教育に関する記事

試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由
試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由
インタビュー
2023年2月14日
2023年2月14日

試行錯誤の末に生み出した教育体制。オンライン同行訪問を活用した理由

「NsPace With(ナースペースウィズ)」は、多忙な訪問看護ステーションの新人教育をサポートするサービスです。現場経験やスタッフ指導経験のある看護師が、新任訪問看護師の訪問にオンラインで同行するほか、訪問前の準備や訪問後のフィードバック、定期的な管理者への評価結果報告なども行います。 しかし、こうしたオンライン同行訪問サービス(以下「オンライン同行」)は誕生したばかりのサービスのため、なかなか利用イメージが湧かない方も多いでしょう。実際にNsPace Withを利用した「しもふり訪問看護ステーション」の経営者 木和田さんと、所長・管理者の木下さんにお話を伺いました。前編である今回は、オンライン同行を利用した経緯についてお話しいただきます。 >>オンライン同行を体験した文屋さんの記事はこちら「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記 株式会社 ユニメコム 代表取締役木和田 俊治郎さん調剤薬局の運営会社での取締役時代、訪問看護ステーションの立ち上げ責任者に。企業買収に伴い2015年に独立し、訪問看護ステーション運営会社である株式会社ユニメコムを設立。 しもふり訪問看護ステーション 所長・管理者木下 亜矢子 さん銭湯の番台や外来勤務の准看護師を経て、正看護師になるタイミングで訪問看護の道へ。 しもふり訪問看護ステーション看護師 8名、理学療法士 3名、作業療法士 4名、言語聴覚士 1名、事務 1名が所属(2023年1月時点)。 リハビリスタッフとの連携で医療依存度の高い利用者をケア ―まずは、しもふり訪問看護ステーションの特徴を教えてください。 木下さん(以下敬称略): 当ステーションは、看護師とリハビリスタッフとの連携による質の高いケアの提供を得意としています。東京の町屋と駒込に事業所がありますが、二拠点は自転車移動が可能です。ケースによっては所属拠点に関わらずチームを組み、ステーション一丸となって利用者様のケアにあたっています。また、最近は人員面でも技術面でも看護スタッフが充実してきたこともあり、医療依存度の高い利用者様が増加傾向にあります。 ―しもふり訪問看護ステーションの運営会社は、途中で変更になったと伺っています。経緯を教えていただけますか。 木和田さん(以下敬称略): もともと、しもふり訪問看護ステーションは調剤薬局会社の新規事業として立ち上げました。当時、私はその会社の取締役で、新規事業として訪問看護ステーションを立ち上げる際、責任者を任されたんです。しかし、立ち上げ後に会社がバイアウト(買収)されることになり、ステーションは取り残されることになってしまいました。そこで、私が会社から独立して新たに「ユニメコム」という法人を立ち上げ、訪問看護ステーションの運営を引き継ぐことにした、という経緯ですね。 人材が定着せず、悩み抜いた結果生まれた教育体制 ―訪問看護ステーションの運営は、当初から軌道に乗っていたのでしょうか。 木和田: いえ、訪問看護ステーションの立ち上げ当初から2020年ごろまでは、人材がなかなか定着せず困っていました。ユニメコム本部で採用したら、研修は現場にお任せ、という流れでやっていましたが、どんどんスタッフが辞めてしまったんです。 ―どういった理由で退職される方が多かったのでしょうか。 木和田: 辞める方が本音で退職理由を言ってくれるケースはあまりありません。でも、おそらく「会社が自分のがんばりを評価してくれない」と感じていたスタッフが多かったのだろうと分析しています。 私は、仕事は何らかの「課題解決」「価値創出」に意味があると教えられ、自分自身もそう思って邁進してきました。「がんばっていることそのもの」が評価されなくても気に留めていなかったので、他者のがんばりへの承認にも重きを置いていなかったんですね。そこに従業員と私との間にズレが生じる要因があったんだと思います。従業員のことは以前も今も大切に思っていますが、気持ちが伝わらず、当時はかなり「ドライで冷たい経営者」だと思われていたようです。 ―そういったお話からは想像がつかないほど、現在のしもふり訪問看護ステーションは経営者・管理者からスタッフまで和気あいあいとした雰囲気に見えます。どういった改善策を講じられたのでしょうか? 木和田: 今は本当に雰囲気が良くなっていますが、当時はかなり悩みました。試行錯誤を重ねて学び直しをした結果、やっぱり「エンゲージメント」(従業員との確固たる信頼関係)と「オンボーディング」(採用した人材を定着させ、戦力化するための教育施策)が大事だという結論に至ったんです。「採用したらあとは現場にお任せ」という状況を打破して、きちんと教育プログラムを構築することにしました。 2021年からは座学の初期研修や計画的なOJTを行うようになり、そこで一旦教育体制の土台が作れました。現場のみんなの努力はもちろんのこと、こうした教育体制の構築も人材定着につながっていると思います。 ―教育プログラムについて、具体的な内容を教えてください。 木和田: 座学では、ユニメコムの理念をはじめ、訪問看護を取り巻く社会的な制度の概要や課題、従業員に期待していることなどを伝えています。OJTについては、3ヵ月目のひとり立ちに向けて必要な要素や計画を木下に練ってもらいました。通常業務の流れのなかでOJTをして、「時期が来たら一人で訪問に行ってね」ではなく、何がどこまでできているかをきちんと振り返って記録に残し、管理・指導するようにしています。 オンライン同行を利用したきっかけとは ―2022年に、当時入職したばかりだった訪問看護師の文屋さんがオンライン同行を利用されています。サービス利用のきっかけや理由について教えてください。 木和田: オンラインで外部の看護師が訪問に同行するサービスがあると紹介されて、「ぜひやってみたい」と思いました。教育体制がより充実することはもちろん、全国的に訪問看護師の数が足りていないなかで、こうしたサービスが普及していくことは、社会的にもプラスになると考えたんです。ただ、実は現場からは当初反対意見もありました。 木下: そうですね。最初は反対しました。私は訪問看護の現場を大切にしてきましたし、現場では五感をフルに使う必要があると考えています。対面で接することで積み上げてきた利用者さんとの信頼関係もあります。「オンラインで何がわかるんだろうか」と思ったのが正直なところです。 また、管理者としての方針や誇りをもってステーションを運営しているなかで、ステーション外の看護師さんにスタッフの育成を任せることに対する抵抗感もありました。自分のいないところで、私の方針とズレた指導をされてしまうと困ると思いましたし、どんな方に同行してもらうのかわからない本当の初期段階は、「大事なスタッフが困る事態になったらどうしよう」という思いもありました。実務面では、導入にあたって利用者様の許可をいただくなどの事前準備もありますし、工数面での負担感も心配でしたね。 ―そうした不安や懸念があるなかでも、オンライン同行をはじめた理由は何だったのでしょうか。 木下: 木和田の「導入する」という意志が固いことはわかっていましたし(笑)、気持ちとしては新しいスタッフに全力で寄り添いたくても、多忙で時間が足りず、なかなかそばにいてあげられない現状があります。 また、結局のところは実際にサービスを受けるスタッフが「やりたいかどうか」が一番重要だと思ったんです。文屋の場合は本人が「やりたい」と言いましたし、訪問時の安心感が上がるなら、やってみてもいいのでは、と思いました。もちろん、やってみてもしも本人の負担感が強そうなら、見守るだけではなく口を出そうと思っていました。 木和田: 最終的に木下がそのように受け入れてくれて嬉しかったですね。うちだけに限らず、訪問看護ステーションは管理者のカラーで方向性が決まってくる側面が大きく、「これが正解」というスタンダードがまだない状態だと思うんです。だから、第三者の目を入れれば、コンフリクト(対立)が起こりやすいですし、木下が反対した理由もよくわかる。でも、あえてそういう状況をつくることで、一段階レベルアップできるという想いもありました。 ―ありがとうございます。後編では、実際にオンライン同行を利用してみた所感や活用方法についてお伺いします。 >>後編はこちらオンライン同行訪問の活用ポイント 基本研修にプラスすることで安心感アップ 編集・執筆: NsPace編集部 ※本記事は、2022年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。 *  *  *  *   ■ナースペースウィズ訪問看護スタッフ向けオンライン同行訪問サービス。訪問看護の現場景観と新任看護スタッフ指導経験のある看護師が同行訪問OJTをオンラインで支援

学び直しの機会を提供することが重要~看護の対象は目の前の一人だけではない~
学び直しの機会を提供することが重要~看護の対象は目の前の一人だけではない~
インタビュー
2023年2月14日
2023年2月14日

学び直しの機会を提供することが重要~看護の対象は目の前の一人だけではない~

訪問看護業界での人材戦略を考える特別トークセッション。第2回は、採用時の教育の重要性を考えます。「旧型の病院看護師を育てることに最適化された教育」をアンラーニングする機会を提供することが、望ましくない早期離職回避につながります。 第1回「人材採用難に立ち向かうために」はこちら>> ※本記事は2023年2月に公開されたものです。法令や制度、関連ガイドラインは変更される場合がありますので、最新情報をご確認ください。 訪問看護に迎えるときにはルール変更の教育が必要 中原: 病院看護から訪問看護に移ることは「ゲームチェンジ」ですよね。その意識が必要だと思います。例えるなら、「将棋に熟達していた人」が突然、「チェス」を始めるようなもの。駒を使うところは同じなんだけれど、ルールが何もかも違う別の競技だよって話ですね。それぐらい異なるものだと、採用時に説明しなくてはならないでしょうね。 落合: そのとおりだと思います。やはり教育からチェンジが必要だと。 公的な訪問看護サービスは社会資源の一部であって、「目の前の人だけに最高の看護を」ではなく、「すべからく多くの人に、最低限度健康で文化的な生活が送れるための看護を」提供することが本来のはずです。ですが、看護教育で私たちが教わってくることは、「目の前の患者さんをどうやって幸せにできるか」に重きが置かれていて、そこでかなりギャップがある。 そういうわけで、社会保障のあるべき姿から逆行する発想をする傾向もある。「私がいいと思う看護を後輩ができないんだったら、そんな後輩はいらない」というような。そのときに「後輩を辞めさせた結果、ケアが届かなくなる患者さんはどうなるんだ」といった思考は持ち合わせていない。 看護の対象は「個人、家族、コミュニティ、地域」だと定められているんです。病気があるから対象になるわけではなく。ですが、旧型の病院看護師を育てるのに最適化された教育では、病気があり入院治療している個人をみることに焦点が当てられてきた。 そういう教育をされてきた過去はしょうがないので、訪問看護に迎えるときには、きちんと学び直しの機会を提供する。そんなオンボーディング注1が大切なのだろうと思います。 注1:新しく職場に入ってきた仲間が職場になじめるように迎え入れ、適応を支援する取り組み全般をいう。新しい職場で必要な知識やスキルの習得を教育・支援することも含まれる。 仲間を増やすことは看護と同じくらい大事だ 中原: 名前は同じ「看護」がついていて、似ていると思われやすいけれど、必要な資格が同じだけであって、私には「違う世界」に見えますね。その資格を持っているからといって、あるところでうまくいってる人が、次の世界に入ったときに必ずしもうまくいくとは感じないです。病院看護から訪問看護に移るときは、異国に行くイメージでいるといいのではないでしょうか。郷に入れば郷に従えといいますが、「前いた世界の自分」のまま「異国」に行って、自分を変えようとしないなら、確実に詰むでしょうね。 落合: うちでは、「この人を採用するかどうか」をみんなで決めるんです。面白いのは、経営で考えると採ったほうがいい状況で、「採らない」となりがち。「こんなに忙しいんだし採ったほうが絶対いいじゃん」って思うんですけど、なぜかそうならないんですよね。 私はよく「採用って看護と同じぐらい大事だよ」って言うんです。「自分1人では100件しか回れない、同僚と力を合わせたら200件回れる。同僚が増えると『すべからく多くの人に』適切な看護をに一歩近づく」ってことなんですけど、理解までかなり時間がかかります。 組織の成熟度が高まってくると、この考えが受け入れられるんだろうと思うんです。教育や学びが必要だなと思います。 離職者ゼロはベストではない 乾: 小さい規模で、いったん人間関係が悪くなってしまうと、もう厳しいですよね。病院だと配置転換で何とかなりますが、訪問看護のような小さい職場では、いちど嫌悪感を持ってしまうとギスギスが消えない。そして、ギスギスから距離を置くことができずに辞めるしかない。私も訪問看護で短期間働かせてもらったんですが、訪問看護の職場には逃げ場がないと強く感じました。 落合: おっしゃるとおりで、辞めない人を採るのが前提ではあるんですが、私がよく言うのは、「流動性を保たないといけない」。というのは、ある程度の離職率は保たないと組織の水が濁るので。 そのために、ちゃんとインしていきつつ、ちゃんと辞めてもらう。そうしながら組織は拡大していくのが理想だと。 ただ、訪問看護の採用担当者はだいたいが、いわゆる人材のプール、タレントプール(将来の採用候補者情報をためておくしくみ)を持っていないんです。採用が必要なそのタイミングで「今すぐ働きたい」人と運良く出会うことにかける、という狩猟みたいな採用だけで。「1年後働いてくれるかも」みたいな人がいないから、辞めさせられない面もあると思いますね。 中原: そう。「離職者ゼロ」は決して望ましいものではないんですよ。正しく貢献できない人には辞めてもらうことで止血するのも大事。本当は、異動ができれば退職に至らずにすむこともあるんですが、このサイズだとそれも難しいですね。 乾: 複数ステーションをお持ちとかで、配置転換ができるような事業者は多くないですからね。 だんだんと舵がとれなくなって縮小していくケースが目立つ 中原: 私のような業界外の立場から見たら、どうしてこのサイズなのかが不思議でしょうがないんです。「2.5人? マジ?!」って思う。1人抜けたらアウトで、また採用しなきゃならない、採用費100万円の借金を負わないといけない、ゼロから教えなきゃならない。2.5人よりは、逆に小さくするほうがうまくいきそうですが、1人ではできないんですか。 ─ 常勤換算で2.5人必要な決まりです。管理者ともう1人が常勤、パートで月半分、が開始時の一つのモデルです。 中原: 1人はダメなんですね。売上や顧客が決まってないのに人を雇わないといけない、相当なリスクですね。 落合: 訪問看護あるあるがありまして、思いを持って、仲の良い友だち2人を誘って立ち上げます。意気揚々と「○○病院にいました」「○○ができます」「こういう思いがあって独立しました」と営業をがんばる。そうすると御祝儀なのか、始めは依頼が結構来るんですよ。気心知れた仲間どうしだからトラブルも少ないし、そのころがいちばん儲かっています。それが、4~5人と人員が増えたあたりから、マネジメントロスが生じるとか、いろんな波が起こりはじめて、対処方法がわからず、乗り越えられずに縮小化するイメージが、すごくあります。 「立ち上げてすぐ閉鎖」よりも、仲間だけでやって、スタートはうまくいくが、組織が拡大するにつれて、だんだんと舵がとれなくなっていく。そんな例が多い印象です。 >>次回「訪問看護管理者が真にやるべきこと」はこちら 落合実18歳から有床診療所、大学病院、訪問看護ステーションと、働く場所を移しつつ一貫して臨床看護に携わる。現在は、福岡にUターン移住し、ウィル訪問看護ステーション福岡の経営と現場を継続しながら、医療法人や社会福祉法人、ヘルステック系企業のコンサルティングも提供。ウィル株式会社は、訪問看護ステーション事業とフランチャイズ展開のほか、記録システムの開発・販売、採用支援、eラーニング開発・支援などを手掛けている。「スイミー」で小さな魚が集まって苦境を乗り越えられたように、皆で集まることでナレッジシェアができる組織を目指している。乾文良大手ITシステム会社、商社勤務を経て、2016年に株式会社エピグノを共同創業。エピグノで開発・販売している人材マネジメントシステムは、医療・介護領域に特化している日本初の製品であり、モチベーションやエンゲージメントを測定することが特長。エンゲージメントやモチベーション状態が具体的な指標にもとづいて測定され、その見える化を通し、組織と経営両面の健全化を図ることができる。中原淳「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、組織開発について研究している。著書に、「職場学習論」「経営学習論」「人材開発研究大全」(東京大学出版会)、「組織開発の探究」(中村和彦氏との共著、ダイヤモンド社)、「研修開発入門」「『研修評価』の教科書」(ダイヤモンド社)、「駆け出しマネジャーの成長論」(中公新書ラクレ)、「残業学」(パーソル総合研究所との共著、光文社新書)、「フィードバック入門」「サーベイ・フィードバック入門」「話し合いの作法」(以上、PHP研究所)など多数。記事編集:株式会社メディカ出版

「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記
「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記
インタビュー
2023年2月7日
2023年2月7日

「一人訪問」の不安が軽減 訪問看護師1年目のオンライン同行サービス体験記

訪問看護師は、基本的に一人で利用者さんの自宅に訪問します。新任訪問看護師に対しては、同行訪問でのOJT(On the Job Training)を行う訪問看護ステーションが多いでしょう。しかし、多忙でなかなか同行訪問に時間をさけないケースも多く、不安を抱えながら一人での訪問をスタートする新任訪問看護師も少なくありません。 「NsPace With(ナースペースウィズ)」は、そうした現場をサポートするオンライン同行訪問サービスです。今回は、実際にNsPace Withを使用したしもふり訪問看護ステーションの文屋佐都美さんに、体験談を伺いました。 しもふり訪問看護ステーション文屋 佐都美さん2018年に新卒で病院に入職。3年間勤務後、1年間介護事業所でホームヘルパーとして勤務。2022年4月より、しもふり訪問看護ステーションへ。利用者さん・ご家族との対話を大事にしている。一人ひとりの状況に応じた看護、「楽しく生きる」ことをサポートする看護を目指して邁進中。 利用者さんとの対話・関係性を大事にしたいという想いから訪問看護師へ ―文屋さんは病棟看護師やホームヘルパーとしてのご経歴がありますが、訪問看護師になったきっかけをおしえてください。 親が介護事業所を経営していて、幼いころから在宅ケアが身近だったこともあるかもしれませんが、ずっと「患者さん・利用者さんとの関わりを大切にしたい」「病気や障害等があっても楽しみながら生きていくためのお手伝いをしたい」という想いを持っていました。でも、病棟看護師時代は日々のルーティン業務に追われて、なかなか患者さんと関わる時間が持てない現実があったんです。次第に在宅の道のほうが合っているのではないかと考えるようになり、病院を退職しました。 退職後は、親の介護事業所でホームヘルパーとして1年間働きました。実際に在宅ケアに携わってみたら、利用者さん・ご家族との対話や、日常生活のなかに入らせていただくことが、本当に楽しかったんです。私には、やっぱり在宅の道が合っていると確信しましたし、看護師として働きたいという想いもあったので、訪問看護師に転職することを決めました。 ―多くのステーションがあるなかで、しもふり訪問看護ステーション様に入職された理由を教えてください。 スタッフ同士とても仲が良く、楽しい雰囲気に惹かれました。また、入職前に同行訪問をさせてもらったのですが、利用者さんとの関わり方が自分の理想どおりだったんです。仲が良いことはもちろん、信頼されて利用者さんの日常生活に溶け込んでいるように感じました。「私もこういう看護がしたい」と思って、しもふり訪問看護ステーションに入りました。 ―初めて訪問看護ステーションで働くにあたって、不安はありませんでしたか? ありました。なんといっても、「一人で訪問する」ことへの不安が大きかったです。病院であれば、何かあっても同じ建物内ですぐに質問をしたり助けを呼びに行ったりできますが、訪問時はそうはいきません。一人で訪問して、きちんと利用者さんと信頼関係を築けるかどうかも不安でしたね。 オンライン同行では、音声や映像を通じて訪問の見守り。質問・相談も可能 ―実際に入職した後の初期研修の内容や、オンライン同行訪問サービスを始めたきっかけについて教えてください。 2022年の4月に入職し、最初は本部での座学研修と先輩訪問看護師の同行訪問研修がありました。同行訪問時に先輩に確認してもらいながら徐々にできることを増やし、OKが出たら一人で訪問する、という流れです。 オンライン同行訪問サービスについては、所長から「使ってみるか」という話がありました。そういったサービスがあることも初耳でしたが、興味があったので「やってみたい」と言いました。 ―オンライン同行訪問サービス利用時の流れについて教えてください。【オンライン同行訪問 当日の流れ】 最初にオンラインで同行していただく看護師さんとの顔合わせ面談があり、自己紹介や目指す看護師像の共有などをしました。 実際に同行訪問する際は、事前に情報共有のためのミーティングがあります。訪問時には、オンライン同行の看護師さんはイヤホンを通じて会話内容を聞いています。基本的にオンライン同行の看護師さんからこちらに話しかけることはありませんが、聞きたいことがある場合にはこちらから声をかけ、その場で相談することもできます。 訪問終了後は、10分~30分程度の振り返りミーティングがあります。一緒にアセスメントを振り返ってもらうほか、次回までに学んでおいたほうがよいこと、調べておいたほうがよいことなどもアドバイスいただきました。 ―オンライン同行訪問サービスを使用するとき、緊張しませんでしたか? 顔が見えない状態ですべての会話を聞かれているので、結構緊張しました(笑)。でも、それは最初だけでしたね。ミーティングを重ねていくうちに同行していただく看護師さんとの関係性ができていきますし、途中からはイヤホンがあっても意識せず、自然体で訪問できるようになりました。 ―ミーティングでは、文屋さんからはどういった質問・相談をされていたのでしょうか。 医療的な質問はもちろんのこと、私は利用者さんやそのご家族を深く理解した上でケアをしたいという想いが強いので、コミュニケーションの取り方や利用者さんに合わせた対応についての相談もしていました。 例えば、「利用者さんに確認したいことがあるけれど、デリケートな話題なのでご家族の前では聞きづらい」と悩んだときには、「シャワー時に確認してみたらどうですか?」とアドバイスをもらいました。また、「教科書通りなら杖を使うほうがいいかもしれないけれど、Aさんの場合は配偶者の方と寄り添って歩くほうが幸せなのでは」といった相談をしたこともあります。 安心感や自信、スタッフ間の連携につながった ―オンライン同行訪問サービスについて、訪問時に感じたメリットを教えてください。 なんといっても、安心感が一番大きいですね。例えば訪問時にサチュレーション(SPo2)が低い利用者さんがいたとき、入職したての時期だったので、普段とは違う様子に焦ってしまいました。でも、オンライン同行訪問サービスの看護師さんにイヤホン越しに報告できたので、その場ですぐに対応方法に間違いがないことを確認でき、その後の報告に関する指示までもらえて、ホッとしたことを覚えています。オンライン同行のおかげで「一人訪問」の不安が軽減しました。 また、自分の看護に対しての自信もつきます。振り返りミーティングで、「この判断がよかったです」「このコミュニケーションの取り方がよかったです」という前向きなフィードバックも毎回いただけたので、「このまま前に進んでいっていいんだな」と思えました。不安軽減や自信につながるので、新任訪問看護師さんたちにはおすすめです。 ―事業所内のスタッフ同士が連携するきっかけにもなったと伺っています。 はい。もともと事業所内は相談しやすい環境なのですが、オンライン同行の看護師さんから確認されたことをきっかけに、「しもふり訪問看護ステーションとしてどういう対応をすべきか」を所長に確認する機会が複数ありました。事業所の方針・ルールの理解につながり、よかったと思っています。 右からしもふり訪問看護ステーション 所長/管理者の木下さん、運営会社ユニメコム代表取締役の木和田さん、文屋さん また、しもふり訪問看護ステーションにはリハビリスタッフもいるのですが、「〇〇についてはリハビリスタッフさんに聞いてみては」といったアドバイスをいただき、リハビリスタッフと連携する際のヒントになりました。しっかりした連携により、排便コントロールがうまくいった利用者さんがいらして、スタッフみんなで喜んだこともあります。 ―文屋さんはまもなく訪問看護師2年目を迎えますが、最後に今後の目標や取り組んでいきたいことを教えてください。 オンライン同行訪問サービスでのアドバイスを通じて初めて知ったことも多く、勉強すべきことがたくさんあると思っています。例えば、家族看護についてもっと理解していきたいですし、排便・排泄コントロールも奥が深いので、もっと知識や経験を積みたいですね。これからも利用者さんやご家族との関係性を大事にしながら、看護師として成長していきたいと思っています。 ―ありがとうございました。 編集・執筆:NsPace編集部 ※本記事は、2022年12月の取材時点の情報をもとに制作しています。 *  *  *  *  ■ナースペースウィズ訪問看護スタッフ向けオンライン同行訪問サービス。訪問看護の現場景観と新任看護スタッフ指導経験のある看護師が同行訪問OJTをオンラインで支援

コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する
コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する
インタビュー
2023年1月17日
2023年1月17日

コミュニケーション力で教育や医療を変革し地域を創生する

在宅医療のスペシャリスト・川越正平先生がホストを務め、生活全般を支える「真の地域包括ケア」についてさまざまな異業種から学ぶ対談シリーズ。第13回は、演劇というツールを使いコミュニケーション教育に取り組んでいる劇作家・演出家の平田オリザさんと、医療や教育に必要なものについて話し合った。(内容は2018年7月当時のものです。) ゲスト:平田オリザ劇作家・演出家こまばアゴラ劇場芸術総監督・城崎国際アートセンター芸術監督。国際基督教大学教養学部卒業。1995年「東京ノート」で第39回岸田國士戯曲賞受賞。大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐、京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事長、埼玉県富士見市民文化会館キラリ☆ふじみマネージャー、日本演劇学会理事などを歴任。 医師の診療は患者との対話である 川越●平田さんは、劇作家、演出家としてだけでなく、教育の現場や自治体の依頼で演劇を用いたコミュニケーションデザインを教えていると伺いました。コミュニケーションをデザインするとは、どのようなことなんでしょう。 平田●たとえば「患者が医者に質問しにくいのは、医者が高圧的なのではなく、病院に来るまでに交通機関を乗り継いでへとへとになっているからかもしれない。それなら交通行政を変える必要があり、医療行政だけでは解決しない」というのがコミュニケーションデザインの考えかたです。 川越●がん治療中の人が、電車やバスを乗り継いで1時間以上かけて病院に来ても、外来で医師と話すのはせいぜい15分。医師がその時間で何もかも説明するのは難しく、ましてや患者さんが的確な質問をするのはより難しいでしょうね。 平田●あるセンテンスのなかで、本当に伝えたいこと以外の言葉がどれくらい入っているかを、冗長率といいます。家族との世間話がいちばん冗長率が高いように思えますが、ふだんの会話では、実は冗長率はそんなに高くならないんです。 川越●言いたいことだけを言っているわけですね。 平田●そうです。いちばん冗長率が低いのは、長年連れ添った夫婦間の「飯、風呂、新聞」という会話です(笑)。逆に冗長率が高くなるのは「会話」ではなく「対話」なんです。異なる価値観のすり合わせや新しいことを伝える瞬間なので、どうしても時間がかかってしまう。 川越●医者と患者の関係がまさにそうですね。医師の診察が「対話」だという認識はなかったです。どうしても問診をして、説明するという感じになっています。 平田●いわゆる家庭医、ファミリークリニックで実績のある方たちは、そこがうまい。 都会でも地方でも子どもの地域社会がない 川越●これだけコミュニケーションが大事といわれるのは、現代社会は人と人とのつながりが希薄になってきているからでしょうか。 平田●コミュニケーション能力とは本来、子どもがままごとやごっこ遊びで自然に身につけるものなんですが、少子化や核家族化、地域社会の崩壊などで、そういうことを経験していない子が増えています。特に小学校から私立だと、まず地域社会がない。 地方でも少子化で、隣の友だちの家まで1時間とか、学校の統廃合が進んでスクールバス通学になると、寄り道ができない。子どもにとって通学路ってとても大事なコミュニケーションの場所なんですが、社会が合理的になっていくと、どんどんコミュニケーションの機会が失われます。 川越●確かに電車通学だと、放課後一緒に遊べないですね。 平田●それに習い事などで忙しくて、同じ階層の子としか付き合わなくなってしまう。都心部だと7~8割が中学受験をするので、地域社会が完全に崩壊しているわけです。 川越●都心に住んでいても、遠くの大病院にわざわざ1時間かけて行くのと似ていますね。 平田●私は都内の国立大学でも教えているんですが、学生の8割が男子、7割が関東出身、6割が中高一貫校の出身で、ディスカッション型の授業をやっても、みな同じ意見になってしまう。「貧乏って何?」という感じで、実感としてわからないんですね。 川越●在宅医療はご自宅に行くので、さまざまな家庭があることを自然に経験できて、医療は画一的にはできないことを学ぶんですが、病院しか知らないと、ベッドの上の患者さんは生物としての対象になってしまうのと同じですね。 勉強はできても異性とちゃんと話せない 平田●ある進学校で演劇教育を取り入れているんですが、男子校なので、うちの劇団に「女性との付き合いに慣れさせたいので、そういう劇をやってほしい」というオーダーがくるんです。 それで行ったら、うちの女優が初対面の高校生にいきなり「バストいくつですか」と聞かれたことがあって、保護者会などでこの話をすると、さすがにお母さんたちも焦る。だってそういう子たちが弁護士や医者になるんですから(笑)。勉強はできても、異性とちゃんと話せないんですね。 川越●男性の生涯未婚率が23パーセント(注:2018年時点で最新のデータであった2015年数値)という現実もあり、均質化やコミュニケーション能力が乏しいことが少子化の原因の一つかもしれません。男女交際の話は、もう国家施策としてやったほうがいいかもしれませんね(笑)。でないと国が滅びます。 文化による社会包摂の機能が見直される 川越●これから都市部では孤独死などが増えていくと思いますが、あれはインフォーマルな見守り機能が崩壊しているからだと思うんです。 平田●あとは行政もなかなか手が出せないようなごみ屋敷の問題。あれも完全に社会と隔絶してしまった結果でしょうね。 川越●毎日、何らかのかたちで自然に社会とつながっていれば、そういうことは抑止されるかもしれないですね。 平田●最近、文化による社会包摂機能というものが見直されています。何でもいいから、とにかく社会とつながっていてもらいたいと。 川越●コミュニティとしてのつながりが増えないかぎり、包摂機能は尻すぼみになって、ごみ屋敷や孤独死として顕在化するのでしょうね。 今まで、学校は知識を与える場所、医療機関は医療を施す場所のように思われていましたが、そんな単純な話ではなくなっていて、これからは社会のあらゆるところにコミュニケーション教育をビルトインしていくことが求められているんですね。 >>次回「命まで責任を負う団地自治会のまちづくり」はこちら あおぞら診療所院長 川越正平【略歴】東京医科歯科大学医学部卒業。虎の門病院内科レジデント前期・後期研修終了後、同院血液科医員。1999年、医師3名によるグループ診療の形態で、千葉県松戸市にあおぞら診療所を開設。現在、あおぞら診療所院長/日本在宅医療連合学会副代表理事。 記事編集:株式会社メディカ出版 「医療と介護Next」2018年7月発行より要約転載。本文中の数値は掲載当時のものです。

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと
新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと
インタビュー
2022年11月15日
2022年11月15日

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと

前回「新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること」の記事で、新卒から訪問看護の世界に飛び込んだ3名の看護師の声をお伝えしました。今回は、その3名がキャリアを積んでから感じたこと、新卒者が訪問看護に携わることに対しての思いを取り上げます。 先輩になった今、後輩にしているサポートは? 職業を問わず、最初は新人であっても年月を経るにつれて経験を積み、次第に教える立場になっていきます。では、3名の新卒者は自分が先輩の立場となり、後輩をどう支えているのでしょうか?Aさん・訪問看護歴6年「最初は分からないこと自体が分からないと思うので、自分や歴代の新卒者さんがどのような勉強をしたかを伝え、誰もが同じようにできなかったところから乗り越えていることを伝えるようにしています」 Bさん・訪問看護歴6年「まずは相手の思いや考えを聞き、一旦受け止めます。そして、できていることは些細なことでも言葉にして伝えています」 Cさん・訪問看護歴7年「相手のできていないところばかりではなく、できているところはそのまま認めて、フィードバックすることを大切にしています。また、後輩の話を聞くときは、必ず手を止めて聞きますね。そして後輩が考えている時には待つ。答えをいわないようにして、後輩が自分自身で考えられるようにしています」 まずは後輩の思いや悩みを受け止める、という点は3名に共通しています。これには理由があり、自身の経験が少なかったころに「もう少し振り返りの時間がほしかった」(Bさん)、「自信を持てるような声かけ、フィードバックがほしかった」(Cさん)と感じたからだそうです。これから新卒者を迎える管理者、先輩看護師の方は、じっくり話を聞く時間を設けると良いかもしれません。 新卒を受け入れるために必要な環境、体制、心構えは? 未経験の人が訪問看護ステーションで働き、成長していくためには、何が必要なのでしょうか。大きく分けて、「新卒を受け入れる心構え」と「技術を学ぶ場」の2点が挙がりました。 Aさん「教育担当者や所長だけでは受け入れる側の負担も大きくなってしまうため、スタッフ全員で新卒を育てる気持ちが大切だと思います」 Bさん「看護技術・手技の勉強と復習を行いやすい環境が大切だと思います。受け入れる側の心構えとして、新卒でもできる、応援しているというスタンスが必要ではないでしょうか」 Cさん「受け入れる側の心構えとして『できなくて当然。時間がかかって当然』『新卒ウェルカム!』という余裕は必要だと思います。看護技術取得ができるような体制づくりも必要だと考えます」 新卒だからこそ、いち早く技術を習得して少しでも先輩方に追いつきたいもの。技術取得のための体制については、「大きめのステーションのほうが教育・体制面が整っている傾向にありそう」(Cさん)といった声も聞かれました。 「新卒からの訪問看護」にはどんなメリット・デメリットがある? 最後に、新卒者が訪問看護に携わるメリット・デメリットを聞いてみました。Aさん メリット・さまざまな先輩看護師と同行訪問することで、多様な看護観に触れられる。・一般常識が身につく(医療・介護物品などのコスト意識、訪問先のご自宅や外部連携でのマナーなど)。 デメリット・手技の獲得やひとりだちまで時間がかかり、ある程度自信をもって訪問できるまでは不安や劣等感を感じやすい。・事業所の教育体制によっては、ひとりで訪問する重圧、不安が大きい可能性がある。 Bさん メリット・利用者さんの生活や人生の一部に入り込むことができる。加えてもらえる。・医療者や支援者の知識が必ずしも正解ではないことを、利用者さんを通して気付ける。 デメリット・病院に就職した同期と比較してしまうと、スピード感の違いに落ち込む。・新卒訪問看護師への偏見がまだある印象がある。 Cさん メリット・夜勤がないため生活リズムが整いやすいこともあり、それによって『しんどいからやめたい』という看護師は少ないように思う。・キャリアが広がる印象がある(管理者、大学・大学院の教員、ケアマネ取得など)。 デメリット・スタッフのマンパワーが必要なケースが多い。・ステーションによって教育のしかたやスタッフの関わり方・雰囲気、利用者さんの受け入れ幅などが異なるが、新卒訪問看護師向けの情報が少ない。 「新卒からの訪問看護」は、乗り越えるべき課題がありますが、今回お話していただいたかつての新卒者の方々も、現在では一人前の訪問看護師として立派に仕事をこなしています。 新卒者を募る場合、訪問看護のメリットをアピールしつつ、ステーションとして新卒者の悩みや課題に向き合う姿勢を示してみてはいかがでしょうか。 記事編集:NsPace編集部

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること
新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること
インタビュー
2022年11月1日
2022年11月1日

新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.1 新人看護師が感じていること

訪問看護師の中には、新卒ですぐに訪問看護ステーションで働く人もいます。こうした新卒の訪問看護師のみなさんは、どんな思いで働き始め、何に悩んでいるのでしょうか? NsPaceでは、新卒から訪問看護師になった3名の方々にお話を伺いました。 新卒で訪問看護を選んだ理由は? まず、なぜ新卒で訪問看護師の道を選んだのか、聞きました。すると、次のような三者三様の答えが返ってきました。 Aさん・訪問看護歴6年「自分の祖父母が在宅医療という選択肢をもてるようにしたいと思っていたことや、大学のサークル活動で神経難病を患っている方がご家族と穏やかに自宅で過ごしている場面に出会い、素敵だと思ったからです」 Bさん・訪問看護歴6年「利用者さんとゆっくり関わることができるからです。在宅看護学実習で、テキパキと処置をしながら、利用者さんに適切な情報を伝える・聞き出す訪問看護師に憧れを抱きました。誰もやったことがないことだから、おもしろそうと思い、飛び込みました」 Cさん・訪問看護歴7年「訪問看護に興味を持ったきっかけは、大学での領域実習でした。在宅では、 利用者さんと向き合う時間的な余白があり、利用者さんと看護師が対等の立場であるように感じました。その人がその人らしく生活できて、それを支援できる訪問看護がすごく魅力的に感じたので、訪問看護師になろうと思いました」 ご家族に訪問看護師という選択肢を加えたい、実際の訪問看護師の姿に憧れた、在宅医療・訪問看護に医療の理想の形を見た、というのが訪問看護師になった直接的な理由でした。一方、共通点として看護学生時代の経験を踏まえて、最終的に訪問看護師となる決心をしたことが見て取れます。 ひとりだちするまでの過程で困難に感じたことは? では、実際に新卒から訪問看護師となって感じた壁は何でしょうか。こちらの質問も、さまざまな悩みをもったという答えが返ってきました。 Aさん「一つひとつの判断が正しいか、症状を見落としていないかという不安がありました。先輩への報告でも、簡潔に必要な情報と自分のアセスメントをまとめることが難しかったです。状況や体調に変化があった場合に臨機応変に報告をしたり、手順を変更したりすることも困難に感じました。また、時間がかかりすぎて、訪問時間内に必要なケアを行うことも難しかったです」 Bさん「できなかったことに注目して落ち込み、自信がなくなるというループから抜け出せなくなることがありました。自分の『できるであろう』の基準を高く設定してしまい、落ち込みやすくなっていました」 Cさん「看護技術、特に点滴などの経験が積みにくく、技術の習得は大変苦労しました。コミュニケーションが元々苦手で、人見知りも激しかったため、利用者さんとの会話に壁を感じることもありました。また、次の訪問まで待てるのか?今すぐ対応すべきなのか?と、緊急度合いの判断がつきづらいときも困難さを感じました」 技術的な悩みもさることながら、判断に間違いがないか、との不安を抱きやすいようです。そして、「週1回2時間ほどの振り返り面談をしていただきました」「オンコールは管理者の許可を得てから訪問し、実際に報告すると『合っているよ、いいよ』と声掛けをしてもらえて、認めてくれるようなサポートをされていました」(どちらもCさん)というように、その都度のフィードバックがあると新卒者は安心感をもつようです。 先輩・利用者さん・ご家族からの言葉で印象に残っていることは? このように技術を身に着けていく間で、看護師のモチベーションとなるのが利用者さんや先輩看護師からの言葉です。また、直接的な感謝や励ましでなくても、先輩が自分を思ってくれているのがわかると、嬉しさを感じるとの声もありました。 Bさん「利用者さん・ご家族からの『いつもありがとうね』『助かるわ』『待ってたよ』という言葉です。また、しばらく訪問していなかった利用者さんが『元気にしとるんか?』と気にかけていたよ、と先輩から聞いたときも嬉しかったです」 Cさん「利用者さんからの言葉では、何度もクレームをいただいた方に『Cさんだったら、任せられるわ』と声をかけてもらえたことが印象に残っています。先輩からの言葉では、『どうしたらCさんにとって良いのか分からない』といわれたとき、私のことを考えてくれていることが伝わって嬉しかったですね。ほかにも『訪問するときに何が一番大切か分かる?毎回訪問時、同じテンション、声のトーンで訪問すること』と教えられたなど、数え切れないほどあります」 利用者さんからストレートにかけられる感謝や信頼の言葉は、新卒者に限らずベテランの訪問看護師でも嬉しさを感じることは変わらないでしょう。一方、前述の「困難に感じたこと」と同様に、先輩からのアドバイスは具体的に、どこを良くすれば改善されるかまで言及すると、新卒者や若い看護師自身の成長にもつながります。 続きの記事もありますので併せてご覧ください。次回「新卒訪問看護師に聞いてみました! vol.2 新卒者から「先輩」になって思ったこと」 記事編集:NsPace編集部

特集
2022年9月27日
2022年9月27日

[4]教員との密な連携で、スタッフも学生も『やってよかった』と思える実習を!

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。最終回の今回は、実習の実施にあたって順調に進める秘訣をご紹介します。 実習中の連絡方法を事前に取り決めておくことが重要 実習でお世話になっている訪問看護ステーションは、小規模のステーションが多く、受け入れていただける学生の人数が限られています。そのため多くのステーションに学生を受け入れていただいているので、実習中教員は複数のステーションを巡回指導することになります。 このような状況なので、いざ実習が始まってしまうと、なかなか実習指導担当者や学生との連絡が取りづらく、すれ違いになってしまう場合があります。まったく連絡が取れないと、教員、実習指導担当者ともに不安になると思うので、私は、必ず実習が始まる前に時間調整し、情報共有を図る機会を設けていただけるように訪問看護ステーションにお願いをしています。 実習中は直接会えないことも多いので、電話やFAX、メールを活用しています。話し合う必要がある場合、Web会議を設定することもあります。なるべく連携不足を解消できるような手段を講じていくことが大切ではないかと思っています。 また、これまでの経験から、実習前のほうが実習指導担当者とも連絡が取りやすいので、実習が始まるまでの間に、効率よく、かつ十分な情報共有を行う取り組みを行っています。 具体的には、訪問看護ステーションの基本情報の確認、実習の目的・目標・実施方法の共有を行っています。具体的な内容を順に説明していきます。 訪問看護ステーションの基本情報の確認 実習先の情報を学生にも把握してもらうため、訪問看護ステーションの基本情報をシートに記載しまとめています。図1に実際に使用しているシートをお示しします。 図1 実習時に活用している訪問看護ステーションの基本情報シート 青字は記載例。訪問看護ステーションの名称、所在地・行き方、実習指導に関わるメンバーの名前と連絡先、特記事項、服装、持ち物なども記載しています。このシートを見れば基本的なことは何でもわかるようにしています。 実習の目的・目標・実施方法の共有 学校側で定めた実習の目的や目標を訪問看護ステーションの実習指導担当者と共有します。そして、実習目標に到達できる実習方法をステーションの特徴に合わせて検討します。 実習の実施方法を具体的に検討することで、実習指導に必要な情報が見えてきますので、よりスムーズに実習を進めることができます。また、学校のほうで実習指導に活用してもらえる内容をまとめたファイルを作成し、訪問看護ステーションにお渡ししています。このファイルについては次の項目で詳しくご紹介します。 訪問看護ステーションに『学校発の実習ファイル』を設置 実習指導担当者からある時、指導する学生さんについてもっと知りたいという要望を受けたことがありました。実習に出るまでにどういったことを学んできているのか、学習への取り組み姿勢など、実習指導に活かせる情報を共有してほしいと言われました。 そこで、私の学校では『学校発の実習ファイル』を作成し、実習期間中ステーション内に置かせてもらっています(図2)。ファイルには、教員の連絡網や学生の実習配置表(どの学生がどこの実習先に行っているかをまとめた表)、実習要綱、学生の評価方法をまとめた資料に加えて、学生が実習までに取り組んできた課題やレポートなどを綴じています。他に、学生のアレルギー情報を記載した資料も入れています。 こういった資料を通して、学生のことを少しでも知ってもらいたいと考えていますし、実習への考え方を伝えることができればと思っています。 図2 実習ファイル このファイルには学生のアレルギー情報も記載しています。動物を飼っている利用者さんもいらっしゃるので、動物アレルギーの有無は事前にお伝えしています。なお、ファイルは実習終了後に回収します。 学校側はこんなことを知りたいと思っています 最後に、学校側から訪問看護ステーションの方へのお願いとして2つあります。 連絡の取りやすい時間帯を教えてください 実習指導担当者は、訪問看護業務のためステーション内にいらっしゃらない時間や申し送り、定例会議の時間帯があるかと思います。そういった時間を避けて、比較的連絡がつながりやすい日時を教えていただければ、タイミングのよいときにこちらからご連絡します。カンファレンスの日程調整や実習指導のお打ち合わせもスムーズに進むと思いますので、ぜひ学校側に遠慮なく『この時間なら空いているよ!』と声をかけていただけるとうれしいです。 訪問看護ステーションのスタッフの方からも実習に対するご意見を伺いたいです 我々教員は、管理者や実習指導担当者とお話しする機会は多いのですが、他の訪問看護師やリハビリテーションのスタッフとは、実習開始後の巡回指導のとき以外、交流する機会がほとんどありません。限られた時間しかお会いできませんが、実習指導に関して日ごろ感じていらっしゃることなどを気軽に話していただけると幸いです。教員の多くは、スタッフのみなさんとも交流を深め、指導に関する助言や考えに触れたいと思っているのではないでしょうか。 実習以外の交流も進めています! 私の大学ではちょうど実習が始まる前の時期に在宅看護の実際をテーマにした講義を実習先の訪問看護師の方にお願いしています。 学生にとっては現場の訪問看護師から直接話を聞ける機会であり、訪問看護師さんにとっては実習前に学生の雰囲気を感じてもらうよい機会になっています。また、実習が始まれば、講義で一度会っているので、共通の話題もあり、コミュニケーションを図りやすいそうです。 講義を引き受けてくださった「訪問看護ステーション彩」の管理者・上野朋子さんは、授業の資料準備は大変だけれど、準備の過程で日々実践している訪問看護の振り返りができ、学生に伝えたいことを整理するチャンスになっていると話してくれました。 「ニーズ訪問看護・リハビリステーション西大宮」の所長・金子孝奈さんは、大学での講義について、看護の実践や経験などを後輩に聞いてもらえることをうれしく思うと話してくれました。 * 今回、この記事の執筆をきっかけに日ごろお世話になっている訪問看護ステーションの管理者や実習指導担当者に、訪問看護実習の受け入れについてじっくりとお話を伺うことができました。 みなさん、未来を担う訪問看護師の育成に少しでも貢献したいという気持ちで受け入れてくださっていることがわかり、学生を送り出す側として感謝の気持ちでいっぱいになりました。 この記事を通して訪問看護実習の受け入れについて、読者の皆様に少しでも関心を持っていただければ幸いです。 ■取材協力者(登場順)訪問看護ステーション彩~いろどり~管理者 上野 朋子さんhttps://tact-company.com/ ニーズ訪問看護・リハビリステーション 西大宮所長 金子 孝奈さんhttps://www.needs-houmonkango.com/ 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年9月20日
2022年9月20日

[3]実習の負担軽減は準備次第! 受け入れ時に役立つ工夫・ノウハウ

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。今回は、実習を受け入れる場合、訪問看護ステーションの側でどういった準備を行えばよいかご紹介します。 実習受け入れ前の準備が大切 実習を受け入れることになった場合、実習受け入れ前の準備がとても大切です。訪問看護ステーションで行う実習前の主な準備としては次のようなことがあります。 ・施設オリエンテーションの準備 ・実習内容の確認 ・学生を受け入れるにあたってのルールづくり ・同行訪問可能なご家庭の選定 ・カルテの取り扱い(電子カルテではあれば学生専用のID・パスワードの設定など) ・実習指導担当者の受け持ち利用者さんの調整 ・実習費に関連する書類の作成 など今回は、ステーションの管理者の方からどうすればよいか質問を受けることの多い、学生を受け入れるにあたってのルールづくりと同行訪問可能なご家庭の選定について準備のコツをご紹介します。 実習に関する取り決めはスタッフとも共有 学生の受け入れにあたっては、ステーション内で主に以下のことを取り決めておくとよいでしょう。 ・学生の待機場所や休憩場所、持ち物の置き場 ・実習の集合時間 ・学生の服装 ・学生の持ち物 ・学生がカルテを閲覧するときの方法 など 「集合時間」は、学生が訪問看護ステーションに入室可能な時間にするとよいです。ステーションが開く前に学生が着いてしまうと、病院や施設と異なり、外で待機することになります。特に住宅街にあるステーションでは、近所の住民の方のご迷惑になることもあります。ですので、確実に学生が入室できる時間に設定し、学生には時間厳守であることを伝えます。なお、ビル内にあるステーションの場合、呼び出し方なども取り決めておきます。 また「持ち物」では、季節に応じて訪問先への移動時に必要となる防寒・防暑対策など細やかな指示が必要です。冬季であれば耳当てやカイロ、夏季であればサンバイザーなどを各自で用意するように伝える訪問看護ステーションもあります。自転車や徒歩で訪問する場合には必須の注意事項ですね。 「カルテを閲覧するときの方法」は、第1回でも触れましたが、個人情報保護の観点から学生専用のID・パスワードを用意しておきます。また、スタッフには、スタッフがいつも使用しているID・パスワードは、学生に教えないように伝えておきます。 こうした取り決めは、オリエンテーション用の資料にまとめておき、学生だけでなく、スタッフも閲覧できるようにしておくとよいでしょう。実習指導担当以外のスタッフが学生から質問を受けたときに、スムーズに対応できます。 受け入れ家庭選定のポイント 実習の受け入れ準備の中でとても大切なのが、実習を受け入れていただけるご家庭の選定です。受け入れ家庭の選定は、利用者さんの状況、利用者さんと学生の両方の立場、訪問看護師の業務の状況などをふまえて行います。利用者さんの状態によっては、学生の同行が負担になる場合もあるので、基本的には次のような条件を満たすご家庭を選定するとよいでしょう。 ・病状や精神状態が安定している ・週に1回以上の訪問を受けている ・学生の同行訪問に同意している 受け入れ可能なご家庭を選んだら、学校の教員と実習指導担当者で打ち合わせをし、学生が受け持つ利用者さんを具体的に決めていきます。 決め方としては、学生が希望する疾病や日常生活動作(ADL)の程度に合わせて決める場合もあれば、利用者さんの状況やスタッフのマンパワーをふまえて、訪問看護ステーション側で対象となる候補をリストアップする方法もあります。他に、小児の訪問看護が多いステーションでは、学生が小児の在宅看護を学べる機会と考え、ステーションの特徴を活かした候補を挙げてくださる場合もあります。 そして、実習の開始前に、学生の同行訪問について利用者さんとご家族に同意を得ます。実習が始まる数ヵ月前に同意を得るステーションもあれば、訪問看護契約時に同意を得るステーションもあります。 契約時の場合、例えば、施設紹介の際に「学生の実習を受け入れることがあります」と説明し、看護教育に携わっていることをあらかじめ伝えておくと理解が得られやすいです。また、契約書に学生の同行訪問について意思確認できるチェック項目を設けることで、候補のリストアップもしやすくなりますね。 このように同意の取得にあたっては、利用者さんやご家族に対して、訪問看護実習へのご協力の同意が得られていることを確認できるしくみづくりが必要です。 電子カルテの画像情報を活かした実習準備 ここで日ごろの訪問看護業務を行いながら、電子カルテのシステムを活用し、学生の実習準備をしてくださっているステーションをご紹介します。 「訪問看護ステーション彩」の管理者である上野朋子さんは、利用者さんとご家族から許可を得て、普段から利用者さんの療養環境や使用中の医療機器の写真を撮っています。そして、画像をカルテに保存し、学生との情報共有に活用されています。 このコロナ禍で実習時の同行訪問が難しいケースもあるため、なかなか現場に行けない学生にとって写真が貴重な情報源になっているそうです。在宅酸素療法や点滴、吸引などが在宅でどのように行われているのか、写真を通して情報収集でき、利用者さんに実施しているケアや利用している医療機器についても理解しやすくなります。 また、学生だけでなく、スタッフにとっても担当以外の利用者さんの状態がよくわかるため、ステーション内の情報共有にも役立っているとのことでした。 ■取材協力者訪問看護ステーション彩~いろどり~管理者 上野 朋子さんhttps://tact-company.com/ 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年9月13日
2022年9月13日

[2]たくさんあります! ぜひ、知ってほしい、実習受け入れのメリット

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。今回は、実習受け入れのメリットについて訪問看護ステーションの管理者の方のお話をもとにご紹介します。 実習受け入れのメリットを教えていただきました 訪問看護実習を受け入れることが、訪問看護ステーションにどのような影響を与えるのか、学生を送り出す側としてはとても気になるところです。そんな中、私たちの実習施設「ニーズ訪問看護・リハビリステーション西大宮」の管理者、金子孝奈さんから受け入れの実際についてお話を伺う機会がありました。 日々とても忙しい業務の中で実習にご協力いただいているので、実習受け入れの負担が大きいのではないかと考えていましたが、意外にも「実習を受け入れるメリットがあるよ」と教えていただきました。教えていただいたいくつかの例をご紹介します。 自分の行っているケアを言語化する貴重な機会に 利用者さんのお宅では、訪問看護師は学生に一つひとつ順を追って行っているケアについて説明していきます。手技の根拠や観察のポイント、注意点を言語化することで、普段何気なく実施しているケアを振り返る機会になっているとのことでした。 そして、その場にいる利用者さんやご家族からも「これはこんな意味があったのね」「注意して見てくれているのね」といった反応があり、訪問看護師に対する信頼がさらに増したそうです。 実習は、学生にとって実際に訪問看護師が行う点滴や吸引などを間近で見学できる貴重な場です。それが指導を担当する看護師や利用者さん、ご家族にとってもプラスになっていることがわかり、とてもうれしく思いました。 学生の新鮮なアイディアが課題解決の糸口に 時には学生の思いも寄らないアイディアに助けられ、利用者さんが抱える課題の解決方法が見つかることもあるようです。 例えば……。どうしても薬を飲み忘れてしまう利用者さんの服薬支援に着目し、実習指導を担当する看護師と学生でアセスメントを行いました。すると、学生から「その利用者さんは携帯電話を持っていますか?」という質問が出てきました。看護師は質問の意図がわからなかったので、学生に理由をたずねると「服薬時間に合わせて、目覚まし時計のように携帯電話にタイマー設定をすればよいかと思いました」との答えが返ってきました。この発想は、看護師にとってとても新鮮に思えたそうです。 さっそくこのアイディアを、利用者さんの服薬支援の一環として使ってくださり、利用者さんはアラーム音をきっかけに服薬のことを思い出すので飲み忘れの軽減につながったとのことでした。これは、利用者さんが使用している身近なものを使って、セルフケアの援助が可能になった例です。生活の場のことですから、とてもよいアイディアだったと思います。 学生の発想や個性を大切にし、吟味したうえで、訪問看護の現場で活かしていただいたことをとても感謝しています。 学生の学ぶ姿にエネルギーをもらえる 同行訪問では、学生はバイタルサインの測定やおむつ交換、体位変換、清拭などのケアに参加させていただくことがあります。ケアへの参加を通じて、例えば「体位変換にはこのくらいの体力を使うんだ」と実体験でき、学ぶ姿勢がどんどん変わってくるそうです。 いろいろな気づきを得て、感じた疑問を実習指導の担当者に話し、活発なディスカッションが展開されることもあると聞きました。学生との会話を通じて、『フレッシュなエネルギーをもらった気がします』と話してくださる訪問看護師の方もいらっしゃいました。 さらに、学生は訪問看護師が利用者さんお一人おひとりの病状や体調、生活スタイルに合わせてケアを行う様子を間近で見学しながら、在宅ならではのケアや援助に対する理解を深めていきます。その人らしい暮らしを支える訪問看護に感動し、実習前よりも興味・関心を高める学生もいます。 また、学生と会話をする利用者さんにはいつもとは違う表情やしぐさがあるそうです。いきいきとした表情が見られることもあり、こうしたさまざまなできごとから、実習指導担当者がエネルギーをもらい、訪問看護の楽しさを再発見することもあると教えていただきました。 若い人に訪問看護に携わってもらえるように希望を込めて 金子さんは、訪問看護実習を受け入れる理由について、次のようにお話しされます。「若い人にこれからも訪問看護に携わってもらえるように、という希望を込めて実習を受け入れています」 そして、受け入れにおいて大切にしていることについて、「実習の受け入れは不安があるかもしれませんが、実際にやってみないとわからないこともあります。やってみて問題に感じたところは改善しながら進めることも大切です。また、利用者さんの中には、孫を見るような目で学生さんに接してくれる人もいます。学生さんにとっても、利用者さんとのそうした触れ合いは、看護師になってからもいろいろな意味で役立つと考えています。ですから、できる限り在宅で暮らす利用者さんとふれ合える機会をつくっていますよ」と教えていただきました。 金子さんのお話の中にあった、「やってみて問題に感じたところ」については、学校の教員にもぜひ頼っていただければと思います。些細な問題でもフィードバックいただき、共有できれば幸いです。 ■取材協力者ニーズ訪問看護・リハビリステーション 西大宮所長 金子 孝奈さんhttps://www.needs-houmonkango.com/ 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年9月6日
2022年9月6日

[1]実習の受け入れ、こんなこと『疑問』に思っていませんか?

この連載では、大変そう…と思われがちな訪問看護実習の受け入れについて意外とそうじゃないかも、と思ってもらえるようなあれこれをご紹介します。今回は、訪問看護実習に関してよく寄せられる疑問を取り上げてお答えしましょう。 訪問看護の魅力を実習の場で伝えてほしい 近隣の看護学校から、看護実習を受け入れていただけないかと打診される訪問看護ステーションの管理者の方は多いのではないでしょうか。 看護教育では2022年のカリキュラム改正によって地域・在宅看護論が1年時から組み込まれ、地域連携の視点が教育開始時から必須になりました。 訪問看護ステーションは、地域・在宅看護実習の主な場であり、期待される役割はますます大きくなっています。とはいえ、日ごろから少ないスタッフで業務をこなしているステーションも多いため、なかなか受け入れに積極的になれないのではないかと思います。でも、在宅看護に興味のある学生や卒業後すぐに訪問看護師になりたいと考える学生も増えてきています。私は、大学の看護学科で地域・在宅看護学を教えています。訪問看護実習の受け入れをお願いする立場から、みなさんの現場で訪問看護の魅力を学生たちに伝えていただきたいと思います。 訪問看護実習への疑問、お答えします! 訪問看護ステーションの管理者の方々は学生の受け入れに関心はあるものの、事業所内のマンパワーの問題や場所が狭いといった環境面のご心配から、受け入れに一歩踏み切れないと思われることが多いようです。 確かにいろいろなご心配があるかと思いますが、正確な情報提供や少しの工夫で解決できることもあります。今回は、これまで管理者の方からお聞きしてきた疑問を取り上げて紹介していきます。少しでも訪問看護実習の受け入れについて知っていただき、意外と大変じゃないかも…と思っていたければ幸いです。 実習は1度受け入れたら、ずっと受け入れないといけないの? みなさん1度受け入れたら次の年は断れないんじゃないかと心配されることが多いようですが、答えは「ノー」です。 スタッフの人数や利用者さんの状況などから、受け入れが難しい年もあると思います。学生を送り出す側としては、毎年、受け入れのお願いをさせていただきますが、難しい状況のときは遠慮なく仰ってください。そして、また受け入れ態勢が整った段階でお声がけいただけければと思います。 学生に専用で使ってもらえるロッカーや部屋がないけれど受け入れても大丈夫? スペースの問題はご心配が大きいようで、このご質問を非常によく受けます。ですが、専用のロッカーや控え室がなくても問題ありません。 例えばロッカーがない場合、実習中の服装をあらかじめ指定していただくと、着替える必要がないのでロッカーはなくても問題ありません。白衣などの指定がなければ、学生は自宅からスニーカー、ポロシャツ、チノパンツ、冬はこれにカーディガンを加えた服装で、直接実習先に伺うことが多いです。 また、ステーション内で休憩する際は、差し支えなければ、スタッフの方が使用されているスペースを共有させていただけると助かります。スタッフの方と同じフロアにいることで、電話対応や関係者間の打ち合わせなど、事務所の日常業務を見学することができ、貴重な機会になると思っています。 実習に来てくれた学生に最初に伝えなければいけないことは?  まずは、利用者さんのお宅に伺うときの基本的なマナーについて共有をお願いします。もちろん、学校でも接遇・マナーに関する教育を行っていますが、訪問看護ならではのポイントがあるかと思います。 例えば、訪問したら靴はそろえて下座に置く、上着はたたんで身近に持っておく、利用者さんのお宅にあるものに触れるときはどうするのか、などです。訪問時に普段から注意していらっしゃることを、同行訪問前のオリエンテーションのときに伝えていただければ幸いです。 学生の中には、多職種と開催する会議に出席させていただけるケースもあるようです。その際は、会議出席時のマナーを知るチャンスなので、会議の目的・参加者・参加者の職種・日時と場所を把握する、携帯電話の電源を切る、メモをとるときは指導者の許可を得てから…といったようなことを伝えてあげてください。 個人情報の取り扱いが心配! 電子カルテの取り扱いで注意することは? 実習では、利用者さんを理解するため、実際に電子カルテの診療記録を閲覧させていただくことがあります。電子カルテは、すべての利用者さんの情報が電子保存されており、権限次第ではコピーも可能ですので、個人情報保護の観点から取り扱いには十分な注意が必要です。 学校でも実習前に個人情報の取り扱いおよびプライバシーポリシーに関する教育を行っていますが、訪問看護ステーション独自の規則も策定いただけるようお願いいたします。例えば、次のようなセキュリティ管理を徹底してもらえるとよいかと思います。 ・実習クールごとに学生専用のIDとパスワードを設定する。・電子カルテシステム上から使用権限を設定し、学生は担当患者の診療記録に限って閲覧のみ可能にする(入力・更新・転送不可にする)。・実習開始前に電子カルテのメンテナンス業者に確認を行う。 同行訪問の前は何をどこまで学生に伝えればよい? 同行訪問についてあれこれ説明していたら、ずっと話をしていたという実習指導担当者のご相談を受けたことがあります。少しでもよりよい実習にしたいとの思いからあれもこれも伝えなくては、と思ってくださるようです。 学生には、まずは利用者さんを知り、疾病や看護技術について復習し、実習での学びを深めてほしいと考えています。学生自身が情報を整理し、準備しておくことも必要ですので、同行訪問の前は訪問時に行うケアと、利用者さんの「身体状況」「環境・生活」「家族・介護の状況」「心理状況」の4点について事前にカルテを閲覧し、整理しておくように伝えてください(表1)。 また、学生は訪問先に伺うことに対してとても緊張しています。移動時間を利用して、訪問先での注意点、利用者さんやケア技術についてお話していただけると学生の緊張もほぐれてくるように思います。 表1 利用者さんの状況を整理するための4つのポイント カルテから情報収集し、利用者さんの状況を4つのポイントに沿って整理します。もし学生が利用さんの情報をうまく説明できないようでしたら、この4点について順に学生に質問を投げかけてみてください。 執筆 王 麗華大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 教授 ●プロフィール1999年、国際医療福祉大学保健学部看護学科を卒業。看護師と保健師資格取得後、地域の病院と訪問看護ステーションでの勤務を経験。その後、国際医療福祉大学看護学科准教授などを経て、2018年より現職。 記事編集:株式会社照林社

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