教育に関する記事

コラム
2021年10月5日
2021年10月5日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 内部体制に関する方針 パート3~

第11回は、いよいよ「内部体制に関する方針」のパート3です。パート1の冒頭に紹介したとおり「成果はすべてお客様から得られます。会社の内部は全て費用でしかありません。赤字会社の社長は、いつでも内部管理に終始しますが、本末転倒です。」というのが基本姿勢ですが、とはいえ、そこで働くスタッフが基本方針を間違って解釈したり、方向性に迷ったりしないようきちんと明示しておくことは大切です。今回は、その中であえて1項目を抜き出して説明します。 会議に関する方針 以下、事業所専門職スタッフ全員参加のミーティングを想定しています。日常的に実施される専門職のケースカンファレンスだけではなく、事業所の運営をスムーズに行うための全体ミーティングを月に1回は実施すべきと水谷氏は勧めます。各事業所が自走経営するための会議、といったところでしょうか。ただ訪問すればいいだけ、という意識で仕事をするのではなく、労働生産性を意識して高め合うためにも、このような会議を定期実施してはいかがでしょうか。 ①情報交換と意思統一、計画・実績確認を重視します。 ②会議の目的とは? 以下の項目について情報共有と対策検討をします。 ・お客様サービス・ご要望・クレーム対応 ・ご紹介先、関係機関との情報疎通・増客 ・人員・設備の過不足、スタッフ空き情報、請求回収について ・教育・研修計画/実施、地域集会参加促進 ・制度変更や実地指導の確認 ③会議開始にあたり、前回決定事項の確認をする。終了時には、当日決定事項の確認をする。 ④お客様が主体ということを念頭におく。 ⑤機微、場の空気を読むこと。話が飛んだり、すり替わったりすると時間を無駄にし、全員の神経を疲労させます。 ⑥先行き対策に知恵を出すことが優先です。誹謗・中傷の場ではありません。 ⑦決まった時間内で終了するのがベストです。会議前には、話す要点を整理してくると運営がスムーズです。 ⑧アジェンダ(議題)と議事録は必須です。レジメは開始数日前、議事録は翌日が基本です。担当を決めて習慣にしてください。 上記、②は運営・経営に直結する内容。それ以外は、会議への臨み方です。各社多少のアレンジはあると思いますが、スタッフが慣れないうちは、社長や本部スタッフなどがファシリテートして会議を進行してください。大事なのは、現場で起きていること(特に悪い事)がきちんと社長へ上がることです。どこかでクレームが隠蔽されたり、ご要望に対して何かにつけボトルネックがあったりすると、正常な経営ができません。現場で起きていることが正しく社長・本部へ伝わり、逆に会社の経営方針や意思を現場に浸透させるには、膝をつめて話し合いを重ねるしかありません。ある程度の緊張感をもった「会議」を実施することで、なあなあ体質にならない集団ができることと思います。 さて、「水谷氏から学んだこと」も佳境に入って参りました。次回は「評価についての方針」についてお話しします。ご期待ください。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【略歴】2012年ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務

特集
2021年9月28日
2021年9月28日

第3回 計画的な人材採用と育成/[その3]「人材育成」のカギはコミュニケーション力アップ!

連載:働きやすい訪問看護ステーションにするための労務管理ABC 連載第3回目では[その1]~[その4]にわたり訪問看護ステーションにおける人材採用と育成について解説していきます。今回のテーマは“人材育成”です。今回はOJTやOFF-JTといった研修制度とともに、部下の育成に特化した対話形式のマネジメント手法である1on1ミーティングについてご紹介します。 ●ここがポイント!・新任訪問看護師の育成方法にはOJTとOFF-JTがある。・現場での指導だけでなく、その後もフォローと振り返りを促し次の成長につなげるしくみづくりが大切。・1on1ミーティングは、対話を通じて部下自らが問題解決の糸口を見つけ行動できるようにサポートする手法。 OJTとOFF-JT 新任訪問看護師の育成方法には、OFF-JT(Off the Job Training)による事業所外での基礎的な知識・技能の習得とともに、実際の仕事を通じて指導し知識・技術などを身に付けてもらい、担当ケースの難易度のレベルを徐々にあげるOJT(On the Job Training)があります。 さらに、OJTやOFF-JTで学んだ知識や技能を実践し、その結果について気づきや課題、改善点などを振り返るプロセスも育成の過程ではとても重要です。指導後のフォローも忘れずに、日常的に声かけし、振り返りを促し、次の成長につなげるしくみづくりが大切です。 例えば、OJTのしくみづくりに活用できるものとして、東京都福祉保健局のサイトで公表されている「訪問看護OJTマニュアル」と「評価シート」があります。▶東京都福祉保健局 訪問看護OJTマニュアル 「評価シート」をもとに訪問前に目標の意識づけを行い、訪問時に態度・行為全般を管理者がチェックし、訪問後に訪問内容全体の振り返りと次の目標設定を行います。お互いがOJTの状況を共有し、目標設定や振り返りに用いるコミュニケーションツールとして活用できます。 またこうした日々のOJTとは別に、新任訪問看護師以外の職員の人材育成を進めるうえで週1回あるいは月1回などのペースで「1on1ミーティング」と呼ばれる時間をもつことも効果があります。 1on1ミーティングとは 1on1ミーティング(以下、1on1とします)とは、部下と上司が1対1で行う対話のことをいいます。 上司が主体となって実施する業務管理や評価のための面談とは異なり、1on1の主体は部下です。部下のほうから仕事の悩みや問題などを上司に伝え、上司は一方的にアドバイスをするのではなく、問題解決に向けてどうしたらよいか部下と対等に意見を交わします。そして、対話を通じて部下自らが問題解決の糸口を見つけ行動できるようにサポートします。1on1は、職員1人ひとりが自律的な行動をとれるように、人材育成やパフォーマンスの向上を目的に、さまざまな企業で取り入れられています。 組織活動ではコミュニケーションをとることがとても重要です。これが不十分だと、報告や連絡、相談が滞り、お互いに何をしているのかわからなくなってしまいます。1on1では、仕事だけでなく、プライベートな話題も話します。部下とのコミュニケーション不足を解消するしくみとして、1on1を活用するのも1つの方法です。 1on1の進め方 事業所で1on1を導入するには、どのようにすればよいでしょうか。ここでは、1on1の進め方を4つのステップに沿って説明していきます。 Step1 信頼関係をつくる まずは日ごろからコミュニケーションを重ね、信頼関係をつくっておくことが大切です。信頼関係のないところで1on1を行っても、職員から本音を引き出すことは難しいでしょう。 普段の接し方や受け答えから、職員は上司がどのような人物か見ています。職員との関係性を築くためにどうしたらよいか考え、行動することが必要です。「私の話にしっかり耳を傾け、認めてくれる。信頼できる上司だ」と思ってもらえるように心がけます。 Step2 1on1を設定する  1on1を定期的なイベントとしてスケジュールに組み込みます。週に1回、最低でも月に1回の頻度で、1回あたり15~30分程度をめやすに実施します。直接会えない場合は、電話などで柔軟に対応し、短時間でもよいのでコミュニケーションの機会を設けるようにします。1on1は維持・継続することが大切です。 Step3 テーマを決める  テーマを決めずに1on1を始めると、時間がかかってしまいがちです。あらかじめ話すテーマを決めておき、質問事項や伝達事項をお互いに考えておくとよいでしょう。Step2で決めた実施時間を守るためにも効率的に進める工夫が必要です。 Step4 実施と記録  1on1では、部下の意見や考えをしっかり受け止め、認めることが大切です。また、「こういう問題を抱えているのではないか」「前回こう言っていたので今日はこれをアドバイスしよう」といった先読みや深読みはせず、先入観をもたずに、その場で部下が話すことに耳を傾けます。部下が安心して話せるような雰囲気をつくります。 そして、1on1の内容は共有できるように議事録を残すとよいでしょう。記録があれば認識の違いを避けることでき、振り返りにも活用できます。 質の高い1on1で人材育成を 1on1を定期的に行っていると、職員の成長や変化にすぐに気づくことができます。機動的に部下の行動計画をサポートすることができ、その結果として部下自身が自律的にスピーディかつ柔軟に目標達成に向けた行動をとれるようになります。 1on1は最初からスムーズに進むとは限りませんし、その効果はすぐにあらわれないかもしれません。しかし、1on1成功の秘訣は、継続・維持することです。回数を重ねるうちに信頼関係が深まるとともに、部下の実践能力が向上していきます。上司自身が成長する機会にもなるため、組織にとってプラスに働くことが期待できます。ぜひ質の高い1on1を取り入れ、職員の育成に取り組んでください。 ** 齋藤 暁株式会社ムトウ コンサルティング統括部 部長中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント 医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。 ▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 編集協力:株式会社照林社

インタビュー
2021年8月3日
2021年8月3日

大学関係機関のメリットを生かし、 経営を超え、地域のために訪問看護を広く支援したい

看護学科のある大学直営の訪問看護ステーションを立ち上げた棚橋さつきさん。今回は、学びの場としての研修と、報酬請求などあらゆる業務をだれもができるようになることの重要性について語っていただきました。 研修機会の提供とスタッフ育成のために 2015年に開設した高崎健康福祉大学立の訪問看護ステーションでは、地域貢献のため、研修機会の提供に積極的に取り組んでいます。研修内容は、褥瘡、ストーマ、排泄ケア、難病、リハビリテーションなど多岐にわたります。現場で本当に困っていることを解決できるよう、専門的かつ実践的な研修にすることを心がけています。また、個人でも参加しやすいよう、参加費は1人2000円程度としています。 当初、研修の内容企画は、私と管理者が中心になって考えていました。しかし、私自身が息切れしてきたことや内容が偏る傾向も見えてきたことから、色々な分野を強みとするスタッフに考えてもらうことにしました。自分自身がどういう研修を受けたいか。講師は誰に頼むか。どういう形式で行うか。参加者は何人にするか。そうしたことを考え、計画を出してもらうことにしたのです。 私や管理者が立てた研修をただ手伝うのと、自分で企画運営するのとでは、経験から得られるものはまったく違います。地域包括ケアを考えたとき、訪問看護師として研修の企画運営をしていくのも必要な能力だと考えました。 任せてみると、それぞれの関心によって異なる内容の研修を提案してきます。私が考えるよりバラエティに富んだ内容になり、スタッフに任せて良かったと感じています。 スタッフに任せるということでは、月1回、管理者が行っていた診療報酬請求の際の書類の入力も、常勤スタッフに交代で担当してもらうことにしました。医療保険における利用者の疾患情報の入力です。 自分の担当以外の利用者も含め、その月1カ月の状態の変化などについて記録を読み込み、コンパクトにまとめて入力する。これが、スタッフにとっていいトレーニングになると考えたからです。こうした作業が診療報酬請求上、必要であると知っておいてほしいという気持ちもありました。 訪問看護に長く携わっていても、ステーションの運営や事務作業、労務管理などについて学ぶ機会はなかなかありません。当ステーションで長く勤めてくれているスタッフには、いずれ独立したとき、管理者になっても困らないようにしたい。そう考えて、このほか時間外勤務の計算なども、交代で任せるようにしています。 研修で変わる退院支援看護師の意識 地域貢献としては、このほか、訪問看護ステーションの立ち上げ支援や、退院支援についての勉強会「退院支援を考える会」(事務局は在宅看護領域)も行っています。 ステーションの立ち上げ支援は、当初、一つのパッケージをイメージしていました。ところが始めてみると、受講希望者のニーズは実に多種多様。「開設のための提出資料がわからない」「記録をどう整備すればいいかがわからない」など、一人ひとり違うのです。今はその人に合わせてオーダーメイドで対応しています。 申し込みは毎年3~4件ですが、受講後、管理者になった人が相談に訪れることもあります。こうした支援によって、県内の訪問看護ステーションの立ち上げには、かなり貢献できたと考えています。 「退院支援を考える会」は、もともとは当大学の学内事業として始めました。もう10年になりますが、定期的に研修会を開催しています。今は研修の一部を当ステーションで担当していますが、場所やパソコンの機材などは、大学の教室などを無償で借りて実施しています。大学関係機関で実施するメリットですね。 「退院支援教育研修」では、病院の退院支援担当のソ-シャルワーカーや訪問看護師が講義を行い、その後実習へ行き、最後に事例検討を行います。対象は病院の退院支援看護師で、25人が定員ですが、毎回、参加希望者が多く、すぐ定員になります。 この研修会で、退院支援のすべてを伝えることができるわけではありません。しかし、参加者は看護師ですから、現場を見ればどのような支援が必要か、ある程度イメージはできます。「車いすの練習を一生懸命やっていたが、こんな広い廊下なんて在宅にはない」など、実習のあと、参加者はさまざまな気づきを口にします。たとえ小さな気づきであっても、発想はそこから変わっていきます。そうすると、退院していく患者さんへの声かけも違ってくると思うのです。この研修では、そんな“訪問看護の入口”の部分の意識変革だけでもできればと考えています。 昨年からの新型コロナウイルス感染症のまん延で、在宅では感染についての知識が圧倒的に不足していることを痛感しました。当大学では2022年4月から、感染管理認定看護師課程を開設し教育研修に取り組む予定です。それを前に、今年は感染管理認定看護師に、1年間だけ当ステーションに来てもらい、在宅での感染対策のマニュアル作成を進めています。それをたたき台にして多くのステーションに対して発信し、活用してもらいたい。大学立の訪問看護ステーションとして、経営を超え、今後も訪問看護を広く支援する活動に取り組んでいきたいと考えています。 ** 棚橋さつき 高崎健康福祉大学 保健医療学部 在宅看護学 教授・ 高崎健康福祉大学訪問看護ステーション統括マネジャー 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2021年7月27日
2021年7月27日

大学立の訪問看護ステーションとして看護学生、新卒看護師の教育・育成に取り組む

看護学を教える教授でありながら、自ら総括マネジャーを務める訪問看護ステーションを立ち上げた高崎健康福祉大学の棚橋さつきさん。若い実習生を積極的に受け入れ、経営・運営の安定化にも力を入れています。その奮闘ぶりをお聞きしました。 スタッフにも意味がある学生実習受け入れ 高崎健康福祉大学が地域医療、看護を強化することを目的に訪問看護ステーションを開設して、丸6年が過ぎました。公的機能を持つ教育・研究拠点とすることで、地域貢献が可能になると考えて設立した、独立型の訪問看護ステーションです。 当時、大学立のステーションはまだ珍しく、この新しい取り組みに共感した専門性の高い訪問看護師、病院師長経験者などが集まりました。ステーションはベテランのスタッフを中心に、看護実践、教育、研究を三本柱として、2015年4月に運営を開始しました。 訪問看護ステーションは、地域によってはがんや小児など、専門特化型で経営が成り立つところもあります。しかし、群馬県内ではそう多くはありません。どのような疾患にも対応できるスタッフが多ければ、それだけ早く収支を安定させることができます。スタッフの頑張りのおかげで、開設3年目には、当初の計画通り単年度での黒字化を達成しました。 教育の拠点として、開設2年目から大学の在宅看護実習を受け入れることも、当初から計画していました。そのため、実習先の確保も考慮し、開設後の1年間で利用者数を50人まで増やす必要があったのです。これも計画どおり、2年目から開始することができました。 以来、学生実習は、4~5人を1グループとして2週間ずつ、年間5~6グループを受け入れています。今は、新型コロナウイルスへの感染を恐れ、学生実習の受け入れは控えたいという利用者もいます。そのため、訪問件数は減らしていますが、実習生の受け入れ自体は感染予防に留意しながら継続しています。 学生実習を受け入れると、スタッフには負担がかかります。開設2年目に初めて学生実習を受け入れたとき、スタッフからは「学生は何もわかっていない」「何もできない」と訴える声が上がりました。そこで私は、スタッフに大学の在宅看護の講義や演習を見学に行かせました。 数回だけの見学でも、大学教育でできる範囲で精一杯教えていること、それでも学生には十分理解しきれないことがあることを理解してもらいました。学生や大学の教育を批判しても何も始まりません。学びの途上にある学生に、現場実習の中で理解を進めてもらうにはどうすればいいのか。スタッフも、徐々にそれを考えてくれるようになっていきました。学生実習の受け入れは、スタッフにとっても意味があると感じています。 新卒訪問看護師も年度末には月50件を訪問 在宅看護実習を経験し、当ステーションへの就職を選択した学生もいます。残念ながら、多くの訪問看護ステーションは、今も新卒採用には消極的です。当ステーションが新卒者の採用を計画したときも、大学側から、新卒者を採用して育成しながら運営していけるのかという指摘がありました。 確かに、新卒者は研修期間中、一人で訪問できず収益には貢献できません。しかし、当ステーションではしっかりとした研修プログラムの実施により、入職1年目の終わりころには、新卒者も月約50件の訪問を担当できるようになりました。もちろん、訪問先の選定は必要ですが、件数だけを見ればほかの看護師と同等です。新卒でも自分の給料分をきちんと稼ぎ、収益を上げてくれる存在となったのです。それと同時に大きな成果はスタッフの教育への意識が変わったことでした。教育することで自分たちに何が不足しているのか、どのような教育をしたらいいのかを考える良いきっかけとなりました。当ステーションとしても、開設3年目に新卒看護師を常勤で採用しながら、前述のとおり、単年度の黒字化を実現しました。 新卒看護師育成の研修プログラムは、外部の病院の新人研修プログラムの受講、緩和ケアや介護現場の見学、当大学の栄養、小児、社会福祉関連講義の受講などで構成しています。 研修プログラムは2年で終了し、その後はほかの看護師と同様の研修に移行します。4年間で2名の新卒看護師を育成したことで、研修プログラムを整備できれば、訪問看護ステーションでの新卒者受け入れに問題はないと感じています。そうした理解が、多くの訪問ステーションに広まり、新卒の訪問看護師が増えていくことを願っています。 (後編へ続く) ** 棚橋さつき 高崎健康福祉大学 保健医療学部 在宅看護学 教授・ 高崎健康福祉大学訪問看護ステーション 統括マネジャー 記事編集:株式会社メディカ出版

コラム
2021年5月25日
2021年5月25日

医師のいない場で医療的判断を行うスキルと在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)

第3回ではマネジメントスキルなどについてお話をさせていただきました。今回は、医師のいない場で医療的判断を行うスキルや在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力)についての考え方をお話したいと思います。 訪問看護師に必要な8つのスキル・知識 ①本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル ②本人・家族の平時の生活を想像するスキル ③他職種とコミュニケーションを取るスキル ④マネジメントスキル ⑤医師のいない場で医療的判断を行うスキル ⑥在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) ⑦医療制度・介護制度などに関しての知識 ⑧礼節・礼儀などを実践できる素養 訪問先での不安感 病院や外来診療所に勤務されている看護師さんは、医師がいない場で医療的判断を行うことに心的ハードルを感じられることが多いと思います。私自身、いくつかの病院で在宅医療部の立ち上げの支援をさせていただきましたが、その際に在宅医療部に配属となる看護師さんを決めるステップの時に、かなり時間を要することがありました。やはり在宅医療という未知の分野に入ることに対しての不安感や、自身のスキルに対して不安に思うことなどが影響していると考えています。 また、実際に配属の看護師さんが決まっても、訪問看護師ではなく同行看護師として業務を開始することが多いです。少し複雑ですが、同行看護師は訪問診療の際に医師に同行する看護師であり、一人で患家には訪問しません(在宅患者訪問看護指導料など、医療機関からの訪問看護に関する算定は発生しないモデル)。そういった同行看護師さんに伺うと、一人で患家に訪問することに対してのハードルとしては、 1.何かあった時にひとりで対応できるか不安である。 2.患家で医療的判断を本人・家族から求められたとしても、それは医師の仕事だと思うので困る。 と、おおよそ上記2点に集約されました。 1.何かあった時にひとりで対応できるか不安 「慣れ」の話になるかもしれないですが、病棟勤務や外来勤務といった基本的に医師が傍にいる状況、もしくは院内PHSなどで緊急時に医師にすぐに連絡がつく環境での勤務経験が長いことに起因すると思われます。 しかし、詳しく話を伺うと、病院勤務であれ、外来勤務であれ、何かあった時にひとりで対応した経験がある看護師さんは非常に多いことがわかりました。よく考えれば、これは医療有資格者として普通のこととも言えますが、訪問看護というもののイメージ沸かず、これまでと違った環境での業務が、その不安を助長させている可能性を示唆しています。 2.医療的判断を本人・家族から求められたとしても、それは医師の仕事だと思うので困る 1の不安感に繋がる部分もあると思いますが、医療の方針などをご本人やご家族に説明するのは医師、という考えを強く持たれていることが要因と考えられます。医療的判断における看取り方針の確認や、薬剤の使用判断などについての判断は、通常医師が行いますが、より療養に近いレベルでの判断は、病院でも実際は看護師さんが実施しています。例えばバイタルのチェック回数やタイミング、食事介助方法、発熱患者さんへの水分摂取促進などがそれにあたります。これらももちろん医療的判断ですが、そのすべてに対して医師の指示があるわけではありません。 つまり、訪問先で求められる医療的判断の階層レベルの不明瞭さにより、こういった考えに至るものと思われます。とはいえ、こういった不安や考えを持たれていることは事実であり、現に訪問看護師として働かれている方も、このような気持ちをもって働かれている方もいらっしゃると聞きます。これらの訪問先での不安などを解決するために必要な考え方やスキルをお話したいと思います。 医師のいない場で医療的判断を行うスキル 医療的判断を行うスキルについて、ここではどういった症状に対して、どういった医療的判断を行えばよいか、といった具体的な疾患・症候別の話ではなく、どういった考え方に基づいて、訪問看護師として医療的判断を行うかをお話します。 その考え方は基本的に、訪問看護師さんが訪問先で医療的判断を行う範囲を決める作業と、急変時の対処方法を確認する作業の整理となります。具体的には、これまで何度もお話していることではありますが、まずはご本人やご家族への方針確認の際に望んでいること、やってほしくないことを吸い上げることから始まり、そこに本人の病態やADLなどに合わせて、医師から医療的・日常療養的包括的指示を受けます。これにより、訪問看護師が実施できる枠組みが決まり、この枠組みの中で訪問看護師として医療的判断を実践することになります。 この時に、医師からの包括的指示のみでは、訪問看護業務が本人や家族の意向に沿うものかどうかがわからなくなるため、必ずこの意向確認が必要となります。また、急変時の家族不在時の連絡方法や搬送基準なども、本人・家族や主治医とともに決定されていれば、医師がいない場での医療的判断について、訪問看護師として困ることや不安に感じることは大幅に減ることと思います。 前述の「何かあった時にひとりで対応できるか不安」や「患家で医療的判断を本人・家族から求められたとしても、それは医師の仕事だと思うので困る」といった思いについては、この枠組みが決まっていない、もしくは枠組みが見えていないことに起因すると思われ、訪問看護師として何をどこまで行ってよいのか、またどこまで判断してよいのかが不明瞭になっている事が非常に多いことが要因と思われます。 まとめると、医師のいない場で医療的判断を行うスキルというのは、本人や家族の意向と医師から包括的指示の確認+緊急時の対応方法の確認、これらを確認するスキルと言えます。ただし、日常業務が忙しい中で、利用者さん全員の具体的な意向や、搬送基準などの吸い上げが難しい場合もあると思います。その際は、独居の方、重症度が高い方、看取り目的で在宅療養を開始した方をまずは優先し、実施してみてください。 いずれにせよ、やはり重要になるのは第1回目に述べた「本人の思い・家族の思いを吸い上げるスキル」となります。 在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキル(工夫力) 「看護は芸術である」というナイチンゲールの言葉があります。おそらくこれにはさまざまな意味合いがあると思いますが、ここでは、利用者さんの疾患やADLに対しての療養環境を、どういった考え方のもと、みなさんが持っている看護技術を用いて整えていくか、という視点でお話したいと思います。 以前、「本人・家族の平時の生活を想像するスキル」の回で「探偵力」という単語を使い、利用者さんの日常の療養生活を想像するためのスキルについてお話しましたが、今回は療養環境を整えるための「工夫力」についてです。 療養環境の整備には、ご本人やご家族の思いを吸い上げた上で、それを達成するため、またはそれに少しでも近づけるために、看護師さんならではの視点・感覚が必要となりますが、この環境整備のためのスキルを工夫力と捉えています。重要なことは、「おそらく○○だろう」といった自身の主観をもとにした判断でアプローチしないことです。 たとえば、分かりやすい例としては、排尿行動による転倒に対しての療養生活の整備です。転倒を減らすには、ポータブルトイレの設置による動線管理や、オムツの使用、膀胱留置カテーテル挿入といった動線自体をゼロにする方法があります。この方法により転倒は減ると思われますが、ポータブルトイレの設置が「転倒は危ないから」といった判断材料のみであった場合、前述した「ご本人・家族の思いを吸い上げ、それを達成できるか」の検討が無いことになり、主に介護者視点でのリスク管理的な療養環境の整備となってしまいます。ご存じのように、排泄は本人の自尊と強く関係するため、排泄方法の変更の際は、まずご本人がどうしたいか?家族としてはどうあって欲しいか?といった意向を確認してから、トイレまでの動線確認およびその改善、移動をサポートする方法の提案、夜間のみのポータブルトイレ利用といった看護師さんだからこそ気付く工夫力を発揮していただきたいです。 ただし、認知症の方などの場合、転倒リスクを低下させることが優先になることもあります。ここで注意していただきたいのは、認知症の方はこれまでの行動が刷り込まれていることが多く、排泄方法をトイレからポータブルトイレに変更する場合、ポータブルトイレが排泄する場であると認識するのが難しいことがあるということです。そのため、例えばご本人にインプットされているトイレまでの動線上にポータブルトイレを置き(場合により、動線を塞ぐ形で)、少しずつそれが排泄する場であると認識できるように誘導する、といった工夫もあると思います。他に褥瘡の処置などでも、ご本人の状況や意向で、どの程度まで改善を目指すのかを確認し、それに対して工夫力を生かす、といったことも同様の考え方です。 ここでは非常にわかりやすい例として、排泄による転倒に対しての療養環境の整備を挙げさせていただきましたが、さまざまな療養下にある利用者さんの意向に沿う形で、みなさんの「工夫力」を発揮し、ご本人・ご家族と一緒に「看護は芸術」として、その療養環境を作り上げていってください。 本コラム第4回目として、医師のいない場で医療的判断を行うスキルと在宅療養患者に起こりやすい疾患・状態に対しての看護スキルついて述べさせていただきました。次回は、医療制度・介護制度などに関しての知識ついてお話したいと思います。 医療法人プラタナス松原アーバンクリニック訪問診療医 / 社会医学系専門医・医療政策学修士・中小企業診断士 久富護 東京慈恵会医科大学医学部卒業、同附属病院勤務後、埼玉県市中病院にて従事。その後、2014年医療法人社団プラタナス松原アーバンクリニック入職(訪問診療)、2020年より医療法人寛正会水海道さくら病院 地域包括ケア部長兼務。現在に至る。

インタビュー
2021年4月27日
2021年4月27日

低い離職率を実現する採用戦略と教育システム

人材不足が大きな問題となっている訪問看護業界。株式会社ツクイは訪問看護事業を拡大しつつも、低い離職率を実現しています。 今回は、事業企画推進部部長の竹澤仁美さんに、離職率低下につながる採用戦略や教育システムについて詳しくお話を伺いました。 採用プロセスの工夫 ―看護師の採用において何か工夫されていることは? 竹澤: 特別なことはしていないですが、採用説明会は時間とお金をかけて必ず3日間ほど開催し、私も必ず行くようにしています。その後体験会も実施しています。説明会の参加者は多いときで1日10~20人ほどで3回に分けて行うこともあります。 応募は、ハローワーク経由でも十分にありますし、友達の紹介や、社内の紹介制度で社内移動してくる人もいます。また、各地域に配属されている、リクルーターという採用担当者から、各地域の状況や分析した情報をもらっています。 ―説明会の後はどのような採用プロセスなのでしょうか。 竹澤: そのあとは一次面接が管理者、二次面接は私かエリア長が行います。管理者面接の場合は、私が一次面接から行きます。採用面接は大事にしていて、会社の概要から訪問看護の説明も含め一時間くらい話し、そこから面接に入ります。 その後着任するまでは、リクルーターから状況確認や必要資料の手配など、しっかりフォローをするようにしています。 ―応募される人は、病院に勤めている人が多いですか?皆さん、どのような理由でツクイを選ばれるのでしょうか。 竹澤: 休職中の方もいますし、病院勤務の方もいます。会社が大きいということと、会社としての教育体制が整っているという部分をご評価いただいているようです。 給与体系が東京を標準として全国で概ね一緒であることや、管理者にも残業代が出るという部分も理由かもしれません。 採用時大切にしているポイント ―採用する側として、こういう人を採用しているとかはありますか。 竹澤: 採用基準は設けていませんが、「つくいびと」という社内の指針に合っているかを面接で見ます。人間性が一番のポイントですね。看護経験はあとから積算できますし、看護技術や知識はこちらで教育することができるので。 最近、経験年数は少ない若い看護師が入りましたが、病院の経験に根付いているベテランよりも、若い子の方がスッと入り込める部分もあり、お客様からのクレームもすごく少なかったりします。そのとき最善の判断や、対応ができるようになるには時間がかかるかもしれませんが、新人の看護師でも採用して育てられる土壌にしていくのが目標です。 ―管理者はどのように探し、アサインされるのでしょうか? 竹澤: 知人の紹介などもありますが、他社と同様に人材紹介会社やハローワーク経由での募集もします。ツクイブランドの力もあってか、応募は結構あります。皆さん一般職で応募されてきますが、その中から「この人なら管理者に向いているな」と思った方をアサインします。 管理者になる人は、管理者経験や病院などで主任や副師長などをやっていた人が多いのは事実ですが、ツクイの管理者業務は明確に文章化されていて、わからない事を聞ける体制もしっかりしているので、引き受けてくれる方が多いです。 ―離職率はどのくらいですか。低い離職率を実現するためには何が必要でしょうか。 竹澤: 一年間で辞めた人は、10%ほどです。ミスマッチがないよう、採用面接のときにツクイの将来性も含めて、働くイメージをわかりやすく伝えるようにしています。 訪問看護だけでずっと働いて、疲れ果てて辞めてしまうということにならないよう、社内で異動ができたり、次のステージを用意したりして、夢を持って仕事をしてほしいという話もします。ご縁があってツクイで働いてくれている看護師には、「ツクイで働いてよかった」と思ってもらいたいです。 管理者には「10褒めて、1指導する」ということを伝えています。この仕事はストレスも多いので、スタッフに感謝を伝えることを大切にしています。 教育システムを効率化する ―教育についてはどのようなシステムになっているのでしょうか。 竹澤: 最初に、「ツクイの基本」を身に着けてもらいます。e-ラーニングを使って、制度の事や記録、ハラスメント、ダイバーシティ、コンプライアンス、ツクイの考える育成、衛生管理などさまざまな内容を3日間で受講します。 その後、管理者や所長によって看護のオリエンテーションを行い、現場でのOJTとなります。現場が忙しい事業所だとOJTに入りながらオリエンテーションを行うところもありますが、2021年度からは管理者に負担をかけないよう、WEBでも教育サポートができる体制を整えていく予定です。 ―OJTの後はどのようなフォローを?教育パスはあるのですか。 竹澤: 看護ではおおまかな教育パスのようなものがあります。一人ひとり経験値が異なるので、目標設定は管理者がそれぞれに応じて行い、フォローしていきます。 管理者教育に関しては、定期的なe-ラーニング研修を年に2回行い、数字の見方、営業戦略、医療的な内容などを学びます。新しく入った人が管理者になる場合は、導入研修のあとに試験があり、それに受からないと管理者にはなれません。 また、ツクイではキャリアパス制度を設けていて、スペシャリストコースとマネジメントコースに分かれています。eラーニングの中にも、それぞれのコースに沿った内容があり、一人ひとり、特性に合ったコースを選択できます。 管理者にはなりたくないと思っていても、スペシャリストとしてキャリアアップすれば給料もあがりますし、専門性も高めることができます。 ―それらの教育システムは誰が作っているのですか? 竹澤: 人事です。項目は100から200ほどありますが、今後は訪問看護ならではの項目も入れたいと考えています。日本訪問看護財団が出しているeラーニング(※1)も受講してもらっています。 教育システムはすべてマニュアル化され、eラーニングの見方から、いつ管理者になっても困らないようなシステムを整えています。 また、サービス管理部では、事故起こしたときの対応から書類の書き方まで、管理者がそれを見れば対応できるようなシステムを作っています。まだ足りていない部分もありますが、介護事業でツクイが培ってきた経験が、教育システム作りに活かされていると思います。 ―今後、教育に関して取り組んでいきたいことはありますか? 竹澤: ラダーにそった教育を可視化できるようにしたいです。導入研修や管理者研修など、管理者向けの部分が多いので、スタッフもスキルアップできる制度を作りたいと思っています。 他社のような研修室をつくるのもいいなと思います。オンラインもいいですが、対面でできる研修も大事にしたいです。   【参考】 ※1 公益財団法人 日本訪問看護財団 eラーニング https://www.jvnf.or.jp/e-learning/ ** 株式会社ツクイ 事業企画推進部 医療系事業プロジェクト 部長 竹澤仁美

コラム
2021年4月20日
2021年4月20日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 営業編②~

第6弾は前回に引き続き、営業に関する方針を列記します。「営業」という言葉やその活動に違和感を訴える医療職が多いのは事実ですが、「営業」をしなければ健全で永続的な経営が成立しないのもまた事実です。経営者・幹部の皆さんは建前ではなく、真に地域や社員に利益を還元する為にも、是非「営業」を実践してください。 営業方針 ①お客様・ご紹介先への訪問によって、お客様や市場の要求の本質、変化を知ることができます。さらに、ライバル(競合事業所)の動向も具体的に情報が入ります。相手の手の内が解れば、打つ手は無限です。ただし地域には不正・不当を行う競合事業所が存在し、(医療介護業界においても一般社会と同様です) 他社の模倣ばかりを行なったり、横取りも平気で行います。これらとは毅然と対峙し、営業力・経営力で凌駕(りょうが)(=上回ること)します。 ②安定とは現在のお客様をよく守ること、成長とは新しいお客様が追加されることです。どんな事業でも売上増の原則は、単価×数量です。訪問看護の制度上、単価は一緒なので、数量を獲得する為の追及が重要です。その為の営業方針であり、営業戦略・戦術なわけですが、ソフィアメディ(株)創業経営者の水谷氏は「1年前と同じお客様数しかいない経営者に敬意を持ちません。成長が止まっており不遇を味わうのは社員だ。」と経営幹部に指導していました。 ③決めたエリアの市場占有率(シェア)が大きいか?小さいか?が優良・限界企業の定義です。一定地域内で市場占有率がどの位置にあるかということに、常に留意しなければなりません。 そして質の高い経営とは、全て単位あたりの数値(※1)で他社と比較して有利を得ていることです。 ※1:事業所あたりの売上・利益、1人あたりの労働生産性、社員の給与、社内教育の投資額、お客様や社員の満足度等々、全てにおいて1番を目指すことが質の高い経営だと、水谷氏は説きます。その大前提が地域内でシェアが1番大きいことなのです。 ④営業戦術を実施する際、例えば営業のツール1つを作成して地域へ案内するだけでも、シリーズ化、ストーリー型、派生型等があり、唐突な内容ではなく脈略のある手の打ち方、機微を読むセンスが肝心です。とくに「感動を与える」と、その内容を人に喋りたくなり、口コミでお客様が増えていきます。感動する「コト」を実践し続ける企画力が、営業コミュニケーションの一つのコツです。 ⑤定期訪問営業の信頼性の上に立った提案、企画はよく通ります。不定期で洗練されていない、欲しいときだけの自分都合の営業は、不快感を与えます。ご都合主義の営業にならないよう計画を立て、実践してください。また、年数回でかまいませんが、社長・幹部・管理者・専門職の同行営業も実施すると営業効果は抜群に上がります。節目節目で時間を作って、こちらも計画的に実践することが大切です。 一方、地域の競合事業所において、非医療職の総合職が定期訪問をしている場合は要注意です!彼らは、医療介護業界の慣例・常識にとらわれず、成果を上げる為の知恵を駆使してきます。裏に参謀・軍師の存在がありますので、戦略・戦術のレベルを上げる必要があります。戦略・戦術のレベルを上げるのは一朝一夕では成せませんが、まずはそういった競合他社がいないかアンテナを張る、その上で前述のとおり相手の手の内を研究し、一つ一つ課題をクリアしていってください。 ちなみに、専門職がたまに営業をしている組織は放置しても問題ありません。仲良くしてください。 ⑥紹介成果は、訪問回数の二乗に比例します。これはランチェスター戦略の基本ですが、期待以上の効果を発揮します。 営業訪問した際、ご不在時でも必ず置き名刺にコメントを書いてください。また、名刺を工夫する、時流/自社ニュースを提供する、時節の挨拶関連、はがきのお礼は必須です。すべて接触頻度を上げる為の知恵ですが、ただ実践すれば良いということではなく、感性(センス・先読み)と人間性(気が利く、誠実)が最高の差別化になります。 ⑦メーリングリストやライングループ、クラウドのプラットフォーム等は、毎日の共通認識手段です。競合情報・必要な指示・評価・労いは、遠慮なく書込むこと。社長は営業現場を大事に考え、毎日確認するのが必須です。 ⑧基本である訪問営業と併せて、SNS・ICTの駆使、メディアの活用、双方向性のある媒体営業の活用が医療介護業界の課題です。これを制する事業者が次世代の医療介護業界を牽引していくものと見ています。 ⑨営業がわからない・嫌い、売り方が下手な者は、経営幹部として通用しません。 大きな会社になると分業化が加速しますが、商売の基本は、まず営業です。利益・成果は外部・お客様からのみ得られます。この原理原則がわからず、社内仕事や仕組み作り、コストカットにばかり没頭する幹部は良くない、というのが水谷氏のもっぱらの口癖でした。 いかがでしたでしょうか。ソフィアメディ(株)創業経営者の水谷氏は、創業から一貫して営業現場に拘り続け、社長を退くまで第一線で指示をし続けて参りました。定期的に営業マンと泥臭く同行営業、月2回の営業会議には全て参加、どんなに多忙でも営業報告には全て目を通して細かく指導する。おそらく最も身近で見続けてきた私からしても、その営業姿勢はまさに「営業の鬼」でした。(水谷氏本人も、よくそう申しておりました。) 従業員やお客様が少なかろうが多かろうが、営業現場を知らずに健全経営ができるわけがない、という経験に基づいた思想ですが、それが業界オピニオンリーダーたる所以であります。 「着眼大局着手小局」。よく水谷氏より指導された言葉ですが、経営と営業活動の関係性に当てはめるとたいへんわかりやすく、具体的に行動しやすいかと思います。是非貴社事業所でも実践してみてください。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務  【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

コラム
2021年4月13日
2021年4月13日

訪問看護の社長業~創業経営者 水谷氏から学んだこと 営業編①~

 第5弾は、いよいよ営業に関する方針を列記します。戦略や戦術が幾ら立派でもお客様を獲得する営業が稚拙であれば、経営は絵に描いた餅に過ぎなくなります。 ※訪問看護サービスを利用する対象者には敬意を表して「お客様」と言います。よく使われる利用者という呼称は行政的であり、お客様に対して失礼にあたると考えています。 作り上手の売り下手では、将来会社を潰します 水谷氏は医療介護業界にも通じる考え方としてよくこの慣用句を用い、サービス業・商売の基本である「売る」という行為・プロセスを、他の何よりも大事にします。 ①能率とコストと品質管理がなどは経営の一部である。経営の大局はサービスや商品を買って頂く「顧客の創造」であり、繰り返しの仕組み作りである。新規のお客様をいかに獲得し、そしてリピーターになってもらうかに物量をかけるべきと説きます。 ②訪問・店頭・配置・展示・媒体と(通信)という営業・販売方法があるが、英知を結集して独自性を高め、訪問と媒体販売を最強にしてお客様を括ります。 ※他社との差別化に徹底的に拘り物量(ヒト・モノ・カネ)をかけるのはもちろん、現代においては、いかに媒体とくに情報(広告・紙・WEB・口コミ他)を扱うかが肝であると考えます。 ③競合より圧倒的な経営姿勢・事業構造の強み、サービスのバリエーションと取組み姿勢に違いなど徹底的に発信します。お客様、地域、応募者から最も多く、そして最初に選択される組織を目指します。 ④訪問看護の購買行動モデルは以下が基本フローである。 1.集客=見込みの確保(ローラー営業を含めて、沢山集める) 2.見込み客のフォロー(買いたい、頼みたいお客様を育てる) 3.販売(現実のご紹介を頂く) 4.顧客化(メンテナンスを継続して再紹介・ファン化する。目的は我社のことをお客様から消されない。コミュニケーション力=接触回数と感動の勝負) ※当然この流れの中に、「検索」「比較」「評価」「共有」といった要素も入ってくる。 ⑤イベントがどれだけ新規顧客の開拓や売上増に効果があったか論を待たない。相手先の創立記念日、春夏秋冬の行事、お祭り、年36回の旬、専門技術の理解、実施指導、町内会の巻き込みなど、知恵と工夫には際限がない。行動するかどうかです。机上で妄想したり計算したりする暇があったら、実践現場での「お客様の生の声・評価」を得よ、というのが水谷の営業実践術です。 ⑥「気づき、気配り」名人であり、フットワークの良い「ハイ、喜んで」の姿勢が、営業マンの好感度を高めます。お客様やケアマネジャー、病院関係者、在宅系事業者は営業マン・社員の感じ良さで商品、サービスを買っています。対面ビジネスの基本であり、営業の真理です。これはWEB等が進化した今も、根底の考え方は同じです。 いかがでしたでしょうか? 水谷の営業戦略・戦術のごく一部ですが、たいへんシンプルな基本姿勢かと思います。良いサービスを提供する為にも「会社を潰さない」、それには、やったかやって無いか、獲るか獲られたかの実績こそが、まず営業の原点。サービス業・商売の基本であります。この点をおろそかにしているから、毎年700件以上もの訪問看護事業所が無くなっているのです。 ー次回(近日公開)に続きますー ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務 【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

コラム
2021年4月6日
2021年4月6日

訪問看護の社長業 ~創業経営者 水谷氏から学んだこと 育成編~

教育・研修の意義、大切さは前回整理した解説でご理解頂けたかと思います。今回はさらに「社員の人間育成」を意識した内容も掲載し、解説したいと思います。 自信と誇りがもて、成長と自己実現ができる人生への誘導 1.環境の変化に強く協調性の高い人物を育成について かぼちゃ作りの名人 まず種を撒いて目が出るのを待ちます。その芽に対して小石や瓦を上からばら撒きます。それでも伸びてきた茎に対して、今度は手で引っ張ります。少し根っこが切れるぐらいに引っ張ります。これでできたかぼちゃは、甘くてホクホクした美味しい味を出します。 この「かぼちゃ作りの名人」の内容は、捉え方は様々でしょうが、人の育成にも通じる(自然界の)本質的な原理だとして、水谷はよく上記の例文を使用します。 2.プラス思考の人間育成を目指すには 仕事(人生)の成果を計算式で表す 仕事(人生)の成果=考え方(-100~100点)× 熱意(1~100点)× 能力(1~100点) ・人は能力があっても熱意があっても考え方が間違っているために、十分な成果を出せないことが沢山あります。能力があっても「考え方がマイナス」では、掛け算をしても答えはマイナスになってしまいます。 ・考え方が間違っている人、マイナス思考の人は、自分だけでなく、自分を取り巻く社内の同僚にも悪影響を及ぼします。こういう人は自分の利益のためだけの熱意は高得点ですので、全体のマイナス(損害)は相当に大きくなってしまいます。 ・今は能力があろうとなかろうと、強い熱意とプラス思考で行動し続ければ、人生の何処かで必ず良い成果を生み出します。 3. 存在価値の高い生き方を目指す お客様や同僚や会社から「あなたがいるから」と頼りにされ可愛がられて、強く必要とされる存在価値の高い生き方を目指します。上記1.2を意識した人格形成を実践し続けることによって、自然と「自己重要感※1」が充足されていきます。それに伴って、自信が満ち、人生の自立度(経済、立場、名誉)も向上していきます。 ※1 所説ありますが、人の存在の根底にある「自己肯定感」=どんな自分であっても存在すること自体に価値があると感じる感覚。「有能感」=知識・技術、地位や名誉や立場、など能力がある自分をすごいと感じる感覚。この両者を合わせたものが「自己重要感」であるとされています。 いかがでしたでしょうか? 水谷が時折実施していた経営者・管理職・管理者向け研修「人間学」の中の一項目でもありますが、訪問看護事業の経営や運営をうまくやるには、目先の運営技術だけではなく、人間育成も重要だということが少しはお分かり頂けたと思います。ご紹介した内容の実践が基礎(最初の一手)にあることによって、地域評判が高まり、収益も安定し、教育に投資→技術向上、さらに地域評判が高まる、というスパイラルが生まれると言っても過言ではありません。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【 略歴 】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務   【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

コラム
2021年3月30日
2021年3月30日

訪問看護の社長業 ~創業経営者 水谷氏から学んだこと 教育編~

前回までの2回は人事部門の大切なポイントを紹介しましたが、今回は教育・研修部門の考え方、重要性について「社長業」の視点でお話します。  コラム執筆者:一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー/理事長  上原良夫 教育・研修の基本的な考え方 まず大前提の考え方としては、製造業で言うところの「物を仕入れたあとの製品⇒商品への加工作業に値するのが、教育・研修部門」となります。このように教育・研修部門をとらえれば、少しわかりやすいかもしれません。「物を加工する」という工程を、訪問看護業に置き換えればいいわけです。 また、基本方針として「年間メニューの多様化と業界一番の品質作り」を掲げます。 そして細かな方針や定義を列記して、やはり朝礼で読み上げることで、方針を内部に認識、普及・浸透させていきます。 以下、列記したものはその概要です。 ①中核となる医療専門職は3~5年を基準とするが、教育・研修の質・量に自信がもてるところから段階的に3年未満の方や新卒を受け容れていく。もちろん新卒とは報酬に差を設けていく。 ②教育・研修の目的は、志を高くもつ、利他の心を高める。原理原則を守る、人間性(思いやり、熱意、誠意、素直な心)を高める、お客様を幸せにする、自分の幸せも追求する、ことをバックアップすることを根本に置いている。 ③訪問看護未経験でも研修期間内で一定のスキルを習得して実務者に仕上げる。但し、管理者評価が低い場合や周りに評判が低い場合は、専門性不足?常識不足?在宅不向き?メンタルヘルス問題?か、その状況に応じて、再教育、雇用契約変更の調整をする。 ④同行訪問と座学指導も交えて実践に導く。初任者~従事者~中堅~管理者候補~管理者用研修とメニューもフォローも充実させて、現在の安定と将来の成長が実感できるようにする。 ⑤臨床経験スキルは基本的に通用するが、1年間は経営方針書の遵守と先輩指導のもと事例の積み上げである。2年目から各自に見合う量と質を安定させる。3年目でやり方・応用に自信が付き自分流が確立します。1年目は真似て型を守り、2年目は自分のやり方に改善、改良を加える。3年目に現業の確立と新たな領域を開発する、守破離の思想である。 ⑥外部への研修希望は予めの申請を必要とする。1人1回1万円程度は認める。但し1人当たりの参加回数、総額に一定の上限を設けて管理する。 ⑦全職種資格別の専門的は症例検討会、リーダー研修、フォローアップ研修、マネジメント研修等を、会社の成長に応じて段階的に実施する。 ⑧訪問看護ハンドブックを作成して、医療専門職、総合職、事務職で毎年担当を変えてブラッシュアップを継続する。 在宅の小規模事業所では、定期研修の実施や勉強会プログラム貧弱なところが多々あると認識しています。ノウハウや手間が必要で予算もかかりますが、教育体制次第では外部からの技術的信頼を得ることが難しいのはもちろん、向上心の高い内部スタッフにおいても、自己研鑽の場が少ないことというのが不安材料になったり、退職理由に結びつくことさえあります。もちろん採用時においてもこの点が充足しているか、教育研修方針があり機能しているか、といった点が志望動機にもなりますので、ぜひ参考にして頂ければと思います。 ** 一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長  上原良夫 【略歴】 2012年 ソフィアメディ(株)入社。訪問看護事業の営業開発課長・教育研修事業部長・介護事業統括部長・医療連携推進室長を経て、(株)CUCの支援医療法人の訪問診療事務長、在宅事業企画担当。 2020年7月より一般社団法人訪問看護エデュケーションパーラー理事長に就任。訪問看護事業の教育研修企画・ 各種 コンサルティング、業務委託においてアームエイブル(株)ゼネラルマネージャー兼務   【 参考 】 水谷和美著「訪問看護の社長業」

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