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特集
2022年3月29日
2022年3月29日

訪問看護関連の「ここがポイント!」/令和4年度 診療報酬改定・決定版 前編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が確定しました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わるポイントを解説します。(2022年3月15日現在) 【目次】[ポイント1]  訪問看護ステーションに、新たに業務継続計画(BCP)の策定と職員の研修・訓練の実施が義務づけられた[ポイント2]  複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制加算で、地域の連携体制に参画していることが必要になった[ポイント3]  機能強化型訪問看護ステーションで、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化―訪問看護人材の育成や住民への情報提供・相談対応などの追加[ポイント4]  訪問看護ステーションと自治体・学校等との連携の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 【関連URL】・令和4年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000920430.pdf・令和4年度診療報酬改定についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00037.html 【告示・通知】・厚生労働省令第32号「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準の一部を改正する省令」・保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について・保発0304第3号 令和4年3月4日 「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」・保医発0304第4号 令和4年3月4日 「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」・厚生労働省告示第59号「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部を改正する件」 令和4年3月4日 ・厚生労働省告示第60号「訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等の一部を改正する件」 令和4年3月4日 [ポイント1] 訪問看護ステーションに、新たに業務継続計画(BCP)の策定と職員の研修・訓練の実施が義務づけられた 訪問看護ステーションに業務継続計画(Business Continuity Plan:BCP)の策定が義務づけられました。感染症や非常災害が発生した場合でも必要な訪問看護サービスを継続的に提供するため、そして非常時の体制で早期の業務再開を図るためです。業務継続計画の定期的な見直し、必要に応じた変更も義務化されました。さらに、業務継続計画は職員(看護師等)にしっかりと周知し、必要な研修・訓練を定期的に実施しなければなりません。ただし、令和6年3月31日までは努力義務とされる経過措置がとられています。 業務継続に向けた取組強化の推進 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p20より引用 ○業務継続計画の具体的な項目1)感染症に係る業務継続計画①平時からの備え(体制構築・整備、感染症防止に向けた取り組みの実施、備蓄品の確保等) ②初動対応 ③感染拡大防止体制の確立(保健所との連携、濃厚接触者への対応、関係者との情報共有等)2)災害に係る業務継続計画①平常時の対応(建物・設備の安全対策、電気・水道等のライフラインが停止した場合の対策、必要品の備蓄等) ②緊急時の対応(業務継続計画発動基準、対応体制等) ③他施設及び地域との連携○研修・訓練1)研修:平常時の対応の必要性や緊急時の対応に係る理解の励行。定期的(年1回以上)教育を開催し、研修の実施内容を記録する2)訓練(シミュレーション):感染症・災害発生時に迅速に行動できるよう、事業所内の役割分担の確認、実践するケアの演習等を定期的(年1回以上)実施 保発0304号 令和4年3月4日 「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準について」の一部改正について.4-(17)-②イ,ロより引用 [ポイント2] 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制加算で、地域の連携体制に参画していることが必要になった 複数の訪問看護ステーションが24時間対応体制加算を取るためには、業務継続計画(BCP)を策定したうえで自然災害等の発生に備えた地域の相互支援ネットワークに参画することが追加されました。 24時間対応体制加算は、必要時に緊急時訪問看護を行うことに加えて営業時間外の利用者・家族等との電話連絡や指導等の対応を評価するものです。複数の訪問看護ステーションが連携して24時間対応できる場合の算定要件として、従来は①離島・山間部などに所在する訪問看護ステーション、②医療を提供しているが医療資源の少ない地域に所在する訪問看護ステーションであることが要件でしたが、今回新たに相互支援ネットワークの参画の要件が加わりました。相互支援ネットワークは、以下のように公的なネットワークであることがポイントです。 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p20より引用 [ポイント3] 機能強化型訪問看護ステーションで、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化―訪問看護人材の育成や住民への情報提供・相談対応などの追加 「機能強化型1」「機能強化型2」では、地域の保険医療機関や他の訪問看護ステーション、または地域住民に対する研修や相談への対応実績があることが必須条件とされました。機能強化型訪問看護ステーションは「機能強化型1」「機能強化型2」「機能強化型3」の3型があり、それぞれ看護職員数、受け入れる重症度の高い利用者数、ターミナルケアや重症児の受け入れ等で違いがあります。 また、評価の見直しも行われ、算定額は「機能強化型訪問看護管理療養費1」が12,830円、「機能強化型訪問看護管理療養費2」が9,800円となりました。 さらに、専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいという項目が追加されました。そして、この看護師が専門的な知識および技術に応じて、質の高い在宅医療や訪問看護の提供の推進に資する研修等を実施していることが望ましい、とされました。 機能強化型訪問看護療養費の見直し https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 機能強化型訪問看護管理療養費1から3までについて、専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいこととして、要件に追加する。 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 機能強化型訪問看護ステーションの要件等 ※変更点を【赤字】で示したhttps://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p22から抜粋 [ポイント4] 訪問看護ステーションと自治体・学校等との連携の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 訪問看護にかかわる関係機関との連携強化として、情報提供先の範囲が広がりました。訪問看護情報提供療養費1は、訪問看護ステーションと市町村・都道府県の実施する保健福祉サービスとの連携を図るものですが、情報提供先に指定特定相談支援事業者と指定障害児相談支援事業者が追加され、対象が15歳未満の小児から18歳未満の児童となりました。 訪問看護情報提供療養費2は、訪問看護ステーションの利用者が通園・通学するにあたって、訪問看護ステーションと学校等の連携を推進するものです。今回その情報提供先に高等学校が追加され、対象年齢が15歳未満から18歳未満になりました。これによって、医療的ケア児に対する訪問看護が強化されたといえます。 訪問看護情報提供療養費1の変更点 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p23より引用 訪問看護情報提供療養費2の変更点 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906916.pdf  p21より引用 記事編集:株式会社照林社

インタビュー
2022年3月15日
2022年3月15日

ソーシャルワーカーが地域での受け入れ体制を支援

精神科訪問看護に特化して運営しているN・フィールド。実際のサービス提供は、一般の訪問看護とどう違うのだろう。今回は同社の看護師・中村創さんと、精神保健福祉士・谷所敦史さんに、現場で感じる感覚について語っていただきました。(以下敬称略) お話中村 創 株式会社N・フィールド 看護師谷所 敦史 株式会社N・フィールド 精神保健福祉士 精神科病院ができることには限界がある [中村]精神科病院を受診する患者数は、年々増加しています。2002年には約224万人だった外来患者数は、2017年には約389万人まで増加(注1)。現在は400万人を超えているのではといわれています。 一方で、指定訪問看護ステーション数は、2021年6月現在、全国で約1万3000拠点(注2)。患者数に比べて圧倒的に少ないうえ、すべてのステーションが精神科訪問看護に対応しているわけではありません。 この圧倒的な数の不足が、訪問看護、なかでも精神科訪問看護の難しさだと思います。しかしだからこそ、これからどんどん変化が出てくるところにやりがいを感じています。 訪問看護に注力すると、病棟で看護していたときより、患者さんの変化に気づくことができるようになります。それを目の当たりにした看護師もまた変わっていきます。 精神科訪問看護はまだ試行錯誤のなかにあると思いますが、そういう相互作用の繰り返しが変革をもたらすところに、やりがいも、おもしろさもあると思っています。 [谷所]私は触法障がい者(注3)を支援する病棟で勤務していた経験があるのですが、そういう方たちの退院を支援するには、地域とのつながりが必須となります。しかし病院では、できることに限界があります。だから私は地域で活動したいと考え、N・フィールドに入社しました。 現実には、訪問看護ステーションに勤務するソーシャルワーカーはまだまだ少数です。しかしだからこそ、この先、もっと道がひらけていくと考えています。 10年、20年入院している方を病院が退院させるのが難しいなら、地域のほうで働きかけ病院から外に出ていただこうと思っていて。「私たちが地域で支えていくので退院させてください」と言えたらいいですよね。 地域の理解が社会復帰の潤滑油に [谷所]地域での受け入れ体制を整備するため、N・フィールドでは「住宅支援サービス」も行っています。 「住宅支援サービス」とは、精神疾患があるなどさまざまな理由によって、地域での住居探しが困難な人に住居を見つけ、入居後も訪問看護師と連携しながら生活をサポートしていくサービスです。 このサービスも含め、国の政策の一つでもある長期入院の解消を進めるにはどういう活動ができるかを考えていく。そこが面白いのです。社会的入院からの社会復帰は以前よりは増えてきていますが、まだ十分とはいえませんから。 [中村]そこには、地域での精神疾患のある人への理解度が大きく影響していると思います。 ある町内会では、地域の清掃活動に精神科の外来患者さんも加わり、住民と一緒に清掃をしています。清掃が終われば、住民が精神疾患のある人にもごく自然に「参加してくれてありがとう」と声を掛けてくれる。そういう地域と、人里離れた山の上に精神科病院があって精神疾患のある人と出会ったこともない地域とでは、精神疾患に対する受け止めはまったく違います。 ソーシャルワーカーがいることの意味 [谷所]地域で何か事件を起こした人に精神科受診歴があると、それによっても空気が変わります。そうした報道があると、精神疾患がある人の地域復帰のハードルは一気に高くなってしまいます。 事件に至る人は非常に特異なケースです。しかし、そうした人も地域で支える何かがあれば違っていたのではないかと感じます。その「何か」の一つが、精神科訪問看護でありたい。 そういう意味で、地域でもっと訪問看護を知ってもらいたいですし、もっとうまく活用してほしい。地域で医療につながっていない方も、私たちソーシャルワーカーが動くことでつなげていければと考えています。 実際、保健所などからの依頼で、契約していない人の家に同行訪問することもあります。そうした社会貢献も当社のソーシャルワーカーの役割です。 ソーシャルワークに出会えていない人に支援を届けていくことで、訪問看護を知ってもらえますし、地域のメンタルヘルスケアにも貢献できます。全国規模の会社ですから、そこを丁寧にやっていきたいと考えています。 [中村]精神疾患を持ち、つらい思いをした時期があってもそこから立ち直り、しっかり生活できている。それを、医師や支援者ではなく、経験した本人が語るほうが、よほど説得力があります。北欧では、先行く先輩としてそうした人たちを「経験専門家」と呼んでいます。経験を語る場の提供に、当社もかかわれたらと考えています。 注1 厚生労働省.『精神疾患を有する外来患者数の推移(疾病別内訳)』『精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築のための手引き(2020年度版)』2021,5.注2 一般社団法人全国訪問看護事業協会.『令和3年度訪問看護ステーション数調査結果』注3 触法障がい者とは、法に触れる行為をしてしまった知的障がい者・精神障がい者をいいます。 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2022年3月8日
2022年3月8日

看護師を支援するICTと教育のしくみ

精神科訪問看護に特化して運営しているN・フィールド。多くのステーションが人材不足で悩むなか、24時間オンコールの廃止、残業なしなどの「働きやすさ」で注目を集めています。しかしそれだけではありません。人材育成やICTの活用などについて、取締役の郷田泰宏さんと看護師の中村創さん、精神保健福祉士の谷所敦史さんに語っていただきました。(以下敬称略) お話郷田 泰宏 株式会社N・フィールド 取締役中村 創 株式会社N・フィールド 看護師谷所 敦史 株式会社N・フィールド 精神保健福祉士 人材育成に独自の研修プログラムを整備 [郷田]N・フィールドでは、入社した看護師の教育研修のため、「教育専任部」を設置し、独自のマニュアルや研修プログラムに沿って、体系的な教育を行っています。前回お話しした、オンコール体制をとらない、18時までの勤務などもそうしたプログラムの一環です。 精神科経験のないスタッフには、入社後にまず、定められている3日間の「精神科訪問看護基本療養費算定要件研修」を受講してもらいます。その後、マニュアルや動画を使用した社内研修で、精神疾患や精神科訪問看護の知識を身につけたうえで、同行研修を実施します。経験の少ない看護師には、自信がつくまで2人ひと組の同行訪問でOJTを実施し、ひとり立ちできるよう育成しています。 AIを活用してアセスメントを可視化する 精神科医療は他の診療科に比べ、アセスメントや診断に科学的根拠を示しにくい領域です。精神科訪問看護においても、アセスメントは看護師一人一人の観察眼や感覚に頼るところが大きく、客観性や科学的根拠についての課題が指摘されていました。 そこで当社では2020年にアセスメントを可視化し、判断に科学的根拠を提供する看護支援システム「TWiNSS」を導入しました。 「TWiNSS」とは、看護師が訪問後に作成し、蓄積された日々の看護記録をAIが読み込み、記述されているキーワードの集積から、個々の利用者の症状の変化をグラフと点数で可視化するというものです。 「TWiNSS」はコミュニケーションを活発にする 利用者さんの心身の調子の「波」を可視化することで、入院のリスクを早めにキャッチでき、早期対応が可能になります。また、どのような治療や支援が有効であったか、これから必要になりそうかなどを、担当看護師とは違う視点からの情報が提供されるため、ステーション内のカンファレンスでの議論が活発になってきました。 ベテラン看護師でも、自分のアセスメントと異なる情報が「TWiNSS」から示されることがあります。それもまた意義があると私たちは考えています。 どちらのアセスメントがよい、ということではありません。アセスメントの違いをどう分析するのか。いろいろな可能性があるなかで、利用者さんにどのようなかかわりをするのか。そこに議論が生まれることで、ステーションとしての一体感が高まります。看護の「熱」を増すことにつながるコミュニケーションツールだと感じています。 もちろん、人がつくるこうしたシステムに完璧はありません。「TWiNSS」も、まだ改良の余地があると思っています。看護記録の様式や用語の統一など、これからさらに精度を上げていって、将来的には病院でも導入してもらえれば、退院時にスムーズに利用者さんの情報を在宅に引き継ぐことができます。 看護師の『肌感覚』ではつかめない異変をキャッチ [中村]「TWiNSS」を現場で活用していると、しばしばびっくりするぐらい的中することがあります。 支離滅裂な言動もなく、安定していたためノーチェックだった利用者さんがいました。ただ看護記録には、「『少し足が痛い』と言っている、せかせか歩いている」という記述がありました。そういった記録が増えた月の翌月初に、その方の入院リスク値が40%から70%にポーンと高くなったのです。 どうしたのだろうと思っていたら、その月に実際、入院されてしまいました。記録を丁寧に見直したら、せかせか歩いていたのは、近隣とちょっとしたトラブルがあって、不安から落ち着かなくなっていたからでした。結果的に、焦って歩いて転倒し、骨折してしまったのです。 看護師の肌感覚では「逸脱した精神症状はみられないので入院からは遠い」と思っていた人でしたが、これはまったく別の視点ですよね。なるほどそういうことだったのかと思いました。 ベテランスタッフが一人増えたような感覚 [谷所]私は、「TWiNSS」の導入はベテランのスタッフが増えたような感覚だと思っています。一人で利用者の家を訪れる訪問看護師は、十分な自信がないと「これで大丈夫だろうか」と不安になることがあります。利用者のわずかな異変に気づけるか気づけないかは、訪問した看護師しだいともいえるからです。 これまで異変を見出す感覚・視点は、精神科においては、職人芸的なものとして醸成されてきました。しかし、「TWiNSS」はそれを、「ここもちゃんと見てきた?」と、気づきにくかったところを補完する役割を果たしてくれます。 これからは「TWiNSS」のようなICTツールの活用によって、もっとアセスメントの客観的根拠を増やしていきたいと考えています。 記事編集:株式会社メディカ出版

インタビュー
2022年3月1日
2022年3月1日

経営者が語る ─安定経営のワケ─

精神科訪問看護に特化して運営しているN・フィールドは、設立から17年で47都道府県に212拠点を展開しています。急成長の理由や、今なぜ精神科訪問看護なのかを、創業時から現在までの変遷をたどりながら取締役の郷田泰宏さんに語っていただきました。(以下敬称略) お話郷田 泰宏株式会社N・フィールド 取締役 患者さんの社会復帰を手助けする一助に [郷田]N・フィールドは2003年、看護師3人で、大阪で開業したのが始まりです。最初から精神科の訪問看護を目指していたわけではなく、たまたま精神科病院出身の看護師が創業者だったことから、これを強みとして出発しました。 精神科医療は長期入院の患者さんも多く、社会復帰、地域移行が進まないことが長年、問題視されていました。今でこそ、精神科の患者さんも「病院から地域へ」という流れができつつあり、地域的にも受け入られるようになりつつありますが、開業当時は、まだ長期入院が一般的でした。 社会資源をふまえた支援があれば退院できる人はいるのに――そんな問題意識を看護師たちが共有し、当社が精神科の訪問看護に特化したサービスを提供するようになったのは自然なことでした。 当初は、精神科訪問看護がどういうものか、教科書があるわけでもなく、皆手探りで手法を確立しようと必死でした。そのため、想い入れの強い多くのスタッフが疲弊し、一時は退職者が続いた時期がありました。その後、看護師の働きやすさや、やりがいを発揮できる環境を整備することに注力し、現在では離職率も大きく低減でき、事業展開に応じて多くの看護師採用を増やすことができる段階にあります。 精神科に対する社会の理解が大きく変化 現在、精神科の患者さんの社会復帰・地域移行の流れは強まっています。一方で、退院した利用者を在宅で支える訪問看護師は、今も不足しています。その理由の一つが、「精神科訪問看護は危険・難しい」イメージがあることです。 患者さんが、果物ナイフやガラス食器など危険物とみなされる生活用品を持ち込めない病院は、ある意味で「守られている安全な空間」です。一方、在宅では包丁やはさみなど、当たり前の生活道具であっても、使いかたによっては危険なものがいろいろあります。そうした生活の場で患者さんと看護師が向き合う精神科訪問看護は、安全ではないように感じられ、一人で訪問することに不安を感じる看護師が多いのかもしれません。 しかし実は、訪問時にこうした危険な事態はほとんど起こりません。むしろ在宅のほうが危険は少ないというのが、経験上の見立てです。 その理由の一つとして、入院形態から患者が余儀なく受けてしまうストレスが、生活空間である在宅では存在しないことが挙げられます。 精神科は、他の診療科と違い、医療保護や措置など、本人の同意を得ない入院形態があります。強制的に入院となり、行動を制限されることを納得できていない患者さんもいます。しかし、訪問看護は、自宅で暮らしている利用者さんの同意を得たうえで訪問します。そういう意味で、暴力など危険な事態が起こるリスクは一般的に低いと思われます。 全国に拠点をもち安定経営を続ける理由 こうした実態は、現在では看護師基礎教育課程でも伝えられ、精神科訪問看護へのイメージは、少しずつですが変わりつつあります。 多くの患者さんが在宅へ戻ってくる――しかし地域で患者さんを支える社会資源としての訪問看護ステーションは不足している――N・フィールドはそこに特化し、事業展開してきました。おかげさまで、全国に数多くの拠点を持ち、いわば社会的インフラとして事業展開するに至っています。その一環として、現在では訪問看護だけではなく、住む場所を提供する住宅支援の事業も展開しています。 拠点展開に応じた人材確保は今も課題です。N・フィールドでは、働きたいと希望される人へ、入社前に体験訪問を積極的に行っています。入社後のイメージギャップをできるだけ少なくし、早期離職を予防する取り組みです。 それに加えて、当社の勤務体制がワーク・ライフ・バランスの面で評価されている側面もあると思います。夜間勤務のある病院とは異なり、当社は基本的には9時から18時までの日勤帯の勤務です。訪問看護事業所の多くが採用している24時間のオンコール体制も、当社では採用していません。自分の時間を大切にする働きかたを目指す看護師や、子育て中で日中しか時間に余裕がない看護師からも、そうした働きやすさが受け入れられている面があると思います。 こうした、看護師の負荷をなるべく少なくする経営努力が、人材確保のうえで一つのアドバンテージになっているのかもしれません。 記事編集:株式会社メディカ出版

特集
2022年3月1日
2022年3月1日

「訪問看護」関連はこう変わる! /令和4年度診療報酬改定・速報解説 後編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が示されました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わる重要な部分にフォーカスして、速報でお届けします。(2022年2月14日現在) 【目次】■専門性の高い看護師の訪問看護を推進―「訪問看護管理療養費」の新設【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑭】 ■同行訪問する専門性の高い看護師に特定行為研修修了看護師が追加-「専門性の高い看護師」の「褥瘡ケアにかかる専門の研修」に「特定行為研修」を追加【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑬】 ■訪問看護における医師の「特定行為の手順書」に加算―「訪問看護指示料」の新設【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑮】 ■看取りニーズに応え退院日のターミナルの見直し―訪問看護ターミナルケア療養費の算定要件が緩和【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑯】 ■ICT活用による医師との看取り連携―「遠隔死亡診断補助加算」の新設【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保㉔】 ■医療的ニーズの高い利用者への複数名訪問看護の拡大-「複数名訪問看護加算」の要件の見直し【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑰】 ■訪問看護ステーションの看護師による、退院日の長時間退院支援指導を評価-「退院支援指導加算」の新設【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑱】 ■難病等の利用者への複数回訪問看護における事務手続きの簡素化-「難病等複数回訪問加算」等における同一建物内利用者の評価区分の見直し【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑲】 ※【】内は、個別改定項目について.中医協 総-1 4.2.9,https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdfの項目を表示 専門性の高い看護師の訪問看護を推進―「訪問看護管理療養費」の新設 訪問看護ステーションに配置されている専門の研修を受けた『専門性の高い看護師』が訪問看護を行い、利用者の病態に応じた高度なケアおよび計画的な管理を実施した場合の評価として、「訪問看護管理療養費」が新設され、月1回に限り専門管理加算として所定額に2500円が加算されます。在宅患者訪問看護・指導料および同一建物居住者訪問看護・指導料においても同様です。専門の研修とは、「緩和ケア、褥瘡ケアもしくは人工肛門ケアおよび人工膀胱ケアに係る専門の研修」ならびに「特定行為に係る看護師の研修制度」です。これまでの日本看護協会認定「専門看護師」「認定看護師」に「特定行為研修修了看護師」が追加されました。国は特定行為研修の推進を強力に進めており、今回の改定では、精神科リエゾンチーム加算、栄養サポートチーム加算、褥瘡ハイリスク患者ケア加算、呼吸ケアチーム加算の要件として履修が必要とされる研修の種類に特定行為研修が追加されました。 同行訪問する専門性の高い看護師に特定行為研修修了看護師が追加-「専門性の高い看護師」の「褥瘡ケアにかかる専門の研修」に「特定行為研修」を追加 専門性の高い看護師による同行訪問を評価する「訪問看護基本療養費(Ⅰ)(Ⅱ)」の算定要件として、訪問看護ステーションの看護師は「専門の研修」を受講することが必須とされています。この研修のうち「褥瘡に係る専門の研修」として、特定行為研修のうち「創傷管理関連の研修」が追加されました。ここでも、特定行為研修修了者にインセンティブを与えるような動きが加速しています。なお、「在宅患者訪問看護・指導料」の3、および「同一建物居住者訪問看護・指導料」の3についても同様です。 訪問看護における医師の「特定行為の手順書」に加算―「訪問看護指示料」の新設 訪問看護ステーションにおいて特定行為研修を修了した看護師が、訪問看護時に「特定行為」を行う際には、医師による「特定行為の実施に係る手順書」が必要となります。そのため、「訪問看護指示料」が新設されます。 訪問看護において専門の管理を必要とする特定行為は、「気管カニューレの交換」「胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換」「膀胱ろうカテーテルの交換」「褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去」「創傷に対する陰圧閉鎖療法「持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整」「脱水症状に対する輸液による補正」です。 看取りニーズに応え退院日のターミナルの見直し―訪問看護ターミナルケア療養費の算定要件が緩和 「訪問看護ターミナルケア療養費」の算定にあたっては、利用者の死亡日とその前14日以内に2回以上の指定訪問看護を実施しなければなりません。訪問看護基本療養費または精神科訪問看護基本療養費の算定を2回以上しなければならないのですが、退院日の訪問は訪問看護基本療養費の算定ができませんでした。そのため、利用者が退院日かその翌日に亡くなった場合は、「訪問看護ターミナルケア療養費」は算定できませんでした。しかし、ターミナル期の利用者は退院直後に死亡することも多いため、退院日に訪問看護師がケアを行うことが多いのです。そこで今回、指定訪問看護に「退院支援指導加算の算定に係る療養上必要な指導を含む」として、退院日の退院支援指導を含めることとなりました。 ICT活用による医師との看取り連携―「遠隔死亡診断補助加算」の新設 訪問看護ステーションに配置されている「情報通信機器を用いた在宅での看取りにかかる研修」を受けた看護師が、医師がICTを活用して死亡診断等を行う場合にその補助を行ったとき、「遠隔死亡診断補助加算」として、1,500円が所定額に加算されます。 医療的ニーズの高い利用者への複数名訪問看護の拡大-「複数名訪問看護加算」の要件の見直し 「複数名訪問看護加算」は、複数名で訪問看護を行う必要がある利用者に対して、同時に複数の看護師等による訪問看護を行った場合に算定できる加算です。「複数の看護師等」が同時に訪問を行う場合と「看護師等と看護補助者」が訪問する場合で、回数制限も算定額も違います。看護補助者が同行する場合は、週3日までと制限無しがあり、制限無しには1日2回も1日3回以上もあります。1日に複数回の訪問を行った場合(医療的ニーズの高い利用者の場合)は算定額が高いため、看護補助者との同行訪問が増えました。このときは、「看護職員が看護補助者と同時に指定訪問看護を行う場合に限る。」とされていました。そこで今回、看護師等が同行する場合も算定可能と変更されました。看護師等が複数で同時訪問する場合も評価されれば、医療的ニーズの高い利用者のメリットになるでしょう。 在宅患者訪問看護・指導料の注7および同一建物居住者訪問看護・指導料の注4に規定する複数名訪問看護・指導加算も同様です。 訪問看護ステーションの看護師による、退院日の長時間退院支援指導を評価-「退院支援指導加算」の新設 「退院支援指導加算」は、退院時に訪問看護ステーションの看護師等が、退院する医療機関以外の場で、退院時に療養上必要な指導を行った場合に算定されるものです。退院日の翌日以降初日の指定訪問看護実施日に1回だけ訪問看護管理療養費に加算されるというものです。今回は、退院日に看護師等が長時間にわたる退院支援指導を行った場合の評価を新設し、退院支援指導加算として8,400円加算されます。実際に、長時間の訪問を要する医療的ニーズの高い利用者に対して、訪問看護ステーションの看護師が退院日に長時間(90分以上)の訪問をしているという結果も示されています。 難病等の利用者への複数回訪問看護における事務手続きの簡素化-「難病等複数回訪問加算」等における同一建物内利用者の評価区分の見直し 「難病等複数回訪問加算」とは、難病等の利用者に対して必要に応じて1日に2回または3回以上の指定訪問看護を行った場合に算定できる加算で、回数によって算定額が変わります。これは同一建物居住者に対しては複数回・複数名の訪問看護に対して減算になるようになっています。今回の改定では、同一建物内の利用者の人数に応じた評価区分の加算について、同じ金額の評価区分を統合することになりました。これは事務手続きの簡素化のためです。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年2月22日
2022年2月22日

「訪問看護」関連はこう変わる! /令和4年度診療報酬改定・速報解説 前編

令和4年度診療報酬改定の具体的な内容が示されました。このシリーズでは、訪問看護関連の改定項目のうち、主に訪問看護ステーションの運営や収益に関わる重要な部分にフォーカスして、速報でお届けします。(2022年2月14日現在) 【目次】■複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制にBCP策定と地域連携体制参画が必須―「24時間対応体制加算」の算定要件に追加【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑧】※ ■訪問看護ステーションの業務継続を推進-BCP策定、研修・訓練の実施が義務化【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑨】 ■訪問看護師の地域住民への情報提供や相談業務を強化―「機能強化型訪問看護ステーション」のさらなる役割強化【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑩】 ■医療的ケア児に対する訪問看護の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑪】 ■理学療法士の訪問リハビリテーションの内容記載の明示【Ⅰ-6 質の高い在宅医療・訪問看護の確保⑫】 ※【】内は、個別改定項目について.中医協 総-1 4.2.9,https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000905284.pdfの項目を表示 複数の訪問看護ステーションによる24時間対応体制にBCP策定と地域連携体制参画が必須―「24時間対応体制加算」の算定要件に追加 24時間対応体制加算を算定できる場合の要件について、業務継続計画(Business Continuity Plan:BCP)を策定した上で、自治体や医療関係団体等が整備する地域の連携体制に参画する場合が追加されました。「24時間対応加算」の算定要件は、初回は『特別地域』(離島・山間部など)で2つの訪問看護ステーションが連携して24時間体制を整えることでしたが、令和2年度の診療報酬改定で『特別地域』だけでなく、『医療を提供しているが医療資源の少ない地域』と対象が広げられています。 訪問看護ステーションの業務継続を推進-BCP策定、研修・訓練の実施が義務化 感染症や災害が発生した場合でも必要な訪問看護サービスを継続的に提供するために、そして非常時の体制で早期の業務再開をはかるために、訪問看護ステーションにBCP策定が義務づけられました。さらに、職員の看護師等に業務継続計画を周知し、必要な研修・訓練を定期的に実施しなければなりません。介護報酬ではすでに令和3年度介護報酬改定において訪問看護でもBCPの策定が義務化されており、3年間の経過措置の後2024年から義務が発生することになっています。 訪問看護師の地域住民への情報提供や相談業務を強化―「機能強化型訪問看護ステーション」の役割強化 「機能強化型1」「機能強化型2」において、地域の保険医療機関や他の訪問看護ステーション、または地域住民に対する研修や相談への対応実績があることが必須条件とされました。機能強化型訪問看護ステーションは「機能強化型1」「機能強化型2」「機能強化型3」の3型があり、それぞれ看護職員数、受け入れる重症度の高い利用者数、ターミナルケアや重症児の受け入れ等で違いがあります。令和2年度診療報酬改定で追加された「機能強化型3」は、「地域の訪問看護の人材育成等の役割」を評価したものでした。今回は、「機能強化型1」「機能強化型2」においても、訪問看護人材の育成や住民への相談対応など、地域で暮らす利用者をバックアップする役割が強化されたものといえます。評価としては、「機能強化型訪問看護管理療養費1」が12,830円、「機能強化型訪問看護管理療養費2」が9,800円となりました。さらに、機能強化型訪問看護管理療養費1~3の算定基準において、在宅看護等に係る専門の研修を受けた看護師が配置されていることが望ましいという項目が追加されました。 医療的ケア児に対する訪問看護の強化-訪問看護情報提供療養費の見直し 訪問看護情報提供療養費1は、訪問看護ステーションと市町村・都道府県の実施する保健福祉サービスとの連携を図るものですが、対象に指定特定相談支援事業者と指定障害児相談支援事業者が追加されました。そして対象が、15歳未満の小児から18歳未満の児童となりました。訪問看護情報提供療養費2は、訪問看護ステーションの利用者が、保育所、認定こども園、家庭的保育事業、小規模保育事業、事業所内保育事業、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校前期課程、特別支援学校の小学部・中学部に、通園・通学するにあたって、訪問看護ステーションと学校等の連携を推進するものです。今回その情報提供先に高等学校が追加され、対象年齢が15歳未満から18歳未満になりました。医療的ケア児に対する訪問看護が強化されたことになります。 理学療法士の訪問リハビリテーションの内容記載の明示 医療的ニーズの高い利用者に対する理学療法士による訪問看護が適切に提供されるように、訪問看護指示書の記載方法も変更になりました。具体的には、理学療法士等が訪問看護の一環として行う訪問リハビリテーションの時間と実施頻度を訪問看護指示書に記載することになりました。介護報酬においては令和3年度改定ですでに、理学療法士等による訪問看護を行った場合について、通常の訪問看護報告に別添という形で「理学療法士、作業療法士または言語聴覚士による訪問看護の詳細」の記録を添えることになっています。 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年2月22日
2022年2月22日

第8回 労災保険・健康診断・メンタルヘルス対策/[その4]コロナ禍の今だからこそ取り組みたい 職場のメンタルヘルス対策

長期化するコロナ禍への対応において、訪問看護師が受ける心理的負担やストレスは拡大傾向にあります。管理者にとって、感染対策はもちろん、職場内のメンタルヘルス対策も重要な課題となっていることでしょう。今回は、スタッフのメンタルヘルスケアに活用できるセルフケアとコミュニケーションについて具体的な方法をご紹介します。 コロナ禍で「自分が感染してしまうこと以上に、利用者さんを感染させてしまったらどうしよう」という不安と緊張から体調を崩したり、メンタルヘルスの不調を訴えるスタッフが増えてきています。事業所としてどのような対策をとればよいでしょうか。厚生労働省が示す指針に基づき、まずはスタッフ自ら行う「セルフケア」と管理者が主体となって行う「ラインによるケア」に取り組んでみましょう。 メンタルヘルス対策における「4つのケア」 メンタルヘルスの不調を訴えるスタッフに対して、職場内でどのように対応すればよいでしょうか。参考にしたい方策として2006年3月に厚生労働省が示した「労働者の心の健康の保持増進のための指針(2015年11月改正)」が挙げられます。これは、労働安全衛生法70条の2の規定に基づき策定されたメンタルヘルス指針です。 この指針において、職場でのメンタルヘルス対策では「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要とされています。4つのケアとは「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、「事業場外資源によるケア」です(図1)。 図1 メンタルヘルス対策における「4つのケア」 小規模事業所が多い訪問看護ステーションでは、これら4つのケアうち、セルフケアやラインによるケアから始めるとよいでしょう。 セルフケアへの取り組み セルフケアはスタッフ自ら行うケアです。セルフケアにおいて重要なことは「労働者自身がストレスに気づき、これに対処するための知識、方法を身につけ、それを実施すること」であり、「ストレスに気づくためには、労働者がストレス要因に対するストレス反応や心の健康について理解するとともに、自らのストレスや心の健康状態について正しく認識できるようにする必要がある」と先ほどの厚生労働省の指針※1で述べられています。 ストレスへの気づきのポイントは、以下に示すような自分の「変化」に自ら早めに気づくことです。 ・心配事が頭から離れず、考えが堂々めぐりする・疲れやすく、元気がない(だるい)・気力、意欲、集中力の低下を感じる(億劫、何もする気がしない)・寝つきが悪くて、朝早く目がさめる・食欲がなくなる・人に会いたくなくなる など※2 自分の変化に気づいたら、1人で抱え込まずにまわりの人に早めに相談することが大切です。 また、ストレスへの対処方法として、普段から「3つのR」を心がけ、ストレスを溜め込まないようにします。 【3つのR】レスト(Rest):休息、休養、睡眠レクリエーション(Recreation):趣味や娯楽、気晴らしリラックス(Relax):ストレッチなどのリラクゼーション 「疲れた」と感じたときに、例えば、以下のような行為で気分転換を図ります。 ・職場では……軽いストレッチで緊張を和らげた後、スタッフとのコミュニケーションを図り、思考を整理し、プラス思考に変換していく。 ・日常では……十分で快適な睡眠をとるとともに、趣味など仕事から離れた活動を行い心身ともにリフレッシュを図る。 ここでご紹介したような方法を含め、スタッフがセルフケアを正しく行えるように、ストレスへの気づき方やストレスの予防・軽減、対処方法を学べる機会を設けるとよいでしょう。 ラインによるケアへの取り組み ラインによるケアは管理者が主体となって実践します。ケアのキーワードは「コミュニケーション」です。厚生労働省が作成した職場のメンタルヘルス対策のリーフレット「職場における心の健康づくり」では「職場の管理監督者は、日常的に、部下からの自発的な相談に対応するよう努めなければなりません。そのためには、部下が上司に相談しやすい環境や雰囲気を整えることが必要です」と示されています。相談しやすい環境づくりの一例として、この連載の第3回[その3]でご紹介した「1on1ミーティング」を取り入れるのもおすすめです。 さらに、このリーフレットでは「管理監督者が部下の話を積極的に聴くことは、職場環境の重要な要素である職場の人間関係の把握や心の健康問題の早期発見・適切な対応という観点からも重要です。また、部下がその能力を最大限に発揮できるようにするためには、部下の資質の把握も重要です。部下のものの見方や考え方、行動様式を理解することが、管理監督者には求められます」と述べられており、その具体的な方法として、積極的傾聴(アクティブリスニング)が挙げられています。 特にこのコロナ禍においては、職員との話し合いや連携によって危機を乗り越えようとするチームワークの形成がとても重要です。そのためにも、まず、スタッフの話を聴く積極的傾聴が必要となるでしょう。図2に積極的傾聴のポイントを示しましたので、参考にしてみてください(図2)。 図2 積極的傾聴のポイント 積極的傾聴によって部下が安心して話せる関係を築くことで、部下自身が漠然としていた自分の気持ちや感情に気づき、どうしたらよいか自ら考え、行動するきっかけをつくることができます。管理者や上司が適切なコミュニケーションができるようになるためにも、この「話を聴く技術」を習得する機会を設けてみてはいかがでしょうか。 ・職場でのメンタルヘルスケアは、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」および「事業場外資源によるケア」の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要です。・訪問看護ステーションではこれら4つのケアうち、セルフケアやラインによるケアから始めるとよいでしょう。 【参考】※1 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(2015年11月改定)https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/dl/060331-2.pdf※2 厚生労働省「うつ対策推進方策マニュアル」 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0126-5b2.html 齋藤 暁株式会社ムトウ 執行役員 コンサルティング統括部 部長・CPS事業部 部長 ●プロフィール中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年2月15日
2022年2月15日

第8回 労災保険・健康診断・メンタルヘルス対策/[その3]パートも健康診断の対象者? スタッフの健康管理、正しく知ってしっかり実践

事業者は、労働安全衛生法に基づき、労働者に健康診断を実施する義務があります。訪問看護ステーションには常勤だけでなく、パートやアルバイドなど、さまざまな勤務形態のスタッフがいます。健康診断の実施対象となる範囲や健康診断の種類など、今回は管理者にとって必須の知識である健康診断の概要について解説していきます。 私の訪問看護ステーションには、パートタイムで働く看護師や理学療法士が在籍しています。健康診断では「常時使用する労働者」が対象になっていますが、パートのスタッフも健康診断の対象になりますか。パートで働くスタッフに対しても、一定の要件を満たす場合は、健康診断を実施する義務があります。 健康診断の種類にはどのようなものがある? 訪問看護ステーションは、事業者として労働安全衛生法(以下「安衛法」という)66条に基づき、スタッフに対して医師による健康診断を実施しなければなりません。では、実施が義務づけられている健康診断にはどういったものがあるのでしょうか。表1に、事業者が実施しなければならない一般健康診断の種類をまとめましたので、ご覧ください。 表1 一般健康診断の種類 ※特定業務:深夜業を含む業務。労働安全衛生規則(以下「安衛則」という)13条1項2号で14の業務が定められている ここでは一般健康診断のうち、「雇入時の健康診断」と「定期健康診断」について説明していきます。 パートタイム労働者も健康診断の対象者に含まれる? 雇入時の健康診断と定期健康診断の対象者は「常時使用する労働者」です。常時使用する労働者とは、次の2つの要件を満たす人をいいます。 (1)期間の定めのない労働契約により使用される者であること。なお、 期間の定めのある労働契約により使用される者の場合は、契約期間が1年以上の者、並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、および1年以上引き続き使用されている者。(なお、特定業務従事者健診〈安衛法45条の健康診断〉の対象となる者の雇入時健康診断については、6か月以上使用されることが予定され、または更新により6か月以上使用されている者) (2)その者の1週間の労働時間数が当該事業場において、同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分3以上であること。 厚生労働省「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律の施行について(抜粋)」(平成19年10月1日付け基発第1001016号)より つまり、1年以上雇用している、またはそれが見込まれる労働者で、1週間の所定労働時間が常勤スタッフの4分の3以上であるパートタイム労働者(以下、パート)に対しては、健康診断を実施しなければなりません。 では、1週間の所定労働時間が常勤スタッフの4分の3に満たないパートではどうなるのでしょうか。この場合、法的な実施規定はありませんが(1)の要件に該当していれば、1週間の所定労働時間が常勤スタッフのおおむね2分の1以上あれば健康診断を実施することが望ましいとされています。 健康診断の費用はステーションで負担しますか? 労働安全衛生法の義務に基づいて実施される健康診断の費用は、すべて事業者が負担します。 また、管理者の方から「健康診断を受けている間の賃金はどうなるのか?」との疑問もよく聞かれます。厚生労働省の基準によると、一般健康診断の場合は、受診に要した時間の賃金は労使協議により定めるべきものとしたうえで、スタッフの円滑な受診を考えれば、事業者が支払うことが望ましいとしています。参考にしてください。 健康診断実施後の注意点は? 健康診断の実施後も、ステーションには事業者として行わなければならないことがあります。 まず、健康診断の結果は、スタッフ自ら健康管理できるよう、スタッフに通知しなければいけません(安衛法66条の6)。そして、健康診断個人票を作成し5年間保存することが義務づけられています(安衛則51条)。なお、従業員が50人を超える事業所では、定期健康診断を行ったら所轄の労働基準監督署長に結果報告書を提出する義務があります(安衛則52条)。 また、健康診断で異常の所見ありと診断されたスタッフがいれば、健康を保持するための必要な措置について医師に意見をきく必要があります(安衛法66条の4)。そして、医師の意見により必要ありと認めるときは、就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮など、適切な措置を講じなければなりません(安衛法66条の5)。さらに、特に保健指導が必要なスタッフがいれば、医師や保健師による保健指導の実施に努めなければなりません(安衛法66条の7)。 健康診断は、労働者に受診義務があります。もし受診を拒否するスタッフがいれば、そのままにしておくのではなく、義務であることを伝えて受診するよう促してください。 よりよい看護サービスを提供するためにも、スタッフの健康管理はとても大切です。管理者としてスタッフの健康状態の把握に努め、その結果に基づき適切な対応を実践できるようにしましょう。 ・1年以上雇用している、またはそれが見込まれ、1週間の所定労働時間が常勤スタッフの4分の3以上であるパートタイム労働者は、健康診断を実施しなければなりません。・健康診断実施後も、診断の結果に基づきスタッフの健康管理を適切に行うことが必要です。 【参考】〇厚生労働省リーフレット「健康診断を実施しましょう」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf〇厚生労働省リーフレット「パートタイム労働者の健康診断を実施しましょう!!」https://www.lcgjapan.com/pdf/lb09094.pdf?22 ※健康診断の種類や実施義務などについて詳しく紹介されています。ぜひご参照ください。 齋藤 暁株式会社ムトウ 執行役員 コンサルティング統括部 部長・CPS事業部 部長 ●プロフィール中小企業診断士・社会保険労務士・医業経営・医療労務コンサルタント医業経営・医療労務専門コンサルタント。全国の医療機関を対象に、中小企業診断士と社会保険労務士のW資格で経営と労務の両面をサポート。▼株式会社ムトウ コンサルティング統括部https://www.wism-mutoh.jp/business/consulting/ 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年2月8日
2022年2月8日

第8回 労災保険・健康診断・メンタルヘルス対策/[その2]「これって通勤災害?」認められるケース・認められないケースとその理由

前回の記事では、労働者が仕事中に災害(事故)に遭った場合に「業務災害」として労災保険による補償を受けることができることについて解説しました。しかし、労災保険が適用されるのは、仕事中の事故(業務災害)だけではありません。実は、通勤中の事故(通勤災害)も労災保険の対象になります。今回は、どういう場合が通勤災害として認められるのかを学んだ後、「帰宅の際、夕食の買い出しをしている途中に事故に遭った」というイレギュラーな事例を通じて、応用的な理解を深めていきたいと思います。 私のステーションのあるスタッフは、就業時間の後に、別の病院で夜勤として兼業で働いています。ある日、そのスタッフは、ステーションから病院への移動中に、駅のホームで足を滑らせて転倒して肩を骨折してしまいました。これは副業先に向かう途中の事故なので、労災の対象にはならないですよね?いいえ、通勤災害として労災の対象になります。 通勤災害が労災の対象になる理由 まず、「どうして通勤災害が労災の対象になるのか」を考えてみましょう。 それは、労働者が企業に労働力を提供してあげるためには、自宅から職場まで通勤をしなくてはならないからです。当たり前といえば当たり前ですね。ポイントは、労働者は自分のために通勤しているのではなく、「企業のために通勤をしてあげている」ということです。 労働者は、通勤する際、自宅から駅まで歩いている際に交通事故に遭うかもしれませんし、雨に濡れた駅の階段で足を滑らせて転倒してしまうかもしれません。つまり、労働者は、「通勤」という行為に伴って何らかの事故に遭うリスクを抱えているわけです。これは、企業に労働を提供しなくてよいのであれば、そもそも抱える必要がなかったリスクです。 そのため、そのようなリスクが現実化して事故が起きてしまった際に、企業のために通勤しようとしてくれた労働者を保護するために労災保険があるというわけです。 通勤災害は3パターンだけ 通勤災害として認められるのは、次の3パターンだけです(労災保険法7条2項)。 ① 住居と就業場所との間の往復② 就業場所から他の就業場所への移動③ ①の往復に先行または後続する住居間の移動 文字にするとわかりにくいので、次の図をご覧ください。 図1 通勤災害として認められる3つのパターン ①は、最もオーソドックスなパターンで、自宅から職場までの往復経路のことです。 ②は、副業をしている場合が典型です。ある労働者が、訪問看護ステーションで働いた後、夕方から別の病院で夜勤をしようとして、訪問看護ステーションから病院に移動する際に事故に遭ったとしたら、それは労災の対象になるということです。なお、兼業禁止なのに黙って副業をしていたとしても、労災上は保護されます。ただし、この場合は、副業先に行こうとして事故に遭っているわけですから、副業先の労災保険を使用します。 ③は、単身赴任している場合が典型です。ある労働者が、大阪に妻子を残して東京に単身赴任しているとします。金曜日の夕方に仕事を終えたら、一度東京の家に戻って身支度をして、そのまま大阪の妻子のもとに帰り、土日を大阪で過ごそうと思っていたとしましょう。その際、東京の家から大阪の家に向かう途中で交通事故に遭った場合も、通勤災害として扱います。 ・通勤災害が認められるのは次の3パターンのみです。しっかりと押さえておきましょう。 ① 住居と就業場所との間の往復 ② 就業場所から他の就業場所への移動 ③ ①の往復に先行または後続する住居間の移動 あるスタッフの話です。彼女は、就業後、電車に乗って地元の駅につき、駅から自宅に向かって歩いていましたが、途中で経路を少し外れて、近所のスーパーに寄って夕食の買い物をしました。しかし、スーパーを出て自宅に向かおうとしたところ、スーパーの駐車場で、自転車にぶつかり骨折してしまいました。これは通勤災害として認められますか?いいえ。いわゆる寄り道であり、かつ、元の経路に戻っていないので、認められません。 通勤とプライベートな用事 通勤災害とは、「企業のために通勤してあげている労働者」を保護するための制度です。 よって、例えば、職場からの帰宅途中に友人と映画を見に行って、その帰り道に事故に遭ったとしたら、それはもはや通勤災害ではありません(図2)。純粋なプライベート上の事故です。 また、通勤災害といえるためには通勤経路は「合理的な経路」でなくてはなりません。朝の通勤中に、散歩を兼ねてまったく関係のない経路を何倍も遠回りして歩いている時に事故に遭ったとしたら、それは「通勤中の事故」とは呼べないでしょう。それは「散歩中の事故」というべきです。 図2 通勤災害が認められるケース・認められないケース① 職場から映画館、映画館から自宅に向かう経路は通勤経路とはならず、途中で事故に遭ったとしても通勤災害には該当しない。 通勤と夕食の買い物 では質問のケースのように、帰宅の際、駅から自宅に向かって歩いている途中に、夕食の材料を買うために経路を少しだけ外れて近所のスーパーに寄った場合はどうでしょうか? この点、通勤の途中に通勤経路を外れて寄り道をした場合は、原則として、寄り道をしている最中だけでなく、その後の経路も含めてすべて「通勤」として認められなくなってしまいます(労災保険法7条3項本文)。かなり厳しいルールですね。 ただし、「日常生活上必要な行為」として認められている①日用品の購入またはそれに準ずる行為(クリーニング店への立ち寄りなど)、②職業訓練、③選挙の投票、④医療機関への受診、⑤親族の介護のために寄り道をした場合は、寄り道が終わって元の通勤経路に戻った後は「通勤」として扱われます(労災保険法7条3項ただし書、労災保険法施行規則8条)。あくまで「元の通勤経路に戻った後」を通勤として認めているのであり、寄り道をしている最中は通勤として認められないことに注意してください(図3)。 図3 通勤災害と認められるケース・認められないケース② 職場からの帰り道に、日用品を購入するためにスーパーに立ち寄る場合は、寄り道が終わって元の通勤経路に戻った後は通勤経路となるため、戻った後で事故に遭った場合は通勤災害には該当する。 ご質問のケースについて ご質問のケースは夕食の買い物ということですから、①日用品の購入にあたるでしょう。そのため、買い物をするために寄り道をしても、スーパーで買い物を済ませて元の通勤経路に戻ってきた後は「通勤」として認められますから、その後に事故に遭えば通勤災害として認められます。 しかし、ご質問ケースでは、スーパーで買い物を済ませた後に、スーパーの駐車場で事故に遭っているようですので、「元の通勤経路に戻ってきた」とはいえないでしょう。よって、寄り道中の事故ということになり、通勤災害としては認められないことになります。 ・通勤途中に通勤経路を外れて寄り道をした場合は、原則として、寄り道をしている最中だけでなく、その後の経路も含めてすべて「通勤」として認められません。・ただし、「日常生活上必要な行為」のために寄り道した場合は、寄り道が終わって元の通勤経路に戻った後は「通勤」として扱われます。 前田 哲兵 弁護士(前田・鵜之沢法律事務所) ●プロフィール医療・介護分野の案件を多く手掛け、『業種別ビジネス契約書作成マニュアル』(共著)で、医療・ヘルスケア・介護分野を担当。現在、認定看護師教育課程(医療倫理)・認定看護管理者教育課程(人事労務管理)講師、朝日新聞「論座」執筆担当、板橋区いじめ問題専門委員会委員、登録政治資金監査人、日本プロ野球選手会公認選手代理人などを務める。所属する法律事務所のホームページはこちらhttps://mulaw.jp/ 記事編集:株式会社照林社

特集
2022年2月1日
2022年2月1日

第8回 労災保険・健康診断・メンタルヘルス対策/[その1]いざというときのために知っておきたい! 労災保険の基礎知識

いざというときにスタッフをしっかりサポートできるよう、管理者として労災保険に関する知識を整理しておきましょう。また、日ごろから訪問看護ステーションならではの労災リスクに備え、ステーション内でスタッフとともにリスクを洗い出し、その予防策や対応方法を共有しておくことも大切です。 訪問中に利用者宅で転倒したスタッフがいます。「痛みが続くため、念のため医療機関を受診したい」との申し出がありました。どのような流れで労災保険の給付が受けられますか。業務中・通勤中のけがや病気には労災保険が適用されます。スタッフから業務中・通勤中に受傷したと報告を受けたときは、けがをした日時と状況、けがの状態や部位などを確認し、病院を受診してもらいます。受診の際は窓口で「労災です」と伝えるように指導しましょう。受診した病院が労災保険指定医療機関(労災病院)の場合は、その病院に「療養補償給付たる療養の給付請求書」を提出します。そうすれば、療養費を支払うことなく治療を受けることができます。そして、この請求書は病院を経由して労働基準監督署に提出されます。労災病院でない場合は、いったん療養費を立て替えて支払います。その後「療養補償給付たる療養の給付請求書」を、直接、労働基準監督署に提出すると、療養費が請求書に記載した口座に支払われます。 労災保険の制度 労災保険(労働者災害補償保険)とは業務や通勤が原因となって発生したけがや病気、障害、または死亡に対して、労働者やその遺族に必要な保険給付を行う制度です。常勤のスタッフだけでなく、パートやアルバイトなどの雇用形態、また国籍などを問わず、雇用関係にあるすべての労働者に適用されます。 保険給付を受けるためには被災したスタッフ、またはその遺族が所定の保険給付請求書を入手し、必要事項を記載して、被災したスタッフが所属するステーションの所在地を管轄する労働基準監督署長に提出しなければなりません。労災に該当するかどうかは、労働基準監督署が調査のうえ判断します。 保険給付請求書は労災の補償内容によって異なります。必要な書類は厚生労働省のサイトからダウンロードできますので、手続きの際に活用してください。 労災申請は原則として本人が行いますが、ステーションとして、スタッフの負担を軽減するためにスタッフに代わって書類を準備したり、記載可能な項目を記載し労働基準監督署に提出するなど、スタッフがスムーズに手続きを行えるようにサポートしましょう。 給付の種類 労災保険にはさまざまな給付制度がありますが、請求しない限り受けることができません。実際に被災した人から「どのような給付があるのか、受けられるのか職場で教えて欲しかった」との声も聞きますので、ステーションの管理者として図1に示すような給付の種類をしっかり理解しておきましょう。 図1 労災保険給付の主な種類 どのようなケースが労災になるのか? では、ここで訪問看護ステーションの業務において労災保険が適用されるケースを場所別に具体的に見ていきましょう。キーワードは「業務災害」と「通勤災害」です。 ●ステーション内での被災例えば、ステーション内で高い所にある物を取ろうとして転落したり、ステーションの建物の階段を踏み外して転倒したりなど、業務に従事して被災した場合は、特段の事情がない限り業務災害と認められます。 ●利用者宅での被災利用者宅で転倒し負傷した場合などは、業務災害と認められます。転倒以外の被災としては、例えば、針刺し事故や害虫によるけが、新型コロナウイルスなどの感染症に利用者や利用者家族から感染してしまうことなどが挙げられます。このような場合も業務災害として労災請求することができます。 ●通勤途中・移動途中での被災自宅とステーション、自宅と利用者宅への移動が通勤に該当します。ある利用者宅から別の利用者宅への移動は、業務の性質を有しますので、通勤ではなく業務に該当します。 通勤途中で被災し、通勤災害に対する補償を受ける場合は「合理的な経路」と「合理的な方法」により行うという要件を満たすことが必要です。移動の「中断」や「逸脱」があった場合には、通勤と認められないため注意が必要です。通勤災害については、次回の記事で詳しく説明しますので、ぜひご覧ください。 また、業務中や通勤途中の交通事故の場合は労災保険が使用できますが、加害者が加入する任意保険や自賠責保険の利用や調整など、ケースバイケースで判断する必要がありますので、労働基準監督署等とよく相談することをお勧めします。 労災や労災保険に関する相談 労災に関する相談、労災保険に関する手続き方法については、ステーションを管轄する労働基準監督署のほか、厚生労働省が設置する労災保険相談ダイヤルで相談することができます。 労災保険相談ダイヤル0570-006031(受付時間:月~金9:00~17:00) ステーションで管理する連絡先リストに「労災保険相談ダイヤル」の電話番号も加えておき、疑問があればすぐに相談できるように準備をしておいてもよいでしょう。 労災に備えよう 寒い地域では路面が凍結しやすいことによる転倒、湿度が高く暑い地域では熱中症など、ステーションが所在する地域の特性によって労災のリスク内容は異なります。いざというときに素早く対応できるように、普段からステーションのスタッフと以下のことを話し合っておきましょう。 ・業務に関連したリスクとその予防策、実際に被災したときの対応―利用者宅―利用者・利用者のご家族―関係機関や業者の施設―移動・通勤に関連したリスクとその予防策、実際に被災した時の対応 あらかじめ自分たちを取り巻く労災のリスクを明らかにすることによって、防災・減災につながります。また、リスクや予防方法を認識し、話し合いやマニュアルなどを通じて共有することで、スタッフが安心して働ける職場づくりにもつながりますので、ぜひ、カンファレンスの時間などを活用して労災に備えた対応をしていきましょう! ・保険給付を受けるためには、保険給付請求書を、ステーションの所在地を管轄する労働基準監督署の労災課に提出しなければなりません。・労災保険は常勤のスタッフだけでなく、パートやアルバイトなどの雇用形態や国籍などを問わず、雇用関係にあるすべての労働者に適用されます。・いざというときに備えて、日ごろから労災のリスクや予防策、労災が発生したときの対応などをスタッフと話し合っておきましょう。 加藤 明子 加藤看護師社労士事務所代表看護師・特定社会保険労務士・医療労務コンサルタント●プロフィール看護師として医療機関に在職中に社会保険労務士の資格を取得。社労士法人での勤務や、日本看護協会での勤務を経て、現在は、加藤看護師社労士事務所を設立し、労務管理のサポートや執筆・研修を行っている。▼加藤看護師社労士事務所https://www.kato-nsr.com/ 記事編集:株式会社照林社

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