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結核の感染者数は増えている?症状・原因・感染経路も解説
結核の感染者数は増えている?症状・原因・感染経路も解説
特集
2025年7月1日
2025年7月1日

結核の感染者数は増えている?症状・原因・感染経路も解説

結核は過去の病気と思われがちですが、2025年現在でも世界的に多くの感染者が報告されており、日本でも完全に根絶されたわけではありません。特に高齢者や基礎疾患を持つ人、免疫が低下している人は発症リスクが高く、注意が必要です。 本記事では、結核の最新の感染状況、症状や原因、感染経路、感染を防ぐための対策について解説します。訪問看護の利用者さんやご家族が結核が疑われる症状を訴えた際のアセスメントに役立ててください。 結核とは 結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる感染症です。主に肺に影響を及ぼしますが、リンパ節や骨、腎臓、脳など全身のさまざまな臓器にも感染する可能性があります。 結核菌は、一般的な細菌とは異なり、手指や土壌、水回りなどの環境中には存在せず、基本的に人の体内でのみ生存し増殖します。感染者が咳やくしゃみをした際に排出される飛沫の中に含まれる結核菌が空気中を漂い、それを長時間かつ大量に吸い込んだ人に感染が広がります。 結核の現在の感染者数 結核の感染状況は近年改善傾向にあり、日本の結核罹患率は低下し続けています。2023年の結核罹患率は人口10万人あたり8.1人で、前年の8.2人からわずかに減少しました。結核の低まん延国の水準である10.0人を下回っており、2021年に初めてこの基準を達成して以来、継続的に低い水準を維持しています。 乳幼児や思春期の若者では発症率が比較的高く、糖尿病、慢性腎不全、エイズ、じん肺などの基礎疾患を持つ人もリスクが高まります。さらに、副腎皮質ホルモン剤やTNFα阻害薬などによる治療を受けている場合、体内の免疫機能が抑制されることで結核の発症リスクが上昇します。 出典:厚生労働省「2023年 結核登録者情報調査年報集計結果について」 結核の症状と進行の特徴 結核は多くの場合、6ヵ月から2年の間に症状が現れます。初期症状は軽く、風邪や慢性的な疲労と勘違いされやすいため、自覚するのが遅れることが少なくありません。 症状は咳や痰、血痰、胸の痛みなどの呼吸器症状だけではなく、発熱や倦怠感、冷や汗、体重減少なども起こります。 特に、2週間以上咳が続く場合は、結核の可能性を考慮し、早めに医療機関を受診することが重要です。結核は感染力が強いため、発症した本人が気づかないまま放置すると、周囲の人々にも感染を広げてしまう恐れがあります。 結核の感染経路 結核の主な感染経路は、飛沫核感染(空気感染)です。感染者が咳やくしゃみをした際に排出される飛沫が乾燥し、小さな粒子(飛沫核)となって空気中を漂います。これを吸い込むことで、健康な人の肺に結核菌が侵入し感染が成立するとされています。 飛沫は5μm以上であり短時間で落下するため、感染は近距離のみに限定されますが、飛沫核感染では5μm以下の粒子が長時間空気中に残るため、感染が広がりやすいとされています。 結核の感染予防には、以下のような消毒液を使った消毒が有効です。 高水準消毒薬中水準消毒薬低水準消毒薬グルタラールフタラール過酢酸次亜塩素酸ナトリウムアルコールポビドンヨード両性界面活性剤 結核の検査 結核の感染を調べる検査は、ツベルクリン反応検査とインターフェロンγ遊離試験(QFT・T-SPOT)です。ツベルクリン反応検査は、BCG接種や類似の非結核性抗酸菌の影響を受けるため単独で結核感染の診断には用いられません。一方、インターフェロンγ遊離試験は結核菌に特異的な免疫反応を検出する血液検査で、結核菌感染の有無を調べるのに有用です。 また、胸部レントゲンや胸部CTにて結核を疑い、喀痰検査などで確定診断を行います。喀痰検査には、結核菌を検出する方法として塗抹検査(顕微鏡検査)、培養検査、核酸増幅検査(PCR法)があります。 塗抹検査(顕微鏡検査)喀痰を染色し、抗酸菌の有無を調べる。ただし、検出された抗酸菌が結核菌とは限らない(非結核性抗酸菌の可能性もある)。 培養検査痰の中に含まれる結核菌を、特殊な培養液で増やして検出する検査。確定診断に有用だが、結果が出るまで数週間かかる。 核酸増幅検査(PCR法)痰の中に含まれる結核菌の遺伝子を検出する検査。結核菌の遺伝子を検出するので、迅速な診断が可能。ただし、菌の生存は確認できないため、培養検査と併用するのが望ましい。また、既往歴に肺結核がある場合、死菌を検出し陽性になる可能性があるため、慎重な判断が必要。 結核のワクチン 結核の予防として広く使用されているBCGワクチンは、結核の感染および重症化を防ぐために開発された生ワクチンです。 接種方法は一般的な注射とは異なり、専用の管針を用いた「スタンプ方式」。ワクチンの液を皮膚に滴下し、針を皮膚に押し当てることで薬剤を浸透させます。 生後1歳までに行うことが推奨されており、特に生後5ヵ月から8ヵ月までの間に接種することが望ましいとされています。 結核疑いのある方への訪問の注意点 結核は空気を介して感染する疾患のため、訪問時には感染対策を徹底することが重要です。感染防護の基本としてN95マスクを適切に装着し、呼吸器を通じた病原体の吸入を防ぐことが求められます。 訪問先の室内環境についても十分な配慮が必要で、窓を開けるなどして定期的に換気を行うことで、空気中の菌濃度を下げるよう努めましょう。 なお、利用者さんの健康状態を把握するためにバイタルサインの測定を行いますが、測定機器や手指の消毒については、ほかの利用者さんと同様の衛生管理を徹底すれば問題ありません。 結核にて在宅療養をする場合の注意点 結核の診断を受けた利用者さんが在宅で療養を行う場合、感染予防の徹底と体調の変化を早期に察知することが重要です。 内服管理については、治療の基本となる抗結核薬を確実に服用し続けることが求められます。薬の飲み忘れや自己判断による服薬中断があると、薬剤耐性結核を引き起こすリスクが高まるため、家族や訪問看護師が服薬状況を定期的に確認し、必要に応じて服薬の支援を行います。 また、在宅療養中の環境整備として、室内の換気を徹底しましょう。結核菌は空気中に長時間浮遊するため、窓を開けて空気の流れを作り、清潔な空間を保つよう心がけます。さらに、同居する家族が感染リスクを減らすためにも、マスクの着用を徹底しましょう。 異常の早期発見も在宅療養の重要なポイントです。結核治療中に発熱や倦怠感が強まる、血痰が増える、体重減少が著しいといった症状が現れた場合、病状の悪化や副作用の可能性が考えられます。こうした変化が見られた際には、すぐに医療機関へ相談し、適切な対応を取ることが必要です。 結核の既往歴がない利用者さんであっても、慢性的な咳や血痰が続く場合は結核の可能性を考慮し、訪問時にはN95マスクを着用しながら対応し、医師へ速やかに報告することが重要です。 * * * 訪問看護師が適切な知識を持ち、早期に異変を察知し対応することで、結核の重症化を防ぐことができます。結核の感染リスクを考慮しながら、適切な対応を心がけましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:村田 朗医療法人財団日睡会 理事長御茶ノ水呼吸ケアクリニック 院長日本医科大学内科学講座(呼吸器・感染・腫瘍部門)非常勤講師。日本医科大学、 同大学院卒業。資格・学会:医学博士、日本内科学会認定内科医、日本呼吸器学会専門医・指導医、日本睡眠学会会員、肺音(呼吸音)研究会世話人、東京呼吸ケア研究会幹事、American Thoracic Society 会員、European Respiratory Society 会員、International Lung Sounds Association 会員、NPO法人日本呼吸器障害者情報センター顧問、東京都三宅村呼吸器専門診療委託医、日本医師会認定産業医、身体障害者福祉法指定医(呼吸器)、千代田区公害健康被害診療報酬審査委員。 【参考】〇日本小児科学会.「BCGワクチン」(2018年3月)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/VIS_B-06BCG_202312.pdf2025/6/25閲覧〇厚生労働省.「2023年 結核登録者情報調査年報集計結果について」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001295037.pdf2025/6/25閲覧〇厚生労働省.結核「感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-02.html2025/6/25閲覧〇東京都感染症情報センター.「結核 Tuberculosis」(2025年2月27日)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/tb2025/6/25閲覧

分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜
コラム
2025年6月24日
2025年6月24日

分かりやすい! ALSの診断方法〜二転三転した私の病名〜

ALSを発症して10年、現役医師・梶浦先生によるコラム連載、第2弾。今回は、医師がどのようにALSと診断するのか、梶浦先生のご経験も交えながら解説していただきます。 ALSの診断には2つの重要なポイントがある 重要なポイント、それは次のとおりです。順番に説明していきます。(1) ALSは除外診断である(2) 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が体の広範囲で障害されていることを証明できる ALSは除外診断である 例えば、インフルエンザはウイルスを特定することで診断され、がんは画像検査や生検(腫瘍細胞の一部を採取して行う検査)によって診断を確定できます。しかし、ALSには特異的マーカーや決定的な検査所見がありません。そのため、ALSと同じように運動ニューロンが障害される疾患を一つひとつ除外し、どれにも当てはまらない場合に初めてALSと診断されます。これを「除外診断」といいます。 ALS以外の疾患を除外するために、以下のような検査が行われます。・神経伝導検査・筋電図検査・血液検査・髄液検査・MRI検査(脳、脊髄) など 運動ニューロン障害の広がりを証明する 前回のコラム(>>分かりやすい! ALSの病態と症状)でお伝えしたように、上位運動ニューロンは主に「ブレーキ」の役割を、下位運動ニューロンは主に「アクセル」の役割を担っています。これらが体の広範囲で障害されていることを証明していきます。 ■上位運動ニューロン障害の検査方法 「ブレーキ」が障害されるため、「アクセル」の制御ができない状態です。代表的な症状として、以下の現象がみられます。 腱反射亢進:アキレス腱や膝、肘などの腱を医療用のハンマーで軽く叩くと筋肉が過剰に動く。 クローヌス:アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、筋肉の動きを止めることができず、「ガクガク」と一定のリズムで動き続ける。 医師はこれらの症状の有無や範囲を診察し、上位運動ニューロンの障害を確認します。 下位運動ニューロン障害の検査方法 「アクセル」が障害されるため、以下のような変化が起こります。 筋力低下と筋委縮:筋肉が動かせず、筋肉が細くなり、筋力が落ちていく。 筋力が低下している部位を客観的に把握するため、筋力を数値化していきます。具体的には、握力の測定や、筋力を徒手的に評価する「徒手筋力検査」(manual muscle testing:MMT)が行われます。MMTは主要な部位の筋力を判定し、0~5点の6段階で判定します。参考までに表1に実際の点数の付け方を示します。 表1 徒手筋力検査(MMT) 点数 機能段階 5 強い抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 4 抵抗を加えても、運動域全体にわたって動かせる 3 抵抗を加えなければ重力に抗して、運動域全体にわたって動かせる 2 重力を除去すれば、運動域全体にわたって動かせる 1 筋の収縮がわずかに確認されるだけで、関節運動は起こらない 0 筋の収縮はまったくみられない 線維束性収縮:体のさまざまな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に「ピクピク」と細かく動く症状。 前回のコラムで紹介したとおり、線維束性収縮も下位運動ニューロン障害の存在を証明する大切な所見です。線維束性収縮は自覚でき、強く症状が出ているときは他人からも目視できますが、わずかな症状でも客観的に確認できる「針筋電図検査」を実施します。 針筋電図検査は、細い針電極を体のさまざまな部位の筋肉に刺し、筋肉のわずかな「ピクピク」を電気的な活動として捉えることで、まだ筋力低下が起こっていない早期の段階でも異常を発見できます。ただし、線維束性収縮は常にみられるわけではなく、同じ場所に起こるとも限りません。針を刺した場所とタイミングで「ピクピク」が出ていなければ、確実な診断が難しい場合もあり、そこにもどかしさを感じています。 なお、最も多いALSの症状の進行パターンは、まず左右どちらかの手や足の遠位部の筋力が低下していき、徐々に体の中心に近い部分や反対側の筋力が低下していき、全身に広がっていきます。 発症初期は、まだ筋力の低下は限局した部位にしかみられないため、この段階で診断するのはとても難しいです。 私の診断までの経過 発症と初めての受診 2015年、当時34歳の私は、アメリカのカリフォルニア大学(UCSD)に研究のために留学していました。同年の7月に、右手の指先の筋力低下と、利き腕である右腕が左腕よりも細いことに気がつきました。8月にUCSDの神経内科を受診すると、「ALSの可能性が高いので精査が必要です」と言われ、10月に帰国しました。 診断への長い道のり 帰国後、すぐに総合病院の神経内科を受診し、MRIや筋電図検査などで精査したところ、「まだ右腕だけに症状は限局しているものの、ほかの疾患は考えにくいので、おそらくALSだろう」と言われました。「もしかしたらALSではないのでは?」という私の淡い期待は崩れ去り、絶望と恐怖で一晩中泣いていました……。 しかし、その後、診断は二転三転したのです。 2015年11月 今後の治療法を相談していくために神経内科専門の病院を紹介され受診しました。そこで、担当の医師に「ALSと確定するのはまだ早いので、運動ニューロン病を専門としている大学病院の神経内科にセカンドオピニオンに行かないか」と提案されました。わらにもすがる思いだった私は、すぐに行くことを決めました。 同年12月 あらためて精査するために、紹介された大学病院に2週間入院することになりました。そこではMRIや筋電図検査に加えて髄液検査やエコー検査など、さまざまな検査をしました。 すべての検査結果が出て、教授回診のときに診断が告げられることになりました。尋常ではない緊張感で座って待っていた私のもとに、教授を筆頭に医局の医師たち、研修医、医学部の実習生たちなど10人以上がやってきました。そして、少しの沈黙の後に、教授が私の肩をポンポンと軽く叩き「よかったね、ALSじゃないよ」と言ってくれました。 その瞬間、私はあまりのうれしさと安堵感で、緊張の糸が切れ、その場で泣き崩れました。「先生、僕はまだ生きられるんですね!」と言って、人目もはばからず、大勢の前で泣きじゃくりました。そのときの診断名は「多巣性運動ニューロパチー」というものでした。 翌年(2016年)1月 診断名もついたことですし、私は神奈川県にある自分の所属する大学病院で仕事を再開しながら、治療をしていくことにしました。検査結果や紹介状を持参して、自分の所属する大学病院の神経内科を受診すると、「この診断は違うのではないか」と言われ、再度精査することになりました……。 感情が揺さぶられ過ぎて、まるでジェットコースターに乗っている感じで、精神的にどんどん削られていき疲弊していきました。結局そこでも筋電図検査をはじめさまざまな検査を行い、今度は「平山病」という診断になりました。平山病は手術をすれば症状の改善が見込めるため、手術をする予定になりました。 同年4月 手術の予定日が決まっていましたが、手術の直前に舌に線維束性収縮がみられたため、ALSと確定診断され、手術は急遽中止になりました。そのときの私は「自分はALSじゃないのか?」とうすうす気がついていたため、ショックという感情よりは、やっと診断が確定したことに対する安堵感のほうが強かったことを覚えています。 診断の難しさと私が伝えたいこと 私を担当してくださった神経内科専門医の皆さんは、本当に親身になって一所懸命に検査をしてくれました。それでも、そのつど診断名が変わり、確定診断に9ヵ月かかりました。そのくらい、発症初期の段階でALSを診断するのは難しいのです。 私と同じように、なかなか確定診断にいたらず、「つらくて不安な期間」を過ごしている方も少なからずいらっしゃると思い、今回は診断方法とともに私の経験談も書きました。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

透析患者さんの特徴と訪問時に注意したい状況・症状、報告のタイミングとは
透析患者さんの特徴と訪問時に注意したい状況・症状、報告のタイミングとは
特集
2025年6月17日
2025年6月17日

透析患者さんの特徴と訪問時に注意したい状況・症状、報告のタイミングとは

透析患者さんの高齢化が進むなか、訪問看護師さんが日常生活の支援を担う場面が増加しています。透析看護は、一般的な慢性疾患の看護に加え、シャントの管理や心不全徴候の確認など、透析特有の知識と観察力が欠かせません。今回は、訪問看護師さんが知っておくべき、透析患者さんの基本的な特徴、透析室との連携が求められるトラブルや注意を要する状況・症状について解説します。 透析患者さんの特徴とは? 身体的特徴:包括的な視点での看護が必要 透析患者さんは、除水の影響や循環血液量の変化、心機能の低下(心不全・虚血性心疾患)、自律神経障害、降圧薬の影響などにより、血圧の変動が起こりやすくなっています。また、免疫機能の低下により易感染性の状態となっており、感染予防も重要なケアのひとつです。動脈硬化の進行、下肢末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)の合併率も高く、重症下肢虚血(critical limb ischemia:CLI)を予防するための観察と対応が求められます。 そのほかにも、さまざまな合併症による身体症状がみられます(図1)。例えば、貧血、抗凝固療法に伴う出血リスク、骨の脆弱性による骨折リスクが挙げられます。さらに、透析や食事制限に伴う低栄養、尿毒素の蓄積による皮膚の乾燥や掻痒感などが生じることもあります。このように、多岐にわたる症状がみられるため、包括的な視点での看護が必要です。 図1 透析患者さんに関連する合併症 心理社会的特徴:段階に応じた支援が必要 透析導入期の患者さんは、病気や治療そのものへの不安だけでなく、生活の制限や将来の見通し、社会的孤立など多くの不安を抱えています。この時期には、身体的・精神的・社会的側面に目を向け、患者さん一人ひとりの状況に応じた多面的な支援が重要です。 また、透析治療を受け入れていく過程では、「落胆・喪失」「否認」「不安」「怒り」「抑うつ」などの心理状態を経て、最終的に「受容」に至るのが一般的です。それぞれの段階に応じた適切な支援が求められます。 バスキュラーアクセスと体重管理 透析患者さんの特徴を理解する上で、バスキュラーアクセス(vascular access:VA)と体重管理は特に重要なため、この2点について説明します。 VAの種類と特徴 血液透析を実施するには、多くの血液量を確保する必要があり、そのためにVAが作成されます。VAとは、透析治療を行うために血液を体外に取り出し、再び体内に戻すための専用の「血液の出入口」のこと。透析を安全かつ効率的に行うために、VAの維持・管理は重要です。VAの観察・アセスメント・トラブル対応について確認しておきましょう。 VAには、「シャント」「動脈表在化」「カフ型カテーテル」の3つの種類があります。それぞれの特徴について解説します。 ●内シャント(AVF、AVG)シャントとは、動脈と静脈を手術でつなぎ合わせて、透析に必要な血流の通り道(バイパス)を確保することをいいます。最も一般的な方法で、使用する血管は自己血管(arterio venous fistula:AVF)または人工血管(arterio venous graft:AVG)があります(図2)。それぞれ患者さんの状態に応じて選択されます。 シャントの管理では、視診・触診(スリル)・聴診(シャント音)を行い、閉塞や感染兆候がないか観察します。また、清潔保持と自己管理指導を継続的に実施します。(>>シャントの管理については次回「バスキュラーアクセスのトラブル対応、日常管理のポイントも【事例あり】」にて詳しく解説します。トラブル事例も紹介する予定です) 図2 内シャント ●動脈表在化手術により、深部にある動脈を皮膚の直下に移動させ、穿刺をしやすくする方法です。この方法は、血管が脆弱な高齢者や心機能が低下している患者さんに適応されます。 ●カフ型カテーテル(長期留置カテーテル)シャントを作成するための血管がない場合、心機能が低下しシャントの作成が困難な場合に選択される方法です。内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈などの太い静脈にカフ付きカテーテルを挿入します(図3)。ただし、感染や閉塞のリスクが伴うため、日常的な管理が非常に重要です。 図3 カフ型カテーテル(長期留置カテーテル) 透析患者さんの体重管理 ●ドライウェイト(dry weight:DW)DWとは、透析後の目標体重であり、体内の余分な水分が取り除かれた状態を指します(図4)。「基礎体重」とも呼ばれ、DWが適正でない場合には心不全や低血圧などのリスクが生じます。患者さんの生活の質(QOL)を維持・向上させるためにも、DWは定期的に評価・見直しを行います。 図4 ドライウェイト(DW)とは ●体重管理透析では、透析間に増加した体重(主に水分)を、次の透析で4時間かけて除去(除水)する必要があります。体重増加が多いと、心血管系の合併症を引き起こすリスクが高まります。一方で、過度の除水は透析中の血圧低下や除水に伴うショックなどを招く恐れがあります。いずれの場合も最終的には生命予後に影響を与えるため、透析間の体重増加にはめやすが設けられています(図5)。 図5 透析間の体重増加のめやす ○透析間が中1日(例:木曜日・土曜日)の場合、DWの3%未満○透析間が中2日(例:火曜日)の場合、DWの6%未満 の体重増加が望ましい 患者さんの観察・情報共有のポイント 透析患者さんは、体調の変化によって透析の中止・変更・緊急透析が必要となる場合があります。そのため、訪問時には異常の早期発見と、透析室との速やかな情報共有がきわめて重要となります。 表1に訪問看護師さんが透析室へ連絡すべき主な状況を示します。 表1 透析室へ連絡すべき主な状況【感染】 【シャント・カテーテル】 【体重管理】 【そのほか】 連絡すべきか迷ったら? 「迷ったら連絡!」が鉄則です。「こんなことで……?」と思うような些細な変化でも、透析室にとっては重要な情報となる場合があります。 訪問看護師さんの「気づき」と「ひと声」が透析治療の質と患者さんのQOLを大きく左右します。訪問看護師さんと透析室の連携を強化することで、患者さんの安心・安全な在宅生活が実現できると考えています。  執筆:熊澤 ひとみ医療法人偕行会 透析医療事業部 副事業部長透析看護認定看護師【職歴】昭和63(1988)年 名古屋共立病院 入職平成11(1999)年 偕行会 セントラルクリニック 異動平成17(2005)年 透析医療事業部 副事業部長令和3(2021)年 医療法人偕行会 法人本部 理事【所属学会】日本腎不全看護学会 監事日本臨床腎臓病看護学会日本透析医学会編集:株式会社照林社

ヘルパンギーナと手足口病の違いは? 症状・原因・治療法・予防法を解説
ヘルパンギーナと手足口病の違いは? 症状・原因・治療法・予防法を解説
特集
2025年6月10日
2025年6月10日

ヘルパンギーナと手足口病の違いは? 症状・原因・治療法・予防法を解説

ヘルパンギーナと手足口病は夏に流行しやすいウイルス感染症で、主に乳幼児がかかります。どちらも発熱や口内の水疱を伴うため、症状が似ており、見分けがつきにくいことがあるでしょう。 本記事では、ヘルパンギーナと手足口病の原因や症状、治療法、予防法について解説します。利用者さんやそのご家族の症状から、ヘルパンギーナと手足口病の違いを見分けられるように知識を身につけておきましょう。 >>関連記事 大人も要注意!手足口病の症状・原因・治療法を解説 ヘルパンギーナの症状・原因・治療法を解説 大人がかかるとどうなるの? ヘルパンギーナと手足口病の原因 ヘルパンギーナと手足口病は、どちらもエンテロウイルスによって引き起こされる感染症です。エンテロウイルスは、ピコルナウイルス科に属するRNAウイルスの一種であり、多くの型が存在します。 ヘルパンギーナの主な原因ウイルス コクサッキーウイルスA群(CA2~CA6、CA10)※まれにコクサッキーウイルスB群(CB)やエコーウイルスが原因となることも 手足口病の主な原因ウイルス コクサッキーウイルスA16型(CA16) エンテロウイルス71型(EV71) コクサッキーウイルスA6型(CA6) どちらも複数の型があるため、一度かかっても再び感染する可能性があります。 ヘルパンギーナと手足口病の症状&見分け方 ヘルパンギーナと手足口病は、流行時期や好発年齢、症状が似ており、見分けるのが難しいことがあります。見分け方のポイントは以下のとおりです。 ◆ヘルパンギーナと手足口病の症状の違い  ヘルパンギーナ手足口病発熱突然の高熱(39~40℃)、2~4日で解熱軽度の発熱(38℃以下が多い)水疱の部位口腔内(特に軟口蓋・口蓋弓)口腔内(前方にみられやすい)、手のひら・足の裏・足の甲・肘・膝・臀部など全身に水疱性発疹口腔内症状小水疱ができ、破れると浅い潰瘍となり痛みを伴う小潰瘍を形成することがある発疹の特徴口腔内のみ、水疱はやがて潰瘍化手足や臀部にも水疱ができ、痂皮を形成せず自然に消失その他の症状喉の痛みが強く、哺乳障害や脱水を起こしやすい口腔内の痛みは軽度で、食事を取れることが多い ヘルパンギーナと手足口病の流行時期 ヘルパンギーナの流行時期や好発年齢についても見ていきましょう。流行時期は重なっていますが、手足口病のほうが比較的時期が早い傾向にあります。 ◆ヘルパンギーナと手足口病の流行時期や発症年齢の違い  ヘルパンギーナ手足口病流行時期5~7月頃9月以降はほぼみられなくなる7~8月頃好発年齢5歳以下 特に1歳が多い4歳以下、特に2歳以下が多く(約半数)、小学校低学年でもかかることがある ヘルパンギーナと手足口病の感染経路 主な感染経路は、ヘルパンギーナ・手足口病ともに飛沫感染※1・接触感染※2・糞口感染※3です。 ヘルパンギーナも手足口病も、症状が治まったあと、体内にウイルスが残る点に違いはありません。便からは、2~4週間にわたってウイルスが排出されることがあるため、注意しましょう。 ※1 飛沫感染:感染者の咳やくしゃみで飛散したウイルスが、ほかの人の鼻や口から侵入し感染すること。※2 接触感染:ウイルスや細菌などに直接触れた手で鼻や口を触り、皮膚や粘膜を介して感染すること。※3 糞口感染:ウイルスを含む排泄物に触れた後、手洗いが不十分なため主に手指を介して感染すること。 ヘルパンギーナと手足口病の治療方法と治癒期間 ヘルパンギーナと手足口病はどちらも特定の治療法がないウイルス感染症であり、症状に応じた対症療法が中心となります。 ヘルパンギーナの対症療法 ヘルパンギーナの発熱に対しては、解熱鎮痛作用がある内服薬(例:アセトアミノフェン)を使用する場合があります。咽頭痛があると飲食を避けがちになるため、脱水を防ぐためにも、ゼリーや冷ましたおかゆ、お豆腐など、薄味で柔らかく口当たりのよいものを選ぶとよいでしょう。特に乳幼児は脱水のリスクが高いため、こまめな水分補給が大切です。脱水が見られた場合は、医療機関で輸液が検討されることがあります。 重症化することは少ないものの、無菌性髄膜炎や心筋炎などの合併症が疑われる場合には、入院治療が必要となる場合があります。 手足口病の対症療法 子どもの場合、手足や口腔内の発疹にかゆみを伴うことは少なく、通常は外用薬の使用を必要としません。発疹はかさぶたを残さずに3〜7日ほどで消失します。ただし、口の中にできた潰瘍が痛みを引き起こし、食事が摂りにくくなることがあるため、薄味のスープや柔らかいおかゆ、ゼリーなど刺激の少ない食事を選ぶことが大切です。 発熱は38℃以下の軽度なものが多く、解熱剤なしでも経過を見守ることができますが、発熱が2日以上続く場合や、頭痛、嘔吐、元気がないなどの症状が見られる場合は、髄膜炎や脳炎といった合併症のリスクがあるため、医療機関を受診することが必要です。ヘルパンギーナと同様に脱水にも注意が必要です。 なお、大人が手足口病にかかった際は、発疹の痛みや倦怠感、悪寒等の症状が強く出ることがあります。大人の場合、原因が手足口病だと思い至らないケースもあるため、注意が必要です。 ヘルパンギーナと手足口病の予防方法 ヘルパンギーナと手足口病にはワクチンがなく、基本的な感染対策を行って感染リスクを抑えるほかありません。 食事の前後や外出後には石けんで丁寧に手を洗いましょう。また、便にはウイルスが長期間排泄されるため、排便後の手洗いを徹底することが重要です。特に乳幼児は手洗いの習慣が十分に定着していないことが多いため、保護者や保育者が意識して清潔な環境を保ちましょう。 * * * ヘルパンギーナと手足口病は日頃からの感染対策が重要です。手洗いやうがいを徹底し、感染者との接触を避けることで、感染リスクを軽減することができます。脱水や合併症のリスクがある場合には、早めに医療機関を受診しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「ヘルパンギーナとは」(2014年07月23日 改訂)https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/herpangina/010/herpangina.html2025/6/4閲覧〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「手足口病とは」(2014年10月17日 改訂)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/441-hfmd.html2025/6/4閲覧〇東京都感染症情報センター「ヘルパンギーナ Herpangina」(2023年6月22日)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/herpangina2025/6/4閲覧〇東京都感染症情報センター「手足口病 Hand , Foot and Mouth Disease」(2024年6月20日)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/handfootmouth2025/6/4閲覧

皮膚腫瘍とは? 判断基準、症状、治療の基本が分かる【多数の症例写真で解説】
皮膚腫瘍とは? 判断基準、症状、治療の基本が分かる【多数の症例写真で解説】
特集 会員限定
2025年6月3日
2025年6月3日

皮膚腫瘍とは? 判断基準、症状、治療の基本が分かる【多数の症例写真で解説】

在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は皮膚腫瘍を取り上げ、その種類や特徴、症状の原因や改善方法をご紹介します。 皮膚腫瘍の判断基準は2つ 皮膚腫瘍を判断する基準は2つあります。1つは良性であるか悪性であるか、もう1つはどの細胞から発生したものか、ということです。 皮膚にはさまざまな器官があり、それぞれを構成する多種類の細胞から発生する腫瘍があるため、非常にたくさんの種類があります。「皮膚腫瘍」だけで、ものすごく分厚い本ができてしまいます。よく使われている皮膚科の教科書1)の腫瘍の章を調べたら、見出しだけで良性腫瘍85、悪性腫瘍43もありました! とてもそのすべてに触れることはできませんので、今回は、在宅療養者で頻度が高く、知っておくべき8種類の腫瘍について紹介します。 その前に:診断に不可欠なダーモスコピー 以前に疥癬の章で紹介したダーモスコピー(図1、以下DS)は、本来は母斑など色素性病変を診断するために使用されているものです(その他、円形脱毛症や日光角化症の診断でも保険請求できます)。 図1 ダーモスコピー(DS) DSは皮膚科にはなくてはならない道具で、今やこれを使わない皮膚科医は「もぐり」と言わざるを得ないでしょう。筆者も通常の外来診療だけでなく、往診の際にも首からぶら下げて頻繁に使用しています。本来の拡大する使用法だけでなく照明にも使えます。内科医の聴診器のようなものですが、たぶん聴診器よりも使う頻度は高いと思います。 例えば、足底の色素斑をDSで見ると、母斑(良性)であれば皮溝優位、悪性黒色腫であれば皮丘優位に色素が濃く見えます(図2)。母斑でも部位によっても見え方が違いますし、その他、日光角化症や基底細胞癌など、それぞれの腫瘍で特徴的な所見がみられます(DSの所見だけでも分厚い本ができます)。DSが使われるようになって、皮膚腫瘍の診断は格段に進歩しました。 図2 DSによる足底の色素斑 左は良性で、皮溝(皮膚のくぼんだ部分)の色素が濃く見えます。右は悪性で、皮丘(皮溝と皮溝の間の隆起した部分)の色素が濃く見えるのが特徴です。 在宅で知っておくべき8つの腫瘍 ここでは、それぞれの皮膚腫瘍について一般的な症状を簡潔に記載します。ただし、各々バラエティに富むので、ここに記したのは最大公約数的な所見であり、当てはまらない場合も多数あることはご承知おきください。 良性腫瘍 1)母斑母斑(いわゆるホクロ)も母斑細胞が増殖する一種の良性腫瘍です。悪性腫瘍との鑑別がしばしば問題となります。平らなものや隆起したものがあり、色も常色から黒までさまざまです(図3)。 図3 母斑 2)脂漏性角化症老化によるイボです。別名「老人性疣贅」(ろうじんせいゆうぜい)といいます。茶色から黒で、表面が角化してざらざらし、隆起します(図4)。 図4 脂漏性角化症 悪性腫瘍 1)いわゆる早期がん異形細胞が表皮内にとどまるものです。この段階では転移の可能性はありませんが、進行するとボーエン癌や有棘細胞癌となります。 ●ボーエン病見た目が湿疹とよく似ています。大きさは大小さまざま、形は円形から楕円形、色は常色や赤、茶色、黒など、かなり多彩な臨床像を呈します。表面が角化して、ざらざらなことが多いです(図5)。 図5 ボーエン病 ●日光角化症露光部に発症し、ただ赤いだけに見える場合もあります。やはり表面がざらざらしています。(図6)。 図6 日光角化症 2)基底細胞癌少し隆起した小さい黒い丘疹が集まって拡大し、潰瘍化します(図7)。転移は少ないですが、局所再発が多いため、きちんと切除することが必要です。 図7 基底細胞癌 3)有棘細胞癌(ゆうきょくさいぼうがん)患部が赤くなって硬化し、隆起したり結節をつくったりします。びらん・潰瘍化する場合もあります(図8)。転移することも多いです。 図8 有棘細胞癌 4)悪性黒色腫一般的には黒く、母斑と比べて形が不整で濃淡が強かったり、表面が潰瘍化し、周囲に色素が染み出したりしています(図9)。治療薬は進歩しましたが、予後のよくない腫瘍です。 図9 悪性黒色腫 5)パジェット病アポクリン腺由来の悪性腫瘍です。乳房パジェット病と乳房外パジェット病があり、後者は外陰部に多くみられ、IADとの鑑別が必要になる場合があります。進行すると隆起しますが、特に初期では湿疹によく似ており、紅斑や脱色素斑のみのことがあります(図10)。 図10 乳房外パジェット病 >>IADに関する記事はこちらIAD(失禁関連皮膚炎)とは? 鑑別が必要な疾患も紹介【多数の症例写真で解説】 6)その他皮膚原発でない、悪性腫瘍の皮膚転移や皮膚への浸潤も時に経験されます(図11)。 図11 乳がんの皮膚転移と直接浸潤 高齢者に皮膚腫瘍が生じたときどうするか 生検による確定診断が重要 皮膚腫瘍を疑ったら、正確な診断を行うことが重要です。DSの普及によって肉眼だけのときよりも診断の精度は上がりましたが、できれば最終的に確認するために生検を行いたいものです。図12は左眼下部の色素斑です。DSでは良性の所見と考えたのですが、やや形が悪く大きかったため、生検を実施したところ、母斑であり、悪性黒色腫ではないことが確認できました。 図12 左眼下部にみられた色素斑 不整形でやや大きい色素斑。生検で母斑と確定診断できました 治療の基本は切除、高齢者にとっては? 腫瘍の診断がついたら、治療の基本は切除です。高齢者の場合、「切除のための手術ができるか」が最大の問題になります。そもそも認知症がある場合、本人の意思確認もしがたく、局所麻酔で切除できる場合でも、じっとしていられるかどうかが問題となります。また、全身麻酔が必要な場合には、心肺機能をはじめとして麻酔が可能かどうかといった問題も出てくるでしょう。 手術というと躊躇しがちですが、実際には施行可能な場合が多いです。順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターの2005~2020年の統計によれば2)、90歳以上の皮膚悪性腫瘍33例のうち、18例は手術を行うことができました。特に有害事象を認めず、高齢であったり認知症があったりするからといって、一律に手術が無理ということではない、と結論づけています。 図13は認知症のある高齢者の右頬部に生じた有棘細胞癌です。当初は、ご家族も経過観察を希望されていましたが、急速に増大するため、このままではQOLの低下が著しくなると考え、姑息的ではありますが局所麻酔下に切除した例です。幸い手術中も特に問題なく終了しました。 図13 急速に増大する有棘細胞癌を切除した例 外用薬や液体窒素による治療も 皮膚腫瘍の治療に使える外用薬としては、フルオロウラシル軟膏とイミキモドがあります。前者は有棘細胞癌をはじめ多数の皮膚腫瘍に保険適応があり、後者は日光角化症のみが適応となっています。日本皮膚科学会のガイドライン3)によれば、両薬剤は日光角化症とボーエン病には推奨度B、基底細胞癌には推奨度C1となっています。 イミキモドによる日光角化症の治療例を図14に示します。 図14 イミキモドによる日光角化症の治療経過 肉眼的に症状がはっきりしない部分にも潜在的に病変があります。そのため、イミキモドを広めに外用すると、その部分が反応して潰瘍化します 皮膚科ではよく行う治療である液体窒素による冷凍凝固も、日光角化症とボーエン病は推奨度B、基底細胞癌はC1となっています。 * * * 治療については、当然ですがそれぞれの療養者の状況に合わせて、どのような対処をするかについて慎重に決定する必要があります。 最後に 皮膚腫瘍の診断・治療については医師の仕事ですが、特徴を知ることにより、看護の現場で早期に病変を発見していただくことができるかもしれません。 今回でこの連載を終了します。少しでも皆さまのお役に立てましたら幸いです。  執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)清水宏:あたらしい皮膚科学 第3版.中山書店,東京,2018.2)長谷川舞,植木理恵,池田志斈:順天堂東京江東高齢者医療センターにおける後期高齢者の皮膚悪性腫瘍統計.臨皮 2024;78(1):83-87.3)土田哲也,古賀弘志,宇原久,他:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版.日皮会誌 2015;125(1):5-75.

分かりやすい! ALSの病態と症状
分かりやすい! ALSの病態と症状
コラム
2025年5月27日
2025年5月27日

分かりやすい! ALSの病態と症状

ALSを発症して10年、現役医師でもある梶浦先生が、ALSとはどういった病気なのか、分かりやすく解説します。 ALSへの理解がケアやリハに活かされる 「分かりやすい」と自分へのハードルを上げてから書き始めた今回のコラムですが、これには私なりの思いがあります。 これから書いていく具体的な日常生活の工夫やリハビリテーションの工夫を理解して取り入れていただくには、筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは「どんな病気で、なぜこんな症状が起こるのか」を簡単にでも知っておいていただきたいです。そのほうが、なぜこの工夫をするとよいのか、納得しながら実践できますので、より身につきやすいかと思います。 難しいことを難しく書くのは簡単です。ですが、私なりにできる限り簡単に説明しようと、自分を戒めるために今回このようなタイトルにしました。 ALS当事者の方が理解しづらい場合には、支援者である介護士や看護師、リハビリテーションスタッフの皆さんにはこれから説明することをぜひ参考にしていただき、利用者さんにお伝えいただければと思います。 ALS理解の鍵は運動神経のしくみを知ること 人体においての神経系は、機能的に大きく分けると運動神経と感覚神経、自律神経の3つに分類されます(表1)。 表1 人体の3つの神経系 運動神経体を動かす筋肉につながり、脳からの命令を筋肉に伝える神経感覚神経痛い、痒い、冷たい、熱い、何かに触れているなど、さまざまな感覚を脳に伝える神経自律神経体温、心拍、血圧、排尿、排便など、生きていく上で必要な機能を自然にコントロールしてくれる神経 ALSは、この中の筋肉を動かす運動神経だけが選択的に障害され、徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく、進行性の神経疾患です。 この運動神経のしくみを理解することがALSの病態を理解する上で、一番大切になってきます。 例えば、脳で「手を動かしたい」と考えるとします。すると、脳の中の運動神経細胞(上位運動ニューロン)からその命令が神経線維を伝わり、脳幹あるいは脊髄で次の神経細胞(下位運動ニューロン)に命令を伝えます。そして、この命令は下位運動ニューロンの神経線維を伝わり、手の筋肉に到達して手を動かします。 ALSで障害される場所は、脳から下りてくる上位運動ニューロンと、命令の乗り換えの場所(前角細胞)から始まる下位運動ニューロンの両方です。両方が障害されると、結果的に筋肉を動かすことができなくなってしまいます。 注)「運動ニューロン」という言葉が分かりにくい方は、運動ニューロンとは脳からの命令を筋肉に伝える「導線」のようなものだとイメージしてください 上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働き では、実際上位運動ニューロンと下位運動ニューロンはそれぞれどんな働きをしているのでしょうか? 例えば、皆さんがペンで文字を書くときの繊細な動きをする場合と、りんごをわしづかみにするときの大胆な動きをする場合とでは、力の入れ方を無意識のうちに使い分けていると思います。 これは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが、お互いにバランスを取り合って、自然な動きになるように力の配分をコントロールしているためです。具体的には、脳からの命令を受けた下位運動ニューロン(下位運動ニューロンは筋肉に直接つながっています)が主に「アクセル」の役割を果たし、筋肉を動かします。一方、上位運動ニューロンは「ブレーキ」として機能し、下位運動ニューロンの「アクセル」の力加減を調整して、力が暴走しないようにしているのです。(図1を参照) 図1 運動神経のしくみ ALSの主な症状 ALSの初期症状は、上肢に現れることが比較的多いですが、患者さんによっては下肢や喉から症状が現れることもあります。進行すると徐々に自分の意思で身体を動かすことが難しくなり、ペンや箸が握れなくなったり、歩行が困難になっていきます。 口や喉が動かなくなると、話す、食べるといった行為が困難になり、誤嚥する可能性も高くなります。さらに進行すると、自身で呼吸することができなくなり、生きていくためには人工呼吸器が必要となります。また、ALSでは筋肉を動かす運動神経のみが選択的に障害されるため、感覚は残ります。また、意識ははっきりしており、精神的な働きは障害されないことも大きな特徴です(例外もありますが)。 次に上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの働きをもとに、ALSに特徴的な症状を紹介します。 筋肉が「ガクガク」と痙攣して治まらない! アキレス腱や太ももなどの大きな筋肉や腱を急に動かすと、「ガクガク」と一定のリズムでその筋肉が動き続けることがあります。これは「クローヌス」と呼ばれる症状で、上位運動ニューロンが障害されることで起こります。つまり、「ブレーキ」が壊れることで、「アクセル」の制御ができなくなっている状態です。 筋肉が勝手にピクピクと動く! 体のいろいろな場所の筋肉が、自分の意思とは無関係に勝手にピクピクと細かく動くことがあります。これは「線維束性収縮」と呼ばれる症状で、下位運動ニューロンが障害されることで起こります。例えるなら、正常なら10本の下位運動ニューロンで動かしていた筋肉を、1本の下位運動ニューロンで動かさなくてはいけないという状態です。1本のニューロンにかかる負担が過度に大きくなり、がんばり過ぎることで勝手に動いてしまっている状態です(図2)。 この症状が起きている部分は、「アクセル」が壊れてきている場所なので、徐々に筋肉が細くなり、動かせなくなっていきます。 図2 下位運動ニューロンの正常な状態と障害された状態(線維束性収縮) ALSの4大陰性徴候とは ALSは全身の筋肉が動かせなくなっていく病気ですが、出にくい症状というものが4つほどあり、4大陰性徴候といいます。 (1)目は最後まで動かせる!手足や身体・顔がまったく動かなくなっても、目を動かす筋肉が最終的にある程度は残ることが多いです。(2)尿意や便意はがまんできることが多い! 尿道や肛門をキュッと締める括約筋も筋肉ですが、障害は受けにくいです。つまり、尿や便が勝手に漏れて、垂れ流しにはなりにくいということです。(3)感覚障害が起こりにくい!これは最初のほうでも書きましたが、見たり聴いたり、味覚を感じたり、冷たさや痛さなどを感じる感覚は最後まで残ります。(4)「褥瘡」、いわゆる“床ずれ”ができにくい!徐々に寝たきりになっていきますが、褥瘡はできにくいです。これは(3)で書いた、痛みなどの感覚は最後まで残ることが関係します(床ずれは痛いです)。 * * * これまでの症状を読まれた方の多くは、「感覚は残るのに動けないなんてつらすぎる……」と思われるかもしれません。ですが、このALSに出にくい症状を前向きに捉えて、うまく日常生活の工夫に取り入れていくことが、困難な状況の中でも、日々の生活をできる限り豊かにしていく方法なのだと思います!! なので、今後このコラムでALSの4大陰性徴候を活用して快適に生活する具体的な方法を書いていこうと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

ダニアレルギーはどんな症状が出る?見分け方と対処法・治療法
ダニアレルギーはどんな症状が出る?見分け方と対処法・治療法
特集
2025年5月13日
2025年5月13日

ダニアレルギーはどんな症状が出る?見分け方と対処法・治療法

ダニアレルギーは、ダニの死骸やフンが原因で発症し、くしゃみや鼻水、皮膚のかゆみ、喘息などの症状を引き起こすアレルギー疾患です。ダニは目に見えないほど小さな生物ですが、私たちの生活空間に広く存在し、特に寝具やカーペットなどに潜んでいます。 本記事では、ダニアレルギーの症状や見分け方、発症時の対処法について解説します。訪問看護の利用者さんやご自身・ご家族の健康管理のためにも確認しておきましょう。 ダニアレルギーとは ダニアレルギーは、私たちの身の回りに存在するダニの死骸やフンが原因となって発症するアレルギー疾患です。アレルギーは、私たちの体の免疫システムが特定の物質(アレルゲン)を異物と認識し、排除しようとする反応のこと。ダニそのものが直接人体に害を及ぼすわけではなく、ダニの微細な粒子が空気中に漂い、吸い込むことでアレルギー反応を引き起こします。 最初にダニのフンや死骸が体内に入ると、免疫細胞が異物とみなして「IgE抗体」を作ります。これを「感作」といい、次にダニアレルゲンが体内に入った際、IgE抗体が反応します。そうすると、マスト細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、くしゃみ、鼻水、目や皮膚のかゆみ、気管支の炎症などのアレルギー症状が現れるのです。 ダニアレルギーの症状 ダニアレルギーの症状は、主に呼吸器症状と皮膚症状に分けられます。 呼吸器症状(くしゃみ・鼻水・咳・喘息など) くしゃみや鼻水、鼻づまりといったアレルギー性鼻炎の症状のほか、咳が続いたり喘息を発症したりすることもあります。気管支が敏感な人は症状が重くなりやすく、夜間の咳や喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒューする音)が生じることもあるため、早期の対処が必要です。 >>関連記事アレルギー性鼻炎の種類&原因|訪問看護の場での対応方法・予防法 皮膚症状(湿疹・かゆみ・じんましんなど) 湿疹やかゆみ、じんましんなどが現れます。アトピー性皮膚炎の方は症状が悪化しやすい傾向にあります。かゆみが強く、かいてしまうことで皮膚が傷つき、二次感染を引き起こすことも。 ダニが繁殖しやすい季節と環境 ダニは高温多湿の環境を好み、気温20〜30℃、湿度60〜80%の条件で急激に増殖します。そのため、ダニの繁殖が最も活発になるのは梅雨から夏にかけてです。布団やカーペット、ソファ、ぬいぐるみなどの布製品にはダニが多く生息しており、こまめな掃除や換気をする必要があります。 また、冬場はダニの繁殖は落ち着くものの、暖房を使用することで室内が乾燥しやすくなり、すでに増えたダニの死骸やフンがハウスダストとして空気中に舞うことでアレルギー症状が悪化することがあります。 ダニアレルギーの対策 ダニアレルギーの症状を抑え、快適に生活するためには、環境管理が欠かせません。室内の清潔を保ち、アレルゲンの発生を抑えることで、症状の悪化を防ぐことができます。 室内環境の管理(掃除・換気・除湿など) ■湿度:なるべく60%以下に保ちます。定期的に窓を開けて換気を行い、エアコン・除湿機等を活用して湿気をコントロールしましょう。 ■掃除:ダニのエサとなるホコリやフケを減らすために、こまめな掃除が大切です。掃除機を使う際は、フローリングや家具の表面だけでなく、カーペットや畳の隙間までしっかり吸い取りましょう。 ダニが繁殖しやすい布団やマットレスは防ダニカバーを使用し、シーツや枕カバーは週に1回以上洗濯するのが理想的です。布団乾燥機を活用すると、より高い効果が期待できます。カーペットはダニの温床になりやすいため、可能であれば撤去し、フローリングにしましょう。 なお、衣類も長期間クローゼットにしまっておくとダニが繁殖しやすいため、収納時は防ダニ収納袋を活用したほうがよいでしょう。また、衣替えをして時間をあけて着用する際は、洗濯することをおすすめします。 ダニアレルギーの症状が現れたときの対処法 ダニアレルギーの症状が現れた際の対処法についても見ていきましょう。 対症療法で症状を改善させる ダニアレルギーによる発疹は、主に衣服で覆われる部分に現れ、赤みを帯びたしこりを生じるのが特徴です。かゆみが強く、無意識にかいてしまうことで皮膚が傷つき、さらに炎症が悪化することがあります。そのため、症状が出た際には、医師の指示に従ってステロイド外用薬を用いて早めに炎症を鎮めます。かゆみがひどい場合には、抗ヒスタミン薬を服用します。 免疫療法で根本から治せる可能性も 免疫療法は、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を少しずつ体内に取り入れ、過剰な免疫反応を徐々に弱めていく治療法です。症状を一時的に抑える対症療法とは異なり、根本的な体質改善を目指します。 ダニアレルギーの免疫療法には、皮下免疫療法(SCIT)と舌下免疫療法(SLIT)の2種類があります。皮下免疫療法は、アレルゲンを一定の間隔で注射しながら体を慣れさせる方法で、主にアレルギー性鼻炎・アトピー型喘息が適応。一方、舌下免疫療法は、アレルゲンを含んだ薬を舌の下に置いて体内に吸収させる方法で、現状ではアレルギー性鼻炎のみが適応とされます。どちらも数年単位の継続が推奨されており、SLIT はアナフィラキシーをはじめとした全身副反応が比較的少ないといわれています。 なお、小児については、本剤を適切に舌下投与できると判断された場合にのみ使用可能ですが、5歳未満の幼児に対する安全性は確立されていません。どちらを選択するかは、年齢や症状の現れ方、検査結果など、さまざまな情報をもとに医師が判断します。 * * * ダニアレルギーは、日々の環境管理を徹底することで症状を軽減できる疾患です。こまめな掃除や換気、寝具の適切な管理を心がけることで、アレルゲンの発生を抑え、快適な生活を送ることができます。今回、解説した内容をご自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにお役立てください。 >>関連記事梅雨の時期の感染症に注意!カビやダニによる感染症の症状や予防法を解説 編集・執筆:加藤 良大監修:瀬尾 達(せお わたる)医療法人瀬尾記念会瀬尾クリニック理事長。耳鼻咽喉科専門医。クリニックでの診療の他、京都大学医学部講師や大阪歯科大学講師を兼任。祖父から代々の耳鼻科医の家系。兄は、聖マリアンナ医科大学耳鼻科教授。テレビやマスコミ出演多数。 【参考】〇東京都福祉保健局.「健康・快適居住環境の指針― 健康を支える快適な住まいを目指して ―」https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/web_zenbun12025/5/9閲覧〇日本アレルギー学会「ダニアレルギーにおけるアレルゲン免疫療法の手引き」(2018年6月29日)https://www.jsaweb.jp/uploads/files/180618dani.pdf2025/5/9閲覧

私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です
私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です
コラム
2025年4月30日
2025年4月30日

私は難病ALSを発症して10年になる44歳の現役医師です

「enjoy!ALS」の第2弾が始まりました!今回のシリーズでは、梶浦智嗣先生に寄せられた在宅療養に関する疑問や悩みをもとに、さまざまな疾患の方にも役立つ実践的な情報をお届けします。 再開!「enjoy!ALS 2」 皆さん、こんにちは。私は2021~2023年までの2年間、こちらで「enjoy!ALS」のタイトルでコラムの連載をしておりました。 ありがたいことに、連載が終了してからもたくさんの反響をいただきました。訪問看護師さんや訪問リハビリスタッフさん、在宅療養中のALS当事者の方やその介護士の方々から、「今このような状況なのですが、この場合どうすればよいでしょうか?」との質問が多く寄せられ、実際に家に来ていただいて説明したこともありました。質問の中には工夫次第で解決できるものも多くあり、似たような質問も少なくありませんでした。 いただいたご質問の一部をご紹介します。 【訪問看護師さん】・侵襲の少ない気管吸引や鼻・口吸引のコツ・安全な人工呼吸器のホースの固定方法 など【訪問リハビリスタッフさん】・体や胸郭(肺)の拘縮予防に関するリハビリテーションの工夫【ALS当事者】・安楽な体位(仰臥位や座位、側臥位)のとり方・身の回りに置く必要がある物品(人工呼吸器や吸引器、吸引カテーテルなど)の配置方法・最新のコミュニケーションツール(コミュニケーション方法全般)・ALSの最新の治療について など 実際の在宅療養の現場では、居住スペースの広さや環境は整っているか、ケアに必要な物品が充実しているか、介助者の人数は足りているか、当事者がどこまで積極的なケアの介入を望んでいるかなど、家庭ごとに状況が異なります。そのため、個々に合ったケアプランを立てていく必要があり、なかなか皆さんに共通して当てはまるよいケア方法を見つけていくのは難しいのが現状です。 ただ、そんな中でも皆さんが困っていることには似ているところも多くありました。そこで、ALSに限らず、在宅療養を必要としている、さまざまな疾患の皆さんにも応用できる内容を「enjoy!ALS 2」として、連載していく運びとなりました。 連載終了後の私の経過と現在の状況 はじめに、前回の連載が終了してからの2年間の私の経過と現在の状況を説明させていただきたいと思います。 体調面での大きな変化はなし すでに4年前くらいから全身の運動機能はほぼ全廃しておりましたので、ほとんど変わっていません。唯一自分の意思で動かせるわずかな嚥下機能と噛む力も、さほど変わらず残っていますので、工夫をした飲食方法(>>「気管切開+誤嚥防止術」という考えかた!参照)や歯を使ったタブレット端末の操作(今後の連載で詳しく書きます)は現在もできています。 呼吸機能は、毎日の呼吸リハビリテーション(こちらも今後の連載で詳しく書きます)のおかげで、気管切開を行い侵襲的人工呼吸器(TPPV)を着けた4年前と比べても全然変わっていません。(むしろ、呼吸器の設定は変えていないのに、座位での一回換気量は上がっているので、よくなってるともいえます!) ただ、まぶたを上げる力の低下(眼瞼下垂)と目を動かす力の低下は徐々に進んできています……。 仕事面では新しく始めたことも 約2年前より、訪問診療を行っている「さくらクリニック」の中野の本院と練馬の分院で皮膚科医として働くようになりました。私のように在宅療養を必要とする患者さんたちの主治医と情報を共有して連携しながら、皮膚病変の診療を行っています。 このような体で、どのように患者さんたちの診療しているのか、皆さん、想像できないと思います。参考までに、下記に実際のカルテの一部を載せておきます(図1)。 図1 実際のカルテ(一部) ODT:occlusive dressing technique ※カルテの掲載に関しては、本人・家族、関係者の了承を得ています。 その他、コラムの執筆を行ったり、医師向けのサイトで全科横断コンサルトドクターとしても活動しています。 * * * 以上のように、私の経過を書かせていただきましたが、客観的に見て、私のALSの進行スピードは特別速くもなく、遅くもなく、標準的な範囲だと思います。 たとえALSを発症して10年も経ち、運動機能がほぼ全廃し、声も出せず、人工呼吸器を装着していても、適切なリハビリテーションと、日々の生活の工夫次第で、今までとはまったく違う形で自分らしい充実した人生を見つけていけると私は信じています! ALSを知ってほしい:私の経験から伝えたいこと 今はまだ、日々の診療もコラムの執筆もすべて、歯のわずかな噛む力でタブレット端末を操作して行えています。しかし、ALSは進行性の病気であり、正直に言って、私もあとどのくらいの期間文字を打てるかは分かりません。 それでも、文字が打てるうちに、たとえALSと診断されたとしても「生きたい」と願う人が生きる希望を持てる世の中をつくりたいと考えています。私の10年間にわたる闘病生活の経験と医師としての知識を生かして、後に続く同じ病気の方々の生活が少しでも豊かになるよう、ALS当事者や支援者の皆さんにとって参考になる情報を具体的に、分かりやすく書いていこうと思っています。 そのためには、まず、ALS当事者や支援者の皆さんが、少しでもよいのでALSという病気・病態について理解していただくことが大切と感じています。どんなことができなくなり、何が最後までできるのかを、私なりに説明してから、冒頭でご紹介した皆さんからの質問に答えていく形でコラムを書いていきたいと思います。  コラム執筆者:医師 梶浦 智嗣「さくらクリニック」皮膚科医。「Dermado(デルマド)」(マルホ株式会社)にて「ALSを発症した皮膚科医師の、患者さんの診かた」を連載。また、「ヒポクラ」にて全科横断コンサルトドクターとしても活躍。編集:株式会社照林社

水疱性類天疱瘡とは? 原因や症状、ケアの注意点が分かる【多数の症例写真で解説】
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2025年4月30日
2025年4月30日

水疱性類天疱瘡とは? 原因や症状、ケアの注意点が分かる【多数の症例写真で解説】

在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は水疱性類天疱瘡を取り上げます。これだけは知っておきたい基本的な知識をお伝えします。  本記事では基本的に日本皮膚科学会策定のガイドライン『類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン』に沿った記載をしておりますが、一部筆者の私見も含まれております。その点を踏まえてお読みいただければ幸いです。 水疱症 外傷、熱傷、虫刺され、接触皮膚炎などでも水疱は形成されますが、通常「水疱症」(すいほうしょう)という場合は自己免疫性または遺伝子の異常による先天性の特定の疾患を指します。後者の表皮水疱症という遺伝性の疾患はまれですのでここでは述べません。 自己免疫性水疱症には、表皮細胞間の接着構造に対して抗体をつくってしまう天疱瘡(てんぽうそう)群と、表皮と真皮の結合部位に対して抗体をつくる類天疱瘡(るいてんぽうそう)群があります。類天疱瘡群は類天疱瘡と後天性表皮水疱症に大別され、さらに類天疱瘡は水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)と粘膜類天疱瘡に分類されます(図1)。今回は頻度が高く問題になることが多いBPについて述べたいと思います。図1 水疱症の分類 高齢者に多い水疱性類天疱瘡(BP) BPは高齢者に多く、全国の患者数は、資料によって約7,000~8,000人と記載されている場合もあれば、約15,000~20,000人と記載されている場合もあり、正確には不明です。筆者の感覚では軽症の患者さんを含めればもっと多く、「それなりの規模の高齢者施設であれば、1人や2人の患者さんがいても不思議はない」という印象です1)。 神経疾患(脳梗塞、認知症、パーキンソン病など)との合併や悪性腫瘍との合併率が高いことも指摘されていますが、どちらも因果関係ははっきりしていません。後者に対しては、可能であれば侵襲のない範囲での検索を考慮してもよいでしょう。 自己抗体が基底膜を破壊しBPが発症 表皮と真皮は基底膜という構造で接着されています(図2)。BPでは、この接着に関与するタンパク質に対する自己抗体がつくられ、基底膜が破壊されることによって症状が発生します。基底膜を構成するタンパク質にはいくつかありますが、主なものはBP180とBP230です。それぞれに対する抗BP180抗体と抗BP230抗体が産生されます。 なお、天疱瘡群は、表皮または粘膜上皮の細胞を接着するタンパク質に対する自己抗体がつくられることによって生じます。 図2 表皮・真皮間の微細構造 典型的な症状は水疱とかゆみ 典型的な例では水疱が多数出現します(図3)。基底膜が破壊されると、表皮と真皮の間に隙間ができて水疱が生じます。表皮全体が水疱の「蓋」になるため水疱の膜は厚く、中には液体が充満してテンションが高くなることから「緊満性」水疱と呼ばれます。水疱が破れるとびらんになります。 図3 BPでみられるさまざまな水疱 A:緊満性水疱とびらんを認めます。B:浸潤のある紅斑局面があり、その中に小さい水疱や大きい緊満性水疱がみられます。C、D:緊満性水疱、びらん、痂皮などが多数みられ、皮膚の症状としては重症の例です。E:診察するタイミングにもよりますが、この例のように血痂(「けっか」と読む。血液が乾固した状態のもの)やびらんがメインで、緊満性水疱が見当たらない場合もあります。 一方で、先に述べた尋常性天疱瘡では水疱は表皮内に生じます。水疱の蓋が薄く、すぐにびらんになってしまいます(図4)。水疱の中に出血して血疱になったり、診察する時期によっては水疱がつぶれて乾燥していたり、痂皮になっている場合もあります(図5)。 BPはかゆみが強いことが多く(「痒みシュラン」2)の三ツ星です)、炎症も起こるため紅斑もみられます。しかし、はっきりした水疱がみられないこともあるため注意を要します。 今回は省略しますが、結膜や口腔内、性器などの粘膜に病変が出る例(粘膜類天疱瘡)や、水疱が目立たず結節を形成する例(結節性類天疱瘡)もあります。 図4 尋常性天疱瘡 水疱蓋が薄いため、すぐにびらんになってしまいます。 図5 血疱や血痂となった例 水疱内に出血して血疱となり、さらにそれが破れて乾燥し、血痂になったもの/なりつつある状態が混在しています。 鑑別に迷うことがあり、意外に多くみられる疾患がネコノミ刺症(ししょう)です(図6)。BPと同様に緊満性水疱となりますが、ノミが跳ぶ高さである足首や下腿に水疱が集中する、野良猫が周囲にいるなどのエピソードから鑑別します。難しい場合は抗体の検査も考慮します。 図6 ネコノミ刺症 BPの検査と診断 BPは血液検査、蛍光抗体、皮膚生検から診断を行います。 (1)血液検査 血液中の抗BP180抗体の有無を調べます。2018年から保険収載されるようになり、BPの診断の助けになっています。これに加えて白血球中の好酸球の割合が増加したり、IgEが上昇したりする場合もあるため参考にします。 いくつか、注意点があります。a)一定の割合で抗BP180抗体が検出されず、抗BP230抗体が陽性となる例がある臨床症状でどちらの抗体が出そうか区別できれば楽ですが、今のところはっきりしていません。b)抗BP180抗体と抗BP230抗体の両者ともに陽性になることもある最初から両方検査したいものですが、抗BP230抗体は保険収載されていないので、自費での検査になります。検査会社によっても異なりますが、8,000円程度の費用がかかることが多いです。c)当初陰性であった自己抗体が、その後陽性になることもある症状からBPを疑ったにもかかわらず、抗BP180抗体が陰性で、その後時間をおいた再検査で陽性になった例を多数経験しています。 (2)蛍光抗体 直接法皮膚生検を行い、病変部(ここでは基底膜部)に自己抗体である免疫グロブリン(や補体)が沈着しているかどうかを、蛍光標識抗体を用いて調べる検査です。 間接法患者さんの血清が別の皮膚組織に反応するかどうかを評価する方法です。 (3)皮膚生検 皮膚生検では、まずヘマトキシリン・エオジン法と呼ばれる通常の組織染色法を用いて検査します。表皮の下に水疱がみられ、真皮内の細胞浸潤も一般には強く、好酸球も混ざっています。皮膚生検が行えるようなら、できれば(2)で述べた蛍光抗体直接法も行いたいところですが、一般の検査会社では取り扱いが(おそらく)ありません。総合病院や大学病院の病理部門や研究室に依頼するしかないと思われます。在宅では生検を行うこと自体のハードルがやや高いので、行えない場合も多いです。 BPの診断3)は、症状、検査所見(病理組織学的診断と免疫学的診断)、鑑別診断の3点からなり、一定の基準を満たした場合に確定診断となります。 DPP-4阻害薬によるBP発症に注意 以前から降圧薬、利尿薬、抗生物質などの薬剤によりBPが発症することが指摘されていました。近年では、糖尿病治療に用いられるDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬内服中の患者さんにBPが多くみられることも観察されており、薬歴の聴取は重要です。DPP-4阻害薬内服中の患者さんにBPが発症した場合、内科主治医に連絡して薬剤変更の依頼をしましょう。 重症度はBPDAIを用いて評価 BPDAI(bullous pemphigoid disease area index、略称は「ビーピーダイ」と呼びます)という、BPの重症度を判定するための基準があります3)。(1)皮膚のびらん/水疱(2)皮膚の膨疹/紅斑(3)粘膜のびらん/水疱について、個数や大きさをもとに点数化します。(1)から(3)それぞれの合計スコアを算出して軽症・中等症・重症を判定し、3つのうち最も高い重症度を採用します。 治療はステロイド内服で自己抗体を抑制 重症度により治療方針が決定されます。BPDAIの採点はそれほど難しくないので、BPDAIを用いて軽症から重症までの分類を行います。 軽症の場合 ごく軽い場合はⅡ群(very strong)またはⅠ群(strongest)のステロイド外用で症状を抑えられることもありますが、一般的には内服治療を必要とします。ステロイド内服が著効しますが、プレドニゾロン1日20mg程度でコントロールできることが多いです。治療が長期にわたることが多いため、感染対策、胃粘膜保護、骨粗鬆症対策を同時に行います。 BPに対する特殊な治療として、テトラサイクリンとニコチン酸アミドの併用療法が奏効することがあります。比較的軽症である場合や合併症でステロイド内服が困難である場合などに選択されます。 中等症・重症の場合 多い量のステロイド内服(プレドニゾロン換算で1日30~60mg程度)や、状況により免疫抑制剤や血漿交換なども必要となる場合があります。在宅での治療は難しいかもしれません。 指定難病の医療費助成が受けられる 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)は2015年7月から難病指定を受けており、医療費が助成されます。助成を受けるには難病指定医による届け出が必要です。また、届け出る前に先に述べた確定診断を行わなくてはいけません。BPDAIを用いた評価で中等症以上が対象となります4)。 患部の清潔を保ち感染予防ケアを 皮膚病変が広範囲にあると患部を洗うことを躊躇する患者・介護者もいると思います。ですが、水疱内から出てきた血漿成分や血液などが皮膚に残っていると細菌増殖の温床になる可能性もあるため、清潔にすることが重要です。低刺激の洗浄剤をよく泡立てて、泡で洗い、やさしくていねいにすすぎます。入浴についてはこすらないようにすれば構いませんが、シャワーにとどめておいたほうが無難かもしれません。 また、わずかな外力で水疱形成を誘発することがあるため、絆創膏を直接貼るのは避けます。病変部はガーゼ(場合によっては非固着性のガーゼ)を当てて、ネットや包帯などで固定しましょう。二次感染予防のために清潔に保つことも必要です。  執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)袋秀平:水疱性類天疱瘡.Visual Dermatology 2020:19(12);1257-1259.2)塩原哲夫:痒みシュランとは…….Visual Dermatology 2003:2(9);873.3)類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会:類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン).日皮会誌 2017:127(7);1483-1521.4)厚生労働省:162類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む。) 指定難病の概要、診断基準等.https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001174368.pdf2024/12/13閲覧

ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?
特集
2025年4月22日
2025年4月22日

ヒトメタニューモウイルスの症状・原因・RSウイルスとの違いとは?

ヒトメタニューモウイルス感染症は、乳幼児や高齢者を中心に発症しやすい呼吸器感染症の1つです。症状はRSウイルス感染症とよく似ており、発熱や鼻水、咳が現れるほか、重症化すると呼吸困難を引き起こすこともあります。 本記事では、ヒトメタニューモウイルス感染症の症状や原因、RSウイルスとの違い、感染経路や治療法について解説します。訪問看護の利用者さんが風邪のような症状を訴えた際のアセスメントに役立ててください。 ヒトメタニューモウイルス感染症とは ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus:hMPV)感染症は、特に乳幼児に多くみられる呼吸器感染症です。健康な成人や児童では、軽い風邪症状のみで経過することが多く、無症状のまま終わる場合もあります。しかし、乳幼児や高齢者、心肺疾患や神経筋疾患などの基礎疾患がある方、免疫不全状態の患者では重症化する危険があるため、RSウイルス感染症と並び、注意が必要な病気の1つとされています。 RSウイルス感染症は感染症法に基づく届出対象疾患であり、発生状況の把握が行われていますが、ヒトメタニューモウイルス感染症は届出対象ではないため、正確な流行状況を追跡できません。 ヒトメタニューモウイルス感染症の症状 ヒトメタニューモウイルス感染症は、感染後3~5日以内に鼻水や発熱が見られることが一般的です。軽症の場合は、発熱や咳嗽、鼻汁、咽頭痛、倦怠感など風邪に似た症状が現れますが、重症化すると、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)や呼吸困難感が生じ、肺炎、細気管支炎へ進行することがあります。 初めて感染する小児では咳や喘鳴が生じることもあります。特に、生後6ヵ月未満の乳児の場合、初期症状として一時的に呼吸が止まる無呼吸発作が起こることがあります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の原因 ヒトメタニューモウイルス感染症は、ヒトメタニューモウイルスによって引き起こされる急性呼吸器感染症です。このウイルスは2001年にvan den Hoogen(オランダ)らによって小児の気道分泌物から初めて分離されました。その後の研究で、ヒトメタニューモウイルスは世界中に広く分布し、呼吸器感染症の主要な原因の1つであることが明らかになりました。 ヒトメタニューモウイルス感染症と他の感染症の違い ヒトメタニューモウイルスはRSウイルスと同じニューモウイルス科に属しているため、症状や感染の広がり方がよく似ています。鼻水や発熱といった軽度の症状から、咳や喘鳴、呼吸困難といった重症化したケースまで幅広い症状を引き起こします。 >>関連記事RSウイルス感染症の症状・原因・治療法は?子どもも大人も注意 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路 ヒトメタニューモウイルス感染症の感染経路は、飛沫感染と接触感染です。感染した人が咳やくしゃみをした際に放出されたウイルスを吸い込むことで感染が成立します。 また、ウイルスが付着した手指や物を介して口や鼻、目の粘膜に触れることでも感染が広がります。 ヒトメタニューモウイルス感染症の好発年齢 生後6ヵ月から2歳頃までの子どもが最も感染しやすく、初めての感染となるケースが多いため、免疫が十分に備わっておらず重症化しやすい傾向があります。また、多くの場合、5歳~10歳までに感染するとされています。一回の感染では再感染を防ぐための十分な終生免疫が得られず、再感染を繰り返します。 ヒトメタニューモウイルス感染時の登園・登校・通勤について ヒトメタニューモウイルス感染症は乳幼児や高齢者の感染のリスクが高く、無理に登園・登校・通勤すると感染拡大につながる可能性があります。感染拡大を防ぎながら日常生活へ復帰するための基準や注意点について解説します。 登園・登校の基準 ヒトメタニューモウイルス感染症は、第三種感染症・その他の感染症に該当し、校長が学校医の意見を参考に出席停止の判断を行うことができます。 保育園や幼稚園、小学校では、解熱後24時間以上が経過し、全身状態が良好であれば登園・登校が可能とされることが多いですが、咳や鼻水といった症状が強く、周囲に感染を広げる可能性が高い場合は、さらに数日間の経過観察を求められることもあります。 職場・通勤時の注意点 体調が優れない場合や発熱が続いている場合は無理に出勤せず、自宅での療養が推奨されます。通勤時にはマスクを着用し、手洗いや咳エチケットを徹底することで、周囲への感染拡大を防ぐことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症の治療・対応法 ヒトメタニューモウイルス感染症に対する特効薬は現在のところ存在せず、対症療法が中心です。発熱がある場合は解熱剤を使用し、咳や痰がひどい場合は鎮咳薬や去痰薬を用います。十分な水分補給と休養をとりながら、体力の回復を促すことが重要です。 ヒトメタニューモウイルス感染症で医療機関を受診する目安 医療機関を受診する目安は、高熱が続く、息苦しさを感じる、喘鳴がひどくなっているときなどです。特に乳幼児では、無呼吸発作やぐったりしている様子が見られた場合、速やかな受診が必要です。また、基礎疾患のある方や高齢者は重症化しやすいため、症状が悪化する前に医療機関に相談しましょう。 * * * 訪問看護の現場では、感染の初期症状を見逃さず、適切な対策を講じることが重要です。呼吸の変化や発熱などに注意を払いながら、必要に応じて医療機関の受診を促しましょう。 編集・執筆:加藤 良大監修:久手堅 司せたがや内科・神経内科クリニック院長 医学博士。「自律神経失調症外来」、「気象病・天気病外来」、「寒暖差疲労外来」等の特殊外来を行っている。これらの特殊外来は、メディアから注目されている。著書に「気象病ハンドブック」誠文堂新光社。監修本に「毎日がラクになる!自律神経が整う本」宝島社等がある。 【参考】〇国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「COVID-19流行下の小児基幹病院における当院に入院した重症ヒトメタニューモウイルス感染症の状況」(2022年8月30日)https://www.niid.go.jp/niid/ja/route/respiratory/1744-idsc.html?start=62025/4/15閲覧〇島根県感染症情報センター「ヒトメタニューモウイルス(hMPV)」(2018年4月)https://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/kansen/topics/hMPV/index.htm2025/4/15閲覧

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