地域がつながる「ケアの駅」【訪問看護認定看護師 活動記/関東ブロック】
全国で活躍する訪問看護認定看護師の活動内容をご紹介する本シリーズ。最終回となる今回は、日本訪問看護認定看護師協議会 関東ブロック、山田 富恵さんの活動記です。コロナ禍での協議会の取り組み、地域住民や介護・医療職などをつなげる「ケアの駅」の設立、地域に向けたACP(アドバンス・ケア・プランニング)の啓蒙活動などについてご紹介いただきます。 執筆:山田 富恵看護学校卒業後、病棟勤務、脳外科急性期病院、クリニックのパート勤務などを経て、子育てをしながら医師会立訪問看護ステーションに勤務。子育て時間を優先し、ワークライフバランス重視で選んだだけのつもりが訪問看護の魅力にはまる。「在宅看護の現場で行われている看護判断や技術を系統立てて学びたい」「それを言語化するための学習がしたい」と感じ、2010年に訪問看護認定看護師資格取得。2014年に日本財団在宅看護センター 起業家育成事業を知って感銘を受け、第1期生として参加。修了後、2016年に起業し、現在アィルビー訪問看護ステーション管理者。2023年より日本訪問看護認定看護師協議会関東ブロック長。 役立つ知識の共有会や交流会を楽しく企画 私が所属している日本訪問看護認定看護師協議会の関東ブロックは、東京都と埼玉県を範囲としています。ブロック委員みんなで知恵を絞り、関心の高い話題について学びつつ、交流も兼ねた活動報告ができるよう、年に2回の研修会と交流会を開催しています。 他ブロックの地域に比べると住民人口が多く、訪問看護認定看護師の人数も一番多いのですが、都市部の特徴なのでしょうか。所属事業所を越えての認定看護師同士の交流は少ないように感じます。私も当初は関東ブロックの委員にお声掛けいただいたことがきっかけで研修会や交流会に参加するようになったのですが、最近の話題に触れたり、日頃の悩みを話せたりと、皆様とつながれることに安心感と刺激をもらえる場です。 私は2023年度からブロック長を拝命したばかりなので、まだ何もお役に立っていませんが、前年度までのブロック長さんたちが大事にしてきたことを繋げていけたらと思っています。 コロナ禍で繋がる訪問看護の力に救われる 認定看護師として事業所を運営していて「本当に良かった!」と思ったのは、コロナ禍で不足していた感染防護具を、地域の訪問看護ステーションや介護事業所へ届ける活動に協力ができたことです。 地域に届けた感染防護具 日本訪問看護認定看護師協議会を通じて日本訪問看護財団からの情報をいただき、有志の協力団体のひとつとして活動をしました。スタッフや利用者さんを守りたいのにマスクや手袋が手に入らなかった日々…。感染防護具をお届けした地域の事業所にも、大変喜んでいただけました。 この感染防護具を届けるプロジェクトの協力団体は、北海道から沖縄まで110ヵ所あまりになったと聞いています。日本全体が感染症への怖さで閉塞感、孤立感を感じていた中で、このような活動に一部でも参加できてつながれたことは、本当に涙が出るほどありがたいことでした。実のところ、地域に貢献するために活動していたというよりも、経営者として管理者として、ひとりぼっちで重圧を感じていた私自身が、この活動によって大きく救われていたのです。品物がある以上に「つながっている」という安心感をいただきました。 コロナ禍当時は大変過ぎて、記憶が飛んでしまっている部分も多くありますが、今思い出すのは、感染防護具の箱を手渡した時の他事業所のスタッフの笑顔、訪問苦労話でスタッフと笑いあった笑顔、「あの時は来てくれてありがとう」とおっしゃった利用者さんとご家族の笑顔です。 「道の駅」のように「ケアの駅」があったら 認定看護師の教育課程を受けるうち、私がやりたいと思うようになったのは地域活動です。訪問看護ステーションを立ち上げ、今の広めの場所に事務所を移転したことをきっかけに、地域住民の方や地域連携職が集まって情報発信ができる場を作りました。観光地への移動途中にひと休みしたり、その地域の情報を得たりできる「道の駅」のようになってほしいという願いから、「ケアの駅」と名付けました。このケアの駅は、地域を走り回るケア提供者や地域の方が、気軽に立ち寄って休息したり、介護・健康情報の共有や相談をしたりすることで、ゆるくつながれる場にしたいと思っています。 元々鰹節屋さんだった風情あるアィルビー訪問看護ステーション 実際には、現事務所に引っ越した約1ヵ月後に新型コロナウイルス感染症の流行が始まってしまったので、2024年2月時点ではまだ一般の方が立ち寄れるようにはなっていませんが、感染対策に気を付けながら情報発信の会は複数回開催しています。 例えば、以下のような内容です。 在宅歯科医師によるオーラルフレイルの講義管理栄養士や企業の調理師によるとろみ剤と調理の工夫に関する講義社会福祉協議会の担当者による後見人制度に関する講義在宅医師による意思決定支援や在宅医療についての講義 また、今年度は都立病院と共同して、地域にACP(アドバンス・ケア・プランニング)を拡げる看護研究実践を行っています。「『人生会議』をしませんか」と題して、カードゲームを体験しながら自分の大事だと思うことを話し合う会を開催しました。また、区民まつりにテントを出して、健康相談窓口をしながらACPの周知活動を行いました。 ACPのカードゲーム区民まつりの様子ケアの駅での在宅歯科医師をお呼びしての講座認知症カフェで出前講座をしている著者 このように書くと順調に進んでいるように思われるかもしれませんが、なかなか思い通りにいかないこともあります。クラウドファンディングに挑戦してもうまくいかなかったり、準備をした会の当日に新型コロナや悪天候の影響で中止したり、会の開催以外は「ケアの駅」スペースは閉めているので広いスペースが無駄になっていたり…。試行錯誤の連続です。でも、広いスペースがあるおかげで、前述の感染防護具の箱を地域の分も含めて多く備蓄することができたので、「どんな経験も無駄にはならない」と自分に言い聞かせています。 私自身も、スタッフに訪問を分担してもらいながら重症者への訪問や緊急時訪問に行っているのですが、管理者業務や土日祝の訪問、地域活動などを頑張れるのは、利用者さんやスタッフのおかげです。在宅療養やお看取りで利用者さんやそのご家族に「本当に良かった」と言っていただけることや、新しいスタッフが「訪問看護が楽しい」と言って働いてくれることなどが、私の栄養になっています。 訪問看護の役割はますます重要に 2023年の総務省の人口推計1)では80歳以上の割合が初めて10%を超え、10人に1人が80歳以上になったそうです。驚いてしまいますね。今後、地域において訪問看護はますます役割が重要になってくると思われます。今現在、訪問看護に従事している方も、これから挑戦してみたい方も、無理と思わず奥深い地域活動や在宅看護にぜひ飛び込んでみてください。また、訪問看護師は一人で訪問することが多いですが、決して一人ではありません。お近くの訪問看護認定看護師や在宅ケア看護師とつながっていただけると大きな力になるのではないかと思っています。 ※本記事は、2024年2月時点の情報をもとに構成しています。 編集: NsPace編集部 【参考】1)総務省統計局.「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」統計トピックスNo.138(令和5年9月17日)https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1380.html2024/2/9閲覧