
湿疹皮膚炎とは? 種類や症状、改善方法が分かる【多数の症例写真で解説】
在宅療養者によくみられる皮膚症状を、皮膚科専門医の袋 秀平先生(ふくろ皮膚科クリニック 院長)が写真を見比べながら分かりやすく解説。今回は湿疹皮膚炎を取り上げ、その種類や特徴、症状の原因や改善方法をご紹介します。 湿疹皮膚炎とは 湿疹という病名は一般の人たちにも馴染みがあると思います。湿疹は、皮膚炎とほぼ同義とされ、文字通り皮膚が炎症を起こすことをいいます。ある程度原因や病態がはっきりしているアトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、うっ滞性皮膚炎、皮脂欠乏性湿疹などがあり、原因・病態が明らかでないものは単純に「湿疹」と呼ばれます。 以前、「真菌による湿疹」という記載を見たことがあります。確かに真菌による炎症ではありますが、真菌や細菌など病原体に起因するものは感染症であり、湿疹とは呼びませんのでご注意ください。 在宅でよくみられる湿疹皮膚炎群について述べていきます。 在宅でよくみられる湿疹皮膚炎群 皮脂欠乏性湿疹 加齢に伴って生じる皮脂欠乏により、皮膚のバリア機能が低下して外的刺激を受けやすくなり、かゆみに対する閾値も低下して湿疹化した状態です。冬に多く、一番多いのは下腿伸側ですが、大腿や上肢の伸側、体幹にも発生します(図1)。 訪問入浴の際に「頻繁に入浴できないから」と言って張り切ってスポンジで洗っているのを見たことがあります。気持ちは分かるのですが、やめるべきです。 予防・改善には保湿を中心としたスキンケアが重要になります。詳しくはNsPaceの「在宅の褥瘡・スキンケアシリーズ」をご参照ください。 >>予防的スキンケアに関する記事はこちら在宅の褥瘡・スキンケアシリーズスキンケアで褥瘡予防 洗浄・保湿・保護のポイント 図1 高齢者の下腿にみられた皮脂欠乏性湿疹 接触皮膚炎 いわゆる「かぶれ」です。接触したものによって生じる皮膚炎で、アレルギー性のものと、刺激性のものがあります。 アレルギーとは、「外部から侵入した特定のものに対する、その人特有の反応」と考えることができるので、「特定のもの」がはっきりしているならそれを除去すればよいことになります。接触皮膚炎の場合、原因特定のための検査としてよく使われるのはパッチテストです。怪しそうなもの(例えば外用薬や化粧品)があれば、そのものを貼付します。 在宅では外用薬の接触皮膚炎を経験することがあります。図2は「褥瘡が悪化した」と連絡があった例ですが、実は褥瘡の治療薬にかぶれていた例です。 図2 褥瘡の治療薬によるかぶれ(接触皮膚炎) 初診時(A)にデブリードマンを行い、ヨード製剤を外用。改善傾向にあったが(B)、2週間後「褥瘡が悪化した」と連絡があった(C)。往診し、外用薬による接触皮膚炎と診断。ステロイド外用に変更したところ皮膚炎が改善し、褥瘡も治癒した(D)。 脂漏性皮膚炎 頭皮、顔(眉毛部や鼻周囲など)、胸や背中の中央部など皮脂腺の多いところを脂漏部と呼びますが、それらの部位に生じるのが脂漏性皮膚炎です(図3)。皮脂腺に住む真菌の一種であるマラセチアが皮脂を分解し、その産物が皮膚に炎症を起こしているとされます。炎症を速やかに抑えるにはステロイド外用が有効ですが、真菌が関与するため抗真菌薬の外用や、抗真菌薬を含んだシャンプーや洗浄剤の使用も効果があります。 図3 頭部の脂漏性皮膚炎 生え際の紅斑と鱗屑が目立つ。 うっ滞性皮膚炎 下肢静脈瘤、深部静脈血栓症など静脈血流のうっ滞が原因となり、下腿に発症します。在宅の高齢者には多くみられる症状です。紅斑から始まり丘疹などが混じる湿疹局面となり、慢性化すると色素沈着や皮膚の硬化がみられ、硬化性脂肪織炎となります。硬化すると容易に潰瘍化して難治です。通常のステロイド外用による湿疹治療も必要ですが、弾性包帯や弾性ストッキングなどによる圧迫療法が重要です(図4、5)。ただし高齢者では動脈閉塞や心疾患を合併している場合もあり、そのような例では圧迫することはできません。 図4 下腿皮膚の硬化とうっ滞性皮膚炎 「逆シャンパンボトル」と形容される下腿皮膚の硬化とうっ滞性皮膚炎を認める。 図5 うっ滞性皮膚炎 弾性包帯による圧迫とステロイド外用でうっ滞性皮膚炎・潰瘍ともに3ヵ月で軽快した。 鑑別について 湿疹と鑑別する必要がある疾患には真菌症や腫瘍などがありますが、今後の連載でそれぞれについて述べていく予定です。>>シリーズ一覧はこちらhttps://www.ns-pace.com/series/skin-problems/ 治療の第一選択はステロイド外用薬 湿疹皮膚炎の治療の第一選択は、ステロイド外用薬です(図6)。実にたくさんの種類がありますが、抗炎症作用の強さによって一般的にstrongest(Ⅰ群)、very strong(Ⅱ群)、strong(Ⅲ群)、medium(Ⅳ群)、weak(Ⅴ群)の5段階に分類されています。また、軟膏、クリーム、ローション、テープなどの剤型があります。この強さと剤型を、病変の程度や部位によって使い分けています。 図6 ステロイド外用薬の例 この写真は筆者が少し前に撮影したもの。現在では発売終了になっているものも含まれるが、ステロイド外用薬には実にたくさんの種類がある。 ステロイド外用薬は使われるようになってからすでに70年以上が経過しています。つまり「よい点も、悪い点もすべて分かっている」薬です。アトピー性皮膚炎ではステロイド忌避、脱ステロイドなどが問題になりますが、うまく使えば極めて有効で安全な薬です。でも、分かっていない人が使うと大変なことが起こる可能性もあります。 通常顔にはweak、せいぜいmediumの外用薬を処方しますが、図7は顔の皮疹に対してstrongのステロイド外用薬が長期間処方されていた例です。鏡検してみると、カンジダと、ニキビダニと呼ばれる毛包虫がたくさんみられたため、治療を行ったところ速やかに改善しました。顔に強い外用を続けた場合、眼圧上昇といったリスクもあるので、十分注意が必要です。 また、高齢の方では老化による皮膚の菲薄化がみられますが、漫然とステロイドの外用を継続しているとさらに菲薄化、脆弱化が進行し(図8)、紫斑や、ひどくなるとスキン-テアを起こします。 図7 ステロイド外用薬の誤用例 ステロイド外用薬の誤用により、ニキビダニの増加とカンジダを発症した例。イオウ製剤と抗真菌薬の外用で改善した。 図8 ステロイド外用の継続例 50代男性の症例。アトピー性皮膚炎で長期間ステロイド外用を継続したことにより、肘窩付近の細く赤い血管が透けてみえるほか、内出血するなど皮膚の菲薄化・脆弱化がみられる。 そもそもなぜ湿疹ができるのか? 湿疹は、健康な皮膚に起きる場合もありますが、多くの場合はバリア機能が落ちるといった「準備状態」にある皮膚に発症します。準備状態にしないためには、スキンケアが重要となります。 「スキンケア」という言葉自体にも、明確で絶対的な定義は存在しませんが、日本褥瘡学会の用語集によれば、図9のように、洗浄、遮断・被覆(=保護)、保湿、水分除去の4つに集約できると思います。紙幅の都合でそれぞれについて述べることはしませんが、これらに留意して優しく洗う、保湿薬を使うなどのケアを行い、皮膚を健康な状態に保ちたいものです。 図9 スキンケアとは(日本褥瘡学会「用語集」より) 文献1)より引用(赤字および「保護」の追記は筆者による) 執筆:袋 秀平ふくろ皮膚科クリニック 院長東京医科歯科大学医学部卒業。同大学学部内講師を務め、横須賀市立市民病院皮膚科に勤務(皮膚科科長)。1999年4月に「ふくろ皮膚科クリニック」を開院。日本褥瘡学会在宅担当理事・神奈川県皮膚科医会副会長・日本専門医機構認定皮膚科専門医編集:株式会社照林社 【引用文献】1)日本褥瘡学会ホームページ:用語集「スキンケア」.https://www.jspu.org/medical/glossary/2024/8/5閲覧 【参考文献】○袋 秀平:70枚の写真で学ぶ 在宅で診る皮膚疾患の基礎知識.日本医事新報社ウェブ書籍,東京,2019.○袋 秀平:うっ滞性皮膚炎.内藤亜由美,安部正敏編,改訂第2版 スキントラブルケアパーフェクトガイド,学研メディカル秀潤社,東京,2019:135-138.