疾患知識に関する記事

百日咳の症状・原因・治療法について解説
百日咳の症状・原因・治療法について解説
特集
2024年2月13日
2024年2月13日

百日咳の症状・原因・治療法・ワクチンについて解説。咳で骨折することも?

百日咳は、世界と比較すると日本での発症率は低いものの、発症すると激しい咳によって生活に支障をきたす可能性がある疾患。ワクチンを接種した上で、適切に感染対策を行うことが大切です。この記事では、百日咳の症状や原因、治療法、ワクチンなどについて改めて解説します。訪問看護師さんご自身や家族の健康管理はもちろん、利用者さんのアセスメントに役立てるためにも、基礎知識をおさらいしておきましょう。 百日咳とは 百日咳は、けいれん性の咳が現れる感染症です。多くの場合は軽症で済むものの、免疫が不十分な乳児期には重症化することがあります。日本をはじめ、世界中でDPT三種混合ワクチンやDPT-IPV四種混合ワクチン接種が普及したことで、百日咳は激減しています。しかし、ワクチンの未接種や免疫機能の低下などの要因により、世界でしばしば流行しているのが現状です。 百日咳の症状 百日咳の経過は、以下の3つに分類されます。 カタル期2週間程度続き、少しずつ咳が強くなっていきます。痙咳期(けいがいき)2~3週間にわたりけいれん性の咳が続きます。短い咳が続いたり、「ヒューヒュー」という呼吸音がみられたりすることもあります。回復期回復期では2~3週間かけて症状が和らいでいきます。 多くの場合は、発症から2~3ヵ月程度で完治します。微熱程度で済むほか、乳児の場合は目立った症状がみられないことも少なくありません。無呼吸発作をきっかけに受診したところ、百日咳が判明するケースもあります。 また、大人が百日咳に感染した場合は、乳幼児と違い、重症化することは少ないですが、原因不明の発熱を伴わない発作的な咳が2週間以上続きます。 百日咳の原因 百日咳の原因は、百日咳菌の感染です。ただし、パラ百日咳菌によって発症する場合もあります。感染経路は飛沫感染と接触感染です。 百日咳の治療法 生後6ヵ月以上の場合、マクロライド系抗菌薬を使用します。特にカタル期に治療を始めることが有効です。ただし、新生児の場合はマクロライド系抗菌薬の使用による肥厚性幽門狭窄症(ゆうもんきょうさくしょう/IHPS)の発症リスクが上昇することがあるため、アジスロマイシンによる治療が推奨されています。また、咳に対しては鎮咳去痰剤を使用し、必要に応じて気管支拡張剤の使用も検討します。 百日咳の自宅での対応方法 症状が軽い場合、自宅療養で問題ありません。ただし、症状が軽いかどうかの判断が難しいため、けいれん性の咳が出た際は医療機関を受診し、薬物療法を受けることが大切です。 自宅では静かに過ごし、咳が激しいときは水分や食事の摂取を複数回に分けましょう。また、咳が激しい、呼吸困難になっている、嘔吐が続いて水分を十分に摂取できないといった場合は、速やかに医師に相談する必要があります。 百日咳の出勤・出席停止の扱いについて 百日咳は第2種感染症に定められており、症状がなくなるか5日間におよぶ抗菌薬による治療が終了するまでは学校は出席停止です。ただし、学校医やその他の医師の判断のもと、出席停止期間は変更できます。 職場への出勤については、明確な規定は定められていません。まずは医療機関を受診し、医師の判断を仰ぐことが大切です。その上で勤務先に連絡し、欠勤するかどうか話し合って決めましょう。 百日咳のワクチンは? 世界中でDPT三種混合ワクチンが普及しています。日本では、DPT三種混合ワクチンだけでなく、不活化ポリオワクチンを含むDPT-IPV四種混合ワクチンが定期接種となっています。接種スケジュールは生後3ヵ月以上90ヵ月(7歳6ヵ月)未満で4回接種です。最初の3回の初回免疫と最後の1回の追加免疫に分類されており、初回免疫は20~56日の間隔で3回、追加免疫は3回目の接種から6ヵ月以上の間隔で1回行います。 ただし、ワクチンの効果は4~12年かけて次第に弱まっていくため、ワクチンを接種していても百日咳にかかる可能性があります。特に乳児への感染はリスクが高いため、妊娠後期にDPT三種混合ワクチンを接種し、母体の感染を防ぐとともに、赤ちゃんが抗体を持って生まれてくるようにすることで、生後1ヵ月未満の新生児期の感染を防ぐことが推奨されています。 百日咳の咳がひどいと骨折することもある? 百日咳は激しい発作的な咳が特徴で、これが繰り返されることで肋骨骨折が発生する可能性も。激しい咳の衝撃によって肋骨に負担がかかり、繰り返しの咳によって疲労骨折が引き起こされます。特に高齢者や骨粗しょう症の方など骨がもろく弱い人は、骨折のリスクが高まります。 もし、胸部に痛みを感じるときは速やかに医療機関を受診し、骨折に関する診断と適切な治療を受けましょう。 百日咳に一度かかると二度とかからない? 百日咳は終生免疫を得られる感染症ではありません。一度感染しても、再びかかる可能性があります。6ヵ月未満の乳児は特に注意が必要であり、予防接種を受けて感染と重症化のリスクを抑えることが重要です。 * * * 百日咳は、けいれん性の咳を特徴とする感染症で、終生免疫を獲得できないことから生涯に複数回かかる可能性があります。乳児は重症化しやすいため、家族が百日咳にかかった際は家庭内でなるべく接触しないよう注意が必要です。今回、解説した内容を自身の健康管理や利用者さんからの質問対応に活かしてください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇国立感染症研究所「百日咳とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/4772023/11/20閲覧〇一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会「ワクチンと病気について」https://www.vaccine4all.jp/topics_I-detail.php?tid=452023/11/20閲覧

糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
糖尿病【訪問看護師の疾患学び直し】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

「糖尿病」の知識&注意点【訪問看護師の疾患学び直し】

このシリーズでは、訪問看護師が出会うことが多い疾患を取り上げ、おさらいしたい知識を提供します。今回は糖尿病について、訪問看護師に求められる知識、どんな点に注意すべきなのかを、在宅医療の視点から解説します。 この記事で学ぶこと 糖尿病患者の在宅療養では、脳卒中や心筋梗塞、低血糖症などの救急搬送を要する疾患の発症予防や、■高血糖 ■低血糖 ■シックデイ ── などへの留意が必要です。そのためには、外来受診や訪問診療での医師の診察に加え、ケアマネジャーを中心とした地域の訪問薬剤管理指導や訪問看護、訪問栄養指導、訪問リハビリテーション、訪問介護等のサポートと、何よりご家族の協力が不可欠です。シームレスかつタイムリーな地域連携のために、ハイセキュリティな医療用SNSをはじめとしたICT利用や、日本看護協会が推奨する特定行為研修修了看護師の地域配置が、一助になると考えられます。 在宅医療での糖尿病患者の特徴 在宅医療で介入が必要な糖尿病患者は、高齢や認知症だけでなく、廃用症候群や摂食嚥下障害の合併があり、高血糖、低血糖、シックデイ、自己管理困難、介護力不足など、複数の療養阻害要因を抱えるケースが散見されます。これらに対して安全性を担保するために、以下の対応が必要です。 治療方針 在宅での高齢者糖尿病患者では、身体機能や認知機能、心理状態、社会的環境を勘案し、個別的かつ総合的に目標を設定することが求められます。具体的には、認知機能やADL、そして重症低血糖リスクが危惧される薬剤の使用有無によって、血糖コントロール目標値を設定します。詳細は「高齢者糖尿病診療ガイドライン」1)を参照してください。 糖尿病を持つ患者への訪問看護 訪問看護では、患者の協力体制を得ることが不可欠です。血糖自己測定(SMBG)の値推移、日々のバイタルサイン、身体状況からアセスメントして推測される状況を、医師へ報告する必要があります。 患者ごとの血糖コントロール方針が立てられる 高齢患者では、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」2)に沿って、年齢や認知機能などをもとに、カテゴリー分類が判断されます。高齢者では、健康状態や治療内容によって、血糖コントロールの方針が異なります。必ずしもHbA1c値を下げるのがよいわけではなく、カテゴリーによってはHbA1c値を緩徐に上げる場合もあります。そのため、連携先の医師と、患者の情報を共有することが重要です。 患者のADLや年齢、薬剤、残存疾患といった情報から、患者にとって最適な血糖コントロールが判断されます。患者に接する機会が多い医療職である訪問看護師が、患者との人間関係を構築し、日常生活の情報を聞き取り、医師へ情報提供できる体制が望ましいでしょう。また、患者に対し、日々の治療に対するモチベーションが低下しないよう、血糖測定や内服を忘れず実施できていることへの労りの声掛けも大切です。 過去に低血糖を起こした既往がないか 低血糖は生命リスクを高めます。過去に低血糖を起こしていればリスクが高いと判断し、対応することが必要です。シックデイの際にはどのような対策をとればよいか主治医に相談の上で、患者へ指導します。 また、低血糖を頻発している人は、交感神経症状である発汗や頻脈、手指振戦が出ないこともありますので、中枢神経症状である頭痛や集中力低下がないかを注視することも必要です。 薬剤の服薬状況 過去に処方されて余っている薬などがないかを、確認する必要があります。過去処方されていたスルホニル尿素薬(SU薬)など、低血糖を惹起する血糖降下薬が出てきたから「今の薬とあわせて飲んでしまった」というケースもありえ、場合によっては救急搬送や致命的な状態に至る場合もあります。現在処方されている薬だけではなく、過去処方の残薬がないかを初回介入時に調べることが重要です。 訪問看護師に求められる対応とそのポイント 低血糖 低血糖で現れる自律神経症状(発汗、動悸、手の震えなど)が高齢者では現れにくく、高齢者は低血糖となっても無自覚となりやすい特徴があります。高齢者の低血糖は、転倒や骨折、うつ状態の誘因になるともに、認知症発症の危険因子でもあります。QOLの低下にもつながるため、注意を要します。 経口摂取が可能な場合は、ブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料200mLを摂取し、15分後に血糖を再測定します(ブドウ糖以外の糖類では効果発現が遅れます)。 経口摂取が不可能な場合は、ブドウ糖や砂糖を口唇と歯肉の間に塗りつけ、グルカゴンがあれば1mgを注射し、医療機関に搬送となります。応急処置で意識レベルが一時回復しても低血糖の再発や遷延があり、注意を要します。 シックデイ 急性疾患の併発等によって、血糖コントロール悪化、食事摂取量低下があれば、対策が必要です。可能であれば血糖値を頻回に測定しながら、家庭ではできるだけ経口的に、水分・炭水化物・塩分を摂取させます。お粥やスープ、お茶、ジュース、アイスクリームなどが摂取しやすいとされています。 薬剤コンプライアンスとアドヒアランス 独居や老老介護生活の患者の場合、在宅医療の開始となった早期に、残薬整理の介入を実施することは、過量服用や薬剤不適切使用の防止に有用な手段です。 また、訪問薬剤管理指導により、薬剤師が定期的に生活状況を確認することで、食前食後薬の用法統一、腎機能・血糖値・食事量を考慮した減薬、認知機能や運動機能を考慮した注射剤デバイス変更など、処方への提案が可能です。薬剤師による電話フォローも、コンプライアンス、アドヒアランス両方の向上に寄与すると考えられます。 自己血糖測定や自己注射の援助 自己管理が必要にもかかわらず、それが困難な患者では、 ■家族や訪問看護による他者管理■訪問薬剤管理指導、訪問介護等による見守りのもとでの自己管理を検討します。 独居や経済的問題等でコメディカルの介入が困難な場合には、スマートフォンのビデオ通話機能を利用し、遠隔で看護師見守りで実施するケースもあります。 制度面の知識 ■身体障害者手帳申請:肢体不自由、視覚障害、じん臓機能障害(eGFR20未満)等■自治体ごとの医療福祉費支給制度の利用で、自己負担の費用を軽減できる場合があります。しかし、独居高齢患者等では、申請準備が困難なケースも少なくありません。ケアマネジャーが中心となり、本人の意思に寄り添いながら、主治医や多職種、福祉や行政等の間に立ち、申請援助をすることも重要です。 特定行為研修修了看護師の活躍 秋田県由利本荘市は、全国的にも高齢化率が高く、訪問診療医が少ない地域です。そのような地域において、在宅にかかわる看護師の特定行為研修を進める動きが活発に行なわれています。これは、秋田大学大学院医学系研究科 安藤秀明教授のご協力のもと、訪問診療医が実習を担当し、働きながら地域で特定行為研修を受講できる体制が構築されました。2022年には第1期生として4法人6名の看護師が研修を受けました。 特定行為研修修了者の活動により、医師数が限られた地域であっても、望まれるケアの充足につながります。たとえば、特定の範囲内であれば基礎インスリン量の変更も、医師の指示を待たずに看護師が変更することができます。専門的な医学教育を受けた看護師が訪問することで、地域で、病院に近い質の高い糖尿病療養を実施できる一助になると期待されています。 訪問看護師による遠隔指導 由利本荘市のごてんまり訪問看護ステーションでは、訪問看護師による遠隔指導を行なっています。在宅患者にタブレットを貸与し、SMBG指導や超速効型スケール指導、インスリン注射指導を遠隔で実施しています。高齢になるほどインスリン単位数間違いの危険性が高くなりますが、つど遠隔で指導を実施することで、指導効果は上がり、単位数間違いによる低血糖リスクを予防することができます。 遠隔指導のよさは、通常は入院しなければ困難な強化インスリン療法の指導でも、在宅で実施できることです。指導のために入院となると、筋力や認知力の低下が避けられませんが、それらを防ぐこともできます。何よりも入院費の削減に大きな効果を発揮します。 2023年12月現在は、D to P(Doctor to Patient)による遠隔診療に対する診療報酬算定は要件があるものの認められていますが、N to P(Nurse to Patient)またはD to P with Nについては診療報酬上の評価がありません。しかし、きたるべき超超高齢社会と限界集落の増加に備えてN to Pを実施していかなければならない地域として、このような取り組みを行なっています。 執筆:谷合 久憲  たにあい糖尿病・在宅クリニック院長藤沢 武秀ごてんまり訪問看護ステーション看護師血糖コントロールに係る薬剤投与関連特定行為研修修了者八鍬 紘治日本調剤東北支店在宅医療部薬剤師糖尿病薬物療法履修薬剤師秋田県糖尿病療養指導士長堀 孝子SOMPOケア由利本荘介護支援専門員木村 有紀ごてんまり訪問看護ステーション作業療法士齋藤 瑠衣子たにあい糖尿病・在宅クリニック管理栄養士 編集:株式会社メディカ出版 【参考文献】1)日本老年医学会ほか編著.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,264p.2)日本老年医学会ほか編著.「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針」.『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』.東京,南江堂,2023,34.3)週刊日本医事新報  NO.5198 2023

不眠への対応【精神症状の緩和ケア】
不眠への対応【精神症状の緩和ケア】
特集
2024年2月6日
2024年2月6日

不眠への対応【精神症状の緩和ケア】

身体疾患を抱える患者さんの中には、不安や抑うつ、不眠といった症状を呈し、ケアが必要な方がいます。このシリーズでは主にがん患者さんの事例を中心に、患者さんが訴える精神症状の問題にどう向き合えばよいかを考えていきます。今回のテーマは「不眠」です。 不眠とは睡眠の開始と維持に関する問題があり、日中に倦怠感や思考低下、意欲低下、食欲低下といった不調が出現している状態。不眠は、入眠困難(寝つきが悪い)、中途覚醒(何度も目が覚める)、早期覚醒(早朝に目が覚める)などに分類される。 がん患者さんにみられる不眠 睡眠は疲れた心身を回復させ、体調を整えるために大切です。しかし、がん患者さんの30~50%が不眠を経験するといわれており1)、がんと診断された直後や治療中、治療終了後、緩和期などに不眠で悩む人は少なくありません。 事例:Cさん(80代、女性、独居) 肝臓がんの診断で手術を受け、経過に問題なく半年前に退院。近隣に住む息子夫婦が連れ添い、定期的に外来通院し検査を継続。薬剤管理や体調確認目的で訪問看護を利用しています。 退院直後は気が張っている様子で元気そうだったCさん。ところが、近頃あまり元気がありません。訪問看護師が問いかけてみると、「何だか夜眠れなくて。昼間にうとうとしてしまい、結局1日何もできない。こんな生活だと張り合いもないし、食欲もない」との返事がありました。 訪問時、がん患者さんから「以前に比べて疲れやすくなった」「よく眠れない」「眠りが浅い」という悩みを訴えられることが少なくありません。Cさんの場合、眠れないことに加えて、そのことが日中の生活に影響している様子もうかがえました。 不眠の状態を評価する DSM-5では、不眠の診断基準として入眠困難、中途覚醒、早期覚醒のうち1つ以上を伴い、日中の社会的、行動上などの生活機能障害が週3回以上あり、3ヵ月以上持続すると定義しています2)。 Cさんにどのように眠れていないのか詳しく聞くと、「寝ようと思って11時には布団に入るけれど1時過ぎまで眠れない。寝る時間は遅いのに朝5時には目が覚める」と話されました。これは入眠困難と早期覚醒に該当します。また、家にいるときだけでなく、デイサービスの間も眠気があり、こうした状態が3ヵ月以上も続いているとのことでした。 訪問看護師は、Cさんの不眠の原因を探ると同時に、まずは薬物療法以外の方法で、生活の中に取り入れやすい工夫を紹介することにしました。 睡眠を妨げる原因を把握する 不眠の原因には、がんの進行や治療による痛み、入退院による環境の変化、服用している薬剤の影響などがあります。さまざまな精神疾患の前駆症状や随伴症状である可能性もあります。患者さんの不眠の原因を見きわめ、適切な対応につなげることが大切です。 Cさんは、現段階では痛みや発熱など身体的な苦痛は感じていません。退院後の生活にも大きな変化はないため、それらが不眠の原因とは考えにくい状況です。そこで、不安や適応障害などの心理的な原因がないか確認してみることにしました。 すると、Cさんは「家に一人でいると、これから先どうなるのか、再発したらどうすればよいのかと、とりとめもなく考えてしまう」と話されました。Cさんの病状は一段落しており、子どもたちが家に来る機会もすっかり減っています。日々の困りごとは医師や看護師、家族に相談できているので、何も手につかないくらい不安な状況ではないそうですが、一人で過ごす時間が長くなり、そうしたことを考えてしまうようです。 睡眠習慣の見直しを中心に対応 不眠への対応のポイントは原因を取り除き、症状を緩和することです。訪問看護師はCさんの訴えから、不安の緩和、現在服用している薬剤の調整と睡眠に関する療養相談を行うことにしました。 不安の緩和 Cさんは漠然とした将来への不安を抱え、ストレスを感じているようです。まずはCさんの不安を緩和するために、十分な時間をとって話を聞くようにしました。 薬剤の調整 Cさんは通院している大学病院の肝胆膵科以外にも、内科や整形外科、泌尿器科、眼科、耳鼻科など多くのクリニックを受診し、さまざまな薬剤を処方してもらっています。そこで、かかりつけ薬局に相談し、薬剤調整と不眠の原因になる薬剤がないか確認してもらうことにしました。 また、医師にも相談し、不眠時の内服薬が開始されることに。Cさんは「薬に頼ると中毒みたいになってやめられないのでは」と心配されましたが、訪問看護師が医師の指示通り適切に服用することで依存状態にはならないと説明することで服用に納得されました。 なお、痛みや息苦しさといった苦痛症状が睡眠に影響している場合は、その症状を緩和する方法を医師や薬剤師に相談しましょう。 睡眠薬を使用する際は、非がん患者さんで呼吸不全症状があると、薬剤の呼吸抑制作用が強く出る場合があるため注意が必要です。また、肝不全や腎不全などの患者さんの場合、薬剤の代謝・排泄に影響するため、肝機能や腎機能の状態を確認しながら使用します。睡眠薬については医師や薬剤師と十分相談するようにしてください。 睡眠に関連する療養相談(非薬物療法) 非薬物療法として、夜間の睡眠のみに注目するのではなく、日々の生活リズムの見直しも大切です。またCさんからは「決まった時間に寝て、決まった時間に起きなければならない」との思いが強くあるような印象も受けました。そのため、これまでの睡眠習慣に固執せず、今の自分自身にあった睡眠習慣を身につけてもらえるようなサポートを行うことにしました。 具体的な対応は以下のとおりです。 [1]生活リズムの見直しをすすめる<具体策> 何時に寝て、何時に起きているかを確認し、希望する睡眠時間が年齢相応か確認する。加齢に伴い実際に眠れる時間は短くなる。「寝なくては」と必要以上にベッドで横にならず、患者さんの年齢に応じた睡眠時間を把握し、その時間、眠れるように工夫する。就寝時間をコントロールするのではなく、起床時間をコントロールする。寝る時間が短くなっても熟眠感が得られるような睡眠パターンに目を向けることが大切。日中に適度な運動を行い、朝食をしっかりと摂るようにする。眠たくなってからベッドに入るようにし、環境と入眠開始の関連づけを行う。午睡はしないほうがよいが、日中どうしても眠いときは、15時までに20~30分程度の短い午睡をとるようにする。 [2]眠れないときの対応を伝える<具体策> ベッドに入っても寝付けないときは、いったんベッドを離れ、眠たくなったら再びベッドに入るようにする。 [3]眠る前の注意事項を伝える<具体策> カフェインを摂取しないようにする。就寝前にリラックスできる習慣があれば取り入れる。 非がん患者さんにみられる不眠への対応 心不全や呼吸不全のような非がん疾患の場合は、上記の内容に加え、睡眠を障害する症状の緩和ケアが必要です。例えば、終末期心不全では、60~88%に呼吸困難、69~82%に全身倦怠感、35~78%に疼痛、70%前後に抑うつ症状があるといわれています3-5)。これらの症状に対応することが睡眠障害の改善につながります。がん患者さんとは異なり、「寝てしまうと、もう起きられないのではないか」というような漠然とした不安を訴える方も多い印象があるため、強い不安を認めた場合には不安に対する支援が大切です。 * * * 不眠は身体疾患や精神疾患と相互的な因果関係があるといわれています。不眠の原因への対応を念頭に置きつつも、不眠そのものに積極的な介入が推奨されています。このため、眠れないという訴えをおろそかにせず、しっかりと受け止め支援してほしいと思います。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師 ●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)谷向 仁著.「不眠」,森田達也,木澤義之監修,西 智弘,松本禎久,森 雅紀,ほか編.『緩和ケアレジデントマニュアル第2版』.東京,医学書院,2022,p.311.2)American Psychiatric Association. 『Diagnostic and statistical manual of mental disorders(DSM-5®)』. Washington, DC, American Psychiatric Pub, 2013.3)Krumholz HM, et al. Resuscitation preferences among patients with severe congestive heart failure: results from the SUPPORT project. Study to Understand Prognoses and Preferences for Outcomes and Risks of Treatments. Circulation 1998; 98: 648–655.4)Levenson JW, et al. The last six months of life for patients with congestive heart failure. J Am Geriatr Soc 2000; 48: S101–109.5)Solano JP, et al. A comparison of symptom prevalence in far advanced cancer, AIDS, heart disease, chronic obstructive pulmonary disease and renal disease. J Pain Symptom Manage 2006; 31: 58–69. 【参考文献】〇 厚生労働省.健康づくりのための睡眠指針2014(平成26年 3月).https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf(2023/10/20閲覧)〇 国立がん研究センター.がん情報サービス「眠れない・不眠 もっと詳しく」.https://ganjoho.jp/public/support/condition/insomnia/ld01.html(2023/10/20閲覧)

訪問看護 緊急時の対応法(窒息)
訪問看護 緊急時の対応法(窒息)
特集
2024年1月30日
2024年1月30日

訪問中に利用者さんが窒息したら【訪問看護 緊急時の対応法】

訪問先で思わぬ出来事に遭遇したとき、訪問看護師としてどう動けばよいのでしょうか。このシリーズではさまざまな緊急時に対し、具体的な臨床知をもとに何を確認・判断して、誰にどの手順で連絡・調整すればよいか分かりやすく解説します。今回のテーマは利用者さんが窒息したときの対応法です。 注意していても起こり得る誤嚥や窒息 訪問看護師は普段から訪問看護サービスを提供するなかで、利用者さんの嚥下機能を観察し、評価を行っているはずです。そして、その嚥下機能に応じて看護計画を立案し、計画に沿って口腔機能の訓練や食事形態の調整などを実施しています。嚥下機能に問題があれば、在宅で主に介助を行う家族や訪問介護員(ヘルパー)に嚥下能力の情報を共有し、安全な介助方法を指導するといった連携をもって誤嚥予防に取り組んでいることでしょう。 ところが、細心の注意を払ってケアを実施していても軽い誤嚥を起こしてしまうことがあります。アセスメントの結果、最初から嚥下に問題ありと判断できる場合、吸引器が準備できているとよいでしょう。ご家族が安心して安全に吸引できるように指導しておくことも訪問看護師の役割です。口腔ケアに吸引器を活用して誤嚥性肺炎の予防に用いることもできます。また窒息を疑うときにも吸引器が役立ちます。咳嗽が誘発され、異物が喀出されやすくなります。 訪問看護では誤嚥リスクの高い、体力の低下した高齢者や小児の利用者さんも担当します。「窒息かも!?」という場面に遭遇したときの対応について解説します。 窒息のサインを見逃さない 窒息に早急に対応するために、まずは窒息のサインを見逃さないようにします。最初の症状は咳き込みですが、重篤な場合、以下の症状がみられます。 いびきのように声を振り絞っている、または声を出すことこができない咳が弱い、または咳をすることができない両手でのどのあたりをかきむしる、わしづかみにする(チョークサイン)呼吸が徐々に弱まる顔面蒼白けいれん症状意識の低下 このような症状がみられたら気道閉塞を起こしている可能性があります。すぐに気道内の異物を取り除く必要があります。 窒息時の対応法 声かけをして反応をみます。声かけに反応があれば「咳をして!」と強い咳払いを促し、気道に詰まった異物を喀出できるまで介助します。先述のとおり、咳が弱い、呼吸が弱まるなどの様子がみられたら窒息の可能性があります。次に示す背部叩打法やハイムリッヒ法を行ってください。 背部叩打法 前傾姿勢、あるいは座位保持ができない場合や仰臥位の状態であれば側臥位の姿勢にして、その姿勢を保持したまま、左右の肩甲骨の間を手のひらの付け根あたりでかなり強く叩きます。4~5回叩いたら表情や呼吸音、呼吸状態を確認しながら、異物が出てくるまでこれを数回繰り返します。その場の状況判断にもよりますが、救急車を要請することも必要です。 ハイムリッヒ法 重度の気道閉塞では、異物を喀出させるための緊急対応としてハイムリッヒ法(腹部圧迫法、腹部突き上げ法とも呼ばれる)が推奨されています。ただし、妊産婦や乳児には行えません。寝たきりで座位保持ができない利用者さんに対しても不適切な場合があります。また、初めてハイムリッヒ法を実行しようとしても容易ではありません。実施可能な要件を熟知しておくとともに、適切に対処できるように知識・技術をしっかり習得しておくことをおすすめします。 意識が消失したら心肺蘇生、吸引も考慮 もし、意識が消失するようであれば、直ちに心肺蘇生に移ります。蘇生しながら口腔内に見えている異物を除去したり、吸引を実施したりします。 異物が取り除けたら十分な観察を 異物を取り除けたら深呼吸を促します。呼吸状態が落ち着いた後も、十分な観察が必要です。口腔内の観察では異物の残渣や傷がないか、歯に問題がないかをみます。部分入れ歯を装着していた場合、あったはずの入れ歯がなくなっていると新たなトラブルになってしまいます。また、発声したときに痛みやかすれ声(嗄声)がないか、本人の違和感といった自覚症状も確認しましょう。 異物除去後の最初の経口摂取は、とろみを付けた水分を一口からゆっくり摂取してもらい、しばらく様子を見ながら徐々に元に戻していきます。 掃除機での吸引はすすめられない 一部の通説では窒息したときには掃除機が有効といわれていますが、衛生上の問題や本来の使用目的ではないこと、ノズルの硬さなどから口腔内を傷つけるリスクのほうが高いため、決しておすすめできません。知識として頭の隅に残しておく程度がよいと思います。 誤嚥の原因は食事以外にもある 窒息事故はほんの数分でも脳に深刻なダメージを与えてしまいます。後遺症を残す可能性があるため、普段から予防に努め、急変時には今回紹介したような手順で対応できることが重要です。 また、窒息は食事中の誤嚥以外にも嘔吐物の誤嚥や痰の性状によっても起こることがあります。利用者さんの病状をよく観察し、専門家として体位の調整や痰と水分量のバランスを検討するといった事前の対処もとれるようにしておきましょう。 誤嚥の可能性ありなら最善策をとる ここで筆者がかかわった事例の一つを紹介します。今回の対象者は発話がほぼない認知症高齢者の利用者さんで、コミュニケーションもほとんどとれません。嚥下のレベルは、固形物を咀嚼できず、栄養剤を吸い飲みで口腔内に流すと何とか嚥下ができる程度です。 吸い飲みの「吸い口」が見当たらない 食事介助はヘルパーが実施しています。ある日、介助中に吸い飲みに付属しているシリコンゴム製の吸い口が見当たらないことに気がつきます。「飲み込んでしまったようだ」とヘルパーから訪問看護ステーションに連絡があり、すぐに訪問しました。 利用者さんの口腔内を確認するも吸い口は見当たりません。明らかな呼吸困難もなく、その状況からは誤飲したかどうかは見きわめられませんでした。しかし、吸い口が見当たらないのは事実です。今は問題ないと思えるものの、吸い口の形状から気管分岐部あたりに留まっているとしたら、今後問題が生じる可能性も考えられました。 本人は苦痛や違和感を訴えることができない状態です。何も問題がないという結果であったとしても、安心できる結果を得られることから、救急車を要請して受診してもらうことにしました。検査で三日ほど入院しましたが、結局、異常は見つからず無事に帰宅されました。 * * * 誤嚥は肺炎を引き起こします。肺炎を繰り返すと入退院につながり、利用者さんの負担が増えます。また、窒息事故は利用者さんやご家族との関係性に禍根を残すこともあります。担当した訪問看護師も自責の念にかられてしまうでしょう。そのような事態を防ぐためにも日ごろからのリスク対応が必要です。 在宅は病院と違い、病状変化においてすぐに医師の診察や検査を受けることはできません。窒息に限らず在宅看護では常に、今何が起きているのかということをしっかりと把握し、どう対応するかを判断する能力が求められます。看護師一人で対応するのではなく、ぜひステーション全体でリスクマネジメントに取り組むようにしていただければと思います。 執筆:阿部 智子訪問看護ステーションけせら統括所長 ●プロフィール約12年の臨床経験後、育児に専念する期間を経て、訪問看護の道に入る。自宅を訪問し、利用者との個別ケアを通して看護師としての力量の評価を得られ、利用者一人ひとりの生きざまを感じることができる訪問看護に魅力を感じる。2000年に「訪問看護ステーションけせら」を設立し、看護と介護を一体的に運営し、医療と生活の両面から在宅を支えられる実践を行ってきた。最期まで地域で暮らしたいという思いも支えられるようにホームホスピスの運営と、24時間対応できる定期巡回随時訪問介護看護事業にも携わる。 編集:株式会社照林社

起立性調節障害の症状・原因・治療法・対応方法
起立性調節障害の症状・原因・治療法・対応方法
特集
2024年1月23日
2024年1月23日

起立性調節障害の症状・原因・治療法・対応方法。親ができることは?

起立性調節障害(OD)は、立ちくらみのほか、疲れやすい、長時間立っていられない、時間を守れないといった症状があります。学校の欠席や遅刻が増え、一見すると子どもが不真面目になったように見えることも。保護者の中には「母親のせい」「父親のせい」などと自分を責めてしまう方も少なくありません。これは、体の調節機能に異常が起きているために生じるトラブルのため、保護者の関わり方とは無関係です。 本記事では、起立性調節障害の特徴や症状、原因、治療法、対応方法などについて詳しく解説します。自身の子どもが起立性調節障害ではないか不安な方や、訪問看護の利用者さんからの相談に対応できるようにしておきたい方は、ぜひ参考にしてください。 起立性調節障害の原因・症状 起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)は、自律神経機能不全の一種。症状は以下のとおりです。 ・立ちくらみ・寝起きが悪い・倦怠感・動悸・頭痛・顔面蒼白・食欲不振・失神など 思春期に現れやすく、かつては一時的な生理的変化で年齢とともに改善すると考えられていました。 現在は、自律神経の循環調節機能がうまく働かなくなり、血圧を維持することができなくなっていることが原因だと考えられています。自律神経の機能低下の原因は解明されていませんが、思春期のホルモンバランスの変化や、学校生活のストレス、遺伝的要素などが関係しているといわれています。 起立性調節障害で遅刻や不登校につながることも 起立性調節障害は、その症状により朝起きることが難しくなったり、勉強に集中できなくなったりします。そのため、遅刻や不登校につながる可能性があります。重症例では社会復帰に2~3年以上かかることもあるでしょう。 起立性調節障害のタイプについて 起立性調節障害は、主に以下の4つに分類できます。 起立直後性低血圧(INOH)タイプ起立性調節障害の中でも、最も多いタイプです。起立直後に血圧が低下し、立ちくらみ、倦怠感、頻脈等の症状があります。回復時間が25秒以上、もしくは20秒以上で起立直後の平均血圧値が60%以上の場合に該当します。体位性頻脈症候群(POTS)タイプ起立後の心拍数の増加、息切れ・動悸、胸痛、頭痛、立ちくらみにより立位保持が困難となります(起立不耐症)。起立時の心拍数が115回/分以上か、起立中の平均心拍増加が35回/分以上の場合に診断されます。若い女性に好発し、食後・暑さ・生理・アルコールなどによって悪化することがあります。神経調節性失神(NMS)タイプ血管迷走神経性失神タイプともいわれます。起立中の急激な血圧低下により失神に至ります。遷延性起立性低血圧タイプ起立直後には血圧が低下しませんが、 起立を数分以上続けていると徐々に血圧が低下して失神に至ります。 倦怠感や動悸、頭痛などの症状の現れ方にも個人差があるため、まずは症状の種類や現れるタイミングなどの確認が必要です。 起立性調節障害が見つかるきっかけ 起立性調節障害の症状である立ちくらみや失神が見られたり、倦怠感や動悸が続いたりして、医療機関を受診することで診断に至るケースがあります。子どもの場合、症状をうまく伝えられず、学校や保護者が単なる怠けと思い込み、受診が遅れることも考えられます。 起立性調節障害の治療法 起立性調節障害は、非薬物療法で治療していくことが多いでしょう。ただし、中等症以上では薬物療法も併用されます。症状の改善にはまず日常生活の工夫が必要です。 立ち上がるときは頭を下げてゆっくりと立つ立っている状態で動かない時間は1~2分を限度とする立っている状態では足をクロスさせる1日1.5~2リットルの水分を摂取する塩分を多めに摂る(1日10g程度を目安とする)毎日30分程度の歩行で筋力の低下を防ぐ眠くないからといって夜更かしをしない過度なストレスを避ける 起立性調節障害の子どもに親ができること まずは子どもの気持ちに寄り添う姿勢が大切です。子どもの場合、保護者に「学校へ行きなさい」「怠けていないで勉強をしなさい」などと言われることが大きなストレスとなり、治療の妨げになる可能性があります。午後からなら学校へ行ける、週4日なら行ける、といった場合には柔軟に対応し、子どもが可能な範囲で学校生活を無理なく続けられるように環境を整えましょう。 起立性調節障害の治療では、水分や塩分の摂取、起き上がり方などの工夫が必要です。これらは親がサポートできることです。また、怠けているのではなく体の調節障害によって症状が起きていることを理解し、決して責めることなくサポートしましょう。 また、不登校・引きこもりに発展した場合、親は焦るかもしれませんが、過度なストレスは改善を遅らせる要因です。軽症のうちに対応する、遅刻が多くても責めずにサポートを続けるといったことを心がけましょう。家庭内で抱え込まず、気づいた段階で医療機関を頼ることも大切です。 起立性調整障害は大人もなる?違いは? 起立性調節障害の好発年齢は10歳から16歳で、思春期の二次性徴が現れるころに発症しやすいです。しかし、ストレス過多の生活を続けることで自律神経のバランスが崩れ、大人なってから起立性調節障害を発症するケースもあります。 大人の起立性調節障害の症状は、子どもの場合と基本的には同じで、朝時間通りに起きれず会社に行きにくい、午前中は集中力がなくミスが多くなる、立ちあがろうとすると眩暈や動悸がするなどです。また、パーキンソン病や認知症などの神経疾患の一症状として起立性調節障害が現れる場合もあります。 * * * 起立性調節障害は、立ちくらみや失神、倦怠感、頭痛などの症状によって朝起きるのが難しい、時間を守れない、集中できないなどの問題が起きることがあります。ストレスが悪化要因となるため、周りの人は本人にとって少しでも快適に過ごせるようにサポートすることが大切です。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇一般社団法人日本小児心身医学会「(1)起立性調節障害(OD)」https://www.jisinsin.jp/general/detail/detail_01/2023/11/20閲覧〇加古川医師会「起立性調節障害」https://www.kakogawa.hyogo.med.or.jp/memo/item28702023/11/20閲覧

せん妄への対応【精神症状の緩和ケア】
せん妄への対応【精神症状の緩和ケア】
特集
2024年1月9日
2024年1月9日

せん妄への対応【精神症状の緩和ケア】

身体疾患を抱える患者さんの中には、不安や抑うつ、不眠といった症状を呈し、ケアが必要な方がいます。今回のテーマは「せん妄」です。在宅で特に問題となる「過活動型」の事例をもとに、訪問看護師ができる支援について考えたいと思います。 せん妄とは意識障害を主体としたさまざまな精神症状を呈する状態。不穏や興奮、落ち着きのなさがみられる過活動型と、傾眠や活動性の低下がみられる低活動型に分けられる。身体の不調や薬剤の使用などによって急速に発症するのが特徴。 がん患者さんにみられるせん妄 せん妄は終末期のがん患者さんにはよくみられる症状です。予後1ヵ月程度の場合には30~50%、予後数日から数時間では80%以上の方がせん妄を経験するといわれています1)。このことからも在宅でのがん患者さんの看取りにかかわる上でせん妄は避けては通れない問題であることが分かります。 事例:Bさん(80代、男性、妻と2人暮らし)  直腸がんでストーマを造設し、ご自身でストーマ管理を行ってきたBさん。術後に化学療法を受けてきましたが、病気の進行もあり、BSC(ベストサポーティブケア:積極的ながん治療は行わず、症状の苦痛緩和を主に行うこと)に移行。また、自宅での看取りを希望され、訪問診療と訪問看護が開始されました。 Bさんは倦怠感が強く、寝ていることが多いのですが、トイレとシャワーだけは「自分でやる」と家族の手伝いを断り、気丈に振る舞われています。ご家族はふらつくBさんを心配しながらも、Bさんの意思を優先し、見守っていました。 Bさんの異変 ある朝、「ベッドからBさんが滑り落ちてしまった。よくわからないことを言って、私の言うことも聞いてくれない」と妻から連絡が入りました。訪問看護師が急いで駆けつけると、Bさんは床に寝たままの状態で、視線も合わず、意識の混乱が見られます。訪問看護師は、Bさんに声をかけながら全身状態を確認し、外傷もないようなので全介助でベッドへ戻し、医師に臨時の往診を依頼しました。 妻に状況を詳しく聞くと、実は最近Bさんは日が暮れるころになるとおかしな発言をすることがあり、気になっていたと話されました。今日も、明け方にBさんがつじつまの合わない話をし始めたと思ったら、ベッドの上で立ち上がろうとして、おしりから滑り落ちたとのことでした。 訪問看護師は、Bさんの言動がいつもと異なることからせん妄を疑いました。症状のアセスメントを行い、今後の対策を考える必要がありそうです。 アセスメントツールでせん妄の有無を評価 せん妄かどうかの評価はアセスメントツールを活用するとよいでしょう。さまざまなツールがありますが、ここでは国立がん研究センター東病院で開発された「せん妄アセスメントシート」(図1)を紹介します。このアセスメントシートにはせん妄のリスク評価から予防ケア、せん妄症状のチェック、せん妄出現時の対応までがステップごとにまとめられています。順番にチェックしていくことでせん妄対策が行える有用なツールです。 図1 せん妄アセスメントシート 国立がん研究センター東病院「せん妄アセスメントシート」(先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野より許諾を得て転載)https://www.ncc.go.jp/jp/epoc/division/psycho_oncology/kashiwa/090/20171115095243.html(2023/9/15閲覧) 早速シートに沿ってBさんの症状を評価します。まず、「STEP1 せん妄のリスク」です。Bさんの場合、「70歳以上」の項目が該当しますので、そのまま「STEP2 せん妄症状のチェック」に進みます。Bさんの様子を観察すると、視線が合わずにキョロキョロしており、つじつまが合わない言動が見られます。時間を確認してみると「うるさい」の一言しか返ってきません。STEP2に記載されている項目に複数当てはまるため、そのまま「STEP3 せん妄対応」へと進み、介入策を検討することにしました。 せん妄の治療とケア 「STEP3 せん妄対応」にも記載されているとおり、せん妄が起こったときに大切なのはせん妄に関係する因子のアセスメントを行い、改善が可能な因子に積極的に介入することです。せん妄には「準備因子」「直接因子」「促進因子」があること(図2)を念頭に、改善や除去が可能な因子があるかアセスメントし、介入策を検討します。 それとともにせん妄を起こしている患者さんの苦痛に十分配慮し、積極的な薬剤の使用を医師や薬剤師に相談します。Bさんのケースでは臨時の往診の後、リスペリドンを処方してもらいました。 図2 せん妄の発症 Bさんの場合、直接因子としては薬剤の影響、促進因子としてはがんによる疼痛が考えられます。そこで、疼痛緩和目的でモルヒネを頓用で使用し、安定した疼痛コントロールを行うことに。同時に、家族が服薬で苦労しないように、鎮痛のベースをテープ剤に変更したり、Bさんが自分で剥がせない適切な貼付位置を妻に指導したりといったサポートを行いました。薬剤師にも相談し、Bさんの処方薬を見直し、服用する薬剤を極力減らすようにしてもらっています。 自宅の環境を生かした対応 Bさんはベッド上で起き上がったり、転倒の危険があるのに一人で動いたりしています。このようなせん妄の症状から万が一のことを考え、転倒してもけがをしないように、低床ベッドを導入し、ベッド横のフローリングには布団やクッション、マットなど自宅にある衝撃を吸収できるものを敷くことにしました。 また、Bさんは昼間に寝てしまい、明け方に症状が活発化し転倒したことから、昼夜のリズムを整えるケアも必要です。例えば、日中はテレビをつけっぱなしにして生活の中の音が途絶えないようにし、午睡を避ける対策をとりました。自分の家にいるという安心感を最大限活用しながら工夫できることを検討し、実践していきました。 家族が安心して介護できるようにサポート 在宅では家族の介護力を確認し、必要に応じてサポートすることも大切です。病院とは異なり、在宅ではせん妄の症状が起こったとき、家族が対応しなければなりません。Bさんがつじつまの合わない話をし始めたり、そわそわと落ち着きがなくなったりした場合にどう応じるのがよいのかを妻と時間をかけて話し合いました。 Bさんは終末期せん妄を発症していると思われ、それはお別れの時が近づいているサインでもあります。不可逆的なせん妄である可能性も伝えた上で、Bさんの発言に対応する具体的な方法を説明しました。例えば、理論的に答えを返すのではなく、「そうだね」と相づちを打って同意を示す、否定的な声かけはしない、低めの落ち着いた声でゆっくり話すほうがよいといったようなことです。 また、対応に疲れてしまったときは、病院や施設などの利用を検討することも大切であり、つらいときにはいつでも相談してほしいと伝えました。困ったときにサポートできることを保証するのも訪問看護師の大切な役割です。在宅におけるせん妄へのケアでは、ご家族の苦痛にも目を向け、支えていく態度が求められます。 その後、妻は「自分一人では夫の面倒を見られないけれど、夫は最期まで自宅にいたいと思うから」と話し、それまで消極的だったホームヘルパーを積極的に利用するように。娘とも連絡をとり、娘家族が頻繁に家に訪ねてくるようなりました。 Bさんはつじつまの合わない発言はあるものの、薬物療法を開始したこともあり、落ち着いて過ごせる日が多くなりました。そして、孫に氷を口に入れてもらって、家族に囲まれながら最期のひと時を過ごし永眠されました。 * * * 在宅におけるせん妄への対応は、自宅がもつ環境による癒しの効果を最大限に活用して行います。そこが病院での対応と大きく異なる点です。せん妄が出現したときに、寝ること、食べること、トイレに行くことなど、生活に必要な動作を安全に行うにはどのようなサポートが必要か。また、ご家族がどのように対応したいと思っているかを話し合いながら、できる限り今まで送られてきた日常生活の様子を壊さないような調整を心がけてみてください。せん妄の症状があっても、残された時間を穏やかに過ごせるようなアイデアをご家族と一緒に考えてみるのはいかがでしょうか。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師 ●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。 編集:株式会社照林社 【引用文献】 1)小川朝生著.「せん妄」,森田達也,木澤義之監修,西 智弘,松本禎久,森 雅紀,ほか編.『緩和ケアレジデントマニュアル第2版』.東京,医学書院,2022,p.329.

麻疹・風疹の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説
麻疹・風疹の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説
特集
2024年1月9日
2024年1月9日

麻疹(はしか)・風疹(三日はしか)の症状・原因は?流行周期や合併症、大人の予防接種も解説

感染力の強い感染症として知られている麻疹・風疹(麻しん・風しん)。浮腫状の皮疹や目の充血などを合併している場合は麻疹、広範囲にわたる発疹やリンパの腫れなどを合併している場合は風疹の可能性があります。麻疹・風疹の予防接種は子どものころに行うケースが多いですが、年齢によっては大人も再び接種したほうがよいでしょう。特に妊婦が感染した場合は、胎児に影響を及ぼす可能性があるため要注意です。訪問看護の利用者さんはもちろん、自身・ご家族の健康管理のためにも、麻疹・風疹について確認しておきましょう。 この記事では、麻疹・風疹の症状や原因、合併症や大人の予防接種などについて詳しく解説します。 麻疹とは 麻疹(はしか/ましん)は、麻疹ウイルスの感染によって急性の全身症状が現れる感染症です。症状や原因、感染経路、発生状況について詳しく見ていきましょう。 症状 麻疹ウイルスに感染すると、潜伏期10~12日を経て発症し、発熱や鼻水、咳などの上気道炎症状、結膜炎症状が現れて次第に増強します。発熱は2〜3日続き、その後に39℃以上の高熱とともに特有の発疹が耳後部、頚部などに現れ、顔面や体幹部および四肢末端にまで広がります。最初に出現する発疹は鮮紅色扁平ですが、皮膚面より膨隆し、後に不整形の斑状丘疹状皮疹となります。起こり得る合併症は肺炎や中耳炎、脳炎などで、中でも脳炎は1,000人に1人の割合で発症します。そのほか、10万人に1人程度の割合で、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という中枢神経疾患を発症することがあります。 原因 麻疹の原因は、麻疹ウイルスの感染です。2023年9月時点において、日本国内由来の麻疹ウイルスは認められておらず、海外由来のウイルスによる感染事例のみ見られています。 感染経路 麻疹ウイルスは、空気感染・飛沫感染・接触感染によって、人から人へ感染します。感染力は非常に強く、免疫を持たない人が感染した場合の発症率はほぼ100%です。なお、一度感染し発症すると、免疫が一生続くとされています。 発生状況 麻疹は、2007~2008年にかけて10~20代を中心に流行しましたが、2008年から5年間、中学1年生(12~13歳)および高校3年生(17~18歳)に相当する年代に2回目の予防接種を受ける機会を設けた結果、2009年以降の患者数は大きく減少しました。 2015年3月27日には、日本が麻疹を排除できていることを世界保健機関西太平洋地域事務局が認定しています。 風疹とは 風疹(ふうしん)は、風疹ウイルスの感染によって引き起こされる急性の発疹性感染症です。症状や原因、感染経路、発生状況について詳しく見ていきましょう。 症状 風疹ウイルスに感染すると、約2〜3週間の潜伏期間の後に発熱や広範囲にわたる発疹、リンパ節腫脹(耳介後部、後頭部、頚部)などが現れます。起こり得る合併症は脳炎、血小板減少性紫斑病などで、その頻度は2,000人〜5,000人に1人程度です。 原因 風疹の原因は、風疹ウイルスの感染です。厚生労働省は2017年12月に「風しんに関する特定感染症予防指針」を一部改正し、翌年2018年1月に施行。風疹の感染者が一例でも発生した際は、調査を迅速に実施することに努めるとともに、ウイルス遺伝子検査によって診断することとしました。 感染経路 風疹ウイルスの感染経路は、飛沫感染です。発疹が現れる前後約1週間は感染リスクがあり、風疹への免疫を持たない集団において、1人の風疹患者から5〜7人にうつす強い感染を有する1)とされています。 発生状況 1990年代前半までは、約5年周期で大規模な流行が発生していました。その後、幼児が予防接種の対象になった関係で一時的に流行が落ち着いたものの、2002年から局地的に流行。その後、予防接種の勧奨や疫学調査の強化などの対策によって流行が抑制されたものの、2014年から2017年にかけて多数の発生報告が見られています。このように、局地的な流行が度々見られることから、最新情報を随時チェックして対策することが重要です。 大人が麻疹・風疹にかかるとどうなる? 大人が麻疹・風疹にかかると、子どもと比べて発熱や発疹が長く続くほか、ひどい関節痛が起きることが多いとされています。 麻疹・風疹に妊婦がかかるとどうなる? 麻疹・風疹に妊婦がかかることには、次のような問題があります。 先天性風疹症候群のリスクが高まる 風疹の免疫が不十分な妊婦が妊娠20週頃までに風疹ウイルスに感染すると、胎児は白内障や網膜症、難聴、心疾患などの先天性異常を引き起こす先天性風疹症候群に罹患する恐れがあります。 麻疹は重症化リスクが高い 麻疹は妊娠中に感染しても胎児に先天奇形が生じる確率が低いものの、妊婦自身の重症化や流産・早産のリスク増加などが懸念されます。 風疹・麻疹のワクチン 風疹麻疹混合ワクチンを1歳になったら1回、小学校就学前の1年間にもう1回打ちます。ワクチンに期待できる効果や再接種について詳しく見ていきましょう。 ワクチンに期待できる効果 厚生労働省によれば、風疹麻疹混合ワクチンの予防接種を受けることにより、95%ほどの人がウイルスに対する免疫を獲得できるといわれています。1回目の接種で免疫を得られなかった場合でも、2回目を接種することで多くの人が免疫を獲得できます。 抗体検査を受けて必要であれば再接種する 接種から数年後には免疫が低下することがあるため、その後も免疫を維持するために追加のワクチン接種を受けることが大切です。特に、妊娠の予定がある方は、重症化リスクや胎児の先天性風疹症候群などの観点からなるべく受けることが望ましいでしょう。 1962~1978年生まれの男性は要注意 1962(昭和37)年~1978(昭和53)年生まれの男性は、子どものころに風疹の予防接種を受けていない可能性が高いでしょう。感染を広げるリスクを抑えるためにも、早めに予防接種を受けることが重要です。 * * * 風疹・麻疹は、長期にわたる発熱や発疹のほか、重篤な合併症が懸念されるため、免疫が低下していると考えられる場合は早めに予防接種を受けることが大切です。今回、解説した内容を自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【引用】1)厚生労働省.「風しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html(2023/12/21閲覧) 【参考】〇厚生労働省.「麻しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html(2023/9/25閲覧)〇厚生労働省.「風しんについて」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html(2023/9/25閲覧)〇政府インターネットテレビ「昭和37~53年度生まれの男性の方へ ~生まれてくる赤ちゃんを守る“風しん対策”」(2019/12/3)https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg19934.html(2023/9/25閲覧)

在宅のスキンケア がん性創傷(自壊創)
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2023年12月19日
2023年12月19日

がん性創傷のケア アセスメントと痛み・滲出液・出血・臭気対策

がん性創傷は、皮下に生じたがんが発育して皮膚を破り創傷を形成したものです。創傷には、皮膚に生じる皮膚がんや、他臓器からの転移、治療や副作用で生じた創傷などがあります。がん性創傷は、治りにくく、さまざまな苦痛を伴います。 今回は、看護の実践場面で遭遇するがん性創傷について、皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表の岡部美保さんに、創傷の特徴とスキンケアのポイントを中心に解説いただきます。 ※本記事で使用している写真の掲載については本人・家族、関係者の了承を得ています。 がん性創傷の原因と経過 まずは、がん性創傷の原因となるがんと創傷の様子について、写真付きで確認していきましょう。 がん性創傷の原因となるがん 原発性がん原発性皮膚がん切除後の局所再発皮下軟部組織の肉腫・口腔底がん・肛門がん・子宮がんなどが皮膚に浸潤している場合乳がん(未治療な状態でがんが皮膚に浸潤し発育している場合)皮膚がん(悪性黒色腫・有棘細胞がん・扁平上皮がん・基底細胞がん・乳房外パジェット病など)転移性がん手術時にがん細胞が創部に移植されて発育する場合頸部・腋窩・鼠径部などのリンパ節転移病相が発育して皮膚を破る場合血行性やリンパ行性に皮下に転移した病巣が発育する場合 胃がん悪性リンパ腫 がん性創傷の臨床的特徴は以下のとおりです。 がん性創傷の臨床的特徴1) 進行性であり難治性である滲出液、臭気、出血、痛み、かゆみなどの身体的な苦痛を伴う臭いや容姿の変化による羞恥心、病状に対する不安などの精神的苦痛、疎外感や生きがいの喪失など霊的苦痛を伴うがん性創傷そのものが物理的障害となり、あるいは体動時痛を伴うことにより日常生活動作が低下する 治りにくく、ケアは生涯続く可能性も 皮膚に表出した皮膚がんは外科的に切除されますが、病期によっては切除が困難な場合もあります。転移性がんは、原疾患の治療が基本です。転移性であることから、放射線療法や化学療法、ホルモン療法などにより縮小に期待ができますが、完全に消失させることは困難な場合が多いでしょう。また、終末期の療養者の場合、低栄養や貧血、免疫機能の低下や自己治癒力の低下などにより、創傷の治癒が遅延しやすい傾向に。それにより、感染や壊死に至るリスクも高くなります。 創傷は身体のさまざまな部位に生じます。形態や症状、経過なども人それぞれです。皮膚に転移したがんが初期の場合、腫瘤として触知されますが、その後の経過で炎症症状が出現し、さらに創部の自壊が進行すると、痛みや出血、滲出液や臭いなどの症状を生じます。 がん性創傷は治りにくい創傷であり、ケアは生涯続く可能性があることを念頭に置きましょう。局所のさまざまな症状による身体的、精神的、社会的な苦痛を理解した上で、支援を検討することが大切です。 がん性創傷 アセスメントのポイント 療養者本人は、がんの進行に伴いさまざまな心身の変化を生じます。中でも創傷を有する療養者の場合、創部のケアや症状によって身体的苦痛が増すことや、精神的な不安や苦痛を伴うことも。本人や家族が、できる限り安楽な日常生活を継続できるように、療養者の苦痛や生活を考慮した上で、QOLを重視した多面的かつ全人的なアセスメントを行うことが必要です。 アセスメントのポイントは以下のとおりです。 現病歴の経過 がんの種類がんや創傷の治療内容と経過使用薬剤の種類合併症の有無 身体・生活状況 日常生活動作の状況 創傷が生活に与える影響:日常生活動作、排泄、食事、清潔ケア、睡眠、衣服、外出、仕事、家事、就学など栄養状態:体重の減少、食事摂取の状況・創傷への影響 局所の状態 創傷の状態:創部の部位・大きさ・深さ・多臓器への浸潤など創傷の症状:痛み、出血、滲出液(量・色調・臭気)、臭い、掻痒感、壊死の状況、炎症の有無、感染の有無などケア時の症状:痛み、不快感、疲労感、倦怠感など創周囲皮膚の状態:発赤、びらん、潰瘍、浸軟、疼痛、掻痒感など 精神的・社会的状況 抑うつ、不安、恐怖、悲嘆、苦悩、気力の低下など本人が創傷やがん(治療含む)に対し、どのように受け止めているか本人がどのような不安を抱き、どのように対応していきたいと望んでいるかボディイメージの変化をどのように受け止めているか創傷によって生活がどのように変化したか家族や友人などとのコミュニケーションの状況本人と家族の希望精神的な支援体制の状況 経済的な負担 創傷ケアにかかる衛生材料などの費用創傷ケアを行う時間や労力など社会資源サービスの利用にかかる費用など 痛み・滲出液・出血・臭気のスキンケア がん性創傷のケアは、全身を含めた創傷の症状コントロールと、その人と生活に合った最善のケア方法を本人・家族と一緒に考えることが大切です。また、できる限り容易でシンプルなケアにすることを意識しましょう。 基本的なケア方法は、 洗浄により創部を清潔に保つ創部の壊死組織を除去する創傷治癒を促進するために創部の湿潤環境を保つ創周囲皮膚を保護する などです。 本項では、がん性創傷の特徴である、痛み、滲出液、出血、臭気に対するスキンケアをご紹介します。 痛みに対するスキンケア がん性創傷の痛みの要因は、創傷ケアに起因するもの(ドレッシング材の接触・除去、洗浄など)、炎症・感染に起因するもの、がんの浸潤に伴うもの、創傷に対する外的刺激に伴うもの、創周囲皮膚のトラブルなどがあります。 ◯スキンケア時のポイント ケアを行う前に予防的な鎮痛剤を使用するドレッシング材を除去する際は、あらかじめ生理食塩水などを用いてドレッシング材を湿らせておき、濡らしながらゆっくり丁寧に除去する※洗浄のスキンケアにおいても、生理食塩水を用いることが基本であるが、水道水でも問題はない創面の乾燥を予防するために、油性基材の軟膏を用いる※軟膏はドレッシング材に塗布する使用するドレッシング材は、非固着性ガーゼや創傷被覆材などを選択し、剥離刺激による出血や痛みを予防する医療用テープなどで固定する場合は、低刺激性の医療用テープを使用して剥離による痛みを軽減する※あらかじめテープ貼付部位に非アルコール性皮膚被膜材などを使用する方法も 滲出液に対するスキンケア がん性創傷は、自壊が進行すると滲出液が増加します。滲出液の管理には、滲出液の量に応じたドレッシング材の選択が必要です。多少の滲出液をドレッシング材で回収することにより、下着や衣類への汚染が予防できます。 ◯スキンケア時のポイント 使用するドレッシング材は、吸収性に優れた非固着性ガーゼや吸収パッドを併用する創傷被覆材を使用する場合は、ハイドロファイバーやアルギン酸カルシウムなどを用いる軟膏を使用する場合は、吸水力に優れたマクロゴールやポリマービーズ含有のものを用いるドレッシング材の交換頻度は、滲出液の量に応じて検討するストーマ用装具を用いたパウチング、Mohs変法(モーズ変法:腫瘍組織を硬化させる)、ホルマリン、フェノールの塗布などで滲出液を軽減する方法もある 出血に対するスキンケア がん性創傷は、腫瘍部分が露出しているため毛細血管から血液が滲み出てくることも。腫瘍部は血流に富み、組織は脆弱であることから出血しやすい特徴があります。また、創面が広範囲である場合や血小板減少や出血傾向がある場合などは、出血量も多くなります。場合によっては、がんの浸潤による動脈の破綻などで大出血を起こす場合も。 がん性創傷による出血は、出血による全身状態の悪化をもたらすほか、止血死の可能性、療養者本人や家族の大きな心理的影響など、深刻な問題に繋がります。また、止血が困難な場合もあるため、血液で汚染された部分が目立たないような工夫など、本人や家族への細やかな配慮と心理的サポートも重要です。 ◯スキンケア時のポイント■止血時の対応 出血点をガーゼなどを用いて圧迫止血する出血点に、創傷被覆材(アルギン酸カルシウム材)を用いる ■ドレッシング材を剥離する際のポイント 生理食塩水などを用いて濡らしながらゆっくり丁寧に除去する創部の洗浄を行う際は、創を擦らない創面に接触するドレッシング材は、非固着性ガーゼを用いて剥離時の刺激を軽減するドレッシング材の固着を予防するために、油性基材の軟膏を用いる(軟膏はドレッシング材に塗布する) 臭気に対するスキンケア がん性創傷は、自壊が進行すると、壊死した腫瘍の代謝物質、嫌気性菌による感染などを原因とする臭気を伴うようになります。 ◯スキンケア時のポイント 可能な限り洗浄のスキンケアを行い、壊死組織や分泌物を取り除き創面の清浄化を図る臭気の軽減を図るために、カデキソマーヨウ素製剤やメトロニダゾール軟膏などを用いる※カデキソマーヨウ素製剤やメトロニダゾール軟膏は、細菌負荷を軽減するともいわれている※クリーム基剤のスルファジアジン銀などを用いると創面の水分量が過剰となり、ケアに困難さを生じたり、創周囲皮膚が浸軟したりする場合もある使用済みのドレッシング材は、速やかにビニール袋に入れて回収する臭気を低減する、消臭スプレーや消臭シートなどを使用する * * * がん性創傷は、療養者本人と家族のQOLの向上に貢献できるよう、チームによる支援が必要です。本人や家族の望む人生を安楽で快適に継続できるように、創傷の症状コントロールを行い、本人の緩和ケアを最優先した継続的なサポートが重要であるといえます。 執筆: 岡部 美保皮膚・排泄ケア認定看護師/在宅創傷スキンケアステーション代表1995年より訪問看護ステーションに勤務し、管理者も経験した後、2021年に在宅創傷スキンケアステーションを開業。在宅における看護水準向上を目指し、おもに褥瘡やストーマ、排泄に関する教育支援やコンサルティングに取り組んでいる。編集: NsPace編集部 【引用】1)松原康美,蘆野義和.『がん患者の創傷管理 症状緩和ケアの実践』,照林社,2007,p.20 【参考】〇岡部美保(編)『在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために』,日本看護協会出版会.2022.〇松原康美,蘆野義和『がん患者の創傷管理 症状緩和ケアの実践』,照林社.2007. 〇内藤亜由美,安部正敏篇『Nursing Mook46病態・処置別スキントラブルケアガイド』,学研.2008.

適応障害、不安、うつ状態への対応【精神症状の緩和ケア】
適応障害、不安、うつ状態への対応【精神症状の緩和ケア】
特集
2023年12月19日
2023年12月19日

適応障害、不安、うつ状態への対応【精神症状の緩和ケア】

このシリーズでは主にがん患者さんの事例を中心に、患者さんが訴える精神症状の問題にどう向き合えばよいかを考えていきます。今回のテーマは「適応障害、不安、うつ状態」です。 不安とは漠然とした不確実な恐れの気持ちが継続する状態。適応障害とは*「がん」という現実に直面したための精神的苦痛が非常に強く、日常生活に支障をきたしている状態。うつ状態とは*適応障害よりもさらに精神的な苦痛がひどく、身の置きどころがない、何も手に付かないような落ち込みが2週間以上続き、日常生活を送るのが難しい状態。*国立がん研究センター がん情報サービス「がんと心」を参考に作成https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc01.html(2023/9/15 閲覧) がん患者さんにみられる精神症状 がん患者さんは診断や治療を受ける過程でさまざまなストレスを抱え、その結果、不安や抑うつ、不眠といった精神症状をきたすことが知られています。こういった症状が日常生活に大きな支障をきたす場合には適応障害やうつ病などが疑われます。 特に適応障害は、高頻度に認められる精神症状であり、せん妄とうつ病がそれに続きます1)。なお、不安や抑うつなどの症状はがん患者さんだけでなく、心不全や呼吸不全のような非がん疾患の患者さんにも生じるといわれています2)3)。 病的な状態ではないにしろ、多くのストレスを抱える患者さんにかかわる際、精神的な問題がないかアセスメントし、支援を行うことが訪問看護師に求められています。Aさんの事例を通して患者さんの症状にどうかかわるかを考えたいと思います。 事例:Aさん(80代、男性、独居) 大腸がんで手術を受け、一時的にストーマを造設。ストーマ管理の目的で訪問看護を週2回利用しています。手術後に肝転移が見られたため、現在は化学療法を実施中も口内炎の痛みや倦怠感がひどく、今まで通っていたデイケアにも通えなくなってしまいました。家で過ごす時間が長くなり、気分がすぐれない日も多いようです。今回は化学療法について不安があるとの訴えがあったため、化学療法に詳しい看護師が訪問することになりました。 Aさんは、いつもと違う看護師に少し緊張した様子でしたが、徐々に慣れていき、以下のようなことを話してくれました。 口内炎ができてしまい食事のたびにしみてつらいことそれに伴い食事がおいしくないこと 化学療法を受けると身体がだるくなり、やる気も起こらず、気がつくと寝ているだけの生活になっていること 心配事を解決し不安を解消 Aさんの訴えを聞いた訪問看護師は、まずはAさんの心配事の解消が必要と考えました。化学療法による副作用や症状の出現時期、対応方法を具体的に説明し、Aさんの不安を軽減できるように働きかけました。ところが、Aさんは説明を聞いた後も表情が硬く、「心配事は解決できそうです」と話されるものの、とても解決したとは思えない様子です。 全人的苦痛(トータルペイン)の視点でケア Aさんの不安そうな様子に変化がないことから、訪問看護師は身体的なつらさだけではなく、精神的、社会的、スピリチュアルな面から包括的にアセスメントすることにしました。 一般的に、がん患者さんが直面するつらさ(苦痛)は身体的な面だけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルと多面に及ぶとされています。これを全人的苦痛(トータルペイン)と呼びます(図1)。緩和ケアでは患者さんに生じるさまざまな苦痛に対応するために、全人的なアプローチが必要です。 Aさんはがんの診断を受けてまだ間がありません。Aさんご本人の苦痛の強さや、世話をしているご家族の心配や負担の大きさ、日常生活に支障をきたしている程度を判断。問題があると感じた場合、精神・心理的問題にすぐに対処します。そのため、Aさんの状況を適応障害、不安、うつ状態の視点から一つずつ確認することにしました。 図1 全人的苦痛(トータルペイン)の理解 淀川キリスト教病院ホスピス編.「緩和ケアマニュアル 第5版」.最新医学社,大阪,2007,p.39より引用 適応障害 適応障害は、比較的明確なストレスを原因として3ヵ月以内に発症し、日常生活に支障をきたしている状態をいいます。適応障害への対応は支持的・共感的に話を聞くことと、ストレスを作り出している問題を把握し、その中から解決可能なものを選択し、介入することです。 Aさんは、がんの診断、ストーマ造設、化学療法、そして化学療法による副作用などで多くのストレスを抱えていることが想像されます。まずは、Aさんにストーマの受け入れ状況を確認してみることにしました。 するとAさんは「いつもと違う状況で突然漏れると不安だが、看護師さんに相談できるし、交換自体は自分でできるから不安はない。服を着ていると案外ストーマがあることも分からないしね。同世代の友人が便秘だ、下痢だと困っているのを聞くと自分のほうが楽かなとも思うよ」と話されました。 不安そうな様子はあるものの、大きな環境の変化であるストーマ造設については肯定的にとらえることができているようです。化学療法に関しても前向きに取り組みたいと考えているそうです。日常生活への支障や本人の苦痛が強くなった起点が明らかな場合、専門医の診察を医師に相談しますが、それには当てはまらないと判断しました。 不安 次に、不安についてアセスメントしました。不安は図2に示すように、気分、思考、行動、身体の症状として現れます。Aさんにこの4つの面について具体的な症状を確認したところ、不眠や食欲減退の訴えはありましたが、気分面や思考面、行動面の自覚症状はないようです。Aさんの日常の行動や心理的に大きな障害は認められず、専門的な介入が今すぐ必要な状態ではないと考えました。 図2 不安の症状 藤澤大介 「不安」.森田達也,木澤義之監修、西 智弘,森 雅紀,山口 崇編集,『緩和ケアレジデントマニュアル 第2版』,医学書院,東京,2022,p.323.より引用 うつ状態 うつ状態については、「落ち込みのチェックリスト」(図3)といったスケールを用い、現在の自分の心の状態を振り返ってもらうとよいでしょう。Aさんに「今、悲しい気持ちや気分の落ち込みなどを感じますか」と問うと、「気分の落ち込みがあきれるほどひどい」との答えが。どのくらいその様子が続いているのか、以前に同じような経験をしたことがあるのかを重ねて問いかけてみました。 するとAさんから次のような話が聞かれました。 「実は、若い時にうつ病を発症し、長い間病院に入院していたことがある。子どもたちにも話せていない。あの時と今の自分の状態が似ているなと思っても、それで病院に行きたいとか、誰かに相談したいとか、とても言い出せなかった。このような状態で治療を続けていると、何のために生きているのか分からなくなる。でも、いろいろしてくれる家族や先生(医師)に悪くて」 図3 落ち込みのチェックリスト(米国精神医学会のDSM-IV診断基準に準拠) 【チェックリストの使い方】まずは、1.2.の質問についてお答えください。 1.2.ともに「ない」という方重い落ち込みではないようです。1ヵ月に1度くらい、上記の項目をチェックしてみることをおすすめします。1.2.の両方、あるいはどちらか1つが「ある」という方3.~9.の質問に答えてください。3.~9.の質問で、「はい」と答えた数を数えてみてください。1.2.の数も合わせた合計が5つ以上で、かつ2週間以上続いている方は適応障害やうつ病の可能性があり、専門家による心のケアが必要と考えられます。まずは担当医や看護師、ソーシャルワーカーへ相談することをおすすめします。精神科、精神神経科、心療内科、精神腫瘍科の医師、心理士による心のケアが役に立ちます。 国立がん研究センターがん情報サービス「がんと上手につき合うための工夫」https://ganjoho.jp/public/support/mental_care/mc03.html(2023/9/15閲覧) 医師への相談をAさんに提案 Aさんが話し終えた後、訪問看護師は今の自分の気持ちを言葉にして伝えてくれたことがとても大切であるとAさんに伝えました。その上で、Aさんが信頼している担当の医師にも今の話を率直に伝えてみてはどうかと提案。また、治療を受けている病院でも、不安やうつ状態のような精神症状について、希望すればきちんと診てもらえることを説明しました。 Aさんから疲れやすさと気力の減退が特につらいとの訴えがあったので、そのことも医師に伝えるように提案し、その後はアドバイスをせず、Aさんの気持ちを傾聴するよう心掛けました。 看護師が帰るとき、Aさんは「自分の中で抱えていたものを話せて気分が少し楽になった。今度、治療のときに先生に話してみようと思う」と話されました。表情も少し和らいだようにみえました。その後、受診している病院で医師に自分の精神面について相談し、現在は精神科のカウンセリングを受け、少しずつ快方に向かっているそうです。 * * * 多くのストレスにさらされるがん患者さんでは、最初の訴えが身体的なものであっても、その背後にはほかに影響する要因が隠れていることがあります。その可能性を常に念頭におきながら会話をし、傾聴し、支持的にかかわることが重要です。 症状を引き起こしている問題が解決可能な問題であれば、小さな問題から解決し、患者さんにかかるストレスを減らしていきましょう。問題の解決が難しい場合は気持ちや感情に焦点を当てた介入を行っていくことが必要です。ぜひ訪問する利用者さんの様子をよく観察し、「いつもと違う」と感じたら気持ちをたずねてみてください。 執筆:熊谷 靖代野村訪問看護ステーションがん看護専門看護師 ●プロフィール聖路加国際病院勤務後、千葉大学大学院博士前期課程修了。国立がん研究センター中央病院などでの勤務を経て、2016年より現職。2007年にがん看護専門看護師の資格を取得。 編集:株式会社照林社 【引用文献】1)Akechi T, et al. Psychiatric disorders in cancer patients: descriptive analysis of 1721 psychiatric referrals at two Japanese cancer center hospitals. Jpn J Clin Oncol 2001; 31(5): 188-194.2)北野大輔.心不全に対する緩和医療.日大医誌 2020; 79(4): 235-239 3)津田 徹.非がん性呼吸器疾患の緩和ケアとアドバンス・ケア・プランニング.日内会誌 2018; 107(6): 1049-1055.

ロタウイルス感染症 重症化リスクや下痢・嘔吐への対応【大人も要注意】
ロタウイルス感染症 重症化リスクや下痢・嘔吐への対応【大人も要注意】
特集
2023年12月19日
2023年12月19日

ロタウイルス感染症 重症化リスクや下痢・嘔吐への対応【大人も要注意】

ロタウイルス感染症は、子どもがかかるイメージが強いかもしれませんが、大人もかかる可能性があるため注意が必要です。この記事では、多くの子どもがかかるロタウイルス感染症の対処方法や、下痢や嘔吐への対応方法、大人がかかるとどうなるかについて解説します。訪問看護の利用者さんやご自身・ご家族の健康管理のためにも確認しておきましょう。 ロタウイルス感染症とは ロタウイルス感染症は、ロタウイルスの感染によって引き起こされる急性の感染症で、胃腸炎を中心とした症状が現れます。全年齢でかかる可能性がありますが、0〜6歳頃の子どもに見られることが多い病気です。症状や原因、感染経路、重症化リスクなどについて詳しく見ていきましょう。 症状 ロタウイルスに感染すると1~4日の潜伏期間を経て発熱と嘔吐が現れ、小腸からの水分吸収が阻害されることで下痢症が起こります。血便や粘血便などはなく、吐き気や嘔吐、発熱、腹痛が通常1〜2週間程度続きます。 脱水が重度になると、電解質異常、意識障害やショックなどを起こし、場合によっては死亡することもあります。大人も20〜30代と50〜60代を中心に見られますが、5歳までにほとんどの子どもがかかるといわれているほど、子どもに多い病気です。 原因 ロタウイルスは、A~G群の7種類に分類され、人に感染することが報告されているのは主にA群とC群です。B群も人に感染するとの報告がありますが、極めて稀です。 感染経路 ロタウイルスの主な感染経路は、ロタウイルスに感染した人の下痢便や嘔吐物に含まれるウイルス粒子が口に入ること(糞口感染)です。感染力が非常に高く、10〜100個のウイルス粒子が口に入るだけで感染します。感染した人の下痢便には1gあたり1000億~1兆個のロタウイルスが含まれているといわれています。また、汚染された水や食べ物に触れた手を口に入れることでも、感染する可能性があります。 重症化リスク 大人は一般的にロタウイルス感染症の症状が出にくい傾向があります。しかし、体力が落ちている人が感染した場合は重症化に注意が必要です。脱水が起きた場合、ほかのウイルス性胃腸炎よりも重症になる傾向があります。また、重度の脱水によって生じる高尿酸血症、それに続いて起きる尿酸結石、腎後性腎不全などが報告されています。 特に注意すべきなのがロタウイルス脳炎・脳症です。難治性のけいれんが起こると、後遺症をもたらすケースが少なくありません。約40%が予後不良ともいわれていることから、ロタウイルス脳炎・脳症へ進行する前に適切に対応することが重要といえます。 下痢や嘔吐への対応方法 ロタウイルスは糞便に含まれるため、子どものおむつ交換の際は使い捨て手袋を着用し、処理した後は手をよく洗いましょう。また、汚れた衣類や床などは次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)で消毒することが重要です。嘔吐物や便を放置すると、保育園や幼稚園、自宅などで感染が広がる恐れがあります。 ロタウイルス感染症のワクチン ロタウイルスワクチンには、3回接種の5価経口弱毒生ロタウイルスワクチンと2回接種の経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチンがあります。初回の接種は生後2ヵ月〜14週6日までに行います。2回目以降の接種は、前回から27日以上の間隔をあける必要があります。 ワクチンの副作用としては、発熱や下痢、便秘などもありますが、腸重積症に関して特に注意が必要です。腸重積症は、腸の一部が隣接する腸管にはまり込む病気で、腸の血流が悪化し、組織に障害を引き起こします。ワクチン接種から約1〜2週間は、発症するリスクが高まるとされています。 突然の激しい泣き声、機嫌の急変、嘔吐、血便、倦怠感、顔色が悪いなどの症状が1つでも見られる場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。 ロタウイルス感染症にかかった際の登園は? ロタウイルス感染症にかかった際の保育園や幼稚園の対応については、一律のルールが設けられていません。ロタウイルスは感染から2〜3週間は便中にウイルスが排せつされることを考慮し、出席再開のタイミングを決めるとよいでしょう。ただし、ウイルスが排せつされなくなるまで出席停止とするルールもないため、医師に相談した上で判断することが大切です。 * * * ロタウイルス感染症は、下痢症をはじめとする胃腸関連の症状が現れる病気です。脱水が重度になると電解質異常や腎臓関連の病気を合併する恐れもあるため、こまめな水分補給が欠かせません。また、感染力が非常に強いため、感染対策をより徹底する必要があります。今回、解説した内容を自身やご家族の体調管理、利用者さんのアセスメントにぜひ役立ててください。 編集・執筆:加藤 良大監修:豊田 早苗とよだクリニック院長鳥取大学卒業後、JA厚生連に勤務し、総合診療医として医療機関の少ない過疎地等にくらす住民の健康をサポート。2005年とよだクリニックを開業し院長に。患者さんに寄り添い、じっくりと話を聞きながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っている。 【参考】〇NIID国立感染症研究所「ロタウイルス感染性胃腸炎とは」(2013/5/15)https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3377-rota-intro.html(2023/9/25閲覧)〇厚生労働省「ロタウイルス」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/rota_index.html(2023/9/25閲覧)〇厚生労働省「ロタウイルスに関するQ&A」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/Rotavirus/index.html(2023/9/29)〇京都市「京都市こどもの感染症」https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/cmsfiles/contents/0000146/146234/kodomo21-05.pdf(2023/9/25閲覧)〇京都市「保険だより」https://www.city.kyoto.lg.jp/hagukumi/cmsfiles/contents/0000118/118456/27winter.pdf(2023/9/25閲覧)

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