疾患知識に関する記事

疥癬とは? 特徴や症状、感染予防策を正しく知ろう【多数の症例写真で解説】
疥癬とは? 特徴や症状、感染予防策を正しく知ろう【多数の症例写真で解説】
特集 会員限定
2025年4月1日
2025年4月1日

疥癬とは? 特徴や症状、感染予防策を正しく知ろう【多数の症例写真で解説】

在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は疥癬(かいせん)を取り上げます。これだけは知っておきたい基本的な知識をお伝えします。 正しい知識で疥癬に備える 疥癬の発生に遭遇した方はいらっしゃるでしょうか。施設や病院ではアウトブレイクする可能性があるため、「疥癬」と聞いただけでパニックになってしまうこともあるようですが、まずは疥癬について正しい知識を身につけましょう。備えておけば憂いなし、です。 疥癬とは 疥癬は、ヒゼンダニ(図1)という虫が皮膚に寄生して起こる疾患です。ダニが咬んでかゆみが出るのではなく、虫の死骸や卵、糞などにアレルギー反応を起こしてかゆくなります。 図2にヒゼンダニの生活史を示します。ヒゼンダニは卵から孵化すると10日ほどで交尾を始めます。交尾したメスは角層の中を、あたかもトンネルを掘るように進み、次々と卵を産んでいきます。孵化した幼虫は角層を破って皮膚の表面に出ていきます。 図1 ヒゼンダニ Aは成虫で前後に各2対の脚を持ちます。Bは幼虫で、後脚が1対です。 図2 ヒゼンダニの生活史 林 正幸:疥癬.寝たきり高齢者の皮膚疾患,メジカルセンス,東京,2000.を参考に作成交尾したメスは角層の中を掘り進み産卵し、孵化した幼虫は角層を破って出ていきます。 図3 ヒゼンダニのトンネルと検出した虫体と虫卵 A:結節に見られた疥癬トンネル(ダーモスコピーによる)B:Aのトンネルから検出したヒゼンダニの虫体と虫卵。虫体の近くにある産卵直後の卵は無構造に見え、離れたところにある卵の中には虫の姿が見えます。 病型によって異なる症状 疥癬には通常疥癬と角化型疥癬の2つがあり、臨床症状が異なります。 通常疥癬 通常疥癬によく見られる皮疹として疥癬トンネル、紅斑性丘疹、結節の3つが挙げられ、それぞれ好発部位があります(図4)。 図4 通常疥癬の主な皮疹と好発部位 疥癬に特異的な皮疹は疥癬トンネルです。ここで、ヒゼンダニの成虫が掘り進めながら産卵します。紅斑性丘疹と結節はアレルギー反応により生じるとされていますが、結節の表面にはトンネルが見られることがあります。かゆみが強く、「夜も眠れない」という訴えがあった場合は疥癬を疑う必要があります。「痒みシュラン」1)三ツ星、つまりかゆみの程度はまさに「耐えがたい」もので、最大レベルです! 角化型疥癬 摩擦を受けやすい場所(手足、肘・膝など)、さらには通常疥癬では皮疹が出ない頭部、頸部などに、灰色や黄色がかった白色の、少し汚い感じのする厚く増殖した角質が見られます(図5)。爪も肥厚し、爪白癬のような症状を呈することがあります。角化が亢進する理由は、よく分かっていません。 図5 角化型疥癬 AとBは同一症例。内科疾患による免疫低下があります。Cは湿疹と誤診されて長期にステロイド外用が行われていた例です。 宿主が免疫能の低下した人であれば角化型疥癬に 通常疥癬と角化型疥癬では寄生しているヒゼンダニは同じですが、宿主の側に違いがあります。(重篤な)免疫不全がなければ通常疥癬、重篤な基礎疾患を有している人、薬剤により免疫能が低下した人などに角化型疥癬が発症します。免疫低下のためアレルギー反応を起こせず、かゆみが生じない場合もあります。 角化型疥癬は、図6に示すように患部からは多数のヒゼンダニが検出され、一説には全身で100万匹以上寄生しているともいわれます。そのため感染力も強く、施設で発生した場合には厳重な対処が必要です。第1例がノルウェーから報告されたため「ノルウェー疥癬」とも呼ばれています。 図6 角化型疥癬の虫体と虫卵 図5のCの患部から検出した多数の虫体と虫卵です(丸いのは空気の泡)。通常疥癬では1つの視野にこれだけ多くの虫体は見つかりません。 診断にはヒゼンダニの検出が必要 アレルギー反応といっても、ヒゼンダニに対するアレルギー検査(特異的IgE抗体検査)は開発されていません。一般に検査されているヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニの抗原と交差することがあり、好酸球が増加することもありますが、血液検査では分からない、と思っていたほうがよいでしょう。 顕微鏡検査 確実な診断には、病変部から眼科剪刀などで検体を採取し、ヒゼンダニの虫体、虫卵、糞などを検出する必要があります。しかし、在宅や施設で検体を採取した場合、そこで顕微鏡で検査をすることは難しいため、筆者はクリニックに持ち帰っています。感染のリスクを避けるため、検体を2枚のスライドグラスに挟んで周囲をテープで止めたり、小さいビニル袋に入れたりしています。 ダーモスコピー検査 もう一つの診断方法は、ダーモスコピー検査です(図7)。本来は色素性病変を診断するための道具ですが、疥癬トンネルを見つけるのに非常に便利です。ほとんどの場合、あちこちの皮疹をダーモスコピーでのぞき込み、トンネルを探すことによって診断がつきますし、そもそもトンネルの部分を採取しなければ虫や卵などは見つかりません。 図8は湿疹のように見えましたが、実は疥癬であった症例です。体幹を中心に紅斑と丘疹が散在し、手にはトンネルを認めませんでした。ところが、ダーモスコピーでよくよく探してみると左腰のしわの下にトンネルを見つけ、疥癬の診断をつけることができました。しかし残念なことにダーモスコピー検査は疥癬に対しては保険請求できません。 図7 ダーモスコピー 記録できるカメラタイプのものもあります。 図8 湿疹のように見えたが疥癬だった症例 湿疹のように見えましたが、左腰のしわの下にトンネルを見つけることができた症例です。右下はダーモスコピーの所見。 疥癬の診断は難しい! ここで宣言?しておきましょう。「疥癬の診断は難しい」です。怪しいと思ってもトンネルが見つからない、虫を確認できない、ということはよく経験されます。どうしても白黒つけがたいケースもあり、そうした思いを共有するためのツールとして疥癬グレード分類(SGグレード分類)2)が提唱されています。 グレードは0~5段階に分けられています。グレード5は「角化型疥癬」、4は「通常疥癬」、3は「症状は疑わしいがヒゼンダニが検出されない」、2は「疥癬の可能性が否定できない」、1は「まず疥癬ではないと思われる」、0は「疥癬を疑う必要はない」という分類です。それぞれの分類で治療方針や隔離の必要の有無などが明記されていますので参考にされてください。後で述べる日本皮膚科学会のガイドライン3)とは若干対応が異なり、やや「念のため」という内容になっていると思います。 「介護人の疥癬」に注意 先述したように、宿主の免疫能が低ければ角化型疥癬になりますが、普通の免疫力があれば通常疥癬になります。もしも、もっと免疫力が強ければもっと軽い症状になる、と考えられるのではないでしょうか。 「介護人の疥癬」という概念があります4)。疥癬の患者さんを介護している家族や職員に発症する疥癬で、典型的な手のトンネルや外陰部の皮疹などがなく、上肢、特に前腕の屈側に少量の丘疹を生じるというものです(図9)。気がつかずにベクターとなって感染を広げている場合があるのだと思われます。 図9 介護者の疥癬罹患例 50代、女性。介護していた父親が疥癬に罹患。上肢にかゆみを感じ、近医を受診するも、手や体幹などには皮疹がなく湿疹と診断されました。ステロイド外用で一時改善しましたが、その後悪化。左前腕に線状の皮疹を発見し、ダーモスコピーでトンネルを確認し、さらにそこから虫体を検出して疥癬の診断がつきました。「介護人の疥癬」と考えられます。 内服薬と外用薬で治療 ベテランの皆さんは、疥癬の治療にγBHC(リンデン)やイオウの入浴剤を使った記憶があるかと思います。前者は2010年の法改正で使用禁止となり、後者は諸事情により発売が中止されました。2006年にイベルメクチン内服、2014年にはフェノトリン外用が発売され、疥癬の治療はずっと楽になりました。ちなみにイベルメクチンは2015年にノーベル生理学・医学賞を受けた大村智先生が発見された物質です。 イベルメクチン、フェノトリンともに卵には効果がありません。一度内服や外用をすると虫を殺すことはできますが、その時に卵であったものが孵化して次の卵を産んでしまいます。そのため、1週間後に2回目の投与が必要です。ただ、筆者の印象としては、3回は内服または外用したほうがよいように感じています(あくまで個人の意見です)。重症の疥癬(角化型疥癬や、それに近いと判断される場合)では両者を併用しますが、通常疥癬に併用すると都道府県によっては保険診療の査定を受ける場合があります。 クロタミトンの全身外用も以前はよく使われていましたが、少なからずかぶれるので注意を要します。 疥癬への4つの対策 疥癬感染の予防策については、日本皮膚科学会のガイドラインに準拠するのがよいでしょう。ガイドラインは学会のホームページから閲覧・ダウンロードすることができます。詳しくはそちらをぜひ閲覧してください。ここでは通常疥癬の対策のポイントをご紹介します。ガイドラインでは以下の4つが推奨されています3)。  (1) 手洗いの励行(2) 診察室や検査室などのベッドにはディスポーザルシーツの使用(3) 洗濯物の運搬時の注意(4) 雑魚寝状態なら同室者や家族などへの予防治療を検討 すなわち、この4点以外は通常通りの対応でよく、個室隔離も不要です。おそらく一般に考えられているよりも「軽い」対策なのではないでしょうか。しかし、角化型疥癬では厳重な対策が必要です。 いずれにしてもいざ発生してしまったときにあわてないように、それぞれの施設でマニュアルを作成しておくことをおすすめします。 >>日本皮膚科学会「疥癬診療ガイドライン(第3版)」は以下のURLより閲覧いただけます。https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/kaisenguideline.pdf 執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)塩原哲夫:痒みシュランとは…….Visual Dermatology 2003:2(9);873.2)浅井俊弥:疥癬の痒み.Visual Dermatology 2017:16(11);1078-1079.3)日本皮膚科学会疥癬診療ガイドライン策定委員会:疥癬診療ガイドライン(第3版).日皮会誌 2015:125(11);2044.4)江川清文:介護人の疥癬-初期病変を見逃さない.西岡 清編,皮膚科診療のコツと落とし穴3疾患Ⅱ,中山書店,東京,2006:130.

訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】
訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年3月18日
2025年3月18日

訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~基礎知識【セミナーレポート前編】

2024年12月13日に実施したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「訪問看護の呼吸ケア~NPPVを中心に~」。呼吸ケアが必要な利用者さんを多く抱える訪問看護ステーション「楽らくサポートセンター レスピケアナース」の山田真理子さん、津田梓さんを講師にお迎えし、NPPVを中心とした在宅での呼吸療法の基礎知識、実践のポイントなどを教えていただきました。セミナーレポート前編では、呼吸療法の種類と特徴、利用者像などの基礎知識をまとめます。 ※90分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】山田 真理子さん「楽らくサポートセンター レスピケアナース」管理者/呼吸ケア指導士。内分泌内科と血液内科の混合病棟、呼吸器内科病棟で勤務した後、在宅酸素や在宅マスク式人工呼吸器等を扱う企業で訪問看護ステーションの管理者を経て、2015年に「楽らくサポートセンター レスピケアナース」を設立。津田 梓さん「楽らくサポートセンター レスピケアナース」訪問看護師。小児から高齢者まで、幅広い年代の利用者さんに人工呼吸器・在宅酸素などを用いたケアを提供。コーディネーションも担当する。 在宅で行う呼吸療法 在宅で行う呼吸療法には、HOT(在宅酸素療法)、TPPV(気管切開下陽圧換気)、主にマスクを使用するNPPV(非侵襲的陽圧換気)、ハイフローセラピー(HFNC)、CPAP(持続陽圧呼吸療法)などがあります。その中でも今回は、NPPVを中心にご紹介します。 NPPV(非侵襲的陽圧換気)とは NPPVは、マスクを介して非侵襲的に陽圧換気を行う人工呼吸療法です。拘束性胸部疾患(肺結核後遺症、脊椎後側弯症など)やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、神経筋疾患などの慢性呼吸不全の方に適用が検討されます。気管切開が不要で、食事や嚥下、会話の機能を保持できることが大きなメリットです。 <NPPVの特徴>・簡便で早期に導入可能・汎用性のある人工呼吸器が選択されるケースが多い(小児や神経難病では、気管切開とマスクの両方で使用可能な機器が選択されることが多い)・慢性呼吸不全の方には、従圧式の「NPPV専用機」が使われることが多い・CPAPやHFNC専用機は、介護保険が適用される。医療保険では週3日の制限がつく 人工呼吸器の基本 人工呼吸器は、圧を規定する「従圧式」と、量を規定する「従量式」に分かれます。マスクではほとんどのケースにおいて従圧式になります。気管切開をしている場合はどちらの可能性もありますが、従量式になるケースが多いです。 小児の在宅NPPV 小児の在宅NPPVでは、「CPAPモード」と「NHFモード」が多く使われます。 CPAPモードは、呼吸障害がある早産の新生児に対し、侵襲的換気の置き換えとして長らく推奨されている方法です。「負担の少ないマスクで対応したい」と導入されるケースが多く見られます。ただし、近年はまずNHFモードを実践し、うまくいかない場合にCPAPモードに切り替える例が多いです。また、在宅では睡眠時に間歇的に使用されることが多いでしょう。 <CPAPモードのメリット>・機能的残気量を維持することで肺が拡張し酸素化の改善に役立つ・呼気終末の肺容量が高まることで、呼気筋の負担が軽減、呼吸仕事量を減少させる・機械的な換気の必要性を軽減できる(挿管や侵襲的喚気をせずに過ごせる) マスクより装着しやすい鼻カニューラを介して高流量の混合ガス(酸素と空気)を送るNHFモードは、CPAPの置き換えとして推奨されています。当事業所に新規でこられる人工呼吸器が必要な小児の方は、ほとんどがNHFモードを使用されています。また、NHFモードは、移動や入浴時を除いて連続的に使用されるケースが多いです。 <NHFモードのメリット>・死腔量を軽減できる・ダイナミック気道陽圧で、呼吸仕事量を減少させる・鼻カニューラのためCPAPマスクより快適性が高い そのほかの在宅呼吸療法 人工呼吸器ではなく専用機を使用する「在宅ハイフローセラピー」や「CPAP」といった在宅呼吸療法もあります。 在宅ハイフローセラピー(HFNC)※ HFNCとは、専用の鼻カニューラを介して、加温・加湿した高流量の酸素や空気、または酸素と空気の混合ガスを投与する呼吸管理法の1つです。ただし、2025年時点で保険適用となるのはCOPDの方のみです。 <HFNC の特徴>・解剖学的死腔のウォッシュアウトができ、PaCO2を低下させる・飲食や会話ができ、快適性が高い・気道の粘液線毛クリアランスの維持が可能・PEEP効果と終末期肺容量の増加が期待できる・FiO2を安定して供給できる ※「ハイフローセラピー」(High Flow Therapy:HFT)とは診療報酬の算定要件として用いられる名称を指します。一方、「HFNC」については一般的に以下のように使い分けられています。・器具の名称:「高流量鼻カニューラ」(High Flow Nasal Cannula:HFNC)・治療法の名称:「高流量鼻カニューラ酸素療法」(High Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy:HFNC)現場では「HFNC」という略称が器具・治療法の両方に使われるため、文脈に応じて適切に使い分ける必要があります。 在宅CPAP(持続陽圧呼吸療法) 睡眠時無呼吸症候群または慢性心不全の方を対象にした在宅呼吸療法です。 C107-2 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料 上記は診療報酬の情報を抜粋したものですが、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料1にはASV(adaptive servo ventilation)療法 、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料2はCPAP療法が該当します。 >>関連記事CPAP療法とは?知っておきたい適応や禁忌、治療継続につながる対応 在宅マスク呼吸療法の利用者像 在宅マスク呼吸療法の利用者さんの主な特徴は以下の通りです。 高齢 呼吸器疾患で在宅マスク呼吸療法を利用する方の多くは高齢者。介護認定を受けている方、認知症を患っている方も多くいます。 日中のADLは自立している 在宅マスク呼吸療法は夜間のみ使用しており、日中のADLは自立している方もいます。ただし、見た目の介護度は低くても急性増悪や急変のリスクがあるため、早期の異常発見に努めることや予防的介入が重要です。※神経筋疾患を患っている場合は、在宅マスク呼吸療法の使用時間が長く、ADLも低下しています。 在宅医療の機器管理 在宅医療機器は、「利用者と家族」「医療機関」「機器業者」の3者で管理し、訪問看護は「利用者さんと家族による管理」を個別指導する役割を担います。必ずしも「在宅医療機器を使う=訪問看護が入る」わけではありませんが、在宅での呼吸ケアにおいて訪問看護が重要な役割を担っているのは確かです。 次回は、在宅での呼吸ケアの実践にあたって意識すべき点や、トラブルへの具体的な対処法について解説します。 >>後編はこちら訪問看護の呼吸ケア~マスク呼吸療法の看護実践~【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア【参考】〇厚生労働省:「医科診療報酬点数表に関する事項」. 2024

IAD(失禁関連皮膚炎)とは? 鑑別が必要な疾患も紹介【多数の症例写真で解説】
IAD(失禁関連皮膚炎)とは? 鑑別が必要な疾患も紹介【多数の症例写真で解説】
特集 会員限定
2025年3月11日
2025年3月11日

IAD(失禁関連皮膚炎)とは? 鑑別が必要な疾患も紹介【多数の症例写真で解説】

在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回はIAD(incontinence associated dermatitis:失禁関連皮膚炎)を取り上げます。 はじめに~普通の皮膚科医が思っていること IADとは何か IAD(アイエーディ)はincontinence associated dermatitisの略で、直訳すれば「失禁関連皮膚炎」となります。2007年、「便や尿が会陰部へ接触した際に生じる皮膚の炎症」として提唱されました1)。日本創傷・オストミー・失禁管理学会の定義2)によれば、IADは「尿または便(あるいは両方)が皮膚に接触することにより生じる皮膚炎」とされており、いわゆる狭義の湿疹・皮膚炎だけでなく、物理・化学的皮膚障害、皮膚障害性真菌感染症を含んでいます。 つまりIADは診断名ではなく、失禁患者における外陰部周辺の広義の皮膚障害を表す概念であって、失禁ケアの重要性、必要性を喚起するためにつくられたものと考えられます。 この連載の第2回で触れましたが、皮膚科の世界では「皮膚炎」は湿疹とほぼ同義語です。一方、真菌による炎症は「真菌感染症」であり、真菌による湿疹(=皮膚炎)とは呼びません。そのあたりが、皮膚科医にとっては「IADの定義がちょっと気持ち悪い」と感じるところになっています。 >>「第2回」についてはこちら湿疹皮膚炎とは? 種類や症状、改善方法が分かる【写真で解説】 IADの重要性 筆者が初めてこのIADという概念に接したときに、正直に申し上げれば「普通に診断すればよいのでは」と思いました。しかし病院、在宅、施設のすべての現場に皮膚科医が居合わせるわけではありません。看護・介護のケアによって予防でき、患者のQOL(quality of life:生活・生命の質)の向上を考えれば、おむつ回りの皮膚のトラブルをIADとして捉えることは十分に意味があると感じています。 私は一般の在宅診療のほか、数件の高齢者施設にも出向いて診療しています。2024年のデータですが、1月から3月までの間に95人の施設入居者の診療を行いました。主訴として一番多かったのは湿疹皮膚炎です。IADをあえて病名としてみると、IADを主訴とする例は6人、主訴ではなく副訴としてIADの状態にあったのは16人。合計すると22名になり、全体の4分の1近くにのぼることが分かりました(表1)。施設でもIADが大きな問題になっていることを感じます。 本稿では皮膚科医として、発生してしまったIADや鑑別すべき疾患などについて解説します。 表1 2024年1~3月における高齢者施設往診時のデータ   コラム IADと皮膚科医IADという概念は、皮膚科医の間に広く浸透しているものではないようです。詳しく調べたわけではありませんが、筆者の周囲、特に在宅や施設に関わったことがない医師や、若い皮膚科医の間での認知度が低いように感じました。さらに、IADの延長線上にはMASD(moisture associated skin damage:水分関連皮膚損傷)3)という概念がありますが、そちらに至ってはほとんどの皮膚科医が知らないように思います(筆者も、2024年の第33回日本創傷・オストミー・失禁管理学会学術集会に参加するまで知りませんでした)。 実際の皮膚の症状を見てみよう ここからはIADとされる状態、あるいはIADと鑑別が必要と思われる皮膚疾患について症例写真をもとに解説します4)。 IADに包括される疾患 (1)(尿・便による)接触皮膚炎刺激性接触皮膚炎で、おそらくこれが頻度としては一番多いでしょう。刺激性接触皮膚炎は皮膚のバリア機能と刺激物との戦いですから、浸軟してバリア機能が落ちている外陰部では容易に発症します(図1)。 図1 刺激性接触皮膚炎 尿・便の刺激や洗いすぎにより紅斑・腫脹・鱗屑がみられます。鱗屑に真菌が存在するかどうかは、視診だけではわからないので検査をおすすめします。 (2)真菌感染症カンジダによる場合と白癬による場合があると思われます(図2)。この連載の第3回で記したように、検査によって真菌を証明することが理想です。 >>「第3回」についてはこちら真菌症とは? フットケアにも活かせる知識【写真で解説】 図2 真菌感染症 (左)臀部の白癬です。本連載の第3回で述べたように、境界明瞭な紅斑・堤防状隆起・中心治癒傾向の3つの特徴を持っています。(右)カンジダ症です。膜様鱗屑を付着しています。視診だけで診断するのは難しいかもしれません。 (3)臀部肉芽種臀部中心に、肉芽腫様の結節が形成される疾患です(図3)。不潔や浸軟が原因とされています。 図3 臀部肉芽腫 肉芽腫様の結節(→)を認める。 (4)間擦疹(かんさつしん)間擦部(鼠径部、肛門周囲など皮膚が擦れて摩擦を受ける場所)に生じる皮膚の炎症です(図4)。 図4 鼠径部に発症した間接疹   * * * 上記(1)(3)(4)は真菌と関係なく発症しますが、それぞれに真菌感染も合併することがあるため注意を要します。 IADと鑑別する必要がある皮膚疾患 (1)単純疱疹と帯状疱疹真菌症と同じく病原体による感染症ですが、単純疱疹と帯状疱疹はIADには包括されていません。この両者は同じヘルペスウイルス科に属するウイルスにより発症し、個疹(一つひとつの皮疹の形)では区別できないため、皮疹の分布や症状などで診断します(図5)。診断が難しい場合、最近では鑑別するためのキットが販売されており、キットを用いた検査も行われています。 図5 単純疱疹と帯状疱疹 個疹(それぞれの皮疹)は頂点が少し陥凹した水疱が基本ですが、帯状疱疹は通常、単一の神経の支配領域に分布するため左右どちらかに限定されます。 (2)腫瘍性疾患図6は前医に湿疹と診断されて外用薬を長く使用されていた例ですが、実際には陰嚢に生じた乳房外パジェット病(アポクリン腺という汗をつくる組織から生じる皮膚がん)でした。湿疹であればIADの範疇に入りますが、腫瘍は尿・便失禁とは関係ないですね。ほかに発生する可能性がある腫瘍として、悪性のものでは基底細胞癌、有棘細胞癌、ボーエン病など、良性では脂漏性角化症や被殻血管腫などが挙げられます。腫瘍か否かを判別するのは意外に難しく、皮膚生検を要する場合もあります。 図6 乳房外パジェット病 基本的にはIADと区別すべきだが、失禁の影響で増悪する場合が多い皮膚疾患 (1)褥瘡褥瘡とIADはもちろん別物ですが、仙骨部から臀部にかけての褥瘡の好発部位はIADが発生する部位に一致し、浸軟や摩擦で皮膚が脆弱化しているため褥瘡もできやすくなっています。実際に診療の場で「これは褥瘡とすべきなのか、IADなのか」と迷う例もあります(図7)。 図7 褥瘡かIADか悩んだ例 「褥瘡ができました」と診察依頼があった例です。丸をつけた仙骨部には瘢痕が見られ、その部分は褥瘡であったように思われます。一方で矢印のびらんは、IADとすべきか、と考えます。 (2)老人性臀部角化性苔癬化皮膚臀裂部の上方両側に、肥厚してザラザラした局面をつくる状態です。「座りダコ」と考えてよいと思います。バリア機能が低下するため、湿疹や真菌症を起こしやすく、乾燥して亀裂を生じ、潰瘍化する場合もあります。保湿や外用薬による治療やケア、姿勢(座り方)の矯正といった介入が必要です(図8)。尿・便の影響を強く受けますが、それらと関係なく発症するためIADに包括はされません。 図8 老人性臀部角化性苔癬化皮膚 老人性臀部角化性苔癬化皮膚です。左右は別の例ですが、角化・苔癬化した皮膚は脆弱で、びらんや潰瘍化しやすくなります。 IADを見たらどうする? IADに遭遇した場合の治療指針として、「おむつ皮膚炎治療アルゴリズム」があります5)(図9)。この場合の「おむつ皮膚炎」はIADと読み替えてよいでしょう。 まずミディアム以下のステロイドを外用し、改善すればそれでOK、改善しない場合に皮膚科医の診察を要請し、必要に応じて真菌検査を行うというものです。結果的に3週間後に6割弱で改善以上という成果を得られていますので、すぐに皮膚科医が診察できない場合は参考にされるとよいでしょう(本当はいろいろな現場で皮膚科医が診察することができればよいのですが)。 図9 おむつ皮膚炎治療アルゴリズム 【おむつ皮膚炎】おむつを当てている部位における紅斑・びらん・浸軟などの皮膚症状常深祐一郎先生の許諾を得て転載 最後に IADについては看護領域で多くの参考となる著作があります。NsPaceの「在宅の褥瘡・スキンケアシリーズ」でも解説されています。今回はIADが生じるメカニズムや、評価のためのIAD-setなどには触れず、純粋に皮膚科医としての視点で述べてみました。みなさまの参考となりましたら幸いです。 >>予防的スキンケアに関する記事はこちら在宅の褥瘡・スキンケアシリーズスキンケアのポイントは?失禁関連皮膚炎(IAD)のアセスメントと予防 執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Gray M,Bliss DZ,Doughty DB,et al.:Incontinence-associated dermatitis:a consensus.J Wound Ostomy Continence Nurs 2007;34(1):45-54.2)日本創傷・オストミー・失禁管理学会編集:IADベストプラクティス.照林社,東京,2019:6.3)Young T:Back to basics: understanding moisture-associated skin damage.Wounds UK 2017;13(2):56-65.4)袋 秀平:IADとする前に―包括される疾患と鑑別が必要な疾患―.MB Derma 2021;316:37-44.5)常深祐一郎,福田亮子,出口亜紀子,他:高齢者のいわゆる「おむつ皮膚炎」に対する治療アルゴリズムの提案.看護研究 2015;48(2):180-188.

おたふくかぜの原因・症状・合併症は?ワクチンや男性不妊との関連も解説
おたふくかぜの原因・症状・合併症は?ワクチンや男性不妊との関連も解説
特集
2025年2月25日
2025年2月25日

おたふくかぜの原因・症状・合併症は?ワクチンや男性不妊との関連も解説

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は、主に子どもがかかる感染症とされていますが、大人がかかる場合もあることや合併症などについて理解しておくことが大切です。この記事では、おたふくかぜの原因・症状・対処方法や予防接種ついて解説します。訪問看護の利用者さんやご自身・ご家族の健康管理のためにも確認しておきましょう。 おたふくかぜについて おたふくかぜは正式名称を流行性耳下腺炎といい、片側または両側の唾液腺が腫れることが特徴のウイルス感染症です。原因や症状、感染経路、流行時期、合併症などについて具体的に見ていきましょう。 原因 おたふくかぜは、ムンプスウイルスによって引き起こされる感染症です。感染力は、麻疹(はしか)や水痘(水ぼうそう)ほどではないものの、人口が密集した地域で流行する傾向があります。 症状 ムンプスウイルスに感染後、2〜3週間の潜伏期を経て唾液腺腫脹(両側、あるいは片側の耳下腺)と圧痛、嚥下痛、発熱などが主な症状ですが、感染しても症状が現れない不顕性感染もみられます。症状のピークは発症から48時間以内で、通常は1〜2週間で軽快します。コクサッキーウイルスやパラインフルエンザウイルスなどによる耳下腺炎や反復性耳下腺炎などと症状が似ています。反復性耳下腺炎は耳下腺腫脹を繰り返し、軽度の痛みがあるものの発熱はないことがほとんどです。おたふくかぜは4・5歳の子どもに多く見られ、15歳頃までに9割超の子どもが感染するとされています。2歳未満での感染例はあまりなく、特に0歳での感染は極めてまれです。また、1歳前後の幼児の場合は耳下腺の腫れが見られないケースのほか、症状がほとんどない「不顕性感染」となる場合も少なくありません。成人や学童期、思春期・青年期以降の子どもが感染する場合、症状が顕著に現れる傾向があります。特に唾液腺以外の部位が侵されることが多く、合併症の頻度も高くなります。 感染経路 ムンプスウイルスの感染経路は、飛沫感染・接触感染で非常に強い感染力を持っているといわれています。唾液を介して感染し、上気道粘膜上皮や頚部リンパ節で増殖した後、唾液腺のほか、睾丸、すい臓、腎臓、髄膜などで増殖します。 流行時期 おたふくかぜは季節に関係なく発生しますが、一般的には冬から初春にかけて流行する傾向があります。感染の広がりが比較的遅く、流行が広がるまでには長期間かかります。約2年間の流行期とそれに続く3年間の流行閑期があります。 重症化リスク おたふくかぜが重症化すると、5日以上続く発熱、強い頭痛、強い腹痛、吐き気、睾丸の痛みなどが現れます。大人は免疫機能が子どもよりも優れている分、ウイルスを排除する働きの反動として症状が強く現れる傾向があります。 合併症 おたふくかぜの合併症は、無菌性髄膜炎や脳炎、すい臓炎、聴神経炎などです。思春期以降の男性がおたふくかぜにかかると、精巣炎(睾丸炎)が起きる可能性もあります。 おたふくかぜのワクチン接種 おたふくかぜのワクチンは、合計2回の接種が推奨されています。1回目は1歳になってからなるべく早く、2回目は小学校入学前の1年間で接種します。妊娠早期におたふくかぜにかかると流産のリスクが高まるとの見解があるため、妊娠前にワクチンを接種しておくことが大切です。 おたふくかぜの保育園・幼稚園での対応方法 おたふくかぜは、学校保健安全法により学校で予防すべき感染症の第二種に指定されており、感染拡大を防ぐために出席停止の規定が設けられています。耳下腺、顎下腺、または舌下線の腫脹が発症した後、5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止です。ただし、病状が軽く、感染の恐れがないと医師に認められた場合は出席できます。また、以下のような場合も、出席停止となります。 患者の同居家族に感染している可能性がある人物がいる場合、予防処置の施行やその他の事情により、医師が感染の恐れがないと認めるまで おたふくかぜが発生した地域から通学する者については、その発生状況により出席停止が必要と認めたとき 流行地を旅行した者については、出席停止が必要と認めたとき このように、おたふくかぜの出席停止の有無や期間は保育園・幼稚園の考え方で異なるため、規定を確認する必要があります。 おたふくかぜで男性不妊になるって本当? 思春期以降におたふくかぜにかかると、ムンプスウイルスが精巣に炎症を起こすことがあります。これをムンプス精巣炎といい、精子を作る機能が低下するとされています。ムンプス精巣炎になると、数ヵ月から1年後に精巣が萎縮し、これが両方の睾丸に見られる場合は無精子症になる可能性があります。ただし、両方の精巣が萎縮する事例は少なく、不妊のリスクはそれほど高くはありません。 * * * おたふくかぜは、片側または両側の唾液腺が腫れることが特徴のウイルス感染症です。大人がかかると重症化しやすいため、早期に医療機関を受診した上で経過を注視しなければなりません。今回、解説した内容をご自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】◯NIID 国立感染研究所「流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/529-mumps.html2025/2/18閲覧◯島根県感染症情報センター「流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)」https://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/topics/tp010417.htm2025/2/18閲覧◯千葉医師会「おたふくかぜ」(2015/11/2)https://www.chiba-city-med.or.jp/column/063.html2025/2/18閲覧

「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2025年2月18日
2025年2月18日

「敗血症」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回はパーキンソン病について、訪問看護に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 敗血症の基礎知識 敗血症とは「感染に対して制御することができない生体反応が起こるために、生命を脅かすさまざまな臓器の機能不全が起こる状態」です。65歳を超えると発生率が年々増加します。敗血症による死亡率は高く、敗血症に関連する臓器不全が1つ増えるごとに、死亡率は約15%増加します1)。 敗血症の症状と注意すべき身体所見 発熱があり、意識はややぼんやりとしていることが多いです。尿失禁や転倒、食欲不振は、高齢者の敗血症においてよくみられる症状です。 敗血症に関連する状態として菌血症があります。菌血症は、一時的に血液に細菌が入った状態(血液培養陽性)です。免疫機能が正常ならば、細菌は排除されます。 一方、敗血症は、菌血症が進行して全身に炎症が広がり、臓器障害を引き起こす状態です。血液培養は必ずしも陽性となりません。菌血症では悪寒戦慄(shaking chills)を伴うことがあります。悪寒戦慄とは、強い寒気を感じ、毛布をかぶっても歯がガチガチと震える状態です。菌血症の相対リスクは12倍に上昇します2)。高齢者の悪寒戦慄では、胆管炎や尿路感染症を第一に考えます3)。 敗血症の最も初期の症状は、頻呼吸(呼吸性アルカローシス)です。呼吸数を確認しましょう。組織環流障害を示唆する症状と身体所見には、意識変容(中枢神経)、尿量減少(腎臓)、網状皮斑や冷感(皮膚)があります4)。 敗血症では、肺炎や腹腔内感染、尿路感染、皮膚軟部組織感染の頻度が高いので、表1の症状に注意して病歴を聴取し、身体所見を確認しましょう。 表1 注意が必要な症状と身体所見 症状身体所見肺炎咳、痰ラ音(crackles)腹腔内感染(胆道感染症、腸閉塞、虫垂炎)腹痛、嘔吐、下痢腹部の圧痛、肝叩打痛、腹膜刺激徴候尿路感染頻尿、排尿時痛、残尿感、腰痛下腹部に圧痛、肋骨脊柱角に叩打痛皮膚感染(褥瘡)発赤、疼痛、膿皮膚びらん、壊死 「昨日元気で今日ショック 皮疹があれば儲けもの」、これは感染症診療の第一人者である青木眞先生の言葉です。元気だった人が、急にショック状態となることがあります。この場合、皮疹が認められれば次の疾患を疑います。 ● トキシックショック症候群(toxic shock syndrome:TSS)● 髄膜炎菌感染症● リケッチア感染症(ツツガムシ病、日本紅斑熱)● 脾臓がない人の肺炎球菌/インフルエンザ桿菌/髄膜炎菌/Capnocytophaga感染症● 肝臓が悪い人のVibrio vulnificus/Aeromonas hydrophila感染症● 黄色ブドウ球菌などによる急性感染性心内膜炎● 劇症型Clostridium perfringens感染症 診断 敗血症の診断基準として、quick SOFA(quick sepsis-related organ failure assessment:qSOFA、クイックソファもしくはキューソファと呼ぶ)を確認します。 qSOFA (1)呼吸数≧22回/分(2)精神状態の変化(3)収縮期血圧≦100mmHg2つ以上を満たす場合に敗血症を疑う(予想死亡率10%以上) 呼吸数は、橈骨動脈を触れて、脈拍を測定するふりをしながら、患者さんに気がつかれないように30秒間計測し、その結果を2倍にして求めます。時計がないときは、患者さんの呼吸をまねて、自分の呼吸より速いか確かめます。 最新トピックス2021年の敗血症ガイドラインでは、敗血症または敗血症性ショックの評価にqSOFAスコアを使用しないことを推奨しています。National Early Warning Score(NEWS)、全身性炎症反応症候群(SIRS)、Modified Early Warning Score(MEWS)などの他のスコアリングシステムは、院内死亡やICU入院の予測においてqSOFAよりも優れています5)。 研究により、qSOFAは特異度は高いのですが、感度が低いことが示されています。すなわち、qSOFA陽性であれば敗血症が疑われますが、陰性であっても必ずしも敗血症ではないとはいえないことに注意が必要です。 訪問時における病歴聴取/身体所見のポイント 意識レベル、発熱、悪寒戦慄、血圧、呼吸数を確認します。 既往歴(例えば、糖尿病や血液透析、がん)や薬剤歴(例えば、ステロイドや抗がん剤)を確認し、免疫不全状態がどうかを判断します。 症状や身体所見から、どこが感染巣なのかを推測します。 治療 敗血症が疑われる場合、迅速に治療を行わなければ患者の予後が悪くなります。病院での精査治療が必要になるので、訪問看護師としては敗血症の可能性を探り、主治医とすぐに連絡をとります。可能ならば末梢ルートを確保し、生理食塩液の点滴をしながら、早急に病院に救急搬送することが大切です。病院で行われる治療(敗血症の1時間バンドル)について要点を解説します。 敗血症の1時間バンドル 乳酸値が2mmol/L以上に上昇している場合は、改善を確認するために2~4時間以内に再検査します。 抗菌薬治療を開始する前に、2セットの血液培養を採取します。 広域スペクトルの抗菌薬を1時間以内に投与します。最も一般的な病原体は、グラム陰性菌(大腸菌、クレブシエラ属)、またはグラム陽性菌(黄色ブドウ球菌、肺炎球菌)です。  低血圧、または乳酸値>4mmol/Lなら生理食塩液または乳酸リンゲル液を30mL/kgで投与します3)。 十分な輸液にもかかわらず、平均動脈圧*を65mmHg以上に維持できなければ、血管収縮薬(ノルアドレナリン)を使用します。 *平均動脈圧=(収縮期血圧―拡張期血圧)÷3+拡張期血圧 ●菌血症を疑う症状は悪寒戦慄です。●qSOFAで(1)呼吸数≧22回/分、(2)精神状態の変化、(3)収縮期血圧≦100mmHgのうち、2つ以上を満たす場合に、敗血症を疑います。●敗血症の原因となる感染症で多いのは、肺炎、腹腔内感染、尿路感染、皮膚軟部組織感染です。 執筆:山中 克郎福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 特任教授、諏訪中央病院 総合診療科 非常勤医師、大同病院 内科顧問1985年 名古屋大学医学部卒業名古屋掖済会病院、名古屋大学病院 免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、藤田保健衛生大学 救急総合内科 教授/救命救急センター 副センター長、諏訪中央病院 総合診療科 院長補佐、福島県立医科大学会津医療センター 総合内科学講座 教授を経て現職。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Chick D,ed:Sepsis.MKSAP 19 Pulmonary and Critical Care Medicine, American College of Physicians,2022:77-80.2)Tokuda Y,Miyasato H,Stein GH,et al:The degree of chills for risk of bacteremia in acute febrile illness.Am J Med 2005;118(12):1417.3)坂本壮:救急外来ただいま診断中!第2版.中外医学社,東京,2024:136-172.4)塩尻俊明監修,杉田陽一郎著:研修医のための内科診療ことはじめ.羊土社,東京,2022:21-24.5)Evans L,Rhodes A,Alhazzani W,et al:The Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021.Intensive Care Med 2021;47(11):1181-1247.

訪問看護師がぎっくり腰になったときどうする?対処法や予防、現場での工夫
訪問看護師がぎっくり腰になったときどうする?対処法や予防、現場での工夫
特集
2025年2月18日
2025年2月18日

訪問看護師がぎっくり腰になったときどうする?対処法や予防、現場での工夫

ぎっくり腰は突然襲ってくる急性腰痛で、日常生活に大きな影響を与えます。特に訪問看護師のように身体的負担の多い職場では、そのリスクが常に付きまといます。本記事では、ぎっくり腰の症状と対処法、訪問看護師が直面する課題、さらに予防策としての「体作り」や「ノーリフティングケア」の重要性について解説します。 ぎっくり腰の症状 ぎっくり腰は医学的には「急性腰痛症」と呼ばれ、急激に発症する腰痛のことを指します。突然の激しい痛みが特徴で、ときには動けなくなるほどの痛みが生じることも。痛みが起きる範囲は主に腰から臀部(お尻)で、場合によっては脚にまで痛みが広がる場合もあります。 ぎっくり腰が起きる主なきっかけは、物を持ち上げようとする、腰をねじるなどの動作ですが、朝起きた直後や特に何もしていないときに発症することも少なくありません。 痛みの原因は多岐にわたりますが、以下の2つが主な原因であることが多いでしょう。 腰の関節や椎間板に過剰な力が加わったことによる損傷(捻挫や椎間板損傷) 腰を支える筋肉や靱帯などの軟部組織の損傷 ぎっくり腰になったときの対処法 ぎっくり腰になったときは、次のように対処しましょう。 安静にする ぎっくり腰になった際には、無理に動かず、痛みを軽減できる姿勢を見つけることが重要です。膝を少し曲げて、仰向けや横に寝る体勢、クッションや毛布を使って腰を支える姿勢で安静に過ごしましょう。 冷やす 発症直後は患部が炎症を起こしている可能性があるため、冷却が効果的です。冷却パックや冷湿布を使用して冷やします。冷却パックの場合、直接肌に触れないようタオルなどで包むことが大切です。また、冷やしすぎは血流障害を引き起こすリスクがあるため、十分に冷やしたらやめましょう。 医師の診察を受ける ぎっくり腰が続いたり、特定の症状がみられたりする場合には、専門医に相談することが重要です。以下のようなケースでは、早めの受診が推奨されます。 何度もぎっくり腰を繰り返す、またはなかなか治らない再発を繰り返す場合は、姿勢や筋力の問題、または別の疾患が原因となっている可能性があります。安静にしても腰痛が回復せず、むしろ悪化している場合、圧迫骨折や炎症性疾患など、通常のぎっくり腰ではない可能性があるでしょう。 下肢に痛みやしびれがある腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などにより、神経が圧迫されている可能性があります。特徴として、腰部脊柱管狭窄症では歩いていると足に痛みやしびれが生じて歩けなくなる間歇性跛行※(かんけつせいはこう)がみられます。どちらも症状が悪化し、下肢痛による歩行障害が進行する、日常に支障が出る、排便・排尿障害が出現する、といった場合は手術が検討されます。 ※間歇性跛行とは、歩行などで下肢に負荷をかけると下肢の疼痛・しびれ・冷えを感じ、一時休息することにより症状が軽減し再び運動が可能となること。 発熱、嘔吐、血尿、排尿時痛などの症状がある感染症や内臓疾患などが関連している可能性があります。例えば、解離性大動脈瘤などの血管の病気、尿管結石などの泌尿器の病気、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科の病気、胆嚢炎や十二指腸潰瘍などの消化器の病気などが考えられます。 訪問看護師の仕事はぎっくり腰と隣り合わせ 訪問看護では、利用者の住環境や希望により、家具や設備の配置の変更が難しい場合もあります。このため、看護師が無理な体勢で作業をすることになり、ぎっくり腰のリスクが高まります。特にトイレへの移乗や入浴介助など身体的負担の大きい場面では、看護師同士でその状況について共有し、以下のような視点から対応を検討しましょう。 倫理的観点……利用者の尊厳や希望を尊重する医療的観点……安全性と効率を兼ね備えた方法を選択する 看護師が、責任感や共感などによって無理をして体を壊してしまうことがないよう、チームで意見を出し合い、多様な視点を取り入れて適切な対応を決める必要があります。訪問看護の現場では、看護師自身の健康を守ることも、質の高いケアを提供するために欠かせない要素です。 訪問看護でぎっくり腰を予防するためのポイント 訪問看護でぎっくり腰を予防するために、下記の2点を押さえましょう。 ぎっくり腰が起こりにくい体作りをする ノーリフティングケアを行う それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。 ぎっくり腰が起こりにくい体作りをする ぎっくり腰の決定的な予防策はありませんが、日々の生活習慣を改善することでリスクを軽減できます。腰痛の多くは、運動不足や長時間のデスクワークといった生活の中で負担が積み重なり、腰や背中、肩の筋肉が硬直することで発症しやすくなります。 正しい姿勢を意識し、肩や背中の緊張をほぐすストレッチを取り入れることが大切です。また、ウォーキングをはじめとした適度な運動を習慣化し、筋肉や関節の柔軟性を保ちましょう。ストレッチングを中心としたエクササイズにより、筋肉の柔軟性を高めるとともに、血流が良い状態へ導くことができます。中央労働災害防止協会「運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」では、腰痛予防エクササイズが紹介されています。「運送業務で働く人」以外にも役立つ内容のため、チェックしてみましょう。 >>関連記事看護師のボディメカニクスについては、こちらも参考にしてください。訪問看護師のためのリハビリ知識 実践ノウハウ編【セミナーレポート後編】 ノーリフティングケアを行う ノーリフティングケアとは、介護者が利用者を「抱えたり持ち上げたりしないケア」を意味し、介護用リフトやボードなどの福祉用具を活用して移動や移乗を行うケア方法です。介護者の腰痛予防と身体的負担を軽減し、利用者の安全性と快適さを向上させることを目的としています。単に福祉用具を使用するだけでなく、利用者の自立支援という目的を損なわず、双方にとって「安全」「安心」「安楽(負担軽減)」を実現することが求められます。 ノーリフティングケアでは、「押す」「引く」「持ち上げる」「ねじる」「運ぶ」といった人力のみで行う介助を禁止しています。これに加えて、摩擦や抵抗を軽減する工夫が重要とされており、福祉用具の一例としてスライディングシートやボードを利用した移乗方法が推奨されています。 ベッド上での上方移動にはスライディングシートを、車椅子への移乗にはスライディングボードを使用することで、介助に伴う摩擦や筋緊張を最小限に抑えることが可能です。 介護用リフトの場合は、人の腕よりも広い面積で身体を支えるため安定感があり、筋緊張を緩和させ、リフト活用そのものがリハビリにもなります。また身体の緊張が和らぐことで拘縮予防も期待できます。皮膚が脆い高齢者の場合、力任せのケアでは、介護者がどれだけ注意していても、強い力によって痣ができたり、表皮剥離を引き起こしたりするリスクも。ノーリフティングケアは、こうした事故の防止にもつながります。 資源が限られる現場では福祉用具を使用できない場合もありますが、できるだけ不自然な姿勢を避け、腰痛のリスクを減らす工夫をしましょう。特に、長時間の立ちっぱなしや座りっぱなし、前屈や後屈ねん転などの姿勢は、腰痛の原因となりやすいため注意が必要です。 >>関連記事ノーリフティングケアについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。知っておきたいノーリフティングケア 看護師の腰痛予防や利用者の拘縮緩和も * * * 看護師が安全かつ快適に働ける環境を整えることで、利用者と自身の双方にとってより良いケアが実現します。ぎっくり腰は適切な対応と予防でそのリスクを最小限に抑えられるため、ぜひ今回紹介した対策を日々の業務に取り入れてみてください。 編集・執筆:加藤 良大監修:川上 洋平(かわかみ ようへい)医師・医学博士・整形外科専門医神戸大学医学部卒業。米国ピッツバーグ大学留学、膝スポーツ疾患や再生医療を学び、神戸大学病院、新須磨病院勤務を経て、患者さんにやさしく分かりやすい医療を提供することを目的に、かわかみ整形外科クリニックを開業。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医。専門は膝関節外科、スポーツ障害、再生医療。かわかみ整形外科クリニック(https://kawakamiseikei.jp/)。 【参考】〇日本整形外科学会「ぎっくり腰」https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/acute_low_back.html2025/2/12閲覧〇厚生労働省「医療保健業の労働災害防止(看護従事者の腰痛予防対策)(看護従事者の腰痛予防対策)」https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000564054.pdf2025/2/12閲覧〇厚生労働省「運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000041115_3.pdf2025/2/12閲覧

【2月4日up】足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】
【2月4日up】足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】
特集 会員限定
2025年2月4日
2025年2月4日

足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】

2024年10月25日に開催したNsPace(ナースペース)オンラインセミナー「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」。在宅でのフットケアにも尽力している倉敷市立市民病院 形成外科医長 小山晃子先生に、訪問看護で役立つ足病変の知識やケアのノウハウを解説いただきました。セミナーレポート後編では、具体的なフットケアの方法を紹介します。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)がとくに注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 >>前編はこちら足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 圧迫による鶏眼や胼胝を防ぐフットケア 鶏眼(魚の目)や胼胝(タコ)は、潰瘍につながる恐れがあるため、フットケアでの予防が大切です。鶏眼や胼胝は、皮膚に角質が「くさび」のように突き刺さってできており、踏み続けると皮膚が破れる可能性があります。なお、鶏眼や胼胝にできた黒い点は、赤血球の色によるもの。すでに出血しているので、早急な対応が必要です。 具体的には、専門外来に相談し、適切なフットウェア・履物を選びましょう。着用して実際に歩き、鶏眼や胼胝がある箇所に圧がかかっていないことを確認してください。 足病変がある利用者さんの中には神経障害がある方も多く、潰瘍に気づかないケースもあります。ぜひみなさんの目と手で、圧迫もケアしてください。 【ケアのための知識】爪の構造 爪切りを含むフットケアをするにあたっては、爪の構造理解や名称を押さえておくことも大切です。 爪母(そうぼ) 爪をつくる「工場」のような組織で、断面図で見ると爪の根っこにあります。爪母でつくられた爪が、「爪床」と呼ばれるベルトコンベアのような皮下組織によって前に送り出され、次に説明する「爪甲」ができあがります。つまり、根本に近い部分は最近できた爪で、爪先の爪は1〜1年半前に生まれた爪です。 爪甲(そうこう) 爪の甲。爪周辺の皮膚の中にも埋まっており、ケアする際は「見えない部分にも爪甲がある」ことをイメージする必要があります。 爪郭(そうかく) 爪の縁の皮膚。両横を「側爪郭(そくそうかく)」、根本を「後爪郭(こうそうかく)」といいます。治療で使われる言葉なので、知っておいてください。 【ケアのための知識】爪の役割と変形の原因 爪は歩行を支える役割を担っています。歩く際に地面から受ける圧力を爪甲が受け止めることで、正常に歩行できるのです。 しかし、「歩かなくなる(爪に圧がかからなくなる)」と、爪甲は次第に縦にも横にも湾曲。あまり歩けなくなった方の爪が曲がるのはこのためです。 また、爪先を踏みしめて歩けていない場合も、爪に力が加わらず、同じように湾曲します。その場合、足の母趾裏にタコができるのが特徴です(左下写真参照)。 このように爪が湾曲し、「巻き爪」「陥入爪」になってしまうと、爪が非常に切りにくくなります。指先を踏んで歩く、もしくは同様の圧がかかるような運動を行うなどして、日頃から予防に努めましょう。 ただし、湾曲の程度が深刻な場合(右下図参照)は圧をかけると爪がホチキスの針を畳むように食い込んでしまうので、可能な範囲で爪切りをしつつ、病院に相談してください。そのほか、 外反母趾がある 立ち上がることができない 痛みや傷がある といった場合も、病院の受診が必要になります。 正しい爪の切り方 爪を切る際は、上の写真の姿勢で行ってください。使用する爪切りは、力が伝わりやすいバネつきのもの、爪をしっかりとキャッチする「のこぎり刃」のものがおすすめです。 爪を切る際は、あらかじめ目安となる線を引き、少しずつ小分けにして切り進め、線のところまで切りましょう。上の写真の場合、20回ほど刃を当てて切るイメージです。 湾曲した爪も、ご紹介した爪切りで少しずつ切ると、写真のように整えられます。また、湾曲に爪切りを沿わせるようにすると、痛みを抑えられます。 在宅における取り組み 在宅でのフットケアに長く取り組む中で、すべてのケースで「足病の完全な解消」を目指すのは難しく、「現状維持」を選ばざるを得ない利用者さんもいらっしゃると感じています。ただ、治療の目標に関係なく、ケアを続けることは必要です。 今後は、すべての方に継続的にケアを提供できる体制づくり、例えば「病院と在宅・施設との連携強化」が重要になると考えています。その一歩として、本セミナーでお伝えした内容が、みなさんの日頃の看護に少しでも役に立ち、「利用者さんの味方」として良質なケアを実践するヒントになれば幸いです。 * * * 足病ケアの質を向上するためには、病院や診療所と在宅医療を提供する方々がしっかりと連携し、チーム医療を実現することが欠かせないと感じています。訪問看護師さんの中には、今フットケアについて悩んでいる方も多いでしょう。そんなときは、ぜひ病院に相談してください。近年、スマートフォンやタブレットを利用することで、時間や場所に依存せず情報を共有できるようになりました。特に「見方」を共有する上で、画像の共有は大変重要です。在宅の患者さんと医師との間をつなぐ訪問看護師さんの、強力な「味方」を活用くださいね。 これからの時代、足病の利用者さんを助けるには、訪問看護師さんの存在が絶対に必要です。よりよい未来に向けて、みなさんと連携していければと思います。 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア

アレルギー性鼻炎の種類&原因|訪問看護の場での対応方法・予防法
アレルギー性鼻炎の種類&原因|訪問看護の場での対応方法・予防法
特集
2025年2月4日
2025年2月4日

アレルギー性鼻炎の種類&原因|訪問看護の場での対応方法・予防法

くしゃみ、鼻水、鼻詰まりといった症状により生活の質が低下するアレルギー性鼻炎は、通年性や季節性などが存在し、原因には住環境や食生活の変化、大気汚染などがあります。 訪問看護では、利用者さんの生活環境や習慣を踏まえた柔軟な対応が求められます。この記事では、アレルギー性鼻炎の種類や原因、対処法からケア方法まで解説します。本記事で解説する内容を、ご自身の健康管理や、利用者さんとそのご家族のアセスメントに役立ててください。 アレルギー性鼻炎の症状 アレルギー性鼻炎では、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりといった症状が見られます。 くしゃみ回数が多く連続して起こりやすいことが特徴です。 鼻水風邪のときのように粘り気はなく、無色透明でサラサラとしている傾向にあります。 鼻詰まり鼻粘膜の腫れによって起こります。 こうした症状が長引くと、 頻繁に鼻をかむことで粘膜が傷ついて鼻出血を起こす 集中力が低下する 睡眠不足になる イライラする といった症状も現れ、生活の質が著しく低下することもあるでしょう。 また、通常は鼻で呼吸をすると外気が鼻の中で適度に加湿され、体内に取り込まれます。しかし、鼻詰まりによって口呼吸になると、乾燥した空気がそのまま体内に入り、感染リスクも高まります。 アレルギー性鼻炎の種類 アレルギー性鼻炎は、アレルゲン(抗原:アレルギーの原因物質)が鼻粘膜から侵入しマスト細胞上のIgE抗体に結合することによって症状が引き起こされる抗原抗体反応(I型アレルギー)の一種です。これには、大きく分けて2種類あります。 ひとつは、ダニやホコリといったアレルゲンが原因となり、1年を通して症状が現れる「通年性アレルギー性鼻炎」です。もうひとつは、スギやヒノキなどの花粉が原因となり、花粉の飛散する時期に限定して症状が現れる「季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)」です。いずれのタイプでも、くしゃみ、透明で水っぽい鼻水、鼻詰まりといった症状が現れます。 なお、寒暖差によって引き起こされる「血管運動性鼻炎」と呼ばれるタイプもありますが、これは非アレルギー性の鼻炎です。 アレルギー性鼻炎の環境要因 アレルギー性鼻炎を発症しやすい環境要因を見ていきましょう。 住環境 現代の住宅は気密性が高いため、換気が不十分な状態が続くと、ダニやハウスダストといったアレルゲンが室内に溜まりやすくなります。さらに、高気密・高断熱住宅では梅雨時に室内の湿度が上がりやすく、アレルゲンとなるカビの発生を引き起こす要因に。そのため十分に換気をする、除湿機を使用するなど、室内の風通しをよくして適切な湿度を維持することが大切です。湿度が60%を超えると、カビやダニが発生しやすくなり、アレルギー性鼻炎をはじめとしたアレルギー疾患の原因となりますので、湿度の目安は60%以下とします。 また、現代社会では、単身世帯や共働き世帯が増え、掃除をする時間が限られている家庭も多くなっています。特に人が頻繁に行き来する廊下や洗面所などでは、目に見えないハウスダストが蓄積します。これらの場所を定期的に掃除し、アレルゲンを減らすことが重要です。また、観葉植物の葉や照明器具のカバー、天井などもハウスダストが溜まりやすいためこまめにチェックするようにしましょう。 食生活の変化 加工食品や添加物を多く含む現代の食生活が免疫バランスを崩し、アレルギー反応を引き起こしやすい体質を作るとされています。 排気ガス・PM2.5など 排気ガスやPM2.5などの大気汚染物質も、アレルギー性鼻炎を悪化させる要因です。特に都市部では、自動車の排気ガスや微細な粒子状物質が鼻の粘膜に炎症を引き起こし、症状を増悪させることがあります。 アレルギー性鼻炎による鼻詰まりの対処法 自宅では、生理食塩水や市販の鼻腔洗浄キットを使った鼻腔洗浄が有効で、アレルゲンの除去や粘膜の清潔を保つことができます。また、加湿器の使用や濡れタオルを部屋に干すことで部屋の湿度を保ち、鼻粘膜の乾燥を防ぐことも大切です。ただし、加湿器の水槽やフィルター、濡れタオルはカビの発生源となる可能性が高いため、加湿器は定期的に清掃し、部屋に干す濡れタオルも清潔なものにこまめに交換するなど、カビを防ぐための対策を欠かさずに行いましょう。 住環境の改善や生活習慣の見直しも、症状の軽減に大きな役割を果たします。しかし、現実には住環境を理想的に整えることが難しいケースも多いため、「できる限り改善に努める」という柔軟な姿勢が重要です。たとえば、部屋の掃除や換気を定期的に行うだけでも、ハウスダストやダニなどのアレルゲンを減らすことができます。また、カーテンや布団など、アレルゲンが溜まりやすい箇所の洗濯頻度を増やすよう伝えるのも良いでしょう。 そのほか、外出時にマスクを着用して花粉やホコリの吸入を防止したり、帰宅後に衣服をすぐに着替えてシャワーを浴びることでアレルゲンの付着を最小限に抑えたりなど、利用者さんの状況や状態に応じて対応策を検討してください。 アレルギー性鼻炎の治療法 症状がひどく改善しない場合は、医療機関での治療が必要です。アレルギー性鼻炎の治療法には、薬物療法とアレルゲン免疫療法、手術療法があります。 薬物療法抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬、鼻噴霧用ステロイド薬や経口ステロイド薬、点鼻用血管収縮薬などを処方します。 アレルゲン免疫療法アレルゲンを少量から徐々に増量して体内に取り込むことで、アレルゲンに対する体の過剰な反応を抑える治療法です。この治療法は、数年以上の期間が必要で、根気強く続けることが求められますが、薬物療法の副作用で治療の継続が困難だったり、薬物療法だけでは症状が十分に改善しなかったりする場合に選択されます。 手術療法鼻の粘膜をレーザーで凝固しアレルギー反応が鼻粘膜でおきにくくする下鼻甲介粘膜焼灼術や鼻腔の形を整えて鼻詰まりを改善する粘膜下下鼻甲介骨切除術、鼻漏改善やくしゃみ軽減のための後鼻神経切断術などがあります。 日常での鼻詰まり解消法 日常生活での鼻詰まり解消には、簡単に取り入れられる方法がいくつかあります。入浴することで体が温まり、血行が促進されるため、鼻詰まりの改善が期待できます。お湯から立ち上る蒸気が鼻の奥まで届き、鼻粘膜を潤してくれる効果もあります。また、蒸しタオルを鼻に当てる方法もおすすめです。タオルをお湯で濡らして絞り、鼻周辺に軽く当てると血流が良くなり、鼻詰まりを和らげる効果が期待できます。 子どもの鼻詰まりは、自分で鼻を上手にかむことができない場合、症状が悪化しやすいです。鼻水吸引器を使って鼻水を吸引することで、鼻詰まりを軽減させることができます。吸引器は電動タイプや手動タイプなどさまざまな種類があります。 快適な睡眠の工夫 上半身を高くして寝ることで、重力の影響で鼻の通りが良くなり、鼻詰まりが軽減されます。枕を少し高くしたり、リクライニングできるベッドを活用したりしましょう。 また、上述したように乾燥による鼻粘膜の刺激を防ぐためには、部屋の湿度を保つことが大切です。さらに、マスクをつけると、鼻周辺の湿度が保たれ、鼻の乾燥を防ぐと同時に外気の冷たさを和らげることにもつながります。 * * * アレルギー性鼻炎は、症状の辛さが日常生活に大きな影響を及ぼしますが、適切な治療や住環境の改善などによって、その負担を軽減することが可能です。訪問看護では、利用者さんの生活環境に合わせた提案やケアが重要です。今回紹介した対処法や予防策を活用し、アレルギー性鼻炎の悩み解消をサポートしましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:瀬尾 達(せお わたる)医療法人瀬尾記念会瀬尾クリニック理事長。耳鼻咽喉科専門医。クリニックでの診療の他、京都大学医学部講師や大阪歯科大学講師を兼任。祖父から代々の耳鼻科医の家系。兄は、聖マリアンナ医科大学耳鼻科教授。テレビやマスコミ出演多数。 【参考】〇東京都福祉保健局.「健康・快適居住環境の指針― 健康を支える快適な住まいを目指して ―」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/web_zenbun12025/1/30閲覧〇東京都福祉保健局「健康・快適居住環境の指針」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/web_arerugen_taisaku_kenkai_sisin2025/1/30閲覧〇日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会「アレルギー性鼻炎ガイド2021年版」http://www.jiaio.umin.jp/common/pdf/guide_allergy2021.pdf2025/1/30閲覧

足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】
足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】
特集 会員限定
2025年1月28日
2025年1月28日

足のミカタ 重症化を防ぐフットケア アセスメント編【セミナーレポート前編】

2024年10月25日、NsPace(ナースペース)オンラインセミナー「足のミカタ~重症化を防ぐフットケア~」を開催しました。講師にお迎えしたのは、在宅でのフットケアにも尽力されている小山晃子先生。訪問看護師が知っておきたい足病変とそのアセスメント、ケアの知識を、たくさんの症例とともに教えていただきました。セミナーレポートの前編では、足病変のアセスメントに必要な知識をまとめます。 ※約80分間のセミナーから、NsPace(ナースペース)が特に注目してほしいポイントをピックアップしてお伝えします。 【講師】小山 晃子先生倉敷市立市民病院 形成外科 医長平成16年に高知大学を卒業し、倉敷市立児島市民病院にて臨床初期研修を修了。平成18年から川崎医科大学附属病院 形成外科・美容外科にて、褥瘡・創傷治癒を学ぶ。平成24年より現職。入院・外来・在宅で医療を提供しながら、医療者や介護者、市民を対象としたセミナーも行い、褥瘡・フットケアの「ミカタ」を増やすべく活動している。 訪問看護師さんに伝えたい足の「ミカタ」 本セミナーでは、フットケアをするにあたり「何を見て、どう考えて、どう行動したらよいか」、つまり足の「ミカタ(見方)」をお伝えします。あえてカタカナ表記にしているのは、「味方」の意味も込めているからです。みなさんには「利用者さんの味方になる」という姿勢でケアをしてほしいと考えています。 また、多職種との連携において重要なのは、言葉や考え方の統一。そして、利用者さんを中心に据えた共通の未来像を描くことです。在宅と病院の連携においても、同じ「ミカタ」で物事を捉え、同じ言葉で情報を伝え合うことで、共に利用者さんを支えてもらえたらと思います。 足病の定義と捉え方のポイント 最初に、「足病のミカタ」をご紹介しましょう。「重症化予防のための足病診療ガイドライン」では、足病を以下の7つに分けて定義しています。 糖尿病性足病変 → 血流・感染・圧迫 末梢動脈疾患(PAD) → 血流 慢性静脈不全症 → 血流・感染 慢性腎不全に伴う足病変 → 血流・感染 下肢リンパ浮腫 → 血流・感染 膠原病による足病変 → 血流 神経性疾患による足病変 → 圧迫 一見難しく感じるかもしれませんが、矢印右側の「血流」「感染」「圧迫」という3つの切り口で考えると、それぞれの問題や必要な対応を捉えやすくなるはず。私はこの3つの切り口を、「足病の3つのミカタ」と呼んでいます。 足を洗う前に必ず確認すべき「血流」 「足病の3つのミカタ」のうち、特に訪問看護師の方々に注目してほしいのが「血流」です。 ここでひとつ質問があります。みなさんはフットケアにあたり、利用者さんの足を洗いますか? 洗いませんか? その回答をふまえて、以下のケースをご覧ください。 [ケース1]糖尿病を患い、神経障害があるために足の状態が悪いことに気づいていない利用者さん。足を洗うと、皮膚が破れていた箇所に新しい皮膚が形成され、6週間後には傷が治りました。創傷処置もしましたが、足を清潔に保つことで治癒が促進されています。 [ケース2]糖尿病で足の一部が黒くなっている利用者さん。足を洗ったところ、感染が一気に進み、足の広範囲が壊死してしまいました。 ケース2で状態が悪化した理由は、「血流障害があり、傷を伴う足」だったためです。こうした状態の足を漫然と洗ってはいけません。 特に糖尿病性の足潰瘍は、血流障害の有無で治療方針が大きく変わります。血流障害がある冷たい足を洗浄し、垢やはがれかけた皮膚を除去する、つまり一種のデブリードマンをすると、状態が急速に悪化することがあるのです。 そのため、「洗うと悪くなる足」が存在することを念頭におき、足を洗うかどうか判断をしてください。よかれと思って洗った結果、利用者さんの足が壊死したら、利用者さんが大変な苦痛を強いられるだけでなく、ケアを提供するみなさんも心に大きなダメージを負ってしまうはず。後悔のないよう、覚えておいてほしいポイントです。 血流のアセスメント 末梢動脈疾患や下肢閉塞性動脈硬化症などにおける血流の状態を評価するスケールに、「Fontain分類」「Rutherford分類」があります。いずれも数字が大きいほど血流が悪いという評価です。間欠性跛行(歩いていると足が重く、もしくは痛くなって止まってしまい、少し休むとまた歩けるようになる状態。)の程度から動脈の詰まりを判断します。 ただし、歩いてもらわなければ評価できないため、あまり歩かない方の場合は間欠性跛行の進行に気づけません。無症状からいきなり足の痛みを訴えたり、壊疽が始まったりして、慌てて病院に駆け込む事態になりかねません。 在宅で実践してほしい「CRT検査」 そのほかにも血行の検査は数多くありますが、おすすめは「CRT(キャピラリィ・リフィリング・タイム/ Capillary Refilling Time)」です。道具を使わず、検査者の手だけで簡単に実践でき、動脈を探す手間もありません。 ご自身の手の親指と人差し指の先端を、ものをつまむような形で力を込めて5秒間合わせてください。指を開く時、指先に注目です。白くなっていた指先が、2秒以内に元の色に戻るかと思います。これが、血流が正常であるサインです。CRTでは、同じ要領で利用者さんの足の指先を検査者の指でぎゅっと押さえ、皮膚の色の変化を観察します。色が戻るのに3秒以上かかる場合は、血流障害の可能性を考え、病院への相談を検討してください。 形成外科医の傷の見方「神戸分類」 ここからは、「形成外医の足のミカタ」をさらに詳しくご紹介します。私たちは、血流と感染の状態を考慮しつつ、糖尿病性足潰瘍の「神戸分類」に照らし合わせて検討していきます。「神戸分類」とは、「知覚障害」「血流障害」「足の変形」という3つの「足病変の基礎因子」に注目して足の状態を4タイプに分け、治療を考えていくしくみです。 タイプⅠ知覚の障害や足の変形があり、足裏にタコができているような状態タイプⅡ血流障害があり、傷ができている状態タイプⅢ感染が見られる状態タイプⅣ血流障害と感染が合併している最重症の状態 タイプⅠの足の変形にはフットウェアの活用を、タイプⅢには感染した組織を除去するデブリードマンを選択します。一方で血行障害があるタイプⅡ、Ⅳは、第一に血行再建しなければなりません。血のめぐりが悪いまま、腐った組織を足浴で洗い流したり、デブリードマンをしたりすると、状態はかえって悪くなります。 次回は鶏眼や胼胝の予防や爪の構造や役割、爪の切り方などフットケア実践における必要な知識について解説します。>>後編はこちら足のミカタ 重症化を防ぐフットケア 爪のケア実践編【セミナーレポート後編】 執筆・編集:YOSCA医療・ヘルスケア 【参考】〇日本フットケア・足病医学会 (編).『重症化予防のための足病診療ガイドライン』南江堂,2022年

真菌症とは? フットケアにも活かせる知識【多数の症例写真で解説】
真菌症とは? フットケアにも活かせる知識【多数の症例写真で解説】
特集 会員限定
2025年1月21日
2025年1月21日

真菌症とは? フットケアにも活かせる知識【多数の症例写真で解説】

在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は真菌症の中でも、在宅で特に問題になる白癬菌とカンジダに絞って解説します。 真菌症とは 真菌症とは、真菌(カビ)が寄生して起きる疾患で、皮膚の角層、爪、毛や粘膜表面に生じる浅在性真菌症と、皮膚の深部(真皮、脂肪組織)や内臓に生じる深在性真菌症があります。後者はやや特殊で頻度も低いのに対し、前者は日常の診療で頻繁に遭遇します。 皮膚に病変を引き起こす真菌は複数ありますが、在宅で主に問題になるのは白癬菌とカンジダであると思われ、今回は浅在性の白癬とカンジダに絞ってみていきましょう。 診断確定には真菌の証明が必須 視診で疑うことはもちろんですが、診断確定は原因となる真菌を証明することにつきます。疑わしい部分の角層、毛、爪などを鑷子や眼科の剪刀で採取し、鏡検で菌糸や胞子を確認します(図1)。具体的には、採取した検体をスライドグラスに乗せて、その上から検出液*をかけてさらにカバーグラスを乗せ、軽く熱して角質を溶かしてから確認。慣れれば手技としては簡単ですが、検体を採取するときに適切な場所を選ぶことと、結果の判断が少し難しいと思います。 *検出液:20~30%の水酸化カリウムでよいのですが、さらに見やすくするために10~20%のジメチルスルホキシド(DMSO)を加えた検出液が市販されています。 図1 白癬菌の菌糸と胞子(鏡検像) A:白癬菌の菌糸(矢印)が見られる。B:菌糸の他、ブドウの房のような胞子(破線で囲まれた部分)が見られる。カンジダである。C:角層の隙間や角質細胞間の脂肪滴(破線で囲まれた部分)が白癬菌の菌糸のように見える場合があり、菌様モザイクと呼ばれている。 爪白癬については爪自体が硬く、白癬菌が存在している場所に偏りがある場合もあり、適切に検体を取るのがさらに難しくなります。 特に在宅で、「爪が肥厚しているから」というだけで白癬と判断されて治療されている例を見かけます。実は爪白癬ではない、爪甲鉤彎症(そうこうこうわんしょう)や掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、厚硬爪甲など他の疾患による爪の肥厚(図2)などが含まれている場合もあるので、きちんと診断する必要があります(少なくとも皮膚科では、真菌検査をしないで爪白癬の治療を始めると、医療費請求時に査定されます!)。最近では抗原検査を行うキット(図3)も発売されており、免疫学的に調べられるので、他科の先生方には利用してほしいものです。図2 爪甲鉤彎症(左)と掌蹠膿疱症(右)   図3 爪白癬菌検出キットの例 テストライン部にラインが出現しており「陽性」と判定。 白癬 足に発症した場合は足白癬、爪なら爪白癬、陰股部であれば股部白癬、頭は頭部白癬、手は手白癬と呼び、それ以外の場所は一般に体部白癬とまとめることが多いです。足白癬は一般に趾間型、水疱型、角化型に分類されます(図4)。白癬はかゆみを伴うことが多く、またそういった印象があると思いますが、特に角化型ではかゆくない場合もあります。図4 趾間型(左)、水疱型(中央)、角化型(右) 外用治療が基本ですが、皮疹が見られない場所にも真菌が付着しているため、両足全体に外用することが必要です(図5)。薬を塗る量も重要ですが、最近は「finger tip unit」の概念が普及しているように思います(図6)。チューブから人差し指の末節分の薬を押し出して(約0.5g)、それを大人の手のひら2枚分に塗る、という概念です。だいたい片足全体で1unit(0.5g)、両足に1日1回塗れば1gですので、1ヵ月で30gを消費することになります。また、症状が改善しているように見えても深部に真菌が逃げ込んでいるので、「見た目の症状が消失してからあと1ヵ月」外用を続けることが基準といえます。図5 足全体に付着する白癬菌 皮膚に現れた白癬の症状(破線で囲まれた部分)は一部でも、足全体を培地に接触させるフットプリント法で、広い範囲に白癬菌が付着していることが分かる。(まるやま皮膚科クリニック 丸山 隆児先生 資料) 図6 finger tip unit 人差し指の末節分の長さまで出した塗り薬の量を1finger tip unit(約0.5g)という。その量を大人の手のひら2枚分に塗る。 手掌や足底以外の部位、例えば臀部や四肢、体幹などに白癬が生じた場合は、一般に「境界鮮明・堤防状隆起・中心治癒傾向」の3つの特徴を持つことが多いでしょう(図7)。図7 体部白癬 臀部と下肢に生じた体部白癬。境界がはっきりとしており、周辺が堤防状に隆起し、外側に拡大していくため、中心部が治癒する傾向にある。 爪白癬 爪に真菌が侵入したもので、「混濁・肥厚・崩壊」が特徴ですが、その見た目はさまざまです(図8)。周囲の皮膚に食い込んで感染を起こし壊疽に至ったり、転倒リスクが上昇したりすることが分かってきました1)。現在の日本の高齢者における足白癬・爪白癬の罹患率は高いとの指摘があり、「治せるうちに治しておきたい」疾患であると考えます。図8 爪白癬のさまざまな症状 治療は内服薬か外用薬を選択します。内服にはテルビナフィン塩酸塩かホスラブコナゾールを用います。肝機能障害の懸念があるため、定期的な採血を必要とします。外用にはエフィナコナゾールまたはルリコナゾールがあります。治癒率は内服薬のほうが高いので、日本皮膚科学会のガイドライン2)によれば内服治療の推奨度はA(行うよう強くすすめる)、外用治療はB(行うようすすめる)とされています。肝機能障害や併用薬などの問題がなければ内服治療が望ましい(図9)のですが、副作用の懸念や採血の問題があり、在宅では外用薬が選択されることも多いようです。図9 白癬の治療経過(70代女性) テルビナフィン塩酸塩内服による足爪白癬の治療経過。根元から新しいピンク色の爪が生えてきて、半年ほどで入れ替わる。 カンジダ症 カンジダも真菌の一種ですが、口腔内、腸管、膣内などの常在菌です。寝たきりの高齢者ではオムツの着用率が高く、入浴もままならないこともあり、臀部・外陰部のカンジダ症の発生リスクが高いと考えられます。 臀部・外陰部の白癬は前述のような特徴を持ちますが、一方でカンジダ症は膜のような鱗屑(りんせつ)がついていたり(図10)、衛星病巣といって周辺にパラパラと飛び散るような水疱や膿疱が見られたりすることがあります。ただし、図11のように、なんとなく境界がはっきりしており「膜様鱗屑?」と思っても真菌は検出できず、刺激性の皮膚炎だったという例もあります。やはり最終的には菌の存在の有無を確認することが重要です。在宅の現場や施設などいたるところに皮膚科医が存在していれば、と思うのですが、現実はそうではないため皮膚科医の一人として申し訳なく思っています。図10 膜様鱗屑が見られるカンジダ症 図11 真菌は検出されなかった刺激性の接触皮膚炎 境界明瞭?膜様鱗屑?に見えるが、真菌は検出されず、刺激性の接触皮膚炎だった例。 カンジダ症は外用治療を基本としますが、刺激性の皮膚炎を合併している場合もあります。ここで問題となるのはIAD(失禁関連皮膚炎)ですが、これについては次回で詳しく述べたいと思います。 余談ですが… 筆者が大学を卒業して皮膚科の教室に入局した時の教授が真菌を専門としており、真菌症の診療については厳しく指導されました。一番大切なことは真菌が原因となっていることを証明することであり、そうでない場合は抗真菌薬を使用してはいけない、と教えられました。 実際、例えば患者さんが受診される際に、「水虫だと思って市販の水虫薬を塗っていました」と言われると、非常に困ります。ある程度の期間塗ってしまうと真菌を検出できないことがあり、本当にいないのか、薬の効果で一時的に見えなくなっているのか、判断が困難になるためです。また、市販の外用抗真菌薬にはかゆみ止めをはじめとしたさまざまな成分が含まれており、それによる接触皮膚炎も多く見られます(図12)。図12 市販の水虫用外用薬にかぶれた例 もともと足白癬、爪白癬であったが、市販の水虫用外用薬にかぶれた例。 真菌は、角層のケラチンを餌にして生きています。ですから基本的には角層や表皮が欠損した潰瘍表面で悪さをすることはない、あるいは少ないと考えます。時々、褥瘡の潰瘍表面に真菌が感染したので抗真菌薬を外用した、という報告に触れることがあります。ところが実際に真菌を証明しておらず、「見た目が真菌っぽい」という理由で抗真菌薬を塗っているように見受けられ、筆者としては抵抗があります。 執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)加藤豊範, 吉田章悟, 鈴木絢子他:回復期リハビリテーション病棟における転倒予測因子の解析 - 足爪白癬のリスクとその治療の有用性の評価.PROGRESS IN MEDICINE 2020:40 (4);425-429.2)日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン改訂委員会:日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019.日皮会誌 2019:129(13):2639-2673.

あなたにオススメの記事

× 会員登録する(無料) ログインはこちら