vol.3 ICTの上手な活用のために知っておきたいポイント」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集 会員限定
2022年10月11日
2022年10月11日

【セミナーレポート】vol.1 現場で感じる3つのメリット/訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは

2022年7月22日(金)に行ったNsPace(ナースペース)主催のオンラインセミナー「訪問看護ステーションにおけるICT導入のメリットとは」では、田中公孝先生を講師に迎え、医療・介護領域におけるICTの必要性や活用方法などを教えていただきました。その内容を3回に分けてレポート。第1回の今回は、ICTの基礎知識やもたらすメリットをご紹介します。 【講師】田中 公孝 先生杉並PARK在宅クリニック 院長日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医/難病指定医2017年より東京都三鷹市で訪問クリニックの立ち上げに携わるかたわら、医療・介護分野におけるICTの普及活動に従事。市や医師会のICT事業にも参加する。2021年春には杉並PARK在宅クリニックを開業し、区内の医療現場でのICTによる多職種連携を牽引している。 目次▶ チャットツール感覚で便利に使える「ICT」 ・杉並区では「バイタルリンク」を導入▶ コロナ禍で多職種連携の質が低下 ・杉並区における多職種連携の継続、強化への取り組み▶ 【導入メリット1】職種間で目線を合わせやすくなる ・薬局や訪問入浴とのICT連携も視野に入れたい▶︎ 【導入メリット2】写真による状況把握ができる▶︎ 【導入メリット3】休みの間の状況を細かに把握できる --> ▶︎ チャットツール感覚で便利に使える「ICT」 ICTとは、「 Information and Communication Technology 」の略称で、日本語では情報通信技術と訳されます。要するに、インターネットを利用したコミュニケーションのことですね。具体的には、「チャットツール」をイメージしてもらえるといいと思います。コミュニケーションという観点では、形式こそ異なるものの、メールなどと変わりません。ただし、メールはアドレスを知らないと連絡できませんが、ICTならアカウントがあればアドレスを知らない人同士でも情報を共有できます。 そんなICTの位置づけは、「対面」と「電話・FAX」の中間と考えてください。対面でのやりとりでは、細かな情報を共有しやすいですよね。ICTも対面には及びませんが、電話やFAXよりも気軽に「緊急で報告するほどではないけれど伝えておきたい情報」を共有できます。とはいえ、電話もやはり必要です。ICTでは、相手が情報を確認するのが数時間後や翌日になってしまうこともあるので、緊急性が高い場合は電話がベストでしょう。 杉並区では「バイタルリンク」を導入 私のクリニックがある杉並区では、帝人ファーマ株式会社の医療・介護多職種連携情報共有システム「バイタルリンク」を使用しています。ICT導入にあたっては、やはりセキュリティの問題が気になるかと思いますが、「バイタルリンク」は厚生労働省がガイドラインで定めるセキュリティ基準をクリアしています。また、オンライン会議を簡単に開始できる機能(参加用のURLを共有する機能)が備わっているのも魅力。退院時カンファレンスや担当者会議などにも、もっと活用していくべきだと考えています。 ▶︎ コロナ禍で多職種連携の質が低下 近年、医療現場において多職種連携の強化は大きな課題です。しかし、新型コロナウイルスの流行により、その機会が減っているという危機的状況にあります。杉並区でもこの2〜3年は地域の連携会が非常に少なくなっていますし、おそらくどの市区町村でも同じ状況でしょう。 今や現場での連絡方法のメインは電話・FAXになり、対面のやりとりは激減しています。他職種の方との連携においても、緊急度が高いときや「ニュアンス」を確認するときにしか電話は使わず、FAXにいたっては、サインをもらうなどの用途がほとんど……という方も多いはず。つまり今、「対面」「電話・FAX」のコミュニケーション手段しか持っていない場合、多職種連携の質はコロナ前よりも低下している可能性が高いのです。 杉並区における多職種連携の継続、強化への取り組み 杉並区では、コロナ禍で多職種連携の質が低下するリスクを受け、昨年から地域福祉部委員会内にICT小委員会を設置。ICT普及に向けた取り組みを推し進め、連携の維持、強化を目指しています。また、多職種が参加するオンライン会議を実施し、感染状況が落ち着いたタイミングでは対面での会合開催も検討しています。なお、困難事例については、綿密に話し合いを行わないと職種ごとに目線がずれてしまいがち。オンライン会議を積極的に行ったり、短時間に収めるなど気をつけながら対面で打ち合わせをしたりといった工夫をしないと、連携の質が低下してしまう実感があります。 ▶ 【導入メリット1】職種間で目線を合わせやすくなる ICTの特徴は、職種を問わず、利用者さん全員に情報を一網打尽に流せること。これにより「情報を知らない人」をつくりにくくできます。この「情報を知らない人」には医師も含まれます。医師が2週間に1回しか訪問しないケースでは、前回の訪問時の最新情報がすでに古くなっていることもざらにあるので、訪問看護師さんにはぜひICTに最新情報を書き込んでほしいですね。 というのも、訪問看護師さんとご家族とで話し合った情報を医師が把握していないと、医療判断が「押しつけ」になってしまうケースが少なくありません。事情をよく知っている看護師さんが患者さんのご家族に「先生が来たら●●を伝えると良いですよ、▲▲してほしいと言ってくださいね」などとアドバイスをし、看護師さんから聞いたことをご家族が医師に伝える……という、『ご家族を通じての医師への情報伝達』を試みた経験がある方も多いかと思うのですが、これではニュアンスまで伝わらないことがほとんど。結果的に医師が、ご家族や担当看護師さんの思いに反する判断をしてしまうリスクがとても高いんです。今後はICTを活用して、クリニックと訪問看護が直接コミュニケーションを図るのが望ましいと考えます。また、訪問看護師さんからさまざまな情報が共有されることで、生活をベースにした医療提案を実現しやすくするというメリットもありますね。 訪問看護師さん側も、自分たちだけで抱えていていいものか迷う情報をICTに流し、そこに医師から「いいね」がつけば、自分たちだけが責任を負う状態ではないという安心感を得られるでしょう。 薬局や訪問入浴とのICT連携も視野に入れたい 薬局が最新の薬の処方状況や管理方法などの情報をICTに書き込んでくれれば、より連携の質が向上するはず。現段階ではこうした対応をしてくれる薬局はまだ少ないですが、引き続き薬局業界への啓発を行い、よりよい連携の形をつくっていければと思います。それから、訪問入浴やヘルパーの方々も、ぜひICTに入ってほしいところ。利用者さんの最新の状況を受け、医師や訪問看護師さんが「入浴は控えて清拭にしてください」などの指示を出せれば、関係者の負担を軽減できます。 ▶︎ 【導入メリット2】写真による状況把握ができる 訪問看護におけるICTのメリットとして、「写真による情報伝達」が挙げられます。ICTに写真や書類を添付すれば、情報共有の量、質ともに向上できます。例えば、私のようにクラウドカルテを利用していれば、その情報をコピーアンドペーストもしくはスクリーンショットすれば、迅速にデータを共有することが可能です。また、逆に訪問看護師さんからの写真報告を受けて、医師がフィジカルアセスメントをすることもできます。触診はできなくても「百聞は一見にしかず」で、遠隔での診断の質は確実に向上するでしょう。それから、利用者さんの居住環境の把握にも役立ちますね。「連絡帳はここ、薬はここに保管する」などといったルールも、ICTで写真を共有すれば確実に認識できます。これがFAXだと、「黒く塗りつぶされてしまって見えない」ということが起こりかねません。 ▶︎ 【導入メリット3】休みの間の状況を細かに把握できる 土日や夜間など、休みの間の利用者さんの状況を無理なく把握できることも、大きなメリットのひとつ。訪問看護ステーション内での情報共有に役立つのはもちろん、医師にとっても有益です。たとえば、訪問看護師さんから「(休みの間に)緊急で対応しましたが、様子を見ても問題ないと判断して退出しました。ご報告まで」などとICTに記録があれば、医師は「次回出勤時にフォローアップしておこう」と判断できます。自分が休んでいる間の利用者さんの状況はぜひとも知りたいですが、やはり電話は緊急のときのみにしてほしいもの。こういうシーンでも、ICT活用のメリットを実感しますね。 次回は、「vol.2 ICT活用の成功事例」についてお伝えします。 記事編集:YOSCA医療・ヘルスケア

特集
2022年10月4日
2022年10月4日

安心感をどう作るか④ 地域の関係機関との連携

最初の発生から2年が過ぎても、いまだ終息の見えない新型コロナ。感染防止対策だけではなく、目には見えないスタッフの不安やメンタルヘルスへの対応もステーションの管理者には要求されます。ベテラン管理者のみなさんに、今必要とされるスタッフマネジメントについて語っていただきます。第5回は、前回に続き、岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山の野崎加世子さんです。 お話野崎加世子岐阜県看護協会立訪問看護ステーション高山 管理者 非常事態になってから「連携しましょう」と慌てても、うまくいくはずはありません。今回のコロナ禍において、それがよくわかりました。紆余曲折はありましたが、非常時における関係機関との連携は、日ごろからの関係が生きてきます。 コロナ禍以前の連携 私たちの訪問看護ステーションは、今から30年近く前の1994年に開設されました。行政の保健婦(当時)が、訪問指導に家々を回っていた時代で、一人で100人の患者さんを担当する人もいました。そんな保健婦たちが、「私たちだけでは手が回らない。これからは、地域の看護婦(当時)の手で、質の高い訪問看護を提供する必要がある」と声を挙げ開設に至りました。そんな経緯もあり、行政との連携は当初から良好でした。 やがて、介護保険制度が始まり、ケアマネジャーや介護サービスの事業者たちの連携が欠かせなくなりました。連携なしには訪問看護ステーションは営めません。そう感じていた私たちは、医療職だけではなく、介護職の人たちとの連携を大切に育ててきました。ところが、感染拡大が足元にひたひたと迫るにつれ、状況は変わります。 情報の枯渇や分断 私たちの地域では、施設感染から火がつきました。デイサービスなどは、次々に休止となります。感染者や濃厚接触者が出たことの情報連絡が遅れて入ってくることもありました。「感染対策をしっかり行なっていたのか?」「早くに連絡が欲しい」という陰口も聞こえます。まさに、お互いの信頼が薄れた状況にみえました。 情報の枯渇や分断は、偏見につながるばかりか、感染対策上もマイナスです。感染者が出た施設を、事実を知らされないままに利用していたら、その利用者さんが使っているほかのサービスに感染が及ぶ恐れがあります。このような状況を行政に伝えるとともに、現場から連携を取り戻していくことにしました。 一緒に訪問して、温度差を解消する たとえば、ヘルパーさんと看護師が訪問すると、感染対策に対する意識や方法にかなりの温度差があることがわかりました。「そんなに防護しなければならないんですか!」と驚いたヘルパーさんもいました。利用者さんにとっても、家に来る専門職の防護服に違いがあるのは不安です。そこで、ヘルパーさんと一緒に訪問し、利用者さんごとに感染対策の方法を揃えることから始めました。 利用者さんが発熱した場合、ヘルパーさんは訪問を控え、訪問看護師は完全防護で訪問するなどの差はあるものの、それぞれの事業所が、自分たちの感染対策のありかたを真剣に考えはじめたのは、大きな成果だと考えています。それを足がかりに、平常から重視してきた「連携」を回復していきました。 本気で「共通言語」を重視する コロナ禍において、右往左往しながらも連携を回復できたのは、何といっても、平常からの関係づくりが重要です。そのなかで、私たちが最も力を入れてきたのは、「共通言語」による情報交換です。 「介護職との共通言語づくりの大切さ」とは、よく耳にする言葉ですが、私たちは、「誰もがわかる言葉」で、「ゆっくりと丁寧」に、「具体的に話す」ことにこだわりました。 尿量が減少した利用者さんの情報をヘルパーさんから入手しようと思ったとします。「少なめになったら知らせてください」では曖昧すぎます。おむつを使用している利用者さんであれば、「濡れている面積がいつもの半分以下なら連絡してください」などと具体的にお願いします。 リスペクトと「感謝」が連携の秘訣 言葉遣いを丁寧にするのは、いうまでもありませんが、「多くのヘルパーさんは、自分たちよりも長い時間利用者さんにかかわっているのだ」とリスペクトすることが、連携の秘訣だと考えています。 そして、リスペクトの延長線上にあるのが「感謝」です。「ヘルパーさんがいち早く教えてくださったので、入院せずにすみました。ありがとうございます」などと感謝を必ず返します。 スタッフへの浸透と「正直」であること 重要なのは、そうした関係づくりをすべてのスタッフが体で覚えることです。私たちのステーションでは、新人教育を3ヵ月、その後はチーム内でのOJTで、連携の大切さと連携の相手に対する姿勢を徹底的に教えます。現場で実際に痛い目に遭うことで、「どうすればよかったか」を自分の体に染み込ませることができます。 もう一つ大事にしているのは、「正直に開示すること」です。スタッフレベルでいえば、「訪問の車両をこすった場合には正直に報告する」といったレベルから始まります。 正直さは、事業所運営でも同様です。スタッフや利用者さんに感染者や濃厚接触者が出た場合には、包み隠さず情報を開示します。そうした誠実さが事業所間の信頼につながり、信頼に基づく「強い連携」へと成長します。そして、お互いに信頼できる関係性は、過度に感染を恐れずに、スタッフが安心して働ける環境にもつながります。 ―第6回に続く 記事編集:株式会社メディカ出版

コラム
2022年9月27日
2022年9月27日

在宅医療はおもしろい! 〜全員主役の理想的なチーム医療〜

ALSを発症して7年、41歳の現役医師である梶浦さんによるコラム連載です。今回は在宅医療を支える、ドーナツ型のチーム医療のお話です。 医療現場のチームの形 一言で「医療現場」といっても、さまざまな医療現場があります。高度な医療を必要とする患者さんを診る大病院、地域の医療を支える中~小規模の病院、長期療養型の病院や、在宅医療など、それぞれで、求められる医療形態は異なります。 従来型の医療現場は、医師を頂点にした「ピラミッド型」によく例えられます。これは、医師が治療方針を決めて、看護師をはじめとした医療スタッフに指示を出して治療を進めていくものです。シンプルで、比較的少ない医療スタッフで多くの患者さんを診ることができ、効率的な方法です。一方で、他職種の意見や、何よりも患者本人からの細かい声が医療現場に届きにくいデメリットがあります。 最近では、疾患にもよりますが、患者さんの治療とともに、その後のリハビリテーションや社会復帰を共通のゴールとして、医師を中心に看護師や理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのリハビリスタッフ、薬剤師、社会福祉士など、多職種が協力・連携する「チーム医療」が主流になっています。 そんなチーム医療のなかでも、理想的な形が在宅医療だと私は思います。 在宅医療現場でも、もちろん医師が治療方針を決めるのですが、生活の基盤をつくるのはヘルパーさん・看護師さん・リハスタッフさんたちです。皆それぞれ自分にしかできない役割を果たしながら、強い横のつながりでチーム一丸となって私を支えてくれています。 私の家の場合 ~ドーナツ型の医療体制 医師は毎週往診に来て、薬剤の調整や、気管カニューレ・胃瘻カテーテル交換などの必要な医療処置を行い、一週間の経過や今後の注意点などを総括して、各訪問看護ステーションや訪問介護事業所に連絡してくれます。 看護師さんはそれをもとに、毎日の体調管理や人工呼吸器の管理などの医療的なケアから、筋肉や関節の拘縮予防のマッサージや入浴介助など、日々の生活に必要なさまざまなケアをしてくれます。 理学療法士さんはLICトレーナー(肺を膨らませた状態を維持して、肺や胸郭の柔軟性を保つ道具。後々紹介します。 ALS患者に必要な情報「実用編」 ~のど~ 参照)を用いた呼吸理学療法や、拘縮予防のストレッチ全般を行なってくれます。また、私の所に来てくれている理学療法士さんは作業療法士さんの役割も兼任してくれており、タブレットを操作するスイッチの調整など日常生活に必須な機械類の整備をしてくれます。 言語聴覚士さんは、私に合った食事方法を食材ごとに考え、食事介助をし、それらをまとめてレシピノートを作成して、ヘルパーさんに伝達してくれます。この連載第3回( 在宅療養開始 ~スーパー理学療法士(PT)現る!~ 参照)で最後の食事の話を書きましたが、その後気管切開+声門閉鎖手術を受け誤嚥のリスクがなくなり、再び食べることができるようになりました。ただ、舌はほとんど動かせず、飲み込む力もかなり弱いため、食事形態や食べ方には工夫が必要です(後々紹介します。「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!参照)。 薬剤師さんは、医師の処方箋をもとに薬剤を自宅まで届けてくれ、「お薬カレンダー」に朝・昼・夕・就寝前の薬剤をセットして日々の薬の管理をしてくれます。 そしてヘルパーさんは、口腔内・気管内の吸引や、カフアシスト(強制的に咳を出す機械。後々紹介します。ALS患者に必要な情報「実用編」 ~のど~ 参照)を使った排痰ケアや、食事介助や口腔ケア、入浴介助、細かい体位変換や、天井走行リフトを使ってトイレや車いすに移乗したりと、日常生活のほとんどすべてをサポートしてくれます。また2人介助で毎週外出もしています。 皆さんとても思いやりのある細やかなケアをしてくれます。 このように、それぞれの職種の人たちがお互いに情報を共有しながら、多面的に私を支えてくれています。これはまさに、患者を中心とした「ドーナツ型」の医療体制であり、理想的なチーム医療の型だと思います。 わが家のクリスマス会 コロナの第5波が落ち着いて、東京都の感染者数が二桁になった2021年12月上旬に、感染対策もしっかり行ないながら、わが家でクリスマス会を開催しました。 主治医はもちろん、看護師・理学療法士・言語聴覚士・ヘルパーさんなど多職種の人たちが集まってくれました。私も言語聴覚士さんに介助してもらいながら、皆さんが持ち寄ってくれたおいしいお酒や食事を味わいながら談笑したり、その横で、22歳の若いヘルパーさんと主治医が将来の在宅医療や介護士不足の問題について熱く語り合っていたりと、とても楽しくて居心地の良い時間でした。 ただの食事会ですが、そこには何の上下関係もなく、皆が横の絆でつながっている、理想的なチーム医療の縮図を見たような気がしました。 コラム執筆者:医師 梶浦智嗣記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月30日
2022年8月30日

利用者さんとつながってこその「かかりつけ薬剤師」

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第8回は、薬剤師の齊藤直裕さんから、利用者さんの背景をふまえた「かかりつけ薬剤師」の支援と連携を紹介します。 「間違いのない服薬」だけではない 私は、在宅支援診療所である新宿ヒロクリニックで院内薬剤師をしています。大学卒業後は数年間、救急病院に勤務し、その病院勤務時代の知り合いであった訪問看護師さんに引っ張り出されたことをきっかけに、以来20年ほど薬剤師として在宅医療にかかわっています。 在宅患者さんへの薬剤師のかかわりは、薬の適正使用サポートが大きい部分ではあります。間違った飲みかた・使いかたを防ぐため、患者さんの理解度を確認しながら、管理方法をサポートすることです。 しかし、現実の治療と在宅生活を考えたときに、教科書どおりの「正しい使いかた」はできないことがままあります。たとえば「一日3回服用する」ことだけでも、生活のなかで毎日確実にできるかは難しい人もいます。必要なのは「間違いなく確実に飲ませる」といった厳格な管理ではなく、現在の病状と日常生活のバランスだと考えています。 医療や服薬が中心になりすぎることで、その人の生きがいや満足につながらない可能性を考えなければなりません。在宅療養支援診療所の大きな役割は、地域生活や社会生活のサポートです。その人が何を考え、これからどう生きていきたいかを、地域で一緒にサポートするスタッフと話し合いながら進めていく必要があります。 「一日3回服薬」が難しい場合は かといって、いい加減な服薬でよいわけでもありません。認知機能の低下などあって、一日に1回の服用なら何とかできるが、一日3回は難しい人がいたとします。それを「しょうがない」ですませるのではなく、たとえば一日1回の服用で長く効くタイプの薬に変更できるかもしれない。そこで仮に変更した場合、長く効き目がある薬はそのぶん、体に薬の成分が長く残ります。腎臓や肝臓の機能はどうか、万が一副作用が出たときにいかに早く気づくことができるか、などを考えて提案や調整を行います。 「薬剤師は医師の処方に従って薬を出すだけの人」と思われがちですが、在宅医療では薬剤師も、その方がどんな暮らしをしており、お体はどんな状況なのか、事前情報の段階でしっかり確認します。 その上で、特に薬を変更した場合などは、どんなタイミングで、何のために、どんな薬に変更して、どんなことに気をつけるのがよいか。地域で一緒に働くスタッフにも「専門家の意見として」共有させていただいています。病院などとは違い、ご自宅では医療従事者が常時いるわけではありません。万一異変があったら誰かが訪問した際に気づけるよう、すぐ連絡できる体制──「連携」が大切だからです。 在宅医療にかかわる薬剤師の多くは、直接患者さんのそばでケアをするわけではありません。病状と想いを共有して、地域の薬局と連携し、ふだんの服薬状況を確認しながら、ケアマネジャーさんを中心として情報共有し「支えようとしている人を支えること」で間接的なサポートができているのだと思っています。 「飲み忘れ」より多い「飲みすぎ」の相談 実際には、「飲み忘れ」でなく「飲みすぎ」の相談が、意外に多くあります。予定より早く薬がなくなってしまうため、管理方法などどうしたらよいかといった内容です。 外来に通院している人なら「薬がない」とご本人が病院に来ることもありますが、ご本人に過量服用している自覚がない場合が多く、対応に苦慮することがあります。 お一人でいる時間に服用してしまうことを防ぐのは難しく、薬を預かったり隠したりすることもご本人の自尊心を傷つけて、不安や不信感につながることがあります。ですから一概に「このようなケースはこうする」と決めることはできません。やはり連携が必要となり、日々変化する感情や病状に合わせての対応が求められます。 ご本人の認知機能はもちろんですが、それまで生きてきた過去(プライドやキャラクターなど)、生活の自立度、そしてどの程度管理すべきかの病状と経過、医師の見解を地域の薬局と共有し、ケアマネジャーさんとはサービスの受け入れ状況や、協力体制、薬剤の支給のタイミングを共有します。 私たちは、異変に気づいたときにすぐに共有できるような体制づくりや、情報共有システムなどの整備にも取り組んでいます。 多職種がともに学び、ともに悩むことの価値 血圧を下げる薬を例にとると、「血圧のコントロール」は手段であって、目的は、「脳卒中や心筋梗塞など大きな病気の予防」「予防した上で地域生活を維持すること」であったりします。前述の、病状や生きがい、人生満足度によっても、血圧のコントロールで考えられるリスクと、地域生活が維持できるかどうかのリスクの許容範囲は変わってきます。 多職種で共有するためには前提が重要です。在宅ケアは、他職種がどのようなことをしているか、同行しないと見えない部分が多くあります。新宿食支援研究会に参加することで、さまざまな職種について学ぶだけではなく、表面上わからなかったそれぞれの想いや現状も、交流を通して知ることができました。 それぞれの義務とプロフェッショナリズムを理解しつつ、病気や障害があったとしても、地域で安心して暮らせる社会をともに目指す。多くの職種が集まるなかで、それぞれのケースでともに悩むことが重要であり、サポートする側も含めた地域づくりをしていくことこそが大切なのだと学ばせていただきました。 執筆齊藤直裕薬剤師新宿ヒロクリニック新宿食支援研究会 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年8月23日
2022年8月23日

多くの「気づき」の情報が利用者の生活を快適に

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第7回は、福祉用具専門相談員の山上智史さんから、利用者の「できる」を引き出すための環境整備について紹介します。 在宅生活に必須の福祉用具のプロフェッショナル 私たち福祉用具専門相談員は、高齢者や障害を持つ人が残存機能を生かして生活しやすいよう、また、介助者が負担軽減しやすいように、住まいの環境整備をする専門職です。環境整備の選択肢としては、用具の使用や、住宅改修を行い整備します。 現在、介護保険ではレンタルできる福祉用具は13品目、購入できる福祉用具は5品目、住宅改修は5項目あります。福祉用具専門相談員は福祉用具サービス計画を立て、ケアマネジャーがそれをプランに入れて利用します。私たちは、そのプランどおり継続できているか、ミスマッチが起きていないかなど定期的に見直しをしながら、常にベストを目指して環境づくりをしています。 特に退院後の生活に必要な環境を整備 利用者に合った生活環境を作るためには、利用者の身体機能や疾患の状態などの情報が必須です。看護師と福祉用具専門相談員が情報共有することが多いのは、次のような場面です。 退院時の調整 病院ではできていたことが、在宅ではできないことがあります。 たとえば、病院では便座の高さが40cmで立ち座りができていたが、在宅では38cmで立ち座りが不安定になることがあります。また、食器や食具が病院と異なるため、家での食事はうまく食べられない方もいます。そのため、病院側の情報が多く入りやすい看護師との情報共有は重要です。 姿勢調整の相談 生活場面での座位姿勢やベッド上での姿勢は、嚥下や排泄に密接にかかわっているため、看護師からの情報が重要になります。たとえば看護師が把握している情報(座位保持時間、関節可動域、痛みの部位・具合など)に合わせて車いすの調整やクッションの選定を行っています。 生活動線の確保 生活のなかの「できない」には、さまざまな原因があります。たとえば「食べたくない」と言う利用者の本当の理由が「トイレに行く頻度を増やしたくない」ことだったこともあります。このように問題点を解決するヒントは間接的にほかの場所にある場合も少なくありません。 そのため、生活に密接にかかわっている家族・ヘルパー・看護師の情報を共有してもらうことで、環境面の改善に役立てることができます。 環境への「気づき」がポイント 福祉用具導入で食事介助が不要になった例 Aさん、80歳代女性、パーキンソン病 当時、私はヘルパーとしてパーキンソン病で座位が安定しないAさんの食事介助をしていました。40分隣に座り、Aさんの体を抱えながら食べ物を口に運び、Aさんは体を固くして口を開けるのが精いっぱいでした。 そんな時期に、私が部署移動で福祉用具専門相談員となり、当時新商品だった端座位保持テーブル「Sittan」という商品を見つけ、ケアマネに相談しました。すると端座位が安定しただけでなく、Aさんはテーブルに肘をついて自分で食事を食べだしたのです。 食事介助に40分かかっていたものが、自分で、20分で食べられるようになりました。このとき、「よかった」と喜びの感情と同時に「筋緊張で食べられなかったのは座る時の環境が悪かったんだ。気づかなくて申し訳なかった」と、環境づくりの大切さ、環境に目を向ける責任を痛感しました。 残存機能を生かした環境づくりで排泄行動が自立した例 Bさん、80歳代男性、脳梗塞片麻痺で歩行不可 脳梗塞をきっかけに車いす生活になったBさん。家のトイレは手前に段差が2ヵ所あり、立位が安定しないBさんは、歩行移動も、段差のせいで車いす移動もできない環境でした。退院時に看護師からおむつかポータブルトイレを用意するように言われ落ち込み、退院後はトイレ回数を減らすために食事も制限するようになってしまいました。 Bさんは、車いすの足こぎ移動やベッド上での横移動ができていました。それを知っていた私は、その自立機能を生かした環境にすることでトイレまで行けないかを考えました。そこで車いすの足漕ぎでトイレ近くまで移動してもらい、いすをトイレまで並べて置き、立ち上がらなくてもベッド上で横移動をする要領で移動ができるように工夫しました。 この環境にすることにより、Bさんは介助者の手を借りることもなく、自分のタイミングでトイレまで行くことができるようになりました。 福祉用具専門相談員が役立てること どんな福祉用具でも、メリットだけでなくデメリットもあります。 たとえば、エアマットレスは褥瘡防止のメリットがある反面、動きづらいデメリットがあります。車いすも下肢の負担軽減になるメリットの反面、下肢筋力低下の可能性というデメリットがあります。 ある利用者は、誤嚥を繰り返す原因が、体の機能低下と診断されていました。しかし実際に伺うと、テレビを見上げるような位置にあり、姿勢が崩れて結果的に誤嚥を繰り返していたことがわかりました。テレビの配置を低くし、誤嚥が改善されました。 私たちは利用者に合った用具を正しく選定する義務があり、そのためにも福祉用具専門相談員にできるだけ多くの情報をいただけると助かります。そしてぜひ私たちにも相談してみてください。 ー第8回へ続く 山上智史福祉用具専門相談員株式会社K-WORKER新宿食支援研究会記事編集:株式会社メディカ出版記事協力:パラマウントベッド株式会社

特集
2022年8月16日
2022年8月16日

ケアマネは多職種との信頼あってこそ司令塔

新宿区一帯で在宅ケアを提供している事業所の有志が集まった「新宿食支援研究会」。「最後まで口から食べる」をかなえるために、日々、多職種での支援を実践しています。本研究会から、各職種の活動の様子をリレー形式で紹介します。第6回は、ケアマネジャーの森岡真也さんから、訪問看護師を含む多職種チーム構築を紹介します。 サービス調整だけではないケアマネの仕事 私が担当している地域、東京都新宿区は人口343,662人、高齢者人口67,187人、高齢化率19.6%(2022年5月1日現在)。新宿というと、一般的には高層ビル群や歌舞伎町の繁華街がクローズアップされるため、生活している人が少ない印象ですが、実際にはかなりの数の高齢者が住んでいる地域です。 地域的な特徴としては、独居高齢者・高齢者のみ世帯の比率が多く、また高齢化率が50%を超える大規模な都営住宅が2ヵ所あります。区内には大規模な病院が数多くあり、難病などで療養生活を送る方も多くいらっしゃいます。そのためか、訪問診療や訪問看護などの在宅医療が昔から充実している地域でもあります。 そんな新宿区で私がケアマネジャーの仕事を始めて16年になります。ケアマネジャーは一般的に、利用者に適したケアプランを作成し、利用者とサービス提供事業者の間に立って連絡調整をする、いわば介護保険の道先案内人のような専門職。最近では、介護保険外のサービスを調整する機会も多くあります。 ケアマネジャーとして働くためには、もちろん介護保険の幅広い知識が必要ですが、活動する地域のさまざまなフォーマル・インフォーマルサービスを提供する方々と関係を作り、利用者に紹介できるよう準備することも重要なのです。 顔の見える関係で把握できた情報が在宅ケアチーム構築につながる 新宿食支援研究会に参加したのは、同会設立時の2009年。以降、研修会やワーキンググループ、イベントなどでさまざまな方と出会い、その出会いが現在の私の仕事の糧となっています。 在宅生活の支援では、さまざまな問題が複合的に重なるケースが少なくありません。訪問看護師さんには、疾病上の管理のみならず、生活上の支援や家族関係の情報収集など、さまざまなことをお願いしています。また、看護師さん個々人のスキルや資質を頼ってケースを依頼することもあります。 新宿食支援研究会に関係している看護師さんとは、研修会などを通してスキルと顔の見える関係ができており、また食支援全般に深い知識と興味がある方が多いため、摂食嚥下機能障害をはじめ、さまざまな問題のある利用者の支援をお願いすることが多くあります。 病院などで組織内にすでにある多職種チームで支援を行うのとは違い、在宅ではさまざまな制約があり、支援の工夫が必要です。たとえば、本来必要な専門職が地域に不足している、または経済的な面で導入ができないため、多職種からその役割を補完してケアチームを組み立てることが多くあります。本来ならばST(言語聴覚士)の導入が必要なケースに、摂食嚥下訓練に詳しい看護師さんに入ってもらうことなどが過去にありました。 また、摂食嚥下機能に問題があり、一回の食事介助で少量しか食べられない方の食事回数・水分補給の回数を増やすため、ヘルパー・看護師・理学療法士・言語聴覚士・医師・歯科医師・管理栄養士など訪問するすべての職種の方々に、こまめな食事介助、水分補給の介助をお願いしたケースもあります。 このように、在宅ケアチームの構築には、地域の専門職個々人のスキルや資質を把握しておくことが重要となります。この把握にはやはり、実際に一緒にケアチームとして仕事をする前に、さまざまな研修会などで知り合えていることが役立っています。 多職種が常駐し、介護相談できるカフェをオープン 新宿食支援研究会でよく使われる「MTK-H®」という言葉があります。「M」は「見つける」、「T」は「つなぐ」、「K」は「結果を出す」、「H」は「広める」という、食支援にかかわる人の役割を表しています。 私たちケアマネジャーの役割の一つは、「T」、つなぐこと。在宅生活を希望されているご本人にとって、現況最適な在宅ケアチームを構築する役割です。そのためには、まず「M」、見つける役割を担う人が必要となります。われわれケアマネジャーが見つける人はもちろん、ご家族や地域住民の方です。ケアマネジャーとして、地域住民の方とつながって地域の社会資源を育んでいくことも、重要な仕事です。 新宿食支援研究会では、現在ワーキンググループとして地域住民の方とともにプロジェクトを進めています。 また法人事業として2022年6月に介護事業所併設のカフェ「介護相談もできるカフェ Sunnydays Café」をオープンしました。このカフェは、地域の喫茶店として機能しつつ、ケアマネジャーをはじめ介護の専門職がカフェに常駐し、地域の方の介護相談がある場合にはさりげなく寄り添いたいという思いでつくりました。Sunnydays Café内には、地域の方と医療・介護・福祉の関係者をつなぐ、さまざまなしくみを用意しています。 ケアマネジャーとして、多くの「K」、つまり結果を出す看護師さんをはじめとする医療・介護・福祉の専門職と、地域住民をつなぐ役割をこれからも果たしていこうと考えています。 訪問看護師さんには、ぜひ私たちケアマネジャーと直接つながる機会を持っていただき、地域の看護師さんの情報を気軽に利用者・家族・地域住民・専門職の方と共有できるよう、必要な情報をケアマネジャーに教えていただければと思います。 ー第7回へ続く 森岡真也ケアマネジャー株式会社モテギ新宿ケアセンター長新宿食支援研究会Sunnydays Caféhttps://sunnydayscafe.hp.peraichi.com/記事編集:株式会社メディカ出版

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