コラム 2021年1月22日 2021年1月22日 高齢者にとっての災害対策 9月1日の「防災の日」が制定されている日本では、小中学校などで定期的に避難訓練が行われるなど、防災への意識が高いといえるでしょう。しかし、毎年起こる災害では、どうしても高齢者の被災が多くなってしまっており、改めて高齢者の防災への取り組みが注目されます。 高齢者にとっては、特に「災害準備」が大切になりますので、高齢者の多様な支援課題や防災における特徴を広く知っていただきながら、高齢者お一人お一人の防災について考えてみたいと思います。 なぜ、高齢者にとっての災害準備が重要なのか 初動期と展開期 災害は、大きく「準備期」「初動期」「展開期」に分類されます。 準備期とは災害発生以前を指し、「初動期」は災害が起こってからの約72時間を、そして「展開期」は災害発生から72時間経過後を指します。 高齢者は、これらのどのタイミングにおいても脆弱であると言われていますが、例えば、初動期においては体力的・精神的な理由で、避難するのが遅れてしまうことがあったり、生活環境の変化(避難所での生活)に対処しきれず、急激に身体機能が低下したり、認知症状が進行するなどの状況に陥ることが報告されています。 また、展開期においても同様で、長期にわたる避難所での生活や、生活再建のための疲れの蓄積によって身体的・精神的消耗が激しく、若い人に比べて命を落とすことも多く(災害関連死等とも言われます)、この時期の支援の重要性が言われています。 準備期 準備期においては、高齢者が災害のための準備ができていないことや避難訓練の参加率が低いこと等が報告されています。 初動期や展開期における高齢者への対策を強化することは容易なことではありませんが、時間のある準備期の対策を充実させることで、高齢者自らが、災害が発生した場合に生き残る可能性を広げることにつながります。 災害のための物資の準備をしておくことや、起こりうる災害を想定しておくこと、災害発生時に助かる可能性を広げるためのネットワークづくりをしておくことは、災害が起きた時に落ち着いて行動することを可能にし、また、高齢者自らが行うことができる最も基本の対策となります。 高齢者の災害準備が進まない理由 私の専門は介護が必要な高齢者の生活支援と、介護が必要な高齢者を支えるご家族の負担や健康を支えることです。そのため、災害準備においても、特に介護が必要な方とそのご家族の方、特に在宅で生活をされている方の災害準備ポイントを常々考えております。 といいますのも、施設入居の方の場合には、施設でマニュアル等が検討されますが、在宅の場合にはご家庭でそれぞれの災害対策を考えなくてはなりません。 災害のプロでもなく、介護のプロでもない高齢者やご家族にとって、災害に向けて準備を進めることは簡単なことではありません。 まず、どのような準備をしておく必要があるのか、何の災害に備えておかなければならないのかといった情報を集めるところからが難しいのです。 アンケート調査 実際、過去に行った調査(回答してくれた方は、在宅で介護を担う家族介護者1101名)から明らかになったのは、要介護の方のご自宅において避難計画をお持ちの方は24%、全般的に「災害の準備ができている」と回答した方は8%に過ぎませんでした。 中でも、認知症の方を介護するご自宅、経済状況が苦しいご自宅、介護者が若い場合等に、災害準備が進んでいない状況が明らかになっています。(この結果は、ロジスティック回帰分析や順序回帰分析という統計手法を用いて、性別や介護の程度といった他の変数を調整しても、統計的に有意な結果であることが示されています) これは、認知症の方を介護しているご家族にとっては何を準備しておいたらよいのかわからないということや、認知症の方の介護に手いっぱいで、災害準備を行うまでの経済的、精神的な余裕がないということが反映されています。 実際ご家族の方は、災害準備に関する情報支援が必要だと感じていますが、どこで情報を得られるかわからない方もいることや、避難が必要な場合には避難場所への移動を助けてもらえるような対策の必要性、地域住民との連携の必要性が課題として挙げられています。 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員・博士(保健学)・学士(工学) 涌井智子 専門は家族介護、老年社会学、公衆衛生。介護を支える社会の仕組みについて、個人、家族、社会構造といった視点で研究を実施。特に家族介護者の負担感軽減のための支援策の検討や、介護分野におけるテクノロジー導入の課題、要介護高齢者の家族のための災害準備等について日本と米国で研究を実施中。2013年10月より現職。 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。 この度はNsPaceにお越しいただき、ありがとうございます。 NsPaceは訪問看護に携わる皆さま、これから携わりたいと思っている皆さまのための場所です。 日々、皆さまのお仕事に役立つ情報を発信していく予定ですので、よろしくお願いします。 ご面倒かと思いますがご利用の際は、会員登録(無料)をお願い致します。
インタビュー 2021年1月21日 2021年1月21日 未曽有の事態への対応 在宅医療の災害対策は、利用者や関わる職種も多いため、十分に準備ができているステーションは非常に少ないのが現状です。 そんな状況を変えようと、ケアプロ株式会社では『ホームケア防災ラボ』を立ち上げています。在宅医療事業部事業部長の金坂さんに、取り組みの内容を伺いました。 災害対策への取り組み 金坂: 現在、発災時には全国各地からDMAT(災害派遣医療チーム)が支援にくることが主流ですが、日ごろから地域を支える訪問看護師、ケアマネジャー、介護士だからこそできる災害対策があると考えています。 また、こういった地域を支えるケアスタッフが災害対策に取り組むことは、発災後の地域資源を守っていくという視点でも効果的であると考えます。 一方で、地域で働くケアスタッフは災害対策を学ぶ機会が少ないという現状があったため、訪問看護師だからこそできる防災対策という視点で、利用者さんの支援をはじめとした情報発信や勉強会の運営のために立ち上げたのがホームケア防災ラボ(別名「在宅ケア防災研究会」)です。今年で活動は4年目で、参加エリアの制限などはありません。 活動としては、防災に関する講演や勉強会の開催、訪問看護事業所の災害対策などに関する研究活動をしています。 ―どのような方が、運営されているのでしょうか? 金坂: ホームケア防災ラボの代表はケアプロの訪問看護師2名で、DMAT(災害派遣医療チーム)の経験のあるスタッフと災害看護専門看護師の資格を持ったスタッフです。この二人が中心となり活動をしています。 私は、訪問看護事業所のおける災害時事業継続計画(BCP)の策定や実践、研究活動にかかわっています。この活動は、日本赤十字看護大学の地域在宅看護学の教授や東京大学の危機管理シミュレーションの専門に研究をしていらっしゃる教授などと定期的に意見交換や研究活動を通して行っています。 新型コロナウイルス対応 ―災害に関連して、未曽有の事態である新型コロナウイルス感染症へは、どのように対応されていましたか? 金坂: 初めての緊急事態宣言の時は、情報が少なく、何をすべきか対応が難しかったです。会社としては、可能なスタッフには直行直帰をさせる、訪問が少ないスタッフは別の人に訪問をまとめてもらい、その分1人をテレワークにする、などの対応で乗り越えました。 新型コロナウイルス感染症が流行する前から、訪問スケジュール管理も看護記録も電子化していたので、テレワークへの移行はスムーズでした。 その後はある程度、感染対策のガイドラインもできあがり、収集した情報をもとにして適切な判断を行えるようになり、徐々に通常の運営に近い状態に切り替えていきました。 今も、感染リスクを減らすようには努めています。 ―大規模ステーションならではの対策はありますか? 金坂: 大規模で余裕があるからこそ、できることがあると思います。 例えば、マスクや防護服が足りなくなった際に、所長から区に物品の支給を訴えたことがありました。所長が現場だけではなく、組織管理ができる余裕があったことが、迅速な対応につながったと思います。 また、間接部門を独立して設置しているため、助成金や補助金の情報収集や煩雑な申請対応にリソースを割くこともできました。 ケアプロ株式会社 在宅医療事業部 事業部長 金坂宇将 地元島根の急性期病院で臨床経験を積む。看護師3年目で看護連盟活動に参画し、病院看護だけではなく地域医療や政治の世界を知り、もっと地域医療に貢献したいという気持ちから、看護師10年目で在宅医療業界に転身。現在、日本の在宅医療業界の課題を解決するために、事業運営に取り組んでいる。 ケアプロ株式会社 「革新的なヘルスケアサービスをプロデュースし、健康的な社会づくりに貢献する」をミッションに2007年12月創立。直営で2店舗の訪問看護ステーションを運営するとともに、予防医療事業、在宅医療事業、交通医療事業の3事業を展開している。(2020年12月現在) 新型コロナ感染症対策についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。 災害対応についてもっと知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。 この度はNsPaceにお越しいただき、ありがとうございます。 NsPaceは訪問看護に携わる皆さま、これから携わりたいと思っている皆さまのための場所です。 日々、皆さまのお仕事に役立つ情報を発信していく予定ですので、よろしくお願いします。 ご面倒かと思いますがご利用の際は、会員登録(無料)をお願い致します。
特集 2021年1月20日 2021年1月20日 いざという時のために。ステーションの災害対策 近年、台風や豪雨による災害が各地で起こっています。特に2011年の東日本大震災では、災害対策の重要性を身をもって感じた方が多いのではないでしょうか。 もし訪問先で地震が起こった時、どう行動したらよいか、あなたのステーションには指針がありますか? これから起こりうる首都直下型地震などの災害に、訪問看護ステーションはどう備えていくと良いのか、特集にまとめました。 「ホームケア防災ラボ」で地域に貢献 都内で展開するケアプロ訪問看護ステーションでは、DMATの経験があるスタッフと災害看護専門看護師の資格を持ったスタッフが中心となり、「ホームケア防災ラボ」を運営しています。 「地域を支えるケアスタッフが災害対策に取り組むことは、発災後の地域資源を守っていくという視点でも効果的である」と在宅医療事業部長の金坂さんは話します。 ホームケア防災ラボでは、情報発信や勉強会を定期的に開き、災害時にサービス提供を継続できるステーションを1ヵ所でも増やす取り組みをしています。詳しくはこちらの取材記事をご覧ください。 災害時対応を変えるためのチャレンジ(ケアプロ株式会社 金坂宇将) 「災害時個別支援計画」で利用者さんにも意識付けを 愛知県にあるテンハート訪問看護ステーションでは、愛知医科大学の下園美保子先生と共同で「災害時個別支援計画」の作成をしています。 作成のきっかけは「一般的な災害対策マニュアルを利用して実施した災害訓練での失敗」だと、管理者の佐渡本さんは語ります。利用者さんの個別性が高く、いかに現実に即していないかを実感したそうです。 そこで下園先生に相談したところ、利用者さんに個別に災害支援計画を作ってみてはどうかという話に至りました。 個別に支援計画を作成することで、災害時に利用者さんが焦らず行動できるだけでなく、普段の生活でも災害に対して準備する行動変容が見られたそうです。 災害が発生した際は、限られた時間とマンパワーの中で、何人もの人が連絡や訪問をするなど、無駄な動きをしているのが現実です。 在宅医療の連携ツールとしても、この災害時個別支援計画は今後広く利用されるようになるかもしれません。 もしもに対応できる!災害時支援計画(テンハート訪問看護ステーション 佐渡本琢也) 高齢者こそ災害準備を 東京都健康長寿医療センター研究所の涌井智子先生は、高齢者にとっての災害準備の必要性を訴えています。 高齢者は、災害発生直後から72時間後までは、体力的・精神的な理由で避難が遅れてしまうと言われています。また、災害発生後72時間以降は、避難所などの生活環境への変化に耐えられず、身体機能や認知機能の低下が起こるリスクがあります。 そこで、災害発生前の対策を充実させることで、高齢者自らが、災害時に生き残る可能性を広げることができるそうです。 高齢者の防災準備あるあるや、今日からできるプチ避難準備について、涌井先生が解説しています。詳しくはこちらのコラムをご覧ください。 高齢者にとっての災害対策(東京都健康長寿医療センター研究所 涌井智子) 異なる支援ニーズへの対応と地域コミュニティ 今日からできるプチ災害準備(東京都健康長寿医療センター研究所 涌井智子) ついつい後回しにしがちですが、いつ起きてもおかしくないのが災害です。これを機に、ステーションの災害対策について見直してみてはいかがでしょうか。 この度はNsPaceにお越しいただき、ありがとうございます。 NsPaceは訪問看護に携わる皆さま、これから携わりたいと思っている皆さまのための場所です。 日々、皆さまのお仕事に役立つ情報を発信していく予定ですので、よろしくお願いします。 ご面倒かと思いますがご利用の際は、会員登録(無料)をお願い致します。